四月一日のやつ

Last-modified: 2021-06-04 (金) 10:10:04

卯月の頃。
ひとひを花見で過ごす朔日。
八重さんの作ってくれたお弁当でお腹いっぱいになって。
桜の木の根を枕に寝転がれば、目の前には薄桃色の花びらが満開で。目に写る景色いっぱいに、淡い色の花びらが風ではらはらと舞っていて。
いつの間にか、夢を見ていた時のこと。
気づいたら、知らない場所に立っていた。
どこを見ても赤茶けた土の地面だ。
はて? ここはどこだろう?
少し先の方に、白っぽい家の寄り集まった町が見えるけど。桜どころか木も草も一本も見当たらないぞ?
見てる方向が悪いのかな?
くるり。
わあ……。見渡す限りの赤茶けた地面だ……。
あはは……、広いなー。
山の上に立ってる訳でもないのに、地平線が見えるや。
赤茶けた地平線の向こうには、吸い込まれそうなほど真っ青な空だ。
まるで、地平線の先に空が落ちてきているみたいだなあ。
なんだか荒涼としてるけど、不思議と綺麗な景色だなあ。
……思わずしみじみと味わっちゃったけど、ここは一体どこなんだろう。
木や草が全然生えてないみたいだし、荒れた土地に見えるけど……。
でも……こんな地平線までずーっと荒れた土地が広がってる場所があるなんて、聞いたことないような?
私が知らないだけって気もすっごくするけど……。
あ、ひょっとして、外つ国だったり?
……うーん……分からないし、考えてても仕方ないか。
っと、風が。すごい風だ。いてて、目に砂が……! 後ろを向こう……!
……うう、すごい風。
土ばっかりの土地だから、風が吹くと一気に砂が舞い上がるんだね。
やっぱり、ここに立ってても砂ぼこりに巻かれるだけだし。
行ってみるしかない! あそこに見える、白っぽい家が寄り集まった町に!
という訳で。
さて、町の中に入ってみたはいいものの。
うーん……見事に誰もいない。
誰かのいる気配はするような気もするんだけどな。
でも誰の姿も見えない。
うーん……。
ひょっとしてみんな寝てるのかな?
みんなお昼寝中だったりして。
なんて。そんな訳ないよね。
でも、町中のみんながお昼寝をする町かあ……、それはちょっと私も住んでみたいかも。
毎日、好きなだけ、お昼寝できるなんて、しかも誰からも怒られないなんて。
なんていい町なんだろう。
ここがそういう町だったらいいのになあ。
……ちょっと確かめてみよう。
さて。そこの家でいいかな。といっても、どこを見ても同じような白っぽくて四角い家なんだけど。
家の造りも見たことのない造りだし。やっぱり外つ国?
まあいいか。中に人がいれば、それも聞いて確かめればいいんだしね。
さて、戸は閉まってるけど。
「ごめんくださーい!」
……。
「ごめんくださーい!」
ゴンゴン。
……。
……誰もいないのかな?
ガタ、ガタガタ。
やっぱり閉まってる……。いやまあ、開いてても勝手に入ったりはしないけど。ちょっと中を覗いてみたかっただけで。
……。
うーん。
一体全体ここはどこなんだろう。
突然いなくなって、みんな心配してるかなあ。澄姫はきっと泣いちゃってるね。
文ちゃん怒ってないといいなあ。って、私だっていなくなりたくていなくなった訳じゃないし、怒ってないよね。
って、そうだ文ちゃん!
「文ちゃーん!」
……。
文ちゃーん!
……。
だめかあ。
呼びかけても反応がないってことは、伝心も繋がってないみたいかな?
いやそもそも、もし伝心が繋がってたら、姿が見えないのに気づいて何か言ってきてくれるよね。
ここに来てから、結構な時間が経ってる気がするし。
うーん。
とすると、もうちょっと探索してみるしかないか。
「よし」
もう少し見て回ろう。
町を隅々まで見て回れば、何か分かるかもしれない。
もしかしたら、あやかしの仕業かもしれないけど……それならそのあやかしを見つけて退治するだけだ。
どっちにしても、町を探索するしかない。
と、意気込んでみたのはいいんだけど。
見慣れない町だから、ちょっと迷ってきたかも。
そんなに入り組んだ町でもないんだけど。
