【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE )】【マップ一覧( LUMINOUS / VERSE )】
| ※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。 |
| 名前 | 水の精霊 |
|---|---|
| 年齢 | 不明 |
| 職業 | 水の精霊 |
- 2023年9月28日追加
- SUN ep.Ⅵマップ4クリアで入手。<終了済>
- 入手方法:2024/12/12~アイテム交換所で入手(100P)。
- 対応楽曲は「《慈雨》 ~ La Symphonie de Salacia: Agony Movement」。
命を捧げた巫女<シビュラ>の体に宿る、神の分身の一人。
シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。
精霊【 炎の精霊 / 土の精霊 / 風の精霊 / 水の精霊 】
貴族政治だった水の都・ティオキアを変えた英雄サラキア。
国主として、水の巫女としての責任を全て課せられた彼女は、『犠牲』を払う道を選ぶしか他に道は無かった――。
スキル
| RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
|---|---|---|
| 1 | 道化師の狂気【SUN】 | ×5 |
| 5 | ×1 | |
| 10 | ×5 | |
| 15 | ×1 |
道化師の狂気【SUN】 [ABSOLUTE+]
- 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】よりもハイリスクハイリターン。
- 道化師の狂気【NEW】と比較すると、同じGRADEでもこちらの方がボーナスが1000多い。
- SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
- GRADE100を超えると、ボーナス増加が鈍化(+10→+5)する。
- スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400でボーナスの増加は打ち止めとなる。
効果 100コンボごとにボーナス +????
JUSTICE以下50回で強制終了GRADE ボーナス 1 +7000 2 +7010 3 +7020 11 +7100 21 +7200 31 +7300 41 +7400 61 +7600 81 +7800 101 +7995 ▲NEW PLUS引継ぎ上限 102 +8000 142 +8200 182 +8400 222 +8600 262 +8800 302 +9000 342 +9200 382 +9400 400 +9490 推定データ n
(1~100)+6990
+(n x 10)シード+1 +10 シード+5 +50 n
(101~400)+7490
+(n x 5)シード+1 +5 シード+5 +25
プレイ環境と最大GRADEの関係
| 開始時期 | 所有キャラ数 | 最大GRADE | ボーナス |
|---|---|---|---|
| 2023/10/26時点 | |||
| SUN+ | 16 | 193 | +8455 |
| SUN | 25 (+9) | 301 | +8995 |
| ~NEW+ | 401 | +9490 | |
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。
| GRADE | 5本 | 6本 | 7本 | 8本 | 9本 | 10本 | 11本 | 12本 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 18 | 22 | 26 |
| 7 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 22 | 26 |
| 16 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 21 | 26 |
| 21 | 3 | 5 | 8 | 10 | 14 | 17 | 21 | 25 |
| 40 | 3 | 5 | 8 | 10 | 13 | 17 | 21 | 25 |
| 51 | 3 | 5 | 8 | 10 | 13 | 16 | 20 | 24 |
| 73 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 20 | 24 |
| 84 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 20 | 23 |
| 91 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 19 | 23 |
| 102 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 19 | 23 |
| 139 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 19 | 22 |
| 169 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 18 | 22 |
| 217 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 14 | 18 | 21 |
| 248 | 3 | 5 | 7 | 9 | 11 | 14 | 18 | 21 |
| 267 | 3 | 5 | 7 | 9 | 11 | 14 | 17 | 21 |
| 302 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 20 |
| 349 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 17 | 20 |
