小説/サイドストーリー/これが3年3組の卒業制作。

Last-modified: 2021-09-18 (土) 11:45:25

これが3年3組の卒業制作。

著:こいさな

作者コメント (いつか削除します)

作者が、大量の紙束の散らばる部屋で、描きかけの黒いノートを眺めて楽しむような人だったおかげで、この話は未完のまま放ってもいいかなとおもっていましたが
とあるきっかけを経て、やっぱり広げた風呂敷は畳んで返さなければなと考えを改めました
つまるところ、執筆・修正を再開します。最初に決めた物語の結末も、大筋も、展開も通過者も本当は時代の流れに移ろって変わっていくはずの環境のことも、全部変えません

はじめに

物語は2年後へ移り、3年となった生徒たちはそろそろ卒業制作で忙しくなってくる頃。
そんな中このクラスの担任を続けている古宮はある提案を行う。

「ここにいるみんなで、リーグ戦やってみない?」

ショートショートな話が大量にあるシリーズです。
笑っても泣いてもこれが最後。創作譜面の世界を味わい尽くす16名それぞれの物語、そして波乱の結末をどうぞお楽しみください。

1回戦・準備

高砂 綾斗

予選・1回戦・2回戦の合計得点で勝負、突破できるのは8人
準決勝・一発勝負、突破できるのは4人
決勝・一発勝負、勝った人が優勝

このリーグ戦、実力の伴わない俺みたいな人に優しい設計になっているように思う。だって2度も譜面を出せるんだから。
変わらず下位で居続ける自分も、2度あるチャンスのどちらかで自分の最高を見せることができるから。

高速ボーカルロック、得意分野。8分前のアクセント、これも得意分野。抜かりはない。
それでもどこか他の人とは違うものを探している自分がいるのに、本当は気付いていた。
出来た譜面を幾度も幾度も見返して、自分に自信が持てなくなってくる。
本当にこれでいいのか?自分の創作に疑問を持ち続けて数週間、何も解決しないまま

提出期間を迎えた。

政 照美

次郎部にいたからこそ作譜技術では首席だったものの、今考えると油断ならない要素もあるように思う。
特にFelix・抄雪といった優等生組には抜かっていては瞬時に追い抜かれてしまう。

「まずはこのクラスにウケそうな曲を探すことから始めないと」
何がいいだろう?Future Bass?Hardcore?一番多くの譜面を見てきたからこそ、曲のレパートリーなら無限にある。

そうそう、この大会は相互評価だ。相互で評価するということは、各評価者の一番になれば1位は確実。
そうでなくとも全員から3位以内の評価をもらえれば1位は堅いだろう。
どのように評価されるかはつかめないが、取り敢えずミスの無いようにやるのが先決ではないか?
もちろん、テルルの”ミスの無いように”とは、音取り展開配色演出に到るまで全てを”曲のままに”遣るということ。
そして、誰にも邪魔されない、創作の世界を作るということ。

どんなに時間が掛かったって構わない。今出来る最高を対戦相手に届ける。次郎部でだって何度もそうしてきたではないか。

Felix

筆を置く、もとい、パソコンの電源を切った。
筆が乗らない、つまり、作譜が進まない。
過去最悪レベルの進捗を前にして締め切り3日前。ハッキリ言っていい結果が出るとは思えない……

「どうしたんだ、Felixよ」
話しかけてきたのは劉だった。彼について驚いたことは、この3年で信じられないくらい日本語が流暢になっていること。
普段は「どうしたんだ、Felixよ」なんて言わない。

「卒業製作が進まないんだよ」
「お前のことだから少し考え過ぎてんじゃないの?」
「それもそうか、だけど」
「本当にさ、作譜って結果が全てだから。何が伝わるんじゃなくて、何点がつくか」
「でも得点を貰うために小ネタ入れたりとかしたいし」
「それは本当に得点のため?」

