シャングリア内戦/前編用過去ログ②

Last-modified: 2023-12-24 (日) 14:41:34

EP11~15までを収録

EP11「死のうは一定」


雪月隊相手に大奮戦した信たちの功績は渋川たちにも広がっている
これを機に、議事堂にいる者たちは反撃を仕掛けようとする
しかしその者たちの中に、彷徨してるものが1人ー


一日前の7月7日

彰「じゃあ俺たちがいない間を、澪、八重。任せたぞ」
と父は言って出発していった
俺たちは渋川やツルギ様から防衛する用協力しなければならないのだが…
澪「ここはこうすべきです!八重さん!」
八重「いいや!もっと戦力を分散させなければ!」
泰樹「(初日からこの始末だよ…やはりあの噂は本当だったみたいだな)」

少し前
彰「知ってるか泰樹?澪と親衛隊長の八重は仲が悪いんだ。理由は誰かに聞けばわかるさ」
泰樹「(誰って…)」

泰樹「香澄姉さん。なんで貴女の姉と母さんが仲悪いんですか?」
香澄「それはね…(泰樹の耳元で)姉さんは、あんたの父さんのことが好きなんだよ」
泰樹は開いた口が塞がらなかった
香澄「まぁ…そうなるよね」
泰樹「止めましょうよ香澄姉さん!女同士の喧嘩なんてしてる暇ないっすよ!」
泰樹は駆け出した
澪と八重が喧嘩をしているところに泰樹が駆けつける
泰樹「母さん!八重さん!争ってる場合じゃないですよ!今の目標はツルギ様や渋川でしょ!」
泰樹の真剣な顔を見て澪は笑った
澪「泰樹…あなた本当に彰にそっくりね
澪の目には泰樹の姿に彰の面影を感じた
泰樹「…?」

7月9日ユートピアシティ北西部。ウェストステーション地下pm16:41…
渋川たちの本陣は地下駐車場を拠点としていた

渋川「チッ、諸星め…天に恵まれたな」
ツルギ「どうする渋川?今ここで議事堂を攻めるか?今なら彰や牛島などの重要人物もいないし…」
渋川「…今後重要になってくるのは、奴らの慢心だ
ツルギは首をかしげた
人間勝ちに浸るとつい慢心してしまうもの。そこを突くべきだと渋川は説明した
ツルギ「そこまで考えていたとは…では我々から仕掛けるべきなのか」
渋川「はい。だが戦力はそこまで強くさせません。適当に戦ってもらいましょう」
私からしたら、兵なんて目的を果たすために尽くしてくれる働き蟻に過ぎない

18時。軍の兵たちに出撃命令が出された
新参兵士「またかよ…」
新参2「今やあいつらの戦意は旺盛だろ…やる気はでねぇよ」
春輝「その件について、俺からある知らせを届けに来た」
反乱軍直属衆筆頭・鳳城春輝
春輝「今回の戦は、相手の心理を突くために程々に戦え。中途半端で構わない、だそうだ」
その場にいた兵士は困惑した
新参1「はぁ⁉︎この国の未来がかかってる戦争なのに中途半端に戦えだって?」
新参2「やはり俺たちのことは駒でしか見てないんだろ?」
春輝は去っていった
不穏な空気だけが残っていた

ツルギ「奴らの反応はどうだった?」
春輝「戦意がないですね。めんどくさがっています」
渋川「まぁそれは想定内だ。ツルギ様直々に説得させてもらうか」
兵士たちが話しているところにツルギがやってきた
新参3「これはツルギ様!何をなされに…」
ツルギは兵士を見つめると
ツルギ「今回の戦についてだが…あまり戦意がわかないと聞く」
それを聞いた兵士たちはすぐに頭を下げ、謝罪した
ツルギ「謝る必要はない…ただ、お前たちにについて教えたいことがあってな」
兵士たちは耳を傾けた
ツルギ「戦争は…常に死と隣り合わせのことは承知しているな?だから、無駄なところで命を落としてほしくない。今回の戦は、相手の心理を突くための戦いなんだ。だから死なないでくれ」
と言うと、そばにいる渋川に
ツルギ「と、言えばいいんだろ?
小声でいった
対して話を聞いていた兵士たちは感嘆した
ツルギ「俺が言いたかったのは、それだけだ」
渋川と共に去っていった

兵士1「聞いたか?帝王様に等しい方からの激励だぜ?」
兵士2「こりゃあ死ぬわけにはいかないなぁ!」
次々と立ち上がり、奮起した
ツルギ「うまくいったみたいだな。よし、陣ぶれを出せ

