当SSはアイアン・レイン作戦の後日譚です。
ほんへは掲示板/キャラコーナー/過去ログ4を遡って、どうぞ
プロローグ
〈2023年12月 アズキニア王国領エルドビア(当時なろう王国)〉
「戦闘機や攻撃魔法の流れ弾が着弾する可能性があります!住民の皆さんは避難してください!」
「落ち着いて行動してください!あくまでもなろう王国政府を標的とした攻撃なので市街地への被害は(ちゅどーん!)ひぇっ!?」
「痛いよ…歩けないよ…」
「…失礼します!(怪我人を背負って搬送)」
「ここに要救助者がいます!手伝ってください!」
戦火から我先にと逃れようとする住民達で混乱を極めている市街地。
そして、それを民家の屋根から見下ろす一つの影。
(アイツは…さっき「極刑は免れられない」とか「ここは法廷ではない」とか言ってたヤツか?)
なろう系転生者λ。コードネームはラムダ。
自由の園所属のテロリスト兼殺し屋であり、「利害の一致」ということでなろう王国に手を貸していたなろう系転生者だ。
そんな彼の視線の先にいるのは…
(なんでαを裁いたっていう裁判官がここにいるんだよ?しかもαの言う通り戦闘力も高そうだ…クソが…。)
人間離れした魔力を以てなろう系転生者αを二度も打ち負かし、ヒイラギシティやエルドビア島の市民をバリア魔法で攻撃から守り、あまつさえ応戦までした、現役の裁判官だという一人の青年。
転生者達はまだ彼の名前を知らない。
(あのワッペン…膨大共和国所属か。なろう王国の陥落も時間の問題だろうし、ここで殺しても即バレからのお縄だ、あまりにも分が悪い。だが、ヤツはおそらく膨大共和国在住者。本部に帰ってからでも遅くはないな。)
自由の園の本部は膨大共和国の首都に人知れず存在している。つまり、準備さえできればいつでも殺せる。彼にとっては膨大共和国全域が手の届く範囲内なのだ。
「せいぜい首を洗って待ってろよ?法律奴隷の裁判官サマァ?」
おもな登場キャラ
- なろう系転生者λ
転生者(自覚あり)
この世界にルールなんか必要ねぇので司法関係者でありながら戦闘能力が高くて厄介な蒸気エアス(&周囲の関係者)を殺そうとしているテロリスト
なろう王国のことはなろう系転生者Σが早々に死亡したのもあってあっさりと見限った(元々どこかで見限るつもりではいたらしいが)
現在はなろう王国の残党(=戦争犯罪者)として全国に指名手配されている
ちなみに前世はヤクザの頭領
- 蒸気都市のスクエアス
転生者(自覚なし)
どんなものにでも正しいルールは必要なので戦争犯罪者のλを裁こうとしている裁判官(って何だっけ)
元々は異世界にいたが、この世界でもなんだかんだ言って楽しくやってる模様
過去に国家規模の誘拐事件を起こしたなろう系転生者αを裁いたが、彼女が脱獄したと新聞記事で知り、再び懲らしめてやるべく作戦に参加した(過去形)
ちなみに前世は破壊神(版権)
- 転移者X
傍観者兼第三勢力
λの腐れきった性根である魂をデモニカに格納しようとしている
蒸気エアスが転生者であることには気づいているのだろうか?
