夜の静寂に包まれた寝室。
静寂の中に、押し殺した息遣いの音だけが微かに混じっては消えていく。
「文、ちゃん……?」
呆然とした声が、静寂を破る。
文は布団の上で、とこよに両腕を持ち上げられて、真っ赤な顔を横にそむけて、ひたすらに熱い息を押し殺す。
「この……、文ちゃんの、股のところに付いてる……これ……って……」
そこを見つめるとこよの声が、静寂の中にぽつりぽつりとこぼれて落ちる。
文はただ、両足に跨がられて、何かに耐えるようにじっと動かずにいる。
顔をそむけたまま目をぎゅっとつむり、上気した頬が暗がりの中でさえ鮮やかで。横を向いた白い首、鎖骨まですっと伸びる筋が浮かび上がっていて。
ほっそりとした鎖骨、首周りの覗く少し崩れた寝巻きの衿。それでも、衿の合わせに乱れは殆ど無い。
衿の合わせの左右。膨らみが確かに形作られていて、薄い布地の内でお椀のような双丘が隠されるままにゆっくりと息づいている。
そして、寝巻きの帯。それが寝巻きの薄布を文の体へとぴったりと張りつけていて、柔らかな曲線を暗い寝室の中に浮かび上がらせていて。
なのに、帯から下は、そこからは寝巻きの全てが開かれていた。
捲り上げられた寝巻きの裾がすっかりと、文のお腹を、臍を、腰を、下腹部を、内腿を、その白さを柔さをあられもなく生まれたままに晒してしまっていた。
ゆっくりと息づくお腹は柔らかそうで、窪んだ臍の穴は小さくて、腰の線は触れればきっと滑るようになめらかで、下腹部はもっとずっとなだらかに緩やかに腿の間へと下っていって、ほんの少しすり合わせたような内腿が何かに耐えているようで。
そうして、恥丘へと続いていくはずの場所。その場所に、固く肉の棒が勃っていた。血管を浮き立たせて、大きくそそり勃っていた。
とこよは、そこから目が離せなくなったように、文の両腕を宙に持ち上げた姿勢で固まったまま、それを見つめ続けていた。
「これって……ひょっとして……」
完全に勃起しきった男性器に、真っ直ぐに、視線を注ぎ続けていた。
「おちん、ちん……?」
文の肩がびくんと震えた。
肩を小さくしたまま、ただ何かに耐えるようにぎゅっと目をつぶる。
「これ、おちんちん……? ……だよね?」
そう言ってから、やっと、とこよの視線が陰茎から離れて、文の顔へと上がっていった。
視線が動く気配を感じ取ったのか、閉じていた文の瞼がゆっくりと開いていく。
瞼は少しだけ開いて、もう、そこから開かなくなる。
文はむけていた顔をわずかに動かして、僅かに開いた瞼の隙間から、とこよの顔をそっと覗き見た。
呆然と注がれる視線がそこにあった。
信じられないようなものを見たという目が、僅かに開いた文の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
文の息が止まった。
掴まれた手が、指先からどんどん冷たくなっていく。
音も無い寝室の空気の中、冷たい風が文の体に吹きつけているかのように、指先から氷のように冷たくしていく。
「文ちゃん――」
信じられないものを見てしまったようなとこよの声。
文は固まったように、とこよの目を見つめて動かない。
「おちんちんが付いてるなんて――」
文は息を止めたまま、とこよの顔を見つめ続ける。
大きく勃起したままの男性器。
冷たくなった指先。
文の心臓は壊れてしまいそうなくらい音を立てていたが、静寂に包まれた寝室の中にはもう、微かな吐息の音すら聞こえていない。
そして、とこよの言葉が、震えそうな体をただ固くしている文の耳に、聞こえてきた。
「――――だから様子がおかしかったんだね」
文は息を止めたまま、固まったまま、とこよの顔を見つめていた。
何も言わず、動かず、声が耳に響いてから頭の中に染み込むのが遅れているかのように、とこよの顔を見つめていた。
とこよの表情が少し気まずそうなものに変わり、文の顔から少し視線を逸らす。
「ごめんね」
固まっていた文の体、その氷のように固くなっていた指先から、ゆるりと力が抜ける。
とこよの言葉が、静かに、文の心に響いていく。
「誰にも言えないで、一人で悩んでたんだよね」
とこよの声が、ゆっくりと、文の心に染み込んでいく。
苦しいほどに溜め込まれていた文の息が、ふっと、胸の内から抜けていった。
吐息が、文の口からすっと抜けていく。
