水の精霊

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:03:50

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水の精霊.png
Illustrator:きのこ姫


名前水の精霊
年齢不明
職業水の精霊

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1道化師の狂気【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


道化師の狂気【SUN】 [ABSOLUTE+]

  • 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】よりもハイリスクハイリターン。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400でボーナスの増加が打ち止めとなる。
    効果
    100コンボごとにボーナス +????
    JUSTICE以下50回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+7000
    2+7010
    3+7020
    11+7100
    21+7200
    31+7300
    41+7400
    61+7600
    81+7800
    101+7995
    ▲NEW PLUS引継ぎ上限
    102+8000
    142+8200
    182+8400
    222+8600
    262+8800
    302+9000
    342+9200
    382+9400
    400+9490
    推定データ
    n
    (1~100)
    +6990
    +(n x 10)
    シード+1+10
    シード+5+50
    n
    (101~400)
    +7490
    +(n x 5)
    シード+1+5
    シード+5+25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/10/12時点
SUN+12145+8215
SUN13301+8995
~NEW+0401+9490


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
13681114182226
73681114172226
163681114172126
213581014172125
403581013172125
513581013162024
733571013162024
843571013162023
913571013161923
102357912151923
139357912151922
169357912151822
217357912141821
248357911141821
267357911141721
302246811141720
349246811131720
377246811131620
397~246811131619


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    SUN+ep.Ⅵ1
    (305マス)
    305マス
    (-)
    炎の精霊
    2
    (305マス)
    610マス
    (-)
    土の精霊
    3
    (305マス)
    915マス
    (-)
    風の精霊
    4
    (305マス)
    1220マス
    (-)
    水の精霊

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 力と犠牲「誰もが幸福を享受する新しい国……必ずや、この地を理想郷へと作り上げてみせます」


名前:水の精霊
年齢:不明
職業:水の精霊

 ――全ての事象は、代償の上に成り立っている。
 生きるために植物を食む家畜。
 生きるためにそれを食す人間。
 家屋を作るため森を切り、道を作るため山を削る。
 何かを成すためには、それに見合う『犠牲』を
払わなくてはならないのが世の理である。

 かつて、豊穣神「ネフェシェ」を崇めるこの大地で、
その神の力を我が物にするべく大きな争いが起きた。
 その御霊を4つに分けた神の力は精霊として顕現し、
神の意に限らず4人の少女へと継承されていく。
 火の力はアヴェニアスへ。
 土の力はテルスウラスへ。
 風の力はメーヴェへ。
 水の力はサラキアへと。
 精霊の依代である巫女となった少女たち。
 その道の先に抱えきれぬ悲劇が待っていることなど
知らず、彼女らはそれぞれの思惑を胸に歩き続ける。

 「新たな国を作り直す」。
 水の巫女「サラキア」がそう決意してから、すでに
十数年が経とうとしていた。
 まだ築城されて日が浅い城内のテラスから、眼下に
広がる都の風景を彼女は眺めている。

 豊かな資源を有し、繁栄を続ける都「ティオキア」。
 かつて、徹底的な階級社会と苛烈な搾取を繰り返す
貴族政治によって見せかけの平和を保っていたその街は
ある日たった一晩、たった一人の手によって全てを
作り替えられた。
 反乱などという生易しいものではない。人知を超えた
圧倒的な力によって、圧政を敷いていた貴族達は残らず
絶命し、ティオキアは新たな国として文字通り
生まれ変わったのだ。

 新たに建城されたばかりのティオキア城。
 そのバルコニーから城下町を見下ろす女性がひとり。
 ティオキアの新たな国主――サラキアは、陽の光に
瞳を輝かせる。
 そこには一点の曇りも見られない。
 自らの手で国を希望あふれる未来へ導くことが
出来ると信じているからだ。

 「この身に宿した精霊の力。この奇跡の力さえ
あれば――」

 だが、国の繁栄を成すにも、それに見合った
『犠牲』を払わなくてはならない。
 人知を超えた存在である精霊の力とて、その理から
外れることはできないのだ。

 与えられる幸福がどこからやってきたのかも
気付かずに、ティオキアの民は安寧を貪り続けていく。
 「無」から「有」が生まれることなどない。
 胸の希望を燃やしながらも、この国でサラキア
ただひとりだけが、それを真に理解していた――。


EPISODE2 友が残したもの「精霊の力だけじゃない。貴女がいたから今のティオキアがある……だから、せめてもの餞に」


 上座に鎮座するサラキアを囲むように、円卓に顔を
並べる女王の臣下達。
 彼らは皆、サラキアの亡き親友であるサンディアが
所属していた、反乱軍のメンバーだった者達だ。
 私欲のためにティオキアの民へ圧政を強いていた
貴族を討ち、サラキアの手で革命が起こされた後、
彼らが王政へ関与する存在となるのは自然なことで
あった。

 「件の新設上下水道は何の問題も無く機能して
おります。これでさらに民の生活は良くなるでしょう。
すでに農地拡大の計画も進んでいるようです」
 「そうですか。それは喜ばしいですね」
 「これもひとえにサラキア様のお力があってこそ。
偽りの富に飾られたあの頃の国と比べたら……まるで
夢を見ているようです」
 「ふふ、あれからもう何年も経っているというのに。
でも、今のティオキアがあるのは私ではなく精霊様の
おかげ。短い時間でここまで国が豊かになったのは、
精霊様の力があったからこそです」