関連リンク
- スレッド「戦線布告」(過去ログ3)
第一魔法師団によるヒイラギシティ襲撃事件。本編及び当SSの前日譚に相当。
- スレッド「アイアン・レイン作戦 開戦」(過去ログ4)
アイアン・レイン作戦の本編。フェーズごとにスレッドが分割されている。ちなみに冒頭のシーンはフェイズ1。
結末についてはこちらも参照。
- 【SS】アイアン・レイン作戦/イルネシアの軌跡
ほんへをイルネシア共和国の目線で再編したもの。
作者はコンバットフレーム(コテハン)氏。
- 【SS】アイアン・レイン作戦/In the Darkness of Sorrowful Warfare
ほんへをWikiパックン氏のキャラクター達の目線で再編したもの。
転移者Xも同氏のキャラ。
コメント
- 例の如く気まぐれ更新ですが悪しからず。 -- てぃろるーな 2023-12-14 (木) 20:59:36
- 僕もです。(人様のページで言い訳すな) -- コンバットフレーム(コテハン) 2023-12-14 (木) 21:03:47
- ↑ええんやで -- てぃろるーな 2023-12-14 (木) 21:07:18
- 俺はアーセナル・REX戦の描写も控えてるから積極的に更新していくぞ!(「あれ?でもこの人作品2つくらい放置してなかったっけ・・・?」と思ったそこのあなた!確かにそうだ、だが納得のいくアイデアが思い浮かばなくて進めるに進められないんだ!もう随分と長いこと更新してないから流石にいないとは思うけど、もし更新待ってる人がいるのなら本当に申し訳ないと思っている!) -- Wikiパックン 2023-12-14 (木) 21:15:48
- 私もSSが戦闘シーンに入ったら更新頻度上がるかも(小声)*1 -- てぃろるーな 2023-12-14 (木) 21:22:54
- 文が簡潔で読みやすいし、それでいて台詞回しもキャラの性格が良く出ていて、個人的には羨ましいくらい面白いです
これからも応援させていただきますね! -- 超合金のスープ 2024-02-03 (土) 08:50:50 - ありがとうございます!ただ、みんつく世界での戦闘シーンを自分一人で書くのは初めてなので少しばかり難儀していたり…続きはもうしばらくお待ちくださいまし
あとコメントついでに言及しておきますけど、当SSは桜花作戦より前の時間軸ですわ。終盤で…おっと、これ以上はネタバレになっちゃいますわね -- てぃろるーな 2024-02-03 (土) 09:06:21
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本文
第一話 《私怨》
アイアン・レイン作戦によるなろう王国滅亡から数ヶ月。
ヒイラギシティは襲撃の傷跡を感じさせないほどに復興していた。
(…今思えば、あの時の惨状が嘘みたいだ…。)
彼の名前はスクエアス。ヒイラギシティの一市民でありながら、アイアン・レイン作戦に個人で関わった数少ない人物だ。
他の人物のように高い戦闘能力を発揮したというわけではないが、「市民を攻撃から守る」という点では誰よりも優れていた…らしい。
後日、その功績から勲章も授与されたという。一時期はメディアの取材班が彼の元へ殺到したとかしていないとか。
そんな彼が見上げているのは、かつて第一魔法師団の攻撃により倒壊した、数多の企業のオフィスが入っているという一棟の建物。
全36階建の高層ビルだが、23階より上はまだ工事中だという。
それでも、「たった数ヶ月で10を超える階層の建物が建つ」というだけで、異世界出身者であるスクエアスが驚愕するには十分だった。十分すぎた。
そんなスクエアスに声をかけてきたのは、膨大新聞社の社員であろう制服姿の男性。
「こんにちは、見学の方ですか?」
「?」
普通、こういった建物の前にいる人物は、中にある施設-住居や会社-に用事がある人だ。
このビルの場合、内部はさまざまな企業の本社や支社である。
社員ならば仕事、他社の人なら営業、それ以外なら見学。普通ならばそんな感じだ。
「…こんな大木のような建物が、ほんの数ヶ月で再建されているなんて、個人的には信じ難くて…」
だが、この場合は個人的な好奇心である。
社員の男性は少し困惑したように「そ、そうですか…。」とだけ答え、ビルへと入っていく。
困惑してしまうのも無理はない。再建が進んでいるというだけで建設中のビルを見上げる物好きなど、あんまりいないのだから。
(…価値観…そんなにズレてるか?*2)
一方、ビルへ入ってから職場へ向かうこともなく、黙々と歩く男性。
人目のつかない非常階段に向かうと、誰もいないことを確認し、その場に膝をついて屈む。
すると、社員の背中から、もう一人の男が這い出てきた。
…なろう系転生者λ。彼は社員の男性に「憑依」し、殺害の対象が間違っていないかの確認として、ターゲットとの接触を図っていた。
