風の精霊

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:03:50

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


風の精霊.png
Illustrator:ゆずしお


名前風の精霊
年齢不明
職業風の精霊
  • 2023年9月28日追加
  • SUN ep.Ⅵマップ3(進行度1/SUN時点で305マス/累計905マス)課題曲「《散華》 ~ EMBARK」クリアで入手。

    命を捧げた巫女<シビュラ>の体に宿る、神の分身の一人。
    シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。
    荒場 流子「ピュアァァァ!? あれって、本当は怖いお伽話みたいなものじゃないの!?」

    精霊(エレメンタル)炎の精霊 / 土の精霊 / 風の精霊 / 水の精霊

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1道化師の狂気【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


道化師の狂気【SUN】 [ABSOLUTE+]

  • 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】よりもハイリスクハイリターン。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400でボーナスの増加が打ち止めとなる。
    効果
    100コンボごとにボーナス +????
    JUSTICE以下50回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+7000
    2+7010
    3+7020
    11+7100
    21+7200
    31+7300
    41+7400
    61+7600
    81+7800
    101+7995
    ▲NEW PLUS引継ぎ上限
    102+8000
    142+8200
    182+8400
    222+8600
    262+8800
    302+9000
    342+9200
    382+9400
    400+9490
    推定データ
    n
    (1~100)
    +6990
    +(n x 10)
    シード+1+10
    シード+5+50
    n
    (101~400)
    +7490
    +(n x 5)
    シード+1+5
    シード+5+25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/10/12時点
SUN+12145+8215
SUN13301+8995
~NEW+0401+9490


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
13681114182226
73681114172226
163681114172126
213581014172125
403581013172125
513581013162024
733571013162024
843571013162023
913571013161923
102357912151923
139357912151922
169357912151822
217357912141821
248357911141821
267357911141721
302246811141720
349246811131720
377246811131620
397~246811131619


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    SUN+ep.Ⅵ1
    (305マス)
    305マス
    (-)
    炎の精霊
    2
    (305マス)
    610マス
    (-)
    土の精霊
    3
    (305マス)
    915マス
    (-)
    風の精霊
    4
    (305マス)
    1220マス
    (-)
    水の精霊

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 砂漠の海で「めーべは、めーべ、だよ」


名前:風の精霊
年齢:不明
職業:風の精霊

 誰もが幸福で、誰もが平等でいられる世界。
 それを実現させられたのは、唯一無二にして生ける神
――ネフェシェの存在があればこそ。
 神の御業によって、世界には常に正しさが満ち溢れ、
誰もが皆他者を想い合い、手を差し伸べられる。
 あまねく世界に、ネフェシェの慈愛があるかぎり。

 だが、神をもってしても見渡す事のできぬものが
あった。
 それは――欲望。
 人々の内面に潜み、獲物を虎視眈々と狙い続ける、
獣のごとき心だ。
 それがいかに危険をはらむものか気付けなかった
ネフェシェは、洪水のように押し寄せた欲望の餌食に
なってしまう。
 人間たちが欲したのは、彼女の内に宿る精霊の力。
 どこまでも執拗に追いかける人間たちの魔の手は、
全ての力が零れ落ちるまで彼女を追い続けた。
 そして――4つの精霊の力は、4者へと継承される。

 火の力は、アヴェニアスへ。
 水の力は、サラキアへ。
 土の力は、テルスウラスへ。
 風の力は、メーヴェへと。

 ネフェシェの失踪と精霊の力の継承以降、世界の
均衡は脆くも崩れさった。人々は力を巡って争いあい、
多くの悲劇を絶え間なく生み出し続けていった。
 人の欲望に限りはない。
 貪り喰らい、皿が空になれば“餌”を求めるのだ。

 ――次は? 次は? 次は?

 それこそが、人間の本質。

 ――次だ! 次だ! 次だ!

 獣。人もまた獣なのだ。

 ――雨もろくに降らない砂漠地帯。
 ここにもまた、欲望のままに生きる人間たちの姿が
あった。

 「へへ、まさか砂漠ん中で、こんな上玉を拾える
なんてよぉ!」

 みすぼらしい格好の二人の男が、目の前でぼんやりと
突っ立っている少女へと舐め回すような視線を向ける。
 対する少女は、頭からボロ布をかぶり、体格に
見合わない翡翠色の短剣を手に持っている。
 風に吹かれるたびに、ボロ布の下に隠れた裸体が
チラチラとのぞく。
 とてもではないが、旅人のような格好ではない。

 「……?」

 歳は10を過ぎたあたりだろうか。少女は小首を
傾げたままこれといって反応を示さなかった。年頃の
女性なら、鼻息を荒くする大人の男に囲まれれば、
何かしら拒否反応を示すだろう。

 「こいつ妙に大人しいな。目は見えてるみたいだが」

 そう言って、もう一人の男が少女の顔をよく見ようと
布を乱暴に取り払った。

 「なんだこりゃ……角が生えてるぞ!?」

 それは、羊のような角だった。髪をかき分けてみると、
耳の斜め上辺りに付け根がある。

 「たまげたぜ……。おいお前、名前はあるのか?」
 「な……ま、え……?」
 「おお、そうだよ名前だよ名前!」

 少女は眠たそうな目で空を見つめたまま、少しの間
思案する。ようやく思い出したのか、のんびりとした
口調で言った。

 「めえべ」
 「メーヴェ? どっかで聞いた気もするが……まあ、
んな事はどうだっていい。へへ、俺たちはついてるぜ!
こいつは間違いなく“売れ”る。金になるねぇ!」

 品定めでもするように、男の瞳が弧を描く。
 下衆な視線を向けられても、メーヴェは純粋な
眼差しを向けるだけで、嫌がる素振りを見せない。

 「さあ、お嬢ちゃん。俺たちが良い所へ連れてって
やろう」
 「いい、ところ?」
 「ヒヒ、ああ、とーっても“気持ち良い”ところだ」
 「ん……わかった」

 彼らは知る由もなかった。
 褐色の肌に獣の角を有す少女――メーヴェ。
 彼女が、風の精霊の力を宿している事を。


EPISODE2 ならず者たちの理想郷「たべるため、いきるため、めーべはたらく」


 どこまでも遠く、果てのない青い空の中を、白い鳥の
群れが南を目指して飛んでいく。
 その下では、空と対をなすように広がりを見せる
黄色い砂漠があった。緩やかな傾斜が絶え間なく続き、
時に風に乗って方々へと散っていく。
 自由気ままに、あるがまままに――。

 無垢なる少女メーヴェが、男たちに連れてこられた
場所は、砂漠の中に築かれた街だった。
 街とはいっても、ルスラやティオキアのように
煌びやかでもなければ整然としてもいない。
 どこもあばら屋だらけで、とてもではないが人が
暮らしているようには見えなかった。だが、物陰からは
獲物を狙う肉食獣のような鋭い眼光がチラチラと見え
隠れしている。
 ここは、居場所を求めて彷徨い歩いたならず者たちが
自然と集まって築かれた共同体。共同体と言っても、
明確なリーダーもいなければ遵守すべき規律もない。
 無法が日常の街なのだ。
 そうして曲がりくねった路地を歩くうちに、不意に
まともな造りをした、3階建ての大きな館が現れた。