7月10日。ツルギたちは動いた
その知らせは、スパイを通して澪たちにも伝わった

澪「よし、私たちも出ましょう!」
八重「総司令官が、雪月隊を退けたのだから、私たちも渋川たちを退かせることぐらいはできるはず!」
そのぐらいはの言葉に空気は凍りついた
八重「アッ、すみません…余計でした…」
その裏で1人不安に陥っている人物がいた
彼は人目のつかないところで何か考え事をしているようだった
泰樹「また戦が始まるのか…」
彼はこの前のユートピア議事堂奪還作戦で初めて見た、人々の死体や斃れる瞬間。彼の脳内にはそれが焼き付いており、
彼の足止めともなっていた
泰樹「死にたくない…」
常に死と隣り合わせ。それに気づいてしまった苦しみ
自分もいつかそうなってしまうのではー
香澄「何してるの、泰樹。さっさとここを出て戦に出るよ」
泰樹「いいよな…感じないんだな」
香澄「…何が?」
泰樹は自分の抱えている悩みを香澄に打ち明けた
香澄「そっか…」
共感しているような口調だった
疑問に思った泰樹はなぜだと聞いた
すると香澄は
香澄「じゃあ教えてあげる…あの人も同じ思いを抱いているから…」
香澄の口から明かされたのは30年前に起きたユートピア革命
香澄「あなたのお父さんはそれが今も忘れられないんだって。それから、たくさんの戦を総司令官は乗り越えてきた。もちろん、死と隣り合わせだったけどね?」
泰樹「じゃあなんで…」
香澄「副司令官(澪)から聞いたの」

彰「人間いつかは死が来るんだから…死に急ぐ必要はない。戦になったら、死ぬと思えば生き、死なないと思えば死ぬことをよーく覚えておけ、後悔だけはしないようにな」

泰樹「…死のうは一定…か
小声でそう呟いた
泰樹「…ありがとう。」
香澄「いやいや」
ガラッ
築山誠一郎「何やってんだ泰樹、香澄。さっさと出陣するぞ」
彼は軍事隊の親衛隊長であり、アマタノミコトの親族*1である
泰樹「(せっかくいい雰囲気になりそうだったのによー!)」

議事堂の階段を降り、澪や八重たちと合流する
澪「みんな集まったね?」
アマタノミコト「今回の戦は私が総指揮を取ることとなった」
誠一郎「アマタは統率力に優れているから、兵の士気も上がること間違いなしだな」

7月11日。ユートピア議事堂前にツルギを迎え撃つアマタノミコト軍およそ4万7000人が集結した
その兵士たちの前にアマタノミコトが立つ
アマタノミコト「皆の者、これより我々は、賊軍、ツルギを討伐する。皆で彰のいないここを守り抜くぞ!
兵士たちは大いに奮起した
アマタノミコト「さぁ行こうか。目指すは、ここから4km先の、黒川坂だ!」

午前9時。黒川坂目指し、アマタノミコト軍が進軍を開始した
かくして、黒川坂合戦が始まろうとしていた


つづく


EP12「黒川坂合戦」


お互い異なる意志を持つ両雄が黒川坂の地で雌雄を決しようとしていた
しかしそれは築かれた共々が燃え尽きる理を表す
街にまた、血の匂いが漂い始めようとしていた


黒川坂に先に布陣したのはツルギたちであった
午前10時14分。黒川坂北側交差点前

ツルギ「さて、いよいよ兄上と正面衝突だな…」
渋川「正面戦争と聞き、兵の士気も上がっておりますぞ」
ツルギ「ここで雌雄を決する時だ」
渋川が見たツルギの瞳は迷いがなく、確実に兄を討とうとする意が感じられた
渋川「(まずいな…兵の士気が上がってしまっては全面戦争になってしまう。これは相手の心理をつく作戦なのだがな…)」

一方、進軍中のアマタノミコト軍…

アマタノミコト「此度の戦は、どう攻めると考えておる?誠一郎」
誠一郎「黒川坂はこちら側が下り側におります。左右には建物もある故、奇襲は難しいかと」
市民は地下専用の防空壕に避難済みで、建物はもぬけの殻になったいる
アマタノミコト軍の兵たちは意気揚々と進む
そして…

ツルギ「アマタノミコト軍()の居所、しれたみたいだな」
坂の下の方に部隊を目に捉えた
ツルギ「さて、奴らも布陣するであろう…」
アマタノミコトたちも坂の頂上にいるツルギの軍の姿を目にとらえた
10時41分。黒川坂の地に両者が合間見えた
音もなく、ただ両者が睨み合う時間だけが過ぎていった
先に攻撃を仕掛けたのはー