そうか、これは本当の対戦なんだ。
それ以外のことなど最初から要らなかった。
全ては得点のため、それでいい。

それから曲を選び直した。自分のエゴを自分から抜けば抜くほどに、作譜はスムーズに進んだ。

南沢 旭

気にかけていること。
楽しさ?工夫?そんなの、どれだけやっても無駄だと思う。

気にしているのは丁寧に曲をなぞること。
なぞる曲が良ければ、譜面なんてAiModに直されない程度でいい。
曲だけが全てじゃないことは分かってるけど、みんなの好きな要素を受け入れたり、
他の人のことを考えた譜面を作るのは、無理だ。

「前に『お前はAiModの化身だな』って言われたんだけどさ。
これだけ不明確な評価基準の中で、唯一みんな見てる評価基準がAiModなんだよ。
ある意味、これが一番正しい評価基準だと思うんだ。」

笛口 音哉

「アレから二年か……色んなことがあったよな」
入学したてで突然連れて行かれた宿泊研修の、サバイバルレースで起きた出来事を思い出していた。

ーーどうしても憎めない譜面だけど、所詮は初心者の譜面の中に収まってるわ。

もう、あの頃交わした譜面とは違う。
愛梨がああ言った直後に見せたあの勝ち誇ったような顔も、全部消しとばしてやれるような強力な譜面が手元にある。

何しろ音哉はあの瞬間から、譜面の無邪気な側面を強化するのではなく、様々な技術を学んで本物の力をつけてきたと自負していた。
だからこそとても大きな自信があった。さあ、今こそ実戦のときだ!

菊池 優白

昔からプロジェクトの重さを測るのが苦手で、クリスマスの行事のある日にうさぎと遊んでたような私は、そのうち他人の言動からそのプロジェクトの重要度を確認するようになった。担任に”そもそもリーグ戦なのに複数リーグに分かれないでやるのってどうなんですか?”という話をしたら、そのくらい別に良いじゃんみんなの順位が見たいんだし、と言われた。大会に向けてどれだけ準備するかは、なんとなく担任の古宮から読み取る。そうして読み取ったある程度の重さを振り返ってみると、これまでの努力が少し空回ったとも言える。
「それなりに、ね」

古閑 抄雪

『@照』
2年の半ば、譜面交換のイベントがあったとき、テルルが使っていた名義。
わたしが使うにはまだ早いかな。追いつけるようになってから、使います。

「……っと。」
「さーゆちゃん!」
「わっ…… 」
「あ、驚いちゃった?ゴメンね、譜面どんな感じ?」
「……。」

いつからか、ずっとずっと繰り返してきて、繰り返すことにもとうに慣れたあの思考が、一度、もう一度、駆け巡った。
『できてるよ、そっちはどう?』

小倉 師音

過去の自分が嫌な史実の形をして襲って来ることが増えて、作譜は苦手じゃなかったけど、嫌いだった。
そして作譜の締め切りが近づくまで何もできない性分なのが嫌だった。
そんな嫌な自分と区切りをつけるため、卒業制作ではずっと前から譜面の構成を練り、いつ提出の合図があってもすぐに譜面を出せるようにしていた。

ただ、すぐに問題が発生した。
古宮が突然言い渡したリーグ戦のシステムによると、最低2回譜面を出さなければいけない。それもごく短期間で作譜を行わないといけない。
譜面を作るのに時間をかけるタイプには、苦行なんだ。

「部長いる~?」
「うん、もう部活はOBなんだから師音でよくない?」
「部長は部長だし……あのさ、卒業制作ってやった?」
「それが困ってるんだよね、作譜が遅いから間に合いそうになくて」
「遅いってことはその分正確ってことじゃないかな」
「その分正確……なるほどね」

宇都宮 優

「自分が絶対に間違っていない!なんて言えるわけじゃないから、これは一つの意見として、ね??
やっぱり持ち味は活かすのがいいと思う、自分にできることをした方が、きっとみんなも喜ぶし。」

