小説/14話「宿泊・第三篇」

Last-modified: 2020-12-04 (金) 22:00:05

14話「宿泊・第三篇」

著:てつだいん 添削:学園メンバー

起床~ラジオ体操

静かな森の中、木々の隙間から、淡焼けした赤い空に光が差す。
春の朝にほんのりと香る自然の匂いと、小さく響く虫の声。
長い夜が明け、ついにやってきたこの日。"本番"だ。

 

古宮「おーーーい起きろーーーーー」
古宮先生がテントの外で学年全員に向かって叫んでいるようだ。
…………。
音哉「ぁぁ……もう朝か……」
まだ寝ていたい。無限に寝ていたい。寝すぎたせいだろうか、逆に疲労が溜まっている気がする。

 

古宮「おーーーい起きろーーーーー!!」
今度はもっと大声で叫び出した。ご苦労さまと言いたいところだけど、俺たちはまだ寝袋にこもっていたい。
…………。
笹川「うるさいのだ……むにゃむにゃ……」
誰もテントの外に出てこない。寝袋から出る生徒はいても、何となくテントから出る気になれない。

 

古宮「おーーーい起きろーーーーー!!」
うわ。今度は拡声器を使って叫びだした。そろそろ本格的にうるさくなってきた。
…………。
まだだ。先生が引っ張り出しに来るまでは徹底的に寝てやる。大抵の生徒、特に男子はそう思っていた。
真面目な人は流石にテントの外に出てきたが、まだ半数以上が引きこもり状態である。

 
 
 

古宮「kou長先生、出番です」
kou長「あいよ」

 
 

kou長「HISTORIA歌います。ノーーwwハッピーwwwwwクリスマスマンですwwwwうぇーーいwwwwwざまぁwwwww競馬なうww悪く取れ掘ったwwwでりっぴーヒストリアーwwwww
音哉「あーーーーはいはい起きます起きますから起きますから!!!」
Felix「結局この流れかよ!」
優「うるせーーーーーー!!

 

生徒たちはいきなりテントから出てきた。声のパワーも去ることながら、計算されて少し外れた音程は聞いていて耳が壊れそうになる。朝からkou長の歌を聞かされるなんて、地獄でしかないじゃないか……
kou長「おっ、みんな出てきた出てきた。やればできるじゃないですか。今度からは私が歌わなくてもテントから出てくるんですよ?わかりましたね?」
一同「「「(嫌だ)」」」
kou長「はい。皆さんおはようございます」
一同「「「おはようございます……」」」
kou長「うわぁすごい。雲ひとつない天気ですね」
***「雲あるやん、雲あるやんあっこに」
???「ほんまやほんまや」
kou長「さぁて本日も張り切ってまいりましょう、10分後にラジオ体操選手権を始めますので、それまでに支度を済ませてください。それでは一時解散!」
生徒たちは一気にばらけ、急いで支度を始めた。寝袋を片付ける生徒やら歯磨きをする生徒やら、カバンの荷物を整理する生徒やら。いろいろいる。
音哉は支度をしながら、枝川に話しかける。
音哉「枝川、昨日の司会すごかったじゃん!」
枝川「あ、ありがとう。かなり緊張したけど」
音哉「しかもあれ、始まる直前にいきなり引き受けたんだって?ほとんどアドリブなんだって?いやぁすごいなぁ、これには頭が下がるよ」
枝川「音哉のフレンドリーさにも頭が下がるけどね……」
音哉「俺はただ普段通り会話をしているだけさ。大勢の前で話すのとはわけが違う」
枝川「っつっても、音哉だっていざステージに立ってみれば結構話せるんじゃないのか……?そんな感じするけど」
音哉「まあ、そういう機会が今までにないから、なんとも言えないんだけどな」
近江原「おはよう」
枝川「おはよう。昨日は楽しかった……」
近江原「昨日だけでお腹いっぱいだけど、メインは今日なんだよな……」
音哉「なんか、スケジュールが濃すぎて、一旦休みたい感じあるなぁ」
枝川「わかる。それ。」
近江原「まっ、どうせ予定と予定の間にスキマ時間ありそうだし、そこで休めばなんとかなるだろうし」
音哉「そうだな」
そうこう話をしているうちに、大体の支度は済んだ。
少しずつだが、昨日キャンプファイヤーをしていた広場のところに列ができ始めている。
音哉「俺らも行こう!」
近江原「おっけ」
枝川「うん」

 

~数分後~

 

kou長「皆さん揃いましたね? ハイッ!それではこれから、クラス対抗ラジオ体操選手権を始めますぞ~」
…………。
kou長「あれ!?ちょっとみんな、イェーーーーーイとかワーーーーーーイとか言ってくれないの!?」
さっきの雰囲気もあり、寝起きというのもあり、そんなに騒げるわけありません。察してください。
kou長「あー、みんなが言ってくれない……じゃあ私が言いますイェーーーーーイwwwwwwwwwワーーーーーーイwwwwwwwwwwww」
…………。
kou長「(汗)」
古宮「………。」
kou長「うん!今のは聞かなかったことにしてください!() それで、皆さんにはラジオ体操を踊ってもらうわけですが、選手権というのはどういうことかといいますと……」
谷城「一番うまく踊れた人が賞品!!」
kou長「いぇーーす!ざっつらぁいと!そういうことでございますよー」
えっ、マジか。また賞品が出るのか。嬉し言っちゃ嬉しいが、これだけ何度も賞品作ってると費用かかりすぎないか……?()一応旅行費は集金で俺らから集めてるわけだし、そこから払われてるんだったら納得いかない。
kou長「賞品は…… 最新型のタブレット!!」
高砂「なぬっ!?!?」
師音「えっ、そんなに驚いてどうしたの?」
高砂「い、いや……今のは見なかったことにして」
師音「えー……気になるなぁ」
高砂(大画面で音ゲーしたい……)
kou長「といってもタブレットは一つしかありませんから、この学年全員から、一人の優勝者を選ぶわけです!」
なんだ…… ハードルが高すぎる。ラジオ体操で学年一になれなんて、無理に決まってる。ほとんどの生徒が肩を落とした。
kou長「まあまあ、そんなに落ち込まないで~。戦うことが全てじゃないんだから。朝の準備運動のようなものですから、やることに意味があるんです」
涼介「ま、まあそうだけど……」
はいっ、つべこべ言わないでさっさと踊るシーンへ移行!(メタ発言)

 

kou長「ここにいらっしゃる先生全員が生徒全員の踊りを見て回り、優勝者を決めますぞ」
近江原「かなり適当だな……」
もともとそうなることはわかっていた。今更あまり驚くほどでもない。
菊池「ラジオ体操って何ですか」
kou長「へげぇ!?!?」
菊池がこのタイミングでラジオ体操がよく分からないことを打ち明けた。
kou長「流れで適当に踊ってください」
菊池「まあ、あまり興味ないからいいのだけど」
今名乗り出たのは菊池だけだが、よく知らない人はともかく……体操の順番を覚えていない人は少なからずいるはずだ。周りの動きを真似てアドリブで踊るしかないみたいだ。なんて適当さだ……
kou長(臨機応援に対応する能力を養うためにも……ぶつぶつ)
kou長は心の中でぶつぶつと呟いた。

 
 
 

kou長「それでは、ミュージック
……スタート!」

 

音楽が鳴り出した。おっと、これは……ラジオ体操第一だぞ……!よし。これなら知っている。せっかくなら本気で踊って優勝を……って、えっ

 

なんだか妙にノリノリなドラムやらベースやらが鳴り出した。最初はピアノのはずの音色も妙に厳かなオルガンの音になっている……

 

kou長「皆さんで踊りましょう。『ラジオ体操第一 -Kou長 Overheat Remix-』」

 

!?!?!?

