カイナン・メルヴィアス

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:35:14

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。


通常アヒトフェルの盾
28b548177b1f9e24.pngカイナン・メルヴィアス/アヒトフェルの盾.png

Illustrator:荒野


名前カイナン・メルヴィアス
年齢容姿年齢28歳(製造後10年)
職業地上奪取派(イノベイター)の指導者
  • 2022年8月4日追加?
  • NEW ep.VIマップ4(進行度1/NEW+時点で455マス/累計1240マス)課題曲「Λzure Vixen」クリアで入手。<終了済>
  • 入手方法:2023/12/14~アイテム交換所で入手(100P)。
  • トランスフォーム*1することにより「カイナン・メルヴィアス/アヒトフェルの盾」へと名前とグラフィックが変化する。

真人・強硬派の武官。
世界を憎む聖女の願いがため、謀略を巡らす。その想いは如何に。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1道化師の狂気【NEW】×5
5×1
10×5
15×1

道化師の狂気【NEW】 [ABSOLUTE+]

  • 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】と比べて、コンボノルマが2/3倍になる代わりにJUSTICE以下許容量が-100回となっている。
  • NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
    • なお、NEW初回プレイ時の引継ぎによるGRADEが最大(50スタート)かつNEWおよびNEW PLUSで実装された全キャラをRank 15まで上げても50+12×26=362までしか上がらず、この時点でもボーナスは増え続けていた。
      道化師の狂気【SUN】がGRADE 400オーバーでのボーナス増加打ち止めが確認されたことから、こちらも400で打ち止めになる形だった(がキャラ数不足で到達することがなかった)可能性がある。
  • GRADE100を超えるとボーナス増加量が鈍化(+10→+5)する。
  • CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「道化師の狂気」から変更された。
    効果
    100コンボごとにボーナス (???.??%)
    JUSTICE以下50回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+6000
    2+6010
    11+6100
    21+6200
    31+6300
    41+6400
    50+6490
    ▲PARADISE LOST引継ぎ上限
    61+6600
    81+6800
    102+7000
    142+7200
    182+7400
    222+7600
    262+7800
    302+8000
    342+8200
    362+8300
    推定データ
    n
    (1~100)
    +5990
    +(n x 10)
    シード+1+10
    シード+5+50
    n
    (101~)
    +6490
    +(n x 5)
    シード+1+5
    シード+5+25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADEボーナス
2022/8/18時点
NEW+269+7835
NEW313+8055
~PARADISE×362+8300


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
※NEW稼働時点でゲージ5本以降の到達に必要な総ゲージ量が変更。必要なゲージ量を検証する必要があります。
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
136912162025
4136912151924
5636911151923
7636811151823
8736811141822
11436811141722
13136811141721
14235810141721
17935810131721
20235810131620
24535710131620
28135710131619
302
(362)
3579121519


所有キャラ

所有キャラ

  • 期間限定で入手できる所有キャラ
    カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。
    また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

EPISODE1 彼女の望む世界「我々の意思は強固だ。バテシバ様の願いを叶えるためだけに、我々は存在しているのだから」

 真人にとって希望の象徴である聖女バテシバ。
 指導者であったエイハヴ亡きあと、その信奉者たちをひとつにまとめあげた彼女は、大地を支配している機械種を滅ぼすべく、大陸中央部へと進軍した。
 侵攻は留まる所を知らず、瞬く間に都市を制圧し、勢力図を塗り替えていく。
 一度進軍を始めたら数千規模の被害を出そうとも決して止まらない。
 その思考は、機械種には到底理解できるものではなかった。
 それを可能としたのが、恐怖による統制だ。
 異を唱える者は容赦なく処分し、意志を、行動を、自身が定めたルールの中へと強制的に組み込ませる。
 目的のためなら手段を選ばず、そこに例外などない。
 それがたとえ、“己の命を捧げる”事になったとしても。

 ――機械種の中枢都市ペルセスコロニーへと進軍する真人たちを後方から見やるバテシバは、従者セロから戦況報告を受けていた。

 「バテシバ様、ペルセスコロニーはもう間もなく陥落するでしょう」
 「そう」

 彼女の傍に仕える従順なる信徒達。
 その多くがエイハヴと研究者たちが行った過酷な研究を耐え抜いた者たちであり、セロ・ダーウィーズもまたそのひとり。
 彼らは、世界の滅びを望むバテシバの願いを成就させるため、自ら進んで協力を申し出ていた。
 バテシバがペルセスコロニーを攻め落とそうとしているのは、世界を滅ぼす方法を模索するうちにたどりついた、ある仮説を実行するためだ。
 それは、監督官と帰還種を利用したシステムの破壊。
 各都市に通達される指令は、システムと接続する権限を持つ監督官が下す。
 ペルセスコロニーは大陸中央部の要所であり、その他の中核都市とは規模が違う。システムを構築する都市演算機能も比較にならないため、そこを指揮する監督官は他の都市のそれよりも上位のアクセス権を持っているはず。
 そして帰還種には、システムとつながるなんらかの機能を備えている事が、解剖によって判明したのだ。
 つまり、鍵となる帰還種を使い、システムに自壊する指令を送る事ができれば、システムそのものを破壊する事ができる、と。

