小説/4話「教師に罰を」

Last-modified: 2020-05-30 (土) 00:49:27

4話「教師に罰を」

著:てつだいん 添削:学園メンバー

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教室を飛び出した古宮先生を、生徒たちは一斉に追いかけた。もちろん授業中である。授業中である。授業中である!(大事なことなので3回言いました)
静かだった廊下を、逃げる先生を先頭にドタバタと走り抜ける。
「オラァ待てああああああああ!」
「ふんぐゃああああああ!?」
追う側も追われる側も、わけの分からない声を発しながら走る。
授業中の学校をである。授業中の学校をである。授業中の学校をである!!!
階段を駆け下り、下駄箱に向かって突っ走っていく。さては、このまま学校から逃げる気だな!?そうはさせない。校舎を出てから門までは直線だ。ここなら足の速い生徒が追いついて捕まえられる…!

 

「逃がさないですよセンセーーーーーー!!!!」

一心不乱に先生を追っている生徒が一人。
はっや。
その後ろ姿は一瞬で誰のものか分かった。
俺の前の席の、小倉だ。

「何!?簡単に追いつかれただと!?馬鹿なっ!折角めっちゃ速く走れる靴定価4万円のやつ買ったのにィィィ!!!」
ぼったくりじゃねえか!
靴だけで4万円とか流石にないわ!new balanceもびっくりだわオイ!
てかそんなん値段見るだけで分かるだろ...何故買った...
「先生!!!奢らないと1週間ムカデと同居の刑に処しますよ!」
「うわあああああ!!やめてくれ!奢るから!奢りますからあああ!」
意外とSなんだな...
あっ、そうだ今授業中やんけ。忘れかけてた。他のクラスの窓辺から視線を感じる。ぼくたちわるくないよ!せんせいがわるいんだもん!
「...先生も大変だな」
涼介が呟くように言った。
「ああ...」
事情聴取やらなんやらあって、結局授業をすることなく昼休みの時間になってしまった。

 

「あーうまかった」
「食堂のかき揚げうどんはやっぱり絶品だな」
「特に他人におごってもらうかき揚げうどんはな」
昼休み。どうやら学校内のゲーセンが開いているらしいので行ってみることにした。(学園内にゲーセンがあるってどうなってんだよ)

 

「にゃー」

 

「ん?猫?」
「どうした音哉」
「あー、ごめん涼介、先行っててくんね?」
「おう、わかった」

 

なんださっきの猫は...
なんで学園内にいるんだ?
...ついていってみるか

 

「にゃー」
それにしても猫の割にこの迷路のような学校を迷いなく歩っている。まるで人間のように、だ。
向かった先は校庭だった。
うさぎ小屋方面に向かってるな...
「にゃー!」
小屋の前に着くと、うさぎがぴょこんと出てくる。
もそもそ…
「にゃーにゃに。にゃにゃーにゃ」
猫はうさぎに話しかけるように鳴いている。
うさぎ(コクッ)
!?!?
うさぎが頷いた!?
確かに偶然じゃない。猫が鳴き終えるたびに、こくっと顔を動かすのだ。かわいい……
じゃなくてじゃなくて…… まさか、会話が通じている…? いや、そんなわけないかw 人に飼われている動物は、自然と人間の仕草を覚えるというし、このうさぎも頷く事を覚えたのかもしれない。だとしても頭のいいうさぎだなオイ()

 

「おーーーーーい音哉ーーーーー」
あっ涼介。待たせてたな...
「ごめん今行くわーー」

 
 

涼介に付いていくと、本当に学校の中にゲーセンがあった!ポータルから行けるあのゲーセンよりは小さいものの、音ゲー一式はある。その他はエアホッケーとかUFOキャッチャーとか、スペースが空いたので置いてみたと言わんばかりの物がいろいろ……
俺はjubeatと書いてある四角をメインにした筐体へ向かい、100円を入れた。涼介はDDRの方へ向かったようだ。
俺は近くに置いてある紙を読む。下を見る限り、この学園お手製のパンフレットのようだ。
「うんうん...光った瞬間にパネルを押す...要は音ゲー版もぐら叩きか」
俺はパンフレットを放り投げ、さっそく曲を選ぶ。とりあえず、アニメジャンルを開いた。
「えっと…勧められた『アレ』はどこだろうか」
実は古宮先生がどうにかなっている間、宇都宮から勧められた曲があった。せっかくだからそれを探していたのだが…
「えっと、えっと…あった」
これだ。
「Daydream café」である。かなり有名なアニメだからこれくらい知っとかないと駄目だよと言われたので、知っておいて損はないだろう。…それにしても、デモを聞く限り、宇都宮が好きそうなアニソンだなぁ…
いろいろな事を考えていたら、既に1曲を終えた涼介がこちらに来て
「おっ?ごちうさかー、いいな」
と言ってきた。
「ん?ごちうさ…?」
「このアニメのタイトルだよ、『ご注文はうさぎですか?』」