それから息を吸い込んで、すると、文の喉が何かを堪えきれなくなったように震えだした。
「……はい」
文は、それだけ返事をした。薄く閉じた瞼が震えるのも堪えられていなくて、やっぱり、少しだけ声が詰まっていた。
「うん……」
とこよが、掴んでいた文の腕を離す。
持ち上げられていた腕がするりと落ちて、体の横に滑って、布団に落ちて小さく音を立てた。
あんなに男性器を隠そうとしていた手が、今はもう力が抜けたままに、暖かさに満たされていた。
「これは、確かに、ちょっと言い難いかもね」
「……はい」
とこよは少し視線を彷徨わせながらも男性器を見た。
温かな声で。ゆっくりと文に話しかける。
「でも、誰にも言えなくて……辛かったよね」
「……はい」
見られるままに任せて、体から力を抜いて、文はとこよの視線を受け入れていた。
瞼の間に、涙を溜めて。
「……ごめんね。私、もっと前から文ちゃんの様子が変なのに気づいてたのに」
「いえ……、いえ……」
文はゆるゆると首を横に振る。
涙の雫が零れた。
「もっと早く、文ちゃんと話をすれば良かったのに……」
涙が顔の横を伝うのも構わず、文は繰り返し首を振った。
「ありがとう……、ございます……」
震える声で、それだけを伝える。
「文ちゃん……」
とこよは、文の顔を伝っていく涙を見つめる。
一粒の雫が文の瞼の間から零れて、顔の横を伝い落ちていくのを見つめた後、とこよは優しい声で、「あっそうだ!」と言った。
「ねっ、文ちゃん。私にして欲しいことがあるんだよね? 何をして欲しいの?」
そう言って文に明るく笑いかける。
文は何も言わず、ゆるゆると首を振った。
「それで文ちゃんの辛いのが楽になるなら、なんだって言って欲しいな」
それでも文は、力なく首を振り、それから、震える呼吸を落ち着けていく。
とこよは何も言わず、文の呼吸が落ち着くのをじっと待っていた。
十分に呼吸を落ち着けてから、文はまだ少し震えてしまう声でとこよに説明する。
「それは、してもらったとして、でも何の解決にも、ならない、んです……。それを、してもらったところで、そこの物が消えて、無くなるわけで、は……」
「でも少しは楽になったりとかは……?」
文の股間のそれはまだ固く勃起していた。
でも、文はもうこれで十分と言うかのように、どこか満たされた顔でゆっくりと首を振る。
「ありがとうございます、とこよさん。でも恥ずかしいことですから、やっぱりいいんです……」
「大丈夫。私は恥ずかしくなんてないよ」
「それは……」
とこよの言葉の意味を捉え損ねてしまったように、文が言葉を迷わせる。
迷って、問うような目でとこよの瞳を見た。
とこよの瞳は真っ直ぐに、まだ少し赤い瞳を見つめ返した。
お互いが真っ直ぐにそのまましばらく見詰め合う。
しばらくして、文が目を逸らす。
「恥ずかしいことですから……」
恥ずかしそうに、吐息を吐いた。
「恥ずかしいことでもいいじゃない」
文が逸らした目をさらに伏せた。
「恥ずかしいですよ……」
「もう隠し事は無しだよ」
文は伏せた目をそのまま閉じた。
目を閉じたまま、むずがるように眉を八の字に曲げる。
それから、上気した顔で小さく消え入るような声で、でもとこよにだけは聞こえるような声で言う。
「やっぱり恥ずかしいです……」
「少しくらい恥ずかしくても平気だよ」
「少しくらいじゃありません。とっても恥ずかしいんです」
「とっても恥ずかしくても、平気だって」
「……とこよさんはそうかもしれませんけど」
「うん、私は大丈夫。だから文ちゃんだって大丈夫だよ」
「なんですかそれは……もぅ……」
暗い寝室の中で、文はじっと目を閉じる。
目を閉じながら、自分の心臓が高鳴り出していくのを聞いていた。顔が熱くなっていくのを感じていた。吐息が熱を帯びていくのを感じていた。
股間の男性器がびくり、びくり、と幾度か震えてしまっていたのも分かっていた。
文が閉じていた目を開く。
逸らし伏せていた顔を上げ、とこよの瞳を真っ直ぐに見つめた。
とこよの瞳の奥にある色を見定めようとするかのように真っ直ぐに見つめた。
とこよも真っ直ぐに文の瞳を見つめ返す。
ただただ真っ直ぐなとこよの瞳を見て、文の口からため息が出た。
はぁ。と、大きく吐き出したそのため息は、やはりどこか熱を帯びていた。
……本当に分かっているのでしょうか?