創作って自分と向き合っていかないといけないけど、点数をもらうのならそれ以上に他人と向き合わないといけない。
それをあんまり気にせずに、自分にできることをする。これが優の答えだった、一年の頃からずっと。

『どうやって譜面を作るの?』に対して、『自分のできるように』だって。
いやーなんか振り返ってみても、私ってば甘すぎな感じするな。
何も考えてないわけではないんだけど、相手に何か余計なことを考えさせるよりかは、やっぱり楽しんでほしいって思ってるわけ。
こんなんだから毎回評価も苦戦するんだよね。

ヤベッ、何よりまず自分のことだわ。譜面作らなきゃ。

笹川 アイ

渡辺「や、本当に来るなんて。驚きを通り越してもはや尊敬。」
笹川「愛梨ちゃんの卒業制作、見たんですけど、とってもとっても良かったんですよ!」
笹川「作譜、教えてくれたら、嬉しいな」
渡辺「(ため息)なんで私に?」
笹川「それは、その・・・旦那様を、アッと驚かせたくて!」
渡辺「やっぱりそうなのね。でも卒業制作は自分のためのものでしょ?」
笹川「旦那様を驚かせることが自分のためになる......と、思う」
渡辺「...えっ?ちょっとゴチャゴチャしてない?」
笹川「ごめん、少しわかんなくなってきたかも。ジャマしてごめんね、ありがと!」

私が笹川の力になる筋合いは今のところないから、放っておくことにするけど...
それにしても、例のイメージとは違って意外と話しやすい人だった......でも、面倒だし放っておくわ。

枝川 浩行

さあ、時は来た。1回戦で突如として現れたダークホース、枝川 浩行がぶっちぎりで1位を獲得すると、出場者たちは愕然としている。
「枝川ってこんな譜面作れたの!?」「どうやって枝川に勝とうか……」「枝川~」
どよめく周囲をよそに、譜面の反省を行う。ここは別の音をとっておいた方が良かったかも、ここは縁と比べて面の方がもっと綺麗だったかな……

『枝川~?戻ってこーい』

「ぐわっ!」
「お、起きたか。授業就寝カウント2だ、次やったら罰ゲームで生物室の水槽の水換えだぞ~」

夢か……
クラスメートたちがくすくすと笑っている……
いや、昨晩は遅くまで譜面を練っていたからこうなってしまっているだけだ。
独創的を突き通せば突き通すほど、譜面はどんどん鋭利になる。それが楽しくて楽しくて、昨日は遅くまで……
なぜ就寝カウントが2になったかって?今日が提出日だったからに違いない。まあ、今日こそは早く寝ればいいだろう。

想良 雪姫

安定を極めると言えば聞こえはいいものの、実際やってることはただの平凡な作譜に過ぎなかった。
誰から見ても75点であればまず1回戦は突破できるし、77点あればたぶん準決勝も大丈夫。
決勝、、、まあ、そこまで行ければ万々歳。でしょ?

「作譜スタイルについて何か一言、ね。少し難しいけど、こうしましょうか。『譜面も優等生の鑑』なんてどうでしょう?」

できれば見られたくないのは内面のこと。
私は、外側の私━━生徒会でもあった、優等生の私 だけ見られていたい。
元々あったリストカットの癖は少しずつ収まってきたけど、完全には治ってないし、そんな中途半端で脆い私の内面なんて、絶対に見せたくない。
だからこそ、外側がよく出来た、安定した譜面を作らなければいけない、ってこと。

桜庭 涼介

「や、苦手なんだって、本当だよ?信じてくれよ」
誰にでも得意・苦手があるように、俺は作譜が苦手だ。
人よりできる自分に特に意識を向けなくてもいいように、
人よりできない自分がいても、特に何も思わない。

ただ、得意があって、苦手があるだけ。そう思っていたんだけど...