 

妙にラスボス風のかっこいい音色と共に、kou長のガイドボイスまで音源に入っているようだ。
(ガイドボイス)「まずは腕の運動からー、腕をぶん回します」
黒野「あ゛ぁ?」
高砂「はい???」
優「なにこれ?(ゴロリ風)」
kou長「はぁーーいブンブンブンブンブンブンブンブンブーンwwwwwwwwwwww」
kou長の腕が超高速で360°回転している。縦だけじゃなくて、横にも奥にもブンブン回っている。いやおかしいだろ!
マイクラでもここまでブンブン腕は回らないし、まるでバグったゲームキャラである。速すぎて見えないが、体をすり抜けてるようにも見える。
谷城「あのぶん回してる手に触れたら一瞬で体が吹き飛びそう……()」

 

(ガイドボイス)「次は屈伸の運動~。膝を曲げて伸ばして曲げて伸ばして一回転ねじります」
涼介「はい??」
みんな、何が何だかわからず誰も踊っていない。踊っているのはkou長だけだった。
kou長「はーいグニャグニャグニャグニャグルグルグルグル……」
kou長の脚全体がぐるぐる回転している……!?!?
関節なんて要素は無いみたいだ……!?
だんだんと、kou長の体はロボットなのではないかという説すら出てきた。

 

(ガイドボイス)「次に腹筋を鍛えます。腹筋に力を入れてー抜いてー力を入れてー抜いてー腹筋崩壊ー」
kou長「はーいフハフハフハフハフハフハフハフハバキバキバキバキボキボキwwwwwwwwwwwwwwwwww」
この小説はいつからギャグ性を追求するようになったんだ。おい執筆者
Felix「とりあえず、寝起き早々俺たちはとんでもない光景を目にしているようだが……」
師音「ダメだ、気持ち悪くて見てられない」

 
 
 

ぼーっとしているうちに曲が終わっていた。
Kou長「はいー終了です!みなさん踊れましたかーwwww」
Felix「はぁ…………(ため息)」
ありえないことすれば何でもウケると思ってるんじゃないだろうか……
新しいものが多すぎて、むしろつまらなくなってきた。全てが新しいというのは、全てが古いことと同じである。新しいものと今まで通りの物が両方あってこそ、新しいものが引き立つってものだ。比較対象が消えてしまっては、それはただただ眩しいだけの無意味な光なのである。

 

少し時間が経ち、kou長は話し始めた。
kou長「えー、皆様、この度はおふざけが過ぎました。大変申し訳ありませんでした」
南沢「謝れば済むってもんじゃないだろー!」
kou長「その通りでございますね。しかし、今のわたくしにはこうして頭を下げることしか……」
自分でふざけておいていい度胸である。
古宮は南沢に向かって、小さく言った。
古宮「kou長が謝罪するなんて場面、滅多にないんだぞ!せっかくだからもっと面白いこと言ってやれよー……w」
南沢は頷いた。
南沢「じゃあ、今ここにいるみんな一人一人にタブレット奢ってくださいwwwwwwww」
kou長「えっ全員!?!?!?」
南沢「もちろんです」
古宮(ははっ、kou長ざまあwww)
Leon「あっ、思いつきまシタ!学校の授業にタブレットを取り入れるんデスよ!」
黒野「おおっ、面白そうだ」
谷城「ハイテクハイテクー!」
kou長「ええっ、ええええええ!?」
南沢「今の時代、私立高校などでは積極的にタブレットの普及を目指しているそうですよー。最先端技術のあるこの学園がタブレットを使わないでどうするんですか!」
音哉「そうだそうだー!」
南沢「これは命令です。お詫びとして、高1全員にタブレットを買い、そしてさらにタブレットを授業に取り入れてください」
kou長「うっそーーーーっ!?!?」
古宮「学園の予算使っちゃダメですよ、全部kou長の自腹で」
kou長「ぐ……ぐぬぬ……」
……というわけで、kou長は渋々交渉を受け入れた。ここで断ってしまえば、kou長自身の評価がガタ落ちになってしまうと考えたからであった。といっても、kou長はkou長なだけあってお金持ちみたいだから、なんとか自腹で払えたみたいだ。
ラジオ体操は思わぬ形で全員が優勝商品を受け取るという結果になってしまった。

 
 

朝食

朝食の時間だ。
今朝のメニューは…… パン!!と目玉焼き!!とハム!!とサラダとヨーグルトとチーズ……!!
高砂「すっごいしっかりしてるなぁ……」
Felix「いや、ホテルで出される朝食かよ」
照美「よくこんなものを森の中で準備できたわね……」
近江原「おっ、ジャムまで付いてる」
笹川「アイの大好きなものがたくさん!!」
優「それはよかったねー」
古閑(おいしそう……)

 

古宮「それじゃ食べるぞー!」
一同「「「いただきまーす」」」

 

音哉「これまたすごく丁寧だ……」
これはロールパンだ。そしていちごジャムも一緒に置いてあった。せっかくなのでジャムをつけて食べた。
音哉「うぅうーん最高……!」
朝ならではのさっぱりとした雰囲気。自然の中という状況がより一層美味しさを引き立てる。
笹川「ジャム付けすぎたのだ……」
優「うわああ!!アイちゃんパンが真っ赤じゃーん!!」
早速ハプニングか……()
こんな朝でも、相変わらずハプニングはあちらこちらで起こっているようだった。
師音「えっ、枝川君はヨーグルト一番最初!?」
枝川「あぁ。家ではいつもヨーグルトを一番最初に食べることにしているんだ」
雪姫「へ、へぇ…………」
雪姫も、調子が元に戻ってきたようだった。
菊池「………………。」
菊池はまたしても見慣れない料理に驚いているようであるが……表情はあまり表に出さないタイプなので、無表情で朝食を見つめているように見える。

 

古宮「パンのおかわりがここにあるぞー、欲しい人は来てくれ」
南沢「ウェーーーイw」
音哉「はーーーーいw」
谷城「はーーーーい!」
その他にも数人の生徒がおかわりのパンを持っていったが、在庫はまだ余っている。

 

古宮「この後のためにも、多めに食っておいたほうがいいぞ」
森「ん……?」
古宮「この後の戦いは厳しくなる。班によっては昼飯が抜きに……いや、最悪の場合夜もまともに食事ができなくなるかもしれない」
森「えぇ……!?」
音哉「多少無理してでも食べといたほうがいいぞ……」
森「う、うん……じゃあ、一個おかわり」
古宮「はい、どうぞ」
古宮「他のみんなも積極的におかわりしとけー」
音哉「それにしても、今日やることってそこまで厳しい戦いなんですか……?」
古宮「まぁな。この研修のタイトル回収みたいになるが、まさに『自給自足』を体験してもらう」
音哉「本当の……サバイバル……」
古宮「それもただのサバイバルじゃない。”次郎”勢学園ならではのな」

