Side Story

Last-modified: 2020-07-18 (土) 22:56:56
 

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Side Story
 
 
 
Side Story

Absolute Reason

 

3-1

解禁条件 楽曲「Antithese」のクリア

日本語

それは夕暮れ、黄昏のころ。野外にて、太陽より琥珀色の夕焼けが絶え間なく降り注いでいる。しかし辺り一帯を埋め尽くす機械類が、その光を受け止めては巻き取っている。そうして日差しはやがて月が投げかけるそれに近しいものになっていく、そんな頃。

そのパーティには独特な風格があった。館は周囲からは隔離されていて、覗く者などはいない。しかし、特権階級の品格を維持するのはそこに立つ者たちの最大の義務である。彼女はその不文律をよく、考えずともいいほどに良く知っていた。今は日差しに囚われ、手の届かぬほど高い屋根と螺旋階段が交わる薄暗い場所に座りながら、彼女は義務にまつわることに思いを巡らせている。

「ラヴィニア」

ワイングラスから視線を上げれば、自身の婚約者が気取らない佇まいで目前にいた。もはや息苦しいほどに着飾りながらも、その様子に不必要に飾るところはない。「それはまさかワインじゃないだろうね」

自身に残された唯一の片目で見つめつつ、「ただのサイダーよ…ドノヴァン」と答えた。

それを受けて「そうか」と笑うと、ふと部屋を見遣る。そんなドノヴァンの様子をなんとなく眺めていると、ニヤリと笑みを浮かべた。「母さんとみんなは少しくらいなら、ワインを嗜んでもいいというけれどね…」こちらをまたちらりと伺って、「それは少々どうかと、僕は思うのさ……君は酔いどれた人をみたことがあるかい?」

たじろぎつつも思考を巡らせて、「ないわ」と答えた。

「ふむ、ならそのままでいておくれ」フフッと笑うと、彼は踵を返した。「僕はモルガンと話しているよ、気が向いたら来るといい」彼女がうなずくのを見ると、ドノヴァンは自身らの幼馴染のいる暖炉近くへと歩いていった。

常に、品格は保たれなくてはならない。

暖炉から数フィート程度の距離に、火が光を放っている。その灯りが途切れる間際で、光は糸に絡め取られるようにランプへと収まっていく。残りの部屋を占めるのは心地よい程度の暗闇で、適度にリラックスできるような塩梅であった。上から吊り下げられたランプらが、読書には十分であろう光で辺りを照らしている。そこにあるのは互いの顔を見れる程度の明るさと、薄切りにされた肉に、彩豊なパン、そして呑み頃であろうボトルとグラスが、輝くように白いテーブルクロスの上に置かれていた。ちょうど部屋を出たところには、中ほどまでが硝子製の壁からほぼ手付かずの野花や岩々、そして小川が鈍く見える様になっている。そっと、サテンのような真夜中の青に包まれているようだ。20人ほどのゲストがパーティには参加していた。部屋の半分を占めるものが大半で、残りは廊下や書斎(おそらくは図書室だろうか)などに散っていた。彼女の知る限りでは、そのようだった。

サイダーを軽く含んで、味をみる。まるで味がわからないようだった。そもそも、サイダーを飲んだこともあまりない。もっと快い味と口触りのものがあるのにと想いを馳せようとするが、すぐに舌上に灼けるような感覚を覚えて現実に引き戻された。

どうやら、これは不快であるらしい。そのように彼女は思った。

小机の上、凝った意匠のドイリーにグラスを物憂げに戻す。やがて座ったまま、周囲に耳を傾けては有象無象を見遣りつつ、自身の他方の眼窩に花開いた花弁を、ぼんやりと指でなぞるのだった。

あるとき、ドノヴァンの言葉を耳にした。「しかしそんなところまで進んでいるのか…初めてあの話を聞いたとき、僕はそんな事できるはずがないだろうって思ったんだけど」「いやあ、チャールズは確信しているようだったよ」と述べたのはモルガン…ではなく、ナターリアだった。

「素晴らしいな」無造作に髪に指を通しながら、ドノヴァンは認めたようだった。「人の手に作られた、まるごとひとつの世界、ね」

「人類も、なかなかやるものじゃないか」

English

It’s early evening. Outside, the twilight amber flowing out from the sun tries to slip by without pause, but the devices within the surrounding meadows catch and spool it, changing it to rays more similar to what might be cast from the moon.

The party has a certain atmosphere. Though there are no eyes without the manor, the fact is that maintaining an image is paramount to those of upper echelons. She knows this, all of this, innately. Sitting in a darker place, with sunlight captured and held at ceilings and staircases presently beyond her reach, she considers the implications of this knowledge in calm and in silence.

“Lavinia.”

She looks up from her wine glass. The fiancé (dressed very well, almost stuffily, but in casual posture) is standing before her.

“There isn’t actually wine in that glass, is there?”

She looks at it through her one proper eye. She answers: “It’s cider... Donovan.”

“Good,” he says with a smile, looking out toward the rest of the room. She looks at his expression blankly. He smirks. ”Mum and the rest say a little wine is good…” he says, glancing at her again. “It’s a load of nonsense, I tell you. Have you ever seen a drunk man?”

She thinks, wincing. “I haven’t.”

“Well then, let it remain that way.” He chuckles, then turns away. “I’ll go speak with Morgan. Join us whenever you like.”

She nods, and Donovan moves to their mutual childhood friend near the fireplace.

As always, images need to be maintained. The fire throws its light only a few feet out from the pit before the threads of it are wound away, stored into lanterns on the floor. The rest of the room is dark, but comforting. It’s a setting to relax within. A few lanterns above give just enough illumination for reading, seeing each other’s faces, and the spread of carefully selected portions of food along with bottles of drink. Just outside the room, through half-glass walls, an almost untame scene of wildflowers, stones, and streams is dimly visible: wrapped in a midnight blue, almost like satin. There are twenty guests at the party, half in this room, the rest in the halls or somewhere in other studies—perhaps the library. This is as much as she knows.

She drinks her cider, tastes it. She notes that it has a taste at all, not having had much experience with cider herself. She recalls something about a better taste and sensation, but in the moment now she is compelled to focus on the burn along her tongue. Overall: quite unpleasant. That is her determination.

She puts the glass down on the fanciful doily of the short table beside her. She sits, listens, and watches, touching the flower petals blooming from her other eye rather absently.

She hears Donovan say, “But to think they’ve done so much already. When I first heard of the idea, I was sure it wasn’t possible.”

“Well, Charles is quite sure it is,” says another of the guests—not Morgan, but Nathalia.

“Astounding,” Donovan grants, running his fingers through the top of his hair.

“A whole entire world, made by human hands,” he says. “Mankind is quite something.”

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3-2

解禁条件 3-1の解禁 & 楽曲「Corruption」をクリア

日本語

ランプの中で揺れる灯りに注がれていた視線は、今は未来の夫を探している。何気なくグラスへと手を伸ばして、一口。自分がグラスを遠ざけていた理由がなんだったか、思い出すにはそれで十分だった。

人工の世界については、単にどうやら気まぐれに出された話題であったらしい。多くを語ることもなく、そもそもよくわかっているわけでもないようだった。彼らの口から熱心に語られた話題は、興味深いものはあったのしても今となっては思い出すことも難しい。歯がゆさを覚えながらも耳を傾けたが、もはや口を開いているものはいないのではと錯覚するくらいの有様だ。

少女は我慢に耐えかねつつあった。おもむろに立ち上がると、座っていた部屋から夜会らしい廊下へ向かい、さらに彼女が馴れ親しんだ――とはいえ、気持ち程度だが――いくつもの部屋を通り過ぎる。そのまま探索を続けると、灯りのない漆黒の道と、見当たる鍵穴もないのに閉め切られたドアさえあった。そこまでの開かれたドアの先では、数人のまばらな男女が聞き取るには難しいものの、談笑に興じていた。が、もし彼らが彼女に気づくことがあったとしても、元の会話に戻る際にわずかに目をやるのみだ。

外へ行きたかったのだ。

その領館の端々には科学的な洗練が見られたが、そのいずれもが古臭い「気品」を体現するようだった。鈍く光る円筒状の機械類は興味深く、また人造の自然風景もまた奇妙な魅力を持っていた。が、彼女をなによりも惹きつけたのは、庭園にあった光子変換装置であった。彼女はその存在は目にしてはいたものの、実際に触れたり直に観察したことはまだないのだ。

端的にいえば、まさしく彼女は好奇心の虜であった。

そも、似たり寄ったりの有象無象が織りなす単調な会合など、長くかまけていたいものではなかった。生き物や未知の人工物のほうが、考えるまでもなく魅力的だった。

けれど……領地前の公道へと通じる扉にと近づき、その指先が周らぬほどに大きい木製の取っ手を掴みかけたとき。

彼女は、考える間もなくよく知っていた。そこを超えても得られるものはなく、またなにも彼女のためにならないと。世界の全てにおいて、他の居場所なんてどこにもないと。また彼女にとっての居場所は草原を撫でるからくりではなく、未来の夫のそばでともにあることだ、と。

「外」というのはただの幻想、実利なき儚い想像だった。

これに感づくことは、好ましいものではなかった。

そうして手は扉から滑り落ちて、振り返りながらも戸の前で佇んだ。世界のどこかの今の風景を、数多の硝子のひとつひとつから見せるシャンデリアの下で。それらは彷徨いながらも、常に行くことのできない場所について語りかけてくる。うつろいながらも、その吊り下げられた調度品のまわりを天体のように回る。もはやその光景は、この場にある造形が現実から遠いものに思えるほど。

その瞳は、唇は、何も捉えず、紡がない。豪邸へと重い足取りで戻りながらも、その内にはかすかな不満の焔が灯りはじめていた。

English

Her eye had wandered to the flickering of a lantern, and now it seeks the expectant husband. She reaches for her glass and takes a sip; it’s enough to make her remember why she had put it down in the first place.

The matter of a created world is only really a fickle fancy of theirs. They do not discuss it much. They do not much understand it. What little they might have to say of true interest, she can’t, in fact, properly remember. Irritating. At times, it even feels to her like they aren’t speaking at all.

The girl grows impatient. She stands and passes out of the sitting room into more lavish, more evening- themed halls, passing rooms with which she’s familiar, but only vaguely. She explores, finding stretches of unlit, pitch-black paths, and doors that seem to be locked though their knobs bear no holes for unlocking. What doors are open show rooms of a few men and women each, chatting too quietly to discern. If they ever notice her presence, they only look her way a moment before returning to conversation or rest.

She wants to go outside.

The manor has some technological sophistication to it, but is married to its ideals of old “class”. Yes, the dimming canisters are curious, and the manufactured wilds are peculiar, but what interests her the most are the light-transforming machines in the gardens. She knows of them, but has yet to see them firsthand.

In a word, she is “curious”.

The humdrum of a social gathering so often repeated that this day feels like a thousand identical others is not something she wishes to dabble in long. Lives and creations are too fascinating to ever take either for granted.

But as she approaches the doors to the front driveway...

As her fingers slip upon the wood of the grand handles before her...

She knows, innately, that there is nothing past there, nothing for her. In the entire world, there is nowhere else she could be. Her place is not in the meadows admiring mechanisms, it is in the sitting room with the husband-to-be.