「じゃあ自分が得意な曲で作れば良くない?」

あの幽霊め、一々口出ししてくるのも怠いっての。
そもそもお前に何がわかる みたいなこと言ったらもう十数回卒業制作をする人々を見てきたと話す始末。
年齢と見た目がまるであっていないあたり、幽霊は相も変わらず恐ろしい、と書いて締める。

近江原 丞

みんな何かを思い出して感慨に浸りながら作譜しているという話を聞いた。
そうだな、俺の根底にあるモノといえば・・・

中学の時まで遡り、その時見た高校軽音の存在だった。
ダラダラと高校3年まで活動続けてきて、今ものんびりドラム叩いてるけど。
間違いなく”あの頃憧れた軽音部”にはなれなかった、と思う。

誰の中にも憧れがあるとして、俺の場合は先代軽音がそうだった。
ビジュアルもさることながら、キレのある音と歌、もはや格好の良さが次元を超えた人たち。
もはや高校生とは思えないあの迫力を、昔の自分はビデオテープに納めていた。
何度見ても気持ちの引き締まる映像だった。よくやったな、中学生の俺。

さあ作譜をしなければいけない。そもそも作譜は、音を聞く競技だと思ってる。
バンドのスコアなんかもそう、音を綺麗にすることが大事だ。音楽があって、譜面があることを考えながら、丁寧に丁寧に作譜する。

森 薫

「あ、これって……」
『この辺りには、多いんだろうね』
「モズの早贄……だよね」
『鳥を見にきてると、こういうのも楽しみだよね』
「そうだね。モズはこんなふうに餌を枝に刺したりするけど、よく忘れちゃうんだって。わすれんぼさんだよね」
薫がそう言うと、抄雪はクスッと微笑んだ。
『冬を越えても残ってるし、保存状態が良いよね』

モズに置いていかれたバッタやカエルを見てると、寂しい気持ちになる。
あの子たちが作った虫の串刺しは、あんなにも長持ちしてるのに、
肝心のモズは帰って来ないんだから。

「私も、モズみたいに、なにかを上手く作れたら良いのにな......。」

谷城 智夏

智夏「あ、おりょうじゃん?リーグ戦、調子どう?」
涼介「別に」
智夏「またまたそんなこと言って、良い譜面が出来たけど見せたくないとか?」
涼介「知ってるだろ、俺の譜面はお世辞にもいいとは言えないってことをさ」
智夏「知らなかったわけじゃないけど、こうやって次郎の時間も斜に構えてるおりょうならもう余裕なのかな~って思ってさ」
涼介「そんなことないさ」
智夏「ふーん。ま、お互い楽しもうよ!」

......。
ホントは自分の譜面の出来だけずっと気にして延々作譜を続けてるような人なんだ、私。
今までの私って熱い人じゃなかったし、負けてもいいって思い込んでたけど、
「作譜は対戦ゲーム」だ、その上で「智夏はきっと上手くなるよ」って、あの次郎さんから言われてる。
ここまで勝てる力があるのに、本気を出さないわけがないよね。

1回戦・提出譜面

  • Berry Go!!
  • Bhutesha
  • Caterpillar
  • DRAGONLADY
  • DropZ-Line-
  • Enigma Helix
  • Sparking Girl
  • Strahv
  • 宛城、炎上!!
  • 怪物
  • カタリスト
  • 教育
  • 疾走あんさんぶる
  • その群青が愛しかったようだっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただった
  • プラネタジャーニー

1回戦・評価

谷城 智夏 / 時々、異次元

(銭湯の女湯。客の入りがそこそこ良く、湯の流れる音が鳴り続けている。すでに茶髪の女の子、照美が湯船に浸かっている。金髪の同級生、もとい智夏が入ってくる。)

智夏「・・・あ」
照美「あ」
智夏「テルルじゃん?どうしたの?」
照美「別に、どうも・・・?家の浴槽、壊れたけど」
智夏「そうなんだ~」

(やけに声がエコーしている)