 ティオキアの繁栄に最も貢献した要素。それは
“水”であった。
 旧貴族制時代より他国からは豊かな国と
認識されていたが、それは大陸において重要な港を
有するティオキアが、貿易で築き上げたもの。
 元来土壌として保有していた良質な自然と水源は、
金を持つ商人貴族達の元へ。そうではない民は恩恵に
あずかれることもなく厳しい暮らしを。貴族は手元の
富を維持するため民に圧政を強い続けていく。
 それがかつてのティオキアに蔓延っていた
“偽りの富”であった。
 だがそれも、サラキアによる革命によって
払拭される。
 女王となったサラキア王政の管理の下、国が持つ
資源は適切に民へと行き渡るよう体制が整われて
いった。
 しかし、ここでひとつの問題と対峙する。
 質の良い水源を持つティオキアであったが、国中へと
与えるには“量”が圧倒的に足りなかったのだ。
 頭を抱える臣下達。だがサラキアは、困った様子を
見せることもなく、ティオキアにとって二度目の
“奇跡”を起こす。
 新たに上下水道を繋げた施設を作り上げると、
そこから無限に思えるほどの水が湧き上がり国中を
満たしてゆく。
 サラキアが振るったのは水の精霊の力。偶然か
必然か、その力はティオキアが抱える問題にピタリと
合致していたのだ。
 水は大地を濡らし、植物を育み、それを食む家畜は
肥えていく。
 偽りなどではなく、名実ともにティオキアは大陸一の
豊かな国へとなっていった。

 「――では報告会はここまで。サラキア様、
ご準備を」
 「ええ。大事な式典ですものね。遅れるわけには
いきません」

 この日、ティオキアは祝日である。
 “革命が成し遂げられた日”である今日は、午後から
王城前にて国民総出で参加する式典が行われる予定だ。
 革命直後、サラキアはこの日をかつての友の名を
取って『サンディアの日』とすることを提案した。
 反乱軍の中枢メンバーであり、実質的に
リーダーであったサンディアを慕っていた臣下達
からは、一人として異論を述べる者はいなかった。
 革命の日――それはサンディアの命日でも
あったのだ。

 「それじゃあ今年も……まずは私たちだけで」
 「……はい」

 サラキアと臣下達は円卓から席を外して集まると、
互いに手を取り輪になっていく。
 そして一様に目を閉じ、口を揃えて呟くように言う。

 「新たなティオキアの母、サンディアよ。そして礎に
なった尊き命達よ。その魂に永遠の安寧が
あらんことを――」

 かつて誰よりも国を憂い、革命の最前線に
いた者達による、友を想った私的な儀式。
 それは翌年も、その翌年も、十年、二十年、
それ以上の時が経っても、忘れることなくかかさず
行われた。
 繋いだ手に皺が増え、腰が曲がり、頭髪から色が
失われても。
 だがその小さな輪の中、サラキアだけは変わらず
若々しい少女の姿のまま。
 前例のない最初の精霊の巫女であるサラキアは
知らなかった。
 あの日、精霊をその身に宿した時点で、自身が不老の
身体になっていたことに。


EPISODE3 独りぼっちの女王様「大切な人は皆いなくなって、残されたのは私だけ。誰か教えて……この道が正しいのかどうかを」


 サラキアの臣下の者達は、病や寿命によって一人、
また一人と円卓から去っていく。
 残された者達は寂しさを感じながらも、共に年齢を
重ねていく上で“死を受け入れる”心持ちが
できているのに対し、サラキアの悲しみは筆舌に
尽くしがたいほど深いものだった。
 サラキアにとって臣下達は、自身に仕える者であると
同時に、サンディアという大切な思い出を共有する
友人。
 あの日、家族と呼べる存在を皆殺しにされた
サラキアにとって、彼らは現在の精神的支柱と
いっても過言ではなかった。
 だが今、再び別れの時が訪れている。
 精霊を身に宿したからといって、資質が
一変するわけではない。
 数十年の時の中で様々な経験をしたとて、サラキアの
精神は円熟したとは言えぬものだ。
 精霊の力は不老という“変化”を拒むのと同時に、
“成長”も抑制している。
 サラキアはあくまでも、少し気弱で繊細な心を
持った、どこにでもいる少女。
 彼女の時は、止まり続けていた。

 一方で、ティオキアの時間は流れ続ける。
 友である臣下の最後の一人を亡くし、サラキアが
悲しみに打ちひしがれる頃。
 円卓には国の新たな未来を担う若者たちが顔を
並べていた。

 「――以上の報告から、深刻な水不足は
避けられません。早急に対応を進めるべきです」
 「そう、ですね……」

 サラキアが統治するようになって数十年。
 ティオキアはすさまじい勢いで都市拡大が進み、
人口爆発が起きた。
 それはこの国が平和であることの証明では
あるのだが、人口に対して水の供給が追いつかない
という事態へと直面してしまう。
 全てをまかなうには、精霊の力といえどもう限界に
達していた。

 「サラキア様、どのようにお考えで?」
 「私も考えてはいます……でも今は、
決定的なものは……」

 不敬にならぬよう気を使ったつもりの小さなため息が
どこからか漏れた。
 人知の力を除けば、サラキアはただの少女だ。
元々国政を舵取りするような才能もなく、奇跡を
もって革命を起こした当事者として、彼女を心の底から
崇拝する臣下達の知恵でこれまでやってきた。
 だが、彼らはもういない。
 今ここにいる若き臣下達は、貴族に搾取されていた
かつてのティオキアを知らない。飲食に困らず仕事も
ある、平和になったティオキアで生まれ育った者達
なのだ。
 国中が崇めてやまない女王の実態を知り、彼らは
落胆の色を隠せずにいた。

 「今は具体的なことは述べられません。ですが、必ず
私がなんとかしてみせます。信じて預けて
もらえないでしょうか」

 それでもサラキアは気丈に振る舞い、皆に向けて
言う。思うことはあるものの、その言葉に臣下達は
うなずくしかなかった。
 この国の水の供給は、今や8割以上が精霊の力に
よってもたらされている。
 その力を行使する唯一の存在であるサラキアに
そう言われては、口を挟むことなどできないからだ。