誤チェストによってターゲットに暗殺を勘づかれ、その結果逃げられてしまっては本末転倒なのだ。
「…さっきのヤツで間違いなさそうだな。αが言っていた特徴とも一致している。ご丁寧に魔力量の気配まで偽装しちゃってヨォ…ありゃ気付かねぇわな」
α「あの子は化け物よ…。雰囲気こそどこにでもいそうな魔法使いって感じなんだけど、あれは違う…。あの魔力…絶対何かが憑いているわ…!」
λ「名前は知ってるのか?」
α「わからない…。でもあの時私が狙ってた子を「先輩」って呼んでたわ…。」
λ「あー…この前写真を見ながら悔しがってたアレか。他の特徴は?」
α「…見てたのね」
λ「さっさと特徴言え」
α「…髪の毛と洋服は紺色で、目は黄色…。前髪で右目を隠してて…眼鏡もかけてたわ…。あと…赤いブローチもつけてて…ひぃ…」
λ「…そういや殺されかけたんだったな」
α「そうよ…傷跡抉る真似しないで頂戴…」
λ「へいへい」
「αは精神力だけは人一倍。それを魔力だけで打ち負かすなんて相当だ。そんな強ぇ裁判官…生かしたままでたまるかよ…!」
λは「人を縛るもの」を憎悪する。
権力、文化、慣習、契約、宗教、人間関係、…そして法律。
それらに隷従し、それを他者にも強要する。λにとってそれは万死に値する愚行なのだ。
「へっへっへ…何が実刑判決だ。じきに死刑に処してやらぁ…!」
第二話 《剣呑》
なろう王国の残党にピンポイントで命を狙われているとは露知らず、相変わらず町中を散歩しているスクエアス。
ふと、辺りから焼き菓子のようないい匂いが漂ってくることに気がつく。おそらく出店があるのだろう。
近くにある時計を見ると、ちょうど昼食の時間帯だった。
「…たまには、買い食いもいいかもしれないな」
ヒイラギシティ市内に点在する広場には、食べ物の出店が来ていることがある。彼の場合、職場の先輩でありこの世界での同居人であるアルトがこれでもかと言うほど散財したりするのだが…。
それはさておき。今日この広場に来ている出店では、大判焼きとか回転焼きとか今川焼きとか呼ばれている食べ物が売られていた。別名が無数に存在し、この世界でも未だに学者達による議論が展開されているのだとか。
まあ、食べ物の呼び方など彼にとってはどうでもいいし、議論が展開されていることも知ったこっちゃないのだが。
「あの…」
「?」
出店から伸びる短めの行列の最後尾に並ぼうとしたところ、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
スクエアスにはこの世界での同居人が3人いる。うち1人は先述したように職場の先輩なのだが、あとの2人はスクエアスの幼馴染である双子の姉妹なのだ。
今しがた彼を呼び止めたのはマール。双子姉妹の姉にあたる。
「マール…?どうしてここにいるんだ?何かあったのか?」
なぜスクエアスは「何かあったのか?」と訊いたのか。
彼女達は自分と違って自衛力に乏しい。街の治安は悪くないとはいえ、頭のネジが外れた腐れ外道が予告なく襲撃してくるような世界だと知ってしまった身である。自分の預かり知らぬところで厄介ごとに巻き込まれて欲しくないと思っているのだ。
「えっと、そのー…別の場所に美味しそうなお店があって!あなたに紹介したいなーって思ったんです!」
「そうなのか?」
「はい!じゃあ、私についてきてください!」
「……。」
スクエアスはこの時点で「得体の知れない違和感」を感じていた。
(何かがおかしい……。この違和感は一体なんだ…?)
…尤も、この場合は「違和感の正体を知りたくなかった」と言った方が正しいのかもしれない。
ヒイラギシティでも通行人の少ない地域に差し掛かったあたりで、スクエアスが口を開く。
「…オマエは、マールなのか?」
「……え?」
普段の二人であれば、どこかへ向かう道中でも何かしらの雑談をしているところである。
しかし、今回は違う。
「なに当たり前のことを言ってるんですか?私はマールですよ?」
「そういう事ではない。普段のマールと違いすぎる。」
「…いったい何を言ってるんですか?」
先程からのマールは人が変わったように無口で、話しかけづらい雰囲気だった。
少し間延びした口調も、周囲を和ませる雰囲気も、彼に親近感を湧かせる独特の気配もない。
今目の前にいる「マール」はマールじゃない…スクエアスは本能的に確信していた。
「口調も、雰囲気も、気配も、何もかもが違う。
オマエはマールの姿をしているだけで、全くの別物だ。」
「…は……ははは…!まさか憑依してるのにバレるなんてなぁ!やっぱコイツ只者じゃねぇぜ…」
幼馴染の思わぬ豹変に思わず後ずさるスクエアス。
「オマエ…『憑依』…だと…?」
次の瞬間、マールの身体から力が抜けたと思いきや、背中から一人の男が這い出てくる。
「情報屋からこの女に対して割とチョロいとは聞いていたが、この場合は関係者だったことが仇になったってケースか。こりゃ運の悪いこった…」
男は自虐的に笑っていた。
第三話 《衝突》