智夏「あのさ。リーグ戦だけど、どう?」
照美「もう一通り点数はつけたけど」
智夏「いい譜面とか、あった?私はこれが良かったなっていうのあったけど」
照美「うん、『カタリスト』なんか良かったんじゃない?」

(照美、体制を変える。智夏、露骨に焦る。)

智夏「カタリスト、ねえ。良かったと思うよ、私も全部見たけど、『Bhutesha』って譜面が好きだったかな~なんて」
照美「そうなんだ。あれも結構いいよね」
智夏「そう、だよね。はは......ところでさ、その」
照美「うん」
智夏「名義、なんだけどさ」
照美「名義、それって私の?あのアットマークのついた名義のこと?」

(智夏、静かに頷く。)

照美「別に、大した意味じゃない。」
智夏「そうなんだ、じゃあ...」
照美「だから、力を入れてた自信作を出すからとかそういう理由で、真似されても別にどうも思わない」
智夏「え、あ~...。そう、なんだね」

(しばらくの沈黙)

照美「智夏、力入れてたもんね」

枝川 浩行 / 伝える・伝わる

想像力は豊かな方だった。だから、譜面から何か情報を読み取って、譜面のテーマくらいわかるんじゃないかな、とか思ってた。
だから実際に譜面を目の当たりにしたとき抱いた思いはむしろこんな感じだった。
「何、これ...?数字の羅列じゃん?」

見れども観れどもわからないテーマ。本当にこれは何?

自分の譜面は自分で作ったから語れないはずがない。テーマは”虚”、現実でないものを映すために様々な面で尖った配置を置いたり綺麗だけど不自然な世界観を演出したりしたんだ。
でも、このような工夫、他人の目からじゃ全くわかるはずがないな。こういうのをなんて言ったっけ、授業でやったはずなのだけれど・・・
ミスコミュニケーション?いや、譜面は元々何かを伝えるために作られていない。そこまで考えて思考は止まった、あれ?俺は<何かを伝えるために作譜している>のだろうか?

まあともかく、何かを伝えるなら際限なくわかりやすい方法が良いだろう。そしてそれは並大抵の作譜力ではうまくいかないことを知っている。

高砂 綾斗 / 勝者の論理

『カタリスト』という譜面と、自分の譜面とを見比べては、やっちゃったなと一人呟く。

自分の得意だとしていたロックの要素・8分音符一つ分前から始める要素・その他の要素ほぼ全てが被っているうえに、自分の譜面よりも明らかに優れているのが、この『カタリスト』だった。
サビ入りなんて同じ配置にあっちは加速演出が乗っている、どちらが良いかなんて、明白...。
まさか自分の選曲に寄せたなどとは思わない、現に自分の提出がギリだったんだから。あくまでこれは、良い譜面を作る人が強いとか、譜面さえ強ければ弱い譜面を食らいさえするとか、そういう次元の問題で、決して相手に非があったとは言えないし。

「悔しいな」
何が悔しい?相手の地力まで行けていないこと?一策が通用しないほどの作譜力の差があること?それとも、何が足りないのかすらわかっていない自分に?
勝てないことがわかった俺たちは、どうやっても勝てないままなんだろうか。これが、”勝者の論理”なのか。

南沢 旭 / 一匹狼

『南沢は一人で全部やるから』
クラスメートの書き置きを眺めていた。
ここで書いてある一人で全部やることは、何も音ゲー歴史の授業で行うグループ課題を指しているわけではない。
ただ、個人戦である譜面大会と、それに関連する全てを指しているだけである。

そしてそれは、あくまで個人戦であり、いわゆるレイドバトルのように仲間と協力する要素なんて一欠片もない。
こっそり譜面を合作していただなんて言ってしまえば不正だし、長い次郎勢学園の生活でそんなことをする思いつきなんて誰もしないと思っていた。
だから、あのとき古閑が書き残していったこの一行には、とにかく疑問を感じるばかりだった。