 

戦いは、もうすぐ幕を開ける。

 
 

自給自足サバイバルレース(1)~はじまり~

しばらくバスに乗り、着いた先は八ヶ岳という山の中。
雰囲気は今までと大して変わりないが、バスに乗りながら感じたのは、さっきよりかなり標高が高いところへ来ているような気がするということだ!!噂によると、この場所、八ヶ岳は最高峰で2899mを誇るかなりハードな山々であるらしい。なんてところに連れて来たんだ……
教師陣がなにかと念入りに打ち合わせをしているようだ。このイベントはそれだけ慎重にやらねばならないのかもしれない。
生徒たちはいつも通り整列し、その前にkou長が立った。
kou長「さて皆さん。この研修のメインイベントといきましょう!」
ざわ……ざわ……
kou長「毎回私が説明してもつまらないでしょうし、今回は木ノ瀬先生にルール説明をしていただきます」
kou長はそう言うと、拡声器を木ノ瀬先生に渡した。
木ノ瀬「おはようございます。これからルールを説明します」
やけに鋭い声で言ってくる。
木ノ瀬「タイトル通り、皆さんはこれから、班ごとにサバイバルレースをしていただきます。一斉にスタートし、我々が指定したゴールに17時までに到着してください。ただし、ただゴールすればいいというわけではありません」
南沢「それじゃあ何をすれば」
木ノ瀬「今、ここに、小型のノートPCがあります」
気がつくと、先生の後ろには十数台に及ぶノートPCがあった。
木ノ瀬「これらのPCに入っているのは何かというと……」
南沢「ウィルス……(小声)」
枝川「いやそれはないだろ……」
木ノ瀬「入っているのは、あなたたちが前に作った次郎の譜面です」
涼介「譜面!?」
Felix「譜面……だと……?」
師音「サバイバルと次郎ってなんの関係が……」
木ノ瀬「この譜面を、すれ違った他の班にプレイしてもらうのです」
え……?
話が急展開すぎてほとんどの生徒がついていけてない。
音哉「どういうことですかそれは?」
木ノ瀬「皆さん各班が一台ずつPCを持ち歩きながらサバイバルレースをします。レースの途中、他の班と偶然出くわすこともあるでしょう。そうしたらお互いのPCでお互いが作った次郎の譜面を遊んでもらってください。ただし一度のすれ違いにつき双方一譜面ずつのみです」

 

要するに、次郎の譜面を披露しながらサバイバル……と。

 

森「それって……わざわざここに来てまでやる必要あるんですか……?」
木ノ瀬「目的は、自分の譜面を”本気で”評価してもらうことです」
森「あ、はい……」
なんだか微妙に説明が足りなくて腑に落ちないが、まだ説明の続きがあるようなので聞いてみる。
木ノ瀬「注意して聞いて欲しいのはここからです」
南沢「あっはい」
木ノ瀬「お察しの人もいるかと思いますが、今回ここでは食料は配給しません」
谷城「ふぇ!?」
木ノ瀬「皆さんには、自力で食料を“買って”いただきます。ゴールまでの道のりの途中には、ところどころに移動購買車が食料を売っています。各自で買い、各自で食べ、飢えを凌いでください」
音哉(それ、現金たくさん持ってる人が有利ってことか……?)
木ノ瀬「ただし現金ではいけません。今から特殊なコインを各班に10枚ずつ渡します」
他の先生が急ぎ足で班長にコインを渡していく。配られたのは、次郎勢学園の校章が刻まれた金色の硬貨。よく見ると、校章の隣に自分たちの組と班の番号が刻まれていた。

 

“3組1班”

 

南沢「このコインを使って買えばいいと?」
木ノ瀬「いいえ。あなたたちが今持っているコインでは買えません。払うことができるのは、“他の班のコイン”です」
……どういうことだ?なんだか複雑になってきた。
木ノ瀬「次郎の譜面を見せ合った際に、その譜面の出来栄えや個性、心を動かされたかなどによって、それに応じた枚数のコインを交換し合います」
Felix「良い譜面だと思ったら相手にたくさんコインを払い、低評価ならあまり払わない……と」
木ノ瀬「あまりに気に入らなかった場合は、払わなくても構いません。感動したのなら、手持ちのコインを全て払っても構いません」
つまり、相手から高評価を得れば得るほど相手のコインがもらえる。そして食料が買えるという仕組みだ。譜面の良し悪しがサバイバルの運命を左右する……そういうことになる。
木ノ瀬「制限時間内であれば、ゴールした時刻は勝ち負けに関係ありません。勝敗は、ゴール時に持っている他の班のコインの枚数+道中の購買で支払ったコインの枚数を比べて決めます。この学年で1位になった班には賞金200万円を差し上げますよ」
南沢「に……に……にひゃくまんえん!?!?」
生徒たちはどよめいた。前代未聞の豪華賞金に、誰もが耳を疑った。今確かに200万円と聞こえた。現実だよな……現実だよな!?
班で山分けだとしても、一人50万円がもらえる。これは欲しい……!!
木ノ瀬「早口で説明してしまって申し訳ない。他にも細かいルールがあります。ルールブックを各班に配っておきますから、分からなくなったら確認してください」
うん。展開が早すぎて理解できていない部分が少々。
改めてルールを見てみよう。

 

~自給自足サバイバルレースのルール~

 

・班ごとに分かれ、各自でゴール地点の車山を目指す。
・各班に配られるのは、組と班の番号が刻まれたコイン10枚、小型ノートPC一台(自分たちの作った次郎のデータ入り)、地図、方位磁針、このルールブック
・道中、他の班とすれ違ったらお互いの譜面を見せ合う(一度のすれ違いに一譜面ずつのみ)。その評価に応じた枚数のコインを相手の班に渡す。
・手に入れた他の班のコインを使って、道中の移動購買車で食料を買うことができる。
・制限時間の17時までにゴール地点にたどり着けなければ失格。無事たどり着いた班のうち、持っている他の班のコインの枚数+購買で支払ったコインの枚数が一番多い班の優勝。賞金200万円。

 

※注意事項
ノートPC以外の電子機器の使用禁止。ノートPCも、次郎に関すること以外に使用してはならない。
他の生徒に暴力を振るったり、拘束するなどの明らかな妨害があった場合は失格とする。

 

スタートはここ、八ヶ岳の赤岳という山の頂上付近。ゴール地点は同封の地図に載っていた。車山の中にある、TOP’S 360°というカフェのような場所……らしい。
そして驚くべきはその距離。なんと28.9Km!!止まらず徒歩で行っても7時間弱かかる距離だ。(Google調べ)
中盤はしっかりとした道路があり、平面のようらしいのだが……序盤と終盤は完全に山登りルートである。それも加味するととんでもないサバイバルになるに違いない。今までで一番過酷、そして命がけのレースであった。
数人の生徒は今にも泣きそうで、「帰りたい」という声も少なくなかった。しかし今更引き返すのは不可能だ。バスはいつのまにか無くなっており、取り残されてしまった。
やるしかないということだ。今こそ決意を固める時だ。次郎勢学園に入って、最初の試練だと思った。いざ出陣。絶対に生き延びて、優勝してやるッ…………!