“Outside” is only an idea. A fruitless, ephemeral concept.

That is not a favorable realization.

Dropping her hand she turns and stands below the chandelier, each of its shards showing an image of somewhere else in the world, at this moment. Shifting, always, and speaking of places she cannot go. Fading, almost celestial illumination hangs around the fixture, giving this place and that object a too-unreal quality. Her eye, her lips, say nothing. She trudges back into the mansion, with a small fire of discontent born within her.

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3-3

解禁条件 3-2の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Black Territory」をクリア

日本語

透ける壁の向こうで、旋風が花びらを巻き上げては散らしている。白とサファイアのきらめきが目に美しく変わりゆく様子が、パーティーの若者にとってはお気に召したらしい。魔法のようだ、すばらしい、などと聞こえてくる。

ラウンジに戻った彼女はその人工の自然による渦を、
豪奢な茶番を見た。

はじめてその花々が舞い散る様子を見たときのことを脳裏に描くと、
思い出すのはもう十分ね、とその思考を切り替える。

それまでの数時間はどこまで行けるかを試していた。

窓は閉め切られている。中庭へのドアには閂が。そしてご丁寧に通気口はネジ止めまでされていた。
彼女の疑問はこうだ。
「(閉鎖されているのはここの人間によるもの?...それとも、私を閉じ込めるため?)」

考えれば考えるほど、若い乙女の心は隠喩と感情に揺れるものらしいということがわかるだけだった。現実というのは、見極めるのが難しい。

のぞいたり、つついたり、ひっくり返したり、うろついたり。それらを飽きるほど行ったあと、彼女は徐々に客として招かれた友人や知り合いと雑談に興じてみることにした。

「今日はいい天気で…」
「王はまだ…」
「あのさ、先週ね…」

冗長で、かつ不満だった。こちらの質問は疑念に躱されるか、無反応をもって迎えられるばかりだった。まるでその質問も、彼女の発言さえもがなかったかのように。

知りたかったのは技術と工学と、その進歩についてだったが、特に引き出せるような情報もその他の客人からはなさそうだった。苛立ちが募るなか、聞き耳を立てることにした彼女は、こんな事も聞いた。

『今は泥の球にすぎないが、そのうちテラフォーミングも始める』と伺いましたよ」と。

それについて話しかけても、特に何につながるわけでもなく。とりあえずそれで良しとすることにして、彼女はまたラウンジの扉を引いた。

今は談話室の中で嵐を見ながら、彼我の様子に想いを馳せていた。

その横を通り過ぎると、婚約者が笑いかけてきた。「――ラヴィニア、戻ったんだね」と。

無難に流しつつも、彼に気づかれないままにその襟元を凝視していた。

演者はいつだってそう繕っているように感じる。目立ったり、異質なものには無頓着なのである。彼女は日に日に大胆に大胆になっていったが、それでもそこの人々の日常には忠実だった。

――品格は保たれなくてはならない、ねえ?とある疑問を真っ向から尋ねると決めた。答えに焦がれてきた、その疑問を。

「人造の世界……それは、硝子製ではないのかしら?」

「…んん、どういう…?そんなことはないさ、ラヴィニア。そんな些末なものじゃない」

思わず目を見開いて、こめかみがヒクついた。

つまりはあろうことか、そういうことだったのだ。

ドノヴァンは彼女の肩越しに透ける壁を見ながら言った。
「―いつみても愛らしい…そうだろう?まるで君のようだよ…」

が、返す言葉はなかった。その言葉に確証を認め、決意を決めた。

まるで花びらの渦が穏やかに宙空に舞うように、彼女は穏やかに軽食類の置かれたテーブルへと歩み寄り、パン類の前で立ち止まった。

ドノヴァンはそのまま喋っている。「彼らが作った世界では、こういう催しがあちこちで行われるらしいのさ、広く終わりない渓谷でね。今は不毛な模型にすぎないってだよ、わかるかな。」

その持ち手の上を手を止めて、彼女は聴く。

「だが、やがて賑わうだろうさ、一目見ようと金を積む者たちでね。そうだ、その未来を考えてご覧よ、ラヴィニア」

息を吐く。実りのない旅路だった、と。滑らかな木の触感が、自らの手に収まった。

すばやく振り返り、将来の夫へと距離を詰めていく。振りかざす腕が狙うのは、彼の首。

そしてブレッドナイフの刃は彼の肌に吸い込まれていく。

感慨も、憎しみの火花さえその瞳に散ることはなく、置く言葉もないままに彼女は彼の喉元を真横に裂く。そして何が出てくるのかと、じっと近くで観察を続けた。

English

A windstorm scatters petals around terrain behind the walls. Glints of white and sapphire catch the eye, and the youths of the party speak of the change favorably. Like magic. Wonderful.

She comes back into the lounge and witnesses the swirl of artificial nature, the splendor of a farce.

She remembers the first time those flowers were scattered and thinks: she's rather had enough of "remembering".

During the past several hours, she's tested the boundaries.

The windows were locked, the patio doors were barred, and the ventilation ducts were bolted.
The question she had to all this was:
"Are these shut because people shut them, or because I'm trapped in here?"

Metaphor and emotion often swayed the hearts of young girls, she found.It was difficult to determine the reality.

When she'd had enough of poking, prodding, turning things over, and wandering, she began to prattle on with other guests she knew to be acquaintances or friends.

"The weather…"
"The King…"
"You know, the week before…"

Tedious, and uninformative too. Certain lines of questions were met with incredulity or with nothing at all, as if the questions hadn't been asked-- as if she hadn't spoken.

What she mainly wanted to know about-- engineering, technology, progress seemed to especially draw out nothing from the other guests. With her frustration growing, she took to listening in instead, and eventually heard:

"It's little more than a globe of dirt now. We'll terraform it soon, I'm told."

And asking about that… led nowhere as well. That was quite enough to know, however, and so she entered the lounge again.

She stands in it now, watching the storm, and relating to it.

The girl steps past the fiance, who smiles at herpresence. He greets her with, "Lavinia, you're back," and she rests her gaze on his lapel. He takes no particular notice of this.

The players always seem to act in such a way. What stands out, what's unusual, is given no mind. Bolder and bolder she's gotten, but they remain always steadfast to their routines.

To maintain the image, correct? She decides to ask, outright, one question she burns to have answered.

"The man-made world… it isn't made of glass?"

"...Hm? What on...? Of course not, Lavinia. It's not a bauble."

Her eye goes wide. Her pupil constricts.

Of all the things, that had been it.

Donovan looks over her shoulder and through the walls, saying,
"At any rate, isn't it lovely? Almost as lovely as you…"

But she doesn't reply. Recognizing his answer as confirmation, she settles on a decision.

As the spiral of flowers beyond flow almost serenely through the air, she moves to the table of food stuffs, and stops before the breads.

Donovan continues. "I'm told the world they've made will have shows like this across sprawling, endless valleys. Right now, it's only barren. A concept, you know ?"

She stops her hand over a handle, listening.

"But it'll surely be a delight in time, for those who can afford a spot on it. And think of the potential, Lavinia."

She exhales. It's been another fruitless trip. Her hand closes on fine, smoothed wood.

She turns swiftly and steps to the awaiting husband, swinging her hand out toward his neck.

The bread knife's teeth stop in his skin.

Without feeling-- without even a spark of animosity-- she wordlessly cuts across the boy's throat, and watches closely to see what comes out.

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3-4

解禁条件 3-3の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Cyaegha」をクリア

日本語

覗いたのは血ではなくーー

ーーそもそも、何かですらなかった。

切られた紳士の喉元は惨憺たるもの…であるはずが、記録には「惨憺」とされるものが欠如していた。そこにあるであろう残忍に引き裂かれたものではなく、あったのは髪のように千切れてしわくちゃになったような彼の喉元だった。その内は影ではなく、虚無。体のなかにあったのは空虚な空間だった。疵の端には弱々しく白い光がゆれていて、彼女が一撃を加えるのに使ったナイフもまた、周囲に小刻みに震える破片をまとわせながら、宙空に浮いていた。

さて、ドノヴァンは理解できていなかった。多くのパトロンたちもまた、同じくに、彼女の凶行に畏れ慄くばかりだ。崩折れた者に倒れた女性、そしてドノヴァンは喉元に手をやった。数人の男は彼女へと組み付き、腕は背にやり、首から押さえにかかった。彼女はといえば、ナイフをしっかりと掴んだままであるものの、狼狽する夫の目を気だるげにじっと見つめるばかり。

自らに組み付く客人たちへと抵抗らしい抵抗もしないまま、ドノヴァンの後方、床の上で深刻な恐慌状態に陥る娘を見た。その声も徐々に歪み、音量が割れたり、揺れたりし始めている。その時すでに、その記憶は壊れていたのだ。

実際はこんな展開を迎えたわけではなかった。今までで一番変化を試みた記憶のなかでさえ、こんな改変を遂げることなどできなかったのだ。 このように平穏な時間に、妻が自発的に自らの夫を襲うなど……

なにかしらの反応を狙った結果、彼女はこのような状況を受けて満足していた。が、ここまでの記憶の改変は初めてだ。居合わせた数名は騒動を受けても平然としていたし、また何人かはそもそも顔自体がなくなっていた。 そういう意味では、少なくとも、これは成功だったのだろう。

世界はひび割れ、亀裂は到るところまで奔っていく。まるで現実が皺のように歪んでいくようだ。

「退屈しのぎに世界をまるごと一つを作る…ね。もっとマシな技術の使い方もあったでしょうに」と、彼女は独りごちた。

手放したブレッドナイフが虚空に貼り付けられたように動かない様子を見ながら、ため息を吐く。

「『記憶』『残響』『追憶』、そして『硝子』のヒントもなし、ね」

部屋は収縮し、

「これも空虚な夢だったわ」

そして星は割断された。

視界が圧潰していくなか、全ては白く輝きながらぼやけ、曖昧になっていく。その記憶の中に込められた思い出せる限りの騒音が押し寄せる。光りと騒音が止むまで、硝子の破片の中、彼女は直立しながらもぎゅっと目を閉じる。そして微かに燦めく無の空間へ向けてその目を開くと、再度光り輝く痛みの波の中で彼女の精神は捻れ、そしてもっとも馴染み深くも惑わされてきた世界を見た。

白と荒廃の世界。それは記憶の形をしたアーケアの領域。

「これには期待してたんだけどな」と、手のひらの上でくるくると回るその破片を見ながら彼女はつぶやいた。「けど、世界創造に直接関わるものではないし、おまけに無意味だなんて。あーあ、見られるなら、せめて除去もさせてほしいなあ」

硝片を手放し、それが見つかった場所、地面の上で細く鋭く光を湛える川へと還っていく様子には目もくれない。手のひらの先を眺めては、サヤという名前の少女はぼんやりと唇に触れながら前へと歩き出した。直近の記録を振り返りつつ、幾千もの他の記録との比較をしながら。

English

It isn’t blood.

It isn’t anything.