 「さあついたぞ、メーヴェ」
 「今日からここがお前の家だ」
 「……めーべの、いえ?」
 「ああ。この中にいるかぎり、お前は安全に暮らす
事ができる」
 「ん」
 「たぁだし! タダでここに寝泊まりする事は
できねえんだ。お前が食ってくためには、働かないと
いけねえ」
 「……? はたら?」

 小首を傾げたまま、メーヴェは男たちの言葉を待って
いる。ここまで言われても、やはりメーヴェは警戒する
素振りを見せない。
 男たちは目配せすると、血色の悪い唇をニイっと
歪ませて笑いあった。

 「じゃあ、早速“実践”といこうか」
 「ヒヒ、しっかり“教育”してやらねえとなぁ!」

 屋敷の主である男たちは、この辺りを縄張りとする
奴隷商人だ。
 奴隷には、使い道がふたつある。
 労働用か愛玩用だ。
 己の身体を捧げて貢献する事は同じだが、意味合いは
大きく異なる。
 労働は、いつ死ぬかも分からない過酷な環境で少ない
資源を探る事。
 愛玩は、金を払った相手に身体を使って奉仕する事。
 純真無垢で身目麗しいメーヴェは、当然後者だった。

 ――
 ――――

 すえた臭いが充満する薄暗い部屋。
 室内を占有するベッドの上には、人としての尊厳を
奪われ、あられもない姿を晒して横たわるメーヴェの
姿があった。
 自分の身に何が起きたのかも分かっていないのか、
ただぼんやりと染みがこびりついた天井を眺めている。
 そんな彼女を見下ろしながら、男たちは情けない
格好のままで淡々と告げた。

 「メーヴェ、お前の仕事は明日からだ。今日仕込んで
やった事をちゃんとこなすんだぞ?」
 「……ん……、わかった」
 「俺としては、もう少し感情が表に出てくるように
なってほしいところだが」
 「なぁに、その逆が好きな奴もいる。これぐらいが
むしろ丁度イイんだよ」

 男たちが身勝手極まりない会話を繰り広げていると、
部屋の外から物音がした事に気付く。
 それで男は何かを思い出したのか、外に向かって
大声で叫んだ。

 「お前ら、入ってこい!」

 そう言われてぞろぞろと入って来たのは、衣服を
まとう事を禁じられた、年端もいかない少年少女たち。
 否、正確にはひとつだけ身につけているものがある。

 ――シャラ、シャン。

 歩くたびに小さく揺れる鈴。
 鈴をくくりつけられた粗雑な首輪だけが、子供たちの
唯一の所有物なのだ。
 その扱いは、家畜そのものだった。

 「今日からお前らの仲間になるメーヴェだ!」
 「いつも通り、あとの事はお前らがやっとけ」

 そういうと、部屋を出て行こうとする男たち。
 すると、男の一人が「そうだった」と、ベッドに
放ったままの翡翠色の短剣に手を伸ばす。
 その時、身動きひとつしなかったメーヴェが、突然
感情的な反応を示した。

 「……やっ。それ、めーべのっ」

 “教育”を受けていた時にも見せなかった、初めての
執着。だが、男はそんな事を意にも介さず、腕にしがみ
つこうとするメーヴェを突き飛ばした。

 「……かえ、して……」
 「返して欲しかったら、その身体を使ってしっかり
働くんだなァ。働かない奴に、権利なぞないんだよ!」

 男たちが部屋を出ていったあと、残された子供たちは
メーヴェを気遣うようにベッドに集まった。

 「大丈夫? 怖かったよね……」
 「……? こわく、ない」
 「えっ?」
 「でも、痛かったでしょ?」
 「いたい、って、なに……?」

 子供たちが同じ目に遭った時は、泣き叫んで
泣き叫んで、それでも内からこみ上げてくる感情を
処理できなかった。今でも悪夢にうなされるほどに。
 だから、メーヴェの予想外の返答にどう声をかけて
あげればいいのか分からずにいた。

 「めーべの、かえして……」

 疲労がたまっていたのか、メーヴェはうわごとの
ように同じ事を何度もつぶやいているうちに、深い
眠りの中に落ちていくのだった。

 「どうしよう、寝ちゃったよ」
 「とにかく、身体だけでも拭いてあげよう」
 「うん」

 子供たちは頷き合い、丁寧に身体に付着した汚れを
拭き取っていく。
 「その角、本物?」「きれいな瞳」
 各々が様々な反応を見せる中――ひとりの少年が、
遠巻きにメーヴェを見つめていた。


EPISODE3 見せしめ「しあわせ。みんなでいることは、めーべのしあわせ」


 起きて、食べて、働いて。
 働いて、食べて、寝る。
 メーヴェが館に連れて来られてから、多くの月日が
経過した。
 他人からは何を考えているか読めないメーヴェ。
 だが、意外な事に誰よりも物覚えの良さに秀でて
いた。
 人間は、今までの人生で培ってきた考えや経験を基に
何かと比べたり判断したりするもの。
 無理やり館に連れて来られでもしたら、大抵は
生命の危機を感じて抵抗するし相手を嫌悪するだろう。
 そんな基準を一切持たないメーヴェは、この生活が
普通の生き方なんだと捉えていたのだ。
 大人たちの欲望を、その小さな身体で受け止め続ける
メーヴェが“お気に入り”になるのは、必然だった。
 これには奴隷商人たちが「化物の子」として、周辺の
共同体や都市に噂を流して回った結果でもある。

 ひたむきに生きる彼女の姿は、いつしか仲間からの
信頼も得るようになり、日常的な会話をなんなく
こなせるようになっていった。

 「……うん。メーヴェはおぼえた」
 「ふふ、えらいえらい。じゃあ今度は――」

 言葉への理解は、世界の見え方を変えると言っても
過言ではない。
 曖昧だったものが明確になっていく事で、彼女は
すこしずつ人間の感情に理解を示していく。
 中には、未だに彼女の角を不気味がる者もいたが、
それ以上にみんなの心をつかんで離さない魅力が、
彼女にはあったのだ。

 「……ふふ」
 「あっ、いま笑った!」
 「ん? ……メーヴェ、わらってた?」
 「うん、幸せそうだったよ」
 「……しあわせ? わらうと、しあわせなの?」

 彼女たちの暮らしは、決して良いとは言えない。
 だが、束の間であったとしても心安らげる場所が
あるのは、それだけで生きる希望になるのだ。
 だから、メーヴェは初めて願い事をした。
 これからも“しあわせ”でいられるようにと。

 だが、そんな小さな世界の終わりは、唐突にやって
きた。
 朝、いつもなら皆で集まるはずの広間に、誰ひとり
顔を見せなかったのだ。

 「どうして、みんなこないの?」
 「――教えてやろうか、メーヴェ」

 メーヴェの問いかけに応えたのは、気性の荒い
奴隷商人。男は、顎を横に振ってついて来るように
命じると、そのままづかづかと館の入り口へと進む。
 そして、勢いよく開かれた扉の先で彼女を待って
いたのは――杭に裸のままはりつけにされた仲間たちの
姿だった。