 「……承知しました。一刻も早い対応を心待ちに
しております」

 合議を終え、サラキアが円卓を去って行く。
 その背中を見送った若い臣下達は、臣下としての
振る舞いも崩し、密談を始めた。

 「なあ、本当に大丈夫か? 今度の水不足は、国が
傾きかねない危機なんだぞ」
 「『ティオキアの奇跡の女神』が
ああおっしゃってるんだ。我らがどうすることも
できないだろう」
 「おい、おかしな言い方をするな。聞かれたら
コトだぞ」
 「構うものか。皮肉などいくらでも言ってやる。
確かに今の国を作ってくれたことには感謝している。
だが、女王といっても水の供給だけで、政治は
からきしではないか」
 「それはそうだが……サラキア様の水が
あったからこそ、ここまでティオキアは栄えることが
できた」
 「分かっている。問題は国政の最終決定権が女王に
あることだ。女王は穏健すぎる。我らなら今以上の
繁栄を国にもたらせるはずだ。政治が分からぬのなら、
我らに任せておけばよいのだ」
 「ふむ……」

 ティオキアに革命を起こした奇跡。あの奇跡を
目にした者達でさえ、幸福というぬるま湯に溺れ
記憶を風化させていく。
 それは、奇跡を知らぬ若者達であれば
なおさらのこと。
 若き彼らはギラギラとした野心を持つ。
 だが、それを実現するためにはサラキアの持つ権力が
障害になっていた。

 ティオキアの中枢は、すでに一枚岩ではない。
 不穏な気配が城を満たしていくのを、サラキア自身も
感じ取っていた。


EPISODE4 女王と国の変革「私の国に必要ないはずのものばかりが増えていく。理想郷と呼ぶには、ほど遠いものばかりが」


 ティオキアが直面していた水不足危機は、あれから
ふた月もかからず宣言通り解消された。
 だが、サラキアが表向きに施した対策は、いくつかの
上下水道を増やす工事をしただけ。
 精霊の力を使ったことは間違いないと思われるが、
具体的にどんな対策を施したのか臣下達が訪ねるも、
サラキアは言葉を濁すばかりで答えることはなかった。

 大きな問題は解決したものの、その日以来サラキアの
表情には陰が差し、日ごと憔悴した様子を見せるように
なっていく。
 気付けば臣下達の忠誠心の綻びは、サラキア本人も
感じるほどあからさまなものになっており、軍備の
過剰な拡大や、利益を第一に置いた強引な国策など、
これまでのサラキアなら聞くまでもなく却下されて
いたであろう国政案を平然と議題にあげるように
なっていた。
 サラキアの求める理想郷とはかけ離れた思想。歯車が
確実に狂い始めていることに焦燥感を覚えながらも、
サラキアは毅然とそれに首を横に振り続ける。
 ますます臣下達からの不信感が高まる中、ある日
こんな国政案が合議の場に上がった。

 「罪人への処罰が軽すぎるかと。移民も増え、
これだけの人口を有する我が国では、厳格すぎるほどの
罰を与えねば治安を維持できません」

 打ち首、鞭打ち、入ったが最後実質終身刑である
投獄。
 かつて貴族が統治していたティオキアで、
サラキアをはじめとする民はそれらに怯える
存在であり、その恐怖はいまだサラキアの中に
根強く残っている。
 また、新たなティオキアに厳罰に値するような罪を
犯す者はいない、という性善説にも似た盲信もあり、
これまで死に直結するような罰は設けていなかった。
 だがそれを今、見直すべきだと臣下は言う。
 事実、ティオキアの治安は悪化しつつある。人間の
集まるところに必ず争いは起こるもの。見せしめとして
民に示すことは、治安回復の手段としてはもっとも
手っ取り早いものだ。
 それでも、提案した臣下は半ば諦めていた。どうせ
この甘い女王が首を縦に振ることはないだろう、と。

 「……いいでしょう。極刑を含め罪人に厳罰な処置を
与えることを認めます。罪ごとの罰、そして新たな
牢獄の建設など、必要なことを取りまとめてください」

 サラキアから出た意外な答えに、驚きとまどう
臣下達。
 違和感を覚える者もいたが、好機を逃すまいと
それを受け入れていく。
 サラキアの心境にどんな変化があったのか、それは
サラキア本人以外誰も分からない。
 だが確実なのは、今のティオキアにおいて、
サラキアの変化は国の変化であるということ。
 日増しに暗く陰を落とす表情を見せる彼女と
比例するように、ティオキア国内は物々しい雰囲気が
漂い始めていた。

 やがて、初めての“処刑執行”が行われてから
しばらく経った頃。
 いまだ明るい表情を見せることのない
サラキアの下に、他国から一人の客人が現れた。
 名をゲルダというその女性は、アギディスの優秀な
文官候補生であり、発展目覚ましいティオキアで国政を
学びたいのだという。
 卓越した工芸技術を持つアギディスと友好を
深めることはティオキアにとっても大きな利であり、
国はこれを受け入れることにしたのであった。

 「お会いできて光栄です、女王陛下。此度の受け入れ
感謝いたします」

 サラキアの前で恭しくひざまずくゲルダ。その姿を
瞳に映すサラキアは、目を見開き言葉を失ってしまう。
 姉妹も、アギディスに親類もいなかったはず。
隠れて子を成していたなんてこともあり得ない。
何より、あの日からあまりに時が経ちすぎている。
 だが、眼前でゲルダと名乗った女の風貌。
 それは、かつてサラキアの親友だった
サンディアその人に、生き写しと言ってよいほど極めて
酷似していたのだった。
  
 以来、サラキアは身の回りの世話をする
従者達よりも、ゲルダを自身の側に置くようになる。
 女王としての執務を行うときはもちろん、やがては
自室で寝食を共にするほどまでに。


EPISODE5 あなたの顔、あなたの声「独りぼっちだった世界に、貴女が帰ってきたみたい。もうどこにもいかないで。ずっと私の側にいて」


 「ねえ……頭を撫でてちょうだい?
そうしてくれたら眠れるから」
 「もちろんですとも。ふふっ、サラキア様は
甘えん坊ですね」
 「わ、笑うなんてひどいわ……」
 「ごめんなさい。ただ、私には何から何まで全てを
見せているのに、今さら子供のようなことを
おっしゃるのがおかしくて」
 「――っ!! げ、下品なこと言わないで!」

