澄姫はなぜ麻雀で勝つことができないのか?

Last-modified: 2017-07-14 (金) 23:10:42

(何かがおかしい…)




澄姫がそう思い始めたのは三回目の放銃で足袋を脱いだ時だった。
今この場にいるのは澄姫を含めて4人。
とこよ。
文。
澄姫。
ゼッピン氏。
4人で正方形の卓を囲い、136個の長方形のブロックを積み、動かす。
具体的に表現すると麻雀だ。




(おかしいわ…絶対おかしい…)




そう、おかしい。
澄姫はこの場の異常に改めて思考を巡らせる。
そもそもなぜ澄姫は足袋を脱いでいるのか?
それはもちろん、この麻雀が脱衣麻雀だからである。




(3巡目で放銃…しかも私だけ。文もとこよも図ったかのように危険牌を回避している…)




じゃらじゃらと次の局のために牌をかき混ぜながら澄姫は思考する。
そもそもこの麻雀の始まりが文ちゃんととこよが二人で一緒にいて自分に声をかけたからだ。
自分の方位師の眼鏡は麻雀出来ませんから、と面子に加わってくれず、仕方なくそばにいたゼッピン氏に声をかけたのもとこよだ。
そして今、私はなぜかゼッピン氏に振り込みまくっている。
とこよ、文ちゃんは一切振り込んでいない。
ゼッピン氏の手がたまたま早すぎる?
否。
それも3回続いて、かつ自分の余り牌で速攻で振り込んでいるのはもはや偶然と片付けるには出来すぎている。




(絶対にとこよが何かしてる……こういう事、この子はやる…!!)




そう、絶対にやる。
私を驚かせたりからかったりするのだけは昔からとこよは大好きなのだ。
今もとこよの顔がしてやったりとにんまり笑い、髪結いと腰帯と足袋を外した私を眺めている。
確信犯だ。
許せない。
許してなるものだろうか。




(でも、だとしたら単純よね)




ふっ、と内心ほくそ笑む澄姫。
そう、やっているとわかればやっていることは単純なのだ。
積み込みである。
イカサマをして、ゼッピン氏によい配牌を配り、同時に澄姫に悪い配牌、というより振り込むような手筋になる手を送り込む。
そしてあたかも自分は関与してませんよとばかりにゼッピン氏に和了させるのだ。
種さえわかれば止めるのは簡単なこと。




「………とこよっ!」
「うぇ、きゅ、急に何かな澄姫っ!?」




山を積み終え、サイを振ろうとした瞬間────私は声を上げた。
とこよと文の積み込みを暴くために。




「今…積み込んだでしょう?」
「な、何のことかなー…?」




しらばっくれちゃって。
わかってるんだから。その山を開くと、ちょうどゼッピン氏にいきわたるように牌が並べられていることは。
とこよの目が泳ぐ。
文ちゃんの目も同時に泳いでいる。
間違いない。
ふふんっ。




「もうわかってるのよ私には。いいから山を開きなさい」
「え、で、でも開いたらチョンボだし…」
「黙りなさい。開いてイカサマの証拠があったらあなたがチョンボよ、とこよ」




まったくもう。とため息をつきながら、澄姫がとこよが積んだ山牌を開くため手を伸ばす。
そんなに私の脱ぐ姿が見たかったのかしら、とこよは。
それだったら言ってくれれば私はいつでも……じゃなくて。
困った顔と一緒に脱ぐのが見たかったのよね、きっと。そういう子よこの子は。
本当に困った親友を持ったものね。
山を暴いたら、今度はこっちが少しくらい困らせてやるん──
だ───
ら──────?




「………あ、ら…?」


「………澄姫ぃ?どうしたのかなぁ?何もないように見えるんだけどぉ?」




何も、ない。
山に積み込みの様子が一切ない。
まったく規則性のない羅列が目の前、今開いた山に並んでいる。


ぐにゃあ、と視界がゆがんだ。


やられた────────!!!




「あーあ、澄姫チョンボだねぇー。これはチョンボだよー」


「ですねぇー。これは紛れもなくチョンボですよー。あーあー」


「フム…チョンボの場合の罰則はどんなであったかな」




言葉をなくして固まっている私に確信犯のとこよ、文ちゃんが微笑みかけ、完全に蚊帳の外のゼッピン氏が先を促す。
一番ゼッピン氏にイラっと来た。
だがしかし……やられた。
罠だった。
私の性格を読み切ったとこよの罠。
最初の3回で私が積み込みに気づくだろうと読んだとこよ。
そして私の性格上、次の局で必ず山を暴きに来るであろうことを読み切り。
『あえてイカサマをせずに』山を積んだ。
私に暴かせ、チョンボをさせるために。
やられた。
やられた。
やられた──────────!!




「知らないんですかゼッピンさん。逢魔時退魔学園の麻雀ではチョンボは2位の言うことを聞かなきゃいけないんですよ」
「今は私ととこよさんが同着2位なので、二人の命令ですな」
「なんと、そんなルールだったのか…少し悔しいがしょうがないな」




全然しょうがなくないですゼッピン氏…!
止めてください。この二人の凶行を止めてください。
でないと私の貞操が……!!




「じゃ、チョンボした澄姫はとりあえず全裸ね♬」
「私は学園マラソン一周をお願いしますね。体力をつけるのも退魔師には大切なことって、前澄姫さん言ってましたもんね?」




涙目になった私に、満面の笑みの二人が死刑宣告を告げるのであった。