小説/11話「他学年」

Last-modified: 2020-04-26 (日) 17:26:55

11話「他学年」

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作:てつだいん 添削:学園メンバー

さて、学園の高校1年生メンバーは宿泊研修を存分に楽しんでいる(?)ようだが、そのころの学園の様子はどうなっているのだろう。
今日は少し視点を変えて、先輩と後輩……つまり、他学年の生活を見てみよう。

 
 

志熊「これお願いします」
亜弄使「はい。まいどあり~」
望月「……。じゃあ私はロコモコ弁当を」
亜弄使「はい、400円ね」
望月「……。今5000円札しかないのでこれでお願いします」
亜弄使「了解~。はい、4600円のお釣りと、はいこれどうぞ」
志熊「ロコモコ弁当なんてあるんですか……メニューになかった気がするけど……」
望月「……これ、裏メニューなの」
志熊「裏メニュー……?」

 

……と、購買の前で会話をしているのは、高2の志熊と高3の望月、そして購買のお兄さんである亜弄使だ。
(前回の登場よりかなり空いてしまったので再度解説)

志熊 准(しぐま じゅん) 音哉の先輩。パッと見可憐な少女だが、立派な男性である。いわゆる男の娘である。普段は明るく大人しいが、怒るとかなり怖い(静かなる憤怒)が、怒っている姿を見たものは両手の指で充分に数えられるほど。

望月 勇希(もちづき ゆうき) 名前だけだと分かりづらいが女である。高3。黒髪でショートヘア。その容姿から1年生、時には中学生に見間違われることもある。自分の世界を大事にするタイプ。関わって来ないでと言っているわけではない。近づいてきた人は、まず受け入れることを心がけている。

亜弄使 次郎(あろうづか じろう) 学園の購買をやっている。大3(3浪)。自由気まま。
自分の意志で留年しているため、いつでも卒業できる状態。
アイマスクのような仮面(?)をつけている変わった人。
隣によく来るインド人の店とはライバル関係。

亜弄使「そうそう、ここだけの話、裏メニューがあるんだよ」
志熊「その話、もっと聞かせてください!」
亜弄使「裏メニューっつっても、さっき言ったロコモコ弁当とタコライス弁当しか無いんだけどね。常連にしか教えていない特別メニューだ」
志熊「じゃあ私も今日から常連ということにしてほしいです」
亜弄使「ハッハッハ、それは嬉しいねぇ。知られてしまったら仕方ないか。その代わり、隣のカレーだけじゃなくて、僕の店にも定期的に寄って欲しいなぁ」
志熊「はい。私はカレーよりもこちらの方が好きなので」
望月「……私も、亜弄使さんの購買の方がお気に入りですね」
亜弄使「有難いなぁ。これで僕の店も大繁盛だ。隣のカレーに勝てるかもしれない」
亜弄使はインド人のカレー屋に相当なライバル心を抱いているらしい。
志熊「私も周りの人に広めておきますから」

 

亜弄使「あっそうそう、君、確か志熊准さんだよね?」
志熊「あっ、そうですが」
亜弄使「あの…… 言いづらいんだけども、ひとつ聞きたいことがあって…… 男の娘だって聞いたことあるんだけど、本当?」
志熊「まあ、そのような感じですね」

 

そう。上で説明した通り、志熊は男の娘なのだ。

 

亜弄使「前から気になってたんだけど、性別ってどっちで登録してるの?」
志熊「どちらも決め難くて、結局は『不明』って書いておきました」
望月「あっ、不明っていう選択肢がちゃんとあるんだ……」
亜弄使「えっ?じゃあさ、じゃあさじゃあさ、男女で別れて行動する場面って絶対あると思うんだ、そういう時はどちら側に行くの?」
志熊「難しい質問ですね…… まあ、体育とかは基本的に男側に入ってはいるんですけども……」
亜弄使「へぇ~」
志熊「女子側に入ることもなくはないですけども」
亜弄使「えっ」
望月「……。どちらでも大丈夫……ということね……」
こう言われると、なんとなく聞きたいことが増えてくる。
亜弄使「でも、さすがにあれはあれでしょ?」
志熊「“あれ”……?」
亜弄使「ほら、トイレとかさ」
体の事情的にここは男側に行かざるを得ないはずだ。本当に性転換でもしない限り、完全に女になることはできない。

 

志熊「トイレ……は、多目的トイレです」

 

亜弄使「そうきたかっ()」
多目的トイレ。骨折など、体の不自由な生徒が使う男女兼用のアレだ。ドアに鍵がかけられるようになっているアレだ。できるだけ女に拘ろうとしているのか……
亜弄使「なるほどなぁ…… えっじゃあ修学旅行の時の入浴とかは」

 

志熊「多目的浴場です」

 

亜弄使「えっ()」
望月「えっ()」

 

えっ()
多目的w浴場ww
いや何だよ多目的浴場ってww

 

志熊の住んでいた地域はそんなものがあるとでも言うのか?

