【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE )】【マップ一覧( LUMINOUS / VERSE )】
| ※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。 |
| 名前 | 土の精霊 |
|---|---|
| 年齢 | 不明 |
| 職業 | 土の精霊 |
- 2023年9月28日追加
- SUN ep.Ⅵマップ2クリアで入手。<終了済>
- 入手方法:2024/12/12~アイテム交換所で入手(100P)。
- 対応楽曲は「《楽土》 ~ One and Only One」。
命を捧げた巫女<シビュラ>の体に宿る、神の分身の一人。
シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。
精霊【 炎の精霊 / 土の精霊 / 風の精霊 / 水の精霊 】
望まぬ形で”土の精霊“を継承したテルスウラス。
ルスラ最高官の“人形”として弄ばれる彼女の心は、次第に闇へと堕ちるのであった。
スキル
| RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
|---|---|---|
| 1 | 道化師の狂気【SUN】 | ×5 |
| 5 | ×1 | |
| 10 | ×5 | |
| 15 | ×1 |
道化師の狂気【SUN】 [ABSOLUTE+]
- 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】よりもハイリスクハイリターン。
- 道化師の狂気【NEW】と比較すると、同じGRADEでもこちらの方がボーナスが1000多い。
- SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
- GRADE100を超えると、ボーナス増加が鈍化(+10→+5)する。
- スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400でボーナスの増加は打ち止めとなる。
効果 100コンボごとにボーナス +????
JUSTICE以下50回で強制終了GRADE ボーナス 1 +7000 2 +7010 3 +7020 11 +7100 21 +7200 31 +7300 41 +7400 61 +7600 81 +7800 101 +7995 ▲NEW PLUS引継ぎ上限 102 +8000 142 +8200 182 +8400 222 +8600 262 +8800 302 +9000 342 +9200 382 +9400 400 +9490 推定データ n
(1~100)+6990
+(n x 10)シード+1 +10 シード+5 +50 n
(101~400)+7490
+(n x 5)シード+1 +5 シード+5 +25
プレイ環境と最大GRADEの関係
| 開始時期 | 所有キャラ数 | 最大GRADE | ボーナス |
|---|---|---|---|
| 2023/10/26時点 | |||
| SUN+ | 16 | 193 | +8455 |
| SUN | 25 (+9) | 301 | +8995 |
| ~NEW+ | 401 | +9490 | |
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。
| GRADE | 5本 | 6本 | 7本 | 8本 | 9本 | 10本 | 11本 | 12本 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 18 | 22 | 26 |
| 7 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 22 | 26 |
| 16 | 3 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 21 | 26 |
| 21 | 3 | 5 | 8 | 10 | 14 | 17 | 21 | 25 |
| 40 | 3 | 5 | 8 | 10 | 13 | 17 | 21 | 25 |
| 51 | 3 | 5 | 8 | 10 | 13 | 16 | 20 | 24 |
| 73 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 20 | 24 |
| 84 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 20 | 23 |
| 91 | 3 | 5 | 7 | 10 | 13 | 16 | 19 | 23 |
| 102 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 19 | 23 |
| 139 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 19 | 22 |
| 169 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 15 | 18 | 22 |
| 217 | 3 | 5 | 7 | 9 | 12 | 14 | 18 | 21 |
| 248 | 3 | 5 | 7 | 9 | 11 | 14 | 18 | 21 |
| 267 | 3 | 5 | 7 | 9 | 11 | 14 | 17 | 21 |
| 302 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 14 | 17 | 20 |
| 349 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 17 | 20 |
| 377 | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 16 | 20 |
| 397~ | 2 | 4 | 6 | 8 | 11 | 13 | 16 | 19 |
所有キャラ
- CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
- イロドリミドリマップで入手できるキャラクター
バージョン マップ キャラクター SUN イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編藤堂 陽南袴
/途惑いのクリスマス編イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編桔梗 小夜曲