 ベッドの上。顔を赤くして顔を背けたサラキアを
抱き寄せると、ゲルダは多少強引に彼女の顎を掴んで
自身へと向き直させる。
 そのまま唇を重ねると、サラキアは
抵抗することもなく、そのまま目を閉じた。

 毎夜繰り広げられる、サラキアにとって唯一の
至福の時。
 いつからか極度の不眠を煩っていたサラキアは、
ゲルダに触れて貰う間だけ眠りにつくことができた。
 かつてのティオキアでは味わうことができなかった
平穏な日々の中、サンディアと築くはずだった思い出を
取り戻すかのように欲しがるサラキアに、ゲルダは全て
応え続ける。
 いつしか依存しあっているように見えるほど二人の
距離は縮まり、亡くした親友とはまた違った関係が
生まれていた。

 「なんだか怖いの……この国が理想から
離れていくような気がして……私には精霊の力
しかないから……」
 「そんなことありませんよ。きっと皆も
分かってくれます」
 「だって、ゲルダはもう知ってるでしょ?
私なんて精霊の力があるだけで、何もできない
娘でしかないって」
 「それでいいじゃありませんか。皆がどんな謀を
巡らそうが、サラキア様の力が無ければティオキアは
成立しないのです。自信をお持ちください」

 大きなブランケットに、一糸まとわぬ姿で
くるまる二人。
 自信を元気づける言葉を聞いて、サラキアは
子供のようにゲルダの胸へと顔を埋める。

 「私がここへ来た時も、サラキア様は危機的な
水不足を解消されたところでした。そんなことが
できる方はサラキア様以外におりません」
 「…………」

 サラキアは顔を埋めたまま表情を見せない。だが、
わずかにその身体をこわばらせた。
 その様子にゲルダは気づきながらも、
思い出したかのように続ける。

 「以前からお聞きしたかったのですが、一体
どんな力をお使いになったのですか? サラキア様の
力の偉大さは聞き及んでおりますが、この国中を
救うとなるとあまりにも……」
 「……特別なことはしていないわ」
 「私にも秘密、なのですね。もしかして、時折
夜な夜なお一人で外出なされることに何か関係が?」
 「……今日はずいぶんと強引なのね。私達の
仲とはいえ、貴女は他国の者。女王として
話せないことだってあるわ」

 今度は完全に拒絶を表すサラキアの意を感じ取った
ゲルダは、すかさず空気を柔和させるべく困り笑顔を
作る。

 「お気を悪くしないでください。秘密に
されていることが寂しくて、出過ぎた真似を
してしまいました」
 「怒ってるわけじゃないの。でも……今は
その話はよして」

 そう言ってサラキアはベッドを抜けだし
立ち上がると、サイドテーブルに置いてあった水瓶から
グラスへ水を注ぐ。
 水不足を解消するため、再度行使した奇跡の力。
それが一体何であるかを、ゲルダをはじめ誰一人として
サラキアは明かしていない。
 その“秘密”を抱え続けることは彼女にとって確実な
重荷であり、彼女の精神を疲弊させる
原因そのものであった。
 本当は誰かに話したい。
 だが、それを話してしまえば何もかもが崩れ落ちて
いくかもしれない。
 板挟みになって苦悩するサラキアは、思わず口から
漏れ出しそうになる言葉を押し込めるように、一気に
水を飲み干した。


EPISODE6 不可侵の秘密「私が招いた事態……それは分かっています……でも私にできる事なんて、他にないのです……」


 ティオキアを包んでいたきな臭い空気が具体的に
顕在化したのは、半年後のことだった。
 豊かに栄える国があれば、それを狙い悪事を働く者が
現れる。
 連日のようにティオキアに入国しては、徒党を組んで
犯罪を犯す他国の移民達。
 ティオキアとてそれらを野放しにするわけもなく、
速やかに捕らえては先の厳罰化によって
投獄などの処置を施し続ける。
 犯罪は増えたものの、適切な処置により均衡を
保っている。不安はありつつも、民達は
そう納得していた。

 だがある日、牢獄に収容されている移民達の
祖国から、身柄の引き渡しを要求されたことで事態は
一変する。
 自国内での罪をティオキアが裁くのは何ら問題は
ないのだが、外交を考えると突っぱねることに
利はない。国外追放が約束されるのであれば要求を
飲むのが得策だと、国は考えた。

 釈放する罪人のリストを片手に、サラキアの臣下が
派遣した男が、暗く劣悪な環境の牢獄を歩く。
 今回の対象者は20名ほど。引き渡す罪人を
確認する、ただそれだけの簡単な仕事のはずだ。
 だが、牢獄をいくら歩き回っても、対象リストの
移民が一人として見つからない。それどころか自国の
罪人の何名かさえ忽然と牢獄から消え去っていた。
 まるで、神隠しにあったかのように。

 「これは由々しき事態です。我が国への要求は急遽
反故にせざるを得ませんでした。今は小さくとも、
戦争の火種になりかねません」

 円卓に座る臣下の一人が、語気を強めて言い放つ。
 豊かなティオキアを移民が狙うように、いくつかの
他国も虎視眈々と機を伺っているのは事実だからだ。
 懸念すべきことはまだある。このような不気味な
事件は当然自国内にも知れ渡り、ティオキアの民達の
不安と不信は日に日に高まっている。

 「罪人の処遇はサラキア様直々の管理でございます。
原因に心当たりはないのですか!?」
 「手を尽くして調査しているのですが、何も……」

 臣下達は、もはや失望を隠さない。
 彼らの顔には、仕える女王が無能であることの失望と
落胆からなる“怒り”がまざまざと表れている。
 限界はとうに超えていた。
 いつからか臣下達はひとつの仮定を繰り返し
議論するようになっている。

