フグ美が絶望的に可愛くない

（ザザー……ザザー……）

タンコ　……おや？
　　　　今日は大潮なのかのう？波打ち際がかなり遠いわ。

芙蓉　潮干狩りしている人もちらほらいますね。

？？？　お、おい……！

タンコ　む？

？？？　そこの……人間！

芙蓉　何か聞こえたような……

？？？　あんた、耳が悪いの！？ここよ、ここ！こっちを見なさい！
　　　　そこじゃねえ！下だ！砂浜だってんだ！

タンコ　なんと……！

芙蓉　フグ……！？

？？？　やっと気付いたぜ。これだから人間は鈍くて困るな、フグ美。

フグ美　そうね、フグ次郎。あたい達フグの鋭さとは比べ物にならない鈍さだわ。

芙蓉　……フグに否定されるとは、思ってもみませんでした……

フグ美　ほら、ぼうっと突っ立ってないで、あたい達の体を波打際まで持っていきなさい！

フグ次郎　あっし達を海に入れるだけだ。そのでかい図体なら簡単だろ？

タンコ　なんだかのう……

芙蓉　ええ。とても偉そうなので……素直に言うことを聞く気になれないですね……

フグ次郎　ちょっ……！何言ってんだよ……！

フグ美　そうよ！あたい達が陸で呼吸できないのを知ってんのかい！？

☆選択肢☆

「助ける。」

フグ次郎　かたじけねえ。この恩は忘れねえぜ！

「どうしようかな。」

フグ美　何をほざいてんのよ！毒を食らわすわよ！

フグ次郎　あんた、フグ毒で死にたくなかったら、今すぐあっし達を助けるんだな。
　　　　　……そう、いい子だ。

合流

（パシャパシャ……）

芙蓉　おかしなフグ達でしたね……もしかして妖でしょうか？

タンコ　同じ妖としては心外じゃが……通常のフグならば喋らぬからのう。

――翌日――

芙蓉　アピ助さん、討伐お疲れ様です。

タンコ　ちょっと危なかったが、良い戦いっぷりじゃったのう。

芙蓉　そうですね。毎日の修練の賜物です。
　　　――！？
　　　アピ助さん……！まだ妖がいたようです、すぐに準備を――

☆選択肢☆

「了解。」

芙蓉　この辺りは海の妖が多いようですから、気をつけてください……！

「もうできてる。」

タンコ　ほう、妖の気配に感づいておったか。成長したのう。

合流

タンコ　それじゃあ頼んだぞ……！

？？？　……待ちな。
　　　　そいつは影鰐会（かげわにかい）じゃない。この辺の海に害なすものじゃないぜ。
　　　　……それともお前ら、そうやっていつも無差別に殺してんのか？

タンコ　――！？何者じゃ！？

？？？　……ちっ……結局喧嘩になってやがる。お前達が仕掛けたんだからな。

タンコ　なんじゃ……？式姫か……？

芙蓉　そのようですが……

☆選択肢☆

「君は妖？」

？？？　そんなの関係あるのか？

「君は式姫？」

？？？　……式姫だから、仲間になれ？そう思ってるんなら大間違いだぜ。

合流

？？？　あたしはあくる。……ここら辺一帯の海を取り仕切ってる。

あくる　それにしても……気に入らねえな。妖と見たら問答無用で討伐か。
　　　　こんな陰陽師を放っておいたら、百害あって一利なし、だ。ここで死んでもらおうか。

？？？　姉御……！ちょっと待ってくだせいっ！

フグ次郎　その御仁です！あっしらを助けてくれたのは！

フグ美　そうよ姉様（あねさま）！姉様の嫌いな陰陽師だけど、恩人なの！

芙蓉　あなた達は先日の……

あくる　……なに？お前がフグ美達を助けたのか？
　　　　ちっ……命拾いしたな。あたしは借りは返すたちなんだ。
　　　　とりあえず今ので、フグ次郎の分の借りは返したぞ。