 

びくっ
「う、うさぎ!?」

 

ゲーセンの外から、聞き慣れない声がした。
「うさぎ!?」「うさぎ…??」
その声はだんだんと近づいてきて、ついにはゲーセンの中にまで入ってきた。
「ねえねえ今うさぎがどうとかっていわなかっt…」
「オイオイオイオイ勝手ににげてんじゃないわよー!!」
後ろからさらに別の女子が来て、先に来た女子をガシッと掴んで退場した。
「ねぇちょっとやめてよ!うさぎの話してたみたい!聞きたいよぉ」
「勝手に校内に入ってきちゃ駄目でしょうが!」
「じゃあなんでノヴァちゃんは入っていいの?リンだって一応任務を任されてるんだよ…?」
「し~っ!!声が大きい!!」
「いやだってさ…」

 

ゲーセンから離れていく女子二人の声はだんだんとフェードアウトしていった。
結局なんだったんだろうか。話している内容はよくわからなかったし、最初の子はうさぎに妙に反応していたし。

 

「ってまずい!!気づいたら曲始まってんじゃん!!」
「あー、やっぱりそうなると思った」
DDRをプレイしながら涼介が言う。あいつはこうなることが分かっていたっぽい。
いいや。途中からでもプレイするか。

 

初めてということもあり、一番簡単な難易度を選んだ。案外いける。簡単だ。
いやー、もうひとつ上の難易度でも良かったかもしれないなー、なんて思いながら譜面を遊んでいると、今度は別の人間がゲーセンに飛び込んできた。
「ごちうさ!?ごちうさだって?え!?えええ? おーーーーーーーwwwごちうさだッハッハハーww俺大好き」
隣を見たら古宮先生だった。なんでや!説教されて反省してたんじゃなかったんかいな!それに何だこの食いつき方は!どうやら、このアニメは相当のファンが居るらしいな…

 

とりあえず一曲終わった。最初からきっちりプレイできなかったし、同じ曲をもう一度遊ぶか。
「あ、あの古宮先生?古宮先生もこれ好きなんですか?」
「このアニメは神だよ?これ知らないとか本当にやばいから!あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」
「えぇ。。。」

 
 

その後"ごちうさ"の魅力をめちゃくちゃ語られたが、20分後の今は言われたことを半分以上忘れた。興味の無い人に自分の趣味をどかどかと押し付ける。これがオタクやマニアの一番やってはいけないことだ。少しずつ勧誘するように近づけていくのがベストなのに…

 

昼休み終了のチャイムも相変わらず意味不明である。今度は「三倍アイスクリィィィィィム!!」とか言ってるし、その声が鳴り終わったら放送で「今のはチャイムです」とかいう補足が入るし、だったら普通のチャイムにしろ()
さて、これから5時限目だ。今度は…数学だ。
教室に戻って、勉強道具の準備をする。皆もだんだんと席につき始める。ざわざわと噂話が聞こえるが、数学の担当の先生について話しているらしい。周りから「数学は誰なんだろうな」「スパルタは嫌いだ」とか「数学の熱血指導は楽しいぞ」とか、いろいろな声が聞こえる。
俺はそこまで気にしていない。別に先生が誰であろうと、俺は構わない。この学校はもともと狂ってるから、どんな先生が来ようとも動じない……………………はずであった。

 

ガラガラガラガラガラガラガラ…

 

「は!?」
「え!!!?」
「あぁ!?」
「おーい、座れ座れ―授業はじめんぞー」

 

「「「「古宮先生!?!?!?」」」」

 