/途惑いのクリスマス編イロドリミドリ
~途惑いのクリスマス編芒崎 奏
/途惑いのクリスマス編
- ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
※1:同マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
バージョン マップ キャラクター SUN オンゲキ
Chapter2早乙女 彩華
/闇夜の挑戦状藤沢 柚子
/DREAM PARADE※1SUN+ オンゲキ
Chapter3高瀬 梨緒
/無敵のツーマンセル※1星咲 あかり
/無敵のツーマンセル※1
- 期間限定で入手できる所有キャラ
カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。
また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
ランクテーブル
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| スキル | スキル | |||
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| スキル | ||||
| 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| スキル | ||||
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
| スキル |
| ・・・ | 50 | ・・・・・・ | 100 | |
| スキル | スキル | |||
STORY
ストーリーを展開
EPISODE1 神を傷つけたその手で「悪夢であればいいのに。何度そう思ったことか。でもこの痛みは……紛れもなく現実なのですね」
聖都アレサンディア。
ルスラの首都であるこの地にかつて、4つの希望の力を有する少女がいた。
少女の麗しい肉体は老いることも腐ることもなく、果てしない時の間、世界に恵みを与え続けていた。
大地を、草花を、動物を――そして生まれた人間が欲望に狂うまでは。
全ての母なる少女を神と崇め、恩恵を受けていたはずの人間達は、その立場も忘れ欲してしまう。
彼女が振るう希望の力を。
欲望の火種はやがて燃えさかる炎となり、世界を、そして神を燃やし尽くしていく。
激動のうねりの中、少女の神の力は4つの精霊としてその身から剥がれ落ち、愚かな人間へと継承されていった。
火の力はアヴェニアスへ。
風の力はメーヴェへ。
水の力はサラキアへ。
土の力はテルスウラスへと。
神の力と人間、終焉へ向かう物語の幕を開ける誘因となったテルスウラス。
愛深き彼女は、その愛ゆえに間違いを犯した。
テルスウラスは罪への代償として罰を背負う。
ルスラと、望んでもいない精霊の力を。
“豊穣神”なきルスラなど許されない。
聖都アレサンディアが“聖都”であるためには、早急に空いた玉座を埋める必要がある。
代々従者の一族として仕え、ルスラはおろか宮殿の外の世界を知らずに生きてきたテルスウラス。
ただひとつ、精霊の力をその身に宿しているというだけで、己の意思とは無関係に歩む道が決められていく。
かつて――今も愛する少女が座っていた椅子へと。
血で汚れた手を隠しながら。
EPISODE2 新たな豊穣神「これが償いだというのなら、私には受け入れることしか……それが民を欺くことだとしても」
ルスラの首都、聖都アレサンディア。
豊穣心ネフェシェが身を置く聖地であるため、大陸の中でも特に厳格な宗教国家であるこの国は、これまでにないほどの混乱に未だ包まれている。
あの日、民達の目の前で凶刃に倒れたネフェシェ。
国の根幹とも呼べる存在を守れず失ったことは、信者である民にとっては己という存在意義を疑うほどの衝撃であった。
同時に、ネフェシェが去ったルスラの大地は急速に痩せ衰えていく。
それはネフェシェという神がこの地にどれだけのものをもたらしていたのか再認識させ、さらなる悲しみを与えるには十分すぎるものだった。
この事態に、ルスラ中央院の高官達は迅速に動く。
国内政務の実権を握っていた中央院こそネフェシェ暗殺を企てていた張本人であり、国が混乱に陥ることはすでに想定していたことだったからだ。
だがひとつだけ想定外だったのは、テルスウラスの存在。
あの日、中央院が選出した実行犯ではなく、ネフェシェに手をかけたのは彼女の侍女であるテルスウラスだった。
中央院の高官達が予想だにしなかった“精霊の継承”。
ネフェシェを排し、精霊の力だけが残った。
追い風と言わんばかりに好都合なこの現状を、彼らが見過ごすはずがない。
「さあ、テルスウラス。ワシにその力を見せてみよ」
「…………」
「聞こえないのか? ワシの一存でいつでも兵を出せること……忘れてはおるまい?」
「……っ!」
中央院で最も位の高い最高官。その立場にある年老いた男が、俯くテルスウラスへとそう言い放つ。
少しの沈黙の後、テルスウラスが立つ石造りの宮殿の床に、足下から広がるようにして草花が生えていった。
それを見た最高官は、手を叩いて笑う。
「ホーホッホ! それでいい! ワシに従っておれば国や民も安泰。そして……ネフェシェの身もな」
「はい……」
テルスウラスは、ネフェシェを害したまさにその手で彼女を逃がしていた。
生きて、ここではないどこかで別の幸福を実らせてほしいと。
だが、その光景はあの場所に居合わせたいくらかの人間に目撃されてしまう。その中には最高官も含まれている。
彼はその事実をもとにテルスウラスに取引を持ちかけた。
『傀儡となるのならネフェシェを追うことはしない』と。
その手にかけるほど、純粋すぎる歪んだ愛をネフェシェに捧げるテルスウラスは、この取引を飲んだのだった。
「中央院の者達以外の“目撃者”の始末は完了した。ワシが……ワシこそが! このルスラを支配する時が来たのじゃ!! 王……なんたる甘美な響き……なんとワシにふさわしいことか……」
――数日後。
アレサンディアの大聖堂前にテルスウラスの姿があった。
その歳と顔立ちには似合わない、臀部が覗くほど背中が開いた、露出が多く下品な色使いのドレスを纏った姿で。
自らが選んだそのドレス姿を満足げに眺めていた最高官は、集まった民達へと宣言する。
「ルスラを守る新たな豊穣神のご誕生である!!」
それを合図に、テルスウラスはゆっくりと手を挙げる。
すると、“あの日の事件”であちこち割れたままの石畳が元の姿へと戻り、折れて枯れ始めていた街路樹は再び青々と天を突いていった。
それはまさに、ネフェシェが振るったものと同じ神の力。
途端、湧き上がる歓声に驚き、ビクリと肩を振るわせたテルスウラスは、初めて顔をあげる。
そこには、新たな神の誕生に沸き立つルスラの民達の姿があった。
誰もが歓喜の表情に満ちており、テルスウラスがネフェシェに刃を向けたその人だと気付いているものはいない。
