あなたの薔薇を受け取ってから

Last-modified: 2017-11-13 (月) 04:51:20

 かやのひめはある日、薔薇姫からいつもの贈り物である一輪の薔薇を受け取った。
「あれ? 今日はもらってくれるの?」
 その日まで、差し出される薔薇をかやのひめが受け取ることは一切無かった。
「べ、別に、もらってあげないと薔薇が可哀想だからってだけなんだからね! 勘違いしないでよね!」
「薔薇って私のことー?」
「違うわよ!」
「あははー。でも嬉しいなー!」
 薔薇姫は笑いながら走り去っていく。
「……ふんっ。別に、もらってあげただけなんだからね」
 完全に去ってもう見えなくなった薔薇姫の背中に向けて、かやのひめは不機嫌そうな顔で呟いた。

 
 
 

 かやのひめはある日、薔薇を一輪だけ挿した花瓶をじっと見つめていた。
「かやちゃ(ドッ」
 薔薇姫の額にかやのひめの射た矢が刺さる。
「……勝手に入ってこないでって言ってるでしょ」
「なにしてるのー? あっ、薔薇の花を飾ってたんだね!」
「まあ、そうね」
「一輪だけなんだ」
「……」
「これって、私が前にプレゼントした薔薇?」
「あれからどれくらい経ってると思ってるのよ。とっくに枯れて、そこでドライフラワーになってるわよ」
「そっかー。あはは、嬉しいなー」
「か、勘違いしないでよね! 飾る場所が空いてたから飾ってるだけなんだからね!」
「そんなに大事にしてくれてるんだ! 嬉しい!」
「だ、だから勘違いしないでよね!!」
「あははー」
「……ところで、今日は薔薇は持ってないの?」
「え? あるよー?」
 薔薇姫がどこからともなく一輪の薔薇を取り出す。
「どこから出したのよ……まあいいけど。それ。この花瓶に挿してもいいかしら」
「いいよ! でも、いいの?」
「丁度、二本くらい挿したほうがいいかなって思ってたから」
「そうなんだ! じゃあ、はい!」
「ううん。あなたが挿して」
「え? いいけど。なんで?」
「そ、それは……あなたの薔薇だから」
「そっかー?」
 かやのひめの薔薇が挿されている花瓶に、薔薇姫の手でもう一輪薔薇が挿される。
「どう? かやちゃん?」
「そうね。いいんじゃないかしら」
「やったー!」
「べ、別に。あなたの薔薇が良かったって訳じゃないんだからね」
「うん! かやちゃんの薔薇、とっても綺麗だもんね!」
「ま、まあ……一番綺麗に咲いてくれた子を挿しはしたけど……」
「そっかあ。でも、かやちゃんの育てた薔薇じゃなくて、私の薔薇を挿してよかったの?」
「いいのよ」
「かやちゃんの薔薇の方が綺麗だと思うんだけどな」
「それじゃあ意味が無いのよ」
「意味?」
「べ、別に大した意味じゃないわよ! それに、これはこの部屋に飾る用だから、綺麗かどうかなんて関係ないの」
「そうなんだー?」
 花瓶に挿した二輪の薔薇を眺めながら、二人の会話は続いていった。

 
 
 

 かやのひめはある日、分身した薔薇姫に矢を射っていた。
「「「「かやちゃ(ドッ」」」」
 ボフッ。と音を立てて、矢を射られた薔薇姫が煙に変わる。
 分身した薔薇姫が三人にまで減ったところで、かやのひめは疲れたように弓を下げた。
「はぁ……全く。きりがないわね」
「「「もうちょっとだよー!」」」
「もういいわよ」
 かやのひめは、スタスタとどこかへ歩き出す。
「「「どこ行くのー」」」
「ふんっ……」
 ついてくる薔薇姫を適当にあしらいながら、着いたのはかやのひめの部屋。
 机の上に、薔薇が三輪だけそっと置かれていた。
 棘が全て丁寧に抜かれたその薔薇をかやのひめは大事そうに手に取る。
「はい、これ」
「「「えっ? 私にくれるの?」」」
 かやのひめは、三人の薔薇姫に一輪づつ薔薇を配る。
「なんだかんだで、ずいぶん長い付き合いだし。……そ、それだけなんだから。か、勘違いしなでよね!」
「「「嬉しいよ! ありがとうかやちゃん!」」」
 ボフッ。と音を立てて煙が立ち込め。
 すぐに晴れた煙のあとには、一人に戻った薔薇姫が三輪の薔薇を手に持って眩しいくらいの笑顔を浮かべていた。
「これで三倍もらった気分だね!」
「さ、最初から三輪上げるつもりだったから。か、勘違いしないでよ」
「そっかー。それで私が分身と三人だけになった時、もういいって言ってたんだねかやちゃん」
「べ、別に深い意味なんて無いんだからね!」
「嬉しいなー、嬉しいなー。あははー」
 薔薇姫はにこにこと笑顔を浮かべ続けた。
「ふんっ……!」
 かやのひめの顔は少し赤くなっていた。

 
 
 

 かやのひめはある日、四輪の薔薇を薔薇姫に渡した。
「赤い薔薇、好きみたいだから」
「ありがとう!」
 薔薇姫は眩しいくらいの笑顔で受け取った。
「大事にしてよね」
「うん!」
 かやのひめは薔薇姫の笑顔を、ただ眩しそうに見つめていた。

 
 
 

 かやのひめはある日、五輪の薔薇を―――
「はい! かやちゃん!」
「えっ、これ……]
「今までもらってばっかりだったから!」
「あなた、まさか知って――」
 ―――薔薇姫から受け取った。
「綺麗な薔薇姫ちゃんには棘がある、ってね! あっでも、ちゃんと棘は抜いてあるからね!」
「これは……どういう……」
「かやちゃんが指を怪我したらいけないから」
「そうじゃなくて……!」
「えっとね。別に深い意味なんて無かったんだ。親愛のしるしというか」
「そ、そう……そうよね……そうに決まってるわよね……別に、勘違いなんてしてないから……」
「……でもね、かやちゃんの気持ちが嬉しくて」
「……」
「嬉しくて、きっとあの日から……今はもう」
 薔薇姫がどこからともなく一輪の薔薇を取り出す。
「あなたしかいない」
 淡く薄桃に色づいた、花弁の先がちょっとツンツンしているけどでも丸みも帯びている、少し芯の高い、そんな薔薇の花をかやのひめに差し出した。
「あっ……えっ……?」
「受け取ってほしいな」
 かやのひめは呆気にとられた顔で、五輪の薔薇を持つ両手でゆっくりと、差し出された一輪の薔薇を受け取った。
 受け取ってもまだどこか信じられない顔をして、薄桃色の薔薇に視線を落として。
 その目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
 それから涙ぐんだ声で、「はい……」と、ようやくそれだけを答える。
 ぽんっ。ぽんっ。
 かやのひめの周りに花が咲く。花は何度も何度も咲き続けて。いつしか寄り添い合った二人に、いつまでも降り注いでいくだろう。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

♪参考にさせて頂きました♪
『色や本数で意味も変わる! 薔薇(バラ)の奥深い花言葉』
https://www.hanamonogatari.com/blog/14/

 

『バラの花言葉は本数によって意味が変わる?花束を贈るとき知っておきたい本当の意味。』
https://xn--xckd3bgf7p4a8cf1g7329c5rva.jp/bara-hanakotoba-hanataba-imi-4530

 

『ブライダルピンク - バラ図鑑 - NOIBARA』
http://www.noibara.net/encyclopedia/floribunda_rose/encyclopedia-52.html