━━━━━

「ただ思ったんだ、上位はどれも同じような譜面なのに、それでもはっきりと結果が付くからもうわからないなって」
しばらく目線を手元に落とした古閑は、いつものように鳩にメモを運ばせた。
「・・・一つ一つ違う譜面?そうなのかもしれないけどね、まあまず出来栄えで似てることは確かだよ」
言い終わらないうちにまた手を動かし始める。この空白の時間は苦手な時間の一つだ。
「他の人が好きなものを知らないから?そんなはずはない、譜面は得点だってお気に入りだってそれなりに取れてるし、しっかりわかってるはずよ」
最後に貰った紙には、こう書かれていた。
『南沢は一人で全部やるから、私たちにとっての良さを知らないだけ』

1回戦・結果

全部見る

古宮「9位はStrahv、枝川の譜面!!」

  9位・Strahv / 枝川 73.000(1095) fav.6

枝川「は~~~???」
笛口「ウッソだろおいw」
古宮「これで、暫定準決勝進出ラインが決定したことになったぞ!おめでとう!!」
みんな「「「おめでとう!」」」

結果発表が盛り上がっている・・・
涼介「しっかしすげえな、ここまで残ってる奴は...」
優「テルルとさゆちゃんは残ってるでしょ、あと智夏ちゃんと雪姫ちゃんも」
Felix「俺も残ってるぞ、師音に近江原も」
南沢「あと一人は誰だ・・・?」

智夏「あと一人、あと一人・・・あ!なんざわだ」
南沢「俺でした~~~w」
(最初からそう言えよ・・・)


古宮「8位は滅、近江原の譜面!!」

音哉「ああああああ一番好きだった」
近江原「なっ・・・もうちょい耐えると思ったのに」
涼介「これで・・・。」
アイ「どうしたのだ?旦那様もう出ちゃったよ?」

涼介「や、そうじゃなくて。これで軽音、全員出ちゃったなって」

  8位・滅 / 近江原 74.067(1111) fav.3
  10位・宛城、炎上!! / oto 73.000(1095) fav.3
  13位・DRAGONLADY / 桜庭 70.133(1052) fav.2
  15位・疾走あんさんぶる / 薫 67.267(1009) fav.1
  16位・教育 / アイ 65.667(985) fav.2

アイ「アイなんか一番最初に出ちゃったし!」
枝川「なんかここまでくると音楽してる方が作譜苦手まであるな・・・」
近江原「うるさいな~、、、」


  6位・Berry Go!! / 雪姫 75.733(1136) fav.2
  7位・Caterpillar / 師音 74.933(1124) fav.2

雪姫「ねえ」
師音「ん?」
雪姫「なんか順位出た時の師音、悔しがるってよりホッとしてなかった?」
師音「えっ?ああ、まあ。ホッとしたかな」
雪姫「ちょっと、わかるかも。上に入りすぎなくて良かったって感じ、するな」

師音「テルルとか智夏、自分がこの辺で出そうだとかまるで思ってなさそうなのがね」
雪姫「なんか、少しだけ・・・怖いよね」


古宮「5位はその群青が愛しかったようだっただっただっただっただっただっただっただっただった
誰かさん「おもろすぎ?」
古宮「うっさいわ!、なんざわさんの譜面!!」

音哉「曲名がなあ・・・w」
綾斗「名義もオモロいなあ、なんざわて」
南沢「やめろやめろう」
優白「w」
南沢「あ、今笑ったね?w2回戦は覚悟してろよマジでw」
突如指を刺された優白はハッとした様子で、
優白「あ、え、あの、はい」
「「「wwwww」」」

緊迫感のあった教室が、一瞬だけ笑いに包まれるこの時間。17人全員が、好きな時間。

  5位・その群青が愛しかったようだっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただった / なんざわ 76.600(1149) fav.2
  12位・DropZ-Line- / ましろ 72.067(1081) fav.2