代々従者の家系として宮殿内で生まれ育ち、宮殿の外に出ることがほとんど無かったテルスウラス。
そのため、あの一瞬の間に彼女の人物像が伝わることはなかったのだ。
だがその事実を、他ならぬテルスウラス本人は落胆して受け止める。
(私に気付いて……ネフェシェ様を失う原因となった大罪人だと……石を投げ、鞭を打ち、そして……殺してください……)
最高官が取引を持ちかけるまでもなく、あの瞬間からすでにテルスウラスの心は壊れかけていた。
愛ゆえに取った己の傲慢な選択は間違いであり、“あるべき姿を破壊してしまった”のが自分であること。
どんな悲しみも、怒りも、ぶつける相手は己以外にいない。
それでも。
それでもネフェシェから継承した精霊の力は確かにここにある。
どこにも逃げ場などない。それに気がついたとき、テルスウラスは己の力で物事を判断することができなくなってしまった。
聡明だったかつての少女は、もういなかった。
EPISODE3 崩壊の兆し「私の全てが、私から奪われていく。それを取り戻す資格さえ、この手の中にはない」
中央院による手段を選ばぬ手回しの末、テルスウラスはルスラの新たな豊穣神として祭り上げられた。
だが元来、ルスラの民は敬虔で熱心なアテリマ教徒である。
眼前でテルスウラスによる精霊の力を見せられたとて、ネフェシェへの厚い信仰心はそう簡単に崩れるものではなかった。
そんな不安定な状況下であるにも関わらず、中央院はテルスウラスを象徴とした新たな権力構造の構築を強引に推し進める。
結果、ルスラ国内で信仰の二分化と断絶という事態を引き起こしてしまう。
ネフェシェこそが永遠の唯一神であると信じる『旧神派』。
精霊の力を持つものこそが真の神であると信じる『新神派』。
宗派の対立は対立を生み、やがて小さな小競り合いから内戦が勃発してしまうまでになっていた。
「うっ……くっ…………」
「ホッホッホ! 声が出ぬほどよいのか?それとも、生娘を演じてワシを悦ばそうとしておるのかの」
「あぐっ……」
「好きにすればよい。精霊の力も、その肉体も、ワシのものであることには変わらぬのだから……なっ!!」
テルスウラスが、力の入らぬ身体でベッドに倒れ込む。
弄ばれるまま、されるがまま。人形のように横たわるだけ。
こんな夜は、もう数え切れないほど繰り返されている。
最高官はそんなテルスウラスを気にかけることもなく、老いた肌を晒しながら窓際に立ち宮殿の外を見下ろした。
闇夜の中、いくつかの炎が上がっているのが見える。
少し前まで友人だった者、それどころか家族だった者達までもが、宗派の違いから今日も争いを繰り広げている。
聖都の惨状を目の当たりにしながらも、最高官は口元に笑みを浮かべたまま呟いた。
「愚かじゃのう……旧神が貴様らを救うことなどないというのに……」
新神――テルスウラスを祭り上げているのが中央院という時点で、結末は決まっている。
中央院がひとたび腰を上げれば、国軍を使った武力行使でもって強制的に鎮圧できるからだ。
過激な旧神派による血を伴う暴動は各地で起こっている。軍を出す“口実”はすでに揃いつつあった。
ガウンを羽織った最高官は、裸で横たわるテルスウラスを下卑た眼差しで一瞥すると部屋を出て行く。
それと入れ替わるように、ドアの前で待機していた侍女が入ってくると、テルスウラスの側へとやってきた。
「ああ……今晩は特に非道い……テルスウラス様、お身体は大丈夫ですか?」
「ええ……」
「さ、湯浴みに参りましょう。私がお手伝いいたしますから」
「分かりました……」
よろりと立ち上がり、大腿から体液を垂れ零すテルスウラスを侍女が支えると、恭しくローブを羽織らせる。
そして今度はテルスウラスの手を取ると、ゆっくりと先導しながら浴場へと向かっていく。
テルスウラスに仕える侍女。二人の外見年齢はさほど変わらない。
精霊の力を持つ豊穣神に心から忠誠を誓い仕えるその姿は、かつてのネフェシェとテルスウラスを彷彿とさせるものであった――。
「お加減いかがでしょうか?」
「…………」
テルスウラスが何も答えないことには慣れている。
侍女は気にせず彼女の背中を泡立てると、桶に溜めた湯で一気に流し落とした。
「さ、綺麗になりました! 湯を張ってありますから、今日は少しでもお浸かりになられては――」
そう言いかけたところで、侍女はテルスウラスの異変に気がついた。
浴場の掃除に用いられる固い毛の生えたブラシを持ったテルスウラスが、自身の手を何度も擦り続けている。
どれほどの力を込めているのだろうか、柔肌は真っ赤に腫れて剥がれ落ち、シャボンの泡が赤く染まりだしている。
侍女が慌てて制止するもテルスラスは抵抗し、力任せにブラシを奪ってやっとその手を止めることができた。
「どうしてこんなことをなさるのです!」
「落ちない……」
「……?」
「汚れが落ちないの……身体についた汚いもの……全部……」
虚ろな瞳でボソボソとそう呟いたテルスウラス。
途端、侍女は胸からこみ上げてくるものを抑えきれず、テルスウラスの身体を子供のように抱くと優しく囁いた。
「……大丈夫ですよ。ほら、私がこうやって抱いているではないですか。テルスウラス様は汚れてなどいません」
呆然としたまま抱かれるテルスウラスの頭を撫でながら、彼女は決意の光を瞳に灯す。
「いつでもこうして差し上げます。私が守ります。だから……安心してお休みください」
EPISODE4 闇に跋扈する猟奇「命の炎が燃え尽きるのを感じる。ルスラの大地に芽吹いた、愛すべきはずの命が」
旧神派と新神派の内戦は膠着状態に入っていた。
急速に激化した争いは互いに失うものも多く、主義主張は変えないながらもにらみ合いの形に収まっている。
そんな聖都アレサンディアの中心から少し外れた一角にある、旧神派の民が集う食堂。
本来であれば夕方までの営業にも関わらず、夜の都の中で煌々と明かりがともっている。
中には酒を酌み交わす若者達が十数人。誰もが上機嫌で、たがが外れた笑い声が店の外まで聞こえるほど深酒しているようだ。
敬虔なアテリマ教徒は祝いの場くらいでしか酒を飲まないが、ここルスラといえども一部の血気盛んな若者は別。
平時では荒くれ者と呼ばれるような者たちが、こと内戦においては心強い戦力として働いてくれていることもあり、食堂の店主が店を貸し与えていたのだ。
「――だからよ、俺はあの新神派の馬鹿に思い切り蹴りを入れてやったのよ!」
「ギャハハハ! アレ、下手すりゃ今頃死んでるくらいの良い蹴りだったな!」
「死ねばいいんだよ! あっさりネフェシェ様を見捨てやがって……裏切り者どもが……!」
その言葉に、一同は怒りを滲ませながら拳を握る。
「中央院め……宮殿に石でも投げてやりたいぜ」
「やめとけ。門前の警備を知らないわけじゃないだろ。ちょっとでもおかしな真似したら、国軍に殺されちまう」
「……クソッ! あんな小娘が神なわけがねえ!豊穣神を騙ってるだけだ! 好機があれば、俺がこの手で化けの皮剥がしてやるのに……!」
