豊姫の価値観について

Last-modified: 2023-07-20 (木) 12:36:21

小説三話、水江浦島子のエピソードを中心にして、「地上人についてどう思っているか」をまとめます

依姫と比べて

依「昔って……。もしかして八意様が裏切って地上にお隠れになられた時の話ですか?」
豊「ううんもっと前。依姫は覚えていないかな?」
依「もっと昔って、千年以上前の話? さすがに簡単には思い出せないですが…
豊「私は千五百年以上前の話でも思い出せますよ。ほら、地上の人間が静の海から亀に乗って現れたのを」
(中略)
依「千五百年以上前? 地上の人間が現れた事? 亀に乗ってって、えーと…」
豊「だいぶ前の話だからね。水江浦島子がうちに来たのも、お師匠様が地上に降りるよりずっと前…」
(小説三話)

依「水江浦島子? ああ、確かにそんな人間もいたわね。確か、釣り好きな彼もめでたく
  神になったんでしたっけ?」
豊「そうよ、その人間よ。今では彼は筒川大明神だわ。一回の平凡な漁師が出世したものね」
(小説三話)

依「そうそう、筒川大明神ね。あんな罪深き凡庸な人間を神として祀っているなんて、
   私達から観たら滑稽ですけどね
豊「八意様は即断で殺せって仰ってたけど、流石にそれは可哀想だしねぇ」
私は流石に自分が匿った所為という事もあり、とても殺す気にはなれなかった。
妹も同様であり、やはり殺す気にはなれなかった。(小説三話)

依姫は浦島のことをほぼ完璧に忘れていたが、豊姫はよく覚えていた。
少なくとも依姫よりは地上人について好意的であることが分かる。

なぜ、浦島を匿ったか

それはもう千五百年以上昔の話であるが、水江浦島子と名乗る人物が水に映った青い星から
出てきたことがあった。神隠しにあった大抵の人間はすぐにパニック状態になり、
自分の理解できる世界に帰りたがるものである。
だから見つけ次第私の力ですぐに帰してやることにしていた。
だが、彼は違った。栄華を極めた月の都を観るなり地上に帰ることも忘れ、
もう少しここにいたいと言い始めた。彼はもしかしたらアタマが少し弱かったのかも知れない。
ただ私も地上の人間に興味があったので、八意様には内緒でうちの屋敷で匿うことにした。
(小説三話)

まず豊姫は、紛れ込んだ地上人は基本的にすぐ帰してやっていたことが分かる。
そして、永琳に黙って浦島を匿うほど、地上人に興味があった。
これらは、穢れを嫌っている月人の中ではかなり珍しい方だろう。

豊姫から見た、地上人の「不幸」

私は八意に全てを打ち明け、そしてどうすればいいかを相談した。
意外にも八意様は人間を匿っていた事に関しては何も怒りはしなかった。
八意様は即断で``そのような人間は亡き者にするのが一番です。海に出てから三年も姿が見えなければ、
地上では死んだ人間として扱われているでしょう。大体、地上から来た生き物を興味半分で匿うから
そのような事態に陥ってしまうのですが…``と言った。
依「そうそう、筒川大明神ね。あんな罪深き凡庸な人間を神として祀っているなんて、
  私達から観たら滑稽ですけどね」
豊「八意様は即断で殺せって仰ってたけど、流石にそれは可哀想だしねぇ」
私は流石に自分が匿った所為という事もあり、とても殺す気にはなれなかった。
妹も同様であり、やはり殺す気にはなれなかった。(小説三話)

別の案とは、『水江浦島子を覚えている人間が存在しない時代に送り返す』という物である。
つまり、竜宮城と地上では時間の流れが百倍近く違うと言うことにし、
三百年後の地上へ送り返すという物だった。
当時の私達は何故その案が最善なのかはよく判っていなかった。
自分の事を知っている人間が誰もいない世界に送り返されたら、人間は途方に暮れるだろうし、
竜宮城のことを皆に言いふらすことには変わりないのではないか。
だが、八意様は間違ったことを言わないのである。私達は絶対の信頼を置いていた。
だからその案を採用することにした。(小説三話)

