みよしの門

Last-modified: 2016-09-04 (日) 00:57:23

学園にまつわる七不思議といえば噂好きな生徒であればいくつかは耳にしたことがあるかと思います。
ですがその中にあまりに危険すぎるということで存在を禁じられたものがあったことを知る人間はあまりいないでしょう。
その危険な七不思議こそ、今からお話しするみよしの門なのです。


ある時期の学園には三つの門があり、左の門は利根に、右の門は北上へと通じていました。
けれど真ん中の門はどこへ通じているのかわかりませんし、また開く所を見たものは誰もいなかったのです。
その開かず門のことを生徒たちはみよしの門と呼び、開く所を見てしまった者は婚期が遅れる呪いの門として学園七不思議の一つに加えたのです。


全然危険じゃないだろうって?
婚期の遅れは若い学生にとっては致命的とも思える問題ではあるのですが、たしかに危険ではないでしょう。
この話にはまだ、続きがあるのです。


ある時ある仲のいいぐるーぷが肝試しをすることに決めたのですが、行先というのがこのみよしの門でした。
普段は学生たちは気味が悪いと言って誰も近寄りませんし、日が暮れてからはなおの事、まさに肝試しをするにはうってつけとも言える場所でした。
人目につかない場所で仲のいい者同士、肝試しついでに親睦を深める……いえレズだったかどうかまではわかりませんが。


ともあれ肝試しは二人で討伐隊を組み、みよしの門に触って帰ってくる、という形で行われました。
このぐるーぷは数十人からなる大所帯で、討伐隊は十分おきに出発していきましたが、組が終わりに近づいても、誰一人として帰ってくることはありませんでした。
けれどみんな途中でレーズンにでも興じているのだろうと、不審に思う人間もまた誰一人としていなかったのです。


ここからは最後の組のうち一人の話です。


その生徒も時間になったので討伐隊を組んだもう一人と一緒にみよしの門へと向かいました。
道中では誰とも会うことなく、誰の声を聞くこともなく、目的地へと着きました。
そして彼女は門が開いているのを目にしたのです。


先に行った誰かが開けたのだろうとお思いでしょうが、この肝試し以前にも多くの生徒が門を開けようと試み、そしてどうやっても開かないことを確かめていました。
その門が、なぜか今この時に開いているのです。
まるで自分たちを招き入れるかのように。


その生徒は嫌な予感がしてすぐさま引き返そうとしましたが、もう一人はお構いなしに門の向こうへと進んでいってしまいました。
恐らくは戻ってこれないだろう。
確信に近い予感を覚えながらも、生徒は相方を追って門をくぐったのです。


そこは家でした。
土間があり柱があり家具があり、壁には赤い壁紙、床にもまた赤いござがおいてあって──
何の変哲もない、ただの家の中のように見えたのです。


ですが暗闇に目が慣れてくると生徒は家だと思っていたものの正体に気が付きました。
それは無数の少女たちでした。
土間も柱も家具も生きた少女たちで形作られ、壁と床の赤は少女たちが絶えず吐き出す血で彩られていました。
振り返ればくぐってきたはずの門はそこになく、代わりに一人の女の子が立っていました。
年のころも背丈も自分と同じくらい、服装も同じ学園のもの、違う所といえばその眼だけ。
およそ深淵とでも呼ぶべき暗い二つの穴が、女の子の顔に乗っています。
そして女の子はその穴で生徒を捉えるとうれしそうに笑って言いました。


「文ちゃん♪」


その声を聞いた瞬間、生徒は自分の運命を悟りました。
私はこれからこの家にされるのだ。
この家で吐血しながら学園の方角を見続けるのだ。
どうにもならない敗北感と絶望に崩れ落ちた膝は地へと着き──


と、そんな時に誰か生徒の肩を叩くものがあります。
横を見れば先に行った相方が涼しい顔で横に立っていました。


「文堂さん」


文堂さんは身長205センチ体重130キロベンチプレスは270キロを差し100mダッシュは裸足で11秒を切る超健脚、方位師でありながら全国各地のかくりよの門に殴り込みをかけその全てを血で真っ赤に染め上げた逸話は学園の語り草である。
文堂さんは女の子を一瞥すると懐から取り出したテンプレートを口にはめ大きな両拳を顔の横に上げた構えから正拳突きを繰り出す!
「憤ッ!」
拳から迸る慈愛のビームが辺りを浄化し気付けば私は門の前に立っていた。
周りには家にされていた女の子たちと先発したぐるーぷのみんなが倒れ、その中に文堂さんは三戦立ちである。
慈愛の力って凄い、そう思った。


こうしてみよしの門事変は終わり、顛末をみよし先生に報告するとお前富士鯖行ったんか!とえらい剣幕で怒られたけどそれはそれで良い夏の思い出。
今も門があるかどうかはわかりませんが、文堂さんは相変わらず各地であやかしを慈愛パンチしているそうです。