 
 

自給自足サバイバルレース(2)~序の口~

各班の準備は整った。後はkou長によるスタートの合図を待つのみ。
天気は良好。太陽もだいぶ上まで登ってきた頃だ。
辺りは静寂に包まれた。

 

kou長「それでは皆さんの健闘を祈りますよ…… 用意…… スタート!!」

 

スタートの合図が出ると、皆は一斉に動き出した。いきなり走り出している班もあれば、ゆっくりと楽しみながら歩いている班もある。制限時間と距離がそれなりにきついので、最初から急ぐ班がいるのも全然おかしくないだろう。
スタート地点ではきっちりと揃っていたのが、開始からたった数秒で班ごとにばらけていった。どの班も、山を降りやすいルートを探して散らばっていった。
さて、3組1班は、あまり急がず歩いて移動をしているが、どのような様子なのだろうか。
音哉「さて、ついに始まったなぁ」
師音「それで、僕たちの班はどんな方針で行くの?」
音哉は開始早々突っ走っている他クラスの班を指さして答える。
音哉「あの班みたいに速く行かなくたって、道に迷いさえしなければ歩いてたって平気だ。俺はむしろ体力のほうが心配だ。だから、歩いて歩いて、着実に行こう」
森「そうですね……」
古閑は少しこちらを向いてから、同意したという意味なのだろうか、そのまま目線をそらした。

 

最初のうちは本当に山を下りるような傾斜で大変だ。しかししばらく下りていけばだんだんと険しい道は無くなってくる。それまでの辛抱……!
歩いている間にふと気がついた。もしほかの班と遭遇した場合、誰の譜面を見せるのか……?
師音「そういえば、最初は誰の譜面を遊んでもらうの?」
音哉「う~む…… 誰にする?」
森「音哉君でいいんじゃないかな……」
音哉「古閑はどうだ?」
自分に向かって話しかけられているのに気づいた古閑は慌ててメモ帳を取り出した。例のごとくギンが彼女の書いたメモを持ってきた。
『私はまだいいから、先に他の人で』
音哉「じゃあ…… 最初は俺でいいっか」
師音「まあリーダーが一番最初だよね!」

 
 

こちらは2班。2班も歩いていく作戦のよう。
Felix「最初のうちは傾斜もあって転びやすい。気をつけて進んでくれ」
谷城「りょーかい!」
高砂「すごいテンションだ……これから嫌という程疲れるってのに……」
照美「あの調子じゃ夕方には何も喋らなくなりそうね」
谷城「Felix隊長!あちらにもっと良さそうな道が!」
Felix「隊長はつけなくていいだろ!馬鹿にしてるのか!」
谷城「そういうつもりで言ったわけじゃないもん!」
Felix「はぁ……(ため息)」
高砂「なんだかんだ言って楽しそう」
Felix「全然楽しくない!隊長と言われる俺の身にもなってみろ……」
高砂「俺だったらそれでもいいと思うけどなぁ」
Felix「はぁ!?」
高砂「いや……あくまで俺は、俺はだよ?Felixがどうかはわからn……」
Felix「俺は断じて否だ!!」
谷城「えーーーー?」
照美「ツッコミが追いつかない……」
谷城「ねーテルルー?」
高砂「テルル???」
谷城「そうそう、照美ちゃんは最近テルルって呼ばれてるんだよー!」
照美「呼ばれ方はそんなに気にしていないわ」
高砂「そう……なのか……」
なんか雰囲気的に高砂はテルルと言いづらくなってきた。なんとなく女子からしか呼ばれていない気がした。そう思うとあまり呼べない……
Felixもテルルというあだ名呼びにはあまり興味を示さなかったが、谷城が何度も何度も呼んでいるうちに流れに流されて、2人もテルルと呼ぶようになってしまった。

 
 

3班の様子を見てみよう。
雪姫「このルートが一番早そうですね」
枝川「おぉっ、決めるのが早いなぁ」
雪姫「あまり深く考えても仕方ないですからね。さて、出発しましょう」
話すこともなく、とにかく黙って山を降りる。なんか妙に話が飛び交わないのは意外と学校あるあるだ。
10分ほど黙って山を降りていたところで枝川が切り出した。
枝川「黙ってるって結構退屈だな」
雪姫「じゃあ何か話でもしますか?」
南沢「話って何の話を?」
枝川「全員が知っている共通の話題…… 難しいなぁ」
雪姫「やはりここは次郎の話が良いのではないでしょうか?」
枝川「それもそうだな」
南沢「そうだそうだ、最初は誰が譜面を見せるの?」
枝川「誰か見せたい人ー!」
雪姫「…………。」
菊池「…………。」
南沢「…………。」
枝川「誰もいないじゃん!!」
南沢「そうだと思ってた」
雪姫「もうこうなればじゃんけんで決めましょう。それが公平ですね」
枝川「わかった」
一同(?)「「「最初はグー、じゃんk」」」
山登り中の険しい道だったので、南沢は足を踏み外した。

 

南沢「うあぁぁぁっ!?」

 

そこまで大事には至らなかった。転げ落ちていくということは無かった。
枝川「南沢!?」
南沢「痛っ」
雪姫「どうしたんですか!?」
妙に足を見て痛がっている。しかし血が出ているわけではない。
枝川「南沢、お前、まさか……」

 

南沢「えー、皆さんに悲報をお知らせします」
雪姫「えぇっ」
枝川「あぁ……」
南沢「わたくし、南沢 旭は、ただいま足首を負傷いたしました」
雪姫「そんな!!」
枝川「開始早々やっちまったなぁ…… って南沢!なに他人事みたいな言い方してんだよ!!」
南沢「本当に申し訳ない(棒読み)」
菊池「痛そう…………」
雪姫「南沢さん、今はもっと重大な怪我なんです!」
南沢「ハハハww……さっきの棒読みは冗談冗談。足首ひねっちゃったぽいけど、そこまで痛くないからまだ歩ける。安心しろぉ」
枝川「足首捻って、山道を平気で歩けるやつがいるか!?」
南沢「ま、まあそれもそうだが…… それじゃあ、せめて10分ほどの休憩が欲しい」
雪姫「仕方ないですね。それで少しでも良くなるのであれば、10分ほどここにとどまりましょう」
普段はキレッキレのツッコミを入れるあの南沢でさえ、このような理由でけがをすることはあるのだ。
南沢「スマン……」

 
 

次は4班の様子。
笹川「これはきつそうなのだ……」
涼介「なぁ、これ絶対笹川の体力持たないよな?」
近江原「うん、そんな気がする」
優「とりあえず、行けるところまで行ってみようよ!!」
涼介「それもそうだな…… 笹川の体力も含めてなんとかするのがこのサバイバルの課題だ」
優「それじゃ、出発するよ!!」
笹川「気合を入れてレッツゴーなのだ!」
近江原「れ、レッツゴー!(汗」
涼介「あれ、例のアレに対する抵抗はあまり無くなったと?」
近江原「えっ、あっ、ああああああああ!!」
近江原は一瞬例のアレ恐怖症を忘れていたようだが、涼介に言われた瞬間、優と笹川から離れた。
隣の席である優も『アレ』だが、おまけに笹川までもが『アレ』だ。
(毎回毎回言ってると学園の方向性に関わるので、アレと呼ぶことにしよう)
涼介「でも忘れてたってことは、治りかけてるってことだ」
近江原「いやむしろ忘れないほうがいいと思うんだけどな…… だって命に関わるかもしれないんだから」
涼介「命に関わる?どういうことなのかさっぱり」
近江原「ま、まあいろいろあってさ……」

