プロローグ
イーゴスラブア連邦共和国にて若き時代を過ごしたスミングル・リン。
彼女は後に西部UNO、新帝国カインノシアを巡り、後にスペースタイム・マネジメントユニオン、通称
「STMU(時空管理組合)」
と呼ばれる組織を築くことになる人物である。
この物語は、そんなリンがSTMUを築いたきっかけとなる出来事を記したものである。
登場キャラ
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Tag: 【SS】
本編
ーー現在地:イーゴスラブア連邦共和国某所--
???「あーもう暇すぎる!」
そう大きな声を上げたのは22歳のとある女性、スミングル・リン。
イーゴスラブア連邦共和国の少し閉鎖的な辺境に移住してきた、ごくごく普通の少女である。
「はぁ...村の恒例行事に参加しなかったってだけで仕事にもありつけないなんて...あーもう田舎になんか来るんじゃなかった...!」
彼女はいわゆる「村八分」という状態に置かれていたのだ。村の掟や風習に逆らったものに課せられる、村落特有の制裁である。
別に他の住民から無視されるといったことは彼女にとってさほど問題ではない。
…しかし肝心なのは、この村で村八分にされたものは村内の一切の職業に就くことが出来ないということであった。
「きっとこのまま実家に逃げ帰っても周りからイヤな目で見られる...どうすりゃいいんだ私の人生...!」
そんな彼女の泣き言も、家の中ではただ無意味に響き渡るだけであった。
「とりあえずハロワでも見てみ...」
そう起き上がろうとした彼女の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。
「あ、待てよ…」
彼女はそう言うやいなや、無心に物置へと歩みを向けた。
ガサゴソガサゴソ…
「っ...!あったぁ!!」
そう言いながら彼女が持ち出したのは、一つのクルーズ船の招待券であった。
「これこれ!前に抽選で当たったけと行く機会なんか無いと思って物置に仕舞いこんでたやつ!」
彼女はこの地に移住する前に、幸運にもクルーズ旅行の招待券を手に入れていたのである。
「さてさて開催日は~♪」
これはいい気晴らしになる。そう思いながら、彼女は嬉々としながら開催日の書いてある項目を見た。
「って…開催日今日じゃん!やっヤバイ...急いで着替えとか準備しなきゃ!」
開催日が今日であると知った彼女は、ドタバタと着替え、化粧品といった日用品をトランクに押し込んで家を飛び出していった。
「そんじゃ行ってきま~す!!」
ークルーズ船にてー
リン「クルーズ船って気持ちいい!」
クルーズ船に乗ってはや1時間がたった。時間を忘れるほど海の潮風が心地よかったのだろう。しかし、その時。
「…!」
船の揺れが強くなっているのを感じた。自分だけが感じたのかもと一瞬不安になったが、近くの乗客もこの揺れを感じたらしい。
「なんか…揺れが強くなってないか…?」
「そっ…そうだな…きっ…気持ち悪い…」
「こんなところで吐くなよ…」
周りの乗客達の不安の声が聞こえる。この揺れではもしかしたら港に戻るなんてことも有り得るんじゃないか。
そんな不安を抱えていると、船内のスピーカから船内放送が流れ始めた。
船内放送「現在船の揺れが強くなっていますが、予想ではあと数分で収まると考えられます。
乗客の皆様方は、安心して船旅をお楽しみください。」
パチッという音と共に、放送の音が鳴り止んだ。
「良かったぁ…」
「とりあえず座ろっと…」
良かった。どうやら港に戻るなんてことは無いらしい。そう安心したリンは安堵の言葉を呟きながら、付近の座席に座った。
ガヤガヤガヤガヤ…
しかし他の乗客達のざわめきは相変わらず止まらない。リンはさっきの放送を聞いて一応は安心したが、他の乗客達はどうもこの揺れがあると不安なようだ。
ドォン!!
しばらくすると、1人の男がドアを蹴破らんとする勢いで船のデッキから船内に入ってきた。表情を見るに、外で相当大変なことがあったらしい。
「たっ…大変だ!外から…外から高波が近づいているぞ!!」
「ひぇっ?」
思わず変な声が出てしまった。男の焦りぶりを見るに、嘘という訳ではなさそうだ。
外から高波が近づいているとはどういうことだろうか。
このまま船旅を続けられるのでは無かったのか?