アマタノミコト「ライフルを構えろ!放て!」
10時50分。坂の向こう目掛けアマタノミコト軍から銃弾が放たれた
放たれた銃弾はツルギの軍の盾によって防がれた
ツルギ「そちらから仕掛けるか…ではこちらは新兵器を使うとしよう」
アマタノミコト達の目の前に大砲らしき兵器が現れる
八重「あの兵器は未知数です!全軍防御体制!」
渋川「ランチャーST-20よ。その砲弾で、奴らを焼き尽くせ!」

ドオンッ

その凄まじい音と共に、一瞬にしてアマタノミコト達の目の前は煙に包まれた
泰樹「…何が起きた?」
放たれた銃弾は奇跡的にアマタノミコト達の目の前に落ちた
半径50メートルほどの穴が空いていた
アマタノミコト「我々も反撃するぞ!」
澪「しかし私たちはそこまで遠距離に適している武器を持っていません!」
するとアマタノミコトは部下からとある武器を取り出した
八重「そっ、それは…?」
アマタノミコト「新型ミニガンMG-560だ。私が密かに開発していた兵器なんだ」
アマタノミコトは自らミニガンを構えた
そして防護用メガネを身につけ
アマタノミコト「発射!!」
次の瞬間、疾風の如く放たれたミニガンの弾丸がツルギ達の兵士を2、3人ほど撃った
わずか2.5秒の出来事であった
渋川「面白い…現帝王も伊達じゃないってか…。ツルギ様。作戦変更です。本気出しますか」
ツルギ「私も今そう思ってたところだ!兵士達よ!砲弾の雨を降らせよ!」
ランチャーが連続して放たれる
アマタノミコトたちの陣のすぐ近くにたくさんの砲弾が落とされていき、地面は揺れ始める
泰樹「くっ…体勢が保てない!」
度重なる砲撃の影響で道路には穴が空いていた
しかし煙の中から複数の弾がツルギたちを撃ち抜こうとする
銃撃戦は激しさを増した

11時16分。ツルギ達の陣…
ツルギ「このままでは遠距離攻撃だけのいたちごっこになりそうだな…」
渋川「ならば…」
突如アマタノミコトたちの上空に戦闘機が現れる
澪「なっ⁉︎いつこんなものを…」
次の瞬間、爆撃が落とされた
からくもアマタノミコトたちは回避したが、近くの建物が崩落し、何人かの人々が下敷きになった
アマタノミコト「バカな…」
八重「このままこれをモロに食らえば私たちは全滅です!」
アマタノミコト何か考え、澪に合図を出す
澪はアマタノミコトが何をしようとするのか分かったような顔をした
澪「全部隊!坂を登り渋川達の陣に突っ込め!
と高らかに叫んだ
全部隊が坂道を登り、戦いは遠距離攻撃から近接攻撃になった
戦闘機司令官「チッ、ツルギ様たちの近くに行くことで爆撃をさせないつもりか!」
剣を取り出し、アマタノミコト達は敵を斬っていく
渋川「チッ、やられたね」
ツルギたちも自ら刀を奮い応戦し、戦いはさらに激しさを増す
しかし剣の戦いではアマタノミコト達が優勢となり、押し込んでいった
ツルギ「おのれ…小癪な!」
渋川「ならば、これで幕とさせていただこう」
近くの建物を砲撃し、その残骸をアマタノミコト達に当てようとする
がしかし、そこまで効果はなかった
ツルギ「くそ…鳳城!
鳳城「悪いな、帝王様」
アマタノミコトの背後に突然現れた春輝は一瞬でアマタノミコトの首を死なない程度に絞め、アマタノミコトは気を失った
澪「帝王様⁉︎」
突然の事態にアマタノミコト軍の兵士たちは混乱に陥った
それを好機にツルギ軍の兵士たちは追撃を加える
八重「みなさん!一旦退きましょう!」
坂を下っていき、午前中の戦いは一時的に停戦した

12時28分。アマタノミコトたちの本陣…

澪「まだ目が覚めないのか…」
八重「兵士たちは帝王様が倒れたことにより、戦意を失っております。帝王様が目覚めるまで戦を仕掛けるのは無謀かと」
アマタノミコトは依然として意識を失っていた

その頃、渋川達は今後の作戦について話し合っていた

ツルギ「渋川!兄上が倒れた今、攻撃を仕掛ければ我々の勝利に近づく!」
渋川「いや、ここは静かなること林の如くだな」
するとツルギは激昂し、机を叩いた
ツルギ「なぜだ!今ここで攻撃すれば壊滅的な被害を出せる最大の好機だ!なのになぜお前はそこまで消極的なんだ!」
ツルギの顔が激しくなる中、渋川の顔は冷静のまま
「そうか…どんな時も冷静になり、物事を解決していく。それが帝王になる者の資格ではないのか?
その目は見下しか、失望か…
それを知るのはツルギだけだった
ツルギ「…私が悪かった」
そういうと会議用のテントを出て行った
しかし腑に落ちない顔だった
「'そうだよなぁ?ツルギ
音もなく現れ、ツルギに囁いたのは神永であった
ツルギ「誰だ貴様は!」
神永「お前はそのままでいいのか?渋川に操られたままの生き様でいいのか?それをよく考えることだな」
その言葉と共にツルギの前から消えた