文は心の中でそう思った。
「して、欲しいことは……」
「うん」
文の声が震えている。心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。
「そこを……そ、そこを……」
頭の奥が痺れたようになっていて、汗ばんだ手が震えている。
「そこを?」
鼓動がまだ大きく更に速く、限界を超えてしまったかのように高鳴っていく。
「そこ、を――」
そこが、びくん、びくんと、何かを堪え切れなくなったように跳ね上がる。
「――触って欲しいです」
声を絞り出すように言い切って、文は熱い息を大きく吐き出した。
「触って欲しかったんだ」
とこよの視線がそこに注がれる。そこがまた、びくん、と大きく跳ねた。
「……うぅ……」
また、文は熱い息を吐き出す。
顔から火が出そう……。
心の中で、文は悶えた。
「えっと、普通に触ればいいの?」
言いながら、とこよは手を文の股間に伸ばす。
そして指先を男性器にそっと触れさせた。
柔らかな指先で、陰茎の先端、つるりとしたその先端の下側、細い筋のあたりにそっと触れる。
瞬間、陰茎が大きく跳ねた。
一際大きく、びくんと。触れただけのとこよの指で、弾かれたように暴れた。
「わっ、ごめん! 大丈夫!? 痛かった!?」
とこよは慌てて手を引っ込めた。
「いえ! だ、大丈夫です! 今のは気持ちよかったせいで――」
言いかけた所で、文は言葉を飲み込んだ。
「そ、そっか。気持ちよかったらびくんってなるんだね」
文の顔がまた熱を帯びた。俯くようにして、とこよの顔から視線を逸らす。
「……うぅ」
逸らした瞳で、おずおずと動き出すとこよの手の平を見る。
とこよの片方の手が陰茎にそっと添えられた。
触れられてびくんと跳ねた陰茎が、そのまま手の平に押さえられ、柔らかく固定される。
また、文の吐息が熱くなる。
熱い吐息を吐き出すたびに、胸の内側で熱い塊がどんどん膨らんでいき、それがもどかしくて、文は何度も熱い吐息を口から洩らした。
鼓動を強く鳴らす心臓が、胸の内を焦がすように、熱く熱く動いているのを、文は感じていた。
「どういう風に触ればいいのかな?」
「ぁ……それ、は……ふぅ、ぅ……」
文はもう、とこよの手に触れられる感触に吐息を熱くして陰茎をひくつかせることしかできなくなっていた。
腰を、陰茎を、とこよの手の平にぐいぐいと押し付けたくなる衝動が湧き上がって、でも恥ずかしくて、文は必死に耐えていた。
ただ陰茎だけが動くのを堪えきれなくなったように、びくんびくんと暴れている。
文の手が、布団から浮いて股間へと動きかけて、結局、ぱたりと布団に落ちた。
そのままもう手は動かず、文は熱い吐息を洩らし続けた。
「痛かったら言ってね?」
何気ない調子でとこよはそう言うと、陰茎を押さえる手の平とは逆の手で、指先を裏筋にそっと触れさせた。
「ん……」
びくん、と陰茎がとこよの手の平の下で動いた。
押し付けられた陰茎が、その熱をとこよの手の平に伝える。
裏筋に触れた指先がそっと動き出す。
「んっ、ぅ……」
文の見つめる先で、とこよの指先が裏筋に触れたまま動いていく。
裏筋を上から下に、柔らかな指先で触れるか触れないかの弱さでもってなぞっていく
「ぁ、ん……、そこ……」
微かな刺激が敏感な感覚をくすぐって、文の吐息に湿り気が増していく。
痺れるような何かが撫でられた裏筋から肌の上をじわじわと滑っていくと、文は身悶えしてしまいそうになり、目をつぶり眉をよせてその感覚に耐えた。
「んっ……ふ、ぅ……んん……」
太い陰茎を裏筋からその根元へと、柔らかな指がじっくりと撫でていく。
「ふ、っ……んっ……は、ぁ……」
とこよの指先が陰茎の根元へと動くにしたがって、文が呼吸を楽にしていく。
やがて、とこよの指先が陰茎の根元へとたどり着く。
文は胸の内から熱い吐息を大きく、「はぁぁ……」と吐きだした。
「気持ちいい?」
囁くような声がして、文は閉じていた瞼をそっと開く。
切なげに開いた瞳に、とこよがにこりと笑いかける。
「気持ちよかった?」
笑顔で囁いて、とこよの声が文の耳をくすぐる。
「そ、それは……その……」
文は恥じ入るように顔を俯かせる。俯いた拍子に陰茎がとこよの手の平の下でびくりと震えた。「うぅ……」と恥ずかしそうに呻くと、今度は横に顔を逸らした。
逸らした顔の耳までが真っ赤に染まっていた。
文は、そうやって顔を逸らしながら、小さく頷いた。
こくんと小さく、でも、しっかりと。
とこよの表情がぱあっと輝いた。
「よかった。どういう風に触って欲しいかとか、遠慮しないで言ってね」
文は顔を逸らしたまま、何も言わずまた小さく頷いた。
「じゃあまた触っていくね」
とこよは笑顔で、再び文の固い陰茎に指先で触れて、裏筋をなぞるように撫でていく。
上から下へ、下から上へ。陰茎の太い筋を柔らかな指先でなぞるように、鈴口近くから陰茎の根元の間を何度も往復する。
