澄姫が遊びに来た その四

Last-modified: 2018-08-16 (木) 06:45:39

 冬のある日。
 澄姫が私の家の炬燵で蜜柑を剥き始めた時のこと。
 炬燵に入っている私の斜め前で、私と同じ炬燵に入っている澄姫が、私と一緒に一つの深皿に盛られた蜜柑をとって、私と一緒に蜜柑の皮をむき始めている。
 う~ん。なんだか信じられないような光景だ。
 しっかりと目に焼き付けておこう。
 じー。
「文は薄皮を剥いて食べるのね」
「文は……ということは澄姫さん、まさか……」
 蜜柑の皮を剥いている澄姫と話している文ちゃんも一緒に目に焼き付けておこう。
 じー。
 炬燵に入った澄姫と文ちゃん。
 うんうん。
 あっ。
 澄姫がちらりと私を見たぞ。
「……ねぇ、文。とこよは何でさっきからこっちをじーっと見て頷いてるの?」
「……きっと嬉しいのですよ」
 ひそひそと二人で話し始めたぞ。
 炬燵に入ってこっちを見ながらひそひそと話す澄姫と文ちゃん。
 うんうん。
「……しばらくしたら満足すると思いますので、そっとしておいて上げてください」
「……そうなの? なんだか落ち着かないわね」
 澄姫が蜜柑を一房とって、口に入れた。
 うんうん。
「やっぱり薄皮は剥かないよね」
 面倒だし、ぱくぱく食べれないし。
「ま、まさか……澄姫さんも薄皮を剥かずに食べるのですか!?」
「え、まあ、そうだけど。私も……?」
「私もそのまま食べるよ澄姫! 仲間だね!」
 ふふふ、薄皮を剥かない派が一人増えたぞ!
「えっ、ええ? 仲間?」
「まさか澄姫さんが蜜柑の薄皮をそのまま食べるようながさつな人だったなんて……」
「がさ……、あのね、蜜柑の薄皮を残したらもったいないでしょ? ちゃんと食べられるのに」
「あっ、剥くのが面倒だからってわけじゃないんだね」
「あなたねぇ……」
 もったいないから、かあ。意外な……いや、澄姫らしいのかな?
「ふふっ。とこよさんとは違うみたいですね」
「文は文で……さっき私のことをがさつとか言ってなかった?」
「ゴフッ、ゴフッ!」
「ちょ、ちょっと……、血を吐いたってごまかされないわよっ……」
「気にしないで下さい」
「それはどっちの話のことよ!?」
「……はて、何の話でしょうか?」
「ああもうっ……わかったわよ。気にしないわよ」
「あはは」
 文ちゃんと澄姫の会話って意外と面白いかも。
「……とりあえず、蜜柑の薄皮を剥かないくらいで、がさつな誰かさんと一緒にされたら堪らないわね」
「そうですね。失礼しました。でも薄皮は剥いたほうがおいしいですよ?」
 ……ん?
「なんだか二人とも、私のことをがさつって言ってない?」
「言ってるわよ」
「言ってますね」
 言ってた!
「そこは否定するところじゃないかな!?」
「否定するところかしら」
「とこよさんですしね」
 顔を見合わせられた!
「まさか、二人そろって誤魔化そうともしないとはね。……まあ、私もあまり否定できないんだけど」
「自分でも分かってるんじゃない」
「まあね」
「何ですかそれ、ふふっ」
「ぷっ」
「あははっ」
「もー、ひどいなあ。二人とも、そんなに笑っちゃって」
 ああ可笑しい。