【SS】オルシオ電磁国建国記

Last-modified: 2024-05-13 (月) 07:06:53

プロローグ

今からおよそ100年前、とある魔女魔女コロルから聞いた話をまとめて本にしました。
その聞いた話というのは──オルシオ電磁国の、はじまりのはじまりの部分でした。
その本の内容を、これから少しづつここに載せていこうと思います。

注意事項

  • GL要素が含まれます。苦手な方はブラウザバック!
    • もう一度言います。苦手な方は触れないでください。
  • 合作ではありません。あとキャラの募集もしてません。
  • 完全に見切り発車です。さっさと長い長い一日書けって話なんだよなぁ

登場キャラ

『四聖女』

それ以外の人物

  • テロッサ・リアード
    13番工場の工場長。
  • ヘレナ・カーネリア

現代

  • ミランダ
    オルシオ電磁国建国記』著者。故人。
  • シンシア
    オルシオ電磁国24代目聖女。
  • イルカ
    後の25代目聖女。図書館で本を読んでいる。この時は知る由もないが、最短在任記録を更新することになる聖女。

コメント

本編

会話ログ

「『オルシオ電磁国がある場所には、かつてオルシオ機関国という国があった』。……『私は今やその時代を知るただ一人の人物となったコロル様の邸宅に赴いた』。……『何をするかと言うと……その時代、どのようにオルシオ電磁国は建国されたのか気になったのである。そして、その当時からずっと生き続けてきたコロル様に、体験談を語っていただくのだ』。……」
「……音読?珍しいね」
「あぁ、シンシアさん。……国立図書館にはこんな本もあるんですね」
「どれどれ?……著者は魔女ミランダ、か。オルシオ電磁国では珍しい歴史家だったみたいだけど、機関国時代の著書が多いんだよねぇ……」
「知ってるんですか?」
「80年前の人だよ、会ったことなんてない……まあ職業柄本を目にすることは多いけど」
「職業柄?」
「……いや、なんでもない。それより読むなら自室で読んでよね。音読なら尚更」
「はーい」

1章

オルシオ電磁国の前身はオルシオ機関国という名称の国家でした。2000年前の建国時は聡明で優秀で強力な指導者が神様の協力の下に国を作った、というケチの付けようもない過程が示されていますが、国を維持していく過程の中では劣化は避けられないようでした。
具体的には建国からおよそ1500年も経った頃の事。国内のありとあらゆる物事に、税が課せられ始めたのです。代表的かつ悪評の高い物で言えば『少女税』────10~15歳の少女を強制的に働かせるというちょっと訳の分からない物までありました。
しかし、その『少女税』が、遂にはこの国の命脈を完全に断ち切ってしまう事になるとは、制定した権力者達にも分からなかったことでしょう。────具体的には、制定から数十年後。とある都市の工場で二人の少女が出会った瞬間から、崩壊が始まりました。


「……よーし諸君集まったか。私は工場長のテロッサ・リアードだ。第43期の業務を始める前に連絡だ。以前から居る者には蛇足だろうが……この13番工場の汚染度・危険度は他のどの工場よりも高い。そして予算が回らんから防護服なんて贅沢な物はない。少しでも異変を感じた者は申し出るように」
ここはとある工場の内部。40代を越したばかりに見える女性が広間の前方に立ち、およそ100人ほどの少女の前で毎年恒例らしい通告を喋ります。
「はい工場長」
「ん?……コロルか。贔屓はしてやれんぞ」
「そうじゃなくて。……異変とは、どの程度の事を指すのでしょうか」
「そうだな……」
コロルと呼ばれた少女の問いに彼女は少しだけ考え込みました。周囲の所々赤茶色に錆びた機械類を一旦見回してから、口を開きます。
「まぁ、単純に考えれば頭痛・吐き気・腹痛だろうな。単純に怪我でもいい。とにかく早めに報告しないと叱られるのはこっちなんだ。……もういいか?」
「はいはい」
「はいは1回!……こほん。それじゃあ諸君!またクソみたいな労働を始めようか。各員持ち場へ!」
テロッサはメガホンのような物を引っ掴み、工場全体に響きそうな大声で周囲へと呼びかけました。それを聞くか聞かないかのうちに、少女たちは各々の持ち場へと散っていきます。それはコロルも例外ではありませんでした。
「……まったく。本当にクソみたいだよな」
彼女は誰も居なくなった広間に独り言を投げました。……しかし、誰も居なくなったのは確かですが、壁の隅に貼り付けられてあった監視カメラの存在にまでは……気付くことが出来なかったのです。