「…!」
どさりと音を立てて地面に倒れる幼馴染の姿に、一瞬だけ「死」の概念が脳裏をよぎる。
(嘘だ… うそだうそだうそだうそだそんなまさか)
魔法で槍を出現させ、石突*3でλを突き飛ばしながらもマールに駆け寄って容体の確認にかかる。
「ぐぇ!?(なんだコイツ…こんな早く走れたか?)」
スクエアスは強い恐怖と希望的観測から、ほぼ無意識のうちに行動を起こしていたのだ。
火事場の馬鹿力、と言えばわかりやすいだろうか。
(脈はある…呼吸も正常…。死んではいない…よかった…。)
命に別状はないと判断したスクエアスは、意識を失った状態のマールを庇うようにして槍を構え、男に向き直る。
「オマエは誰だ…。マールに何をした…!」
「何って、見てわかんねぇのか?w」
「答えになっていない。質問に答えろ…」
「答える義理なんかねぇよ。どうせお前は俺に殺されるんだしヨォ」
言い終わるが早いか、λは魔法で中空から2本の拳銃を出現させる。
「…対話の余地はない、か」
空いている手の中に二本目の槍を出現させ、近くの地面に突き立てる。
次の瞬間、槍が突き立てられた地点を中心に円形の魔法陣が出現する。
…簡易結界魔法だ。
耐久性はバリア魔法に劣るものの、全方位防御を特定の箇所に長時間展開できるという点では「範囲内にいる人物を守りながら戦う」ということに向いている。
「…絶対に、外へ出るんじゃないぞ」
マールからの返事はなかった。
「オマエは法を何だと思っている?」
「あぁ?法律なんざ俺達を勝手に縛ってるだけだろーが。」
さも当たり前のことであるかのように答えるλ。
「嫌いなヤツは殺して嫌なことはやらない、好きなヤツと好きなことだけやって自由に生きていく。一体それの何が悪いってんだ?」
「…なら、オマエの言う『自由』というものを守るものは何だ?」
「自分の身くらい自分で守んのが当然ダロォ? 法律奴隷の裁判官サマはこんなこともわからねぇってかw」
「…『法律奴隷の裁判官』、か。」
手に持っている槍の刃先をλへと向けるスクエアス。
「どうにも聞き捨てならない発言だな。」
「あ''ぁん?やんのかテメー?槍一本で?」
9割の嫌悪と1割の嘲笑で反論してくるλを半ば無視するような形で話を続ける。
「…法は人を従わせるためにあるんじゃない。人を護るためにある。裁判所や裁判官はその番人であるにすぎない。
正しい法が存在しない世界には、オマエの言う『自由』も存在し得ない。誰か1人の行動で他人の権利が奪われるようでは 本末転倒だからな。」
「ケッ、綺麗事を…反吐が出る」
そう吐き捨て、λは腰につけた装置を起動する。
すると、λの身体が宙に浮いた。
「飛行装置…?ヒイラギシティ市内での使用は認可されていないはずだ。」
「だから何だ?『出るところに出てもらう』とでも言うおつもりで?w」
「わかっているなら話が早い。見たところ、その拳銃も違法改造が施されているしな。」
「そりゃどーも」
なぜ機械類に疎すぎるスクエアスでも「違法改造」だとわかったのか。
何を隠そう、λの持つ銃には複数のチューブやカートリッジ容器が取り付けられており、一般的な拳銃とはかけ離れた外見をしているのだ。
「精々たんまりと味わうことだな(暗黒微笑)」
第四話 《蹂躙》
「そういや『オマエは誰だ』って質問に答えてなかったな。冥土の土産に教えてやっから、キチンと覚えとけよォ?
『コードネーム:ラムダ』。テメーを殺す男の名だ。」
「ラムダ…? まさか 全国で指名手配されている、なろう王国の残党…」
パァン!
「!」
スクエアスの言葉を遮るように銃声が響く。
直感で足元を狙われていることを見抜いたスクエアスは、銃弾を避けるような形で後ろに飛び退く。
「すばしっこく避けやがって。いちいち癪に触るぜ…
ともあれ、テメーも“コイツ”には見覚えがあんだろ?」
λがそう言うとほぼ同時に、地面に命中した銃弾から無数の魔物が湧き出てくる。
決して比喩なのではない。文字通り『湧いて出てくる』のだ。
それは、雑草の芽がアスファルトを突き破って生えてくる光景ーあるいは、ゾンビが地中から這い出て姿を現す際の光景に似ている。
「なんだ…これは…」
その光景には流石の彼でも動揺を隠せずにいる。
…いや、この光景を目の当たりにして動揺しない方がおかしい。(断言)
そして、地面から這い出てきた魔物はというと…
「「「「ギャオオオオオオ!」」」」
人間を3人融合させたゲル状の化け物。
人質が拘束されていた地下施設で救助部隊を襲った、非人道的生物兵器そのものだった。
「いや~、圧縮能力を持つ転生者の身体を乗っ取ってまで作っておいた甲斐があったぜ。コイツはあの場で皆殺しにされるには惜しかったしな~。」
「…何のつもりだ?」
「これから死ぬ奴がこれ以上知る必要ねーだろ(豹変)
…殺れ。」
「「「「ギャオオオオオオ!」」」」
λの号令に合わせ、一斉に襲いかかってくる化け物達。
その数、およそ30。
(オレ一人で捌き切れるか…?)