The gentleman’s throat is cut in what should be an awful way... but the memory lacks a concept of what “awful” would be. Instead of a shredded, vicious image, his neck now looks akin to torn and crumpled paper. Inside is not “shadow” but “negative space”: a void inside his body. The edges of the wound flicker weakly with some white light, and off the blade of the knife she’d used to strike him, vibrant shards float aloft... simply hanging in the air.

And Donovan can’t comprehend it. Many of the patrons, too, are in awe and horror of her act. People fall, women faint, and Donovan reaches for his neck. Some men leap for her, pull back her forearm and hold her at her neck. She grips the knife tightly, and with a dull expression stares into the husband’s bewildered eyes.

While she hardly struggles with the guests apprehending her, she spots behind Donovan a girl in absolute hysterics on the floor. The sound of her voice becomes increasingly distorted, beginning to crackle and fluctuate in volume. Already, then: the memory has broken.

This wasn’t how it went. Even the most time-changed memories could not be altered so. For a wife to, unprompted, attack her husband this way during a moment of peace...

She’d hoped to provoke a reaction, and is thus satisfied by this result. Although a few of the other people in the room are unfazed by the commotion, and some even seem to have lost their faces entirely, alteration of a memory to this extent is a veritable first. This, at least, has been a success.

The world begins to crack, fractures appearing wherever she can see. Reality afterward looks almost wrinkled from it.

She says to herself, “Making entire worlds for vacation... Surely there would be better uses for that.”

She lets go of the bread knife and sighs, seeing how it can’t move from the space where she’d abandoned it.

“Not a peep about ‘memory’, ‘echoes’, ‘reflections’—importantly, not ‘glass’...”

The room constricts.

“This was another worthless dream.”

The planet divides.

White blears and obscures, briefly flashing everywhere as the image is demolished. In a rush of every remembered sound contained in that recollection, in that slip of glass, she stands with her eye shut until luminescence and noise fade. She opens her eye to faintly glittering empty space, her mind twists, and after another wave of effulgent pain she sees again the world with which she is both most familiar, and most confounded by:

The world of white and ruins. The memory-shaped realm of Arcaea.

“I’d had a good feeling about this one,” she mumbles, watching the rotation of a shard just above her palm. “But it wasn’t responsible for this world’s creation, and it was almost empty to boot. Hmph. If I can watch them, let me remove them too...”

She dismisses the glass, not looking as it returns to the space where she’d found it: a glinting, sharpened river flowing above the ground. The girl named Saya stares off into the plain horizon, stepping forth while touching her lip absently, and reviewing the events of the recent memory, comparing them all to the wealth of a thousand others.

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3-0

解禁条件 3-4の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Antithese」をクリア

日本語

新たな目覚めだ、彼女にとってははじめての目覚め。

この記憶の世界で目覚めるものはそれぞれに、記憶もないままに目覚める。彼女もまた同じだった。

けれど、彼女が捉えた角膜を抜ける光の感覚はおおよそ尋常なものではなかった。心が燃えるようにざわめきつつも、積み上がっていく苛立ちに呻きそうになる。服の胃の辺りをぎゅっと掴みながら、耳がおかしくなってしまったのではないかと思った。知らずに自身の目を凝らすと、ふと自身の目が両方ではなく、片方しか見えていないことに気づいた。思わず顔に手をやって確かめる。

「えっ……?」

咳き込みつつも身を起こす。彼女が手袋越しに感じたのは、右目の辺りにあるなんだか硬質なものと、それを取り囲む柔らかい感触だった。そして自身が手袋をしていることに気づく。体を見渡して、なぜこのような服を着ているのか困惑してから、そして服そのものについて知っている自分にまた困惑した。

周囲を探索してみたところ、四方を壁に囲まれた場所のうち、壁の1つに彼女は寄りかかって寝ていたらしい。そしてその全てが修復不可能なほどに壊れていた。上を見れば屋根はなく、そしてまず屋根があることを期待した自分に困惑した。そうしてなんとか、朧げにどこに自身がいるのか思い出しつつあった。自身が身を預けて眠った壁沿いに、乗り越えられそうな壁までのろのろと歩いた。煉瓦の山を越えるにつれ、壁も含めたものがすべて真っ白であることに気づいた。見上げれば、真っ白なのは壁だけでなく、見渡す限りの世界すべてがそもそも白かったのだ。見渡す限りに続くのは、旧く荒廃した人間社会か、またはいくつかの社会の模造品か…。全ては奇妙だったし、そしてそれを奇妙と思う自分こそ奇妙であった。なぜ?

彼女が燦めくガラス片に足を踏み出す前には、今見てきたものと彼女自身にまつわる数十の仮説が脳裏に浮かんでいた。彼女が独りだとしても、自身がその名前を知らないという時点で、可能性のある真実というのはなんとなく絞れるものだ。

そうして時が経つにつれて、1つの仮説にまつわるいくつもの証拠を見出すようになっていた。

彼女は信念と好奇心と主に生まれたといっていいだろう。白き世界は次々に答えなき問いを投げかけてくる。数日が過ぎ、廃墟群にその答えはなかった。数週間が過ぎ、硝片の中に答えはなかった。そうだ、世界は硝片に満ちていて、常にそれ自身が映す多種多様に鮮やかな風景でこちらを嘲っている。それら硝片はまるで残響だ。実存したものの痕跡であり、世界そのもの、人工物の模倣であろうものに満ち満ちている。2ヶ月ほど経てば、もしかしたらそれ以上にかかるかもしれないが、自信を持って信じるに足るなにかを見てきたと言えるのではないかと、彼女はそう感じている。

この間目覚めたところから遠く離れた、壊れた螺旋階段の上にて、彼女は千々に散りつつも波打つ塊を空に見ていた。幾千ものアーケアの破片によって形作られた、壊れた窓のようにも見えるそれを。このとき、彼女は確信しつつあった。彼女の判断こそが正しいという可能性に賭けられると。

しかしまだだ、まだ決して足りることなどない。推測だけでは、決着がつくものなど何もない。

そうして彼女は誓った。この領域は未知に満ちている。何を語ることもなく、語ったとしても微々たるものだ。だからこそ彼女はこれを解き明かし、真実を突き止める、と。この領域に唯一残るいきものとして、これこそが彼女の最初の義務となるもののようだった。

そうして彼女がアーケアを完全に受け入れるとき――

アーケアもまた、完全に彼女を受け入れるのだ――。

膨大で果てのないような知識庫として。読まれるものとしてのみだけでなく、追体験するためのものとして。

English

Another awakening, and her first.

Each one awakens in the world of memories with nothing in her head. She is no exception.

However, as light filters through her cornea the sensations that grip her are unusual. Her heart stirs first, passionate, and she almost snarls at the building frustration. She grips the clothes over her stomach, and thinks her ears might be deafened. Her eye squints involuntarily, and she realizes with that that she only has a single eye rather than two. She feels around her face.

“Wha...?”

She coughs, and pushes herself up. What she felt through her glove was something almost soft, surrounding something very solid in the place of her right eye. She realizes she’s wearing gloves. Looking over her body, she wonders why she’s wearing these clothes. She wonders next why she knows what clothes are at all.

She had been sleeping against a wall, and upon an inspection of her surroundings sees that there are three others to make a four-cornered place around her, and every one of them is in extreme disrepair. Looking up she sees that there’s no roof, and questions why it is she’d expected to find one in the first place. In fact, she recognizes where she is... vaguely. She trudges along the wall she’d slept against until she finds one she can step over. As she clears the bricks, she notices that they are entirely white. Looking up, she sees that it isn’t only this wall, but the entire world that’s white. It is an infinite landscape of an old, defeated, human society, or rather a pastiche of several societies. It’s bizarre... Moreover: it is bizarre she finds it bizarre. Why?

Before she even stumbles upon any reflective glass, she has already bet on tens of theories behind what she’s seeing, and who she is. Even that she is alone, and that she doesn’t know her name, tells her much about the potential truth.

And, over time, she finds more reason for one theory in particular.

She was born with conviction and curiosity. The world of white presents questions but no answers. Days pass, and there are no answers within the ruins. Weeks pass, and there are no answers within the glass. Indeed, the world is full of glass, taunting always with views of other, more vivid and varied places. Echoes, imprints of something real, exactly the world itself, so full of what must be copies of human invention. After two months, though it could be more, she feels she has seen enough to believe something, and with confidence.

While atop a broken stairway someplace far away now from where she’d awakened some time ago, she gazes at an undulating and segmented portion of the sky: a seemingly broken window to nothing, crafted from over a hundred shards of Arcaea. She becomes sure of herself in this moment. She can bet her judgment is the truth.

But it’s not enough, and never enough. It can’t be settled with speculation.

So she vows: this realm is a mystery, telling nothing and offering little, so she will solve it and find its reason. As the only being of this realm, it seems, this will be her first duty.

And as she fully accepts the Arcaea... So too do the Arcaea fully accept her...

...as a vast and seemingly endless archive, not only to be read, but to be lived through.

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3-5

解禁条件 3-0の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Vicious Heroism」をクリア

日本語

『ーーこれらの他の場所では、人間は神として振る舞える』

彼女はそう学んだ。

右目に花を持つ彼女は、脳裏でその記憶の本を閉じた。過ごした時間は無価値ではなかった、その殆どが無駄だっただけ。

はじめは苛立ちを隠せなかった。というのも、彼女が訪れた世界は即座にくだらないと切り捨てたくなるようなものだったからだ。とはいえ、結局そのくだらなさが彼女にとって、人間の可能性にまつわるとある重要なことを明らかにしたからだ。まだ今のところ、それはさして重要ではないとはいえ。

「どうやって?」にまつわる仮説より、「なぜ?」という仮説のほうが自身を前へと駆り立てた。 答えを求めた無鉄砲か、それともただ答えに指先が掠れればよいとするものか、これは世界の廃墟へと向かう、彼女のもう一つの旅路だ。それが彼女の原動力だったが、200を超える記憶をやり過ごしたのち、彼女にとっての別なるの原動力が現れた。

「アレの復元につながる可能性のあることは特になかったかあ…」と独り嘯きつつ、近くにあった硝片の流れから一つを招き寄せた。「けど、少しは時間を掛けた価値があってよかった、かな」

硝片のそのきらめきが視界を奪うままにして、彼女はその過去の風景を詳しく検分し始めた。ぼんやりと、「もうすぐ家ね…」とつぶやいて。

その欠片を手のひらの上に漂わせながら、今ではもう慣れ親しんだ橋の上を渡っていく。彼女の左には無作為に積み上げられた街だったかもしれない瓦礫の山があり、右には混沌とした硝片と見分けなどつきそうもない岩の群れがそこにあった。自身が「生まれた」場所を目指して、その長い道のりを悠然と歩いていく。どれだけかかるのか気にもとめずに。

どれだけかかろうと、ただ必要なだけ足を伸ばして、彼女は朽ちた4つの壁の前で立ち止まった。その間にはきらめいて光る巨大な水晶球があった。その形を満たすことなく砕けて、割れた甲羅のような、水晶球だったものが。その断面からは笑み、涙、死、そして祝福などがきらめいていた。花に野原、砂漠、大海……動物に人に、技術など。

記憶の破片を継ぎ合わせることで世界の復元ができるかどうか、彼女は知らない。そもそも、このように継ぎ接ぎを繰り返していくことで、本当にそれぞれを繋げられているのかさえよくわかっていないのだ。けれど、試すことだけは出来る。

今まさに持ってきた新しい硝片を少しだけ眺めて、「さあ、次はどんなものをみせてくれるのかしら」と彼女は言った。

そうして燦めく硝片は開き、少女は新しい時間の中へとほどけてゆく。またたく間に、その目にはきらびやかな人工の光が満ちる世界が写り、途切れることのない人混みと夜の闇を越えて天にまで届くほどの無限の塔らが映っていた。風を切りながら唸る暗い色の乗り物が通り過ぎると、彼女の胸には得も知れぬ不快な感覚が漂い、独特の不協和音が耳を支配した。新たなアイデンティティと、新たな過去でその身を包みながら、そして彼女は無感動に観察する。

脳裏に数百もの疑問が浮かぶが、やがてその答えを彼女はすべて見つけるだろう。何を為しても、何を引き換えにしようとも。

English

"In these other places, humans can act as gods."