 ふとバテシバは、かつてゼーレキアコロニーで遭遇した帰還種の少女に思いを馳せる。

 (アレは、システムに干渉、あるいは直接つながる力を持っていた……)

 口元を歪め、バテシバは「欲しい」とだけつぶやくとセロに指示を下す。

 「帰還種の女たちを、生きたまま私の下へ連れてきてちょうだい。邪魔する者はすべて排除して構わない」
 「仰せのままに」

 去っていくセロを後目に、バテシバは微笑う。

 「ふふ……早く……皆さんを生の呪縛から解放してあげたい……」

 唄うように、呪うように少女は願う。
 世界の破滅と永遠の救済を。

EPISODE2 共有されし記憶「己の手で望みを叶えられないのは、さぞ悔しかろう。お前はせいぜい私を蝕み続けていればいい」

 バテシバ率いる軍勢の魔の手は、遂にペルセスコロニーを陥落させる事に成功した。
 しかし、標的としていた帰還種たちは戦闘の混乱に乗じて姿を消し、監督官もペルセスコロニーから脱出してしまったのだ。
 バテシバは配下の者たちに追跡を命じ、ペルセス周辺のコロニーを瞬く間に制圧していくのだった。

 幾度目かの戦闘を終えたバテシバは、ペルセスコロニーの中心部にそびえ立つ中枢塔へと向かう。
 システムの解析を続けているセロに会うためだ。
 しかし、セロたちは間が悪い事に出払っていた。
 いったん出直そうかと考えるバテシバだったが、ふと、塔の中の光景に目を奪われる。
 そこに広がる空間は、ゼーレキアコロニーのものとは異なっていた。
 閉塞感がついて回るゼーレキアコロニーを黒とするなら、ペルセスコロニーは無機質さに満ちた白だ。
 白一色に統一された世界は、どこか宙に浮いているような錯覚をもたらし、ゆるやかにバテシバの様々な感覚を狂わせていく。

 「――? 私、は……」

 動け。と身体に命じても、まるで言う事を聞いてくれない。バテシバは、自身の意思と肉体が乖離するような、不思議な感覚に襲われていた。

 「――、――――?」

 声を出せない。ただ「あうあう」と意味をなさない言葉の羅列が口からもれてくるだけ。
 何もかもが急速に失われていく。
 あらゆる実験によって感覚を狂わされていた彼女は、自身を蝕む病に気づけなかったのだ。
 彼女の命の灯は、今にも消えてしまいなほどに小さく、小さく揺らめいていた。

 ――嫌。

 何もなせずこのまま独り死にゆく。
 死そのものへの恐怖は微塵もない。
 ただ、自分の目で滅びを見届けられないのが許せなかった。

 ――それだけは絶対に嫌……いやっ!

 「――バテシバ様!?」

 その後、バテシバはセロによって発見され、どうにか一命を取りとめた。
 しかし、彼女に快復の兆しは見られない。いずれは避けられぬ死が彼女を連れ去っていくだろう。
 差し迫る時間の中、セロはひとつの決断を下した。

 「かくなる上は……バテシバ様を仮死状態にするほかない」

 バテシバの肉体を休眠状態にする事で死を引き延ばすという苦肉の策。成功する見こみは薄いが、それでもやらないよりはましだろう。

 「口惜しいが、もはや機械種と戦争している場合ではなくなってしまった。計画は大幅な修正が必要だが、すべては御身のため。必ずや願いを叶えるための筋道を立ててご覧に入れましょう」

 それからセロは、眠りにつくバテシバの代わりに彼女がやろうとしていた事を受け持ち、限られた時間の中で新たな計画を練り上げるのだった。

 ――装置の中に横たわるバテシバをガラス越しに見やり、セロは絞り出すように彼女へと語りかける。

 「願わくば、貴方様が大願を成就される光景を、お側で見届けたかった……」

 セロにも時間がなかった。延命処置を施せば多少は寿命を延ばせるだろうが、そうした所で自分自身が計画の最後を見届けられるかは困難だったのだ。

 バテシバが皆の前に姿を現さなくなってから暫くして、いよいよその余波が戦況に表れつつあった。
 周辺都市への攻勢も滞り、加えて後退していったはずの機械種と穏健派による部隊が、再び息を吹き返し始めていたのだ。
 ペルセスコロニーは直に包囲され、ここが彼らの手に戻るのも時間の問題だろう。
 司令室から指揮を取っているセロの下に、息を切らした配下の者たちがやって来た。

 「セロ様、撤退の準備が整いました。機械種の軍勢が押し寄せる前に、早く!」
 「重畳だ」

 セロは近くにうずくまる機械種の残骸へと視線を向ける、わずかに明滅する瞳を遠く眺めるように見つめた後、すぐに踵を返す。

 「我々は次を見越して動かねばならん。この混乱を利用させてもらう」

 その後、セロたちは戦火に包まれたペルセスコロニーから腹心とバテシバを伴い姿を消した。
 ペルセスコロニーへの仕掛けと、バテシバ崩御という偽りの報せを流して。

 ――
 ――――

 「……私とした事が、職務中に居眠りとはな」

 自身の執務室で、カイナンは目を覚ました。
 戦時では個人の時間などなきに等しい。ましてや、表と裏両方の顔を使い分けるカイナンにとってはなおさらだ。
 どちらにも心血を注いでいたせいか、疲れが一気に押し寄せてしまったらしい。