 「もしも精霊の力を我らが手にすることができたら」

 無能な小娘の一存ではなく、優秀な自分達の
思惑次第で思いのまま行使することができたら、
この国はもっと豊かになるはずだと。
 だがそれは同時に、主君であるサラキアを絶命させる
ことを意味している。
 強大な精霊の力を奪うなど荒唐無稽な謀りに
見えるが、手がないわけではない。
 ネフェシェから零れ落ちた精霊の力。
土の精霊を授かったルスラの地では、ある要因によって
再び他者へと力が継承された――そのような出来事が、
巫女に近しい存在には歴史として伝わっている。

 それは――“絶望”。

 その命を投げ捨ててしまいたくなるほどの絶望に
落とせば、奇跡の力を別の器へ移し替えることは
可能なのだ。
 ほんの小さな毛糸の綻びが、少しの力で勢いよく
解けていくように、彼らの胸に渦巻く黒い何かが
急速に煮えたぎっていく。

 臣下たちはそんな思いを悟られぬようにしつつ、
数時間に及ぶこの日の合議が終わりを迎えた。
 机上の論争には限界がある。原因究明は
続けながらも、徹底的な再発防止を掲げ、罪人の管理は
サラキアから臣下へと権限を渡すことで話がついた。

 その晩。サラキアはひどく疲弊していたのか、
ゲルダの腕に抱かれるとあっという間に眠りについた。
 目にはうっすらと涙が浮かび、寝息が聞こえないほど
深く深く熟睡している。
 それを確認したゲルダはサラキアの首へ手を
伸ばすと、ゆっくりとネックレスを外した。
ネックレスからは小さなカギがぶら下がっている。
 そしてサラキアを置いてベッドを抜け出すと、鏡台に
置いてある小箱の鍵穴へとその鍵を挿した。
 箱の中に仕舞われていたのは一つだけ。鉄の輪に
通された、先ほどの鍵よりさらに大きな鍵がいくつも
連なった鍵束だった。
 ゲルダはサラキアの部屋を抜け出すと、迷わず歩を
進める。
 すでに技師が城前で待機しているはず。鍵の型さえ
とってしまえば、複製自体はゆっくり行えばいい。
サラキアが目を覚ますまでに元通りにすることなど
容易い。

 不可侵の秘密。
 サラキアが夜な夜な人目を忍んでどこへ
通っていたのか。調べはもうついている。
 月のない夜の闇に紛れ、ふらふらと歩く“亡者の
ような何か”を荷馬車に詰めたサラキアが
向かっていた場所。

 あの場所に、必ず何かが――。

 そう確信するゲルダの口元には、わずかに笑みが
浮かんでいた。


EPISODE7 命の水「どれも正解で、そして不正解だったのでしょう。ならば犠牲を払う道を、私は選ぶしかなかった」


 数日後。
 ティオキアの中心地から少し外れた小高い丘の上に、
臣下達は揃って姿を見せていた。
 眼前には、サラキアの命によって都市拡大の
計画地から外され、革命以前から手つかずのまま
保存されている建物が見える。
 かつてアテリマ教の隠し協会としても機能していた、
孤児院跡だ。残されてはいるものの、手入れされて
いるわけではない。孤児院だった建物は今や
あちこちが朽ちはじめていた。
 それでも元は重厚な造りになっていたのだろう。
雨風をしのぐくらいなら今でも役目を果たせそうでは
ある。

 悪戯や侵入防止のため周囲を囲っている塀を越え、
孤児院の前までやってくると、臣下の一人が鍵束を
取り出した。
 そのうちの一つを鍵穴に挿すと、抵抗もなく
カチャリと音を立て、扉が開く。
 中へと足を運ぶと、そこには孤児院としての名残は
一切感じられないほど荒れた光景が広がっていた。
 テーブルやイスといった壊れた日用家具は倒れ、
燭台やガラスなども床へと散乱している。じめっとした
空気を体現するように、室内のあちこちでは苔まで
生えている。
 “廃墟”、としか表現できない様相の中、臣下達の
持つランタンの明かりがあるものを照らす。

 「明らかに人の通った跡があるぞ……それも、一度や
二度ではない……」

 草木を踏み分けて現れる獣道のように、苔や埃、
ガラス片を払ったと思われる“道”がそこにあった。
 道は孤児院内の奥の奥へと続いており、それに従って
進む臣下達はとある扉へと辿り着く。

 「なんだこの扉は……本来ここにあるはずがない、
真新しい物だ……」

 彼らは何か寒気のようなものを覚えながらも、半ば
「まさか」と思いつつ、鍵束を取り出す。
 一つ目の鍵。
 二つ目の鍵。
 三つ目の鍵。
 過剰なまでに厳重に施錠された扉の鍵が、
呆気ないほど開いていく。
 間違いない。サラキアの秘密はここにある。
 これほどまでに他者を“拒絶”する場所に
踏み込むことに、空恐ろしさを感じるものの、それでも
臣下達は扉の向こうへと歩を進めた。

 手持ちのランタンでは先を照らし切れぬ、長い長い
通路。
 構造的には、孤児院の裏手から丘の中に穴を
空けたように作られたその通路は、明らかに孤児院に
備わっていたものではない。
 やがて行き止まりで待ち構えていた最後の扉の
鍵を開ける。
 その先に広がっていた光景に、臣下達は言葉を
失った。
 ただ一人、かろうじて喉から絞り出すように呟く。

 「これは……」

 円形に型でくりぬいたような、広い部屋。
 その部屋を囲っているのは壁ではなく、一面を
覆うガラス張りの水槽のような物だった。
 水槽からは等間隔に配置された管が伸び、
部屋の中央に空いた穴へと水が流れ続けている。
 その造りから、一見して貯水槽のような機能を
果たすものだと理解できる。
 だが貯水槽としては不可解な点がある。
 その機能を果たすのであれば、山の上流から流れる
水や雨水といった、“水槽に貯めるための水”が
必要なはず。にも関わらず、水位が下がるような
こともなく、無限に水を流し続けている。
 それは、明らかに自然の理に反する現象だった。