 「……ぅ、……ぁ?」

 メーヴェと仲が良かった子供たちは、もはや
人としての形をなしていなかった。
 皆等しく拷問にでもあったかのような痛々しい
傷痕が浮かび、激しく凌辱された痕が残っている。
 誰が見ても、もう彼らが生きていない事だけは
分かった。
 風に乗って醜悪な臭いが鼻を突く。

 「……っ、ん……ぁ」

 自身を苛む初めての感情に、メーヴェはどうすれば
いいかも分からず、立ち尽くすだけ。

 「こいつらは、俺の店の秩序を乱した悪! お前を
そそのかし、仕事の質を低下させた悪だッ!」

 男は更にまくし立てた。
 悪は正しく裁かれねばならないと。

 「なんで、こんなこと、するの……? みんなは、
ここで、いきるために……」
 「ハッ、すっかり染められちまったようだなァ」

 圧制者は、己の意にそぐわぬ者を忌み嫌う。それが
例え、年端もいかぬ子供たちの中で広まる“思想”で
あったとしても。
 今はまだ小さな波紋に過ぎなくとも、放置すれば
いずれ寝首をかかれる事になりかねないのだ。

 「お前は、この俺がしっかり再教育してやる」

 男の頬に、深いしわが刻まれる。
 もはや“教育”という言葉に隠された意味を
理解できるようになったメーヴェは激しく抵抗した。

 「やっ! ぜったい、行かない!」
 「ハァ……俺は悲しいぜ、メーヴェ。ここへ来た時は
あんないい子だったのによぉ」

 すると、男は呪文でも唱えるように何かつぶやいた。
 ロノ、ミリ、イエナ……。
 まだ殺されてはいない、メーヴェと交流がある
子供たちの名前だった。

 「……っ! だめ、やめて……」
 「すべてはお前次第だ。元のお前に戻らなければ、
あの死体をあいつらに喰わせた後で同じ目にあわせて
やる。どうするんだァ、メーヴェぇぇぇ?」
 「っ……」

 メーヴェが男の脚にしがみつき、懇願するように
必死に身体をこすりつけた。まるで、自分はただの
卑しい家畜だと訴えかけるかのように。

 「そうだ、いい心掛けだ! だが、満足させるには
全然たりねえ。お前に家畜としての生き方をもう一度
すりこんでやる!」

 メーヴェは、男に角を掴まれたまま、男の部屋へと
引きずられていくのだった。

 「メーヴェ……」

 その様子を物陰からこっそり覗く者がいた。
 浅黒い肌と陽に焼けた黒髪を有す少年――ルシェ。
 メーヴェをずっと遠巻きに見ていた少年だった。
 彼は胸に手を当てながら小さく呼吸を繰り返すと、
やがて何かを決意するように頷き、彼女の後を追うの
だった。


EPISODE4 温かな風「これは、いつもメーヴェといっしょだった。メーヴェのいちばんのたからもの」


 奴隷商人の男――ダルバは、メーヴェを自室にまで
連れこむと、大の大人が四人は寝転がれるような
ベッドの上に突き飛ばした。
 息を荒げたまま食い気味に問いかける。

 「おいメーヴェ、どうするか覚えてるよなァ?」
 「……」

 以前のメーヴェなら、すぐにでもダルバに仕込まれた
男を悦ばせるための技を披露していただろう。しかし、
芽生えてしまった感情がそれを躊躇させる。

 「やだ……やだ……!」
 「てめぇ、何しおらしい事言ってんだよッ!」

 振り下ろされた手が、容赦なくメーヴェの頬を
叩いた。ベッドの軋む音に紛れて、くぐもった鈴の音が
シャラと響く。
 ダルバはろくでもない男である。
 苛立つとすぐに周りに八つ当たりするだけでなく、
己の不満と欲望を解消するためだけに商売道具である
子供に手を出す悪癖を持っているのだ。
 ダルバの全体重を受け止めたベッドが、大きく軋む。
 自身より遥かに大きな身体を持つ男から逃れようと、
メーヴェは後方に這いずっていくのだが……すぐに壁に
追い詰められてしまった。

 「やめて……」
 「悲しいねえ、これでも俺は感謝してるんだぜ?
お前はどれだけ苦しくても嫌がらねえし頑丈だ。怪我も
あっという間に治っちまう。だから俺は、商売道具を
壊さずに済んでたんだ。でもまぁ、ちょうど良かったの
かもしれねぇな」
 「……え?」
 「ぶっ壊したくて、たまらなくなるだろォ!?」
 「……っ、そんな……」

 ギシ、ギシとベッドを軋ませながらダルバが迫る。
 眼が血走り、だらしなく涎を垂らした醜い顔。
 その姿はまさしく、餌を寄こせと貪欲に吼える獣だ。
 ダルバが「どこにも逃げ場はねえ」とメーヴェの
目の前で囁いたその時、締め切った扉が開かれた。

 「おっ、もう始めてたのか」

 ダルバの仲間の奴隷商人だった。
 彼の前には、青白い顔をしたまま目を伏せる少年、
ルシェが立っていて――

 「おいおい、お前も混ざりたいってか?」
 「ち、違う、僕はただ……!」
 「黙れ変態野郎。こいつはな、ずっと部屋の様子を
伺ってたのさ。メーヴェがダルバに教育される所を
見たくて仕方なかったんだろ?」
 「なんだよルシェぇぇ、やっぱり加わりたいんじゃ
ねえか。それともアレか? お前は見る方が好きか?」
 「か、勝手な事を言うな……っ! 僕を欲まみれの
お前たちと、い、一緒にするんじゃない!」
 「嘘だな。俺は知ってるぜ、お前がいつもコソコソと
メーヴェを見てたのは。どうせ、メーヴェが男を相手に
してる時も見てたんだろ?」
 「ルシェ……ほんとう、なの?」

 メーヴェの問いかけるような眼差しを、ルシェは
直視できなかった。羞恥心と罪の意識を感じた途端、
つい顔を背けてしまう。

 「グハハッ! やっぱりお前は変態野郎だ!」
 「ちがう……僕は、ちがう……」

 自分の事は棚に上げて、ゲラゲラと笑うダルバ。
ルシェは挑発にまんまとのせられているとも知らず、
潔白を訴え続ける。

 「ちがう、ちがう、ちがう……! 僕は……っ!」

 そう叫んだルシェは、皆の気が緩んでいる隙を突き、
棚に置かれた翡翠色の短剣を手に取った。

 「め、メーヴェに触れるなッ!!」
 「いいぜ、やってみろよ。そんな玩具で本当に
殺せると思ってるならな」
 「え……っ?」

 ルシェの意識が短剣に向いたその瞬間、ダルバは
ベッドからルシェの目の前へと飛び跳ねた。続く動きで
ルシェの手首に手刀を叩きこみ――辺りに金属の音が
鳴り響く。

 「ぅ――ウワアぁぁぁっ!!」
 「遅ぇッ!」

 がむしゃらに掴みかかろうとしたルシェの脇腹に、
ダルバの膝が深くめりこんだ。

 「ルシェっ!」
 「……ぎ、ぁ……ぇ、っ……」
 「弱い奴は奪われる! それがこの街の掟よ!
常に奪う側の俺が、お前なんぞに負けるわけが
ねえんだよッ!」

 ダルバは床に転がった短剣を拾うと、それをベッドの
上に寄りかかるルシェの左手へと突き立てた。

 「いっ、あぁあああああああああああ!!!」
 「おう、それとなぁ、こいつはもちろん本物だ」

 もがき苦しむたびに、腕の先がじんじんと痺れる。
 頭が真っ白になるほどの痛みは、ルシェの反抗心を
一瞬で摘み取ってしまう。
 ダルバは短剣を上下させて更なる痛みを加えた後、
それを一気に引き抜いた。