いつの間にか、文が逸らしていた顔を元に戻して、熱くとろけた眼差しをそこに向けていた。
とこよの指が裏筋をなぞっていく様子に魅入られたように、じっと息を押し殺しながら見つめていた。
「……っ………っっ」
指が裏筋のあたりを撫でるたび、口から洩れそうになる声を必死に押し殺し、
「……はぁぁ……ふぅ、ぅ……」
陰茎の根元へと指先が下がるたびに、口の中で押し止めていた熱く湿った吐息を吐き出した。
次第に、とこよの指はあまり根元の方まで下がらなくっていく。
段々と、鈴口近くから指が遠ざからなくなっていく。
とこよは、まるで優しく労わるように陰茎をそっとさすり続ける。
「……ん……ぅ……」
もう指は裏筋から離れず、そこをだけで指先を微妙に前後させている。
文は熱い息を胸の内にまで詰まらせて、とこよの指を見つめ続ける。
「……んぅ……ぃ……」
気持ちいい。と、文は心の中で呟いていた。
熱い切なげな息が、胸の内から大きく吐き出された。
ふいに、とこよの指が離れた。
「ぁ……。ぇ……?」
文はとこよの顔を見た。
とこよを見る文の顔、その顔に気づいて、とこよはにこりと笑う。
「まだまだ触って欲しいんだね?」
明るい笑顔を文に見せる。
静寂に包まれた暗い寝室。文の顔はぽっと火の灯ったように羞恥の色で染まった。
「あっ……、わ、わわっ!」
文は、ばっと両手で顔を隠した。
「いえ! その……! 今のは……、違う、違うんです……」
「あはは、大丈夫だよ文ちゃん。ちゃんと文ちゃんが満足するまでしてあげるから」
「……うぅ…………」
「ほら、文ちゃん。そんなに恥ずかしがらないで」
文は手の平で顔を覆い隠したままとこよの顔を見ようとしない。
とこよには文の顔が見えなくなり、しかし見えないまま、また、文の男性器に手を添え指先を触れさせた。陰茎が驚いたようにびくんと跳ねた。
「もっとこうして欲しいとかもっとああして欲しいとか、あったら言ってね」
「それ、は……」
「さっきは、この辺りが……」
鈴口のあたり、裏筋だけを優しく揉み解すように指先が動く。
「どう? 気持ちいい?」
文は顔を手の平で覆ったままじっと動かず、「ぅぅ……」と恥ずかしげに呻いた。
裏筋をぐりぐりと弄られた陰茎が、時折、恥ずかしさを堪えられなくなったようにびく、びく、と震えていた。
はぁぁ……。と、熱い吐息の音がした。
「気持ちいいみたいだね?」
「それ、は、ぁ……」
声まで熱く湿らせて、文は顔に自分の手の平を押しつける。
とこよの指が、先ほどよりも強く裏筋をぐりぐりと弄り始める。
文は顔を手で覆ったまま、熱に浮かされたように熱い吐息を口から洩らしては吐き出していた。
その時、陰茎の先端、鈴口の割れ目から透明な液体が滲み出てきた。
「あっ! 先っぽから何か出てきたけど……お、おしっこ? じゃないよね……? ど、どうしよう……?」
とろりと滲み出る液体に気づいたとこよが慌てた声を上げる。
慌てる声を落ち着かせるように、文が落ち着いた声で、熱く湿った息を吐き出しながら説明を始め出した。
「多分、それ、は、おしっこではなく、先走り、ふぅぅ…、我慢汁など、と、ぁ、はっ、言われるもの、だと思います」
「我慢……じる? 文ちゃん……まだ我慢してるの?」
「いえ、そう呼ばれているだけで、んんっ、それ自体は気持ちよくっ、なると出て、んぅ、くるものらし、く……」
そこまで言ってから、「うぅ……」と呻き、それきり文は黙り込んだ。
顔を押さえる手にまた力が篭っている。
「じゃあ我慢はしてないんだね?」
「それ……は、ぁぁ……」
裏筋を弄られ続け、熱い息を吐き出しながら、文は答えない。
「やっぱり、我慢してるの……?」
「それは、ぁ……うぅ……」
文はひたすら手で顔を覆い、ただ、熱い息を吐き出している。
何も答えず、時折、びく、びくと陰茎を震わせた。
「恥ずかしいと思わないでさ、教えてよ。私にして欲しいこと」
優しく声でとこよは促す。指先で裏筋をぐりぐりとしながら、顔を手で覆った文を見つめている。
文がまた熱い息を吐き出した。
「はぁ、ぁ……うぅ…………」
とこよは裏筋に視線を落として、ぐりぐりと指で弄る。
「……ふぅ、ぅ……はぁ、ぁ……」
視線を落としたまま、指で弄る。
「ふ、ぅぅ……ふぅ、はぁぁ……ぁぁ」
とこよはただ、裏筋を指で弄りつづけていた。
「……はぁ、ぁ……ふぅぅ、はぁぁぁ、ぁぁ……っ…………」
文の息が止まった。
「その、そこを……」
震える声がした。
とこよがぱっと顔を上げる。その顔に喜びの色が溢れていた。
「そこを……ぅぅっ……!」
文は顔を手で覆ったまま、何かをとこよに言いかけて、泣きそうな声を出す。
「そこを?」
とこよはまた陰茎へと視線を落とす。
「て、……手で……」
「うん」
裏筋を触れていた指の動きが止まり、そのまま手の平でぴたりと男性器全体に触れる。