That is what she learned.

The girl with a flower in her eye closes the book of that memory in her mind. It hadn't been completely worthless, only mostly.

It had frustrated her at first; the world she had visited was one she had quickly deemed frivolous, but the frivolity revealed something important to her about the potential of mankind. Stil… for now… that wasn't very important.

More than theories on "how", theories of "why" compelled her onward. This had been another of her journeys out through the ruins of the world in a scattershot hope of discovering that answer, or to even brush against it tangentially. That was always her focal drive, but a secondary one had been made manifest after she'd witnessed about two hundred of the memories.

"It didn't have anything new for a potential reconstruction," she whispers, beckoning a shard from a nearby, sparse stream of glass, "but I suppose it's good that it had some sort of value."

She lets the gleam of the new piece catch her eye, and she scrutinizes the vision of the past it offers, muttering absently, "Almost home…"

She carries the fragment over her palm, crossing a bridge with which she's become very familiar. On her left is a haphazard pile of what once might have been cities, on her right is a chaotic mass of glass and stone-- recognizable as nothing. She marches the long way back to the place where she was born", uncaring of how many steps it takes.

She takes however long she needs to reach and stop before a place of four fallen walls, between them an immense sphere of shimmering crystal-- an unfinished sphere broken apart, like a cracked shell, Smiles, tears, deaths, and celebrations flicker in and out its facets. Flowers, plains, deserts, oceans… Animals, people, technology…

She doesn't know if she can recreate a world by piecing together memories. She doesn't even know if she can truly "connect" them at all by gathering them together like this… But she can try.

She squints lightly to the gleam of the new piece she's brought. "Let's see how much you can show me," she says aloud.

So it opens, and the girl fades into a new time. In short order, she sees a world brimful with artificial glow, crowded by endless and nigh-infinite towers of man reaching through clouds of an evening sly, and dark vehicles roaring through the air. An unpleasant atmosphere flows into her lungs. Cacophony flls her ears. As she assumes an identity, assumes a new past, she looks on, unmoved. A hundred questions rise in her mind… She will have them answered. No matter what that takes, no matter what needs to be done.

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Crimson Solace

 

4-1

解禁条件 楽曲「Paradise」のクリア

日本語

終わりのない一日というのはきっと、ひどく倦怠感を感じさせることだろう。
ましてや過剰なほどの日照りのもとで過ごし続けるなんて、誰でも月と夜がの恋しくなる。

 

その少女にとっても、そのあたりの感傷は同じであるらしいかった。

 

「夜のこない日が、80日?」
「夜がこないまま、7ヶ月?」
「もう1年……になっちゃうかな……」

 

空の白さが、彼女が家と呼ぶ家屋、その壁のひびからまた手を伸ばしている。
どうやら、なぜだかそれが当たる場所に寝転んでしまっていたようだ。

 

「もー……はやく誰か明かり落としてってば……」
そんな声を絞り出すのだった。

 

それでも、なんとか体を起き上がらせた。ややあって目をこすり、緩慢に腕を持ち上げると、キリリと伸ばす。
ようやく立ち上がって、ドアへと向き直る。
この、境目さえ曖昧なArcaeaの世界にて、また新たな「一日」を始めるため、彼女は息を整える。

 

冒険は常に喜びに満ちているわけではないし、旅行もまた何か発見につながるわけではない。
それでも、自身の白紙のようにまっさらな記憶といっしょに目覚めてから、ずっと変わらないものが2つだけ。

 

それは彼女の心と空だ、限りなく、ずっと輝いている。

 

「よーっし……!」と、密やかにつぶやく。
「まずは、準備運動から!」

 

そうして、彼女は眼前へと手をのばす。すると、近づいてくるのは透明な板。
それは記憶の硝子ではなくーー
Arcaeaでもないーー
どこにでもあるような板でありながら、そのサイズは大きかった。
十分に近くまで引き寄せると、その上に飛び乗ってまた次の板を呼び寄せる。

 

彼女が見つけた拠点は古びた砂浜沿いの家屋で、それは周囲に広がる寄せ集めみたいな街々からは離れた、寂れた小島の上にあるものだった。海なきその岸辺には、波に打ち寄せられた貝殻のように、海岸線に沿って家々がまばらに散在していて、その島の奥地にはどこか奇妙な白い木製の巨大な柱状のものが乱立する平原があった。砂浜のその家は、少女の手が届く限り好き勝手に、内外問わず少しずつアレンジされていた。
そんな家屋の壁と窓をさっと動かすと、間に合わせの階段を作りあげる。レーストラックやトンネルを作るためだ。
機敏にそれを駆け上がって、輝く通り道をその足で感じながら走り抜けていく。

 

必要だったのは受け入れるための、ほんの少しの時間だけ。目覚めてからの数日は、自分の思うままにこのArcaeaの世界を変えるのは、簡単なことだったから。

 

けれど、彼女の足元より遥か下の、水が果てた海底で何かが煌めく。
何かが、水面のあたりに散りばめられている。

 

ちらりと目を配ると鼻を鳴らして、にやりと微かな笑みを浮かべた彼女だった。

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4-2

解禁条件 4-1の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Party Vinyl」をクリア

日本語

少女の足元のガラスは簡単に操れる。だがその奇異な硝片ーーArcaeaは少々、いや、呆れるほどに御しがたいものだった。この記憶の世界ではその硝片がほとんど少女には寄り付かないし、そればかりか、あくまで閲覧したり散策出来る程度しか記憶に干渉出来ないようだった。

 

子供っぽく鼻を鳴らすと、そのガラスのプラットフォームから飛び降りる。
その後ろで、彼女が作らせていた造形物が一部分ごとに崩れ落ちた。
自身のその身を重力が捉える前に右腕を伸ばすと、拠点のベッドにあった毛布を呼び寄せて、心地よさそうにその身に纏わせた。そして次に呼び寄せたのは、柔らかくも重いもの。
数瞬の落下ののち、彼女を受け止めたのは怠惰の玉座、つまりは豪奢だが色味に欠けた意匠の肘掛け椅子だ。
そうして彼女はその身を預ける椅子ごと、拠点の上空に自身を浮かべると、
細目に遠景に見える墓標のようなビル群を眺めた。

 

彼女はまた、満足気に息を吐いた。もう一朝、爽快な早朝に一走りできる、と。
そこで、いまだ遠いものの、思考が面白くない方に気を取られる。それはこの世界の規模だとか、そこにどんな事物があるかとか、そういうものだ。そもそも自身がこれまでに見てきたのは、一体その何割程度なのだろう? 3分の1? または16分の1だろうか? あまりにここは莫大で、そして集められた記憶もまた膨大だ。風のない中空で肘掛け椅子を揺らしながら、落ちる瞼にも構わずに彼女はその事実を考証する。ともかくここは広大で、古きも新しきもごちゃごちゃと混ざりあった場所だということ。
加えて、おそらくこの世界は彼女のためだけに用意された摩訶不思議なもの、というわけでもないらしいと感じていた。

 

目を開いて、燦々と明るい空を視界に飾る。

 

どこかで、もしかしたら世界の反対側にて、星々が空に満ちているのだろう。
その空の下、もしや他の少女たちが空を見上げては、まだ見ぬ陽光へと思いを馳せているのかもしれない。

 

朱の少女は毛布の前の端を掴むと、肩のあたりに巻きつけた。

 

終わり無き一日というのは常に新たな始まりがあるということでもあり、またこの旅路の果てに待つものを誰も知らないということでもある。

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4-3

解禁条件 4-2の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Flashback」をクリア

日本語

「ん、でも……」
空飛ぶ肘掛け椅子により深く身を預けながら、独白する。

 

「この空の上、太陽はある……のかな……?」

 

つぶやきながらも遥か天井に目を凝らし、静かに考えを凝らし始めた。

 

だとしたら、光をここまで均等に散らしているのは一体なんなのだろう?

 

今になるまで、彼女の旅路は常に前向きだった。
ーーならば、上に行ってもいいんじゃないかな?

 

悪戯好きそうな笑顔がその顔に閃く。

 

思うが早いか、椅子の上に立つと毛布を空へと手放した。ひらひらと降下する途中で、木造の柱が宙空に打ち上がる。
椅子から飛び降りて、迫りくる柱から生えた短い鉄棒をしっかりと掴む。柱の側面にも保険程度に足をかけると、さっとそれに目を向けた。それは柱だ、そしてそれが他の世界では動力と情報を運んでいた類のものだということを、彼女は知っている。自身の片足を、ひとつ下に突き出た鉄棒に置き直すことで、片手片足を自由なまま、地面から遥か遠い中空に浮遊している。旧世界の壊れた異物上にて。

 

彼女は再度眼前の地平に広がる、都会とその郊外へと目を凝らすと、やがて視線を上へと持ち上げた。
この飛行をどれくらい続ければ太陽が見えるまでたどり着くのかはわからない。が、一応梯子は必要だろうことは分かっていた。

 

すると眼下の家々が、彼女の拠点を除いて、更に壊れては崩れていく。羽目板、ベッドフレーム、大型の衣装箪笥、そして窓までも上へと上がってくると、彼女が崩した瓦礫群はさらに細かくされていく。全てが堅実かつ強固に、一つの明確な形へと集合していく。しかし少女は建築家ではない。ややあって出来てきた彼女の塔は天へとそびえ立ちつつも、その様相はおんぼろで、奇妙かつ鋭利に、鋭角に伸びつつあった。

 

とはいえ、彼女のいる孤島は資源が豊富なわけではない。使える資材が尽きた後、苦々しい顔で道半ばの自身の造形を眺めた。わずか上空1キロにも届かないその塔に苛立ちのようなものを感じて。

 

不機嫌になりながら、おもむろに地平へと向き直ると、その手のひらをそちらに向ける。
集中して、集中して、引き寄せようとする……が、何も起きることはない。

 

だが、それも当然ではある、そういうものだからだ。
彼女は熟達していて強力な使い手かもしれないが、神ではない。

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4-4

解禁条件 4-3の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Paradise」をクリア

日本語

がっかりしたようにその手を下ろした彼女は、改築に踏み切ることにした。塔の代わりに、螺旋する階段にしようと。
1時間が過ぎ、2時間、3時間と過ぎて、さらにもう2時間が経過したころ、彼女はようやく一仕事を終えた。
自身としても満足ができる出来だった。外観はまだまだあべこべで、やや出鱈目というにも過ぎる出来だったが、この融合じみた作品は少なくとも先程のものよりは、よほど実用的であると彼女は確信していた。
褒められてもいいくらいだ、と。