 
 

1班は、少し緩やかになってきた山を降りつつ、目の前に別の班が近づいてきていることを確認した。
音哉「ついに来たぞ……譜面を見せる瞬間が」
目の前にいるメンバーは……一人知っている。この女子、まぎれもなくLeonだ。昨日の歌唱大会、そしてバーベキューのクイズ大会でも出てきた、あのLeonだ……!
お互いの班は近づくや否や、互いを見つめ合いながら話を始めた。
音哉「よぉ!」
Leon「ハロー!譜面を交換するデスねー?」
音哉「ああ、そうだなっ」
音哉は早速PCを開き、自分の譜面を開きはじめた。それを見た向こうの班も、ちらちらとこちらの様子を伺いつつPCを弄っている。
しかしよく見ると驚いた。ずっとPCをいじっているのが、Leonなのだ。まさかと思いつつ、質問してみる。
音哉「もしかして、一番手の譜面はお前のか……?」
Leon「もっちろんデース!」
音哉「なんだって……!?」
驚いた理由は、面識のある生徒と譜面を交換できるというのもあるが、それ以上に
Leonは作譜が上手だという噂を聞いていたからだ。
Leon「準備できたデース!早速やってみてほしいデス」
音哉「準備早っ! ……わかった、ちょっと待ってくれ」
音哉は慌てて準備を終わらせた。Leonは次郎の起動などの作業には人一倍慣れているように見えた。もうそんなに使いこなしているとは……
音哉「できた。よし。これで俺のもやってくれ」
Leon「Sure!」
お互いがお互いのPCで譜面を再生し始めた。お互いが今回作譜した曲は……
音哉 - Brain Power
Leon - 回レ!雪月花
遊び始めてすぐに思った。自分では思いつかないような個性のある配置がしてある。うまく言葉に表せないが、繰り返しが少ない。飽きないように複合パターンが豊富だ……
肝心のサビだが、途中に24分を混ぜてくるという変化球が来たのには驚いた。せっかく繋いでいたコンボが切れていてしまった。
終盤もパターンが豊富で飽きさせない配置だった。なんという良譜面だ……
音哉「これは……すごいな」
悔しいが、彼女は確かに実力がある。俺の一歩先を歩いている気がした。
音哉「2枚……渡すか」
森「本当に2枚渡しちゃっていいの……?」
音哉「それほど素晴らしい譜面だったんだ」
師音「ま、まあそんなに言うなら止めはしないけど」
音哉「はい。素晴らしかった。2枚あげる」
Leon「Thanks! あなたの譜面もなかなかの出来でシタネ! でもまだ良くなる気がするデスよ」
こちらに渡されたのはコイン1枚だった。

 

音哉「そ、そうか……。いいや、1枚貰えただけでいいんだ。これが普通なんだ」
Leonが強すぎる。俺は決して弱いわけではない。実際はどうかわからないが、今はそう思っておくことにした。
Leon「配置が単純すぎる気がしマスネ…… ドコドンとか、カカカッとかをもっと複雑にしたほうがいいんじゃないですかネ」
音哉「なるほど……ありがとう」
Leon「ワタシの譜面は何か問題点ありましタカ?」
音哉「いいや、悪いところは俺には思いつかなかった」
Leon「そうデスか……」
むしろ改善点が無いことに不満を持っているらしい。こんな考え方されたら、いつまでも勝てる気がしなくなった。

 

【現在の他班コイン】
1班…1
2班…0
3班…0
4班…0

この様子を奥からこっそり見ていたのは……名前がまだ伏せられている、例の二人だ。
???「何やらパソコンで遊んでるようだけど……」
***「でも、ただ遊ぶだけじゃないみたい。何か話し合ったり、メダルのようなものも交換してたわ」
???「むずかしそう……」
***「生徒になりきると言っても、ルールが分かってないんじゃあすぐにバレちゃいそうだし…… うーん…… じゃあリン、少しそこでまってて」
???「何かあるの?」
***「あの班の発言をメモしまくって、なんとか理解するのよ!」
???「そんな無茶な……」

 
 

音哉「チックショー、1枚しか貰えなかったな……」
師音「貰えただけでもいい方だと思うよ」
音哉「そんなもんなのか……?」
森「私のなんて、1枚も貰える気がしないです……」
音哉「でも、0枚ってのは流石にないんじゃないか? 自分の班のコインを持ってたところで何の意味もないんだから、何が何でも少しは相手にあげるっしょ」
師音「コインはただあげればいい物じゃないって。これは駆け引きなんだから」
音哉「ふむ……」

 

***「なるほど……コインの話ばっかり。それに駆け引きって言葉が気になるわね」
???「それで、分かったの?」
***「なんとなく分かったわ。コインの駆け引きを楽しむサバイバルレースなのよ!」
???「かけひき……うーん……」
***「ほら……例えば……その、えっと……ポーカーとか?」
???「ここまでしてポーカーしないでしょ……」
***「えっ……でっでも可能性は一応あるでしょっ!それ以外に考えられないの!//」
???「ノヴァ、焦りすぎだってば……」

 

森「次に誰かと会ったら、誰のを出すの……?」
師音「流れ的に……僕になっちゃうのかな」
音哉「まあそうかもな」
古閑(…………コクリ)
師音「嫌でもいつかは出番は回ってくるんだし、僕でいいや」

 

***「ねえ今の聞いた……!?誰を出すかだって!」
???「う、うん……」
***「これはそろそろ分かってきたわね……一人が一つずつ、役を持ってるのね」
???「それってポーカーの……?」
***「当たり前じゃない!」
???(絶対違う気がする……)
***「それで、次に相手と会ったときに、誰のカードを出すかってのを相談してるのね」
???「カード持ってるようには見えないけど……」
***「周りから偵察されないように隠してるのよきっと」
???「そんなことあるわけ……」

 

森「だいぶ坂が緩やかになってきたね……」
師音「今どの辺だろう……」
音哉「ちょっと待てよー、今地図出す」
ゴソゴソゴソゴソ……
音哉「はい」
師音「すごい小さく折り畳まれてる……」
音哉「こうでもしないとカバンにはいらなかったもんで……ごめんな」
森「えっと、ここにお地蔵さんがあるってことは……ここらへんかな……」
音哉「えっ、以外と進んでる!」
師音「このペースなら余裕で間に合うじゃん」

 

***「み゛、みた!?!?」
???「何を…………」
***「あれこそ決定的な証拠!あれはどう見てもカードの束よ!」
そう言って小さく折り畳まれた地図を指差している。
???「そうかもしれないけど、うーん……本当に……?」
***「これで確信が持てたわ。さあリン、生徒に変装するわよ!」
???「え、えぇぇぇぇ…………」
2人は変装用の服を着て、どこからかトランプも用意し、音哉たちの前に立ちはだかろうとしているのであった。

 
 
 
 
 
 
 

師音「さてと、いきなり他の班と出くわすだろうから、心の準備をしておかないt……」

 