古宮「4位は怪物、古閑の譜面!!」

枝川「あ~~~怪物出たか~これ良かったよな~~」
涼介「ほんと、めっちゃいい譜面だった」

次第に、クラスの視線が抄雪の方へ集まる。
抄雪はゆっくりと目を瞑って・・・そして、ふう、と息を整えた。そのまま数秒...すると静かな教室に不意に声が響いた。

照美「次、そろそろ出るわよ」

視線は再びボードの方へ。

置いてあったメモ:『何も話すつもりはなかったし、理由もないので話さない。私は、それで良いんです。』

  4位・怪物 / 抄雪 76.733(1151) fav.7

智夏(耐えろ耐えろ耐えろ・・・)

古宮「3位はカタリスト、うーんこれはなんて読むか」

智夏「うわーっわわわ」
優「名義露骨すぎ~でしょ、でもすごい譜面だった!」
智夏「ほんと?ありがと~ここまで残れて良かった...!」
綾斗「わーカタリストここか、完全にやられたから優勝かと思った」
智夏「ほんと?嬉しい、さっきも言ったけどスパーキンガールも良かったよ!」
優「めっちゃ被ってたからね~でもどっちもすごい譜面だったな!」

  3位・カタリスト / @智 79.200(1188) fav.5
  11位・プラネタジャーニー / 宇都宮 72.200(1083) fav.0
  14位・Sparking Girl / 高砂 68.800(1032) fav.1

古宮「残るはあと2譜面、Bhuteshaか、Enigma Helixか・・・先に流そっか」
「「「いいね~~」」」


古宮「優勝を発表します!優勝は・・・」
南沢「頼む俺来てくれ!」
Felix「お前...っ」
古宮「優っw 優勝は!

Bhutesha!テルルの譜面です! 」

  1位・Bhutesha / @照 81.467(1222) fav.6
  2位・Enigma Helix / Enigma Felix 79.667(1195) fav.6

Felix「あ~~~~~~!81.467!?」
音哉「81点やばい!!!!」
枝川「え81.467????まじか~すげえ!」
智夏「うわーーーーおめでとう!!」
優「おめでとうテルル!」

照美「ありがとう。なんとかひと段落、優勝できた。」
智夏「えーなんか怖いよテルル~?」
南沢「そうだよ全く~」

結果まとめ

1位・Bhutesha / @照 81.467(1222) fav.6
2位・Enigma Helix / Enigma Felix 79.667(1195) fav.6
3位・カタリスト / @智 79.200(1188) fav.5
4位・怪物 / 抄雪 76.733(1151) fav.7
5位・その群青が愛しかったようだっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただっただった / なんざわ 76.600(1149) fav.2
6位・Berry Go!! / 雪姫 75.733(1136) fav.2
7位・Caterpillar / 師音 74.933(1124) fav.2
8位・滅 / 近江原 74.067(1111) fav.3

準決勝通過ライン

9位・Strahv / 枝川 73.000(1095) fav.6
10位・宛城、炎上!! / oto 73.000(1095) fav.3
11位・プラネタジャーニー / 宇都宮 72.200(1083) fav.0
12位・DropZ-Line- / ましろ 72.067(1081) fav.2
13位・DRAGONLADY / 涼介 70.133(1052) fav.2
14位・Sparking Girl / 高砂 68.800(1032) fav.1
15位・疾走あんさんぶる / 薫 67.267(1009) fav.1
16位・教育 / アイ 65.667(985) fav.2