皆が声を揃えて驚きの声を上げた。
「あ、ああ。あれ?言ってなかったっけか?この学園は先生があまりいないんだ、だから俺はこのクラスのほとんどの教科を担当するんだ、例えば社会だろ?数学だろ?国語だろ?それから…」
皆の顔がだんだんと絶望に変わっていく。こんなまともに授業ができない教師と毎日ほぼ毎時間授業をやっていくのかと、絶望のドン底に落ちていくのが分かった。
「え?どうした?そんなに俺のことが嫌いか?」
「「「「(はい嫌いです)」」」」
皆が心の中で呟いた。
「先生、数学はきちんとできるんでしょうねぇ」
小倉が声を上げた。
「そうですよ、また1時限目のような授業になるんじゃないですか?」
隣の席の森でさえ反論の声を上げた。
「そうだそうだー」「数学できんのかよー」
そこら中からやじが飛んでくる。古宮先生大ピンチ!!
「安心しろ!お前ら。これでも俺は小学生時代の算数は優等生だったんだぞー」
「で?中学は?高校は?」
フェリックスが核心を刺すように言葉を放つ。
先生は言葉に詰まった。どうやら中学以降の数学は無理なようだ。

 

これはまた面倒なことになりそうである。
「はぁ…」俺は思わずため息を付いた。

 

その時である。生徒の一人…近江原って言ったっけ…が、大きな声を上げて言った。

 

「提案があります!
逆に俺たちが先生に数学を教えるというのはどうでしょうか!」

 

「!?」
俺はびっくりしたが、最高のアイデアではないか。
「そ、それいいアイデアじゃないか!」
「これは面白いことになりそうだ」
隣の涼介も賛成らしい。
「え、えええぇぇぇぇ・・・」
さっきまで自慢げに話していた古宮先生は表情を一気に変えて弱った顔をしていた。
「いいですよね??先生??」
宇都宮の明るい声がとどめだった。
「ふぐっ…ぐっ……そ、それは……そ、それは……」
いや、先生はまだ諦めていないようだ。
「やはり駄目だ!俺はお前らに数学を教える!わかったな?」
「いや理解できません」「全くだ」「先生という名の生徒じゃね」
またやじが飛んだ。
すると今度はフェリックスが喋り始めた。
「わかりました先生。ならこうしましょう。我々が先生に数学の問題を出してみましょう。ふふっ、大丈夫ですよ。俺たちだってまだ中学卒業程度の能力しかないんですから。そんなに難しい問題は出せない。でも・・・?古宮先生はどうなんでしょうねぇ?中学レベルの数学くらい、普通に解けますよね???」
最後になるにつれて声が強くなっていった。これに対し、古宮先生は…
「い、いいだ…ろう。そのくらい余裕だろ。ほら、問題、出してみろよ。10秒で解いてやんよ」

 

「(おいフェリックス、ここはあまり難しくないのを出してみろ)」
「(わかった)」
何やら作戦会議までされているようである。
「それでは問題。7cmの辺と9cmの辺で直角が作られている直角三角形があるとする。この図形の斜辺の長さを答えよ」
「え!?7せんち??9せんち??え?えええ?」
古宮先生は小学生のような声を出して考え始めた。いや、そこまで悩む必要あるかよ。そんな難しくないぞこれ。
既に10秒経過している。じれったい。早く答えを言ってくれ先生。
「わ、わわわわ、わ、わわわかったぞフェリックス!」
先生はめちゃくちゃ動揺している。だめだこりゃ。
「こ、ここここんな問題簡単だよな。へへっ」
「じゃあ先生、答えをどうぞ」
「こ、答えは……」
……。
……。
……。
「ズバリ!!3.14だろう!!」

 
 
 
 

「「「「は?」」」」
また声を揃えて皆が言った。
「はwwwwぶはっっははははwwwwwwwwwww」
誰かが大爆笑し始めたら、周りもだんだんと声を上げた。
「まじかおいwwwwwwwwwww」
「先生、中学の数学が解けないのwwwwwww」
「俺、あとで学級新聞でも書くか?タイトルは『【悲報】古宮先生、中学の数学が解けない』ってなwwwwwww」

 

先生は唖然としている……完全に思考が停止している。
「ということで先生、やっぱり教師と生徒の関係は逆にしないといけないみたいですねwww」
「教師16人に生徒1人…個別指導どころじゃないぞこれwwwww」
「ううううう………」
古宮先生は自分の弱点を突かれたようで、小さく縮こまっている。
この後、古宮先生は数学を学んだ。とりあえず今回フェリックスの出した問題は解けるようになったみたいだ。

 

6時間目は国語だったが、相変わらず担当が古宮先生だったので、立場を逆転して俺たちが先生に勉強を教えることとなった。
今日は大変な一日だった。面白いと言っちゃ面白いが、まさか勉強を教える側になるとは思ってもいなかった。
2日目の授業はこんな感じであった……