若い男はそう吐き捨てると、手元の杯を一気に煽る。
しばらく悔しそうに唇を噛んでいたが、一度大きく息を吐くと、おもむろに立ち上がった。
「おい、どこ行くんだよ」
「少し飲み過ぎたらしい。夜風に当たってくる」
店外に出た若い男が、酔いを覚ますかのように軽く頭を振ったその時、彼の元へ近づいてくる人影に気がついた。
暗闇の中から現れ、店から漏れる明かりに微かに照らされたその姿は、一人の女。
歳は男よりも少し下くらいか。近くで見なくても美女だということがすぐに分かった。
男は、思わず生唾を飲む。
「夜も深いというのに、なぜこんなにいい女が」
そんなことを考えながら眺めていた男の胸中を察しているかのように、女は微笑を携えながら声をかけた。
「随分盛り上がっているんですね。何かの集まりですか?」
「あ、ああ。旧神派の会合……のようなもんだ。まさかアンタ、新神派じゃないだろうな」
「ふふ、どうでしょう。もしもそうだと言ったら、乱暴されちゃうのかしら? 色々と」
「アンタ……」
蠱惑的な笑みで楽しそうに言う女に、男は思わず手を伸ばす。
もはや宗派の違いがどうこうといった話など頭にない。明らかに“誘っている”と分かるその行為に、抗えずにいる。
「ねえ、ここは明るいわ。あっちでお話ししましょ?」
今度ははっきりと言葉で誘われ、男は何度も勢いよく頷いた。
女の後ろをフラフラと歩き、暗い路地裏までやってくると、辛抱たまらず背後から抱きしめる。
「あん……焦らないで。順序くらいは守れるでしょう?」
女はそう言うと、後ろ手で背中のボタンを外し、そのままストンと地面へワンピースを脱ぎ捨てた。
ここまでこの格好で歩いてきたのだろうか。下着の類は上下共に着けていない。
暗闇に慣れた男の目に、女の身体が青く映る。
その肢体は女性らしい丸みを持ちながらも、まだ少女のそれを色濃く残した肉付きの薄さをみせている。
それはどこか神々しささえ感じさせ、同時に自らの手で汚してしまいたくなるような加虐心を男は覚えた。
「い、いいんだろっ? なあ? 今さら嫌だって言われても止まらねえぞ?」
「うふふ。そちらこそ、嫌だって言っても許しませんよ?」
「へへ……俺がそんなこと言うもんか。ああ、こんな極上の女……夢みたいだ……」
男は目を血走らせながら、それでいて恍惚の表情を浮かべつつ女の身体を貪っていく。
よほど興奮状態だったのだろう。自身の肉体の異変に少しの時間を経て気がついた。
「――夢を見るにはまだ早いですよ。まあ……もうすぐ見られるでしょうけど」
「あ……?」
覚えのない痛みを感じて、男は自分の腹部を見る。
そこには、何か鋭利な杭のような物が深々と突き刺さっていた。
下腹部へ、そして脚へと流れる生暖かいものが、己の血液だと遅れて理解する。
「いったい何が」、混乱する思考はまとまらないが、「誰が」行ったものかは消去法で分かる。
男は顔を上げて、女の顔を見た。
そこに恍惚の表情はない。あるのは恐怖に歪んで引きつる顔だけ。
「い、嫌だ……やめてくれ……」
「あはは……許さないって、言ったじゃないですか!!」
腹に刺さった杭のような物を抜き取られた男が床に倒れた瞬間、今度は喉元へとそれを振り下ろされる。
悲鳴さえあげられなくなった男の身体は、繰り返し繰り返し打ち付けられ、もはや人間ではなく“肉片”と呼べるような何かへと変貌していった。
やがて手を止めた女は、満足げに呟く。
「守らなくては……他でもない、この私が……」
女はおもむろに歩き出し、今度は男の仲間達が酒盛りをしている食堂へと向かっていくと、裸の姿のまま、その扉を開け放つ。
間を空けず歓喜に沸く男達の声だったが、その声はすぐさま悲鳴へと変わっていった。
EPISODE5 人形と精霊「苦しみから己を救うことさえも許されない。そう……すでに私は人と呼ぶことさえできない存在なのですね」
「昨晩、聖都で非道い事件があったようです。なんでも旧神派の一味がたくさん亡くなられたとか」
「…………」
「新神派による犯行だ、なんて言われていますが、失礼ですよね。テルスウラス様を信ずる者がそんなことするはずがないというのに」
「…………」
「同じ国の民同士で争うなど、なんと愚かなんでしょう。皆、目の前のテルスウラス様のお導きに従えばいいものを……」
「…………」
鏡台に向かい、表情一つ反応を見せないテルスウラス。
それを気にもとめず、侍女はそう言いながらテルスウラスの髪を梳かし続ける。
――昨晩、食堂で起きた凄惨な事件は、アレサンディアの民を震撼させた。
店内に十数名、そして外の路地裏に一名。どれも男性と思われる遺体が、無残な姿で発見されたのだ。
床一面に広がる血だまりの中、“細切れ”と表現していいほど損傷の激しい肉片が混ざり合ってしまっていたため、正確な人数も把握できないほどであった。
だが何より、否が応でも人々の関心が高まる猟奇的な理由がもう一つあった。
それは、遺体に食いちぎられたような痕跡が残されていたこと。
歯形から人間の仕業であることが判明し、その痕跡の数の多さから、確かな意図があることを感じさせた。
これほどまでに醜怪な事件が風化するはずもなく、当てずっぽうな憶測などが肥大しながら、アレサンディアのみならずルスラ中へと爆発的に広がっていったのだ。
また、犯人に思惑があったかどうかは定かではないが、この事件は旧神派と新神派の内戦を再度激化させる原因になってしまう。
新神派による犯行と断言し、暴力をもって報復を行う旧神派。
その報復によって生まれた怨恨を、さらなる報復で返す新神派。
ついには新神派の最たる主である中央院の高官が暗殺されるまでに発展し、ルスラという国の崩壊の兆しが見えるほど国内分断は進み続けるのだった。
「――はい、できました。お美しいですわ、テルスウラス様」
髪を梳き、化粧を施し、テルスウラスを手際良く飾り終えた侍女は弾んだ声をかけた。
だがその声色とは裏腹に、彼女は悔しさに耐えるよう強く拳を握る。
間もなく、このテルスウラスの部屋には最高官がやってくる。
侍女がテルスウラスを飾るのは、あの醜悪な老人を悦ばせるための仕事であるからだ。
ネフェシェが倒れ、ルスラの混乱が始まったあの日。侍女は一部始終を“目撃”していた。
中央院は真実を知ってしまった高官以外の人物を残さず“始末”したつもりだったが、唯一逃れることができたのが彼女だった。
ネフェシェに仕える従者の一族であるテルスウラスの親類は追放され、新たな中央院が作り上げられる際、血縁のない外部から雇用されていた彼女は、テルスウラスの侍女に自ら志願した。
中央院が不穏な企てを画策していることは、宮殿にいれば肌で感じ取れる。
また、目撃者であることが露呈すれば自身の命は確実に亡きものとなるだろう。
理解していながらも彼女は、テルスウラスの側にいることを望んだ。
なぜなら、あの日見たネフェシェを愛するからこそ手を汚したテルスウラスに、深く深く心酔していたからだ。
結末がどうであろうと、愛ゆえの限りなく純粋で傲慢な行いに。