 「あの日……バテシバ様が倒れられてから、長き時が流れた。ようやくだ、ようやくあのコロニーを攻める準備が整った」

 カイナンはおもむろに席を立つと、窓際へと向かう。
 窓の外に見えるのは、前線基地へと飛び発っていく輸送艇の大艦隊。
 去っていく船を見届けると、カイナンはふと窓に映る自身の姿に、ある男の残滓を見る。

 「この日を迎えられず、さぞや悔しかろう。だが安心しろ、バテシバ様の願いはこの私が叶える。セロ・ダーウィーズではない、カイナン・メルヴィアスがな」

 カイナンの脳裏で囁き続けるセロの記憶。
 この世を去ってもなお影響を与える男に抗うように、カイナンは鏡写しの己を強くにらむのだった。

EPISODE3 先槍として「侵攻作戦の陣頭指揮は私自ら取り行う。我らの計画を誰にも邪魔などさせん」

 先遣隊の出陣を間近に控えている中、執務室でロトとの通信を終えたカイナンは、予期せぬ状況に顔を曇らせていた。

 「今回は、ソロの逃走を助ける結果となったか……」

 カイナンがソロを押さえるために送り出した傭兵、ヨアキム・イヤムル。
 彼は自身の立ち位置を利用するのに長けている。カイナンすら利用して、自由の利益を求めて動き回っているのだ。

 「フ……相変わらず立ち回るのが上手い。だが、それもまた想定の範囲内。かえってソロの身の安全が保証されたようなものだ」

 それより、カイナンが今抱く懸念は別にあった。
 ソロがオリンピアスコロニーから姿を消した事によって、不安要素のひとつが急浮上したのだ。
 ソロを心の底から憎む男――ヴォイド。
 事ある毎にソロの命をつけ狙っていた男にとって、戦争という大義名分は非常に利用しやすい。

 「奴はソロを口実にして侵攻の手を早めるだろう」

 加えて、ロトの情報どおりならば、今ソロは帰還種の女と行動を共にしている。
 それをヴォイドが知れば、誰にはばかられる事なくソロを処分できるだろう。

 「我々も、計画を早めなければならんな」

 偶然にもロトが遭遇した帰還種の女は、素体として申し分ないポテンシャルを秘めているらしい。
 優秀な帰還種の身体を手に入れる事は、カイナンが推し進める計画には欠かせない要素のひとつ。是が非でも手に入れておきたいモノだった。

 「……さて、そろそろ時間か」

 これから始まる戦争指導会議にて、開戦が早まる旨が通達されるだろう。
 カイナンは会議の場へと赴いた。

 「――開戦を前倒しにする。この決定は絶対である」

 案の定、会議は開戦の予定を早めるという議題から始まった。
 参加者の多くがヴォイドの発言に動揺していたが、一部は予想していたようで、平然とした面持ちで話に耳を傾けている。
 会議に集まったのは、強硬派を指導する立場にあるヴォイド、レア、サルゴン、カイナンを筆頭に、主要な都市の管理を任された領主たち。
 まだ物資の準備が整っていない領主たちから不満まがいの質問が飛び交っているが、何を言った所で決定が揺らぐ事はない。
 ヴォイドの強固な姿勢に、会議は次第に静けさを取り戻すと、そこへすかさずレアが割って入る。

 「話はまとまったわね。では次の議題へ……エステル」
 「承知いたしました。開戦に際して各都市から供出可能な兵力の概算につきましては――」

 レアに名を呼ばれたのは、彼女の直属の武官にしてゴリツィアコロニーを管理するヤグルーシュ家の長、エステル。
 張りつめた空気の中、彼女は吊り上がった目を引き締めたまま、軍議に参加する者たちを見渡す。
 そして、戦線を構築するために必要な情報を読みあげていく。
 多くの者たちにとって、この流れは見慣れたもの。既定路線を皆で確認しているような、ただヴォイドの話を傾聴するという“茶番”を皆が演じているだけにすぎない。
 いくつかの議題をそうして確認し終えたあと、議題は部隊編成の話へと移った。
 こちらはカイナンが根回しを済ませていたため、先遣隊の指揮を取るのはカイナンで決まりだ。

 「――では先遣隊の指揮は、カイナンへ任ずる。異論はないな?」

 領主たちが次々と賛意を示す。
 自身を讃える言葉を穏やかな面持ちで聞いていたカイナンだったが、それはサルゴンの乾いた笑いによってうち破られた。

 「戦場の空気も知らぬような文官に先槍が務まるなどと、皆本気で思っているのか?」
 「……ふむ、ご不満かな?」
 「辺境の一領主にすぎない私には、やはり貴殿が参謀を務める事にいささか不安を覚えるようだ。貴殿には本当にその覚悟があるか」