☆選択肢☆

「ちょっと待って。」

あくる　……なんだ。あたしは陰陽師は嫌いなんだ、死にてぇのか？

「どうして妖の味方をしてるの？」

あくる　……理由なんて必要か？

合流

あくる　あたしからすれば、妖だからって敵とみなすお前らの方がおかしい。
　　　　正義なんて、勝った方の理屈だろ？どっちが正義なんて誰が決めたんだ。

☆選択肢☆

「確かに。」

あくる　……はぁ？

「考えたこともなかった。」

あくる　……なんだそりゃ。

合流

あくる　お前……陰陽師にしては、ちょっと面白いな。
　　　　……
　　　　フグ美、フグ次郎、ちょっくら陸に上がるよ。お前達は留守を守ってくれ。

フグ次郎　……へ？

フグ美　あ、姉様……！本気なの……！？

あくる　うるせえ、黙ってろ。

（ギュー……）

あくる　相変わらず面白い形に潰れるよな。

フグ次郎　うげ……！姉御、潰さねえでくだせえ……！

タンコ　なかなか残酷なことをするのう……

あくる　この二匹をいじめていいのはあたしだけだ。お前達は真似すんなよ。

フグ美　姉様……そんな姉様が好き……！

タンコ　変わったフグじゃ……

あくる　すぐ戻ってくる、じゃあな。

☆肆

芙蓉　……

タンコ　……のう。

あくる　なんだ？

タンコ　なぜわしらに付いてくるんじゃ？

あくる　悪いか？
　　　　アピ助、お前は陰陽師にしてはちょっと面白そうだからな。暇つぶしだ。
　　　　それに、フグ美の命の分の借りを返さなきゃならねぇからな。

タンコ　律儀なのか頑固なのか……

あくる　それに、久しぶりの陸は面白い。見ない間に色々変わってるな。

（ガヤガヤ……）

芙蓉　？なんだか賑やかですね。

タンコ　……ふむ。そこの家じゃの。恐らく祝言を挙げておるのじゃろう。めでたいのう。

あくる　祝言……結婚か。
　　　　面倒なことをするもんだな。なんでそんなことするんだ、人間は？

タンコ　そりゃあ……家同士の都合もあるじゃろうし、人によっては愛し合っておるからじゃろうな。

あくる　……へぇ、愛。おとぎ話の中だけかと思ったぜ。
　　　　本当にあるもんなんだな。

☆選択肢☆

「……」

あくる　ん？なんだ？

「愛をおとぎ話って……」

あくる　文句あんのか……？

合流

あくる　……おい、お前。もしかして今、変な同情してねぇだろうな？
　　　　「愛を知らないなんて」とか何とか。……寒気がするぜ。
　　　　あたしは知りたくもねぇし、それがなくなって不自由も何もしてねぇんだからな。

芙蓉　……

タンコ　ここまで尖っておれば、逆に立派なものじゃ。

――数日後――

あくる　……

芙蓉　あくるさん……どうかしましたか？

あくる　お前、なかなか命の危険にさらされないな。

タンコ　縁起でもないのう……

あくる　ったく……こっちはそれを待ってんのに。妖が襲ってきても自分で討伐しちまうしな。

タンコ　……それじゃ。

あくる　うん？

タンコ　気になっておったんじゃ。あれらの妖達は討伐しても文句はないのか？

あくる　はぁ？　あいつらは襲ってきてる。自分の身を守るために戦うのは当然だろ。
　　　　生きるためには正義だなんだと言ってられねぇからな。

タンコ　それにしては……おぬしも遊び半分で討伐しておるように見えたが。

あくる　暇だったんだ。悪いか？
　　　　あたしは正義は語らない。だけど、別に誰も傷つけないわけじゃない。
　　　　それにな……
　　　　あいつらは影鰐会の連中だ。個人的に気に入らなんでな。

芙蓉　……影鰐会……？そういえば前にもおっしゃっていたような……

あくる　最近ここらの海に現れた連中だ。
　　　　あたしの縄張りにちょっかい出してきて……ムカつくんだよな。

タンコ　そんな時に海を離れて大丈夫なのか？

あくる　大丈夫さ。威勢だけで弱いんだ、あいつら。あたしの舎弟が追い払ってるよ。
　　　　しっかし、お前も影鰐会くらいなら、余裕で追っ払うんだな。
　　　　これじゃあいつまで経っても借りが返せねえぜ。