13時06分。ついにアマタノミコトが目を覚ました

アマタノミコト「ふぅ…まだ首が痛いわい」
澪「帝王様!ご無事で!」
アマタノミコト「私はもう大丈夫だ。これより攻撃を再開する!」
再び坂を登り、ツルギたちと相対する

八重「火の如く攻め立てよ!」
アマタノミコトを傷つけた恨みからか、兵士たちの勢いは凄まじかった
次々と兵を薙ぎ倒していき、死体を時には踏み潰しながら渋川達に迫る
ツルギ「くっそ…だからあの時攻めれば…」
必死に抵抗するも、それは無駄であった
再開から40分も満たないうちにツルギ達の本陣とアマタノミコトの兵士の距離は20mにも迫っていた
もはや戦況はアマタノミコト側に完全に傾いていた

ツルギ軍兵士「このまま戦闘を続ければさらなる被害を被ることになりますぞ!撤退を推奨します!」
ツルギ「五月蝿い!」
というと兵士を切り捨てた
渋川「これ以上の戦闘は不可能だ!ツルギ様!撤退しましょう!」
ツルギも観念したのか、撤退命令を下した
開戦から5時間経ったことだった
澪「ツルギ軍が撤退していきました!」
アマタノミコト「深追いは無用だ!勝鬨をあげよ!」
夕日に街並みが照らされる中、兵士たちの勝鬨の声が黒川坂に響き渡った
17時21分のことだった

その夜、連戦連勝の祝いとして黒川坂付近の旅館で宴会が行われていた
アマタノミコト「此度の勝利、喜ぶ他なし!」
大宴会場は和気藹々としていた
泰樹「(確かに今回の勝利はめでたいことだ…しかしあの渋川が今回の件で諦めるはずがない。まずい、慢心に浸っている…)」
しかしその日は何も起こらなかった
その日は…

ツルギ「くそっ…アマタノミコトたちは破竹の勢いでこちらに迫ってくるだろうな…」
命からがら撤退していた
渋川「(今回の戦は予想範囲内だったが…)このままでは済まさんぞ

泰樹の予感は正しかった
この大勝利が後に、彼らに混乱、そして衝撃を及ぼすこととなる…
渋川「奴らに一矢報いるためには…諸星澪を殺す
黒川坂に染みた血の匂いは未だ消えていない


つづく


EP13「坂谷崩れー序曲ー」

7月12日。アマタノミコト軍の勝利の知らせが彰達にも届いた
彰「そうか…勝ったか」
信「顔負けできますかね?」
彰「いつまでそんなこと考えてんだたわけ!」
でも笑顔で言っていた
彰達の軍の雰囲気も良くなった
まるでこの前の戦がなかったかのように


連戦連勝を重ねる彰達
次なる道は急がば回れか、善は急げか
その選択が、彼らの運命を分けることになる


信「さて、このあとどうします?」
彰「ここは臨戦体制だな」
考えが決まってるいるかのように即答した
信「動かざること、山の如しってやつか」

しかしそうはいかなかったのがアマタノミコト軍
アマタノミコト「この機に常時、我々は追撃をしようと思う」
しかし反発したのが
澪「お待ちください。いくら連戦連勝とは言え、こちらもダメージが大きいです。少し回復させるべきかと」
アマタノミコト「少し待ってからだな…また戦をすれば兵も疲れるだろう」

両軍共々兵を回復させることに努めた
それから2週間ほど経った7月27日…

彰「澪、元気にしてるか?」
鳥綱橋付近のホテルから電話がかかった
澪「本当に心配したよ!無事で良かった…」
彰「これから坂谷*2へ向かうんだろ?俺たちは29日に合流する」
澪「うん。できるだけ早くきてね?」
彰「わかっとるわ!(笑)」
電話を切った
彰「ふぅ…俺も会いたいに決まってんだろ(小声)」
信「聞こえてますぜ、先輩」
彰の額から汗が出てきた