精霊の力を継承したことに意味はなく、ただ“テルスウラスという女”を神以上に崇める彼女は、側で仕えることを望んだのだ。
だからこそ歯がゆさを覚えてしまう。
仕える者として命には従わなくてはならない。だがそれが、愛する者が汚されることに加担する行為であるという事実が、彼女の胸を強く締め付けていた。
「ホホッ! 今日はまた一段と……早くも疼いてしまうわい」
見計らったかのように最高官がテルスウラスの部屋へとやってくる。
品のない笑みを浮かべながら、もはやその下劣さを隠そうともしていない。
恭しくお辞儀をしながらも、冷ややかな視線を送る侍女が入れ替わるように部屋を去ると、鏡台の前に座ったままのテルスウラスを最高官は抱きしめて囁く。
「今すぐにでも食らいついてやりたいところじゃがの。その前に、おぬしには神としての仕事をひとつ果てしてもらおう」
そう言って取り出したのは、数枚の書類。
混乱を極める国内情勢に中央院を狙った暗殺事件など、もう十分“大義名分”は揃っている。
暴力の応酬を鎮圧するため、それ以上の暴力で鎮圧する。書類は、本格的な内戦鎮圧に軍を派兵するための許可証であった。
たとえ形だけであっても、国の最高位に君臨するテルスウラス。彼女のサインでもって書類は完成するのだ。
ここまで表情一つ変えなかったテルスウラスが、初めてその目を見開く。
派兵すれば、多くの民が命を落とすだろう。
このサインは、回り回ってテルスウラスが引き金を引くことと同義であった。
最高官に無理矢理ペンを握らされるが、その手は小さく震えたまま動かない。
「確かに人は死ぬ。じゃが、ここで手を下さなくてはさらに多くの者が死ぬことになるぞ? ネフェシェが愛したこの国すら消え去るかもしれぬ。さあ……おぬしなら、本当に賢い行いというものを理解しておるだろう……?」
しばらくの沈黙の後、テルスウラスはその書類にサインをした。
『軍の派兵』。そして『必要とあらば精霊の力をふるう』ことを約束する書類に――。
その夜。
自室の床にひとり座り込んだテルスウラスは、窓から差し込む月明かりに照らされ、青白い顔をより一層白く光らせていた。
その手には一振りの短刀が握られている。
焦点の合わない目で部屋の隅をじっと見つめていたかと思うと、おもむろに短刀を逆手に握り直し、その切っ先を勢いよく自身の胸へと振り下ろした。
ためらいのない、心臓への正確なひと突き。
間違いなく致命傷となるはずのその行為は、テルスウラスの意思とは裏腹に無に帰されてしまう。
刃がテルスウラスの身体に触れようとする直前、その短刀は刃先から木屑へと一瞬で変化していき、ついには柄さえも手のひらからバラバラと崩れ落ちていった。
――テルスウラスに宿る土の精霊は、彼女の選択を拒否していた。
「死ぬことさえ……許してくれないの……」
意思も、肉体も、己の生き死にでさえ、もうテルスウラスのものではない。
ただ使われ、犯され、愛する者を傷つけた罪すら償えない、ただの人形。
あの日精霊を継承して以来初めて、テルスウラスは大声で泣き叫んだ。
EPISODE6 証言「この光景を見たら、あの方はなんとおっしゃるでしょう。愛する大地が腐っていく光景に」
ルスラ国軍による反乱分子の弾圧作戦は、中央院の想定よりも順調には進まなかった。
元々信仰の厚いルスラの民である彼ら旧神派は、ネフェシェを否定するくらいなら死を選ぶ、という覚悟で軍との衝突を繰り返していく。
家屋は倒壊し、石畳はめくれ上がり、床に転がる遺体の処理などとうに追いつかない地獄のような光景。
ネフェシェが作り上げた博愛の国ルスラは、たった1年も経たぬうちに見る影もなくなってしまっていた。
流れる血が日に日に増していく最中、その血に紛れるようにして再びあの猟奇的な事件が増えていく。
旧神派、新神派、はたまた国軍の兵士など、もはや手当たり次第といった具合に、ルスラの男達がむごたらしく殺されていく。
最初の被害者達と同じ、変わり果てた姿になりながら。
これまで被害に遭ったものは確実に殺されており、目撃者もない。だが、あまりに被害者が増えたことで、幸か不幸か“生き残った者”が現れた。
穴の開いた脇腹から、はらわたを垂らしながらも必死に逃げ切ったひとりの兵士。
治療を施しながら行った取り調べによって、その人物像と犯行の手口がおぼろげに浮かんでいく。
その日、兵士は所属する分隊兵と共にアレサンディアの夜間警邏に当たっていた。
かつてのルスラの首都としての面影はすでに無く、軍による鎮圧と新神派を含めた一般人はとうに退避していることで、都はひっそりと静まりかえっている。
冷たい風に身体が冷えたのか、油断したのか。催した兵士は仲間を先に行かせ、路地裏で小用を足した。
息をつき、追いつこうと駆け足で戻った時には、もう仲間達は肉塊へと成り果てていた。
苦しみながらも淡々と話す兵士に、取り調べを担当する中央院の役人は身を乗り出しながら問いかける。
「犯人はどんな姿だったのだ。年齢は? 性別は?」
「うう……女、だった……それも若い美女だ……」
「女だと!? あれほどの人数を……信じられん」
「はっきりとは見えなかったが……間違いない……誰もが、振り返るくらいの……」
仲間と、“女”に出くわしてしまった兵士。
彼は見てしまう。ある種の儀式のような犯行は、まだ終わっていなかった。
「“食ってた”んだ……猛獣みたいに噛みちぎるだけじゃなく……まるで夕食を楽しむように咀嚼して……」
「なん、だと……」
「その光景に呆けていたら……いつの間にか腹を……うっ……!」
「……分かった。もう休め」
兵士の証言が事実であれば、犯人はもはや常人の思考から外れている。
女の力とは思えないほど激しく損傷した遺体と、その数。
そして、人間の肉を食すというあまりにおぞましい行為。
「化物か……?」
役人はひとり、思わず呟く。
怪人や人ならざるものが跋扈する娯楽小説のような出来事が、現実に起こっている。
そんな存在が以前からこの国に潜んでいたのか、それともこの悲惨な内乱が生んだのか。
分からないことだらけではあるが、証言のおかげで対策は取れる。
軍の兵士はもちろん、ルスラの民へ、安易に見知らぬ女に近づかぬよう流布すること。
その後に、国中の若い女を捕らえ徹底的に調べ上げればいいだけだ。
旧神派と軍との衝突とはいえ、その武力の差は比べものにならない。日に日にジリ貧と化している旧神派の様子を見れば、内戦が終わるまでそう時間はかからないだろう。
「内戦が終わり次第本格的な捜査を」役人が高官達へそう進言してまもなくの事。早くも次の犠牲者が現れてしまう。
アレサンディアの食堂でも路地裏でもなく、他ならぬ中央院の高官とテルスウラスが住まう、ルスラを象徴する大宮殿の中で。
宮殿への出入りは選ばれた者しか許されていない。
つまりそれは、少なくとも中央院に関係する人物が犯人であることを意味していた。
EPISODE7 薄ら寒い宮殿の中で「流れる血が命の熱を奪っていくように……冷たい空気が流れている……新しい死を誘いながら……」