そんなことを考えていると、周りがやけに騒がしい。
乗客達は、皆例の男が押し入ってきたせいでパニック状態になってしまっているようだ。
それを鎮めようとしたのか、誰かが一つの提案をした。
「とっ…とりあえず…デッキを見にいってみないか?」
そんなことを言った乗客に賛成したのか、乗客達はゾロゾロとデッキの方へと向かって行ってしまった。
「とりあえず私もデッキに…」
そう立ち上がろうとした瞬間…
ぐわあぁぁぁぁ!!!
リンが立ち上がろうとした瞬間、大勢の人々を押し流した波がデッキの入口から流れてきたのだ。
「…!」
リンが口を開こうとした間も無く、船内に流れてきた波にリンは押し流されてしまった。
ー現在地:????ー
ザ~…ザ~…
波の流れる音で、リンは目を覚ます。
「……ん…?」
顔に砂の触感が伝わってくるのが感じる。
一体ここは何処なのだろうか。リンの脳内には、すぐにそんな疑問が浮かび上がった。
「……っいしょ…」
そうして起き上がり、リンは辺りを見回した。
「えっ……」
リンは目の前に広がる情景を見た。
「ええぇぇぇぇ!!??」
目の前には辺り一面に広がる薄黄色の砂浜、その奥に広がる深緑の色をした植物によって構成された森林、そして見た事もない色をした果実のようなもの。
リンは船の沈没に巻き込まれ、未知の島に漂流してしまったのである。
「…これ…もしかして『ソウナン』っていうやつ…?」
「と…とにかくなんか使えそうなものは…」
予想もしなかった事態が連発したことに戸惑いつつ付近を見渡すと、なんとも都合の良いことに人1人分が入れるテントが設営してあった。
「なんでこんなとこにテントが…」
あまりの都合の良さに少し驚きつつも、リンの足は無意識にテントへと進んで行っていた。
「…誰のか知らないけど…お邪魔します…」
リンが恐る恐るテントの中に入ると、これまた都合のよいことに数本の水が入ったペットボトルと、そのままかじって食べられるインスタントラーメンがいくつか置いてあった。
「これで数日は耐えられるかな…?」
こうしてリンの遭難生活…いや、もう1つの人生が始まった。
ブクブクブクブク… ボコボコボコ…
リンが打ち上げられた砂浜の傍の水中では、誰かが魚のごとく泳ぎ回る姿があった。
…
ぷはぁっ!
「ゲホッゲホッ…やっと取れたぁ…」
「テントの中にあった食料も調子に乗って半分くらい食べちゃったし…数日はこうやって魚とかも捕まえなきゃかぁ…」
リンは昨晩テントの中にあった食料をほとんど食べ尽くし、節約のためにとこういった漁を続けていた。
「うぅ…ていうか最近インスタントラーメンと魚くらいしか食べてないし…野菜とか食べたいなぁ…っあ!ちょっと待っ」
そうリンが漏れでた願望を話していると、手に持っていた魚がスルリと手の間をくぐり抜けて海の中へと避難してしまった。
「あぁ…貴重なタンパク源が…」
…
「えぇーい!もうこんな作業やってられっかー!」
「海の幸より山の幸だ!こんなこと性にあわないもんねーだ!」
リンはそう捨て台詞を吐くと、足早に砂浜の奥に広がる森林へと向かって行ってしまった。
「…(あの魚…釣れてたら食べてみたかったなぁ…)」
ー現在地:●●島~森林ー
なんの虫の声かも分からないものが鳴り響く森林の中を、リンは立ちはだかる草むらを退けて進んでゆく。
グチャァ…
「ひぎゃあ!?」
リンの足の裏から恐ろしい音が聞こえたかと思うと、体長が自分の足ぐらいはありそうな虫が逃げるように飛び去っていった。
「なっ…なんなのよアレ…」
リンの精神は、密林の中に入ってから早々に刷り減らされていた。
「…ていうかこれどこから入って来たっけな…もっ…もしかして」
「…いぃやダメだダメだっ!こんなところでビビッてたらこの先生き残れないだろ私!」
リンは虫の恐怖に耐え自分への命令に近い暗示を掛けつつ、森の更に奥深くへと進もうと試みていた。
「…(絶対変なものが出ませんように…!)」
恐る恐る足を一歩進めると…
コツンッ
何かを踏んだ。土や石といった自然物ではなく、明らかにコンクリートといった人工物を踏んだ音がした。
「…へ?」
リンがガサゴソと足元の雑草を掻き分けると、土の中の物々しそうな紋章…組織のロゴのようなものが姿を表した。
「何…これ…」
盾のようなマークの中にあるツルハシのような模様、その下に書かれている組織の名前のようなアルファベット…明らかに見たことのないロゴがこの無人島にあることに、リンは戸惑いとも恐怖とも言える感覚を感じた。
「ん…?」
リンが戸惑いつつもそばを見渡すと、何やら半円形に膨らんだものが見えた。
「…アレって…ハッチ…?」
リンのそばには、あの物々しいロゴが刻まれていたハッチが置かれていた。
見るとコケやシダ植物のようなものがあちこちに生えており、かなりの年月が経ち使われなくなったのだろうという仮説がすぐに浮かんだ。
リンはハッチに警戒しながらも近寄ると、そばに例のロゴでは無い何かが書かれていることに気が付いた。
「…」
リンは呆然としていた。
VARES師団?西部UNO?