 瞳に、挑発的な光が灯る。
 少しでも弱気を見せれば喰らいつくとでも言うように。

 「ある」

 カイナンは臆する事なく、真っ向からサルゴンを見据え、宣言した。

 「我が最高傑作、戦術兵器『バルディエル』の力、特等席でお見せしよう」
 「その自信のほど、戦場にてしかと拝見させてもらおう」
 「ではサルゴンの隊も先遣隊として組みこませてもらうわ。ヴォイド、カイナンもそれでいいかしら?」
 「レア様のご随意に」
 「……」

 何かを推し量るように、いぶかし気な視線を送っていたヴォイドは素っ気なく答える。

 「ご託はいい、結果で示せ」

 会議ののち、カイナンはペルセスコロニー侵攻作戦の先槍として前線基地へと向かう。
 カイナンとサルゴン、それぞれの思惑を胸に秘めて。

EPISODE4 器「すでに賽は投げられた。あとは、計画に欠かせない最後のピースを手中に収めるだけだ」

 前線へと移動する輸送艇の中、カイナンはロトが確保した帰還種の女のデータを見て、物思いにふける。

 (この数値が正しければ、バテシバ様を迎え入れる器として申し分ない。あとは、こちらがどう立ち回るか次第だ)

 計画に欠かせない最後の要素は、最新鋭の機械種である監督官を奪取する事だ。

 (エヴァ・ドミナンス……長年にわたり立ち塞がったあの機械種を、バテシバ様の供物としてくれよう)

 大陸中央部の最高司令官を排除する事は、長き戦争を終結へと導く大きな一歩であり、地上の支配力は一層強まるだろう。
 だが、カイナンが推し進めている計画はヴォイドらと異なる。
 あくまでも、カイナンにとってはバテシバの復活と彼女の願いを成就させる事がすべてで、地上の支配などどうでもよいのだ。
 これがヴォイドたちに露見すれば、自身の身に危険が及ぶのは避けられない。特にヴォイドに至っては、自分の預かり知らぬ所で母バテシバの再誕計画が進行していると分かれば、気が気ではないだろう。
 ヴォイドやレア、そして勘の鋭いサルゴンをどうあざむくか――

 「フ……私は今この状況を楽しんでいるのかもな」

 わずかに浮かんだ笑みを引っこめ、カイナンは部隊の展開図を確認していると、ふと予定している配置と数が合わない部隊がある事に気づく。

 「サルゴンめ……私を試すつもりか?」

 前線基地の南西から北上してきたサルゴンの部隊は、カイナンが把握している数よりも下回っていたのだ。
 カイナンは会議で見せたサルゴンの不敵な笑みを思い返す。

 「辺境で隠れて何をしていようが……貴様の好きにはさせん」

 陽が昇り切ったその時、すべての命運を決する争いが幕を開ける。役者は揃った。あとは、開演を待つのみ。

EPISODE5 天地を灼く剣「奴はこの戦争の先を見越している。そのための部隊、そのための剣だとでも言うつもりか!?」

 機械種との戦争は、真人側からの一撃により口火を切られた。
 侵攻を妨げるために機械種が展開した長大な防衛圏に、カイナンが山岳地帯に配備した戦術兵器「バルディエル」から放たれた巨大な光線が穴を開けたのだ。
 ソロが持つバラキエルの発展型であるバルディエルは数十倍の大きさを誇り、ウィアマリスの力場を打ち破るほどの火力を有する。
 小回りは効かずとも火力に特化したその性能は、文字通り先遣隊の“先槍”としての力を存分に発揮してみせた。
 防衛圏に展開されていた機械兵の隊列は大きく乱れ、攻撃の手が緩んだ所に平地から進軍した車両縦隊が突撃していく。
 その光景に、山岳地帯で待機していたサルゴンは感嘆の声をもらす。

 「さすがに、自ら名乗り出ただけはあるわけか」

 逐次更新されていく戦況。
 サルゴンの思惑では、そろそろバルディエルを排除する動きがみられるはず。そうサルゴンは考えていた。そして、それはすぐに現実のものとなる。

 「……動いたか。全隊、迎え撃つのだ!! 我が隊の意地を見せろ!!」

 サルゴンの号令に、山岳部に潜んでいた部隊が一斉に動きを見せた。
 深くまで入りこんできた敵兵を取り囲むと、瞬時に撃破してみせる。それぞれがひとつの意思によって統制された群れにも似た動き。
 加えて、状況に応じた高い柔軟性を備えている事がサルゴンの部隊の強みだった。

 ――
 ――――

 北方からはヴォイドの指示でかけつけた部隊、南方からはサルゴンの部隊、そして中央を突き進むカイナンの部隊の攻勢によって、戦線は徐々に東へと動いていた。
 それぞれが持てる武力を投じ最大限に運用する事で、着実に機械種は追いこまれている。このまま攻勢を維持し続ければ、防衛圏が崩壊するのは時間の問題だ。

 「よし、条件は整った。砲兵隊、ひと息に――」

 カイナンの命令は、突如前線基地の上空から駆け抜けた光によって遮られた。
 光は一直線に防衛圏の一角へと直撃すると、大きな風穴を開けて戦線を崩壊させたのだ。
 その光の正体は、かつてゼーレキアコロニーに封印されていた機動兵器「メギド・ゴグ」に搭載された砲塔の光に似ていた。