☆選択肢☆

「返さなくてもいいよ。」

あくる　いや、返しとかないと、気に入らない時にお前を始末できないからな。

芙蓉　な……！

あくる　慌てんなって。冗談だよ。

タンコ　いや、全然冗談に聞こえんかったぞ……

「じゃあ今度は一緒に戦ってくれ。」

あくる　何言ってんだ、気持ちわりぃ……
　　　　お前がヤバイ時に助けるのはいいけど、一緒に戦うなんてごめんだからな。

合流

芙蓉　――！！

あくる　おっと……別のが現れやがったな。

不知火　……不知火（しらぬい）だ。影鰐会の邪魔をする者がいると聞いたんでな。

あくる　へぇ……不知火か。
　　　　まさか影鰐会にいたとは知らなかったが、ちょっと骨のある奴が現れたようだ。
　　　　アピ助、負けそうになったら助けてやるから、いつでも呼べよ？

☆選択肢☆

「やなこった。」

あくる　けっ……かわいくない陰陽師だぜ。

「お言葉に甘えます。」

あくる　お前……陰陽師としての矜持ってもんがないのか……？

合流

芙蓉　アピ助さん……！襲ってくるようです、気をつけてください……！

あくる　さて、お手並み拝見だ。

あくる　……ちっ、不知火のやつ、逃げやがったか。それにしても――
　　　　影鰐会の奴らに、あんな強者がいるとはな。そろそろ戻った方が良さそうだ。

不知火の声　……なんだ、知らぬのか。
　　　　　　もはやお前の縄張りは我らのもの。

あくる　――なに！？

不知火の声　そういえば……最後まで抵抗しておったフグが二匹おったの。
　　　　　　邪魔じゃったから、海の藻屑にしてやったわ。

あくる　――っ！？
　　　　お前ら……死にたいらしいな。
　　　　あたしが地獄に送ってやるから、首洗って待ってろよ。

あくる　アピ助、芙蓉、タンコ。見送りはここでいい。

芙蓉　……ですが……

タンコ　大丈夫なのか？

あくる　海の中のことはあたしの問題だからな。
　　　　お前に借りてる借りは……影鰐会のことが片付いたら返しに来る。
　　　　それでいいか？

☆選択肢☆

「手伝うよ。」

あくる　……これ以上、借りを作るのはごめんだ。

「水臭いな。」

あくる　何言ってんだ。お前は陰陽師、あたしは海のモンだ。
　　　　ここで別れるのが当然だろう？

合流

あくる　……じゃあな。

☆選択肢☆

「返さなくてもいいから。」

あくる　……？何言ってんだ？
　　　　意味わかんねぇな。お前、そんなこと言ってると早死にするぞ？

「貸し借りだけじゃ収まらないこともあるだろ。」

あくる　……

合流

（ザザザザ……！！）

芙蓉　っ！！

あくる　！？
　　　　アピ助、危ねえっ！！

（ザプーンッ！！）

あくるの声　……そろそろ起きろよ。
　　　　　　生きてるんだろ？おい、こっちは時間がねぇんだ。

あくる　目が覚めたか？

☆選択肢☆

「ここは？」

あくる　……察しが悪いな。海の中だよ、あたしのアジトだ。

「息を止める。」

あくる　おいおい……息を止めなくなって溺れねぇよ。
%br;合流

あくる　妖に襲われたんでな。とっさに海の中へ逃げてここへ匿ったんだ。
　　　　驚いたか？水の中でも息ができるだろ？
　　　　ちょっとお前の体に海妖の呪いをかけたんだ。
　　　　――おっと。そう慌てるなって。
　　　　呪いっていっても術みたいなもんで、水の中で呼吸できるようになるもんだ。
　　　　まぁ……代わりに陸上で呼吸できなくなるんだけどな。
　　　　大丈夫、海から出る時には解いてやるよ。
　　　　……ふぅ。これで、フグ美の分の借りは返せたな。

？？？　姉御ー！！！

あくる　……無事だった奴がいたか。

舎弟　姉御！無事だったんですね……！

あくる　すまねぇな、あたしが油断してたばっかりに……

舎弟　とんでもねぇです！俺も不甲斐なくて……
　　　すいやせん……フグ次郎兄貴達が……

あくる　聞いたよ。……この落とし前はつけなきゃなぁ。
　　　　影鰐会の連中がどこにいるか分かるか？
　　　　ここはあたしの海だ。でかいツラされると胸糞悪い……
　　　　さっさと片付けるぞ。