全てがリンには聞き覚えのないワードであったからだ。
「この中が…"VARES師団"の支部…?」
こんな無人島に秘密組織みたいなやつの支部があるのか?
リンがこの中に例の組織の支部があることなど信じることは出来なかった。
「でも…もしこの中に建物があるとしたら…」
めっちゃ面白そ~!!
その時のリンの頭の中では不信感や違和感よりも、秘密組織の支部がこの中にあるかもしれないという好奇心が上回っていたのだ。
リン「それじゃあお邪魔しま~す!」
そう言いながら、リンは早々とハッチの中に入ってしまうのであった。
カン、カン、カン…
錆びた鉄を踏む音が、リンが足を進める度にハッチの中で響き渡る。
どうやらこの施設は相当地面から離れた場所に位置するようで、リンは数分はこの錆びたハシゴを降りるのに時間を費やしてしまった。
好奇心だけで頭の中を満杯にしつつハシゴを下っていくと、施設の地面らしきものがリンの目に映った。
ハシゴの終点が見えたという喜びから更に足を進めていき、とうとうその地面に自分の足が置かれると、リンはふぅっと一息をついた。
「やっと着いたぁ…こんだけ地下深くに建てられてるんだからさぞいいブツが眠ってるんでしょうね…」
それまでの疲労が好奇心に塗り替えられていくのを実感しつつあたりを見渡してみると、ハシゴから降り立ったこの部屋はこの施設の倉庫であること、この部屋の奥が実験室なる部屋に通じていることを示す案内板の存在が確認できた。
「この奥は実験室…いよいよそれっぽくなってきたわね…」
この先に施設を保有する団体にとって何か重要なものが眠っているという期待と興奮から来るのであろう震えを抑えながら扉を開けると、そこには雑草の集団があちこちに栄え、かつての近未来的な様相が想像もできなくなってしまった実験室らしきものが目に飛び込んできた。
室内を細かく見るとかつては稼働していたのであろうガラス製のカプセルは自身が入ることも出来そうな穴があちこちに開いており、実験室の気温などを制御していたことが予想される様々な端末は黒い画面を映し続けながら、果てには火花を散らしているものさえあった。
「なんかめぼしい物は無いかなぁ~♪」
リンは実験室に着くやいなや、すぐさま好奇心に胸を踊らせ鼻歌混じりに実験室を徘徊し始めた。
かくれんぼで隠れている友人を探すように室内をしらみつぶしに探索していくと、使い物にならなそうな棚の中にリンの肥えた目も注意を引くような何かがあることが分かった。
「なにこれ…書類ぃ?」
「なんか二つあるけど…とりあえずこっちから開いてみるかぁ」
自身の目が注意を引いたものが書類というなんの変哲もない物であったということに悪態をつくような声色でそう言うと、リンは二つある書類のうち「施設概要」と銘打たれたものを開き始めた。
中身には名目にある通りこの施設の構造や施設が建てられた経緯が書き記されており、それによるとこの部屋からは更にいくつかの部屋に行けるようになっていたようだが、それらの部屋に行けることができたであろう扉は全て鍵穴が無いのにも関わらず固く閉ざされており、残念ながらリン独りだけではこの部屋と先に梯子から降りた部屋しか行けることのできる場所は無いようであった。
その事に落胆し再び書類に目を通していくと、施設が建てられた経緯が記されている部分に気になった表記があることに気付いた。
これまでリンが施設を見てきた限りここは数十年かそれ以上前にでも建てられたのかとばかり思っていたが、その書類を見るとここは現在から数年前に築かれたと書かれているのだ。
「なんでよなんでよ…じゃあなんでここはこんなにボロボロなのさ…」
普段あまり口に出さない独り言がつい出てしまった。