 「あれは、なんだ……?」

 臣下達の持つランタン頼りの薄暗い部屋の中、水槽の
中にいくつもの“何か”が漂っているのが微かに
見えた。
 魚の類ではない。その質感には既視感があり、
生物的な有機物だと分かる。
 意を決した臣下の一人が、恐る恐る水槽の前へと
近づいていく。
 そして、手に持ったランタンを照らすように掲げ、
ガラスの向こうをのぞき込んだ。

 「……ひいっ!!」
 「ど、どうした!!」

 残りの者達も慌てて駆け寄り、それぞれ同じように
水槽へランタンを掲げる。
 水の中の浮遊物は明かりに照らされ、その姿を
浮き彫りにする。
 臣下達はそれが何であるか一瞬理解できなかった。
 なぜなら、自分達が知る“それ”とはあまりに
かけ離れた姿だったから。

 それは――人間の死骸であった。

 死骸だと断言できるのは、この状態で生きている
人間などいるはずがないからだ。
 そのどれもが肉体の大部分を失っている。
 力任せに切り落とされたのではなく、まるで熱い
鉄板に押しつけた氷のように、なめらかに、
かつ不自然にえぐり取られていた。
 頭部、手足、袈裟斬りのように半身を大きく斜めに。
 規則性は感じられない。だが確実にどこかの部位を
失っているにも関わらず、なぜか血液が溢れることは
なく、露出する肉と骨の断面が嫌でも目に入る。

 「おい! まだ無事なものがいるぞ!」

 震え声でそう言い放った者の前には、
“人間らしい姿”を保ったまま正面を向いて
浮かぶものがいた。
 助け出したほうがいいのではないか、そう臣下達が
戸惑っている間、それは水流に従ってゆっくりと
水中で回転する。
 臣下達がその背中を見ることはない。
 縦に真っ二つにしたように、背面全ての断面を
露わにした死骸がそこにあった。

 理解が追いつかないまま呆然と眺めていた臣下の
一人が、こみ上げるものに耐えられず、床に吐瀉物を
まき散らしてしまう。それに釣られて一人、また一人と
嘔吐する者が現れた。
 地獄のような光景。
 どんな悪夢だろうとこんな光景を見せはしない。
想像、空想の領域を超えている。
 それでもこれは紛れもない現実。何か必ず
意味があるはずだと考えた一人が、焼ける胸を
こらえながら注意深く観察を始めた。

 「死骸から……水が湧いている……?」

 肉の断面をよく見ると、小さな水泡が
発生していることに気がつく。
 死骸は何かを生みだしている。
 無限に湧き出る水。
 人知を超えた現象――精霊の力。
 この光景が何を意味しているのか理解するのに
そう時間はかからなかった。

 精霊の力によって、死骸が水へ溶け出している。
水へ――変換されているのだと。

 頭部が残った死骸の顔に見覚えがあった。
牢獄から神隠しにあった罪人達だ。
 水不足の解消、言葉を濁したサラキア、全てが
結びついていく。

 「我らは……そして民は……この水で農耕をし、
身を清め、喉を潤していたのか……」
 「どうやらそのようだ。なんとおぞましい……」
 「女王は狂ったか! 人間の所業ではないぞ!」
 「ああ、人間ではない。人間に、こんな手段は
選べない……」

 腐肉から生まれた水を摂取して生を営んでいた。
その事実は、あまりに倫理から外れすぎている。
 だが、この事実は臣下達にとって好機でもあった。
 精霊の力を持つ小娘を女王の座から引きずり下ろし、
その力を手中に収めるための。

 「どうやってここまでたどり着けたのでしょう」

 臣下達が一斉に振り向くと、扉の前にはサラキアが
立っていた。
 何を述べても逃れられない状況に諦めているのか、
その瞳に光はない。

 「女王……ご説明願おう!」
 「……こうするしかなかったのです。必要な水は
精霊の力で賄える量を超えていました」
 「だからといってなぜ――」
 「私はこのティオキアの地に流れる水脈を
操っていただけ。無から有は生み出せません。それは
精霊の力も同じ。薪をくべて炎を燃やすように、動物を
屠って腹を満たすように、何かを為すには必ず犠牲が
必要なのです」
 「その贄として選ばれたのが人間、とでも!?
他に方法はなかったのですか!」
 「水は命の源。この全ての大地の母であり礎。
人の魂が昇華する瞬間の輝きと、肉体に刻まれた
叡智……代償として、対価として、ふさわしいのは
これしかなかった……」
 「魂の昇華……? では、この者達は
生きたまま……」

 そこで初めて、俯いたサラキアは悲しみをその表情に
滲ませる。
 水を生むための贄として、罪人とはいえ生ける人間を
使った。
 それは、紛れもない事実だ。

 「たとえそうであっても、こんな所業が
許されるものか!!」
 「ではどうすればよかったのですか!! 水脈に
負担をかけるのはとうに限界……すでにティオキアの
水は全て、この部屋のもので補っているのですよ!?」

 驚愕の事実におののく臣下達を気にもとめず。
 たった一人で抱え込んでいた苦悩を、サラキアは
初めて爆発させる。

 「このまま飢えて死ねと、貴方は民に
言えましたか!? ティオキアの地に生まれたのが
間違いだったのだと! 諦めろと言えましたか!?
貴方達は自身の権力を強固にしようとする
国政ばかり……できもしないことを私に
押しつけたのは貴方達ではないですか!!」

 いつも穏やかで、ともすれば気弱にも見えるほどの
サラキアが、そう言い放つ。
 無知な小娘とばかりに思っていた女王から、胸中を
見透かされていたと分かり黙り込む臣下達。
 綻んだ糸は、もう解けきっている。
 編みぐるみだったか、カーディガンだったか。何を
紡いでいたのかはもう分からない。
 ここにあるのはもう、形を為さず床に散らばる
ただの糸だ。
 そんな軋轢と緊張が高まりきった頂点で、サラキアは
最後の言葉を吐き捨てた。