彼は砂浜に着いたときから何か違和感を感じていた。
白い砂、松の木、青い空、漁をしていた頃と何一つ変わらぬはずなのに、海風に違和感を覚えた。
不安になった浦島子は自分の家に戻ったが、家があるはずの場所には何もなく草が生えていた。
さらに知人の家を訪ねても、そこに住んでいる者には見覚えはなく、それどころか村の誰一人、
浦島子の事を知っている人はいなかった。彼はあまりの絶望に悲嘆した。
(中略)
物語はそこで終わらない。八意様は地上にお隠れになる前に、
浦島子に手土産として「玉くしげ」を渡せと言っていたのだ。さらに彼には``この玉くしげは
地上での生活に困ったら開けなさい、しかし再び竜宮城に来たいのであれば決して開けてはいけません``
と伝えろと言われていた。あの玉くしげに何が入っていたのだろうか。
八意様の居ない今となっては、確かめる手段も中身を再現することも出来ない。
どうやら浦島子は地上に降りてからすぐに玉くしげを開けてしまったようだ。
自分を覚えている人が誰もいない世界に余程絶望したのだろう。泣き叫びながら玉くしげを開けた。
しかし不幸はまだ終わらなかった。
玉くしげを開けた彼の肉体はみるみる間に若狭を失い、
そこに歩くこともままならない老体が残された。その玉くしげは肉体を老いさせる何かがつまっていたのだ。
(小説3話)

まず、殺すことは可哀想だという感覚があり、
浦島を「自分の事を誰も覚えていない世界に送り飛ばし、一歩も動けない状態になるまで老衰させる」
というヤゴコロ式優しさを『不幸』と判断する常識があるのが分かる。

豊姫から見た、地上人の「幸福」

豊「そうよ、その人間よ。今では彼は筒川大明神だわ。一回の平凡な漁師が出世したものね」
(小説三話)

依「今では、何百年も時を越えて未来の世界へ行くことを『ウラシマ効果』と呼ぶらしいですわ」
豊「神様となり、その上に未だに名前が残っているのであれば彼も幸せでしょう。ねぇ依姫…(以下略)」
(小説三話)

「神になること=幸せ」という考えがあり、浦島については「最終的に神になれたのだから、幸せ」
と判断している模様。

土下座シーンでの発言について

「ここに住む生き物に罪がないはずがありません 
 地上に住む 生きる 死ぬ それだけで罪なのです
 お前への罰は月に持ち帰って考えるとして… 地上の生き物への罰は――……
 一生地上に這い蹲って生き 死ぬこと」(漫画18話)

というセリフのため、豊姫はヒドイ差別主義だとされがちだが、
上記で説明したように豊姫は地上人について理解がある方である上、小説三話に

依姫「学んだ事は、私達にはそこまで深い考えを持つ事は出来ない。
   思慮の浅い優しさは人間も月の民も不幸にすると」
私は少々強張った依姫の肩に手を掛けた。
豊姫「ならば、もうすぐ来るであろう人間が攻めてきた時、私達は追い返す事に専念すれば良いのです。」
(小説3話)

とあるため、18話のあの台詞は月の使者として
侵入者(紫)を追い返す事に専念する為に発言した物であると考えられる。詳しくは綿月豊姫

まとめ

地上人に興味がある、穢れのある人間を永琳に内緒にしてまで匿う、殺すのを「可哀想」とする、
浦島の「死まで」を不幸とするなど、
「依姫ほか月人と比べれば、かなり地上人に対して好意的であり、価値観も逸脱していない」と言える。

 

一方で「神になれたから浦島は幸せ」と判断もしている辺りは、地上人と異なる価値観と言えるかもしれない。
あくまで月人として友好的なスタンス、というのが妥当だとも考えられる。
(死後の地上人から見て、神様になる事が他の死後の境遇に比べて良いのか判断材料がなく、
 また一般的な地上人の死後の境遇にしても、比較対象が天界・転生・地獄と違いがあるため、
 地上人の最終的な価値判断がどうなるかは一概には分からないが・・・)

 

このあたりの感想は読み手によって異なるだろう。