| 377 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 16 | 20 |
| 397~ | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 16 | 19 |
所有キャラ
- CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
- イロドリミドリマップで入手できるキャラクター
バージョン マップ キャラクター SUN イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編藤堂 陽南袴
/途惑いのクリスマス編イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編桔梗 小夜曲
/途惑いのクリスマス編イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編芒崎 奏
/途惑いのクリスマス編
- ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
※1:同マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
バージョン マップ キャラクター SUN オンゲキ
Chapter2早乙女 彩華
/闇夜の挑戦状藤沢 柚子
/DREAM PARADE※1SUN+ オンゲキ
Chapter3高瀬 梨緒
/無敵のツーマンセル※1星咲 あかり
/無敵のツーマンセル※1
- 期間限定で入手できる所有キャラ
カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。
また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
ランクテーブル
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| スキル | スキル | |||
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| スキル | ||||
| 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| スキル | ||||
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
| スキル |
| ・・・ | 50 | ・・・・・・ | 100 | |
| スキル | スキル | |||
STORY
ストーリーを展開
EPISODE1 力と犠牲「誰もが幸福を享受する新しい国……必ずや、この地を理想郷へと作り上げてみせます」
――全ての事象は、代償の上に成り立っている。
生きるために植物を食む家畜。
生きるためにそれを食す人間。
家屋を作るため森を切り、道を作るため山を削る。
何かを成すためには、それに見合う『犠牲』を払わなくてはならないのが世の理である。
かつて、豊穣神「ネフェシェ」を崇めるこの大地で、その神の力を我が物にするべく大きな争いが起きた。
その御霊を4つに分けた神の力は精霊として顕現し、神の意に限らず4人の少女へと継承されていく。
火の力はアヴェニアスへ。
土の力はテルスウラスへ。
風の力はメーヴェへ。
水の力はサラキアへと。
精霊の依代である巫女となった少女たち。
その道の先に抱えきれぬ悲劇が待っていることなど知らず、彼女らはそれぞれの思惑を胸に歩き続ける。
「新たな国を作り直す」。
水の巫女「サラキア」がそう決意してから、すでに十数年が経とうとしていた。
まだ築城されて日が浅い城内のテラスから、眼下に広がる都の風景を彼女は眺めている。
豊かな資源を有し、繁栄を続ける都「ティオキア」。
かつて、徹底的な階級社会と苛烈な搾取を繰り返す貴族政治によって見せかけの平和を保っていたその街はある日たった一晩、たった一人の手によって全てを作り替えられた。
反乱などという生易しいものではない。人知を超えた圧倒的な力によって、圧政を敷いていた貴族達は残らず絶命し、ティオキアは新たな国として文字通り生まれ変わったのだ。
新たに建城されたばかりのティオキア城。
そのバルコニーから城下町を見下ろす女性がひとり。
ティオキアの新たな国主――サラキアは、陽の光に瞳を輝かせる。
そこには一点の曇りも見られない。
自らの手で国を希望あふれる未来へ導くことが出来ると信じているからだ。
「この身に宿した精霊の力。この奇跡の力さえあれば――」
だが、国の繁栄を成すにも、それに見合った
『犠牲』を払わなくてはならない。
人知を超えた存在である精霊の力とて、その理から外れることはできないのだ。
与えられる幸福がどこからやってきたのかも
気付かずに、ティオキアの民は安寧を貪り続けていく。
「無」から「有」が生まれることなどない。
胸の希望を燃やしながらも、この国でサラキアただひとりだけが、それを真に理解していた――。
EPISODE2 友が残したもの「精霊の力だけじゃない。貴女がいたから今のティオキアがある……だから、せめてもの餞に」
上座に鎮座するサラキアを囲むように、円卓に顔を並べる女王の臣下達。
彼らは皆、サラキアの亡き親友であるサンディアが所属していた、反乱軍のメンバーだった者達だ。
私欲のためにティオキアの民へ圧政を強いていた貴族を討ち、サラキアの手で革命が起こされた後、彼らが王政へ関与する存在となるのは自然なことであった。
「件の新設上下水道は何の問題も無く機能しております。これでさらに民の生活は良くなるでしょう。すでに農地拡大の計画も進んでいるようです」
「そうですか。それは喜ばしいですね」
「これもひとえにサラキア様のお力があってこそ。偽りの富に飾られたあの頃の国と比べたら……まるで夢を見ているようです」
「ふふ、あれからもう何年も経っているというのに。でも、今のティオキアがあるのは私ではなく精霊様のおかげ。短い時間でここまで国が豊かになったのは、精霊様の力があったからこそです」
ティオキアの繁栄に最も貢献した要素。それは“水”であった。