熱い陰茎がびくんと跳ねて、その固さを手の平に押し付けるようにぶつかった。
「手で……ふぅ、ぅ……はぁ、に……にぎ……」
手の平の内で陰茎がびくびくと何度も跳ね上がり、その固さを熱さを、とこよの手の平に繰り返し伝わる。
「にぎ……って……」
文の声が、そのまま泣き出してしまいそうなくらい震えていた。
びくびくと跳ねる陰茎を、とこよは優しく受け止めていた。
「握っ……、て……欲し、いっ……! で、す……!」
陰茎が痙攣し切ったように跳ねて、そのまま引き攣ったように固まった。
ガチガチに固くなった陰茎に、柔らかな指がそっと巻きついていく。
熱の塊のような肉の棒を、とこよの手の平が柔らかく包み込んだ。
「ぁ……」
文が小さく声を洩らした。
顔を覆ったまま息も忘れたように体を硬直させた。
「こんな感じでいい?」
とこよが声を掛けると、文の呼吸が戻り、ゆっくりと声を吐き出していく。
「そのまま、……上下、に」
「上下に?」
少し震えたどことなく上の空な調子の声で、とこよにして欲しいことを口にしていく。
「動かして……くだ、さい……」
「こう?」
加減した動きで、とこよは陰茎を握った手を上下に揺らす。
「こんな感じでいいのかな?」
文は、熱い吐息を吐いていた。
「痛くない?」
とこよが見つめても、文は顔を手で覆っていて、口から熱い吐息を吐き出していることしか分からない。
「気持ちいい?」
「気持ち、いい、で、すっ……!」
やっと、とこよの問い掛けに文がどこか切羽詰った声で答えた。
「そっか」
返事をしてもらえた事を喜ぶように、とこよの手の動きがほんの少し速くなる。
「あっ、ぅ、それ、ぁ……、気持ちいい、です、んっ……」
気持ちさのせいか、文の声もほんの少し高くなっていた。
「そう? じゃあもうちょっとだけ強くしてみるね」
とこよは陰茎を握る力を強めて、少し絞めつけるくらいにする。
そして上下に往復する動きを、少しだけ大きく速いものへと変える。
とこよ握る手の中で、文の陰茎がびくびくと何度も震えていた。
「気持ちよさそう」
そう言って、とこよは嬉しそうに笑う。
文の顔は手で覆われていて見えない。見えない文の顔に向けて、とこよは優しく微笑んだ。
「あっ……! ふぅっ、ぅ……ぅ、ぅ……んぅぅっ……!」
とこよは陰茎をぎゅっと優しく握り、上下に何度も往復させていく。
陰茎の先端から透明な液体が次々に溢れてきて、とこよの指を濡らすほどに垂れていた。
指が濡れるのも気にすることなく、ぬるりとした液体が絡みつくままに任せて、とこよは握る手を陰茎に滑らせ続けた。
「つぅぅ!……んっ……うぅぅ……ふっ、……っあ、……は、ぁ……」
文の体が突然びくんと硬直して、何かを必死に堪えるように息を止め苦しそうに呻く。
「むむう……?」
とこよが手を止めて文の様子を窺った。
「んぅぅ……ぅぅ、ぅ……はっ、ぁ……はぁ……」
文の呼吸が落ち着いたのを見て、とこよがまた陰茎を握る手を上下させ始める。しかし、その動きはゆっくりとしたものだった。
「んっ、あ、まって、とこよさ、ぅ、つっ……!」
とこよはまた手を止めた。荒い息を吐き出して何かに耐えている文の様子を、陰茎を握ったまま見守る。
「我慢しないでいいんだよ?」
苦しそうに息を吐く文を見て、とこよが心配そうな声で言う。
「もう……、ぁ、つぅ、もう、大丈夫です、から……」
それでも文は何かを必死に堪えながら、顔に手を強く押し付けたまま、息も絶え絶えにそう答える。
「うーん……」
とこよは、手の平で覆われた見えない文の顔を見つめながら、陰茎を握った手をそのままに、納得していないような声を洩らす。
「じゃあ、他に私にできることはない?」
「ふ、ぅ……もう、これ以上、は……う、つぅ……」
文はそれだけを苦しそうに言うと、あとは息を喘がすばかりで何も言わない。
とこよはそんな文を心配そうにただ見つめていて、やはり堪え切れなくなったように、再び問い掛ける。
「何もないの?」
「そう、言えば、……口、で……くわ、え……っふぅ……舐める、やり方が……ふぅぅ……」
文の息が少し落ち着いてきていた。
とこよは頷く。
「うん、分かった」
特に躊躇いもせず文の股の間に顔を落として、握った陰茎の先に唇を寄せて、つぷりと柔らかな唇の間に亀頭を沈み込ませ、するりと陰茎を口の中へ滑りこまるように顔を更に落とした。
「ひぁぁっ!?」
とこよが舌を陰茎に触れたまま顔を落としていくと、文がどこか可愛らしい声で切羽詰った悲鳴を上げた。
文の腰がびくんと浮いて、固い陰茎の表面をとこよの舌が滑る。
「あっ、そ、ひぅぅ、あ、ぁっ!?」
とこよの髪が文の下腹部にかかり、するするとしな垂れて、そのまま文の素肌に覆いかぶさっていく
「ひぅっ!? あっ! んぅぅ! だめでっ、ひああっ!」
文が顔を覆っていた手を離した。
勢いよく体を起こそうとして、起こしかけて、固まる。
とこよの口の中に、文の陰茎が半ばまで咥えられていた。