 

新しい造形が完成したことで、一刻も無駄には出来ないと彼女は上昇を開始した。そばに浮かび、落ちた彼女を受け止めるための肘掛け椅子とともに、螺旋階段を一段一段、一歩一歩登っていく。
少女が道を進むたび、最下層の一段を最上部へと持ってくる。やがて彼女が登っているのは永遠に構築と解体を続ける階段ともいえるものだった。立ち込める霧の層を抜けて、最高高度まで登っていく。

 

その道程はとても長いものとなった。途中に椅子で休んだり、明るい夜を眠り明かすことさえあった。
そうして、概ね4日を過ぎたころだろうか、天国がようやく視界に捉えられるようになった。
ここで彼女が知ったのは、「『天国』とはどうやら、莫大で穿てそうもない分厚い雲の壁のことらしい」ということだった。

 

彼女の進行は最下層の一段が上に置けなくなったところで止まった。ふわりとした空気によって阻まれ、更に上へと行くことができなくなったのだ。その一段を退かせて、自身の側に待機させると、覚悟を決めた目で、残ったひとつづきの階段へとその身を急がせた。

 

最上部にて、間に合せの土台を作るために部品も、ガラスも、柱も下から呼び寄せて、彼女はその上で頭上へ、雲へと手をのばす。白い壁はその接触を拒んだが、それでも押し切ろうとした。つま先立ちになってでも、その先を見ることが出来ないかと。

 

やがて、それは叶わないと知った。|「うそ……?」思わず声に出ていた。

 

しかし落胆したそのとき、視界の端に何かが煌めいた。

 

彼女の右側の際から輝くモノ、というより、輝くモノの群れが、彼女の去った雲から降りてくる。
その様子は不可思議なものだ。

 

よく見れば20個ほどの、もしかしたらそれ以上のArcaeaが、彼女の元へと接近しつつあるのが見える。

 

そして朱の少女は気づく、人造の足場の上に立ちながら。
この空のないArcaeaの群れの中で、慣れ親しんだなにかの気配を感じるような、まるで自身に縁のありそうな記憶の欠片たちを見つけたことに。

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4-5

解禁条件 4-4の解禁 & 楽曲「フライブルクとエンドロウル」のクリア

日本語

周囲一体にはよい香りが漂っている。

 

聞こえてくる、人々や子どもたちの声。

 

雰囲気は、明るく活き活きとしている。

 

誰かが料理をしている、パンを焼いているのだろうか? 家屋の外、街路沿いにまで流れてくる美味しそうなにおいは彼女にも嗅ぎ取ることができた。

 

見上げれば、雲ひとつない空に一つ輝く太陽が登っている。

 

これが新しい記憶の世界、そして彼女はその感覚を全身で浴びながら、その場に立ち止まって全身に受ける感覚を楽しんでいた。

 

これはとある熟練工のお手伝い、お使いの途中の少女の記憶だ。どのような職人のお手伝いであったのだろうか?薔薇色の髪の少女はまだ、その詳細を知らない。だが、さしてそこに関心があるわけでもなかった。

 

この世界はーー

 

「す、ごい……!」

 

ーーなにかの幻想なのだろう。

 

口をぽかんと開けたまま目を輝かせ、彼女は見れる限りのものを全て見ている。頭上には色紙や布が屋根から屋根へと結ばれており、まるでそれはフリルのついた電線を思わせる。けれどその実、電線などではないそれらが与える印象はお祭りのそれだ。舗装された街路に、赤レンガで組まれた家々、そして黒々とした煙を吐き出す煙突たちすべてが、彼女が今立っているのが古き良き町、もしくは街だろうか、だと告げている。

 

他の記憶の書庫で見た、生き物の人形を売る屋台以外には、太陽をモチーフにした円形のネックレスや護符、お守りの指輪などを売る屋台が通りには点在している。派手派手しいというわけではなく、けれどパレードでもするような格好を見て、街の人々が自分と少し似た装いだな、と少女は感じた。見える世界はカラフルで、暖色系の色をよく使いながらも、紺碧の装飾があちらこちらで印象的だ。やがて少女が歩き出すと、大道芸の類も目に入るようになってきた。啓蒙し、警告し、聞くであろう者全てを楽しませる吟遊詩人などもいる。

 

散策しながら、彼女は少しの間、お菓子の類を見ることに時間を費やした。むしろ少しどころか、警戒されない限りずっと見ていただろうか。散策し、見分し、やがて鮮やかな赤いピースが彼女の目を、特にその心を捉えたものが一つ。それは、いちごのタルトと呼ばれるものだった。

 

弟子の手持ちを使って確保した1ピースをその手に乗せ、待ちきれないようにその砂糖のコーティングを歯で破る。すると、一つの輝く真実を確信する。この場所はとても素晴らしい場所だと。信じられないくらい素敵だと!
幻想的な世界に、特筆すべきほどの甘味の喜びがここにはある。そう思った。

 

彼女は、この記憶の世界を特に心地よく、そして幸せに感じた。熱いものを胸に感じながら、その足を進めるペースを早めた。スキップをするように、息を吐きながら、つま先やかかとでクルリと回りながら、すべての曲がり角を曲がっていく。

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4-6

解禁条件 4-5の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Nirv lucE」をクリア

日本語

走らないように気をつけなきゃ。それを強く意識していた。彼女としてはこの街の隅々の些細なことまで注視しなくてはならないと思っていたから。四角い建物の外に貼られた看板を見て、ここが世俗から離れた宗教的な場所だと知る。ここではどうやら妖精や精霊などが信仰されているようだった。神や悪魔、妖怪までも。
眼前でパフォーマンスを続ける演者たちの様子は幻想的で、奇妙で、そして信じられないものだ。
現に全ての演者たちは、自らが行使しているものが魔法だと心から信じている。たとえばその手中で煌めく粉に火を点けて煙を読み、雲を呼びよせることでまじないを観客にかけている。はたまた、水たまりに語りかけ、その波紋から運命を詠んだりして。また、彼らによれば、ひと目では分からない仕組みのようだが、目の前の光を操ることでその他の存在と交信することも出来るらしい。

 

この世界は素晴らしく、また不可思議なものに満ちている。驚きや歓喜、そして全ては見間違いようのない演出だ。

 

古き趣ある大通りを散策していると、この記憶に纏わることがゆっくりと伝わってきた。
どうやらこの場所は演技や見せかけ、偽りに満ちているようだ。事実ではなく、伝統だけが過剰に尊ばれている。

 

だが、彼女が街の外縁部、外との境界に差し掛かり(なお、これはこの記憶の境界でもある。小さなバリアのようなものを越えようとすると、何らかの障害にふれることになるのだ)――行く手を阻む低く簡素な木柵の先にある、新緑に覆われた平野を眺めようとしたときのことだ、遠くには堂々と立つ古きオークの木がまばらにあり、更に離れた湖の煌めきもはっきりと見える――ふと、彼女はおぼろげに理解した、なぜ人が確証のないものでも信じるのかを。自分自身、宙に浮く硝子のある世界から来ているのだ。
いたずら好きの妖精が原住していそうなこの世界の信仰をどうして否定することが出来るだろう?
どうして論理や自然を超えた概念を拒めるというのだろう?
これはとある熟練工の助手の記憶だ、そしてその熟練工とはいわゆる魔術師、空想上の存在とされるものを探求する存在である。彼女が意識を間借りしている少女は長い間、彼の研究がいずれ行き詰まることを知っていた。少女が推察する範囲では、おそらくその研究の目的はそもそも何かを証明することではない。信仰に励み、自身を高めることこそがその目的のようだった。

 

朱の少女は吹き出すように笑い、切なげな笑みを浮かべた。だったらとてもおかしな考えだ。
柱に手を預ける彼女の髪を風が撫でる中、西にある古の森とわかる場所が目に入った。
これは飽くまでも単純なお使いを果たすためだけの記憶だ、あまり遠くへ行けないのはそういうわけだろう。

 

だが彼女はまた、ここに、別の記憶で戻ってくるという確信があった。
この技術と魔法に満ちた土地は、自分にとても合っているようだったし、あのArcaeaの世界の天辺にあった硝片の群々も、他の硝片やここで見た以上の他の側面を含んでいるように思えた。うきうきするような心地で、彼女はドレスの前端をぎゅっと握りしめる。

 

本当に最高の心地だ。現に彼女の表情に浮かぶ笑顔は、口の端からどこか落ち着かないようにひくついている。
こんな高揚感を感じたのは、なんだか今までにないような気がした。

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4-7

解禁条件 4-6の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Diode」をクリア

日本語

もう20回、それともそれ以上?とにかく数えることはもうやめていた。

 

「よーっ…し…」

 

息が切れて掠れた声で、未加工の木で出来た箱の前でかがむと、手のひらをその上辺に滑らせた。
波立つように埃が上がり、そのまま床に落ちる。そうして、彼女は留め金を外し、箱を開く。

 

今の彼女は古文書の保管係で、北にある、かつて洪水で国土を失った古き城を探索している。
ありがたいことに、この箱の中の紙は箱自体の湿気からは一命を取り留めているようだった。
古き蝶番が奏でる軋みを背景に、彼女の相棒が別の部屋から成果物について訪ねてくる。
「4世紀ごろの巻物だよ」と肩越しに声を返してやる。うち一つを手にとって広げれば、人々が意地悪な妖精に対してどのように対処してきたのか、その歴史が詳らかにそこに記されていた。

 

この手の書物は彼女にとって喜ばしいものだった、特に妖精とされてきたものについて、過去の人々がどんな物と混同してきたのか、自身なりに考察していたところだったから。昨日は語り部として、脈々と語り部の先祖から受け継がれてきた冒険譚を楽しげに説くに務めた。中でも、とある先祖はかつて、膨大な数の宝をはるか遠くのどこかの湖畔に集めたらしい。が、湖からの帰路にて風の精シルフに風で船を揺らされて、さらに居合わせた水の精ナイアスに船を転覆させられてしまったのだとか。その後、二柱の精霊は手に入ったその宝を山分けしたとあるが、一連の不始末の言い訳としてはなかなか大掛かりなものだろう。

 

それでもこの話の解釈としては、慈悲深いものも悪意あるものも、どちらもそんな存在が辺りにいるというもので良いような気がしていた。そうして、古文書の保管係としての一日が終わると、休息を取るため、今では一時しのぎの拠点である足場へ、Arcaeaの世界へと帰還した。次に訪れた記憶は学校教師のものだ。
この混沌とした自然と急な危機、そして散漫な人々に満ちたこの世界で、教訓やルールを教えることで子供や大人を危険から遠ざけることがその仕事である。

 

授業は魔法の存在によってとても教え甲斐があり、聞き甲斐もあった。ここはやはり喜びと魅力に満ちていて、記憶を通して訪れずにはいられなかった。Arcaeaの硝片をそれぞれ巡るたび、人々の顔はどんどんと見慣れていくし、訪れる場所も他のもの、匂いや風景、全てを通じて記憶に刻み込まれていくようだ。