 『ハハハ! 敵の防衛圏は、我が剣の前に沈黙した!者共よ、突き進め! 我らが領地を、奪い返すのだ!』

 戦場にこだました甲高い声。
 傲慢なその物言いだけで、誰がやってきたのかすぐに分かる。この戦争を仕掛けた張本人のヴォイドだ。

 「あの男、己が威を示すためだけに出張ってくるとはな……」

 渋い顔をするカイナンだったが、これでペルセスコロニーへの道が開かれたのは事実。
 現に、総大将自らが前線で鼓舞する事で、兵たちの士気は確実に上がっていた。
 勢いづいた軍勢が、一気呵成に攻め込んでいく。
 だが、押し寄せた軍勢を待ち構えていたのは、更に強固となった機械種の防衛部隊だった。
 四足歩行型の機動兵器に加え、武装を強化した重装型機械歩兵や機動戦車、更には空に浮かぶ銀の機動兵器ウィアマリスの一団が後方に控えている。

 「……あれは?」

 そして、一団の後方に広がる平原に、ペルセスコロニーをとり囲むように等間隔に立ち並ぶ何かが見えた。円柱形の細長いそれは、各コロニーに存在する中枢塔に似ていて――不意に塔の頂点が赤く煌めいた。
 次の瞬間、突破した防衛圏に集中していた真人の部隊目掛けて光線が高速で襲い掛かったのだ。
 威力はバルディエルやメギド・ゴグほどではないにしても、直撃を受ければ歩兵部隊はひとたまりもない。

 「やはり今までのは小手調べか」

 断続的に照射される光線によって、侵攻は完全に足止めされてしまった。
 そうこうしている間にも、機械種の軍勢が徐々に防衛圏へと押し寄せている。
 しかし、カイナンの表情に焦りの色はない。
 カイナンが別働隊に指示を出そうとしたその時。
 天空から灰色の雲を切り裂くようにして、あまりにも巨大な何かが墜ちてきたのだ。
 流星のように弧を描いて落下するソレは、いち早く反応した円柱形の塔から一斉に光線を浴びて激しい火花を散らす。
 そして、ソレはウィアマリスと塔を巻きこんで地上で大爆発を巻き起こした。

 「な……一体、何が?」
 『お困りのようだな、参謀殿?』
 「サルゴン……まさかあれは、貴様の差し金か?」
 『いかにも!』

 もうもうと立ちこめる煙の中、揺らめく炎にまぎれて何かがゆっくりと身を起こす。
 その正体は、巨大な頭骸骨を彷彿とさせる歪な形状の鋼鉄の巨神。

 『起て、ドヴェルグよ! 機械仕掛けの偽神供を滅ぼすのだ! その魔剣を、奴らの喉元に突き立ててみせろ!』
 「――――――――ッ!!!!」

 サルゴンの呼びかけに応じるように、機動兵器の胸部に施された眼のような意匠が、赫く怪しく輝く。
 魔剣ダインスレイヴ――かつて人造の神を斬獲せしソレが、新たな名と共に再臨した。

EPISODE6 焦燥「サルゴンの目指す所は我らも同じ。だが、それを成すのはバテシバ様であって貴様ではない!」

 地響きと共に、機動兵器ドヴェルグが地を駆ける。
 機械種が配備する機動兵器の倍近い質量を誇るドヴェルグが振るう剣を止められるものは、この戦場に存在しなかった。
 単純な質量差は相手が防御行動を取ろうが関係ない。
 ただ押し潰されるか、触れた瞬間になで斬りにされるだけだ。

 「サルゴンめ……あの戦術級、いや、戦略級兵器が奴の切り札か!」

 戦闘艇でその光景を見せつけられたカイナンは、ジリジリとした焦燥感に駆られるまま、急ぎ通信をつなぐ。

 「どういうつもりだサルゴン! 機動兵器を秘密裏に入手し、あまつさえ独断専行などと……!」
 『ハハ、これは珍しい事があるものだ。参謀殿の鉄面皮が剥がれ、小僧のようにさえずるとは実に愉快』
 「……貴様のしている事は軍法会議ものだぞ?それを承知した上で、行動するのならば」
 『ならば、どうする? 今この場で私を討とうとすれば、カイナン殿も処分は免れぬ。この流れに逆らってまで行うのであればなおの事』
 「だが、それが貴殿を自由にさせる理由にはなり得ん!」

 カイナンが焦りを露わにするほどに、サルゴンの態度には余裕が生まれ、笑みが一層深くなる。
 不意に、サルゴンは問いかけた。

 『その慌てよう……カイナン殿は、我が隊の先行に何か不都合でもあるのかな?』
 「なんだと?」
 『どうも私には、貴殿が別の目的をもってこの戦に加わっているように思えてならないのだよ』
 「目的だと? 何を根拠に……!」

 サルゴンから投げかけられた言葉が、徐々に思考を絡めとっていき、頬をじっとりとした汗が伝う。
 ほんの一瞬の戸惑い。
 自身にかけられた疑いを即座に否定できなかったカイナンが己の不覚を悟った時には手遅れだった。
 サルゴンの慧眼は、ほんの些細な心の動きを捉えて逃さない。カイナンの表情の変化を読み取り、ひと息に核心へと迫った。