文の視線の先で、とこよの頭がゆっくりと持ち上がっていく。文の裏筋をぬるりとした肉感が舐め上げていき、目の前のとこよの口からぬらぬらとした肉の茎がどんどん姿を見せていく。
「嘘っ……とこよ、っひぁ!」
文が何かを言おうとするよりも先に、とこよの頭が下がっていく。
「そんな、っあ! だっ! そっ、んんぅっ! そんっ、だっ、めっ!」
もう一度、根深く陰茎を咥え込んだとこよが、上目づかいに文の様子を見て、少し首を傾げた。
するっと頭を上げていく。
文の腰がびくんと跳ねた。
「ひぅぅっ!!」
文はあごを強く引いて、手の平で布団をぎゅっと握り締めた。内腿にぎゅっと力が入っていて、とこよの頭を薄い腿肉で挟んでいた。
とこよが少し驚いた目をする。それから何かを理解したように陰茎を咥えたまま頷き、目を微笑ませて、持ち上げた頭をまた落としていった。
「えぁっ、だめ、ひぅぅ、とこよさん、もう、私、だめっ、だめですっ」
文は中途半端に体を起こした姿勢で、とこよに向かって何度も首を横に振ってみせた。
しかし、陰茎の根元へと頭を下げていくとこよは、陰茎を口内へと納めていきながら、その視線を文の下腹部へと落としている。
文が必死に首を振ってみせても、とこよには見えない。
ほどなく、文の下腹部にとこよが顔を埋めているかのように、陰茎が根元まですっぽりと飲み込まれた。とこよの髪が文の下腹部へ絹のようにさらりと流れ落ちて素肌を覆い隠す。
陰茎を口いっぱい喉の奥までくわえ込んだとこよの呼吸が鼻から抜けて、微かな息が文の下腹部をくすぐった。
とこよが口を文の下腹部につけたまま、文を見上げた。
文の喉がごくりと鳴った。
「だめ……だめです……今、動いたら、動かれたら、もう、もう……わたし……」
声を震わせ、息を切らして、文は、じっと、陰茎を飲み込んだとこよの瞳を見つめる。
とこよの頭が動き出す。
「っ……!」
文は息を止めて、布団をぎゅっと握り締める。
今度のとこよの動きはゆっくりとしたものだった。
とこよは、文の顔を見つめたままゆっくりと頭を持ち上げていく。
「っ……ぅ……!」
文もまた、陰茎を咥えるとこよの顔を見つめ続ける。瞳の奥を堪える何かで熱く潤ませていて、引き結んだ唇の奥から時折小さな声が洩れる。
とこよの唇の間から、ゆっくりとゆっくりと時間をかけて、唾液で濡れた血管を浮き立たせる肉の棒が姿を見せていく。
「ふぅぅ……! つ、ぅぅっ……!」
とこよの口内で陰茎がびくびくと震えて、その度に、口の内壁にぶつかり擦れる。
文はひたすら息を止めていた。ひたすら、何かを堪えていた。
ふいに、とこよが動きを止める。
「むむ、ひゅばふぁ」
とこよの唇の間から一筋の唾が、つつ、と肉棒を伝い垂れ落ちていった。
唐突に、亀頭の笠まで持ち上げていた唇をとこよが落とした。
陰茎の根元まで唇を一気に滑り下ろして、ずず、と音を立てて息を吸い上げる。
「えぁっ――――」
文の腰ががくんと震えて、両手がとこよの頭へと伸びて、その瞬間、
「――――ぅああっ!!??」
激しい快感を伴う何かが文の体を稲妻のように迸って、とこよの口内、
「んんぅっ!?」
熱い飛沫がとこよの喉奥へと叩きつけられた。
ごくん。と、とこよの喉が動く。
勢いよく流れ込んできたそれを、とこよの喉が飲み下していた。
「えっ!? あっ!? うああっ!!」
文の腰ががくがくと震えた。
文は何が起こっているのか分からずにいるように、戸惑った声を大きく上擦らせている。
抑えることの無い嬌声めいた甘い悲鳴の全てが口から漏れ出ていた。
溜め込まれた熱い塊が幾度も陰茎からとこよの喉奥へと迸っていった。
「んんっ! んむっ!」
熱い塊がとこよの喉奥へと叩きつけられる度、とこよの喉がそれを飲み下していく。
「あっ、うぅっ――!」
「んくっ、んっ――!」
文の陰茎からとこよの口内へ、熱くどろどろの塊が吐き出されていく。
熱いどろどろの塊がとこよの口内に迸るたびに、文の体には雷に打たれたような衝撃が、鮮烈すぎるほどの快感が、繰り返し駆け巡っていく。
「あっ、ふぅっ、ああっ――」
「んっ、んっ、んっ――」
文の視界の中では、股間にそそり立っていたはずの肉棒はとこよの口の中に根元近くまで飲まれている。
口の中の見えない陰茎が激しく脈打ち何かを迸らせ、その度に、とこよの喉がごくんごくんと何かを飲み下していく。
下腹部に顔を埋めるとこよ。その頭を文は両手で押さえていて、触れられた髪がさらさらと流れて、下腹部まで流れて素肌にかかる。
その光景を、文は目を逸らさずに熱く潤んだ瞳でずっと見つめ続けていた。
「――あっ……んん、ぅぅぅ……」
「――んっ……んっ…………」
とこよの頭を押さえていた文の両手から、力が抜けていく。今はもう、とこよの頭に優しく触れているだけで、撫でるでもなくさらさらとした髪の感触にそっと触れていて、とこよの頭に柔らかに添えられていた。