 「貴方達を女王への不敬の罪で罰します。自身が
望んだ厳罰に処されるのは本望でしょう」

 その言葉に、臣下達の血が一気に冷えていく。
 もう誰も止める者などいない。
 まさに今サラキアの背後から、臣下の一人が短刀を
振り下ろそうとしていた――。


EPISODE8 水の都ティオキア「私の愛したティオキアの民の声が聞こえない……みんなどこにいるの? お願い、姿を見せて……」


 その日、ティオキアには珍しい雪が降っていた。
 城前に設けられた処刑場には斬首台だけがぽつんと
置かれており、それを囲むようにティオキア国民が
処刑場へと集まっていた。

 「罪人! 前へ!!」

 衛兵の声を合図に、繋がれた両手の縄を引かれて、
サラキアが処刑場へと姿を現した。
 薄汚れたボロ布ともつかない衣服を纏い、背中に
広がった血がどす黒く固まっている。
 冷たい板張りを裸足で歩く、青白い顔をした女王の
姿を見た民達は驚きと悲しみのため息を漏らした。

 「ティオキアの民よ! すでに通達している通り、
我が国の女王だったものは許されざる悪事を犯した!」

 ティオキアの民はすでに聞き及んでいた。
 女王であるサラキアが私欲のため一部の商人に便宜を
計らい、反する者は不当な理由で投獄するという、
かつてこの地にいた貴族と同じことを行っていたと。
 さらには、醜悪な趣向を持つ豪商達を喜ばせるため
罪人を牢獄から攫い、命を弄ぶような残虐なショーを
開いていたのだという。
 だが、ほとんどの民は未だその通達を信じ切っては
いない。
 優しく穏やかで、この国を救ったあの女王が
そんなはず――そんな考えを捨てきれなかった。
 その真偽を確認すべく、ほぼ全国民と呼べるほどの
民がこうして集まっていた。

 「我らとしても“奇跡の女神”に手をかけるのは
耐えがたい苦痛である! しかし! この者の下で
国が腐敗するのは看過できぬ! 断腸の思いで
あることは理解頂きたい!!」

 臣下の者がそう張り上げると、衛兵がサラキアの
背中を乱暴に押した。
 一歩、また一歩と、サラキアが重い足取りで歩を
進めるたび、民達から悲鳴の声が上がる。
 やがて斬首台の前までやってくると、力任せに
伏せられたサラキアの首が、穴の空いた木枠へと
収められていく。
 頭上には、縄で吊された巨大な刃が鈍い光を
放っている。人間の首を切り落とすためだけに
作られた、恐ろしい刃が。
 その時、これまで押し黙っていたサラキアが
初めて叫ぶように言った。

 「私は……! 私はそのような罪など
犯しておりません!!」

 その言葉に表情も変えず、臣下の者が答える。

 「此度の事件は冤罪であると申すか!
であるならば、最後に弁明の機会を与えよう!
お前を思い、こうして集まった民に示すがよい!」

 言われたものの、サラキアは口ごもってしまう。
 それを見た臣下の者は口元に薄ら笑みを浮かべると、
サラキアの側へと近づき耳元に囁いた。

 「真実を話してみればどうです。『私は民のため、
人の死骸で作った水を与えていただけだ』と。
『罪など犯していない』と。当然、その言葉がこの国に
どんな影響を及ぼすかお分かりでしょうが」
 「……っ!」

 サラキアはそれ以上何も言うことができなかった。
 真実を伝えたことで起こるであろう混乱が、多くの
悲劇を生むことは容易に想像できる。
 もうすでに手は残されていない。
 それは、臣下から裏切りの凶刃を浴びせられた時点で
決まっていたことなのだ。

 「何も言うことはないか! ティオキアの民よ!
この者は今、自らの罪を認めた!!」

 何かの間違い。そう信じていた民達は深く落胆する。
 それと同時に、崇拝の対象であったサラキアの
裏切りは、怒りへと容易く変容していく。

 ――殺せ。
 ――殺せ……殺せ……。
 ――殺せ……殺せ……!
 ――殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!!!

 断罪を願う民の声が、大きなうねりとなって
こだまする。
 サラキアの瞳にはもう、愛したティオキアは
映っていない。
 圧政から救い、豊かな国を作り、誰もが平和で
心穏やかに暮らせる理想郷。
 そんなものは、どこにもなかった。
 欺瞞と怒りだけが満ちた、醜い邪悪が吹き上がる。
 大切な者を殺され、文字通り身を捧げたサラキアが
最後に手に入れたのは、こんな光景だった。
 壊れかける心に残された力を振り絞るように、
サラキアはかき消えそうな声で言う。

 「お願い……せめて最後に……ゲルダに会わせて……
そうしたら、きっと未練なく逝けるわ……」
 「いいだろう。せめてものはなむけに叶えてやる」

 臣下がそう言うと同時に、まるでこうなることが
分かっていたかのように処刑場へゲルダが現れた。
 ゲルダはサラキアの元までやってくると、伏せる
彼女の目線に合わせてしゃがみ込む。

 「ああ、サラキア様……おいたわしい……」
 「ゲルダ……来てくれたのね……あれから一度も
会えなかったから、最後に顔を見たかったの……」
 「なんたる光栄……でも――」

 言いかけて、ゲルダはこれまで見せたことのない
嘲笑を浮かべると、驚くサラキアを無視して続ける。

 「ちょっと呆れちゃうわね。世間知らずな小娘だとは
思っていただけれど、ここまで間抜けだなんて」
 「ゲルダ……?」
 「誰の手配で孤児院の鍵を用意できたと思う?
私よ、私。はあ……なんだか達成感がないわ」
 「そ、そんな……」
 「名前も出自も、全部嘘。この顔だってあんた好みに
作ってもらったものよ。あんたはずーっと前から罠に
かかっていたの。ティオキアの連中、本当にやり方が
えげつないんだから」
 「…………」
 「良い夢は見れたかしら? あ、最後にお土産」