 『この戦争が始まる前から観察していたが、貴殿は妙に用意周到だ。まるで先を見越しているかのように。奴らと結託している? いや、貴殿自身が何者かの指し手か?』
 「……ッ」
 『ハッハッハ! そう睨むな。端正な顔が台無しになるぞ? いくら謀略に長けた将とはいえ、所詮は青二才。十年そこらの貴殿と私とでは、“年季”が違うのだよ』
 「サルゴンッ!」

 生の感情をぶつけられ、サルゴンは不敵に笑う。

 『“らしく”なってきたじゃないか、カイナン』
 「貴様は何がしたい。そのドヴェルグを使って、神を気取るつもりか!?」
 『愚かで惰弱! 神など所詮は紛い物。私は、王だ! 征服者だ! 間違った世界を、正しく導く存在よ!』
 「っ……邪魔はさせん! この世界は、バテシバ様の願いによって導かれねばならん!」
 『クク、それが本音か。存外に俗物なのだな貴殿も。ならば、全力で追って来るがいい!』

 そこで通信は途切れた。
 カイナンの作戦はイレギュラーによって狂ってしまったが、それは機械種側も同じ。
 カイナンは小さく息を吐くと、各部隊に指示を飛ばした。

 「全軍、あの機動兵器に続け! この混乱を味方につけるのだ!」
 『オオォォォッ!!』

 サルゴンの部隊は、ドヴェルグを先頭にして今にもペルセスコロニーの外郭へと到達しようとしている。

 「……せいぜい暴れまわるがいい。この一時だけは、貴様が戦場の支配者だ、サルゴン」

 拳を強く握りしたカイナンは、機械都市へ向けて舵を切るのだった。

EPISODE7 決戦、機動都市要塞「おかしい……ペルセスコロニーは、かつて自然豊かな都市だった。これほどの変化を起こすとは、まさか!」

 機動兵器ドヴェルグによってペルセスコロニーの外殻が破壊された事で、戦争はいよいよ佳境を迎えようとしていた。
 ペルセスの街並みは、イオニアの牧歌的な雰囲気とは異なり、オリンピアスの光景に近いものがある。
 唯一違うのは、都市全体が銀色の金属質な光沢を放っている事だ。
 広大な都市には無機質な構造体が所狭しと並び、ヒトの営みがまったくと言っていいほど感じられない。だがその分、潜伏するにはうってつけの配置といえた。
 都市部での戦闘は、障害物に隠れた兵や兵器を逐次見つけだして撃滅するか、障害物ごと破壊して丸ごと巻きこまなければ足元をすくわれかねない。
 サルゴンはドヴェルグの突破力に任せた一点攻勢をしかけつつ、慎重に歩兵部隊を進ませていく。

 「ふむ……妙だな」

 敵の本陣ともなれば、いよいよ攻撃が苛烈なものになるかに思われたが、これといって激しい抵抗は見られない。

 「罠か? いや、あれは――」

 怪しむサルゴンだったが、その考えは遠くに見える輸送艇の一団を捉えた事で霧散してしまった。
 中枢塔の背後に見えた船団が、全速力で都市から撤退している。
 それは、侵略者たちの脳裏に“勝利”の二文字をよぎらせるには十分で――

 「クハハハハッ!! なんと無様な! 恐れをなして逃げ出すとはなあ!」

 撤退していく船団を旗艦から見ていたヴォイドは、歓喜のあまり握り拳を突き上げて快哉を叫ぶ。
 そして、意気揚々と全隊に通達した。

 「我らが勝利は揺るぎないものとなった! 全軍、機械種の残党を殲滅せよ!!」
 『――オォォォォォッ!!』

 呼びかけに応じた真人たちが勝どきを上げる。
 だが、そんな戦勝ムードが漂う中で、カイナンだけは納得がいかないのか、モニターに映る銀の都市をにらんでいた。

 「……おかしい。私の中に擦りこまれている都市に、こんな光景は“なかった”はずだ」

 疑問を口にする事で、より確信めいたものを感じる。
 カイナンの脳裏に囁きかける、セロの記憶。
 あの男が見たペルセスコロニーは、自然溢れる美しい都市の街並みであり、無機質で人の営みが感じられないものではなかった。
 不気味なまでの統一感が、かえってカイナンに疑念を抱かせる。

 「何者かの……意思を感じる」

 焦燥感に駆られるまま、カイナンがヴォイドと通信しようとコンソールへ手を伸ばしたその時、ちょうどカイナン宛てに秘匿通信が送られていた事に気づく。

 「こ、これは――」

 急ぎ、カイナンはヴォイドとの通信をつないだ。

 『ッチ、なんの用だカイナン』
 「今すぐ全軍に後退命令を出すんだ。この動きには、何か違和感がある」
 『違和感だと?』
 「ああ、機械種は何か企んでいる。一時退却を」
 『何を言うかと思えば、とんだ世迷言だな。見るがいい、現にああして奴らは撤退しているではないか! 奴らは、前回の戦争と同じ轍を踏んだにすぎん!』

