愛野 ヒカリ／最愛の光

　明るく元気な笑顔、そして弾けるダンスと歌声がトレードマーク、愛野ヒカリは今若者の間で最も注目を集めている歌姫系アイドルの１人。

　前回の１ｓｔＬＩＶＥでは、とにかく『ＧＯ！　ＧＯ！　ラブリズム！』を推しまくる姿勢が大反響！
　メディアでも大きく取り上げられた。

　そのせいか、なんと早くも２ｎｄＬＩＶＥツアーが決まったようで、新曲の準備も始まっている。

　１ｓｔＬＩＶＥを超える熱狂を、ヒカリは生み出すことができるのか！？

　頑張れヒカリ！　ＧＯ！　ＧＯ！　ヒカリ！

　その日、私は張り切ってダンスを踊りながら事務所に向かっていたの。

　前回のＬＩＶＥツアーはファンのみんなからすっごく好評で、私は『ファナティック・アイドル』なんて、呼ばれるようになったんだ！
　確か『ファナティック』って『熱狂的』とかいう意味じゃなかったっけ？　その名前に負けないように、２ｎｄＬＩＶＥも頑張るぞー！

　「おっはよー！　ございまーす！」
　「ああ、ヒカリちゃんおはよう。今日も元気だね」
　「えへへ。それが私の取柄ですから！　今日も次のＬＩＶＥのダンスを練習しながらここまで来ました！」
　「えっ？　今日、外は豪雨だったと思うけど……」
　「雨なんて、高速で回転すれば避けられます！それに私の熱気で蒸発しちゃいます！」
　「そ、そっか……それは凄いね。やる気満々だ。そんなヒカリちゃんに良い知らせだよ。新曲のデモが上がってきたんだ。早速聞いてみる？」
　「はい！　もちろん！……うわーー！すごい！カッコイイ曲ですね！前回『ＧＯ！　ＧＯ！　ラブリズム！』は聞いたらそのまま１００ｍダッシュしたくなるようなポップな曲調ですけど、今回の曲は……大人っぽくて凛々しくて……そう！聞いた後、１時間シャドウボクシングしたくなる感じ！」
　「ヒカリちゃんは元気だよね……本当に。でも気に入ったのなら良かった……そうだ！この曲、せっかくだしヒカリちゃんが作詞してみない？」
　「えっ！？　いいんですか！？　やります！やらせてください！」

　ＬＩＶＥに向けて新曲のダンスの振りも決まって、新しい衣装も仕上がってきた。

　「ヒカリちゃん、それ新曲用の衣装？」
　「あ！　スタッフさん！　そうです！見てください！じゃーん！」
　「うおっ！？　す、凄い……ね。なんていうか、その……露出……いや、ロックだね！」
　「あ、そうなんですよ！　新曲のイメージに合わせてロックでハードな感じに仕上げてみました！
　ちなみに今回の衣装のデザインテーマは『カウガール』ならぬ『ニャウガール』です！　カッコイイでしょう？」
　「う、うん……風邪引かないようにね」
　「大丈夫です！　私、今までで１度も風邪を引いたことありませんから！」
　「そ、そっか……でも良かった。ＬＩＶＥの準備はすごく順調みたいだね」
　「それが……」
　「……どうしたの？　何か問題でも？」
　「はい……実はちっともいい歌詞が思い浮かばなくて……ずっと考えてはいるんですけど」
　「そうなんだ……ちょっと気分転換でもしてくれば？」
　「はっ！　そうですね！　悩んでても仕方がないですもんね……よーし！
　じゃあ、ちょっと今から気合いを入れるために、フルマラソンでもしてこよっと！」
　「えっ！？　フルマラソン！？　ちょっとそれは……」
　「行ってきまーす！　ＧＯ！　ＧＯ！　ヒカリ！」

　気分転換でフルマラソンを完走しても、筋トレでバーベル上げ下げをしても、結局いい詞は思い浮かばなかった。
　「もう！　こうなったら山に入って修行してくるしかないッ！」
　「わー！　止めて！　ヒカリちゃん！　『ファナティック　アイドル』から『マッスル　アイドル』になっちゃうよ！」

　……結局、私はマネージャーさんに止められて、家に帰った。でも頭の中は、作詞のことで一杯！

　（私が新曲でファンに伝えたいこと……それは『どんな苦労があっても、乗り越えれば希望がある』ってことだよね）
　そこまでは分かっているけど、最後の決め手になるインスピレーションがどうしても降りてこない……。　
　結局、私は夜中までずっと作詞のことを考えていたの。そうしたら……なんと！光り輝く天使様が天から私の目の前に舞い降りてきたの！

　「て、天使様！？　そ、そうだ！　どうか教えてください！どうしたらいい歌詞が思いつくでしょうか？」
　私の質問に天使様は何も答えず、穏やかな笑みを浮かべているだけ……でもその指先はある１点を示していた。

　（……はっ！　ゆ、夢か……って、これは！）
　天使様が指差していた方向に、１冊の本が舞い降りる。その本の表紙にはこう記されていた……
『世界の魔術辞典　－中二病患者へのススメ－』

　「こ、これだーッ！！」

　２ｎｄＬＩＶＥは大盛況！
　観客席の熱も私のボルテージもＭＡＸで、いよいよ待ちに待った新曲のお披露目タイムがやってきた！

　「会場のみんなー！　私は今、すっごく楽しいです！大好きなみんなに会えて、そしてみんなの前で歌うことができて！　……みんなはどう？楽しんでくれてますかー？」

　私が会場にマイクを向けると『楽しいよ！』という声が色んな場所から聞こえてくる。
　会場を震わせるほどの大音声に負けないよう、私も声を張り上げる。

　「ありがとう！　それじゃあ次、新曲いきまーす！この曲はなんと私が作詞をしたんだよ！　私……作詞って初めてで、すっごく色々考えちゃって。なんだか頭がグチャグチャになっちゃって……でも、そんなとき、天使様が私の前に現れて……って言っても、夢の中だけどね？　でも、それからすっごくかっこいいフレーズが思いついたの！これって運命的だと思わない？」

　私のＭＣに会場は笑い声や『私の歌詞を早く聞きたい！』『新曲を聞きたい』って声で溢れている。……よーしッ！

　「……それでは聞いてください！新曲『最愛テトラグラマトン』！　れっつにゃもー！」