旧貴族制時代より他国からは豊かな国と認識されていたが、それは大陸において重要な港を有するティオキアが、貿易で築き上げたもの。
元来土壌として保有していた良質な自然と水源は、金を持つ商人貴族達の元へ。そうではない民は恩恵にあずかれることもなく厳しい暮らしを。貴族は手元の富を維持するため民に圧政を強い続けていく。
それがかつてのティオキアに蔓延っていた“偽りの富”であった。
だがそれも、サラキアによる革命によって払拭される。
女王となったサラキア王政の管理の下、国が持つ資源は適切に民へと行き渡るよう体制が整われていった。
しかし、ここでひとつの問題と対峙する。
質の良い水源を持つティオキアであったが、国中へと与えるには“量”が圧倒的に足りなかったのだ。
頭を抱える臣下達。だがサラキアは、困った様子を見せることもなく、ティオキアにとって二度目の“奇跡”を起こす。
新たに上下水道を繋げた施設を作り上げると、そこから無限に思えるほどの水が湧き上がり国中を満たしてゆく。
サラキアが振るったのは水の精霊の力。偶然か必然か、その力はティオキアが抱える問題にピタリと合致していたのだ。
水は大地を濡らし、植物を育み、それを食む家畜は肥えていく。
偽りなどではなく、名実ともにティオキアは大陸一の豊かな国へとなっていった。
「――では報告会はここまで。サラキア様、ご準備を」
「ええ。大事な式典ですものね。遅れるわけにはいきません」
この日、ティオキアは祝日である。
“革命が成し遂げられた日”である今日は、午後から王城前にて国民総出で参加する式典が行われる予定だ。
革命直後、サラキアはこの日をかつての友の名を取って『サンディアの日』とすることを提案した。
反乱軍の中枢メンバーであり、実質的にリーダーであったサンディアを慕っていた臣下達からは、一人として異論を述べる者はいなかった。
革命の日――それはサンディアの命日でもあったのだ。
「それじゃあ今年も……まずは私たちだけで」
「……はい」
サラキアと臣下達は円卓から席を外して集まると、互いに手を取り輪になっていく。
そして一様に目を閉じ、口を揃えて呟くように言う。
「新たなティオキアの母、サンディアよ。そして礎になった尊き命達よ。その魂に永遠の安寧があらんことを――」
かつて誰よりも国を憂い、革命の最前線にいた者達による、友を想った私的な儀式。
それは翌年も、その翌年も、十年、二十年、それ以上の時が経っても、忘れることなくかかさず行われた。
繋いだ手に皺が増え、腰が曲がり、頭髪から色が失われても。
だがその小さな輪の中、サラキアだけは変わらず若々しい少女の姿のまま。
前例のない最初の精霊の巫女であるサラキアは知らなかった。
あの日、精霊をその身に宿した時点で、自身が不老の身体になっていたことに。
EPISODE3 独りぼっちの女王様「大切な人は皆いなくなって、残されたのは私だけ。誰か教えて……この道が正しいのかどうかを」
サラキアの臣下の者達は、病や寿命によって一人、また一人と円卓から去っていく。
残された者達は寂しさを感じながらも、共に年齢を重ねていく上で“死を受け入れる”心持ちができているのに対し、サラキアの悲しみは筆舌に尽くしがたいほど深いものだった。
サラキアにとって臣下達は、自身に仕える者であると同時に、サンディアという大切な思い出を共有する友人。
あの日、家族と呼べる存在を皆殺しにされたサラキアにとって、彼らは現在の精神的支柱といっても過言ではなかった。
だが今、再び別れの時が訪れている。
精霊を身に宿したからといって、資質が一変するわけではない。
数十年の時の中で様々な経験をしたとて、サラキアの精神は円熟したとは言えぬものだ。
精霊の力は不老という“変化”を拒むのと同時に、“成長”も抑制している。
サラキアはあくまでも、少し気弱で繊細な心を持った、どこにでもいる少女。
彼女の時は、止まり続けていた。
一方で、ティオキアの時間は流れ続ける。
友である臣下の最後の一人を亡くし、サラキアが悲しみに打ちひしがれる頃。
円卓には国の新たな未来を担う若者たちが顔を並べていた。
「――以上の報告から、深刻な水不足は避けられません。早急に対応を進めるべきです」
「そう、ですね……」
サラキアが統治するようになって数十年。
ティオキアはすさまじい勢いで都市拡大が進み、人口爆発が起きた。
それはこの国が平和であることの証明ではあるのだが、人口に対して水の供給が追いつかないという事態へと直面してしまう。
全てをまかなうには、精霊の力といえどもう限界に達していた。
「サラキア様、どのようにお考えで?」
「私も考えてはいます……でも今は、決定的なものは……」
不敬にならぬよう気を使ったつもりの小さなため息がどこからか漏れた。
人知の力を除けば、サラキアはただの少女だ。元々国政を舵取りするような才能もなく、奇跡をもって革命を起こした当事者として、彼女を心の底から崇拝する臣下達の知恵でこれまでやってきた。
だが、彼らはもういない。
今ここにいる若き臣下達は、貴族に搾取されていたかつてのティオキアを知らない。飲食に困らず仕事もある、平和になったティオキアで生まれ育った者達なのだ。
国中が崇めてやまない女王の実態を知り、彼らは落胆の色を隠せずにいた。
「今は具体的なことは述べられません。ですが、必ず私がなんとかしてみせます。信じて預けてもらえないでしょうか」
それでもサラキアは気丈に振る舞い、皆に向けて言う。思うことはあるものの、その言葉に臣下達はうなずくしかなかった。
この国の水の供給は、今や8割以上が精霊の力によってもたらされている。
その力を行使する唯一の存在であるサラキアにそう言われては、口を挟むことなどできないからだ。
「……承知しました。一刻も早い対応を心待ちにしております」
合議を終え、サラキアが円卓を去って行く。
その背中を見送った若い臣下達は、臣下としての振る舞いも崩し、密談を始めた。
「なあ、本当に大丈夫か? 今度の水不足は、国が傾きかねない危機なんだぞ」
「『ティオキアの奇跡の女神』がああおっしゃってるんだ。我らがどうすることもできないだろう」
「おい、おかしな言い方をするな。聞かれたらコトだぞ」
「構うものか。皮肉などいくらでも言ってやる。確かに今の国を作ってくれたことには感謝している。だが、女王といっても水の供給だけで、政治はからきしではないか」