あくる　……ここか。
　　　　おい！
　　　　影鰐会の頭はいるか！？
　　　　……この海の持ち主が落とし前をつけにきたぞ。

影鰐　なんや、女やないか。……くくく、上玉やのう。
　　　ワシのコレにしてやってもええぞ。

あくる　……吐き気がするぜ。
　　　　ちんけなサメごときが、あくる様に刃向かうなんて百年早え。

影鰐　小娘が……口には気いつけや。

あくる　アピ助、手は出すなよ、こいつはあたしの獲物だ。

――ねごー！

フグ次郎　姉御ー！

フグ美　姉様！

あくる　フグ美っ！フグ次郎っ！無事だったか……！

フグ次郎　へいっ！潮流に乗って帰ってきやしたー！

影鰐　なんや、しぶといのう。もう一回ワシの尾を食らうか？
　　　（ザーッ！）

あくる　ちっ！

フグ美　姉様っ！！

フグ次郎　姉御！！

影鰐　子分を庇うとは、涙ぐましいのう。
　　　おい。そこの人間。なんでお前がおるか知らんが、さっさと行け。
　　　それとも、お前も海の藻屑にされたいんか？

☆選択肢☆

「黙れ。」

影鰐　……ほう。してほしいらしいのう。

「できるならしてみろ。」

影鰐　威勢がええのう。

合流

影鰐　一瞬で始末してやるわ。

フグ美　アピ助兄さん……！

フグ次郎　姉御の仇を討ってくだせえ……！

フグ美　姉様ー！

フグ次郎　姉御……！目を覚ましてくだせえ……！

あくる　……
　　　　ちっ……ヘマしちまったな……

フグ美　姉様……ひどい傷……！

フグ次郎　あっしらのせいで……すいやせん……

あくる　ふざけんな。たまたまだよ。
　　　　あたしが行きたかったところに、たまたまお前らがいたんだ……

フグ美　姉様……

あくる　あたしが……誰かのために、自分の命を犠牲にするわけねぇだろ……

フグ次郎　アピ助兄貴……！姉御を助けてくだせえっ！
　　　　　陰陽師の術なら、何かあるんでやしょう……？

フグ美　アピ助兄さん……あたいからも頼むよ……

あくる　黙りな。

フグ次郎　あ、姉御……？

あくる　ちっ……かっこ悪い。縄張りを守られた挙げ句に――
　　　　自分の命まで助けられるだ……？そんな借り……返せねえぜ。

フグ美　姉様……！そんなこと言ってる場合じゃ……

あくる　うっせえ！

☆選択肢☆

「咲耶の治癒を受けてくれ。」

あくる　嫌だっつってんだろ……！

「大人しくしていろ。」

あくる　嫌だね。
　　　　絶対に治癒はお断りだ。

合流

あくる　これ以上……借りを作ってたまるか。

☆選択肢☆

「問答無用で治癒を受けさせる。」

あくる　な……！

「フグ美とフグ次郎に抑えさせる。」

あくる　何やってんだ、お前達……！

フグ美　姉様に嫌われたって構わないわ……！

フグ次郎　その通り！これだけは譲れやせん……！

合流

あくる　……
　　　　勝手なことしやがって……

フグ美　姉様……

フグ次郎　すいやせん……

あくる　仕方ねえな。
　　　　アピ助、お前、旅をしてる、とか言ってたな。
　　　　その旅……あたしも行かせてもらうぜ。
　　　　お前が窮地に陥った時、あたしが助けて、この借りを返す。

フグ美　姉様……！あたいも連れてって！

フグ次郎　このフグ次郎も、お供させていただきやす！

あくる　仕方ねえな……
　　　　……なんだ。人の顔をじろじろ見て……

☆選択肢☆

「フグ美達が大切なんだな。」

あくる　はぁ？んなわけねぇだろ！

「思ってたより優しいな。」

あくる　何をほざいてんだ……？
　　　　夢見てるなら目ぇ覚まさせてやろうか？

合流

あくる　――なに？そういうのが愛情……！？
　　　　そんなわけあるか……！
　　　　それ以上言うと、一生、海妖の呪いを解いてやらねぇぞ！

フグ次郎　姉御……いくらなんでもそれは……！

フグ美　アピ助兄さんが不憫だわ……

あくる　お前達は黙ってろ！