10時16分。坂谷交差点近くの高層ビル。ここに撤退していったツルギ達はここを拠点にしていた
ツルギ「負傷兵の回復はどうだ?」
渋川「ここにいる5万4000人中、30000人が完全回復、16500人がまだ負傷中。7500人が重傷を負っています」
ツルギは次責められたら籠城戦になることを確信した
ツルギはしばらくは防戦体制を整えたいと渋川に言った
渋川「(それでいい…)えぇ。私もそうしようとしてたところでした」
ツルギはミーティングルームから出ようとしたが
ツルギ「そうだ。あの作戦とはなんなんだ?」
渋川「それは…」

7月28日。ついにその日が
アマタノミコト「では、私と護衛200人はここ(ユートピア議事堂)に残り、澪たち5万4000人が坂谷に攻め込むと」
澪「行きましょう!」
アマタノミコト「気をつけろよな」
9時30分。ユートピア議事堂を出発した
坂谷までおよそ10.1km
八重「帝王様なしで勝てるでしょうか…」
澪「何よ!私は副司令官よ!兵の士気も上がるはず!」
少し口論しながら進む
空は少し曇り始めている。しかし雨が降る気配はなし
道中、避難している国民から冷たい視線を送られていった
早く戦を終わらせて欲しいのか…それとも戦を続ける彼らに…

複雑な思いを抱えたまま、ツルギ達の拠点の2km前まで来ていた

澪「もう目の前に…」
八重「攻めあるのみですが…まずは刺客に拠点の情報を調べてもらいましょう」
澪たちはスパイを送り込んだ
渋川「(奴らは必ず俺たちの拠点の情報を知るためにスパイを送り込むだろうな…)」
部下「渋川様!拠点の地下道にてスパイらしきものを捕縛した模様です!」
渋川「(やっぱりな)よし、閉じ込めておけ」

数分経ってもスパイが帰ってこなかったことから澪はスパイは捕らわれたと確信した
澪「仕方ない…行きましょう!」
正面衝突することに方針を決めた
泰樹「勝てるのか…?」
11時13分。坂谷交差点の200メートル前に澪達は陣を構えた
渋川「流石にね…奴らも馬鹿ではないからな」
その頃、ツルギは今回の作戦について兵士たちに言い聞かせていた
ツルギ「いいか、今回の戦は、絶対に、絶対に本気を出さずに、敵を誘き寄せるんだ。二の舞にはするな」

築山誠一郎「副司令官。砲撃の下知を!」
澪は軍配を強く握りしめ
澪「いざ、撃ち尽くせ!」
11時21分。開戦
澪達の軍は正面から攻めず、まずは砲弾を拠点に撃ち続けた
渋川「なるほど…我々もSMGを用いて陣を攻撃しろ!」
戦いの最初から激しい銃撃戦となった
八重「弾がなくなるまで撃ち続けるんです!」
澪たちは相手の兵に当てるのもそうだが、建物にも弾丸を当てている
ツルギ軍兵士1「確か、一回逃げるふりをするんだよな?
兵士2「(小声)そうだ。うまくやり過ごすぞ」
激しい銃撃戦を前にツルギ達の兵士は建物の中に逃げ込んだ
八重「(誘ってるな…)追うな!」
激しい銃撃戦はたった10分で終わった

澪「彰達は29日に来るから、この戦はそこまで慌てなくていい」
八重「いやここはそう司令官が来る前に終わらせる方が得策かと」
築山「なりませぬ。ここは臨戦体制が一番良い」
本陣で会議をしている中、一報の知らせが届く
澪「何?雪月隊と停戦状態となった?」
築山「副司令官!この好機を逃してはダメだ!今しかない!」
澪はしばらく悩んだが
澪「よし、MG-560を使って建物を集中攻撃するぞ!」
ミニガンの列弾が建物を砲撃し、ガラスを貫通した
貫通したところからも弾丸が貫き、兵士達を撃ち殺していく
渋川「チッ…あの兵器を用意しろ!」
兵が持ってきたのはニューランチャーX-120
ランチャーST-20を改良し、爆破範囲を広げた兵器である
渋川が自ら構えて
渋川「この爆撃に散れ!」
ランチャーの弾丸が着弾した瞬間ー

ドカァァァァァン

凄まじい爆発音と共に陣が崩れ去った
澪「うっ…」
飛び散った破片により、澪は顔を負傷した
澪が一番に感じたのは血生臭い匂いとすぐ下にいる爆撃に巻き込まれた兵達の死体
八重「ケホッ、大丈夫ですか?」
築山「チッ…恐ろしいな。まるで国崩しだ」
八重が一度退こうと言う前に、二発目が着弾した
泰樹「母さん!」
陣は崩壊し、周囲の建物にも被害が拡がり、看板などが落ちてきたりした
築山「泰樹!お前も危ないぞ!」
生き残っている兵士たちと共に一時退却した
泰樹「母さん…」