 「――――――ッ!!」
 「おっとやり過ぎちまった、もう自分を慰めることも
できそうにないなぁ。ゾラ、そいつを押さえつけとけ」
 「へいへい」
 「ルシェぇぇ、お前には一番近くで見せてやる。
この化物が、泣き叫ぶ所をなァ!」

 ダルバは動けないでいるメーヴェの角に手をかける。
すると、ふと何かを思いついたのか、メーヴェに笑い
かけた。

 「なあ、そういやずっと気になってたんだがな、
この角は斬り落としてもまた生えてくるのか?
ちょっと試させてくれよ」
 「や、やだ! いやっ!」
 「やめろ……めぇ……ヴェ……」
 (たす、けて――)

 短剣を胸元へと引き寄せ、角の根本に刃を突き立てた
刹那、部屋に一陣の風が吹いた。

 「なん、だ。今のは……」

 それは、とてもあたたかくて優しい風。
 ダルバは風を浴びながらほんの一瞬、メーヴェの
背後に蠢く何かを見た。
 羽を広げた姿は獣のように雄々しく、それでいて
慈愛に満ちている何か。
 まるで、居もしない母親に抱きとめられて、眠りに
つくかのような――。
 湧き上がる幸福感に包まれながら、それきりダルバは
物言わなくなった。
 彼は、自分が“死んだ”事も分からないまま細切れの
肉片と化していたのだから。

 「ダ、ダルバぁぁぁ!?」

 目の前の光景が信じられず、ゾラは叫び声をあげた。
 ダルバを殺せるような者は、ここにはいないはず。
 未知の恐怖にバクバクと心臓がうなる。
 その時、不意にベッドが軋む音がした。
 そこにあったのは、宝石のように輝く琥珀色の
瞳で――

 「――ッ」

 細切れの肉片が、宙を舞った。

 「め……メーヴェ、君は……何を……」
 「……ん?」

 その問いに、メーヴェは首を傾げるだけだった。


EPISODE5 欲望は蜜の味「ここはメーヴェたちの街。わるい大人はもういない。もう誰にも、こわされない」


 「メーヴェ、君が無事でよかったよ」
 「ルシェ、だいじょうぶ?」

 メーヴェの視線は、ルシェの手へと注がれている。
 きれいな布で手をきつく縛ってはいるが、血は今も
垂れ流され、赤い染みを作り続けている。
 とても大丈夫と言えるような状況ではなかったが、
ルシェにはそれよりも解決したい事があったのだ。

 「メーヴェ、お願いだから、服を着てくれないかな」
 「ん……なんで?」
 「ダルバたちは死んだんだ。だから、僕たちを縛り
つけるルールはもうない。首輪もいらないし、好きな
服を着たっていいんだよ」
 「……ひつよう?」

 ルシェの目の前で、ぴょんぴょんと飛び跳ねる
メーヴェ。どこか場違いな鈴の音だけが、室内に
シャン、シャラと木霊した。

 「ひ、必要なんだ! 外の世界では、みんな服を着て
暮らしてるんだよ!」
 「ん……わかった」

 そうは言ってるが、まだどこか納得しているように
見えない。あとでちゃんと教えようとだけつぶやいて、
ルシェは部屋の奥にある棚から、メーヴェに合う服を
探す事にするのだった。

 「……ふぅ、これで安心だ」
 「ん、じゃあ行こう」
 「え? どこに行くの?」
 「外にいる、わるい大人をやっつけてくる」

 背筋が凍るような体験をしたにも関わらず、彼女は
いつもと変わらない眠たそうな表情をしている。
 彼女はまだ幼いはずなのに。
 それでも平気でいられる理由は、元の形が分からない
ぐらい、ダルバたちがバラバラだからか。
 それとも、本当にメーヴェは、彼が言ったとおりの
化物なのか――そんな言葉が口を突いて出そうに
なったのを呑みこんで、思いつきで別の話を振った。

 「まずは、館にいるみんなを集めよう!」

 その後、ふたりは館の中にいる子供たちを探して
回り、ダルバからの解放を伝えた。

 「無理に身体を売る事はない」「君たちは自由だ」

 何度も何度もそう言って、安全を訴えた。
 しかし、そんなルシェの想いとは裏腹に、誰ひとり
として彼に感謝する者はいなかったのだ。
 奴隷生活からの解放、それ自体は喜ぶべき事に
違いない。
 だが、それはあくまでも、他に生きる術を持つ者の
考えでしかないのだ。
 基本的に、街のならず者たちから狙われずに済んで
いたのは、権力を持つダルバあってこそ。
 彼らはそれをちゃんと理解していて、力のある大人に
生き方を管理されている方が、路頭に迷うよりも遥かに
“まし”と考えていたのだ。

 ――
 ――――

 ほとぼりが冷めるのを見計らって、ルシェは館の
大広間に子供たちを集め、これからの方針を話しあう
事にした。
 ルシェは皆で生きていく事、団結する事の大切さを
訴え続けたが、やはり素直に賛同してくれる者は
いない。
 そこで彼は、ダルバの部屋で見たメーヴェの力を
話して聞かせた。反応はまちまちだが、メーヴェが
目の前で披露した風の精霊の力を見るや否や、多くの
者が仲間に加わってくれるのだった。

 皆の意見をまとめるのに時間はかかったが、街の
浄化に向けてルシェたちは動き出した。
 危害を加える大人を排除し、誰にも侵略されない
子供たちだけの街をつくるために。

 ――
 ――――

 メーヴェが操る精霊の力を利用した一方的な街の
浄化は、ならず者たちを追い出し目覚ましい成果を
見せた。

 街が子供だけの楽園になってから数日。
 ふとした事で仲間同士の衝突はあったが、とりわけ
大きな問題に発展する事もなく、街の安定に向けて
皆が前向きに動き出していた。

 子供だけでの運営は、とても順風満帆と言えるような
ものではない。けれども、誰も見た事がない世界と、
自由への期待が、彼らを後押ししていたのは確かだ。
 街は着実に良い方向へと進んでいる。
 そう、誰もが信じていたのだが。

 「――チチチ、初めまして。ワタシはアキナイ、
しがない行商人です」

 変化の兆しは、ほんの些細な事だった。
 生まれ変わった街に最初にやってきた人物は、
定期的に街に食料などを卸している流れの行商。
 ルシェと大差ない小柄な身体に、貼りつけたような
笑みを浮かべる男は、口惜しそうに言った。

 「しばらく見ない内に変わってしまいましたねぇ。
実に勿体ない……聞けば、ダルバ様は死んだと言うじゃ
ないですか。ダルバ様の館は、過酷な砂漠を越えてきた
ワタシの、数少ない“癒し”だったのですが」