声からも力が抜けていて、甘やかな喘ぎ声にも似た熱い吐息が、口から洩れるままに吐き出されていく。
そうして、とこよの頭に触れたまま、口から甘い吐息の洩れるまま、文は陰茎を咥えるとこよを見つる。
どこか切なげで潤んだ瞳でもって、自らの下腹部に顔を埋めるとこよを見つめている。
とこよは、ずっと抵抗することも無く喉奥に叩きつけられる奔流を飲み下していた。
頭をぐっと押さえ付けられている間も、押さえる力が弱くなってからも、ずっと、文のするままに文の欲求を受け止め続けていた。
やがて、迸り続けた熱い塊も尽きる。
最後に、茎から溢れ損ねた快感の残滓を絞り出すようにびくんびくんと震えて、吐き出された欲求の塊は、とこよの喉奥で尽き果てた。
「はぁ……はぁぁ……」
文は息を吐きながら、とこよを見ていた。
力が抜け落ちたように、文の手がとこよの髪の上をゆっくり滑り落ちていく。そのまま、文の手は少し湿った布団の上に音も無く落ちた。
とこよはまだ、目をそっと瞑り、口で陰茎を根元までくわえ込んだまま、口内のものをじっと感じているかのように動かない。
それから、完全に迸る飛沫が止まったのが分かったのか、とこよが薄く目を開いた。
とこよが口内で舌を動かしたのか、文が、「んっ……」と吐息を洩らし、肩をぴくりと震わせた。
とこよの頭が持ち上がり出す。
文は熱く上気しきった顔でとこよを見つめる。淡く滲んだ汗で細い毛先を湿らせて肌に貼りつけていた。
ずっ……、ずず……、と。とこよは唇の間で音を立てて、ゆっくりとゆっくりと陰茎を吸い上げていく。
「んっ、んぅ、ぅ……」
陰茎を吸い上げられるほどに、文が息を詰まらせる。
「んっ……あ、はっ、ぁぁぁ……」
いつの間にか文は目を閉じていた。
陰茎を舐めるように上っていくその柔らかな感触に感じ入るように、目を閉じて、熱い熱い吐息を洩らしていく。
とこよの口はゆっくりゆっくりと上がっていく。
そしてとうとう、亀頭を残して陰茎が少し湿った空気に触れる。
亀頭を口に含んだまま、とこよの動きが止まった。
文がゆっくりと目を開く。
とこよは陰茎に視線を落としていた。
その視線を感じたのか、とこよが視線を上げる。
亀頭を口に含んだまま上目遣いに文を見上げる。
文はぼんやりと、熱に浮かされているように見上げるとこよの瞳を見つめる。
とこよも、亀頭を口に含んだまま、文の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
そうして見詰め合って、見詰め合ったままとこよが亀頭を舐めた。
裏筋にそうように丁寧に繰り返しざらりざらりと撫でるように。
亀頭の笠の下を隙間無くぬらぬらと細まった舌先で拭いあげるように。
鈴口の隙間に舌先で分け入るように、残るものがないように、亀頭を丁寧に舐めていく。
文は熱く湿った息を吐いた。時折、切なげな甘い声を小さく洩らした。とこよを見つめて、気持ち良さそうに目を細めていた。
とこよはどこか嬉しそうな顔で文を見上げて舌を動かしていた。
そして、とこよの唇から陰茎が引き抜かれた。最後に亀頭を、ちゅうと吸い上げながら。
体を起こしたとこよが唇についた液体を手で拭い、笑顔で文に訊ねる。
「気持ちよかった?」
「はい……とても……」
文は上気した顔で、枕に頭の重さをすとんと預ける。
そのまま、とろんとした瞳に瞼がゆっくりと下りていき、
「とても……気持ちよかったです……」
文は、眠りに落ちていった。
文の瞼がゆっくりと開いていく。
「ん……あれ……私……」
目を擦りながら、文は体を起こす。文はしっかりと布団を被っていた。
被っていた布団をめくって見れば、寝巻きは乱れていない。しっかりと裾の先まで体を包んでいる。
股の間には男性気もついていて、朝、目覚めたときの常で、大きく膨れ上がっている。
全てがいつも通りだった。
「夢……だったんでしょうか……?」
呟いて、文の頭の中に記憶が鮮明に浮かび上がってくる。文の頬が赤くなる。ばっと、とこよの布団を見る。
とこよは、布団をしっかりとかぶり、すやすやと眠っていた。
やはり、いつも通りの光景だった。
「やっぱり、夢……?」
文は悩んだ。
夢だとしたら、なんという夢を見てしまったんだろう。
あんな夢を見てしまうほどに自分は変になってしまっていたのか、そう思えてならない。
でも、それならいいのだ。文は思う。まだそのほうがいい。そっちのほうが安堵できる。と。
文の中で、不安が大きく頭をもたげていた。
なぜ今日はぐっすり眠れたのか。
なぜ体の内側に篭っていたもどかしいほどの熱の塊が、すっかり消えてなくなってしまっているのか。
なぜ、あの感覚を、とこよの手の感触を、とこよの口の中の感触を、こうもはっきりと思い出せるのか。
夢にしては鮮明に残りすぎている、とこよに触れられていた感触。
気づくと股の間のそれが固さを増していて、文は慌てて頭を振って今しがた思い出した感触を振り払った。