ツルギ「だいぶ削れたみたいだな」
渋川「戦っつーもんは量だけじゃ勝てないんでね」
拠点の屋上から眺めている
その頃、八重たちは負傷している兵士や瓦礫の中にいる兵士の救出にあたっていた
八重「副司令官!無事ですかー⁉︎」
すると瓦礫の中から声がした
澪「ここ…」
八重が瓦礫をどかすと腹部と脚部から血が流れている澪の姿があった
八重は澪を発見するなりすぐに救護用テントに運んだ
築山「大丈夫ですか!副司令官!」
澪「クッ…ぬかってしまった」
八重「もうこの戦の勝敗はついております!撤退の下知を!」
澪は怪我をしている体を起こし
澪「ダメだ…援軍を呼んでいる時点で退くことはできない。それに、まだ瓦礫の中に埋まっている兵士たちもいるだろう、まずはそれを救わねば!」
立とうとしたが負傷した足が痛み、杖を使って立った
泰樹「母さん!無理しないでよ!」
澪「急がなければ…瞬く間に兵が死んでしまう…」

ツルギ「おっ、副司令官が出てきたぞ?殺しますか?」
渋川「…。春輝を呼べ!
兵士「承知!」
数分後
春輝「ただいま参上しました」
渋川「よくきたな」
渋川は澪の方を指さした
渋川「あの女を殺せるか?
春輝「…は?」
春輝はおもわず息を呑んだ
彼の後ろには特製のライフルを持ち抱えている兵がいる
春輝「(俺が…やるのか?)」
その部屋の空気は凍りついていた


つづく


EP14「坂谷崩れー変転ー」

数時間前
ツルギ「渋川、あの作戦とはなんだ?」
渋川は薄ら笑いをした
ツルギ「何がおかしい」
渋川「驚くなよ?俺たちは、軍事隊副司令官の諸星澪を殺す

ツルギは期待している目で春輝を見つめている
春輝「……やります」
兵士が春輝に渡した銃はMR-150。別名神経断裂銃
その銃は重くはないのだが緊張か重く感じた

八重「副司令官!これ以上は危ないです!明日また探しましょう!」
澪「そうね…いつ銃撃されてもおかしくないものね」
その様子を渋川たちはみていた
ツルギ「あ、逃げた。渋川、撃つか?」
渋川「否。ここで撃ってはずしたら奴らも警戒し始める。明日だな」
それらの会話を聞きながら
春輝「(明日が諸星副司令官の命日となるのか…なんでそんなことを軽々しく…)」

7月29日。今日も澪たちは少数の護衛を率いて要救助者を探していた
そこを春輝が銃を構えて狙っている
渋川「いいな?」
春輝は目を鋭くさせて構える


彰達の増援を待つ澪達
しかし彼らに冷たい弾丸が貫こうとしている
到着が先か、死が先か…
それを知るのはー


その頃、進軍している彰達…
彰「あと3kmか…」
信「暑い…熱中症になりそ…」
兵達は暑さでクラクラだ
兵士「もうダメだ!総司令官!休憩をお願いします!」
仕方なく彰たちは日影で休憩することにした
彰「ふぅ…もう31℃か…」
市民「お水はどうですか?」
そういうと市民は水を信たちに差し出した
信「ありがとうございます。お名前は?」
市民「ジャン・S・ミシェルと申します」
すると彰はその名に食いつくように
彰「ミシェルって…元ジェネレン共和国*3の有力政治家のミシェルか⁉︎」
ミシェル「もちろん。ユートピア革命の時にジェネレン共和国の政治の関係者たちは皆殺しにされてしまってね。今はこうやってひっそりと暮らしている」
齢65は超えているであろう。白髪も混じって、痩せ細っている。
しかしその瞳は何かを語りかけるような瞳だった
ミシェル「良いか、何かを成すには心を鬼にしてやることも時には必須になるものだ
それはかつて、平山雅夢が死に際に放った一言と同じだった
彰はなんとも言えない顔で水を飲んだ

澪「大丈夫ですか?」
瓦礫に生まれていた兵士「はい…大丈夫で…す」
頭を負傷している
澪が兵士を助けようとしているところを春輝が狙っている
春輝「(チャンスは一度きり、タイミングを外せば…タイミングを外せば…)」

ドンッ

渋川「チッ」
澪の護衛たちがこちらの拠点に向けて発砲してきた
ツルギ「春輝、隙のある位置に動け」
春輝「承知いたしました」
どちらが先に斃れるか…この作戦は駆け引きも必要
護衛「さぁ!あいつらが何処かへ行ってる間に助けましょう!」
春輝は拠点の後ろに回り込み、護衛たちの死角の位置についた
春輝「今ここで…次こそ…」
澪が射程内に入る
春輝「(副司令官…どうかお許しください!