「なんとしても捕らえるのだ! 豊穣神……いや、このワシが狙われるかもしれぬのだぞ!!」
近衛兵のみならず、旧神派の鎮圧を担当する兵まで集めた最高官は、激高しながら叫ぶ。
一連の猟奇的殺人は最高官が企てたものではない。それが内部で起きたとなれば、実権を握る現在の中央院を転覆させるための反乱である可能性は大いにある。
喉元まで切っ先を当てられたような気分になった最高官は、明らかに冷静さを欠き、辺り構わず怒鳴り散らし続けていた。
証言を元に、宮殿内のあらゆる女が強制的に隔離され、厳しい尋問が一日中繰り返された。
だがそれらしい人物は見つからず、宮殿内は張り詰めた空気が流れたまま夜を迎える。
「次は拷問されるかもしれない」、隔離された女達は恐怖に震えながら肩を寄せ合う。
男達も見知った顔や身内である女を疑わなくてはならないことに、精神を疲弊させた。
そんな異常な雰囲気に包まれる真夜中の宮殿で、最高官は廊下を歩いていた。
何度も説得する近衛兵を一蹴し、護衛もつけずたったひとりで。
こんな事態だというのに、その足はテルスウラスの部屋へと向かっている。
下劣な最高官とはいえ、想定以上に内戦が激化してからこの数ヶ月は執務に忙殺されていた。
その重圧や恐怖を紛らわそうと、欲情を吐き散らかす算段であった。
「ヒッヒ……神でさえ我が物にするこのワシが、こんなところで倒れるはずがないのだ……」
言い聞かすようにそう呟きながら、醜く老いた顔の皺を下卑た笑みで歪めてゆく。
やがてテルスウラスの部屋の近くまで辿り着いた最高官は、薄暗い夜の廊下で、扉の前に誰かが立っていることに気がついた。
「……誰じゃ」
「こんな時間にいかがなさいましたか? 最高官様」
その声に最高官は胸を撫で下ろす。
金色の長い髪、白い宮殿の給仕服。見慣れたその姿は、テルスウラスの侍女その人だったからだ。
もはや自身の身の回りのことさえ出来なくなっているテルスウラスのために、彼女だけは隔離されることを免除されていた。
「それはワシの台詞じゃ。お前こそ何を――」
「いつもこの時間に一度目を覚まされるので。新しい水をお持ちに」
「ふむ……もうよい。下がれ」
そう言われた侍女であったが、微笑を携えたままその場から動かない。
絶対である最高官の言葉。それに背く行為に眉をひそめた時。
「私とは……遊んでくださらないのですか?」
侍女はそう言ってスカートの裾を掴むと、ゆっくり持ち上げはじめた。
最高官をまっすぐ見つめ、挑発するように。
「ワシに抱かれたいと……? 立場をわきまえよ」
「不敬な真似であることは承知しております。でも……私がそうしたいからするのです」
「貴様、何を口走っているのか分かっておるのか」
「ええ、もちろん……それより、最高官様のほうが分かっていらっしゃらないようなので、教えて差し上げます」
そう言って、侍女は裾を腰まで一気に引き上げる。
露わになったその脚は、彼女の顔や肩口から覗く白い肌ではない。
樹木の幹を思わせる、くすんだ色。
明らかに人間のものでないことは一瞬で理解できる。
色、質感、関節、その数も。ヒトの形状からは大きく外れた脚が、8本。
それは――巨大な蜘蛛。
反射的に嫌悪感を覚えてしまいそうなほど、おぞましく巨大な脚が、カサカサと不規則に動いていた。
最高官は後ずさりしながら、震える声で糾弾する。
「き、貴様だったのか……」
「さあ、なんのことをおっしゃっているのやら」
言いながら蜘蛛は、脚のうちのひとつを持ち上げる。
鋭利に尖ったその脚先を自身の服に引っかけたと思うと、よく磨いだナイフで紙を切るように、一気に切り裂いていく。
途端、最高官の眼前に、現実とは思えないものが現れた。
うら若き女の柔肌を携えた人間の上半身と、いくつもの脚が生えた蜘蛛の下半身。
人間の下腹部にあたる箇所には蜘蛛の口がモゾモゾと蠢いているのが確認できる。
「ば、化物め……!」
「まあ非道い」
「何が目的だ……貴様に恨まれるようなことは――」
「恨み、ですか……恨みというよりも、私は“守りたかった”だけ。でも、それも叶わないようなので。好きにしているだけですわ」
「……だ、誰か! 誰か助けてくれ!!」
我に返ったように最高官はそう叫ぶと、ひいひい息を漏らしながら老いた身体で宮殿の廊下を逃げ走る。
その背中を追う蜘蛛は、鋭く尖った脚を何度も繰り返し伸ばしていく。
ヒュッと風切り音がするほどの“刺突”とも呼べるその一撃は、石造りの宮殿の壁に容易く穴を開けるほどのもの。
これまで多くの人間を肉塊へと変えた凶器、それがこの蜘蛛の脚だった。
最高官の老体などひとたまりもない。だが蜘蛛は、あえて直撃させることはせず、恐怖に逃げ惑う姿を楽しんでいる。
「あははははははははは!!!」
まるで子供が追いかけっこをしているかのように、蜘蛛は狂った笑い声をあげる。
その耳をつんざく声と、カチャカチャと床を鳴らして迫る足音に恐怖する最高官は、気付けば失禁したまま走っていた。
だがすぐに、老体に限界が訪れる。
大広間までやってきた最高官は床へ倒れ込むと、側までやってきた蜘蛛はそれを見下ろして言う。
「もうおしまいですか」
「や、やめろ……殺さないでくれ……」
「ごめんなさい、それはできないんです。あなたは誰よりもむごたらしく殺せと、“この身体”が言っているものですから」
そう言って、蜘蛛は最高官の腕へと脚を振り下ろした。
かわす間もなく脚は腕を貫き、老人の身体は床へと磔になる。
「ぎゃああああああ!!!」
「叫び声も醜いのですね。まずはその口を塞ぎましょうか」
喉を潰すための次の一撃。それが振り下ろされようとした瞬間、蜘蛛の動きが止まる。
真夜中の宮殿。豊穣神であるテルスウラスの部屋がある階層は、他の者とは離れた場所にある。
先ほどまでの助けを求める最高官の声も、誰かに届いていたかどうか。事実、兵達が駆けてくる音もない。
蜘蛛と老人、それ以外は存在しないはずの空間。
だがそこに、姿を現した人物がいた。
「な……どういう、ことなんじゃ……」
その人物は混乱している最高官を一瞥すると、今度は傍らに背を向けて立っている奇怪な姿をした“誰か”を見据えた。
十中八九危険な存在であることは予想できるが、それでも脚を震わせながらも問い詰める。
「あ、あなたは誰ですか……! ここで何をしているのです!」
応えるように、背中を向けていた蜘蛛はゆっくりと振り返り始めた。
蜘蛛の脚を器用に動かしながら、ゆっくりと。
やがて正面へ向き直ると、両者はまっすぐに対峙する。
人間の上半身と蜘蛛の下半身。
その異形の姿への恐怖ではなく、こぼれたのは矛盾への疑問。
「――――“私”?」
金色の長い髪に白い給仕服を身に纏った――テルスウラスの侍女。
蜘蛛と同じ顔をした“ヒトの姿”の彼女が、そう呟いた。
EPISODE8 呪われた子供達「ありがとう……それから……本当にごめんなさい……」
「え……どうして……私の、顔……」
自身と同じ顔をした存在が目の前にある。だが、決して鏡などを覗いているわけではない。
瓜二つなのは上半身のみで、下半身はおぞましい虫のそれだからだ。