ゴソゴソゴソゴソ……ザッ(いきなり登場)
***「おい!そこのあなたたち!」

 

師音「言ってるそばから……!?」
森「うわぁぁぁぁ、びっくりしたー……」

 

***「さあ、私たちと勝負よ!」
???「しょ、しょうぶだー」
音哉「おぉっ、ついにだな。師音の出番だぞー!」
師音「そうみたいだね。よし、その勝負、受けて立つ!」
***「まず自己紹介をしておくわ。私の名前はノヴァ。そしてこっちがリン。よろしく」
???「リンだよー、よろしくー」

宇宙川 ノヴァ(そらかわ のゔぁ) 政府が次郎勢学園の存在にうっすらと気付き始め、その調査のためにこっそり派遣された調査員2人のうちの1人。16歳。しっかりとしたお姉さん。

時雨南 リン(しぐれみ りん) 政府が次郎勢学園の存在にうっすらと気付き始め、その調査のためにこっそり派遣された調査員2人のうちの1人。16歳。不思議ちゃんでおっちょこちょい。しょっちゅうノヴァに助けられているが、たまに立場が逆転する。

ノヴァ(やばーい! いつもの調子で名前バラしちゃった……! 変装した意味が……!)
リン「ノヴァ、すごい焦ってる……」
ノヴァ「え、ええ、えっと、それじゃあ勝負ね!(この次は何をすればいいの……!?)」
音哉「それじゃあパソコン出して」
ノヴァ「そうよ、私たちもトランプを…………って、えええええっ!?パソコン!?!?」
音哉「パソコン……だが、どうかしたか?」
ノヴァ「ぱ、ぱそ…………ぱ……あ、ああそうね、パソコンねパソコン……(なんで!?ポーカーじゃなかったの!?)」
リン(だから言ったのに……)
いつもはもうちょっと冷静なはずなのだが、なんせこんな高い山に来ているせいで精神が平常に保てないそうだ。それに対してリンはいつでも平常心を保っている。
ノヴァ「えっと……パソコン、パソコン……パソコン……あれ……(探してるふりしてるけど、準備してないんだからあるわけないのよ!!)」
リン「本当に大丈夫……?」
ノヴァ「大丈夫……!きっと……あるから……(汗」
リン「ほんとかな……」
音哉「おーい、こっちは準備できてるぞー」
ノヴァ「ちょっと待って、ちょっと待って!」
リン(これじゃあ正体がバレるのも時間の問題じゃ……)
ノヴァ「無い……無い……無い……(冷汗」
リン(顔が青ざめてる……)
ノヴァ「ない……ないない……ない……え、えっと、その……え……
撤収!!リン!!逃げるわよ!!」
リン「って、ええええええええ……!?」
ノヴァはリンを掴んで引きずるように逃げていった。

 

師音「あれ、いなくなっちゃった……」
音哉「あの班、2人しかいなかったし、パソコン無さそうだったし、逃げてったし、大丈夫なのか?」
森「なんだったんだろう……」
師音「せっかく心の準備してたのに……」

 
 

逃げ切ったノヴァとリン。
ノヴァ「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」
リン「ノヴァ、大丈夫……?」
ノヴァ「な、なんとか……」
リン「だから焦るなって言ったのに……」
ノヴァ「ご、ごめんなさいね、私が間違ってたみたい」
リン「うーん……」
ノヴァ「いつもは助ける側なのに、今回はリンのほうが正しかったなんて……//」
リン「リンだってたまには考えるんだから」

 
 

気を取り直して、現状を考え直してみよう。今わかったのは、どの班もパソコンを持っているということ。
しかし、何のために……?
ノヴァ「やっぱりポーカーじゃなかったのかしら」
リン「そんなにポーカー好きなの……?」
ノヴァ「特定するにはまだ手がかりが必要みたいね」
ここで、ノヴァのように察しのいい人は、この学園の名前に入ってる「次郎」との関連性を疑う。
ノヴァ「やはり下調べした甲斐があったかもしれないわね」
リン「ん……?」
ノヴァ「この前調べた『次郎』のことよ!」
リン「あー、そういうことかー」
次郎がどんなものかというのはもちろん下調べ済みだ。なんせ学園の名前に入っているのだから。
ノヴァ「おそらく、あのPCには『次郎』が入ってるのよ」
リン「なるほど……」
しかしだ、しかしだ。次郎の存在までは予測がついた。
リン「でもさぁ、その『次郎』を何に使うのさ?」
ノヴァ「そこなのよね……」
PCなのだから、普通ならこんな場所に来てまでやる必要性などない。次郎だからという問題に限らず、野外で遊ぶためのPCゲームなんて聞いたことがない。
こうなれば、参加者本人から全てを聞き出すのみだ。
ノヴァ「リン、もう例の手段を使うわよ」
リン「えー、また変装?」
ノヴァ「それが一番手っ取り早いでしょ!」
2人は何やら準備を始めた。

 
 

一方その頃……
南沢「まーだ誰とも会わないじゃーん」
枝川「だんだん心配になってきたなぁ……」
雪姫「いいえ、ただ運が悪いだけですよきっと。今にも誰かに出会いますって」
南沢「いいや、残念ながら僕らが他の班と出会うのは、移動速度、移動範囲、班の数から計算すると……ざっと平均3時間に1回のペースだ」
枝川(理論的にマジレスしやがった……)
雪姫「それはあくまで確率の話でしょう?か・く・り・つ」
南沢「だめだ……やる気なくなってきた……」
南沢の声のトーンが一気に下がった。
枝川「はぁ……こんなんでこの先大丈夫なんだろうか……」
菊池「……確かに」
すると、向こう側に人影が見えた。
木でも岩でもない、これは確かに人の形だった。
雪姫「ほらほら!誰か来たじゃないですか!」
南沢「なぁにっ!? …………マジだ、あれは確かに人影だ……!!うおおおおおおおよっしゃあああああああああああ!!」
枝川「よかった。これでひとまずは安心……」
だが、安心できないことはすぐに分かった。
近づいてくるその人影をよく見ると、2人しかいないのだ。学園の班なら絶対に4人いるはずばのに。
南沢「これってまさか……」
雪姫「そのまさかみたいですね」
枝川「あの人たちはただの通行人。生徒ではないと」
あんなにはしゃいで喜んだのが恥ずかしくなってくるくらいだ。
人影が近づいてくれば近づいてくるほど、その姿ははっきり見えた。どう見ても生徒という感じではなかった。
肩を落としながらその2人の通行人の前を横切ろうとした……その時、話しかけられるような声がした。
???「あのー」
南沢「え?」
***「そうです、あなたたちのことです」
雪姫「何の用でしょう……(しょんぼり)」
???「あなたたちはここで何をされているのですか?」
南沢「教えてあげてもいいですが、少し長くなりますよ。それに、どうしてどんなこと聞くんです……??」
疑いの鋭い目が2人に向けられた。
2人 (『ギクリ』)
???「だ、だだだって、こんな場所、学生がわざわざ登山のためだけにくるような場所じゃないと思うし……」
2人は一瞬焦ったがなんとか持ちこたえた。これで答えを返せたと思った。
南沢「あなたたちだって学生くらいに見えますけど」
2人(『ギクリ』)
***「き、気のせいですよ……私たちこれでも大人ですよ?」
どう見ても大人には見えない。同い年くらいである。
南沢「ま、まあいいか。それで、ここにいる理由なんですが……」