「それはそうだが……サラキア様の水があったからこそ、ここまでティオキアは栄えることができた」
「分かっている。問題は国政の最終決定権が女王にあることだ。女王は穏健すぎる。我らなら今以上の繁栄を国にもたらせるはずだ。政治が分からぬのなら、我らに任せておけばよいのだ」
「ふむ……」
ティオキアに革命を起こした奇跡。あの奇跡を目にした者達でさえ、幸福というぬるま湯に溺れ記憶を風化させていく。
それは、奇跡を知らぬ若者達であればなおさらのこと。
若き彼らはギラギラとした野心を持つ。
だが、それを実現するためにはサラキアの持つ権力が障害になっていた。
ティオキアの中枢は、すでに一枚岩ではない。
不穏な気配が城を満たしていくのを、サラキア自身も感じ取っていた。
EPISODE4 女王と国の変革「私の国に必要ないはずのものばかりが増えていく。理想郷と呼ぶには、ほど遠いものばかりが」
ティオキアが直面していた水不足危機は、あれからふた月もかからず宣言通り解消された。
だが、サラキアが表向きに施した対策は、いくつかの上下水道を増やす工事をしただけ。
精霊の力を使ったことは間違いないと思われるが、具体的にどんな対策を施したのか臣下達が訪ねるも、サラキアは言葉を濁すばかりで答えることはなかった。
大きな問題は解決したものの、その日以来サラキアの表情には陰が差し、日ごと憔悴した様子を見せるようになっていく。
気付けば臣下達の忠誠心の綻びは、サラキア本人も感じるほどあからさまなものになっており、軍備の過剰な拡大や、利益を第一に置いた強引な国策など、これまでのサラキアなら聞くまでもなく却下されていたであろう国政案を平然と議題にあげるようになっていた。
サラキアの求める理想郷とはかけ離れた思想。歯車が確実に狂い始めていることに焦燥感を覚えながらも、サラキアは毅然とそれに首を横に振り続ける。
ますます臣下達からの不信感が高まる中、ある日こんな国政案が合議の場に上がった。
「罪人への処罰が軽すぎるかと。移民も増え、これだけの人口を有する我が国では、厳格すぎるほどの罰を与えねば治安を維持できません」
打ち首、鞭打ち、入ったが最後実質終身刑である投獄。
かつて貴族が統治していたティオキアで、サラキアをはじめとする民はそれらに怯える存在であり、その恐怖はいまだサラキアの中に根強く残っている。
また、新たなティオキアに厳罰に値するような罪を犯す者はいない、という性善説にも似た盲信もあり、これまで死に直結するような罰は設けていなかった。
だがそれを今、見直すべきだと臣下は言う。
事実、ティオキアの治安は悪化しつつある。人間の集まるところに必ず争いは起こるもの。見せしめとして民に示すことは、治安回復の手段としてはもっとも手っ取り早いものだ。
それでも、提案した臣下は半ば諦めていた。どうせこの甘い女王が首を縦に振ることはないだろう、と。
「……いいでしょう。極刑を含め罪人に厳罰な処置を与えることを認めます。罪ごとの罰、そして新たな牢獄の建設など、必要なことを取りまとめてください」
サラキアから出た意外な答えに、驚きとまどう臣下達。
違和感を覚える者もいたが、好機を逃すまいとそれを受け入れていく。
サラキアの心境にどんな変化があったのか、それはサラキア本人以外誰も分からない。
だが確実なのは、今のティオキアにおいて、サラキアの変化は国の変化であるということ。
日増しに暗く陰を落とす表情を見せる彼女と比例するように、ティオキア国内は物々しい雰囲気が漂い始めていた。
やがて、初めての“処刑執行”が行われてからしばらく経った頃。
いまだ明るい表情を見せることのないサラキアの下に、他国から一人の客人が現れた。
名をゲルダというその女性は、アギディスの優秀な文官候補生であり、発展目覚ましいティオキアで国政を学びたいのだという。
卓越した工芸技術を持つアギディスと友好を深めることはティオキアにとっても大きな利であり、国はこれを受け入れることにしたのであった。
「お会いできて光栄です、女王陛下。此度の受け入れ感謝いたします」
サラキアの前で恭しくひざまずくゲルダ。その姿を瞳に映すサラキアは、目を見開き言葉を失ってしまう。
姉妹も、アギディスに親類もいなかったはず。隠れて子を成していたなんてこともあり得ない。何より、あの日からあまりに時が経ちすぎている。
だが、眼前でゲルダと名乗った女の風貌。
それは、かつてサラキアの親友だったサンディアその人に、生き写しと言ってよいほど極めて酷似していたのだった。
以来、サラキアは身の回りの世話をする従者達よりも、ゲルダを自身の側に置くようになる。
女王としての執務を行うときはもちろん、やがては自室で寝食を共にするほどまでに。
EPISODE5 あなたの顔、あなたの声「独りぼっちだった世界に、貴女が帰ってきたみたい。もうどこにもいかないで。ずっと私の側にいて」
「ねえ……頭を撫でてちょうだい?そうしてくれたら眠れるから」
「もちろんですとも。ふふっ、サラキア様は甘えん坊ですね」
「わ、笑うなんてひどいわ……」
「ごめんなさい。ただ、私には何から何まで全てを見せているのに、今さら子供のようなことをおっしゃるのがおかしくて」
「――っ!! げ、下品なこと言わないで!」
ベッドの上。顔を赤くして顔を背けたサラキアを抱き寄せると、ゲルダは多少強引に彼女の顎を掴んで自身へと向き直させる。
そのまま唇を重ねると、サラキアは抵抗することもなく、そのまま目を閉じた。
毎夜繰り広げられる、サラキアにとって唯一の至福の時。
いつからか極度の不眠を煩っていたサラキアは、ゲルダに触れて貰う間だけ眠りにつくことができた。
かつてのティオキアでは味わうことができなかった平穏な日々の中、サンディアと築くはずだった思い出を取り戻すかのように欲しがるサラキアに、ゲルダは全て応え続ける。
いつしか依存しあっているように見えるほど二人の距離は縮まり、亡くした親友とはまた違った関係が生まれていた。
「なんだか怖いの……この国が理想から離れていくような気がして……私には精霊の力しかないから……」
「そんなことありませんよ。きっと皆も分かってくれます」
「だって、ゲルダはもう知ってるでしょ?私なんて精霊の力があるだけで、何もできない娘でしかないって」
「それでいいじゃありませんか。皆がどんな謀を巡らそうが、サラキア様の力が無ければティオキアは成立しないのです。自信をお持ちください」