 この小男も、子供を食い物にする悪か。ルシェは男の
態度に警戒心を強めていく。実質的な街の代表として
メーヴェとともに会う事にしたが、すぐにその選択を
後悔するようになっていた。

 「勿体ない、ですか」
 「ええ、貴方がたの街はね純粋すぎるんです。
ここにはねえ、欲望が足りていません。甘いあま~い、
蜜のような欲望が、ね」
 「僕たちはずっとそれに苦しめられてきたんだ。
あなたは奪う側だからそれが分からないんですね」
 「チチチ、それは違う。ルシェくん、人はね、欲望を
解放できなければ人ではなくなってしまうんです。
だから、君にだってあるはずなんですよ。とびきりの
欲望が」

 そう言うと、アキナイは「ああ」と思い出したように
呟くと、包帯が巻かれたままのルシェの手を指差した。

 「貴方とのお近づきの印という事で、本日は無償で
食料と良質な軟膏をお譲りいたしましょう」
 「えっ……?」
 「お困りでしょう。血が滲んでいるし、包帯も
綺麗なものが尽きているようだ。食料だって、皆さんを
養うのなら多いに越した事はない」
 「ですが、そんなにもらうわけには……」

 アキナイは、ルシェの煮え切らない返答に商機を
見出したのか一気にまくし立てていく。

 「ではでは、こうしましょう。ワタシに、自由に街の
中を見学させてください。ここに必要な物資は何か、
自分の目で確認しておきたいのです。それで等価交換と
いきましょう」
 「い、いえ、そこまでは……」

 さして大差ない背格好なのに、アキナイには妙な圧が
あった。彼は、街を渡り歩く商人だと言った。
 そんな彼が今までダルバを相手に商売を続けて
こられたのも、ルシェにはない狡猾さを持っているから
なのだろう。

 「――ルシェ、街を見るぐらい、いいよ」
 「でも、メーヴェ――」
 「では決まりですね! ありがとうございます、
宝石のような美しい瞳のお嬢さん」

 アキナイは、ラバから下ろした積荷のほとんどを
ルシェたちに預けると、すぐに街の散策を始め……
陽が暮れる前に街を去っていった。
 しきりに嗅ぎまわっていたようだが、これといって
街に何かが起きる事もなく。
 慌ただしい毎日に忙殺されていくうちに、ルシェの
頭からはその事がすっかり抜け落ちてしまうのだった。


EPISODE6 楽園は地に堕ちて「みんな変わっちゃった。もうここにはいられない」


 ――誰がやった! 犯人は誰だ!

 その日、街はかつての不穏な喧噪を取り戻していた。
 暴れ回る者、嘘をつく者、分断を煽る者――まるで
何かに取り憑かれたかのように、好き勝手に振る舞って
いる。
 その原因となったのは、館で保管していた食料が
一夜にして空になった事だ。
 食糧庫には交代で見張りを立たせていたが、その
見張りは倉庫内で殺害されていた。そのせいで事態の
発覚に時間がかかってしまったのだ。

 「どうしよう、ルシェ……みんな、あちこちで
ケンカしてる」
 「こんな、こんなはずじゃ……一体、誰が……」

 騒ぎは街の広範囲にまで広がっている。
 暴徒化した群れを鎮めるには、ルシェの言葉だけでは
足りない。
 メーヴェの力を使えば、事は容易に進むだろう。
 だが、暴力で支配するような事だけは避けなければ
いけなかった。
 一度でも暴力に頼ってしまえば、ルシェが理想とする
街は夢と消えてしまう。
 暴力以外の方法で解決する道筋。
 それは、若き指導者と世間を知らぬ少女には、到底
見いだせるものではなかった。

 ふたりを悩ませていたのは、それだけではない。
 弱者を護る立場にあるはずの年長の男が、隠れて
何人もの少女たちに乱暴を働いていたのだ。
 ルシェの最大の過ちは、館を解放したあとに
子供たちに教育を施さなかった点にある。
 館に連れて来られた子供たちは、大半がまともな
教育を受けていない。
 ましてや、ダルバみたいな圧制者が間近にいれば、
同じ思想を持つようになってもおかしくはなかった。

 そうこうしてる間に、騒ぎの音は更に広がっていく。
 もはや共同体を維持し続ける事すら難しい水準に
達している。
 一刻も早く、決断する必要があった。

 「――チチチ、お困りのようですねぇ?」
 「あ、あなたは……」

 まるでタイミングを見計らったかのように館に姿を
現したのは、流れの行商人アキナイ。
 見れば、彼の後ろには年長の男を筆頭に多くの
子供たちが続いている。
 彼らの手には、大小様々な武器が握られ、その多くが
おかしな表情をしていた。目の焦点が合っていない
ような、心ここにあらずとでも言うような――

 「まさか……この騒ぎの首謀者は……」

 ルシェの怒りを押し殺した視線を浴びても、
アキナイは涼し気な顔で笑っている。

 「さて、なんの事でしょうね。ワタシはただ、
皆さんが暮らしやすいように協力してあげたまで」
 「協力? 街を破壊する事が、お前の協力だとても
いうのか?」
 「まさか。ワタシはそんな事望んでいませんから。
これは、彼らが望んだものなのです。ねえ皆さん?」

 男たちが思い思いに声を上げる。

 「ルシェ、お前だけ良い思いしやがって! 俺たち
に寄こせよ、その化物女を!」
 「ヒッヒ、その角、便利そうだなぁ……」

 化物、化物と男たちが下卑た欲望とともにメーヴェを
こき下ろす。誰一人とて、彼女を一人の人間として
扱う気がなかった。

 「……っ、メ、メーヴェは化物じゃ、ない……」
 「ああ、メーヴェは人間だ!」

 衆目の目から隠すように、ルシェがメーヴェの前に
立つ。彼がどれだけ異を唱えたところで、衆愚と化した
男たちは止められない。
 彼が殺されてしまう前に、どうにかしなくては。

 「ルシェ、もうだめだよ。やっつけよう?」

 メーヴェが翡翠色の短剣に手を伸ばす――それを
手で制し、ルシェは首を振った。

 「それはダメだよ、メーヴェ。そんな事をしたら、
僕たちもあいつらと同じになってしまう」
 「でも、それじゃルシェが……っ」
 「チチチ、それが風の力を操るという短剣ですか!」

 アキナイの上ずった声が響き、場が急に静まり返る。

 「では! やはり、やはり貴女こそが! 風の
巫女<シビュラ>なのですね!?」
 「シビュラ……?」
 「ルシェくん、貴方がそれを知る必要はありません。
知ったところでお子様の手には余るのですから。さて、
ひとつ提案なのですが、君の命を保証する代わりに、
彼女と短剣をワタシに譲っていただけませんか~?」

 アキナイはわざとらしく言葉尻を上げ、嫌みたらしく
不公平な要求をする。

 「これはただの脅しだ! 僕は、暴力には屈しない」
 「はい、そうですか」

 アキナイが男たちに指示を飛ばした。

 「では皆さん、ルシェ君を殺してあげてください」
 「メーヴェ! 逃げよう!」
 「うん……っ!」

 男たちが殺到するよりも早く、メーヴェが風の壁を
作り出す。自分たちとアキナイたちを隔てるように
出現した壁は、果敢にも突撃してくる暴徒たちを
難なく返り討ちにしていく。