2回戦・準備

森 薫

感想を見たら、譜面全体の修正、部分的な修正、抽象的なものから具体例が書いてある修正まで様々な修正点が並んでいた。
音哉くんだったら感想を見て譜面を直す、なんてこともできるかもしれないけど、どうしても私には。
「辞退したい?」
「......はい」
「それはまたどうして」
「感想を読んで......譜面作る気がなくなっちゃったんです」
「疾走あんさんぶるに付いてた感想か。うーん、そうだな......あのさ、『理由』って、わかるか?」
「理由、ですか?」
「例えば、俺が森の譜面に75点を付けるとする。そうしたときに、75点を付けた理由っていうのを感想に書くんだよ。
75点をつけるっていうところはまず感覚で決めているのに、どうして75点の感想を書かなければいけないんだろう って思わないか?」
古宮は感想と得点が一致しないといけないから、得点の低い譜面にはそういう感想が集まるという旨のことを言っている。
「ポイントはそこで、感想には人がどう思ったかが書いてあるわけじゃなくて、その点数がどういう経緯で付いたのか、ってことだ。だからさ、あんまり気にしすぎんなよ」
古宮はそう言ったものの、だからといって感想への向き合い方を変えることなんて出来ない、私には、できない。

菊池 優白

「あ、それサヤエンドウだから、剥かないで食べてな」
「......うん」
また今日も、近江原の家にお邪魔している。音のしない場所にいると、心まで見られているような感じがするから、どうしても。それで、当然わかっていたこと、近江原はこう切り出す。
「リーグ戦のこと、どう?」
どう答えるか?1回戦、なんとなく気を緩めて作ったら普通に負けてしまって、嫌な気分になった。でも、8位で譜面が出た瞬間の近江原はこれ以上ないくらい悔しそうで、本気になっても良いんだって思った。
「今から作譜していい?」
「今から、え!?」
「ちょっと悔しいから、ちゃんと作譜したい」
「良いけど、飯終わってからにしてくれないか」
あ、そっか。これは近江原が作った料理、ここは近江原の空間、人の料理は美味しく食べることがマナー。17と18にもなる私たちがいまだに料理と数度の外出しかしてない関係なのは、たぶん私のこういうところに原因があるんだろうな、なんて申し訳なく思いながら、多分明日もまたここに来る。

笛口 音哉

「譜面の大会なんだから、譜面の良さで決まるじゃん?まったく、なんざわくんは~」なんておどけた口調で返したら、南沢はこう返してきた。
「もちろん真面目よ。」
漫才?いや、じつはコイツと本気で意見が食い違っている。南沢曰く、選曲が一番大事でその他はぜんぶ付属なのだと思っているらしい。譜面が曲の化粧だと言う意見も聞いたことはあるが、正直なところ俺はそうとは思わない・・・。
1回戦では点数に関しては負けていたものの、譜面で見ると南沢の譜面に劣らない出来だったとも聞いているし、実際かなり高い得点を入れてくれていた人もいた。何より、今でもまだ俺の宛城炎上はいい譜面だったと思ってる。

しかしそこは譜面大会、結果が全てだということは一番言われているのだ。
譜面大会への取り組み方は次郎の授業でやった通り。他の人の感想までしっかり見ること、生かせることはどんどん生かすこと。
さあここからが本番だ、逆転劇を見せてやる!

宇都宮 優

負けた人には「これここで出るのか~」が最適解で、次が「いい譜面だった」。
でも私の譜面が出てきたとき、そういうのは特になかった。多分プラネタジャーニーは本当に順位通りの譜面で、お気に入りも一つもついてない、誰からも好かれない譜面だってことなのかな、なーんて。

いや、これ冗談じゃないな。まずは自分がどういった譜面が好きなのかから知らないといけないし、そのためにDigを繰り返すべき時期は当の昔に終わっちゃったし。

「そういえば、2年の時に有名な譜面分析するやつやったよね?あの時何したのか教えて貰ってもいい?」

2年の時にやった譜面分析......その時は確か、『コネクトカラーズ』で試した。私はその時の流行が選曲に出ちゃう人だから......。結局譜面にある意図なんてものは一つもわからず終いで、運手がどうとか、配色がこうなっている、みたいな解説だけして、「楽しいですね」みたいな感じ。
今も前と同じまま、譜面語なんて何もわからないし、わからなくても楽しい。だけど、綾斗はどうなんだろう。真っ直ぐ目を見て問いかけると、すぐに目を逸らした。

「ごめん、優、この話やめない?どんどんネガティブになってく気がするし。」