 

全てが信じられないくらいに素敵で、懐かしかった。

 

天国と彼女が呼んでいる雲の麓で、見つかる限りの記憶の硝片は全て巡り終え、彼女の知る限りの場所を探索したとき、ようやく喧騒に満ち、手に負えないほどに賑やかなお祭りの日(とは言っても時間帯は夜だが)の記憶に来ることができた。これは収穫と生誕の神に感謝を捧げるものであり、かつ悪しき精魂を遠ざけるためのものでもある。

 

まもなく彼女はランキャスターとハワードという街の民を見つけた。二人は建築を担っている紳士的な人物で、最後に訪れた記憶で会ってからは数年が経過しているようだった。けれど二人は変わらぬ精悍さで挨拶をすると、彼女にりんご飴を寄越した。甘味など渡されては是非もない、何よりも幸せになってしまう彼女であった。ふと彼らが空を指差す、するとそこには幾千もの鮮烈な色々が閃いていた。
それぞれは神へ、命へ、そして生きとし生けるものへと向けたものだ。

 

けれど、こんなに素敵な夜であるというのに、彼女には響かなかった。
もの寂しさや、新しい体験への喜びなどで心が高まるでもない。

 

なぜなら彼女は、これを思い出したから。
この人々がなぜここにいるのか、知っているから。

 

そうして、この慣れ親しんだ最後の夜の記憶にて、彼女は花火が空に満ちるのを見た。
涙を浮かべながら、その心中の痛みを感じながら、自身が満たされるのを感じていた。

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4-8

解禁条件 4-7の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「GLORY:ROAD」をクリア

日本語

その記憶たちは励ましになるようで、心地よかった。数ヶ月をその中で過ごすことさえあった。
その上で彼女は「帰りたくない」と思ってさえいた。ただ、終わりがあるのは分かっていたし、その強い思いを抱えつつも、その終わりを見たくないと感じていた。

 

それでも、未来は記憶の中に見出すことは出来ない。

 

白に満ちた世界に戻ってしまえば、二度とあの記憶の日々に戻れないような気がしていた。
それでも日々はただ過ぎていくし、紡がれた物語は終わり、愛は、人生は終わっていく。

 

悔やんでは、いなかった。地表へとゆっくり降りゆく途中で、自分を呼び寄せたあの雲々を見上げてみる。
あの記憶の中で過ごした一瞬一秒すべてに価値があったと、そう知っている。
まるで問うこともなかった疑問に答えが出たようで、その心は満たされていた。

 

まるで空が周囲に落ちるように、その場しのぎの拠点だったものが速度で自身の周囲に降ってくる。
その中で、彼女の胸中にはうずくように痛む感情があった。

 

そうして、その真の姿を空が現し始める。

 

窓台の上、風が髪でその顔を弄ぶ中で、遠い空に輝く硝片がしっかりと静止しているのを彼女は見た。
その欠片たちの後ろから広がる、新しい夜空が目に入った。かつて見たことのない夜だ。雲々が散ってはこぼれ、ちぎれては消えていくかわりに、その場所を影煌めく虚空が埋めていく。このビロードのような一面が遥か遠くまで、暗く黒く染めていく。その手前ではラベンダー色の波と夕焼けが広がり、波打ってはゆっくりと光を湛えていく。
星々が煌めいて、一日が終わる。

 

その心は痛んでいた。

 

ある名前を彼女はつぶやく、もう一度だけつぶやいて、手の甲でその涙を拭った。

 

硝子が最後の雲の薄い層を散らす。すると複雑かつ灰色の地平が、その姿を遠景に現した。

 

笑みを浮かべて、それを見つめた。

 

そう、笑顔で、だ。

 

これが彼女の新しい人生だ! いつかこの地平のどこかで、伸ばしたこの腕を取る誰かと出逢うだろう。
いつか、この両手ですごいことが出来るはずだ。

 

それまで、彼女は前を向く。

 

このArcaeaの世界で、今を、生きて行く。

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Ambivalent Vision

 

5-1

解禁条件 レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Genesis」をクリア

日本語

その断崖からは、すべてを見下ろせた。

帰するところ、人の営みからついに離れた者たちは、ヤドカリのように自身の魂を脱ぎ捨て、後継、新しい命のため、それを遺す。それらの霊魂が向かうはその地の霊溜まり、頭上にて煌めきながら、微かに光るその場所へと召し上げられる。

その霊魂らは水に似ているようで、ほとんど形と言えるものがない。
総じて雲間を突き抜ける鮮やかさへと、白く流れ往くのみだ。かの灰色の地平こそが彼女の世界。
その光景は――特異にして、壮観なその光景こそは――多くの者に感嘆を抱かせ得るものだろう。

彼女にとっては、それが日常。
それこそが毎日で、そして仕事だった。

「左の方にさ、揺れはない?」
背後から同輩が声を投げかけるので、微かに首を傾けて、地べたに座る同僚に視線を返す。
その彼の膝の上には浅くて黒い、水盤占術に使用される水鉢が大きく口を広げている。
その浮かんだ水紋を見るに、今しがた術を行使したばかりのようだった。

「ない」と答えて、静かに声を投げ返す。「何か気になった?」

「どうやら、そちらで地面がちょっと揺れたらしくて」彼は返す。

「それは……よくないね。様子、見て来る?」

「うーん……これは亀裂が入ってるかな」とつぶやくと、「処理を頼むよ」と同輩が言った。

一言、「ええ」とだけ返すと、そのまま崖から飛び降りた。

落ち往く彼女のスピードは、今昇りゆく霊魂らによって減衰していく。
ブラウスと袖、スカートを繋ぐ、ぴんと張られた一組の紐を彼女は探り当て、それを一気に引く。
すると、ほどけた布地がぶら下がり、やがて布地から微かな光が生じては、彼女の衣服がバタバタと大きな音を立てて波打ち始める。
そうして、死者たちの影響がやがて緩和されていった。

地面にそっと降り立つと、すぐに腰元で折りたたまれた大鎌を取り出した。
フルサイズに展開しながらくるりと回し、足を揃えて柄に腰掛ける。
そうしていまだ遠い目的地へと、彼女は飛翔していった。

亀裂の内に囚われた霊魂を宥めつつ引き出し、その間隙を塞ぐため。

そしてあの崖に戻り、他の異状を監視するため。

これを成す為に彼女はいたし、同じことを果たしてきた。
毎日、毎日。そう、これが彼女の責務だったから。
そうして、いつかあの霊魂たちの中に彼女も加わることだろう。

とはいえそれも、今ではもう過ぎた話。

そう、遠い昔にそれは過ぎたのだ。
今はもう、自身の知る世界と営みなんて、形なき記憶に過ぎないのだから。

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5-2

解禁条件 5-1の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Moonheart」をクリア

日本語

けれど、死の本来のあるべき形はこうではない。

人生の終わりについて、彼女の生前で疑問などなかった。
死者に起きたことなんて些細なことであったし、来世や次の世界なんてものもない。
生まれてきた世界で生きて、そして死んでいくだけ。
天国や地獄、または煉獄とやらは、太古の昔にだけ都合が良かった、モラリストの寓話に過ぎないのだから。

なら、ここは? ある日自分が目覚めたこの、謎に満ちた領域は一体なんだというの?
何だというのだろう?

そもそも、否だ、これがどうしたというのだろう…?

「ん……」

砂漠を目に映しながら、灯台の天辺で膝を抱えている。
ただただ目に入るのは一面の白だ。白に重ねて、ひたすらに白。そしてあとは、Arcaeaという硝片。
顎を掌に預けつつ、左へと伸びる橋へと気だるげな視線を投げかける。
どこに伸びゆくかなんて知るわけもない。

「ふーーっ…」
ため息を絞り出し、ゆるやかに立ち上がると、腰元の大鎌を手に取った。
愛用のそれもこの場所では前と同じように操れるわけではないけれど、旅の供としては十分だ。
ふと何気なく、前髪を分け目に逆らう方へと手櫛で流す。
すると、後ろへなで上げるように、左方一対のツノを指でなぞりあげた。

そもそものところ、そうだ。Arcaeaの中に見出してきた今日までの記憶では、角のある人間なんて、
そのすべてにおいても一人として現れはしなかった。

これらの記憶だけが、この世界の記憶と硝片の中で唯一関心を引くものだったがため、彼女はそれらを鑑賞し、
分類することにその時間の大半を費やしていた。記録のように、手元に残るようにしてきた。
現に事実として、彼女のような有角の種族が一度でもどこかに存在したかどうかの手がかりは、
これらの記録には一縷さえありはしなかった。

彼女の種族……『種族』? それはそもそも『種族』なのか? その仮説はそもそも妥当なのだろうか?
生きて日々を過ごしていた頃、彼女はその『人々』の一人として、霊魂相手の庭仕事に勤しんでいたのだろうか?
今となっては些細だけれど、きっと、もう少しはっきりと思い出せれば取り戻せるような気がするのだ、
以前の彼女……のようなものを、どうにか。

今はこの、彼女が拠点とこのArcaeaの世界で呼ぶ場所にて、どの硝片が去り、または残り、
また新しく現れたのか確かめることに没頭していよう。そうして彼女は灯台から歩き始め、
新しい日常に備えるのだった。

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5-3

解禁条件 5-2の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「vsキミ戦争」をクリア

日本語

未だ、大鎌は宙空を翔ける。

気だるげに箒に跨る魔法使いのように、鎌の鈎柄に腰掛けて飛ぶその少女は、
壊され、荒廃した通りの一つを下って行く。垂直に立つ鎌の刃は彼女の後ろ、
またはすぐ隣と、旋回や曲折の度にその向きを転じている。
風を切るその様子は、手足を動かすかのように滑らかだ。

進むにつれて、浮游する硝片の寄せ集めが目に入るようになってくる。今目にしているものは道の上で、
寄り添う川のように並んでいて、彼女が到着してからというもの、硝片の群れは増えも減りもしていない。
この群れは特に奇妙で、ゆえに日毎、彼女は確認に訪れる。今日に至っても、その内に秘めた記憶の輝きは
以前認めたそれと同じものだった。

連なることなく、繋がることなき数多の記憶たち。それは遊戯の、歌唄の、悲嘆の、
または強大かつ敏捷な機械群、などなど……。むしろあれこれ詰め込まれたオムニバス作品のようなそれは、
印象に焼き付くほどのその非一貫性を高めていて、そこに興味が惹かれる。

その中で、もっとも気に入った記憶を彼女は探す。

硝片の群れで特定の一つの記憶を見つけるなんて行いは当然、まさに干し草の中で縫い針を求めるようなもの。
けれどその硝片は、どうやら彼女のことを同じように気に入っているようなのだ。

鎖のように伸びる群れから外れて、滑るように飛ぶ彼女のもとにその硝片は近づいていく。
かすかに笑みを浮かべると、手のひらに浮かべるよう、大鎌からはずした右手を伸ばす。

その硝片の内にあったのは、小さな手製のフルートを作る工程、その最後の瞬間。
小さなその楽器を形にするには、とてつもなく長い分数、時数、日数、はたまた月数が掛かったことだろう。
だが、それを成したであろう彫刻師は、自分の情緒と感情をすべて、この一瞬に込めることにした。
このためにあれと。