 「チチチ、実に素晴らしい! 絶対に手に入れて
みせますからね! たとえ、地の果てでも!」

 ふたりは館からの脱出を果たし、街の外へと
逃げおおせるのだった。

 この日、子供たちの楽園は崩壊した。
 けれど、ルシェに後悔はなかった。
 なぜならば、美しくも恐ろしい力を持つ少女が、
自分を選んでくれたのだから。
 彼には、それが何よりも嬉しかったのだ。

 ――
 ――――

 着の身着のまま街を出たメーヴェたち。
 宛てのないふたり旅になるかに思われたが、
アキナイの統治を嫌った者はまだいたらしく、
彼らと合流し旅を続ける事になった。

 「ルシェ、これからどこへ行くの?」
 「正直に言うと分からない……でも、ひとつだけ
決めたんだ」

 ルシェは懐から麻の袋に入った種苗を取り出した。
 以前アキナイから譲り受けたものだったが、植える
場所を見つける暇がなくて入れっぱなしになって
いたのだ。

 「これを育てられる場所。そこを目指そう」
 「ん……分かった」

 小さな希望は芽生えたが、ろくな食料も移動手段も
持たない彼女たちの旅は、辛く苦しいものだった。
 木の根や虫で飢えをしのぎつつ、どうにか休息できる
場所を見つけては、次の地を目指す。
 だが、そんな旅が連日も続けば、弱い者から消耗して
いくのは避けようがない。
 そして、数日が過ぎ――脱落者が出てしまった。

 「……くそっ、僕が不甲斐ないばかりに……」
 「ねぇ、ルシェ……ふたりの、お墓を作って……
あげよ……?」
 「メーヴェ、君はなるべく動かないほうがいい」

 若い男たちの表情にはまだ若干の余裕があるが、
身体の小さいメーヴェは激しく衰弱していた。
 このままでは、次に後を追うのは彼女かもしれない。
 そこでルシェは、ある事を決断した。

 「聞いてくれ、みんな」

 ルシェの震える声を必死に抑えながら、絞り出す
ように告げる。

 「……コレは、だ、大事な“食料”だ。埋葬するのは
そのあとにしよう」
 「ルシェ……?」
 「お前……本気か!? どうしてそんな事言うんだ、
一緒に生きてきた仲間を、食べるだなんて……!」
 「分かってほしい。僕たちは、生きられなかった
ふたりの命を背負って生き抜かなくちゃいけないんだ。
苦しいけど、背に腹は代えられない……!」

 誰もがルシェの発言に驚きを隠せない。誰よりも
みんなで生きていく事を願った少年の面影は、連日の
過酷な旅で見る影もなくなっていた。

 「僕は、君たちに更に過酷な事を言うけど、どうか
分かってほしい……」

 これ以上、脱落者を生まないために、ルシェが何を
言わんとしているのか、皆察しはついていた。
 ――仲間を、解体するのだ。

 「公平を期すためにも、少しだけでも手伝って
ほしい。そして、もし耐えられなくなったら
こう口ずさむんだ。“私たちの血肉となり、共に永遠を
生きてくれてありがとう”って」
 「ルシェ……本当に、食べるの……?」
 「うん。僕は、君を失いたくないんだ」

 メーヴェの肩に、ルシェの手が触れる。
 その手は酷く震えていた。彼もまた、仲間を食べる
という行為に怯えていたのだ。

 「僕たちは、強い絆で結ばれた家族になるんだ。
辛い事も何もかも、みんなで分かち合おう」

 そう言ったルシェの瞳が暗く淀んでいる事を
指摘する者は、誰もいなかった。
 ルシェを頂点にして再度形成された共同体。
 かつての理想は、現実の前に儚くも消え失せ、
おぞましい何かを現出させようとしていた。

 ――
 ――――

 あれから時は経ち、メーヴェたちは砂漠の果てで
定住に適した洞窟を見つけた。
 水場もあれば、適度に湿った土もある。ここならば、
種を植える事ができる――これですべてがうまくいく。
 誰もが、そう思っていた。

 「くそ……また枯れてしまった! どうして
育たないんだ……!」

 たくさんあったはずの種苗は、既に尽きかけていた。
育つ環境は整っているはずなのに、何故……。
 結局、その日も何も得るものはなかった。

 夜。
 かすかに風の音が聞こえる薄暗い洞窟の中、ルシェは
メーヴェのために用意した寝床で彼女と肩を寄せ合って
いた。

 「メーヴェ……君はどこにも行かないでくれ……」

 次々と倒れていく仲間たちを前に、ルシェは正気を
保つのもやっとといったところ。
 その代償行為として、メーヴェの温もりを求める
ようになっていたのだ。
 初めて出会った頃から、すでに多くの歳月が
過ぎている。
 メーヴェと同じ背丈だったルシェは、今では彼女を
腕にすっぽりと収められるくらい大きくなっていた。
 共同体の仲間たちが成長していく中、メーヴェだけは
今も変わらずあの頃のまま。
 そんな小さな身体では、彼の背中に手を回すのも
難しい。だからメーヴェは、ルシェの首へと手をのばし
……うなじの辺りをやさしく撫であげた。

 「ルシェはみんなのために頑張ってる。きっと、
うまくいくよ」
 「ありがとう……メーヴェ……」

 いつもなら、そこでふたりの関係は終わりだった。

 「メーヴェ……っ」

 だが、皆の命を背負うという重圧が、ルシェの理性を
奪い――気づけば、メーヴェと唇を重ね合わせていた。

 「……っ、ぼ、僕は何を――」

 荒い吐息が漏れる。口づけを交わしただけなのに、
心臓はひどく脈打ち、強い衝撃に頭が揺さぶられた。
 怖い。怖い怖い怖い。
 まるで、自分が自分でなくなっていくような――

 「大丈夫……」
 「――っ」

 ルシェにすべてを委ねるように、身体を開く。
 ルシェの脳裏に、初めて彼女を目にした光景が蘇る。
 産まれたままの姿で、欲望を受け止める彼女の姿を。
 本当は、ずっとこうしたいと願っていた。
 一度だけでもいい。彼女を己の欲望の許すかぎり、
思うがままに貪りたいと。

 「メーヴェは、どこにも行かないよ」

 ルシェはずっと、その言葉を追い求めていた。


EPISODE7 不揃いな命たち「ルシェ、メーヴェはずっと一緒だよ」


 ――明くる日の朝。
 ルシェは酷い倦怠感に苛まれながら、微睡む視界の
中で何かの声を聞いた。
 隣で眠るメーヴェが寝言を言っているのだろう。そう
考えたルシェは辺りを探るように手を伸ばす。
 しかし、そこにあるはずの温もりはない。

 「――――っ」

 また声がした。今度ははっきりと聞こえてくる。
 音は洞窟内に響き、まるで警鐘を鳴らしているかの
ようだ。

 「まさか――追手が!?」

 ルシェは反射的に飛び起き、入り口へと駆けた。

 「メーヴェ……! メーヴェッ!」

 求めたものは、すぐに見つかった。
 彼女は、入口の近くで他の仲間たちにとり囲まれる
ようにして立っていたのだ。
 ほっと安堵の息を漏らす。こちらに背を向けている
彼女を呼ぼうと声をかけようとするが……。