 

南沢を中心に、一通りの説明をした。

 

???「なるほど!随分と珍しいことをされてますが、面白そうで何よりです」
???(リン、ついに全部聞き出せたわね)
***(ばっちり)
枝川「あなたたちは登山ですか?」
???「ま、まあ、そんなところですかね……あはは」
作り笑いは普通の笑いの何倍も疲れる。
???「それじゃあわたし達はこれで失r……」
***「あのーすみません。ちょっとそのパソコンを見せてもらっていいですか?」
南沢「あ、まあいいですけど……」
南沢が通行人の一人にパソコンを貸した瞬間。その瞬間。一瞬だった。パソコンを受け取った通行人は、びゅーんと言うばかりに逃げ出した。

南沢「お、おい!!何してやがる!!パソコン返せ!!」
南沢がその人をものすごい勢いで追いかけて嫁いった。
雪姫たちはしばらくの間はいきなりの出来事に唖然としていたが、その後に取り残されたもう一人の通行人の顔をギラッと睨んだ。『これはどういうことですか』と問い詰めるかのように。
???「え、ええ!?ど、どういうことだか私にもさっぱり……」
曖昧な答えで返すと、もう一人も一瞬の隙を伺ってすたこらさっさと逃げ出した。
???「ちょっとアンター!待ちなさーい!」
どうやらPCを奪ったもう一人を追いかけに行ったみたいだ。

 
 

枝川「ちょっと待て。展開が早すぎて混乱している…… まず今何が起きたんだ!?」
雪姫「パソコンが盗まれた。それが全てです」
菊池も同意として頷きを見せた。
枝川「くっ……まさか盗難に遭うとは……しかも目の前で!!」
もっと慎重に扱うべきだったのかもしれない、あのパソコンは。
取り残された枝川、雪姫、菊池は何をしていいのか分からず、黙ったままそこに突っ立ったままだった。

 
 
 

ノヴァ「待ちなさーいリン!!!」
リン「よーし、この辺りまで逃げれば大丈夫だろうー」
一人が走るのをやめると、もう一人は追いついた。
2人は変装を脱ぎ、言い争いを始める。
ノヴァ「ちょっとアンタ!?パソコンを勝手に奪うなんて、なんてことするの!?」
リン「だって、奪って実際に遊んで調べたら一瞬でわかるじゃん……」
ノヴァ「あのねリン?確かにそうかもしれない。確かにそうかもしれないけど、それでも盗むなんてことはしちゃいけないの。ここで事件を起こして、そのせいでスパイがバレちゃったらどうするのよ!!」
リン「ご……ごめんなさい……」
ノヴァ「はぁ……全く面倒なことになったわね……」
この2人は明らかにPCを“奪った”のだ。れっきとした犯罪だ。この事件は、きっと校長先生の耳にも触れることとなるだろう。そうしたら校長はすぐに犯人探しを始めるだろう。スパイの存在などすぐに分かってしまうに決まっている。
ノヴァ「この事件をなかったことにできないものかしら……」
リン「うーん……」
直接返しに行くのは言うまでもなくアウト。いくら変装だとはいえ、調査を続けられたらスパイの存在はどうせ暴かれる。
それでは、直接でなければいいのか……?
ノヴァ「分かった。さっきの班はこの道をきっともうすぐで通るはずよ。不自然かもしれないけど、道端にこのPCを置いておく。さっきの班はどうしてだろうと疑問を抱きながらもPCを回収する。そうすれば、PCは彼らの手元に残るし、訴えられはしないんじゃないかしら」
リン「要するに拾ってもらうってことだね」
ノヴァ「ま、まあ……」
なんともシンプルだが、それがいい。こんな山中の場所を車や自転車が通れるはずがなく、通行人も滅多にいない。他の人が持って行ってしまう可能性も低い。確実に拾ってもらえるだろう。
ノヴァ「ということで、作戦実施よ」
リン「ちょっと待って!そのまえに…… せっかくパソコンを手に入れたんだから、実際に次郎をやってみないとね」
ノヴァ「今反省したばかりなのに何を……と言いたいところだけど、まあせっかくあるんだし、当たり前か……」
リン「お、おおっっ!?遊べる!遊べるー!!」
リンはパソコンには慣れたという手つきで次郎を始めた。
ノヴァ「ほどほどにしなさいよー、そうしないとさっきに班がもう来ちゃう」
リン「はーい」
予想通り、リンの次郎の時間はとても長く、やめなさいと言ってもなかなかやめなかった。もう来てしまうと言うのに、
ノヴァ「ちょっとアンタ!!流石に無理よ!もうやめなさい!」
リン「ちぇーーっ」
リンはPCからやっと目を離した。
道端に置き、ぼーっと歩いていても確実に目に止まるように位置を調整した。
ノヴァ「よーし、ここに置いとけば、いくらなんでも気づくでしょ」
道端に次郎が入っているパソコンが落ちているという、妙な景色が完成した。

 

自給自足サバイバルレース(3)~異変~

一方その頃、音哉たちの班は山を順調に降りてきていた。見晴らしの良かった頂上付近とは一転、木のたくさん生い茂る林の中にいた。
そんな中、彼らの周辺では異変が起ころうとしていた。

 

(ドカーーーン!!)

 

音哉「ん?!何の音だ!?」
いきなり、大きな爆発音が、今まで下ってきた頂上のほうから聞こえた。
林の中ということもあり、何が起こったのか、遠くを見渡すことはできない。
森「なんだろう……怖い……」
森は恐怖に怯えている。
師音「またkou長先生が何かしたのかもしれない……」
こんなことが起こっても冷静に考えることができるのは、次郎勢学園に入ったおかげでもある。毎日ありえないようなことが立て続けに起こるこの学園では、パニックにならずに落ち着いて行動するなんて普段から訓練済みだ。
それに加え、大体は『またkou長の仕業だろう』で終わりなのである。そしてその予想は大体当たる。ありえない出来事=kou長が元凶……という定理ができつつある。

 

今回もいつも通り、それで終わりだと思っていた。その刹那、さらなる異変は起こった。
音哉「なんだか地響きが……」
師音「地面が揺れている気が……」
いきなりの出来事だった。ドドドド……という、地から響いてくるような、災いの前兆を告げるような不気味な音だった。
古閑「…………!?」
古閑も、落ち着きを失って動揺している。
音哉「なんだ…………?」
師音「………………」

 

森「あ、あれ!!」
森は下ってきた山の頂上のほうを指差した。見上げると、この音の正体はすぐに分かった。
土砂崩れだ。
雨が降っていなくても土砂崩れは起こるのだ。きっとさっきの爆発がよほど大きかったのだろう、崩壊寸前の斜面の土が足場を失ってずるずるとものすごい勢いで滑り落ちてきた。
音哉「嘘……だろ……!?」
驚きを隠せない。
森「ひゃ……!!やばいって……やばいって……!」
師音「早く逃げるよ!」
音哉「そ、そうだな!!」
そう言うと、音哉は山を急いで下るように逃げ始めた。
師音と森も何をしていいか分からず、音哉についていった。
……しかし!
残された古閑は音哉についていこうとはしなかった。
古閑(山を下ってても追いつかれるだけ……今は斜面を横に進んだほうが……)
パニック状態からの苦渋の決断だった。山を下るより、横に逃げたほうが回避できるのではと考えていたのだ。実際、どちらが良いのかは分からない。
それを音哉たちに伝えたかった。伝えたかった……伝えたかったが……!古閑は声が出ない。こんな場面でメモを書いている暇はない。いつも人前で一切喋っていないせいで、こんな緊急事態の時でも話しかけることはできなかった。
古閑(どうしよう……)
横に逃げた方がいい……そう口に出せばいいだけなのに……!言えない、言えない……
喋ろうと思ってみても、口が開かない。心がそれを拒んでいる。
普段やろうとしないことなど、パニックになった時にできるはずがない。
古閑(言いたいのに……言いたいのに……!)
どんど離れていく音哉たち。
音哉「ほら、古閑も早く!どうしてそこに突っ立ってるんだ!!」
強い口調で話しかけられるが、答えることはできない。彼女は決断した。一人で逃げると。
古閑(言えなくて……ごめんなさい……!)