似たような見た目の家がずっと並んでるし。
目印になるような木とか石とかどこにもないし。
どこを歩いても四角くて白っぽい家ばっかりだ。
そして誰もいない。
うう……。ちょっと心細くなってきたかも。
とても静かで、町の外から風の音が響いてくるだけなのもなんだか寂しい。
ひょっとしてこの町は、もう誰も暮らしてない町なのかな?
それなら誰の姿も見当たらないのも納得だけど。
でも、それにしては、どこの家もきれいというかぼろぼろになってないというか。
どの家も荒れてる感じはしないし。
廃村って感じじゃないんだよね。
誰かが確かに暮らしてる、そんな感じ。
ごく最近、町の人みんなが一斉にこの町を捨ててどこかに行ったとか?
それとも、あやかしが町の人をみんなどこかに移した、連れ去ってしまった、とか……?
う~~ん……。
だめだ! ぜんぜん分からない!
はぁ……。
っと、なんだか広場みたいな所に出たな。
小さい広場だ。
てっぺんに透明なガラスのついた柱がぽつぽつ立ってる。他の場所にもあった気がするけど
あと、変わった形の腰掛けもいくつかあるみたい……あっ、あの腰掛け! 誰かいる!
誰かが腰掛けの上に倒れてる!
わわわっ!
「だ、大丈夫ですかー! って……あれ?」
あれ?
この子、寝てるだけだ。
よかった。
「もう、びっくりした」
うつ伏せになって寝てるから、倒れてるのかと思ったよ。
でもよくよく考えたら、普通に倒れたら、こんなに器用に腰掛けの上に倒れるはずがないか。
あはは、それもそうだ。
でも、この子。うつ伏せで寝て……顔が痛くならないのかな?
この腰掛け、木の板を張って作られてるみたいだけど。
うーん。でも、よく寝てるみたいだし……平気なのかな。
隙間が多いし、固そうだし、あんまり寝心地の良い腰掛けには見えないんだけどなあ。
「……えーっと。あのー……」
うん。とてもよく寝てる。顔は見えないけど、とてもよく寝てるのは伝わってくる。
なんだか起こしちゃったら悪い気がしてくるな……。
この子がこの町について何か知ってるかもしれないのに。
むしろ、よくよく考えてみたら。この子こそが、私がここにやって来た原因なのかもしれないんだよね。
誰もいない町に、この子だけがいるんだから。
寝てるけど。
「……ふふっ」
なんだろう。この子が悪い子だって気が全然してこないや。
変な寝方ですやすや寝てるからかな?
……早く話を聞いてみたいけど、起こしちゃ悪いよね。
うん。
この子が起きるまでここで座って待ってよう。
よいしょっと。
それにしてもこの子、頭に……角なのかな?
くるんと丸まった大きな角がついてるけど……ひょっとしてあやかし?
もしくは、鬼の子だったりするのかな? 角だし。
どんな子なんだろうなあ。
顔は見えないけど、肩に届かないくらいの長さの黒髪は日の光に輝いて、とっても綺麗で、とってもさらさらしてそう。撫でたらとってもさらさらしてそうだなあ。
頭の左右両側の、くるりと曲がった立派な角。やっぱり固いのかな? ちょっと触ってみたい。触らせてもらえるかな?
服は、舶来の子が着てそうな衣装だ。
背中側しか見えないけど、全体的に黒い衣装。
薄紫の羽織をつけていて、その片側だけ、烏の濡れ羽みたいに艶やかに光る黒い翼が飾り付けられている。
袴は……これは、すかーとって言うんだっけ。黒くて柔らかに波打っていて、袂が白いひらひらで飾られている。やっぱり舶来の子なのかも。
全体的に黒い衣装の中で、片方の腕にだけ緑色のごつごつとした小手を指先まですっぽり嵌めているのがちょっと特徴的かも。
大きな爪のついた獣の腕みたいな小手だけど、とても綺麗な色だなあ。翡翠のような淡く柔らかな緑色が、ふと濃い青色の光を湛えて見える時がある。
どんな子なのかなあ。
仲良くなれるといいなあ。
よく寝てるなあ。
……顔、ちょっとだけ見てみたいけど、起こしたら悪いしなあ。
あ、もぞもぞしだした!
起きるかな?
……おお、やった。
起きなかったけど顔をこっちに向けてくれた!
とっても可愛らしい顔だ。眠っているのも相まって、まるでお人形さんみたいだ。
ふふっ、気持ちよさそうな寝顔だなあ。