 「ん……?」

 見間違いだろうか。彼女の背格好がいつもより大きく
見えたのだ。
 メーヴェの背丈は、ルシェの胸の高さにも満たない。
いつも一緒にいたし、昨夜気を失うまで彼女を抱いたの
だから、見違えるはずがない。
 では、自分と“同じ”背丈の彼女は、一体誰なのか。

 「あ、ルシェ。おはよう」

 ルシェの存在に気付き、メーヴェが振り返る。
 はにかむように笑う彼女の腕には――彼女に瓜二つの
小さな女の子がふたり、抱きかかえられていたのだ。

 「るしぇ、るしぇ――」
 「――しぇ、――しぇ――!」

 メーヴェの腕から飛び降りた女の子は、しっかりした
足取りでルシェの下へやってくると、膝に抱きついた。
 浅黒い肌に琥珀色の瞳。そして――獣のような角。
 彼女たちは、メーヴェそのものだった。
 容姿が幼くなった以外は、声も仕草もどこか彼女に
似ている。いや、“似過ぎて”いるのだ。

 「――っ」

 それを認識した途端、ルシェの背筋に冷たいものが
走った。キュッと心臓が締めつけられる。

 (ぼ、僕は……いったい、“何と”交わって
しまったんだ……!?)

 人間とは明らかに違う、異形の生命。
 彼女は、いや、彼女たちは、何者なのだろうか。
 その時、ふと頭に浮かんだのは、アキナイが必死に
メーヴェを欲していた事。

 ――風の巫女<シビュラ>。

 彼はこの事実を知っていたのだろうか。
 彼女のような異形の存在を欲して、街を渡り歩いて
いたとしたら――

 「ん、どうしたの、ルシェ?」
 「ち、近寄るなぁぁぁっ!!」

 ルシェの豹変ぶりにメーヴェはかける言葉を失った。
 洞窟内に鋭く響いた声は、彼の膝で遊んでいた
娘たちを驚かせるには十分だったようで、蜘蛛の子を
散らすように母の後ろへと隠れてしまう。

 「……メーヴェ、何か悪い事しちゃった?」

 ルシェの顔色を伺う瞳には怯えが見え隠れし、今にも
涙が零れ落ちそうなぐらいに潤んでいる。

 「……」
 「なにか、なにか言って」

 震える手がルシェの頬に触れようとした瞬間――
ぱん、と乾いた音とともに弾かれた。

 「君は、いったい誰なんだ……」
 「え? メーヴェは、メーヴェだよ?」
 「いや……違う。違うちがうちがう! 君は、
メーヴェじゃない! 僕の知ってるメーヴェは……
メーヴェは……っ!」

 街にいた頃のルシェなら、メーヴェが急に成長して
しまった事に疑問を抱く余裕があったかもしれない。
 だが、心を蝕まれ、ただ求めるだけの獣に成り果てて
しまった彼には、内からこみ上げてくる衝動を抑えられ
なかった。

 「“僕の”メーヴェを返してくれよッ! この……
化物ッ!」

 その言葉は、ルシェの心の奥底にひた隠しにされて
きたものだった。
 怒りに満ちた顔。恐怖に見開かれた瞳。
 愛する者が全身で表した否定の感情は、純粋な
メーヴェの心を深く、深く貫いた。

 「ぁ……ぁあ――――」

 洞窟内に、メーヴェの悲痛な叫びが木霊した。
 感情の爆発は大きなうねりとなり、無意識のうちに
風の精霊の力を呼び覚ます。
 風が止んだ時、そこに生きている人間はいなかった。

 ともに歩み、喜びも悲しみも分かち合った大切な人。
 彼は、物言わぬ肉片として辺りに散らばっていた。

 「――ル、――ルシェ――」

 彼の唇が形作ろうとした言葉が、何を言おうと
していたのか。その答えを知る者は、もういない。

 「ごめん、なさい……ごめんなさい……」

 琥珀色の瞳を真っ赤に腫らし、血の池に浮かぶ肉片を
かき集めながら、メーヴェはただうわ言のように何度も
何度もそう呟いた。

 「るしぇー?」「――しぇ、どこー」

 何が起きたのかを理解できない娘たちが、血の池の
上で足を踏みしめる。ぴちゃぴちゃと跳ねる水音が
心地良いのか、彼女たちはただ無邪気に遊んでいた。

 「おかあさん?」「どうしたの?」

 蹲って動かない母が気になって、彼女たちが声を
かける。「なんでもないよ」とメーヴェは力なく笑い、
彼女たちを静かに抱きしめるのだった。

 ――
 ――――

 その日の夜。
 メーヴェはルシェたちを弔う事にした。
 ルシェだった肉の塊は、彼を囲むように灯された光に
照らされ、つややかな輝きを放っている。

 「ねー?」「なにするのー」

 メーヴェは、これから始まる事に期待を膨らませる
娘たちに穏やかな声色で語りかける。
 父であるルシェによって築かれた共同体の、例外なき
規律を。

 「今日は、特別な日。みんなでおとうさんに感謝の
気持ちを伝えてから、おとうさんを食べるのよ」
 「んー」「かんしゃするー」
 「今からメーヴェが……ううん、おかあさんが言った
あとに続いて」
 「それしってるー」「こう?」
 「えっ?」

 娘たちは手を合わせて目を瞑り、たどたどしく感謝の
言葉を口にした。教えていないはずの文言をすべて。

 「この子たち、記憶を……」

 メーヴェは娘たちに急かされ、かぶりを振ると、
ルシェへと視線を落とした。
 今は亡き者を慈しむように、手を合わせ目を瞑る。

 「私たちの血肉となり、共に永遠を生きてくれて
ありがとう」

 愛する人の肉片は、とても柔らかかった。


EPISODE8 風は流れ、あるがままに「さあ、一緒に祈りを捧げましょう。この世の生きとし生けるもの、すべての生命に祝福を――」


 「ごめんね、ルシェ。最後の苗も枯れちゃった……」

 メーヴェは洞窟内にお墓を立てると、娘たちを連れて
宛てのない旅に出た。

 「おかあさん?」「どこいくのー」
 「ふふ、どこへ行こうかしら」

 原初の風の巫女<シビュラ>にして、豊穣神
ネフェシェを母に持つメーヴェは、彼女のように4つの
精霊の力を体内に宿していない。
 そのため、風の精霊の力だけで身体の多くが形成
されているメーヴェとその娘たちは、今の状態を維持
するために無意識のうちに多くの生命力を奪い取って
しまう。
 それは自然だけではなく、人間もまた同じだった。

 彼女たちは、自らの出自や自分たちが本当は何に
よって生かされているのかを知らない。
 それらの謎を少しずつ理解するようになって
いくのは、彼女たちが再び人間たちの醜い欲望に
晒され、汚される後だった――。