悪夢のような光景に、侍女の呼吸は次第に荒くなる。
身体の震えも止まらない。しかしそれでも尋ねずにはいられなかった。
「あなたは、何?」
「アナタハ、何?」
「なぜ私の顔をしているの」
「ナゼ私ノ顔ヲシテイルノ」
同じ声、同じ口調、同じリズム。寸分違わず再現されるオウム返しに、侍女はさらなる畏怖を覚え顔がこわばる。
逆に蜘蛛のほうは微笑を崩さずに小さく笑い声を漏らしていた。
侍女は考える。
最高官の腕にいまだ突き刺さっている蜘蛛の脚を見れば、こちらに敵対する者だということは明らかだ。
中央院の転覆を目的とする暗殺者か。はたまた魔女に呪いでもかけられた化物か。
蜘蛛の正体は分からないが、最高官を殺めた後は確実に自分も殺されるだろう。
だとすれば、何かがおかしい。
こうしている間にさっさと手をかけてしまえばいいものを、まるで何かを待っているように蜘蛛はじっとこちらを見つめている。
「何をしておるのじゃ! こ、こいつを殺せ!!連続殺人の犯人は、この化物なのだぞ!!」
痺れを切らした最高官が、床でもがきながら叫ぶ。
そう言われたからとて、侍女が行動に出ることはない。
彼女は剣も握ったことのないただの人間。その細腕に出来ることなど何もないからだ。
とはいえ、黙って殺されるわけにもいかない。
侍女にとって最高官の生死はどうでもいい。
重要なのは、自分達を殺した後、テルスウラスへ危害を加えることだけは阻止したい。
少しでも時間を稼ぐため、やぶれかぶれではあるが侍女が次にとった行動は“対話”だった。
「あなたが起こした事件は私も知っています。目的は何?」
「目的……なんと言えばいいのでしょうか――」
持ちかけた対話に、蜘蛛が乗った。
確実な前進に、侍女は悟られぬよう息を飲む。
「――やはり、“守りたかった”。そう表現するしかないですわ」
「守る? 誰を?」
「……テルスウラス。あなた達が担ぎ上げた、哀れな人形」
思わぬ人物の名に、侍女と最高官は驚く。
心を病み、口を閉ざてしまったあのテルスウラスが、異形の怪物と繋がっていたのだろうか。
そんなはずがないと叫び出しそうになるのを抑えながら、侍女は蜘蛛の言葉を待つ。
「ルスラの民、国軍、中央院の高官……あの子を苦しめる者を消してしまえば、救えると思っていました。でも、そうじゃなかった……」
「それは……テルスウラス様の望みだったのですか」
「そうだとも言えますし、違うとも言えますわ。あの子が望んで、あの子が拒絶したのだから……」
「…………」
要領を得ない蜘蛛の話に、侍女は黙り込んでしまう。
大広間に流れる沈黙を破ったのは、蜘蛛の方だった。
「……終わりが近いようです。もう“私”が目覚める時間」
「……何を言っているの? 言っている意味がさっきから――」
「すぐに分かります。だから……こっちに来て私の手を取って……」
気付けば、先ほどまでの禍々しい殺意は消え失せていた。
蜘蛛は最高官を貫いていた脚を抜き、侍女に向かってゆっくり踏み出し始める。そして眼前までやってくると、まっすぐに手のひらを差し出した。
異形の者であることを忘れてしまいそうなほど、その表情は慈愛に満ちている。
侍女は警戒しながらも自身の手をおずおずと差し出すと、蜘蛛の手へと乗せた。
蜘蛛はそれを両手で優しく握り返しながら、口を開いた。
「あなたは、あの子を大切に思ってくれているのですね?」
「……ええ。テルスウラス様は、私の光」
「ならば、ひとつだけ約束して欲しいのです。あの子の望みを、必ず成就すると」
「……テルスウラス様が望むのなら」
「よかった――」
そう言った途端、蜘蛛の肉体が変容し始める。
侍女と同じ顔と肌をした上半身が泥のような土色に変色し、瞬間的に硬化していく。
土になり、岩になり、樹皮のようになり。
目まぐるしくその性質を変え続け、最後に砂となった。
その砂が、重力に従ってサラサラと流れ落ちる。
まるで虫が脱皮するように、新たな肉体がそこにあった。
侍女ではない、ひとりの少女の姿に。
「テルスウラス様ッ!!!!」
蜘蛛の正体は、テルスウラスであった。
侍女の頭に、自身の時のように肉体を模している可能性がよぎったが、すぐに霧散する。
何度も梳かした髪、洗い上げた肌。自分のよく知るテルスウラスそのもの。
だがそれだけでなく直感で分かった。彼女が紛れもなく愛する主であると。
「どうして……なぜこのようなお姿に……ああ、何からお聞きすればよいのか……!」
「驚かせてごめんなさい……でも、もう時間がないの」
「時間……何をおっしゃっているのか……」
「心の奥にある醜い願望……それを土の精霊が叶えてくれた……だけど、その度に私の心はバラバラになっていったわ……割れた器は、もう戻らない……」
蜘蛛――土の精霊は、器であるテルスウラスを守るため、それを蝕む者達の排除を行っていた。
だが心とは、天秤のように単純なものではない。
殺戮を繰り返せば繰り返すほど、自身と、そしてネフェシェが愛したルスラの民を殺めたことに、心はさらに壊れていく。
自分の意思であり、自分の意思ではない。
循環し続ける地獄の輪廻の中で、テルスウラスの精神は限界に達しつつあった。
とうに彼女は、“この世界”に執着していない。
「テルスウラス様……」
それ以上言葉が見つからずにいる侍女を置いて、テルスウラスは大広間の最奥へと歩き出した。
ルスラの伝統芸術で一面を飾られた壁。十字にかけられていた2振りの細剣の中からひとつを取り戻ってくると、それを侍女へと差し出して言う。
「約束してくれたわよね。これで……私を殺して」
「え……」
「お願い……自分で自分を殺すことさえできない……“私がどこにもいない”この世界から救って……」
「そんな……」
差し出されるまま、侍女は剣を握る。だが、愛するテルスウラスを殺すなどできるはずがない。
立ち尽くす侍女の背後で、腰を抜かして床にへたり込んでいた最高官が叫んだ。
「や、やめろ!! そんなことをしたら、精霊の力はどうなるのじゃ!! ワシの力……ワシのルスラが!!そ、そうだ! ネフェシェはどうする! ワシの一存で捜索兵を出せるのだぞ!!」
だが、彼女は意に介さない。
初めから追っ手は出されていた。最高官はそれを伏せ、騙し続けていたのだ。
テルスウラスはその事実を知っていた。知りながらも人形に甘んじていたのは、逆説的にネフェシェの無事を知れるから。
ネフェシェを捕らえたという情報がないまま半年以上過ぎている。つまり、ルスラの兵からは逃げおおせたのだろう。
最高官が喚く中、侍女は何かに気がついた。
殺したくない。死なせたくない。生きていてほしい。
生きるなら、いくらでも方法はあるではないか。
そう思った途端、堰を切ったように感情が溢れ、目に涙を溜めながら侍女はテルスウラスへと懇願した。
「そう、生きればよいのです!! 生きてください、テルスウラス様!! あなた様が心を痛め、死ぬ必要なんてありません!! 国も、神としての責務も捨て、どこか遠い地へ移りましょう!!」
「…………」