大きなブランケットに、一糸まとわぬ姿でくるまる二人。
自信を元気づける言葉を聞いて、サラキアは子供のようにゲルダの胸へと顔を埋める。
「私がここへ来た時も、サラキア様は危機的な水不足を解消されたところでした。そんなことができる方はサラキア様以外におりません」
「…………」
サラキアは顔を埋めたまま表情を見せない。だが、わずかにその身体をこわばらせた。
その様子にゲルダは気づきながらも、思い出したかのように続ける。
「以前からお聞きしたかったのですが、一体どんな力をお使いになったのですか? サラキア様の力の偉大さは聞き及んでおりますが、この国中を救うとなるとあまりにも……」
「……特別なことはしていないわ」
「私にも秘密、なのですね。もしかして、時折夜な夜なお一人で外出なされることに何か関係が?」
「……今日はずいぶんと強引なのね。私達の仲とはいえ、貴女は他国の者。女王として話せないことだってあるわ」
今度は完全に拒絶を表すサラキアの意を感じ取ったゲルダは、すかさず空気を柔和させるべく困り笑顔を作る。
「お気を悪くしないでください。秘密にされていることが寂しくて、出過ぎた真似をしてしまいました」
「怒ってるわけじゃないの。でも……今はその話はよして」
そう言ってサラキアはベッドを抜けだし立ち上がると、サイドテーブルに置いてあった水瓶からグラスへ水を注ぐ。
水不足を解消するため、再度行使した奇跡の力。それが一体何であるかを、ゲルダをはじめ誰一人としてサラキアは明かしていない。
その“秘密”を抱え続けることは彼女にとって確実な重荷であり、彼女の精神を疲弊させる原因そのものであった。
本当は誰かに話したい。
だが、それを話してしまえば何もかもが崩れ落ちていくかもしれない。
板挟みになって苦悩するサラキアは、思わず口から漏れ出しそうになる言葉を押し込めるように、一気に水を飲み干した。
EPISODE6 不可侵の秘密「私が招いた事態……それは分かっています……でも私にできる事なんて、他にないのです……」
ティオキアを包んでいたきな臭い空気が具体的に顕在化したのは、半年後のことだった。
豊かに栄える国があれば、それを狙い悪事を働く者が現れる。
連日のようにティオキアに入国しては、徒党を組んで犯罪を犯す他国の移民達。
ティオキアとてそれらを野放しにするわけもなく、速やかに捕らえては先の厳罰化によって投獄などの処置を施し続ける。
犯罪は増えたものの、適切な処置により均衡を保っている。不安はありつつも、民達はそう納得していた。
だがある日、牢獄に収容されている移民達の祖国から、身柄の引き渡しを要求されたことで事態は一変する。
自国内での罪をティオキアが裁くのは何ら問題はないのだが、外交を考えると突っぱねることに利はない。国外追放が約束されるのであれば要求を飲むのが得策だと、国は考えた。
釈放する罪人のリストを片手に、サラキアの臣下が派遣した男が、暗く劣悪な環境の牢獄を歩く。
今回の対象者は20名ほど。引き渡す罪人を確認する、ただそれだけの簡単な仕事のはずだ。
だが、牢獄をいくら歩き回っても、対象リストの移民が一人として見つからない。それどころか自国の罪人の何名かさえ忽然と牢獄から消え去っていた。
まるで、神隠しにあったかのように。
「これは由々しき事態です。我が国への要求は急遽反故にせざるを得ませんでした。今は小さくとも、戦争の火種になりかねません」
円卓に座る臣下の一人が、語気を強めて言い放つ。
豊かなティオキアを移民が狙うように、いくつかの他国も虎視眈々と機を伺っているのは事実だからだ。
懸念すべきことはまだある。このような不気味な事件は当然自国内にも知れ渡り、ティオキアの民達の不安と不信は日に日に高まっている。
「罪人の処遇はサラキア様直々の管理でございます。原因に心当たりはないのですか!?」
「手を尽くして調査しているのですが、何も……」
臣下達は、もはや失望を隠さない。
彼らの顔には、仕える女王が無能であることの失望と落胆からなる“怒り”がまざまざと表れている。
限界はとうに超えていた。
いつからか臣下達はひとつの仮定を繰り返し議論するようになっている。
「もしも精霊の力を我らが手にすることができたら」
無能な小娘の一存ではなく、優秀な自分達の思惑次第で思いのまま行使することができたら、この国はもっと豊かになるはずだと。
だがそれは同時に、主君であるサラキアを絶命させることを意味している。
強大な精霊の力を奪うなど荒唐無稽な謀りに見えるが、手がないわけではない。
ネフェシェから零れ落ちた精霊の力。土の精霊を授かったルスラの地では、ある要因によって再び他者へと力が継承された――そのような出来事が、巫女に近しい存在には歴史として伝わっている。
それは――“絶望”。
その命を投げ捨ててしまいたくなるほどの絶望に落とせば、奇跡の力を別の器へ移し替えることは可能なのだ。
ほんの小さな毛糸の綻びが、少しの力で勢いよく解けていくように、彼らの胸に渦巻く黒い何かが急速に煮えたぎっていく。
臣下たちはそんな思いを悟られぬようにしつつ、数時間に及ぶこの日の合議が終わりを迎えた。
机上の論争には限界がある。原因究明は続けながらも、徹底的な再発防止を掲げ、罪人の管理はサラキアから臣下へと権限を渡すことで話がついた。
その晩。サラキアはひどく疲弊していたのか、ゲルダの腕に抱かれるとあっという間に眠りについた。
目にはうっすらと涙が浮かび、寝息が聞こえないほど深く深く熟睡している。
それを確認したゲルダはサラキアの首へ手を伸ばすと、ゆっくりとネックレスを外した。ネックレスからは小さなカギがぶら下がっている。
そしてサラキアを置いてベッドを抜け出すと、鏡台に置いてある小箱の鍵穴へとその鍵を挿した。
箱の中に仕舞われていたのは一つだけ。鉄の輪に通された、先ほどの鍵よりさらに大きな鍵がいくつも
連なった鍵束だった。
ゲルダはサラキアの部屋を抜け出すと、迷わず歩を進める。
すでに技師が城前で待機しているはず。鍵の型さえとってしまえば、複製自体はゆっくり行えばいい。サラキアが目を覚ますまでに元通りにすることなど容易い。
不可侵の秘密。
サラキアが夜な夜な人目を忍んでどこへ通っていたのか。調べはもうついている。