次の瞬間、一つの発砲音と鈍い音が拠点周辺に響き渡った

彰はミシェルの部屋にあったある写真を見ている
彰「…これは、なんですか?」
ミシェル「これは私の妻の絵ですよ。革命の時に死んでしまって…彼女の微笑みはまるで仏の眼差しのような感じでした…」
彰は何かを考えながら見ている 

澪「(…ん?誰かが撃たれたのかな?助けに行かないと…)」
護衛は澪に寄ってくる
澪「(私のことなんていいから…撃たれた人を…)」
しかし澪は自分の腹部を見て確信した
澪「撃たれたのは…私かぁ…」
澪はゆっくりと倒れた
八重「副司令官!!」
咄嗟に澪の体を抱えた
澪「油断したなぁ…」
春輝は撃った後すぐにその場を離れ罪悪感に浸った
八重「なんでそんなに笑顔で言えるんですか!」
澪「なんでって…私も…ゲホッ、結局は…1人の人間…だから…」
血を吐いているも、微笑みながら話している
澪「兵が死んでも…悲しむことができる人間は…いないかもしれない…だから…ゲホッゲホッ!
救急隊員が澪と八重のところに駆けつけたが
澪「大丈夫…貴方たちに迷惑をかけたくない…貴方たちには…今負傷している兵士たちを治療して…」
救急隊員「…しかし!」
澪「これが…私からの…最期の命令です
救急隊員は無言で立ち去った
真夏の日差しが澪の体、血を焼き付かせる
八重「副司令…澪さん…」
澪の呼吸は小さくなっていく
澪は一度目を閉じたが、八重の方を向き
澪「…八重…彰と泰樹を…頼ん…だ、よ」
八重の目から自然と涙が溢れ出した
八重「ウッ…はい」
声が遠ざかる、空が暗くなる、心音が小さくなる…

吾郎「…お前はよく頑張ったな」
澪「…父さん?」
振り向くと、彰たちが立っている
澪「…ごめんね、彰。ここでお別れだわ。この国の行末を託したよ…」
澪は光が差し込む方へ向かっていく
八重「ウッ…澪さん…」
澪は静かに目を閉じた
母の身を聞き、駆けつけた泰樹も一瞬で事を理解し、膝から崩れ落ちた

諸星澪 戦死 享年33

渋川とツルギは黙って見下ろしていた
しかしその目は慈しみなどなかった

信「先輩、兵たちも休めた事だし、そろそろ行きますよ?」
彰はじっとミシェルの妻の絵を見ている
信「…先輩?」
彰「ああすまない。あの写真を見ていたら、妻の顔を思い出してしまってな
信「そんなに会いたいなら、すぐ行きましょ!」
彰は揚々と外を出た

しかし彼らはまだ知らない、澪はもうこの世にはいない事をー


つづく


EP15「坂谷崩れー終幕ー」

7月29日、午後5時11分。坂谷交差点澪たちの本陣

彰「…死んだ?」
泰樹「何度も言わせないでくれ、父さん。母さんは死んだんだ」
彰は本陣の中央にある澪の棺を開けた
そこには静かに眠っている澪の姿があった
彰はそっと澪の手を取った
彼女の手は夏なのにとても冷たかった
その瞬間、彰の中に溢れ出したのは
30年間の共に過ごした日々
彰「うっ…はっ…はぁ…」
崩れ落ちる
彰「うぅ…うっ…」
ガリガリガリガリ
指を地面に引き摺る
信「ちょっと先輩!何をして…」
彰「また守れなかった…」
指が削れる痛々しい音と共にその場にいた者たちが聞いたのは
彰の今まで聞いたことのない嗚咽
彼らは声がけの仕方もわからなく、ただ下を向いて涙するしかなかった
彰「うっ…結局俺は…何も成せない…何もしてあげられることができない…うぁぁぁぁ!
思い切り指を削った
血が出ている
八重が手をとる
八重「もうやめてください!総司令官!」
彰はこちらを向き
彰「お前にはわからないだろう。少し1人にさせてくれ」
そう言うとテントを出て行った
信たちはなんとも言えない気持ちで見ていた

彰は1人で路地裏に立っている
彰の脳内には自分が今まで味わってきた屈辱、負の体験…
彰「俺が守るべきものは…」

午後6時49分。彰が帰ってきた
信「先輩。もう撤退しましょう」
彰「このことは、帝王様にも伝えなければならないことだ。急いで戻るぞ」
午後7時から軍は坂谷から撤退し始めた
夕日に照らされながら戻っていくその様子を、
ツルギ達は見逃さなかった
渋川「(…何も言わず、か)」
ツルギ「皆の者、今回の戦は我々の勝ちだ」
ツルギ「(しかしこれほどとは…)」