 激昂するヴォイドの映像がぷつりと途絶える。
 通信は、それきりつながらなくなってしまった。

 「ならば、好きにするがいい――」
 『よくぞ、ここまでたどり着きました』

 突如、都市全域に響き渡った声。
 導かれるようにモニターへ目を向けると、コロニーの上空に巨大な立体映像が投影されていた。
 そこに映るは……女性型の機械種。
 女はまばたきひとつせず、十字の紋様が刻印された瞳で真人たちをじろりと観察すると、淡々と告げた。

 『我が名はエヴァ。ペルセスコロニーの監督官にして世界を統括するシステムの代行者なり』

 エヴァは人間的な暖かさの一切を廃したかのような、ただヒトの形を模しただけにしか思えない不自然さをたたえていた。

 「あれが、エヴァ・ドミナンス……ッ!」
 『ほう、貴様が機械種の管理者か! だが、今さらのこのこと顔を出した所でもう遅い! 命乞いしようが何をしようが、貴様は私自ら鉄屑にしてくれよう!』
 『我が防衛圏を突破し、都市にまで攻め入ったその力は賞賛に値するでしょう』

 小うるさいヴォイドの言葉に耳を傾ける気配もなく、エヴァは続ける。

 『そこで、あなた方の健闘をたたえ、チャンスを与える事にしました』
 『チャンス、だと?』
 『システムへと還り、調和の取れた正しき姿をもって初めからやり直す。さすれば、この無益な争いと憎しみから解放される……それこそが、唯一の救済なのです』

 機械種の提案。
 それは旧人類がたどった、メタヴァースシステムの中での新たな人類への再誕を意味していた。
 確かに、機械種からすれば効率的かつ最上の提案なのだろう。
 しかし、彼らは“物”ではない。自我を持つ、“人”なのだ。
 ゆえに彼らは、機械種が真人にしてきた仕打ちを、決して許さない。

 『ッ……どこまでも……どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだッ! そんな戯言を、今更受け入れると本気で思っているのかッ!!』
 『私の赦しを、断ると?』
 『当然だ! 救済の道ならば、機械種も、帰還種も、皆殺しにすればよいだけの事!!』
 『そうですか……我々の手は、言葉は届かないようですね。救えなかった事が残念でなりません……あなた方の意思、選択はしかと聞き届けました』

 エヴァの表情がわずかに動く。
 その瞬間、カイナンは何かを察知して、都市全域へと反射的に叫んだ。

 『全軍、ただちに後退せよ! 今すぐにだ!』

 そう言いつつもカイナンは、中枢塔目掛けて舵を切る。
 そして、切羽詰まった雰囲気を察したサルゴンが配下の兵たちに後退を指示したその時――

 『エヴァ・ドミナンスⅩⅡが命ず。真人たちを、粛清せよ』

 エヴァのひと声で、都市に大きな変化が起こった。
 銀の都市は、まるでそれ自体がなんらかの生命体であるかのようにうごめき、小さな六角形の鱗のようなものに覆い尽くされていったのだ。
 そして、小さな鱗が一斉に振動し始めたかと思うと――都市全域に、衝撃が駆け抜けた。

EPISODE8 永遠の救済「我が名はカイナン・メルヴィアス! 私の行動も、結果も、すべて私が決めた事。貴様では……ない!」

 機械種の監督官エヴァの一言で、状況は一変した。
 都市には物言わぬ真人の身体が無数に転がり、空を飛んでいた船も、機動兵器さえも沈黙し、辺りには静寂が満ちている。
 エヴァの策略は、ペルセスコロニーそのものを兵器として運用するものだったのだ。
 音響兵器「ハルモニア」。
 音波に指向性を持たせ、対象を絞って攻撃する事を可能とした兵器である。
 この兵器の利点は被害を最小限に抑えるだけでなく、“不可視の攻撃”という点で優れているのだ。
 コロニー内に留まっていた真人たちは、何かに攻撃されたと気づいた時にはすでに内側から破壊され、再起不能な状態にまで陥っていた。
 それは、ドヴェルグの搭乗者であっても同じ。いくら強固な装甲であろうとも、ハルモニアの前には紙屑のようなものだ。
 被害が少なかったのは、対象範囲から辛うじて逃げおおせたサルゴンの一部の部隊と、後方に陣取るヴォイドとレアの船。
 そして――都市の内部に侵入を果たしていた、カイナンの船の搭乗者たちだけだった。

 「あの機械種に気づかれる前に、司令室を制圧する」
 「了解!」

 司令室へと向かう道中で、カイナンは直前の記憶を思い返す。エヴァが都市上空に姿を晒す直前に送られてきた通信。それは、カイナンが密かに連絡を取り合っていた協力者であり、自身に疑似記憶を植えつけた張本人、セロ・ダーウィーズであった。

 (使えるものは、すべて使わせてもらう……)

 セロがこのコロニー内にいるのかはわからない。だが、自分たちがこうして侵入できたのも、セロの手引きによるものだろう。
 であれば、いずれ自分の前に姿を見せる可能性がないわけではなかった。