月のない夜の闇に紛れ、ふらふらと歩く“亡者のような何か”を荷馬車に詰めたサラキアが向かっていた場所。
あの場所に、必ず何かが――。
そう確信するゲルダの口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
EPISODE7 命の水「どれも正解で、そして不正解だったのでしょう。ならば犠牲を払う道を、私は選ぶしかなかった」
数日後。
ティオキアの中心地から少し外れた小高い丘の上に、臣下達は揃って姿を見せていた。
眼前には、サラキアの命によって都市拡大の計画地から外され、革命以前から手つかずのまま保存されている建物が見える。
かつてアテリマ教の隠し協会としても機能していた、孤児院跡だ。残されてはいるものの、手入れされているわけではない。孤児院だった建物は今やあちこちが朽ちはじめていた。
それでも元は重厚な造りになっていたのだろう。雨風をしのぐくらいなら今でも役目を果たせそうではある。
悪戯や侵入防止のため周囲を囲っている塀を越え、孤児院の前までやってくると、臣下の一人が鍵束を取り出した。
そのうちの一つを鍵穴に挿すと、抵抗もなくカチャリと音を立て、扉が開く。
中へと足を運ぶと、そこには孤児院としての名残は一切感じられないほど荒れた光景が広がっていた。
テーブルやイスといった壊れた日用家具は倒れ、燭台やガラスなども床へと散乱している。じめっとした空気を体現するように、室内のあちこちでは苔まで生えている。
“廃墟”、としか表現できない様相の中、臣下達の持つランタンの明かりがあるものを照らす。
「明らかに人の通った跡があるぞ……それも、一度や二度ではない……」
草木を踏み分けて現れる獣道のように、苔や埃、ガラス片を払ったと思われる“道”がそこにあった。
道は孤児院内の奥の奥へと続いており、それに従って進む臣下達はとある扉へと辿り着く。
「なんだこの扉は……本来ここにあるはずがない、真新しい物だ……」
彼らは何か寒気のようなものを覚えながらも、半ば「まさか」と思いつつ、鍵束を取り出す。
一つ目の鍵。
二つ目の鍵。
三つ目の鍵。
過剰なまでに厳重に施錠された扉の鍵が、呆気ないほど開いていく。
間違いない。サラキアの秘密はここにある。
これほどまでに他者を“拒絶”する場所に踏み込むことに、空恐ろしさを感じるものの、それでも臣下達は扉の向こうへと歩を進めた。
手持ちのランタンでは先を照らし切れぬ、長い長い通路。
構造的には、孤児院の裏手から丘の中に穴を空けたように作られたその通路は、明らかに孤児院に備わっていたものではない。
やがて行き止まりで待ち構えていた最後の扉の鍵を開ける。
その先に広がっていた光景に、臣下達は言葉を失った。
ただ一人、かろうじて喉から絞り出すように呟く。
「これは……」
円形に型でくりぬいたような、広い部屋。
その部屋を囲っているのは壁ではなく、一面を覆うガラス張りの水槽のような物だった。
水槽からは等間隔に配置された管が伸び、部屋の中央に空いた穴へと水が流れ続けている。
その造りから、一見して貯水槽のような機能を果たすものだと理解できる。
だが貯水槽としては不可解な点がある。
その機能を果たすのであれば、山の上流から流れる水や雨水といった、“水槽に貯めるための水”が必要なはず。にも関わらず、水位が下がるようなこともなく、無限に水を流し続けている。
それは、明らかに自然の理に反する現象だった。
「あれは、なんだ……?」
臣下達の持つランタン頼りの薄暗い部屋の中、水槽の中にいくつもの“何か”が漂っているのが微かに見えた。
魚の類ではない。その質感には既視感があり、生物的な有機物だと分かる。
意を決した臣下の一人が、恐る恐る水槽の前へと近づいていく。
そして、手に持ったランタンを照らすように掲げ、ガラスの向こうをのぞき込んだ。
「……ひいっ!!」
「ど、どうした!!」
残りの者達も慌てて駆け寄り、それぞれ同じように水槽へランタンを掲げる。
水の中の浮遊物は明かりに照らされ、その姿を浮き彫りにする。
臣下達はそれが何であるか一瞬理解できなかった。
なぜなら、自分達が知る“それ”とはあまりにかけ離れた姿だったから。
それは――人間の死骸であった。
死骸だと断言できるのは、この状態で生きている人間などいるはずがないからだ。
そのどれもが肉体の大部分を失っている。
力任せに切り落とされたのではなく、まるで熱い鉄板に押しつけた氷のように、なめらかに、かつ不自然にえぐり取られていた。
頭部、手足、袈裟斬りのように半身を大きく斜めに。
規則性は感じられない。だが確実にどこかの部位を失っているにも関わらず、なぜか血液が溢れることはなく、露出する肉と骨の断面が嫌でも目に入る。
「おい! まだ無事なものがいるぞ!」
震え声でそう言い放った者の前には、“人間らしい姿”を保ったまま正面を向いて浮かぶものがいた。
助け出したほうがいいのではないか、そう臣下達が戸惑っている間、それは水流に従ってゆっくりと水中で回転する。
臣下達がその背中を見ることはない。
縦に真っ二つにしたように、背面全ての断面を露わにした死骸がそこにあった。
理解が追いつかないまま呆然と眺めていた臣下の一人が、こみ上げるものに耐えられず、床に吐瀉物をまき散らしてしまう。それに釣られて一人、また一人と嘔吐する者が現れた。
地獄のような光景。
どんな悪夢だろうとこんな光景を見せはしない。想像、空想の領域を超えている。
それでもこれは紛れもない現実。何か必ず意味があるはずだと考えた一人が、焼ける胸をこらえながら注意深く観察を始めた。
「死骸から……水が湧いている……?」
肉の断面をよく見ると、小さな水泡が発生していることに気がつく。
死骸は何かを生みだしている。
無限に湧き出る水。
人知を超えた現象――精霊の力。
この光景が何を意味しているのか理解するのにそう時間はかからなかった。
精霊の力によって、死骸が水へ溶け出している。水へ――変換されているのだと。
頭部が残った死骸の顔に見覚えがあった。牢獄から神隠しにあった罪人達だ。
水不足の解消、言葉を濁したサラキア、全てが結びついていく。
「我らは……そして民は……この水で農耕をし、身を清め、喉を潤していたのか……」
「どうやらそのようだ。なんとおぞましい……」
「女王は狂ったか! 人間の所業ではないぞ!」