 

亜弄使「なんか……この話題は気まずいな。色々聞いて悪かった」
志熊「いえいえ、いいんですよ」
望月「……色々な事情があるものね……」
さあさあ、早くお昼を食べよう。時間がなくなっちまう。

 
 
 

一方……

 

藤井「なあ光、いいかげん『りゅーちゃん』って呼ぶのやめてくんない?恥ずかしい」
湯ノ谷「どうして?今までだってそう呼んできたんだからいいでしょ?」
藤井「(ダメだ……どうにもならない)」
湯ノ谷「ねえりゅーちゃん、次に詰めるのはティアマトかバンキシャかどっちがいいと思う?」
藤井「えぇ…………っと、 もう一回言って」
湯ノ谷「てぃーあーまーとー!と、ばーんーきーしゃー!ちゃんと聞いてますかー?」
藤井「えっと、ティアマトかな」
湯ノ谷「おっけー!今日で頑張ってアタ3以内に抑えよっと」
藤井「(ティアマトって何の事だ……)」

※改めて解説

湯ノ谷 光(ゆのだに ひかり) 高3。金髪碧眼で校内随一の美少女。めんどくさがりな性格で、とても大雑把。勉強はまあまあできる。外見とは裏腹に、重度の音ゲーゴリラ且つアニオタ。最近のブームは登校時にBrain Powerを熱唱すること。

藤井 龍祐(ふじい りゅうすけ) 高3。光の幼馴染。幼稚園からの腐れ縁。普段は教室や図書館で本を読んでいるほど物静か。たまに光に半ば強引に誘われてゲーセンに行く。
光に布教されてアニオタへと変貌した。

湯ノ谷「せっかくだからりゅーちゃんも見にきてよ!」
藤井「いや、遠慮しとくよ」
湯ノ谷「りゅーちゃんいっつもそういうこと言う~……、たまにはあたしの誘いに乗ってよ」
藤井「ああいう騒がしいのはどうにも合わなくてね……」
湯ノ谷「今日はなんとしてでも連れてくからね!」
藤井「えっ嘘でしょ」
湯ノ谷「覚悟しておきなさいッ」
音ゲーで鍛えているおかげで、湯ノ谷の腕力は人並みはずれた強さだ。藤井1人くらい、片手で引き摺ってゲーセンに連れて行けるという。(リアルゴリラやんけ……)
幼馴染み二人の会話はまだまだ続くのであった。

 
 
 
 

 
 
 
 

桜の花が散り始める季節、薄い青色の空。心地良い風が吹いている。静かな草原でもあったらついお昼寝したくなってしまうほどののどかな天気だった。
活気にあふれた昼休みのグラウンド。運動部の活発な男子たちがサッカーをして遊んでいる。そんな日常的な景色を、2階から覗いている一人の女子生徒がいた。

 

???「バンドなんて、うまく行くかなぁ……」

 

???「やっぱり……ドラムかなぁ……」

 

そこに、もう一人の生徒がやってきた。

 

***「こんにちは、沙羅せんぱーい!」

 

???「あっ、萌衣ちゃん……!」

 

平 沙羅(たいら さら) 中学3年生の吹奏楽部の生徒。照れ屋な性格で、結構なビビりだったりする。基本はクラスでは目立たない存在だが、同じ吹奏楽部の部員の一部で結成した『Groove GUNGUN!!(グルーヴガンガン‼︎』というバンドにも所属している。

笛口 萌衣(ふえぐち もえ) 音哉の妹で、中学1年生。沙羅と共に吹奏楽部に所属していて、バンドのGroove GUNGUN!!も一緒。兄に対してはややきつめの言葉が目立つ。

 

萌衣「確か、来週の水曜は部活ありませんでしたよね……! バンド練習しましょうよ!」

 

沙羅「そっか、部活が休みか…… うん、じゃあその日に練習しよっか」

 

萌衣「はい!早速他のメンバーにも伝えてきますね!」

 

沙羅「う、うん……!」

 

萌衣はそう言うと、走って別の場所へ行ってしまった。
沙羅は再び窓の外を眺めながらつぶやく。
沙羅「不安だなぁ……どうしたらいいんだろう……」
心の中の糸の絡みがほどけない。何かが引っかかる。掴むこともできず、感触を感じることすらままならない。不安という雲が彼女を覆っていた。
沙羅「バンドなんてやったことないのに…… それなのにバンド内では最年長…… しかも萌衣ちゃんの兄は軽音楽部に入部したっていうし、私だけが置いてかれそう……」
何か手を打たないと。そういう気持ちが心の底から湧いてきた。今までこんな経験は無かったけど、初めて“先輩”らしい立場になれたからかもしれない。物静かだった彼女だが、心の中では何かが動き始めていた。

 

沙羅「そうだ。軽音楽部の誰かにいろいろ教えてもらおう…… そうしたらきっと……っ」

 

これが、はじまり。
桜色の風が、彼女の背中を吹き抜けていった。