 打って変わってゲルダは優しい微笑みを浮かべると、
サラキアにとって斬首以上の仕打ちを浴びせる。

 「『サラキア。アタシ達、ずっと友達だよな!』
――どう? サンディアとかいう女に似てた?」

 サラキアがサラキアであることを構成する何かが、
音を立てて崩れ落ちていく。
 その心が、あまりの絶望に破壊される瞬間。
 サラキアは最後に慟哭混じりの叫び声をあげた。

 「嫌ぁぁぁーーーーーー!!!!」

 サラキアの耳に、膜がかかったようなくぐもった声が
響く。
 そして間もなく何かが風を切るような音が
聞こえたかと思うと、サラキアの身体は呆気なく
二つに分かれた。
 孤児院の家族達が、サンディアが迎えに
来てくれることもない。
 月もない真夜中、ロウソクの明かりを
吹き消したように、ただ暗闇だけが終わりを
告げていた。

 「おお……おお……!!」

 その時、亡骸となったサラキアの身体に起こった
変化に、臣下の者が声を上げた。
 切り離されたその首からは血ではなく、透き通った
透明な液体がぶくぶくと泡のように吹き出ている。
 その液体は一つに寄り集まり、次第に海月のような
形を成したかと思うと、やがて少女のような姿へと
変容していった。
 笑っているような、哀れんでいるような。
 人間を模してはいるが、その表情からは
生物的感情が読み取れない。
 その瞳が側にいるゲルダをまっすぐ捉えていたかと
思うと、彼女の肉体へと同化していった。
 絶望によりサラキアという肉体を捨てた精霊は
選んだのだ。
 ゲルダを器――次の巫女として。

 「見たかティオキアの民よ! 精霊様は欲にまみれた
身体を捨て、次なる巫女にこのゲルダを
お選びなさった! 精霊様のご加護は消えぬ!!
この先もティオキアの未来は安泰である!!」

 鳴り止まないほどの歓声が響き渡る。
 それは、ティオキアの巫女が永遠に国の傀儡となった
瞬間でもあった――。

 その後、臣下であった者達の主導によって新たな
王政が作り上げられ、実質的に国の実権を彼らが
握ることとなる。
 そして、かつて異教と呼ばれたアテリマ教の布教を
推し進め、清貧という理念の元、欲望という感情を
抑制していく。
 全ては王族という地位を守るため。
 握った権力を、一族代々我が物にするため。
 形は違えど、それは革命以前のティオキアと
何ら変わらない。
 理想郷を作るというサラキアの夢は、最後まで
叶わず消えていった――。

 それから、幾ばくかの時が流れる。
成り行きで継承したゲルダは巫女としての才に乏しく、
サラキア亡き後、ティオキアに必要な水量を
維持することができなかった。
 あれほど隆盛を極めていたのが嘘だったかのように、
貧しいものから飢え、そして死に、多くの者は国を
捨てていく。
 そんな混乱から落ち着きを見せた頃、ティオキアは
決して豊かだと呼べない国へと成り下がっていた。
 だが、権力者達は甘んじてそれを受け入れていた
わけではない。
 かつてのティオキアを取り戻すため、己の描く理想の
国を作るため。
 “その時”を待ち続けていた。

 ――国の主導で新設された、広大な土地に建てられた
レンガ造りの建造物。
 その中庭で、完成を祝う式典が執り行われていた。
 祝賀ムードに包まれる宴の中、かつてサラキアの
臣下であり、今や国の主権を握る者達の姿がある。
 彼らは肩を寄せると、微笑みを崩すことなく
囁き合う。

 「巫女育成のための学園……これで全てが
揃いましたな」
 「ああ、我らの計画は順調だ……」

 サラキアやゲルダのような偶発的なものではなく、
力の継承、ふさわしい人物の育成、それら全てを
“学園”という施設を通して国で管理する。
 それは、精霊の力を意のままに振るうのは
巫女ではなく、実質的にその権利を国が握ることを
意味していた。
 しかし、この学園の存在意義はそれだけではない。

 「思えば“彼女”は巫女としての才覚が
あったのでしょう……我々ではあのような方法を
導き出せなかった」
 「“代償”、か。ようやくあの境地へ辿り着くことが
できる……」

 近い未来、この学園で多くの人間が命を落とす。
 喜び、悲しみ、希望、欲望、そして絶望。
人の持つあらゆる感情が混ざり合い、ぶつかり合い、
生と死の狭間で醜く美しい混沌が生まれる。
 それらが散りゆく瞬間、魂はこれ以上ないほど
上質な贄となり、精霊の力をより強大なものへと
育んでいく。再び国中を水で満たすほどの“奇跡”を
おこせるほどに。
 サラキアは、この国に残していった。
 何かを為すには犠牲が必要だということ。
 そして、命は命を使って救えることを。

 ――どれほどの時が経っただろうか。
ティオキアは以前と同じ活気に満ちており、街を
行き交う人々は皆笑顔を浮かべている。
 港では浅黒く肌を焼いた威勢の良い漁師が、今日の
漁獲に満足そうに頷く。
 羊飼いは犬と戯れて笑い、農家の娘は両親を手伝い
種を撒く。
 井戸に集まる婦人は噂話に花を咲かせ、学生は
急ぎ足で駆けていく。
 誰もが当たり前に享受する、平和な日常風景。
 その平和をもたらしているティオキアの水を、今日も
誰もが撒き、浴び、飲んでいる。
 質の良い、美しく透き通った命の水を。
 これからも、遙か先の未来まで。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 水の精霊というとセイレ-ンみたいに下半身が魚になることが多いけど、あえてクラゲにするなんて斬新だね。 -- 2023-10-09 (月) 11:46:17
    • 真下から見たら人間の部分がどうなって見えるのか気になる、モツが見えるんだろうか -- 2023-10-12 (木) 08:10:02

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