「ああ、人間ではない。人間に、こんな手段は選べない……」
腐肉から生まれた水を摂取して生を営んでいた。その事実は、あまりに倫理から外れすぎている。
だが、この事実は臣下達にとって好機でもあった。
精霊の力を持つ小娘を女王の座から引きずり下ろし、その力を手中に収めるための。
「どうやってここまでたどり着けたのでしょう」
臣下達が一斉に振り向くと、扉の前にはサラキアが立っていた。
何を述べても逃れられない状況に諦めているのか、その瞳に光はない。
「女王……ご説明願おう!」
「……こうするしかなかったのです。必要な水は精霊の力で賄える量を超えていました」
「だからといってなぜ――」
「私はこのティオキアの地に流れる水脈を操っていただけ。無から有は生み出せません。それは精霊の力も同じ。薪をくべて炎を燃やすように、動物を屠って腹を満たすように、何かを為すには必ず犠牲が必要なのです」
「その贄として選ばれたのが人間、とでも!?他に方法はなかったのですか!」
「水は命の源。この全ての大地の母であり礎。人の魂が昇華する瞬間の輝きと、肉体に刻まれた叡智……代償として、対価として、ふさわしいのはこれしかなかった……」
「魂の昇華……? では、この者達は生きたまま……」
そこで初めて、俯いたサラキアは悲しみをその表情に滲ませる。
水を生むための贄として、罪人とはいえ生ける人間を使った。
それは、紛れもない事実だ。
「たとえそうであっても、こんな所業が許されるものか!!」
「ではどうすればよかったのですか!! 水脈に負担をかけるのはとうに限界……すでにティオキアの水は全て、この部屋のもので補っているのですよ!?」
驚愕の事実におののく臣下達を気にもとめず。
たった一人で抱え込んでいた苦悩を、サラキアは初めて爆発させる。
「このまま飢えて死ねと、貴方は民に言えましたか!? ティオキアの地に生まれたのが間違いだったのだと! 諦めろと言えましたか!?貴方達は自身の権力を強固にしようとする国政ばかり……できもしないことを私に押しつけたのは貴方達ではないですか!!」
いつも穏やかで、ともすれば気弱にも見えるほどのサラキアが、そう言い放つ。
無知な小娘とばかりに思っていた女王から、胸中を見透かされていたと分かり黙り込む臣下達。
綻んだ糸は、もう解けきっている。
編みぐるみだったか、カーディガンだったか。何を紡いでいたのかはもう分からない。
ここにあるのはもう、形を為さず床に散らばるただの糸だ。
そんな軋轢と緊張が高まりきった頂点で、サラキアは最後の言葉を吐き捨てた。
「貴方達を女王への不敬の罪で罰します。自身が望んだ厳罰に処されるのは本望でしょう」
その言葉に、臣下達の血が一気に冷えていく。
もう誰も止める者などいない。
まさに今サラキアの背後から、臣下の一人が短刀を振り下ろそうとしていた――。
EPISODE8 水の都ティオキア「私の愛したティオキアの民の声が聞こえない……みんなどこにいるの? お願い、姿を見せて……」
その日、ティオキアには珍しい雪が降っていた。
城前に設けられた処刑場には斬首台だけがぽつんと置かれており、それを囲むようにティオキア国民が処刑場へと集まっていた。
「罪人! 前へ!!」
衛兵の声を合図に、繋がれた両手の縄を引かれて、サラキアが処刑場へと姿を現した。
薄汚れたボロ布ともつかない衣服を纏い、背中に広がった血がどす黒く固まっている。
冷たい板張りを裸足で歩く、青白い顔をした女王の姿を見た民達は驚きと悲しみのため息を漏らした。
「ティオキアの民よ! すでに通達している通り、我が国の女王だったものは許されざる悪事を犯した!」
ティオキアの民はすでに聞き及んでいた。
女王であるサラキアが私欲のため一部の商人に便宜を計らい、反する者は不当な理由で投獄するという、かつてこの地にいた貴族と同じことを行っていたと。
さらには、醜悪な趣向を持つ豪商達を喜ばせるため罪人を牢獄から攫い、命を弄ぶような残虐なショーを開いていたのだという。
だが、ほとんどの民は未だその通達を信じ切ってはいない。
優しく穏やかで、この国を救ったあの女王がそんなはず――そんな考えを捨てきれなかった。
その真偽を確認すべく、ほぼ全国民と呼べるほどの民がこうして集まっていた。
「我らとしても“奇跡の女神”に手をかけるのは耐えがたい苦痛である! しかし! この者の下で国が腐敗するのは看過できぬ! 断腸の思いであることは理解頂きたい!!」
臣下の者がそう張り上げると、衛兵がサラキアの背中を乱暴に押した。
一歩、また一歩と、サラキアが重い足取りで歩を進めるたび、民達から悲鳴の声が上がる。
やがて斬首台の前までやってくると、力任せに伏せられたサラキアの首が、穴の空いた木枠へと収められていく。
頭上には、縄で吊された巨大な刃が鈍い光を放っている。人間の首を切り落とすためだけに作られた、恐ろしい刃が。
その時、これまで押し黙っていたサラキアが初めて叫ぶように言った。
「私は……! 私はそのような罪など犯しておりません!!」
その言葉に表情も変えず、臣下の者が答える。
「此度の事件は冤罪であると申すか!であるならば、最後に弁明の機会を与えよう!お前を思い、こうして集まった民に示すがよい!」
言われたものの、サラキアは口ごもってしまう。
それを見た臣下の者は口元に薄ら笑みを浮かべると、サラキアの側へと近づき耳元に囁いた。
「真実を話してみればどうです。『私は民のため、人の死骸で作った水を与えていただけだ』と。『罪など犯していない』と。当然、その言葉がこの国にどんな影響を及ぼすかお分かりでしょうが」
「……っ!」
サラキアはそれ以上何も言うことができなかった。
真実を伝えたことで起こるであろう混乱が、多くの悲劇を生むことは容易に想像できる。
もうすでに手は残されていない。
それは、臣下から裏切りの凶刃を浴びせられた時点で決まっていたことなのだ。
「何も言うことはないか! ティオキアの民よ!この者は今、自らの罪を認めた!!」
何かの間違い。そう信じていた民達は深く落胆する。
それと同時に、崇拝の対象であったサラキアの裏切りは、怒りへと容易く変容していく。
――殺せ。
――殺せ……殺せ……。
――殺せ……殺せ……!
――殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!!!
