これだけ! 小説版

Last-modified: 2023-07-02 (日) 12:38:32

漫画版のエンディングを保管するor破壊する、小説版の記述です
これだけは! という二つ

幻想郷の住民税

「……では、明日は何をしに行くのでしょう?」
「月の都から新しい幻想郷の住民が現れたのよ? それなりのお返しを頂かないと。
 そう、住民税みたいなもんね
「はい? なんですかそれは?」
皆、好き勝手に暮らし自由を謳歌しているように見える幻想郷だが、
実際住んでいる者は決して自由を約束されている訳ではない。
皆の最低限の自由を確保するためには、ある程度の決まりのようなものが必要となる。
それが少なからず不自由を生む。しかしその不自由は、皆の自由のためには必要な事である。例えば、
幻想郷の人間は常に妖怪に襲われる危険があるが、その恐怖を甘んじて受け入れなければならない。
人を襲うことを忘れてしまうと自らの存在は危うくなってしまうから、妖怪は人を襲う。
しかし幻想郷に住む者の生活は妖怪の手によって支えられているのである。妖怪がいなければ幻想郷は
崩壊してしまうのだから、人間は妖怪に対する恐怖を完全に拭おうとはしない。
人間が自分を襲う妖怪をすべて退治してしまったら、その時は幻想郷は崩壊してしまうだろう。
逆のことも言える。妖怪が襲う人間がいなくなってしまったら、妖怪も自らの存在意義を失ってしまう。
だから、妖怪は人間を襲うが無闇に食べたりはしない。里の人間は基本的に食べてはいけない約束なのだ。
新しく住人となった月の民は、妖怪ではなく人間であることを選んだの。つまり、
 永遠亭のあの者達は人間を選んだのよ」
私は、兎を除いてね、と付け加えた。あれは人間になりすますには無理がある。
「人間…ですか? あの宇宙人一家が? うーん、私にはどう見ても人間には見えないのですが…」
「あら見た目の問題ではないわ? 
 あの者達は妖怪のルール下には入らず、人間の社会に入ろうとしているじゃない」
 薬を売って歩き病人が居れば診察する。それは人間の世界での営為であり、妖怪の社会のそれとは異なる。
「確かに、我々妖怪とはちょっと馴染めてないですね。里の人間にとっては変わった妖怪だと
 捉えられている様ですが…」
「しかし、幻想郷の人間の義務を果たしていない」
外の世界の人間にもいくつか義務がある。学ぶ事、働く事、そして社会に参加する事、つまり納税だ。
幻想郷ではそれに妖怪との付き合い方も義務である。
「人間の義務…ですか。そう言われてみればそんな気もしますね。あの者達は妖怪を恐れないし、
それどころか人間の力を強めパワーバランスを崩しかねない。ですがそれと月侵略計画と何の繋がりが…」
「さっき言ったでしょう? 私は住民税が欲しいと。人間の力を強めると言っても、怪我や病気を治したり、人間の護衛につく程度なら何て事もない。それよりは、納税の義務を果たして貰わないと、社会には参加できていない」
「…もしかして、月の都に潜入して住民税代わりに何か奪ってくるのですか? 彼の者が月の民だから」
藍は疑問の晴れた様子で私に問うた。私は珍しく自分が言ったことが理解して貰えたようで満足した。
「ええ、そういう事ですわ。月の都なんて侵略できる筈もありません。ですが、忍び込む事ぐらいは容易でしょう? 貴方にはその役目を負って貰います」(小説第五話)