音を吹き込む、するとその音色はすぐにかの者を顰めさせた。ひどいものだった。

けれどそれでも、奏でることはできる。

この記憶は辛苦に満ちた旅路の終章であるがそれと同じくして、より壮大な記憶の始まりでもある。

なんて趣深い立ち位置なんだろう……

真に――群れを同じくするものもまた、同等に特異であるのだろう。

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5-4

解禁条件 5-3の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Blossoms」をクリア

日本語

その記憶は、大切なものだった。

そもそも、もしそこまで『大切』だと言えるなら、いずれにしろ彼女へと至る道を探り当てていただろう。
初めて飼ったペットや、人の生存や犠牲、初めて口にしたことば、感銘を受けた演説、私的に大事な会話…。
それら諸々の特異な記憶が、たびたび彼女が散策していたり、近くを浮游すると、徐々に付いてくるのだ。

彼女は気にも留めていない。特異な記憶らは、風変わりなこの場所に安置されることを好んでいる。
これは良いことだが、もっと良いこともある。

Arcaeaの世界は、どのような内容であっても保守を続ける、記憶の保管庫としての役割を持っている。
ひどく痛んだ歯の記憶、美味しかった食事の記憶、馬に乗ったときの記憶、溢れたミルクの記憶。
それが記憶されたことがあるというのなら、すなわちそれはここにある。

そしてその記憶の一つ一つすべてが、中でも際立って稀有なものも含め、一人の人となりを形作るのだと、
彼女はそう思っている。加えて、その記憶たちこそが、一人の人間が存在したという実体の伴う唯一の証拠
としても、その意義が在る、とも。

記念碑と墓標、それは記憶の名の下に興される。または、その喪失も――。
時としてそれは、死よりも惨く、受け入れがたいということを、彼女はArcaeaの内で見た。

「……」

静かに宙空へ静止すると、嘗ては街の中心であった広場へと降りていく。
ここでは、数え切れないほどの硝片が宙で漂っている。ここはまるで……
そう、順当なことばとしては『庭園』のような、けれどここにある『植物』もどきは、
何一つとして始めから育ったものはなく、すべて齎されたモノだ。

彼女はそれでも、平等に手入れをする。
ここにあるのは全て、彼女が『住み家』とした場所で見つけたArcaeaの硝片。
これらの硝片らは最初からそこに在ったわけではなく、すべて漂流してきたのである。

「……ふう」鼻を鳴らして、ぼんやりと硝片らを吟味していく。
硝片らが離れていくことは普通はないものの、たびたびどこかへふらふらと漂い離れていくことなら...…

そしてそれが、彼女をざわつかせる。

……果たしてArcaeaは、硝子のような脆い形をとる意味はあるのだろうか? と。

……多くを尋ねるべきでないことは、生前、それでも身に染みていたから。

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5-5

解禁条件 5-4の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「corps-sans-organes」をクリア

日本語

「え?」

頭上でゆらめくArcaeaを見つめていた、その視線は突如として乱された。

……あんなもの、いったいどこから?

思考の対岸から突如として、まるで紳士的に、所作の整った見知らぬ人のように出でたそれは、
小ぶりな記憶の体を成した、ささやかな戒めだった。

初めはその有無すらわからなかったが、それでも繰り返し思い返せば、それは確かにそこにあった。

覚えている。これが、実際に起きたことだと。

霊魂の奔流がその勢いを落とし、夜の帳が降りる頃。
古びた二本が形作る木陰に腰を預けながら、自分は同輩に話しかけていた……。

「そのうち、君はある種の矛盾の中に立たされているような気がしてくるだろう」と、彼は言う。
「すべての生命は貴重ではある。けれど同時に、この退屈な仕事の日々だ。
大小の違いはあっても、それらの命がただの統計、数字の一つのように感じてくることもあるだろう。
それでいて、生命自体に頓着しないどころか、むしろ数字にこそ執着するように成りつつある自分が、
まるで冷徹な他人になりつつあるように感じるようになりさえするだろう」

「けれど、それでもいいのさ」と、儚げな笑みを霊魂の奔流に向けながら、少し間を空けて宥めるような一言を
向けた。「そんな思考に呑まれていたら、内から引き裂かれるような心地だろうね。
あの谷に行った時、どんな理由できみはこの道を選ぶと言ったんだい?」

答えを返す、返ってくる。

「ほらね、みんなそう言うんだ」と。
そして、その声がどれだけ温和なものであったか、鼓膜が思い出す。
「それをしっかり覚えておくんだよ。そうしたらきっと、大丈夫だから」

けれど、ここで終わりだ。もうない。視界はもう上方へ、鋭利な宙空へと向いたものへと戻っている。
『しっかり覚えておくんだよ』? 覚えておくって、それは一体、何を……?

「思い……出せない……」と、柔らかく呟いた。けれどその一字一句さえ、喉に絡んで、音にするのも難しい。

同輩の言葉は正しかったのだ、今ならわかる。目元にじくじくと溜まっていく悲しみの実感と、
共に訪れる暖かくも鈍い嘆き、そして新たに姿を現した自分の記憶。けれどその実、ひどく欠落している記憶。
あの問いかけへの回答も見つからないままに、自分の心中へと押しかける自分の記憶に、心は折れた。
あまりにも耐え難い辛苦だった。

この辛苦、自分が致命的に欠落しているという自覚の疼痛を、いかに言葉に表せるだろう?

硝片の雲の下、彼女は目を固く閉じている。項垂れて、鼻先は掌底に、額は折り曲げた指先へと預けていた。
泣きはしない。泣くなんて出来ない。ここで、このつらさの前で泣いてしまったら、
今まで直視を避けてきた現実が、一気に牙を剥くんだろう。地面にしゃがみ込んで、今は唇を噛むばかりだった。

ぜったいに、涙を見せるなんてない。そうでしょう?

自身にしがみついて、褪せた世界で震えながら、孤高の魂の担い手は息を整えようとする。
呑まれたくはないから、呑まれぬように。けれど、落ち着き始めたところで、ある考えが湧き上がる。
もしこれが死であったら、と……。

……忘却のほうが、よっぽどいい。そう思った。

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5-6

解禁条件 5-5の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Lethaeus」をクリア

日本語

心中で起きた決壊、それがもたらしたのは静寂だった。
……いつも以上の静けさ、まるで数日分のそれが一度に過ぎたよう。

あの記憶の根幹を成すもの――つまり、多くを尋ねるべきでないという教訓のことだけど――は、
黙考の中で、自分に関わる全てに彼女が拘ろうとしていたことに気づいたからだ。

とはいえ、その試みは浮足立ったものだった。
旧い記憶とその感覚は、忘れるには余りあるほど、陶酔的なものだったから。確かに、
忘れ行くことを拒みはしたものの、それ以外の多く、あまりにも多くを忘れてしまっている……
自分の人となりが、半分を残して壊れていたことにようやく気づいたのだから。

これ以上は、止そう。

さまよう記憶の硝片を、今日も広場へと導いている。これを反復することで、習慣になり、
いずれ自然になるように。もしかしたら退屈こそが、彼女を救い得るのだろう。
表層近くに潜んで、永久に彼女を呼び続ける、油溜まりのように惨めな感情が溜まった洞穴から。
心に嘆きしかないのなら忘却のほうがいいと思った、そんな感情を味わうよりも。

そしてArcaeaの硝片を導いていると、一つの硝片が陽光を受け、彼女の視線を吸い寄せるように輝いた。
さして考えることもなく、その硝片を近づける。

そこに映るのはとある光景。前かがみに道端に座り込み、自身の手で何かをかばう少女の姿だ。
蟻たちが少女の手の外から、少し距離を空けた地点で萎縮している。
手の内に隠しているものに、はっきりとそれらは関心を寄せてはいたけれど。

守り人はその記憶へとさらに注意を向けて、少女が庇っているものは、傷ついたマメコガネだと探り当てた。
しばしの熟考の末、小さきものをその両手で拾い上げて、立ち上がる。

それだけだった。

若き観察者はしばらく、その動きを忘れる。けれど、やがてにやりと口角を持ち上げた。

なんて、明らかに無駄な記憶だろうか。

マメコガネは、回復したのだろうか。あの少女は何歳まで生きたのだろう?
そしてどれくらいの間、この記憶が少女の内にあったのだろうか?

そう、たかが昆虫一匹に。

少女は笑みを漏らす。

皮肉なものだ。何かを思い出すことが、ここにいた理由さえも忘れさせてしまったのだから。

Arcaeaとは記憶の世界だ。それが死者のみの記憶か、はたまた生者のものなのか。
――分かるはずもない。どちらにしても、誰しも忘れる物語が積み上げられていく。
寿命を終えた精神や体、記念碑、または土地などでさえも。
どのようにしてか、Arcaeaはそれらをすべて、着実に収集していく。

少女は一人だ。同輩ももういない。そして目覚めてからは何かをする理由さえ、与えられてはいない。
けど、だからといって無為に過ごすわけではなかった。

今、彼女はここにいる。前の自分の人生は終わった、それだけだ。

それでも、出来ることはあるんじゃないだろうか? いまだ、彼女は責任を感じている。
あの時答えた、魂の担い手になろうとした理由を思い出せない。
けれど、それがなんであれ、以前の欠けていない自分の掲げた理由を、欠けた自分でも出せるはずだと、
何かが告げているのだ。

有史以来、未来で何が起きるかわかる者など、いた試しがない。

命と記憶は瞬きの間に消え去りうる……けれどここでは、そうじゃない。
自分の記憶は失われてしまったのかもしれない、けどこれらは違う。『魂の担い手』は、『記憶の担い手』へと。
少なくとも、いい言葉の響きだと彼女はそう思った。

そう。ここでなら永劫に覚えていられる。

ここに、わたしがいる限り。

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Scarlet Cage

 

6-1

解禁条件 楽曲「Purgatorium」のクリア

日本語

いつもここにはもっと、人がいる気がしてしまう。

どうしてかは、わからない。辺りにあるのは白い荒野と、曇りのようにそこを埋めるばかりの褪せた廃墟群。
およそ生きたものの足跡など、そこにはない。ーー彼女以外には。

この場所で目覚めてから数日、それより前の記憶が蘇ることもないまま、探れる限りを探りながら、途方も無い距難を歩いた。ぼろぼろになった建築物たちは、それぞれに空虚だった。
内心に浮かんだ謎を晴らすこともなく……そして見覚えのある様式の建築物を見つけても、その名前と形、機能をいつ知ったのかさえ、依然として判然としないままだった。

何度となく、何故ではなく、それが何なのかだけがわかるという事実に、彼女は考え込むようになってしまっていた。もしかしたら、もっと明らかに重大なこの世界のことを(あるいは彼女自身に関することを)考え込んでしまうことからの、一種の逃避だったのかもしれない。

それでも、この場所が変に不気味な場所だと、言わずにはいられなかった。

おもむろにギターの紐を肩にきつく掛けると、疑問がまた湧き出てくる。
一体どこでこれを手に入れて、どうして自分と一緒にこの世界にあったのか?
目覚めたときからあったとはいえ、その謎に答えは見つかりそうになかった。
わかるのは、弦を爪弾き、フレットの押さえ方を変え、様々な音を鳴らすやり方だけ。
タイミングよく鳴らして、リズム、メロディ、コードと、ハーモニーを紡いで行く。
それだけなのに、それだけのはずなのに、手にあれば気が安らぐようだった。

けど、どうして?だめだ、わからない…いったいなんで……?