もし、夢じゃなかったとしたら……。
文は眠っているとこよの顔を見つめる。
自然とその視線はとこよの唇に吸い寄せられていく。
唇の中に陰茎をくわえ込んでいたとこよの顔が、文の頭の中に浮かび上がる。
股の間のそれがどんどん固くなっていくのを感じた文は、頭を振って脳裏に浮かび上がる光景を振り払った。
しかし、振り払い切れず、自らの顔を手の平でぴしゃぴしゃと叩く。
何度かぴしゃぴしゃ叩いたあと、そのまま手の平で顔を覆い隠して固まる。身じろぎ一つしない。
耳が、真っ赤に染まっていた。
どれくらいそうしていたか、眠っていたとこよが目を覚ました。
「……んぅ、ん。ん……? 文ちゃん……?」
文は顔を覆っていた手をばっと開いた。
その顔は真っ赤だった。
「文ちゃん? おはよ~う?」
文も固い声で挨拶を返す。
「おはよう、ございます、とこよ、さん」
文の見つめるなか、とこよは体を起こして、んん~、と伸びをした。そして布団から抜け出て立ち上がる。
「あ、あの。とこよ、さん」
立ち上がったとこよが見ると、文は体を起こしたまま布団から出てこようとしない。
とこよと目が合うと、見上げていた視線を逸らすように俯いて、それから、真っ赤な顔で何かを言おうとして言えずに口を閉じたり、布団の端を掴んでみたりしている。
とこよは明るく笑う。
「もう、文ちゃん。そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫なのに」
その言葉で、文の動きが固まる。そしてゆっくりと、真っ赤な顔を上げていく。
わずかに涙の滲ませているようにも見える文の目に、とこよは真っ直ぐに笑顔を向けた。
「もう一人で我慢しなくていいからね」
文の顔がいっそう赤くなった。それから掴んでいた布団を勢いよく頭から被った。
文は布団を被って丸くなった。
とこよは少し驚いた顔をしたあと、少し落ち込んだ表情になり、文の布団の傍らに膝をついて座る。
「その……ごめんね、文ちゃん。……ごめんなさい。私、文ちゃんが隠していたことを、無理矢理、その……」
文は布団を頭から被ったまま、小さく首を振っていた。
「どうしても、どうしても心配でね。体調が悪そうな理由を教えて欲しくて……」
とこよは文に謝る。文は布団の中で首を振る。
とこよが謝る必要なんてないと、文は思っていた。
ただ恥ずかしいから、布団の中に隠れていて、ただ恥ずかしいから、とこよの顔を見ることができないだけだった。
「強引だったって、自分でも思うんだ。だから……ごめんなさい。私のせいで文ちゃんを傷つけてしまって、ごめんね」
とこよは座ったまま文の布団に頭を下げる。
ふいに、とこよの頭の中に文の声が響いてきた。
(……腕力で無理矢理、その……あれを見たのはちょっとどうかと思います)
「文ちゃん……?」
とこよの頭に響く声は、方位師である文が使う伝心の術によるものだ。
(恥ずかしかったです、とても恥ずかしかったです。恥ずかしくてもう泣いてしまいそうでした)
「ごめんなさい……」
(それに怖かったです。とこよさんが……それを見て、どう思うのか。どんな顔をされるのか、……本当に怖かったんです)
「文ちゃん……」
(でも、とこよさんは、とこよさんでした。気持ち悪がりもせず、その場だけ取り繕ろうでもなく、ただ私を気遣ってくれて、本当に……とこよさんでした)
「そんなの、だって、私の方こそ! ……文ちゃんに避けられてるんじゃないかって、思ってたくらいで……」
(……それについては、すみません。そのような思いをさせてしまい、本当に申し訳ありません)
「ええっ、いいよ! そんなに謝らないで! もう勘違いだって分かってるから大丈夫だよ!」
(……ありがとうございます、とこよさん。……いえ、そうでなくて、それとは別にお礼を言わせて欲しいんです)
「お礼を……? ……あっ、昨日のが気持ちよかっ」
(違います! それは、確かに……ちょっと、いえ、すごく気持ちよかったですしスッキリしましたしお礼を言うべきだとは思いますけど! 今は違います!)
「そっか、じゃあなんだろ?」
(それは……)
文が布団から顔を出した。
体を起こして布団から出ると、布団の傍らに座っていたとこよに正面から向き合う。
そのままとこよを見つめて、自分の口で、言葉を伝える。
「さっきも言いましたけど、あの時あれをとこよさんに見られたとき、本当に怖かったんです。ひょっとしたらとこよさんの言う通り、私は傷ついてしまっていたかもしれません」
少しだけ視線を落として、
「でもそんなことはありませんでした」
文はゆっくりと首を振る。
「だからとこよさん。お礼を言わせてください」
それからとこよの瞳を真っ直ぐに見つめ、
「ありがとうございます。私の陰陽師がとこよさんで、本当によかったです」
まだ少し赤さの残る顔のまま、少しだけ恥ずかしそうに笑った。