 (私の行動を監視していようがいまいが、どちらでも構わん。重要なのは結果だ)

 一刻も早くエヴァを制圧し、機械種の身体を確保しなければならない。
 これはあくまでも奇襲。時間が経てば経つほど、カイナンにとって不利になるのだ。
 カイナンの部隊が内部に点在する機械兵たちを蹴散らし、司令室を目指してひた走る。
 そして――ついにコロニーの中枢、司令室の扉の前へとたどり着いた。

 「お前たちは、ここでやつらを食い止めるんだ」
 「は……ですが、カイナン様お一人で?」
 「なに、こちらには切り札がある。奴を視界に捉えさえすれば、終わりだ」
 「かしこまりました。どうか、ご無事で」
 「ここは頼むぞ」

 敬礼する腹心たちを後に、カイナンは司令室の扉を開くと……そこには白い空間の中心部から天井に続く柱に、ケーブルを介してつながった状態の機械種、エヴァの姿が。

 「ようやく会えたな、エヴァ・ドミナンス」
 「――何故、ここに真人が」

 無傷で現れたカイナンを視認し、エヴァの顔にわずかながら動揺の色が見て取れた。
 冷笑するように小さく笑うと、カイナンは口を開く。

 「都市を丸ごと戦略兵器にする策は見事だ。だが、いくら策を弄した所で、小さな綻びがあってはそれも意味をなさない」
 「工作? あり得ません。我が防衛圏が過去に突破された事実など、一度足りとて……」
 「フ、つくづく愚かだな。その前提が間違っている」
 「間違っている? いえ、そんなはずが……」

 完璧であると自負していたエヴァの脳裏に、ほんの少しの揺らぎが生まれた。

 「14年前、とでも言えば理解できるか?」

 その小さな揺らぎは、やがて大きな波紋となってあり得るはずのないひとつの答えを導き出していく。

 「まさか、既に……いえ、真人はあの時すべて……」

 徐々に驚愕の色が濃くなっていくエヴァを見て、カイナンは愉悦混じりの声で言った。

 「ようやく気づいたか」
 「獅子身中の、虫……!?」
 「ご名答」

 カイナンは悠々とエヴァに歩み寄る。
 彼がコロニー内の警備システムすら潜り抜け、目の前に無傷でいる事、それ自体が何よりの証拠だった。
 エヴァは自身が確実に追い詰められている事を悟られぬよう、淡々と言葉を紡ぐ。

 「あなたひとりで、私に勝つつもりですか? たかが抜き身の銃ひとつで」

 苦し紛れの一言は、一笑にふされた。

 「終わっているんだよ、エヴァ。私がここに踏みいった時点で、すでに勝敗は決している」
 「気でも触れましたか。やはり真人には欠陥があるようですね。感情に突き動かされ、機械種との絶対的な差すら理解できなくなるとは」

 その言葉に、カイナンは愉悦をもって応えた。

 「――インキュナブラ」
 「ァ――――?」

 エヴァの顔に驚愕の色が深く浮かぶ。
 続けて焦点が合わなくなったのか、カイナンに向けていた反抗的な視線はどこか違う方にやられ、それに呼応するようにして身体の動きが鈍くなっていく。

 「な、ぜ……」

 そして、エヴァはその場に崩れ落ちた。

 「重畳だ」

 そう言いつつ、カイナンはそっと胸を撫で下ろす。
 セロの手助けがあったとはいえ、内心ではこれほどの効果を発揮するかどうか半信半疑であった。
 カイナンは、エヴァが身体の自由を取り戻す前に身体からケーブルを引き抜くと、用意していた端末とエヴァとをつなぎ合わせた。

 「バテシバ様。ようやく貴方様の願いが現実のものとなるのです。永遠の救済はまもなく訪れるでしょう。あなた様が望んだ、終わりの始まりが――」

 内側からこみ上げてくる衝動に駆られるまま、カイナンは天を仰ぐ。

 「……?」

 その時、視界が一瞬だけ揺らいだ気がした。
 機械種との戦争を経て、バテシバの大願を果たす役目を担えたという事に昂ったあまり、緊張の糸が切れかけている。そう判断するカイナンだったが、直後に口を突いて出てきた言葉に、違和感を覚えた。

 「私は……いや、私たちは成し遂げたのだ。これまでよくやってくれたな、“カイナン”」

 何故、今自分はカイナンと己の名を呼んだのか。
 そもそも、今の言葉は本当に自分がそう言うよう仕向けたものだったのか。
 背筋に、冷たいものが走る。急速に回転する思考が、自身の行動を顧みていく。
 機械種の身体を奪取する計画を立案したのは自分自身。戦争を指揮していたのも自身であるはず。
 だというのに、カイナンはいつから自分がそう行動するようになっていたのか、思い出せなくなっていた。
 急に足場を崩されていくような感覚に抗うように、カイナンは叫ぶ。

 「わ、私は……カイナン・メルヴィアス……断じて、貴様などでは……ない……!」

 セロの記憶がもたらした想いか、カイナンの魂が心から望んだものか。
 混ざり合いつつあるふたつの人格の狭間で、男は何かにのみこまれようとしていた。


■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
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