周囲には砂が、長い長い間、水に冒された砂があった。けれど水はなく液体さえない。
ならばなぜ砂がここに……?ただ、歩く。歩き方はわかる。どうして……?
ーーそこに答えはなかった。答えなんて、何一つ。

大事なことといえば、そもそもこの知識は、「記憶」していたのだろうか?
これを「思い出して」いるのだろうか?その他のことも「忘れて」しまっているのか?
どうやら記憶喪失のようだが、そもそも記憶喪失で失われるのは、こんな風に限られた記憶だけなのか……?

物事のことを知りながら、それを知る理由を知らないという事実が、彼女を深く、奥深くから揺さぶっていた。
まるで自分が正しい人間ではないような、誰かに肌と筋肉と骨とをすべて持ち去られ、偽の器に詰め込まれ、そしてそれ以外の大事な部品が全て失念されてしまったかのような奇妙な虚しさが、彼女を忘れ去らせたままにしていた。

わからないのは、嫌だ。

頭で渦巻く、既に万華鏡のように積み上がった疑間たち。なんとかして、その圧倒的な造形や角度、細部に無理やり自身の関心を集中させようとしてみても、実りはないまま。やはり、何ひとつ答えなどなかった。

裸足の探索の途中にも、わかったことなんて殆どなかった(靴は早々に紐同士を結んで、首元にかけた。ヒールの高い靴なんてものは、この地形では不便すぎたのだ)。
もはや多くを見るほどに、わかるものなどないような気さえしてきた。

……わからないのは、嫌。あたしは周りのものをこんなにも知ってるのに、
自分のことは何ーつわからないように態じてる。
見てきた数多くは、わからない馬鹿げたものだったーーわけもなく漂う硝片でさえそうだ。
他の世界と時間、人々とを見せてくる硝片たち。最も奇妙な形で彼女と共鳴する追憶たち。
それは同時に……あたしにとって疑いようもなく親しみのあるものたち。

それでも、親しみとは感情以外のなにものでもない。硝片は決してその中の追憶を見せてこようとはしない。映っているのは過去に記録された光景じゃなく、記憶でもない。

少なくともこれらのArcaeaは何一つとして、自分のものじゃなかった。

心の深い奥底で、彼女の感情は動いていた。その変化に伴って、混乱と、かすかな孤独と、場違いのような感覚と、そしてなにか大事なものが内側のどこかから欠如しているような座りの悪さのすべてが、懸念として膨らみ始めていた。彼女には、何一つそれが気に入らなかった。

また、歩き始める。これだけはいつも、気を晴らしてくれる。
自分の内側にあるものの代わりに、ただ周囲へと関心を向けさせてくれるから。

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6-2

解禁条件 6-1の解禁 &楽曲「Scarlet Cage」のクリア

日本語

それでも、内側に奔る怖気のような感情を無視しつづけることは出来なかった。

やがて、表面のなめらかな岩片の上に座ると、落ち着かない様子で髪に手櫛を通し始めた。
振り返れば、消えかける砂の上、地平線の先まで伸びる長い長い足跡の線が見える。
一体どうやったらこんなに多くの砂ができるの?もはや、気色悪く感じてくる。

一瞬考えたあと、彼女はギターを前に回して、再び手に構えた。そしてすぐに、安らいでいる自分がいた。
まるで支えになる親や、友達を前にしたような心地がそこにあった。
ため息を、手放す。本当は、前に進む彼女に必要だったものは、これだけだったのかもしれない。

考える前に、メロディを口ずさみ始めた。弦を弾く指が、静かながらも安っぽいコードを紡ぎ出し、凝ったハーモニーがさきほどのメロディにと加わっていく。歩き方を思い出せたように、同じく思い出せた演奏の仕方。その2つを呼吸するように自然にできたという事実が、この口端に、つかの間の笑顔を咲かせた。

その唇もしかし、余裕を失うと、一瞬の後に落ち込むこととなった。この曲を彩りたかった言の葉が、舌を、歯を、唇を越えて。はじめは散り散りになって、うずまきながらも、一つの像を結ぼうとしている。

そうして、黒と紅の衣装に身を包み、彼女は歌う。
ーーこの白い世界へ。色のない、無限に続く鳥かごに向けて。徐々に大きくなっていく、言葉。

荒々しく、勢いを強めながら、感情が内側で荒れ狂っていく。
この衝動的な言葉たちは、新しく未知のものでもなく、古く忘れられていたわけでもない。
ずっと、この身の内にあったのだ。そして今、それは彼女の胸から這い出て、叫びだそうとしている。
ただ声に出すだけでは足りはしない。叫ばなければ、吠えられなければならない。
この言葉が、この死んだ世界の一番遠い場所の隅々まで響いて届くように。
吠えられる限りの大声で、彼女は叫び続けた。

それがこの場所、この瞬間は、正しいことのように思えたから。

困惑を叫び、未知を叫ぶ。荒涼な地平を叫び、また消える前に過去を一瞬だけその身に閃かせる、膨大な数のちいさな硝片について叫んだ。

そうして、叫ぶーー

ーーその恐怖を。

演奏した瞬間、彼女は気づく。その胸の奥深く感じていたものに。
この世界が、この体の空っぽな記憶が……

恐怖させていたのだ、彼女を。

ーーあたしって、誰?この殺風景なところはなに?これから何がおきるっていうの?
そして、アタシの身に一体なにが起きたっていうの?

けれど、その答えを知ることはないであろうことはもうわかっていた。ここでは無理だ。

歌うがゆえに、声が割れてきた。それでも、自ら肺の限界を超えて歌い続ける。自分の存在のすべてを絞り出すように。狂気的なほどに、6つの弦の上を指が飛び交う。力強さと、轟くようなギターのざわめき、叫ぶような音、そして振動、そのすべてがはっきりと頭の中に聞こえていた。

魂と音楽の嵐ーそれは煮えたぎるような恐怖と詩の底にある、止めどなく流れる激動の暗流が、力強い熱気となって、その瞳を煌めかせた。

ただ、はっきりとはわからないものの、何かが彼女の気分を晴らしていた。混乱も恐怖も、少しだけ収まっていたのだ。

しばらくして、彼女の絶叫と、その残響は引いた。
右手によってかき鳴らされた数音のあと、右手は弦から落ちた。
終わったのだ、演奏は。
その曲は、明る過ぎる空に消えた。
一連の出来事の唯一の証拠は、今はその、空っぽに等しい彼女の記憶の中にだけあった。

もう片方の手で目を拭う。
震えながらも、あたしの歌を奪ったあの空が見えないように。

だがそこで、彼女は笑った。驚いたのだ。
心からの笑いだったーーそしてやりきった達成感からの笑いでもある。
服でその手を拭って、ようやくため息を吐いた。

もうほんと、こんな場所キライ。

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6-3

解禁条件 6-2の解禁 &楽曲「VECTOЯ」のクリア

日本語

世界は依然、今もよくわからないまま
ーー居たたまれないままだし、空虚なまま、慈悲もない。

けれどそれでも、なんとかやっていけそうな気がしてきていた。

確信は持てない。けれどその恐怖はどこかで、知っているような気がしてならなかった。
何か、知っているような気がするのだーーどのように立つ力を奪い、どのように逃避させ、どのように決意を阻み、そして支配するものなのかを。未知への、失敗への恐怖だったりするそれを。

そして、推測するしかできないけれど、おそらくは自分を駆り立てる衝動のような何かが、あの曲を演奏させたのだろうと思う。おそらく、前にもやったことがあるんだろう。
そして今と同じように、あの恐怖を叫んだこともあるのかもしれない。

もしかしたら、あったのかもしれない。少なくとも今は恐怖と付き合っていけそうな気がしていた。
このいびつな感情の正体を、彼女は前よりもしっかりつかみかけている。
恐怖から目をそらしてはいけない、操られることを引かなければならない、この理解できない世界で正気でいたいのなら。けれど、それでもそこに恐怖は常にあるんだろう。

息を吐いて、座る向きを変える。そうして自分のギターをゆっくり、岩の上、そっと自分の横に置く。
するとその時、なにかが落ちる音がした。鈍く軽い、何かが。

ちいさな布の袋が内ポケットから、砂の上に突き出た石の上に落ちた。その中には針が数本と、小さなハサミがひとつ。それから指ぬきに、いくつかの糸巻きと、巻き尺が入っていた。裁縫キットだった。
目覚めてからずっと彼女と共にありつつも、あくまでそれが自分のものだと推測することしか出来なかった、物。

ポーチを見つけた時、思わず戸惑った。なんのために使うのかは、知ってる。
でも、それを持っている理由がわからない。中に備わった道具をもちろん、「知って」はいる。
けど、それをどこで手に入れて、どうして持ってるのか、手がかりになりそうな情報さえも全くない。
……そう、あのギターと同じように。

しかしそのポーチを拾おうと屈んで、自らの服の袖が目に入ったとき、彼女は思わず硬直した。

あたしはこれを、知ってる。そうでしょ?この袖がどうやって作られたのか、縫い方だって、ひだの作り方も全部。色も、すべてこの裁縫キットの中にある糸の色と同じ……。

けれど、それ以上は届かなかった。論理で安易な結論を描くことは出来ても、自身の精神だけが追いつかない。
知識と経験、その残酷なまでの乖離は……あまりに苦痛だった。

だが、今となっては、その乖離による恐怖に呑まれるわけにはいかない。
それはそうと知った上で、うまく使うものだ。でも、何も覚えていないから、何だっていうのだろう?
結局、大事なのは知っているという事実だけなのでは?

明確で堅実な目標は確かに助けとなるだろう、だが、そのようなものは彼女にはない。
けれどもしかしたら、いずれは見つかることもあるかもしれない。

仕切り直しの一歩を踏み出したその顔に広がる、挑発的な笑み。もちろん、いまだに動揺させられた裁縫キットのことを考えてはいる。ーーけど、便利じゃない?少なくとも、このイカれた旅路の途中でも、アタシの服を整えて置くことはできるし、と。服といえば、そもそも実用的でさえないこんな服でも、それでも自分のものであるこの服を、この世界で何があっても手放すつもりなどなかった。

そう、これは……あたしのもの。

ギターも、裁縫キットもーーこの退廃した世界のなかで、そのすべてがアタシのものなんだ。
その事実を実感すると、気が楽になる。長い道のりの中を、もう少し進めそうな気がしてくる。

数歩ののち、足元のなにかがその目に留まる。

それは砂上の足跡。

けれど、自分のものではない。

今の進行方向と交わる形で、左の方へ続くそれは、彼女のサイズとは少々違うものだ。
その持ち主が向かったであろう方向に目を凝らす。するといくつかのなだらかな丘、その先に続く足跡が見えた。

また、新たに笑みが花開く。彼女らしい、挑発的な笑みが。

「……ヘえ」

案外、あたしの歌には、観客がいたのかもしれなかった。

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