5万4000人が坂谷に攻め込むも、副司令官の諸星澪を失う大敗北をしたこの戦いを
のちに、坂谷崩れという

午後9時35分。ユートピア議事堂に到着した
信「もはや戦意は低迷状態。しばらくは戦をせず、戦意を回復させるのが得策かと」
彰なしで会議が進められていた
八重「推定1ヶ月は必要ね。戦力も貯めないといけないし」
菜穂「それでは、停戦の書状を出しましょう」

アマタノミコト「…それは無念であったな」
彰は今回のことをアマタノミコトに報告していた
彰「では私はこれにて」

彰は1人で個室に入り
彰「ならば…」
カッターナイフを取り出す
そして自分の頸動脈に当てようとしたその時ー
八重「何1人で死のうとしているんですか
彰「…お前が割り込むとはな」
八重はカッターナイフを投げ捨て
八重「死なせません。この戦が終わるまで」
彰「こっちは悔いがあるって言うのに…」
きっと澪も悔いがあった死んだんだろうな
なぜなら、こんな道半ばで死んだから
彰「何も成せていない時点でもう悔いがある。もう俺には何もできない。総司令官なんて、ただの飾りさ
泰樹「父さん、母さんは悔いがあるなんて思ってないよ」
彰「…だからお前に何がわかる」
薄ら笑いをしている

坂谷の戦いの最中…

泰樹「なぁ母さん、戦争ってたくさんの人死ぬけど、死ぬ時に後悔ってしてないのかな?」
澪「んー…そういうのは人それぞれだと思うけど、私は悔いはないかな?」
泰樹は驚いた
澪「私は20年近く軍事隊に所属していたけど、とても充実してたよ。だって私はいつだって、後悔しない道を進んできたし、これからもそうしていきたいからね」

彰「後悔しない…道か、」
澪「そうそう、泰樹はこれは彰に伝えとかなくちゃ。この内戦の反省から、あなたが守るべきものは、家族じゃなく国だと
彰はその言葉に食いついた
そしてあの言葉を思い出した
アマタノミコト「この国を見捨てないでくれ
彰「(何逃げようとしてんだ俺は)」
彰はすっと立ち上がった
彰「死ぬのは、この戦が終わってからだ」
もう迷わない。逃げはしない

7月31日。諸星澪の葬式が行われた
葬式には一般人500人が参加した
挨拶は彰が執り行った
彰「この度は、妻 澪の…」
彰は前のように泣いてはおらず依然としていた
参加していた人々は涙を流していた
そして葬式が終わった後、彰は1人で澪の遺影を眺める
彰「澪…見ててくれ。俺は内戦を終わらせるためには…なんだってなってやる

その日の夜

渋川「どうした春輝」
春輝「あの日…俺は初めて人を殺した。人の死に際は散々みてきたが、自分が手を討ったのはこれが初めてだ」
春輝は澪の死の一部始終を見ていた
春輝「殺すだけならまだいい。でも、あんな死に際になったら…もう…」
頭を抱える
渋川「春輝…悪いが本当の地獄はここからだ。お前の知り合いを殺すことになるかもしれないぞ?こちらについているのなら、それくらいの覚悟はできてるよな?」
春輝は菜穂や香澄の顔を思い浮かべた
春輝「…勿論です」
肯定するしかなかった
しかし今回の戦で勝ったことによりツルギたちの軍の士気は高まったのであった

8月になってしばらくの間、シャングリア帝国では穏やかな日々が続いた
だが、新たなる兵士を求めて徴兵令が行われた
そして軍事隊では毎日訓練が行われた
彰「菜穂、訓練の調子はどうだ」
菜穂「やはり兵士たちはあの一件からより一層積極的に取り組んでおります」
彰は訓練を黙ってみている
訓練している兵士の中には泰樹の姿もあった
彰「人一倍励んでいるな…」
もうあのような過ちは二度と繰り返さない。この内戦が終わるまで。
彰は心の中にそう誓った

その頃、荒れ果てているユートピアシティ境界付近にある3人の人物が歩いている
サイレント「あーあ、まさか俺らにも徴兵令が来るとはなー」
ベテルギウス「まぁいいんじゃねぇか。最近、暇な日々ばっかだったしな!」
リゲル「俺が作った兵器で敵を駆逐してみたいし」
彼らのその歩みはユートピア議事堂へと向かっている
彰達に新しい戦力が加わろうとしている


つづく



*1 アマタノミコトの従兄弟
*2 ユートピアシティ北西部の地名
*3 シャングリア帝国の前身