しかしそんな事を言ってしまっても無理はない、とリンの頭はすぐに納得した。
確かにここにある設備は何十年も前に作られた物とは到底考えられない近未来的な形状をしており、この書類に書かれていることに間違いはない、という事実がリンに突き付けられてしまった。
驚愕の表情でその書類を閉じた後、次にリンはもう片方の書類を開いた。
その書類を見るとVARES師団なる組織の活動内容や理念が記されていたが、リンはその内容にまたもや驚愕した。
「時空のポータル…?それを利用した兵器の開発…?」
「しかもここ、他国に技術を提供したりしてたの…?」
その中にはリンが知りもしないような技術の解説や他国との関係についてが事細かに書かれており、中でもとある一文にリンは激しい憤りを覚えた。
その一文が書かれたページの下にはもう一枚ファイルが挟まれており、その中には国籍、年齢も異なることが書かた様々な研究員と思われる人々の名前が円周率の書かれた本の如くびっしりと紙一面に記されていた。
「…ヒドい」
彼女はそう一言だけ言い残すと、先ほどまで書類が置かれていた机から正反対の方向を正面に捉え、一気に走り出した。
あの施設から書類一枚だけを持ち出して地上に出たリンは、施設に行くために通ってきた道を駆け抜けていた。
道中では施設に入る直前まで何度も道を阻んできた虫が再び現れたりしたが、不思議とそれらを気にすることはなくなっていた。
今はなによりも────
あの書類を世間に公表せねばという思いがリンの頭の中を先行していた。
しばらくして砂浜が見えると、リンはその光景に既視感を覚えた。
穏やかに波打つ海。
何故だか設営されているテント。
無我夢中で森林の中を駆け抜けているうちに、リンは偶然にも自分がこの島に漂流したときに気絶していた砂浜にやってきていた。
森林の中では日当たりが悪く気付かなかったが、水平線の向こうの空が赤くなってきている。
そろそろ夕暮れだ。
だが、海岸までやってきたのはいいものの、自分がこの島から脱出する手段は依然として思い付かない。
もちろん映画で見るようなイカダを作る知識や技能はリンにはなく、彼女は砂浜の上で立ち尽くすことしかできなかった。
どうしたものか、と当てもなく砂浜を散策している内に、視界の端の海の上から光が見えた。
「…船?」
人と話しているときにはまず発さないような小さな声で彼女がそう呟くと、それが合図になったかのようにその光は近付いてきた。
それで全てを察したのか、リンは喉が張り裂けんばかりの大声を上げ、その船へ両手を振った。
「お~い!」
やはりそれが呼応したのか、その光は近付いてくる速度を上げ、リンのいる砂浜へと迫ってきた。
やがてその光が砂浜のすぐそばまでやって来ると、リンはその光を発しているものをようやく視認するこてができた。
「お~い!お嬢さん!大丈夫か~!?」
威勢のいい声が船内から聞こえると共に砂浜のすぐそばで船は動きを止め、中から恰幅のいい男が一人飛び出してきた。
ビチャビチャと音をたてながら砂浜にやってくると、男はリンの姿を見てほっと一息をついた。
今日中にも書き初めると思いますのでしばしお待ちを... -- まひまひ。 2023-07-02 (日) 09:55:51
やたら語り文に力を入れたせいで少し遅れましたが…とりあえずもどきさんが執筆して下さった場面までは話を進めれました。問題点などありましたら気軽に指摘していただけると幸いです。 -- まひまひ。 2023-07-03 (月) 21:58:51
代わりとなる国ならいくらでもあるのですが…*1 -- もどき 2023-10-27 (金) 23:07:01