安らかな寝顔。
見ていると、わたしもなんだか心地よくなってくるような。
眠くなってくるような━━━━
「━━さん。とこよさん」
「━━━━はっ!」
「やっと、起きましたか」
「あれっ、ここは……」
目の前に文ちゃんの顔が見える。その向こうには花びらいっぱいの桜の木。
「お昼寝もいいですが、こんなところで寝ていると風邪を引きますよ」
「う、うん……」
そうか私、夢を見ていたのか。
いつの間にか寝ちゃってたんだ。
「ふわ~あ。っと、うーっん……!」
「ふふっ、とても気持ちよさそうな顔で寝ていましたよ?」
「そう?」
夢の中ではちょっと大変だったんだけど……まあ夢だしなあ~。
「よく眠れませんでしたか?」
あ、顔に出ちゃったかな?
「えーっとね、なんだかね、不思議な夢を見たんだ」
「不思議な夢、ですか」
「そう。全然見たことのない土地でね。赤茶けた地面がずーっと広がってるんだ。そんな場所で、四角くて白っぽい家が寄り集まっている町があって、でもその町には誰もいなかったんだよね」
「なんだか、寂しそうな町ですね」
「そう、そうなんだよ文ちゃん。誰もいなくて寂しかったんだ。でもね」
「でも?」
「一人だけ、広場にね。寝ている子がいるのを見つけたんだ。木でできた長い腰掛けに、うつ伏せになって寝てるの」
「木の腰掛けに、うつ伏せですか」
「顔が痛くなっちゃいそうだよね」
「そうですね。起きたときに顔にあとがついちゃいそうです」
「うんうん。それでね。その子に話を聞こうと思ったんだけど、でもぐっすり寝てるから起こしちゃ悪いかなって思って、結局、起きるのを待ってるうちに目が覚めちゃって、その子とは話せなかったんだけど」
「そうなんですか? それは悪いことをしてしまいましたかね?」
「え? なにが?」
「とこよさんを起こすのを私がもう少し待っていれば、その子と話せたかもしれないと思って」
「ああ、そういうこと」
「はい」
「あははっ、夢の話なんだから、そんなの気にしないでいいよ文ちゃん」
「ふふっ、それならよかったです」
「うん! ……でも、どんな子だったのか、ちょっと話してみたかったな。夢だけど」
「きっと、とこよさんみたいにお昼寝が大好きな子なんでしょうね」
「そんな気がするんだよね~……」
不思議な夢だったなあ。
……夢の中では、なんだか乾いた景色が広がっていたけど。
目が覚めて、感じるのは桜の匂い。瑞々しい土の匂い。柔らかいそよ風。
見上げた景色に映るのは、吸い込まれるような桜の花びら、深い青色の空。
「桜、きれいだねー」
「そうですね」
「風も気持ちいいし」
「はい」
「お腹もいっぱいだし」
「ええ」
ごろーん。
「なんだか、もう一眠りしたくなってきたかも……」
「まだ寝足りないんですか……?」
「寝足りないんじゃなくてね、二度寝はまた別のものなんだよ文ちゃん」
「そもそも二度寝をしないようにしてください」
「今は朝じゃないから平気だもーん。じゃあおやすみー」
「本当に寝る気ですかとこよさん……」
「うんー、本当に寝る気~……」
「……もう、仕方がないですね」
文ちゃんの仕方なさそうな、でも優しい声に、心地よく、瞼を閉じる。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

説明!

砂場見てないとなんこっちゃだと思います。あと、ゴエティアをやってないと……やってても何一つ分からないなこれ。
エイプリルフールで砂場に投げたやつのとこよ主観(?)です。
このとこよちゃんって普通の日々よのとこよちゃんと同じとこよちゃんなのかしらん? という気もしないでもないですが。
おまけ(未定)だしいいですよね。他に置いとく場所もないし。(未定)を付けててよかった。
コメントアウト芸、と書くと……ちょっと今風ですね。それとも普通に今風ですかね? 実はソースを表示しなくても、画面上部にある差分ってところをクリックすると見れます。

 

果たしてこれはとこよちゃんの見た夢なのか、バラムの見た夢なのか。
つまりとこバラの夢だね! かやちゃ(ドッ