スクエアスの背後には未だに倒れたままのマール。
外部からの攻撃を防ぐ結界を張ってあるとはいえ、直接の侵入までは防げない。
それに、結界内から結界内への攻撃には無防備である。
(…いや、できるかじゃない。今マールを守れるのはオレしかいない。)
僅かな不安と恐怖を抱えながらも覚悟を決め、槍を構える。
「マールに近寄るな!」
「ギャッ!?」
槍で薙ぎ払っての斬撃が群の先頭にいた個体に命中し、ダメージからか動きが止まる。
そして後続の個体が動きを止めた個体に衝突し、連鎖的に転倒していく。
「「「ギャアアアア(バタバタバタ*4)」」」
それでも、運良く転倒連鎖に巻き込まれずに済んだ個体が複数襲いかかってくる。
槍で薙ぎ払っての斬撃も、動き方を『学習』したのか身体を変形させるような動きで避けるようになっていた。
(やはり基本的な動きは単調だが、以前よりも外皮の耐久性が上がっている。それに、単調な攻撃であれば回避行動も…。頭数の多さといい、一筋縄では行かなそうだな)
数の暴力には勝てないと判断したスクエアスは、近くのブロック塀を経由して家屋の屋根に飛び乗る。
「フン、結局は保身か。まあ所詮は人間、そんなもんだろうとは思って…
…いや、アレは違うか?」
「万物を取り込む闇の時空よ 宇宙の法則の下 全てを呑み込み無へと消し去れ」
家屋の屋根の上でやけに厨二臭い呪文詠唱を行うスクエアスの足元には紫色の魔法陣。
後ろ髪はひとりでに長く伸び、魔法陣から放たれる黒い光も段々と強まっている。
「…ブラックホール」
その黒い光は化け物の群れを瞬く間に取り囲む。
竜巻とも爆発ともとれるような挙動*5の後、化け物達の断末魔がヒイラギシティの青空に木霊する。
「…なんだ今のクッソ無駄な上に厨二臭ぇ詠唱は? 詠唱するにしても魔法名だけで済むことだろ普通なら」
λの言う通り、一般的な魔法使いは呪文詠唱の際に読み上げるのは「魔法名」だけである。(余程高度な魔法でない限りどうにかなる)
手慣れの魔法使いとなってくると、魔法の発動に際して呪文詠唱を必要としなくなる。スクエアスだって慣れさえすれば無詠唱で魔法を撃てる。
…今回は無詠唱発動に慣れていない魔法を使ったとはいえ、詠唱文が厨二…ゲフンゲフン独特すぎる。λとしても思わぬ形で意表を突かれた形だ。
「…どうした、やらないのか?
もし自首するのであれば、銃火器等の凶器を全て捨てろ。話はそれからだ」
「誰がするかバカめ」
バカめ、と言うとほぼ同時に再び発砲するλ。
たった一発だけだったこともあり、スクエアスは槍でその銃弾を弾こうとする。
しかしそれが悪手であった。
ドォォン!!
槍に弾かれる形で衝撃を受けた銃弾は、あたかも時限爆弾であったかのように爆発を起こす。
たかが一発、されど一発。これもまた、λが他の能力者の体で作った魔改造銃弾だったのだ。
「銃弾一個で爆死とは、案外呆気な…くないな?まだ生きてやがる。」
生物は生きている限り、特有の気配を持っている。それが消えていないということは、まだ対象に息があるということ。
λは確認のため、その気配を感じる方向へと向かう。
「…くっ……。」
一方のスクエアスは、爆風で吹き飛ばされはしたものの、咄嗟に受け身の体勢をとることで死傷を免れていた。
みんつく世界に飛ばされて以降、同居人兼先輩から格闘技術をある程度叩き込まれていたのが幸いした形である。
「…運の良いヤツめ。だが、それもここで終わりみてーだな。」
第五話 《抗戦》
大した外傷こそなくとも、吹き飛ばされて身体を打った事は変わらない。スクエアスは全身の痛みからその場に蹲り、そこから動けずにいる。
バリアによる抵抗がまだできることを加味しても、λからすれば格好の的だ。
「…………だ」
「あ?」
「…目的を訊いている。オレを殺して、どうするつもりだ?」