断罪を願う民の声が、大きなうねりとなってこだまする。
サラキアの瞳にはもう、愛したティオキアは映っていない。
圧政から救い、豊かな国を作り、誰もが平和で心穏やかに暮らせる理想郷。
そんなものは、どこにもなかった。
欺瞞と怒りだけが満ちた、醜い邪悪が吹き上がる。
大切な者を殺され、文字通り身を捧げたサラキアが最後に手に入れたのは、こんな光景だった。
壊れかける心に残された力を振り絞るように、サラキアはかき消えそうな声で言う。
「お願い……せめて最後に……ゲルダに会わせて……そうしたら、きっと未練なく逝けるわ……」
「いいだろう。せめてものはなむけに叶えてやる」
臣下がそう言うと同時に、まるでこうなることが分かっていたかのように処刑場へゲルダが現れた。
ゲルダはサラキアの元までやってくると、伏せる彼女の目線に合わせてしゃがみ込む。
「ああ、サラキア様……おいたわしい……」
「ゲルダ……来てくれたのね……あれから一度も会えなかったから、最後に顔を見たかったの……」
「なんたる光栄……でも――」
言いかけて、ゲルダはこれまで見せたことのない嘲笑を浮かべると、驚くサラキアを無視して続ける。
「ちょっと呆れちゃうわね。世間知らずな小娘だとは思っていただけれど、ここまで間抜けだなんて」
「ゲルダ……?」
「誰の手配で孤児院の鍵を用意できたと思う?私よ、私。はあ……なんだか達成感がないわ」
「そ、そんな……」
「名前も出自も、全部嘘。この顔だってあんた好みに作ってもらったものよ。あんたはずーっと前から罠にかかっていたの。ティオキアの連中、本当にやり方がえげつないんだから」
「…………」
「良い夢は見れたかしら? あ、最後にお土産」
打って変わってゲルダは優しい微笑みを浮かべると、サラキアにとって斬首以上の仕打ちを浴びせる。
「『サラキア。アタシ達、ずっと友達だよな!』――どう? サンディアとかいう女に似てた?」
サラキアがサラキアであることを構成する何かが、音を立てて崩れ落ちていく。
その心が、あまりの絶望に破壊される瞬間。
サラキアは最後に慟哭混じりの叫び声をあげた。
「嫌ぁぁぁーーーーーー!!!!」
サラキアの耳に、膜がかかったようなくぐもった声が響く。
そして間もなく何かが風を切るような音が聞こえたかと思うと、サラキアの身体は呆気なく二つに分かれた。
孤児院の家族達が、サンディアが迎えに来てくれることもない。
月もない真夜中、ロウソクの明かりを吹き消したように、ただ暗闇だけが終わりを告げていた。
「おお……おお……!!」
その時、亡骸となったサラキアの身体に起こった変化に、臣下の者が声を上げた。
切り離されたその首からは血ではなく、透き通った透明な液体がぶくぶくと泡のように吹き出ている。
その液体は一つに寄り集まり、次第に海月のような形を成したかと思うと、やがて少女のような姿へと変容していった。
笑っているような、哀れんでいるような。
人間を模してはいるが、その表情からは生物的感情が読み取れない。
その瞳が側にいるゲルダをまっすぐ捉えていたかと思うと、彼女の肉体へと同化していった。
絶望によりサラキアという肉体を捨てた精霊は選んだのだ。
ゲルダを器――次の巫女として。
「見たかティオキアの民よ! 精霊様は欲にまみれた身体を捨て、次なる巫女にこのゲルダをお選びなさった! 精霊様のご加護は消えぬ!!この先もティオキアの未来は安泰である!!」
鳴り止まないほどの歓声が響き渡る。
それは、ティオキアの巫女が永遠に国の傀儡となった瞬間でもあった――。
その後、臣下であった者達の主導によって新たな王政が作り上げられ、実質的に国の実権を彼らが握ることとなる。
そして、かつて異教と呼ばれたアテリマ教の布教を推し進め、清貧という理念の元、欲望という感情を抑制していく。
全ては王族という地位を守るため。
握った権力を、一族代々我が物にするため。
形は違えど、それは革命以前のティオキアと何ら変わらない。
理想郷を作るというサラキアの夢は、最後まで叶わず消えていった――。
それから、幾ばくかの時が流れる。成り行きで継承したゲルダは巫女としての才に乏しく、サラキア亡き後、ティオキアに必要な水量を維持することができなかった。
あれほど隆盛を極めていたのが嘘だったかのように、貧しいものから飢え、そして死に、多くの者は国を捨てていく。
そんな混乱から落ち着きを見せた頃、ティオキアは決して豊かだと呼べない国へと成り下がっていた。
だが、権力者達は甘んじてそれを受け入れていたわけではない。
かつてのティオキアを取り戻すため、己の描く理想の国を作るため。
“その時”を待ち続けていた。
――国の主導で新設された、広大な土地に建てられたレンガ造りの建造物。
その中庭で、完成を祝う式典が執り行われていた。
祝賀ムードに包まれる宴の中、かつてサラキアの臣下であり、今や国の主権を握る者達の姿がある。
彼らは肩を寄せると、微笑みを崩すことなく囁き合う。
「巫女育成のための学園……これで全てが揃いましたな」
「ああ、我らの計画は順調だ……」
サラキアやゲルダのような偶発的なものではなく、力の継承、ふさわしい人物の育成、それら全てを“学園”という施設を通して国で管理する。
それは、精霊の力を意のままに振るうのは巫女ではなく、実質的にその権利を国が握ることを意味していた。
しかし、この学園の存在意義はそれだけではない。
「思えば“彼女”は巫女としての才覚があったのでしょう……我々ではあのような方法を導き出せなかった」
「“代償”、か。ようやくあの境地へ辿り着くことができる……」
近い未来、この学園で多くの人間が命を落とす。
喜び、悲しみ、希望、欲望、そして絶望。人の持つあらゆる感情が混ざり合い、ぶつかり合い、生と死の狭間で醜く美しい混沌が生まれる。
それらが散りゆく瞬間、魂はこれ以上ないほど上質な贄となり、精霊の力をより強大なものへと育んでいく。再び国中を水で満たすほどの“奇跡”をおこせるほどに。
サラキアは、この国に残していった。
何かを為すには犠牲が必要だということ。
そして、命は命を使って救えることを。
――どれほどの時が経っただろうか。ティオキアは以前と同じ活気に満ちており、街を行き交う人々は皆笑顔を浮かべている。
港では浅黒く肌を焼いた威勢の良い漁師が、今日の漁獲に満足そうに頷く。
羊飼いは犬と戯れて笑い、農家の娘は両親を手伝い種を撒く。
井戸に集まる婦人は噂話に花を咲かせ、学生は急ぎ足で駆けていく。
誰もが当たり前に享受する、平和な日常風景。
その平和をもたらしているティオキアの水を、今日も誰もが撒き、浴び、飲んでいる。
質の良い、美しく透き通った命の水を。
これからも、遙か先の未来まで。
| ■ 楽曲 |
| ┗ 全曲一覧( 1 / 2 / 3 ) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順 |
| ┗ WORLD'S END |
| ■ キャラクター |
| ┗ 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE |
| ┗ NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE |
| ┗ マップボーナス・限界突破 |
| ■ スキル |
| ┗ スキル比較 |
| ■ 称号・マップ |
| ┗ 称号 / ネームプレート |
| ┗ マップ一覧 |
コメント
- 水の精霊というとセイレ-ンみたいに下半身が魚になることが多いけど、あえてクラゲにするなんて斬新だね。 -- 2023-10-09 (月) 11:46:17
- 真下から見たら人間の部分がどうなって見えるのか気になる、モツが見えるんだろうか -- 2023-10-12 (木) 08:10:02