 ――
 ――――

 「チチチ、ここですか」

 ラバに乗り、洞窟を見上げる男がいた。
 名はアキナイ。かつてルシェとメーヴェが築こうと
した街を欲望に染め上げた小男だ。
 当時は黒々とした髪にすらりとした体型だったが、
今や丸々と肥え太り、枝のように細い手足を生やして
いる。白髪混じりの毛髪が、時の流れを感じさせた。
 そんな彼が、わざわざ護衛を引き連れて足を
運んだのには理由があった。

 『砂漠の果てには、男を虜にする楽園がある』

 その噂話は、アキナイが支配する欲望の街にいつの
頃からか流れるようになったものだ。
 曰く、そこへたどり着いた男は、琥珀色の瞳の
不思議な女たちに迎え入れられ、三日三晩にわたって
至上の快楽を享受できるという。

 「アキナイ様、この洞窟の中に本当にそのような
ものがあるのでしょうか?」

 訝しむ護衛に、アキナイは鼻息を荒くして答える。

 「噂が何もない所から生まれるはずがありません。
尾ヒレがついた話でも、その根本になったものは必ず
あるのですから。それに……チチチ」

 ブツブツと呟くアキナイを見て、護衛の男たちも
それ以上追求する気にはなれなかった。
 アキナイは、年老いてもなお精霊の力を有す少女――
巫女<シビュラ>を手中に収めようと躍起になって
いたのだ。
 ギラギラとした瞳には、アギディスやティオキア、
ルスラといったシビュラを擁す国への憧れが見え隠れ
していた。

 「さぁ、さぁ、早く行きましょう!」

 ラバを降りて、護衛とともに洞窟内へと踏み入った。
 洞窟の中は彼らが思っていた以上に深く、緩やかな
下り坂になっている。
 護衛が危険だと言っても、アキナイは我先にと進んで
しまう。いったい、あの老人のどこからそのような
活力が湧いてくるのだろうか。
 しばらく進んでいると――アキナイは奥から何かの
物音と灯りが漏れている事に気がついた。
 近づけば近づくほど、大きく強くなっていく。

 「チチチ、やはり噂は本当だったんですね!」
 「あっ、待ってください! アキナイ様!」

 護衛の静止を振り切って、深奥へとたどり着いた
アキナイが見たものは――

 「あ、あぁっ――」「ふっ、ふぅっ、んっ――」
 「も、もう、無理だ……た、たのむ、やめ――」

 一糸まとわぬ男女が、蛇のように絡まりまぐわい合う
狂乱の宴だった。
 どれだけの間そうしているのだろう。男たちの中には
「帰らせて」と情けなく許しを乞う者もいた。だが、
彼らの上に跨る女たちは、どこ吹く風と言わんばかりに
精を吸い上げ続け……足りないと要求する。
 皿が空でも、次は? 次は? と餌をせがむ。
 貪欲なまでに喰らうその姿は、まさしく獣だった。

 「チチチ、いやはや、これほどとは……」

 女たちの年齢は不揃いだった。幼い子供もいれば
少女もいる。妙齢の女に壮齢の女もいた。
 欲望の権化であるアキナイですら、初めて目にする
異様な光景を前に驚きを隠せない。
 湧き上がる唾を飲みこみ、食い入るように男女の
交わりに見入っている。

 「ワ、ワタシも……中へ、あの中へ加わりたい!」
 「アキナイ様、ご無事ですか!?」

 その時、ガシャと護衛の男たちの足音が洞窟内を
駆け巡った。行為に耽っていた女たちが、一斉に
アキナイの方へと振り返る。
 琥珀色の瞳に、獣のような角。
 皆が皆、同じ顔で笑い、同じ顔で男をいざなう。
 そのどれもが、アキナイには見覚えのある顔だった。

 「メ……メーヴェ……!」

 異常な状況に、冷静な判断を下す思考は彼には
残されていなかった。
 ただ何かに惹かれるように、アキナイはメーヴェと
同じ顔をした女たちの中へとひた走る。
 服を脱ぎ捨てるたびに、心臓がはち切れそうなほどに
興奮している事が分かった。それでも、己の欲望は
叫び続けている。
 はやく、あの女たちを喰わせろ! と。
 アキナイは、女の海へと飛びこんだ。

 ――どれだけ交わり続けていたのだろう。
 一時なのか、はたまた一晩なのか。
 仄暗い洞窟の中は、時間の感覚を狂わせる。
 それに加えて、アキナイすら唸らせるほどの男を
悦ばせる技術を持つ彼女たちの要求が、思考を遮り、
意識すら朦朧とさせてくるのだ。
 それはまるで、ひとつの生命に混ざり合い、溶けて
いくかのような。
 ふと、寝そべったままのアキナイの視界に、護衛の
男たちの姿が映る。
 彼らは、既にただの獣と化していた。
 いずれは自分もああなってしまう。
 アキナイは辛うじて残っていた理性を振り絞り、
自分に跨っている少女に叫んだ。

 「も、もう……止めろ! たくさんだッ!」
 「どうして? まだ足りないよ、アキナイ?」
 「なっ……ワタシの名を……やはりあなたは……」

 気づけば、周りには自分を取り囲むように大小様々な
メーヴェたちが立っていた。
 皆が、歌うようにアキナイの名を口ずさむ。
 同じ顔で、同じ瞳で、物欲しそうにアキナイを
見ている。
 アキナイは、彼女たちの中でひとりだけ違う視線を
向ける女がいる事に気がついた。

 「懐かしい顔ね?」

 メーヴェたちの中でひときわ歳を重ねた女が現れる。
 目を細めて、想い出を懐かしむように笑うメーヴェ。
 彼女こそが、アキナイが出会ったメーヴェ本人だった
のだ。

 「チ、チチ……久しぶりですね、メーヴェさん」
 「ええ、本当に久しぶり。私は、ここにあなたが
来てくれるって信じてたわ」
 「……そ、それは、まさか……」

 メーヴェが不敵な笑みを浮かべた。

 「貴方には、ここはどう見えるかしら。欲望に満ちて
いて、美しい街に見えるでしょう?」
 「チ、チチ……」
 「ふふ、みんなも早く食べたいって顔をしているわ」

 寝そべったままのアキナイの身体に、女たちが群がり
始めている。
 ひとりを相手にしただけでもこの有様なのだ、もし、
こんな化物たちと交わり続けたら――

 「お、おお男なら、いくらでもワタシが用意する!
だから、たすけて、救けてください……!」
 「大丈夫、私があなたを救ってあげる」
 「へ――?」

 アキナイは、母のように穏やかな笑みを浮かべる
メーヴェに見守られながら、女たちの中へと消えて
いくのだった。

 ――
 ――――

 メーヴェたちに貪られ続け、骸となったアキナイ。
 綺麗に切り分けられたその首を天へと掲げながら、
母たるメーヴェは祈りを捧げる。

 「この世の生きとし生けるもの、すべての生命に
祝福を」

 男の表情は、恍惚に満ちていた。




■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • この世界のジジイ性欲強すぎだろ -- 2023-10-22 (日) 16:16:56
  • ”アレ”は『理性』を喰らって増殖するタイプの化物なのか…なんと恐ろしい……。それはそうとして、ワ、ワタシも……中へ、あの中へ加わりたい! -- ? 2023-11-07 (火) 18:58:55

*1 エリア1から順に進む場合