ED:輝夜の驚愕

隣では酔っ払った霊夢と輝夜が何やら話をしている。
月の都って、思ったより原始的ね。建物の構造とか着ている物とかさぁ
輝夜は笑った。
「そう思うでしょう? だから地上の民はいつまでも下賤なのよ
「どういうこと?」
「気温は一定で腐ることのない木に住み、自然に恵まれ、一定の仕事をして静かに将棋を指す……、
遠い未来、もし人間の技術が進歩したらそういう生活を望むんじゃなくて?」
霊夢はお酒を呑む。
「もっと豪華で派手な暮らしを望むと思う」
「その考えは人間が死ぬうちだけね。これから寿命は確実に延びるわ。その時はどう考えるのでしょう?」
「寿命を減らす技術が発達するんじゃない? 心が腐っても生き続けることの無いように」
その答えに輝夜は驚き、生死が日常の幻想郷は、穢れ無き月の都とは違うことを実感した。

第二話と言ってることが違う…

【輝夜】

昔は兎に限らず、永琳にとって地上の生き物は自分の手足でしかなかった。
月の都でも月の民にとっては、兎達はただの道具でしかないのだから当然と言えば当然である。
月の民は他の生き物とは別次元と言っても過言ではない程の、高貴な存在なのだ。
それがいつ頃からか永琳は、私達月の民も地上の兎達も対等の存在として扱い始めているように思える。
妖怪と人間が対等に暮らす幻想郷の影響だろうか。でもそれが嫌というわけではない。
むしろ私にとっては特別視されるよりは居心地がよかった。
何せ幻想郷には月の民は私と永琳の二人しかいないのだから、
地上の民より優れていると思っても孤立するだけだし、
地上の民がみんな道具であるのならば道具が多すぎるからだ。(小説二話)

そんな日々を経て、いつしか地上を月の都よりも魅力的な場所だと思うようになっていた。
その時は永遠の魔法をかけることはなく、僅かだが地上の穢れに浸食されていた影響だと思う。
ただ、その時はまだ私も自分が地上の民とは違う高貴な者だと認識していたし、
地上の民は道具としか思っていなかったのだが……ここ幻想郷はとても不思議な土地であった。
妖怪と人間が対等に暮らし、古い物も新しい物も入り混じった世界。
そこに月の民と月の都の最新技術が混じったところで、誰も驚かないのだろう。
自らを高貴な者だと言っても笑われるだけである。(小説二話)

ED:永琳の恐怖

※漫画版最終話の後、永琳を宴会に誘っている設定。

「普段の労を労うお酒でも、と思いまして」
永琳の頭の回転は速い。だが回転の速さは時として弱点にもなる。永琳は理解できない物に対しては、
わざとらしい余裕を見せてしまう。動揺を見せたくないのだ。
しかし賢い者が考えのない余裕を見せたとき、その時が一番の弱点である。
それは賢い者ならみんな知っていることだ。
「あら、有り難う」と言ってお酒を受け取った。
「失礼ね。毒なんて入ってないわ」これはどうやら紫のギャグらしい。
「? 多少の毒は薬ですわ」
そういって、永琳はお酒を呑んだ。
そして彼女は固まった。

──永琳は再びお酒を呑んだ。間違いない。このお酒はただの労を労う為に用意されたお酒ではない。
くだを巻いたサラリーマンが、誰も理解できない言葉を吐きながらの安い焼酎なんかではない。
月の都で千年以上もかけて熟成した超超古酒である。
そう、永琳が月の都に居た頃から寝かせていたお酒なのだ。
「こ、このお酒は……?」
永琳は明らかに動揺した。考えのない余裕を見せた瞬間、つまり弱点を狙われてしまったからだ。
永琳がこのお酒を忘れることはない。穢れの多い地上では味が変わってしまい作り出せない純粋さ、そして何年も寝かせたであろう奥深さ。
「貴方も故郷を離れて千何百年か。そろそろ望郷の念に駆られる頃だろうと思いまして、
 月の都をイメージしたお酒の席を用意致しました」
紫はにやりと笑った。その笑顔は永琳の心の奥深くに刻まれ、忘れることの出来ない不気味さをもたらした。死ぬことのない者へ与える、生きることを意味する悩み。正体の分からないものへの恐怖。
それが八雲紫の考えた第二次月面戦争の正体だった。(小説最終話 神主視点)