「それとも、あなた様を苦しめる者を私が殺してさしあげましょうか!! あそこで喚く醜い老人も、今すぐこの手で!!」
情けない悲鳴を漏らしながら後ずさる最高官を一瞥したテルスウラスは、ゆっくり首を横に振りながら、優しく語りかけるように侍女に言う。
「あの人は……殺さないであげて」
「なぜです!? あの下衆がテルスウラス様にしてきた仕打ちを考えれば、殺しても殺したりないくらいなのに!!」
「でも……“必要”なのです……」
「どうして……」
「そして、国を捨てることも……私にはできない……私にとっての希望は、もうこの世界にないから……」
「嫌……」
「お願い……約束、叶えて……」
「嫌ぁぁぁぁーーー!!!!」
侍女はもう分かってしまった。
彼女だからこそ、分かってしまった。
テルスウラスにとって幸福は、死をもってしか成就できないのだと。
「…………」
侍女は黙ったまま、手の中で持て余していた剣の柄を握り直すと、その切っ先をテルスウラスの胸へと向けた。
流れる涙を拭うこともせず、荒い呼吸を繰り返し吐きながら、泣き喚く子供のようなくしゃくしゃの顔でテルスウラスを見つめ続ける。
それを見たテルスウラスはほっと息を吐くと、全てを受け入れるように目を細めた。
二人を止めるべく、床を這いずりながら最高官が叫ぶ。
「やめるんじゃーーー!!」
「お願い!!」
「やめろぉぉ!!!」
「早く!!」
最高官とテルスウラスの声が交互に響き渡る。
それを聞きながら、侍女は一瞬苦悶の表情を浮かべると、迷いを振り払うように声を上げた。
「あああああぁぁぁぁーーーーー!!!!」
その時、テルスウラスが微かに笑ったかと思うと、侍女の叫びでかき消えてしまうほど小さな声で呟いた。
「ふふ……あなたなら、よかった――」
胸へと突き刺さった刃から、血が伝い流れる。
テルスウラスへ手を伸ばした侍女だったが、その手は頬へ触れることなく空を切った。
テルスウラスの顔も、蜘蛛の身体も霧散していく。
ただひとつ、まばゆいほどの光を放つ“何か”が、宙を漂っていることを覗いては。
光は、まるで“そこへ向かうのが当たり前”かのように、侍女の元へ吸い寄せられたかと思うと、彼女の腹の中へと同化していった。
その光とは――精霊の力。
あの日、ネフェシェとテルスウラスに起こったように土の精霊は新たな器として侍女を選んだのだった。
「お、お前が継承したというのか! 精霊の力を!」
テルスウラスの生死など眼中になく、精霊の力の行く末だけを案ずる最高官が、そう叫ぶ。
何が起こったのかまだ理解ができず、戸惑う侍女であったが、その足下にある石造りの床から生い茂る草花が、紛れもない事実を何よりも証明していた。
「どうやらそのようじゃな……ほっほ……お前であれば何も問題はない……容れ物が変わろうとワシの手の中にあることには違いないからの……」
テルスウラスは分かっていた。侍女が精霊の器になり得る存在であると。
彼女は分かっていながら、己を苦しめ続けた力から、そしてこの現世から解放されるため、差し出したのだ。
だが、テルスウラスが残したものはこれだけではなかった。
「……うっ!?」
身体の違和感に気がついた侍女が、床にうずくまる。彼女に医学の心得はない。だが直感で、“身体が作り替えられている”と確信した。
腹の中に微かに感じる、己のものではない鼓動。生娘である侍女に覚えはない。だが確かにそれは、赤子が発する命の鼓動そのものだった。
異変に気がついた最高官が駆け寄ると、その様子からひとつの答えを導き出した。
「まさか……! 力と共に宿した子も受け継いだということか!? あやつめ!孕んでおったのか!!」
「う、うう……」
「ひゃひゃひゃひゃ!! ワシの子じゃ!!我が一族は精霊に選ばれた! ルスラを統べる高貴な血統がここにある! なんという僥倖か!!」
狂乱状態にある老人の憶測からくる妄言であったが、奇しくもそれは事実であった。
老人の欲望により、テルスウラスに芽生えてしまった新しい命。
だからテルスウラスは、心の奥で最も憎みながらも、最高官を最後の最後まで殺すことができなかった。
最高官を殺してしまえば、その座を狙う別の高官によって、無防備な子供の命が脅かされるかもしれないという懸念。
それは決して、母としての愛などではない。
“死”という救いの世界へ旅立つのに、重荷はいらない。かといって、子が不幸になる原因にはなりたくない。
己が救われるためならば、全ての責務を放棄するという、身勝手で、無責任で、自己愛に満ちた、テルスウラスの本質が溢れだしたような醜い思索によるものだ。
当然侍女も、テルスウラスにとって特別な存在ではない。
ただ精霊の容れ物として、そして子の容れ物として、向けられた愛を利用するのに都合が良かっただけ。
それだけのことだった。
こうしてテルスウラスは最後の望みを叶え、その物語に幕を閉じる。
彼女の思惑にも気付かず、侍女はテルスウラスを愛し続け、愛する人が残したものを守るために、言われるがまま最高官の傀儡となっていく。
何かが変わるわけではない。
ただ、精霊を取り巻く少女達の悲しみの連鎖が繋がっていくだけ。
それはルスラに、この世界にとって、序章にすぎない出来事であったが、それを知る者は未だどこにもいなかった――。
――そして、しばらくの時が過ぎる。
中央院の本格的な武力介入により、新神派と旧神派の内戦が半ば強制的に沈静化された頃。
奇跡の力によって処女受胎を果たした“侍女だった少女”は、“ふたり”の子を産んだ。
テルスウラスの面影を感じさせる双子の女児が自力で乳を飲むことが出来るようになった頃、最高官の指示により、ふたりはそれぞれ貴族の家へと養子に出されることとなった。
ひとりはプテレアー家、もうひとりはクレスターニ家へと。
貴族として、そして最高官にとって“都合の良い”教育を施し、次に精霊を継承する容れ物として育て上げようという算段である。
だが、縁組にはまた別の目論見があった。
今は赤子であるふたりが、やがて成長し残すであろう子供。その子供、さらにその子供。
親交の深い両家の螺旋に組み込むことにより、老い先短い自分に代わって、己の血統を未来永劫ルスラの地に残そうとしていた。
そこに神への信仰や、精霊の力を守るといった意図は欠片もない。
ただただ純粋に、歪んだ顕示欲から生まれた醜い打算であった。
最高官の支配の元、皮肉にもルスラは安寧の時代へと突入する。
ネフェシェを名ばかりの神として据え置き、これまで以上に強固に確立された制度と信仰で民を管理する宗教国家として。
その大地が狂った欲望で耕されていることも知らずに、ルスラの民は神と、神の力を行使する聖女を今日も崇める。
やがて彼らは、精霊の力を継承する聖女を巫女<シビュラ>と呼び、その名は世界へと伝わっていくのだった――。
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でも可愛くていいと思います -- 2023-10-05 (木) 20:44:03