コロルはその他10人ほどの少女と共に持ち場へと向かいました。しかし途中、一人が転んでしまいます。何かに躓いたのか、それとも疲労故か────
「きゃっ……!」
「! 大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
そうは言いますが、何とか立ち上がった彼女の膝はズボンが破れており、そこから痛々しい擦り傷が顔を覗かせています。
「あらら、これは……」
「うわ、痛そう……」
とか何とか周囲の少女達は心配そうな様子を見せますが、「洗ってきたら?」とか、「絆創膏あるよ」等と言う者はいません。……前者は清潔な水の不足が原因であり、後者は余計な私物を持ち込めなかったが故の傍観でした。
「んー……お母さ……じゃなくて、テロッサさんに報告して来ようか?」
その中でもコロルはまだ建設的な提案と行動ができる人物だったようで、何やら母であるらしき先程の工場長への報告という案を出します。すると、
「……擦り傷程度だし……そこまでしなくてもいいと思う」
少女の一群からおずおずと一人が進み出てきて、そんな事を二人に言いました。
「……でも、痛そうだよ……?そうじゃなくても怪我は怪我だと思うけど」
コロルはその少女に反論します。しかし相手は全く動じず、むしろ自信を若干増幅させたかのように振る舞い始めました。
「怪我だけど、所詮は擦り傷……!痛さとかは関係ないんだよ」
「じゃあこのまま放置しろって?」
二人が議論らしき物を始めると、次に困惑するのは半ば置いてけぼりになった怪我している少女の方です。
「……あの、私はほんとに大丈夫だから……それより早く行かないと怒られちゃうんじゃ」
「ああ、ええと……そういう訳じゃなくて!」
「……とりあえず皆は先に行ってて」
鶴の一声────という訳ではありませんが、一同は元の目的を思い出したようです。コロルが合図すると、とりあえず他の少女達は各々先を急ぎます。後に残されたのは三人だけでした。
軽く咳払いし、コロルは今度は議論にならないように注意深くやり取りを再開します。
「……で、どういう訳なの?」
「……実はね、私に……なんか変な力が宿ってるみたいで……」
自然と声が小さくなります。しかしコロルも、怪我をした少女も聞き逃しませんでした。
「「変な力……?」」
変な力と聞いて、中二病だとか虚言だと笑えるような時代と世界ではありません。ここオルシオ機関国は一般的に言われる『魔法』と縁遠い国ではありますが、奴隷のように働かされている少女達でもその存在は知っています。
「魔法ってやつかぁ……どんなの?」
「傷口を塞げる魔法。ちょっと大変だけど……擦り傷だから!」
それで"所詮擦り傷"と言っていた理由もほとんど分かりました。コロルと怪我した少女は思わず顔を見合わせます。
「回りくどいなぁ。……えーっと、大丈夫?」
「……大丈夫です。物は試しなので……あと、私はレネ・フィリアっていいます」
怪我をした少女……改めレネはコロルの確認にそう言って頷きました。体育座りのような姿勢になり、擦り傷ができた膝を差し出します。
「わかった。私はヘレナ・カーネリア……えーっと、そっちはコロル・リアードで良かったよね?」
「そう。コロルでいいよ」
「リアードだと大変そうですからね……」
少しだけ雰囲気が和んできたからか、レネにもそんな軽口を言う余裕が出てきたようです。ヘレナは早速といった様子で、レネの傷口に手をかざします。
───途端に、周囲にピリっとした感覚が伝わりました。意識を集中しなければまるで分からない程度ではありますが、それでもこの場にいる三人は確かに感じ取ることができたのです。……静電気のようなそれは、いつしか一点……つまりヘレナの手に収束し、
「……できた。どうかな?」
彼女が手を離すと、レネの膝にできた擦り傷は綺麗さっぱり消えていました。
「ほんとに治った……!?凄い、すごい……!」
「よかった……私も試すのはこれで二回目だったんだよ」
「これが魔法……」
起こった事に対しての反応は三者三様でした。一見コロルが一番落ち着いているようですが、その瞳には興奮と思案が渦巻いています。
「これで大丈夫……!ありがとうございます」
「いやいや……それより早く持ち場に行こう。年度始めは巡察が早いから」
ヘレナは照れ隠しかいち早く立ち上がり、先に立って歩き始めます。残りの二人も慌ててそれに倣いました。
「そういえばそうだった。……あぁ、確かレネって別の工場から来たんだっけ」
「そう……ですね。5番工場です」
「5番って言うと魔崩核の加工工場かぁ。結構重要らしい所だね」
魔崩核とは、この時代のオルシオ機関国の兵器を動かす動力源です。今も昔も基本的なエネルギーの抽出法はざっくり言ってしまえば『お湯を沸かす』*1事ですが、魔崩核を利用すればその効率がただ単に燃料を使うよりも格段に良く、更に環境にも優しいという代物でした。……その魔崩核を利用する為の過程で汚染が生まれるのは本末転倒の趣がありますが、ともかく。
レネはもはや過去の物となった経験を思い返しているらしく、少しだけ遠い目をします。
「……大変でした。ちょっとでも手先が狂ったら爆発するか火に飲み込まれるか水に押し流されるか……ここは確か廃棄物質の再加工工場でしたっけ」
「そう。……確かにそこよりかは安全かも……?」
年頃の少女である二人には、汚染という目に見えない脅威よりも身体に迫る具体的な危険の方が効いたようです。
「まあ、何にしても……危険なのは危険だから。気をつけようね……」
コロルはそんな風に場をまとめました。……少しだけ話し込んだ為か、ヘレナとの距離がかなり開いていたからです。

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*1 オルシオ電磁国においては電波の存在で多少事情が変わります