 

古閑は自分が人前で喋れないことを初めて後悔した。

 

涙が出てきた。涙が出てきて、それでも走った。音哉たちとは別の方向に、泣きながら無言で逃げた。
音哉「お、おい!!どうしたんだ!!」
師音「古閑さん!?」
森「抄雪ちゃん!!」
音哉たちは驚きつつも、引き返すことはできない。今更戻ったら、自分たちが死ぬ。元も子もない。古閑の無事を祈りながら、必死で山を下った。
古閑も、音哉たちの無事を祈りながら走った。
師音「だめだ!このままじゃいつか追いつかれるって!!」
音哉「そうだ……横だ!!横だ横!縦に逃げるのがダメなら……」
そう言うと音哉は進行方向を変え、さっきの古閑と同じように逃げ始めた。森、師音もそれについて行った。
音哉(そうか、さっき古閑がしようとしていたことはこういうことだったんだ……もっと早く気づいていれば)
古閑に申し訳なく思った。あいつのほうが正解だったのかもしれない。あの時気づいていれば、一緒に逃げられたはずなのに……

 

双方とも必死に逃げた。この方法が正しいかなんて考える暇もない。ただ助かろうと、助かろうと必死に前へと歩みを進め……

 
 
 
 
 

森「ここまで……逃げれば……はぁ、はぁ……」
師音「流石にここまでくれば安心だね……」
音哉「そうだな……はぁ……ぜぇはぁ……」
3人とも息切れ寸前だった。それでも、逃げ切れたのだ。ひとまず自分たちは助かったのだ。その喜びでいっぱいで……
音哉「そ、そうだ、古閑を探さなきゃ」
森「大丈夫かな……」
自分たちの安全が確保できた。あとは古閑を探しに行かなければ。
師音「とにかく、古閑さんはもう少し上のほうを逃げてるはず」
音哉「うん、探しに行こう」

 
 
 
 

古閑は目が覚めた。
どうやら気を失っていたようだ。
辺りを見渡すと、土砂崩れはもう起きていない。森だったはずの景色は、ただ地面に土があるだけの殺風景と化していた。ものすごく静かで、かすかな風の音だけがゴー……という低い唸りを立てて耳をくすぐるだけ。
古閑(助かったの……かしら)
いつも一緒にいるハトのギンも無事だった。
古閑「ギン……大丈夫だった?」
辺りの地面はどろどろで、服も土で汚れてしまっていた。自分は土砂に巻き込まれていたの……?それともギリギリ回避できたの……?どちらにせよ、今自分が生きていることが嬉しかった。
しばらく経って、班のメンバーのことを思い出した。
古閑(そうだ……みんなを探さないと)
歩みを進めようとすると、足が疲れていることがよく分かった。逃げるのに必死で、あの時は全力を出してしまっていたからかな。
それでも、今は歩けるのだから、前へと進まないといけない。仲間のいる場所へと戻ろう……そう思って重い足を持ち上げた。
古閑(みんなはもう少し下のほうへ逃げてたはず)

 

10分くらい歩いただろうか、殺風景だった斜面はだんだんと林へと変わっていく。おそらく、この場所は土砂崩れに巻き込まれてないってことか。
古閑(…………ん?)
ふと、道のように一直線に開けた場所を見つけた。それだけではない。それより驚いたのは、道の真ん中にノートパソコンが落ちていたということ。
古閑(これって……生徒の誰かが使ってるパソコンじゃ……)
デザインが自分たちの班と同じだった。まあ、自分の班のPCは音哉に預けていたので持っていないんだけども。
古閑(中身……確認しても大丈夫かな)
持ち主を調べるためにパソコンの電源を入れた。
風が冷たく、手がかじかんで震えているのが分かる。それに気づいた瞬間、全身もぶるぶる震え出した。出発した時の天気とは一転、空は暗い雲に覆われている。雨が降り出してもおかしくないくらいの空だった。
古閑(あっ、起動が終わったみたい)
読み込みが遅くて微妙にイライラするこのノートパソコン、いろいろな場所を調べてみると、案の定……次郎のファイルがあった。
古閑(やっぱり……どこかの班のものみたい)
いろいろ調べてみたが、班のメンバーはどこにも書いておらず、持ち主までは突き止められなかった。
古閑(とりあえず、持っていってみよう)
音哉たち3人を探すべく、このパソコンの持ち主を探すべく、永遠に続くようなこの道のりを前に進んで、進んで。

 
 
 
 

自給自足サバイバルレース(4)~譜面と食料~

こちらは2班。
Felix「見ろ!前に誰かいるぞ」
谷城「あれ!?前にいるのって4班のみんなじゃ……?」
高砂「えっ……まさかの同クラス内で衝突が……」
谷城「……やっぱりそうですよ隊長!あれは4班です!」
Felix(もうツッコむのも疲れた……)
近づいてくるのは……そう。優、笹川、涼介、近江原の4人だ。ということは、クラス内での譜面交換ということになる。

 

優「……あれ?もしかして2班……?」
谷城「わー!優ちゃんだー!」
優「おぉ~!ちなっちゃんだ~!!」
二人がいきなり走り出して、お互いの手を合わせるとわーわー盛り上がっている。
他のメンバーが歩いて追いかける。

 

高砂「ありゃ、先に行っちゃった」
照美「それで、最初は誰が譜面を……?」
Felix「誰かやりたい奴はいるか?」
…………。
照美「じゃあ私が」
Felix「そうか。じゃあ頼んだ」

 

近江原「さて、それで俺たちの班は誰の譜面を出すの?」
笹川「アイが一番乗りに出すのだ!」
それを聞きつけた優がこちらへ飛んできた。
優「ちょーっと待ってちょっと待って!アイちゃんの譜面は最後のほうに回したほうがいいと思うんだ~!(汗」
笹川「どうしてなのだ?」
優「そ、それはね…… あ、あの、最後の切り札にとっておく……みたいな??そう言う感じの!(汗」
笹川「さいごのきりふだ……分かったのだ!アイの譜面はさいごのきりふだにとっておくのだ!」
優「そ、そうだね……!!(汗」
とても慌てた様子で笹川の発言を制していた。涼介が気になって優に問う。
涼介「どうしてそこまで必死に止めたんだ……?」
優は笹川に聞こえないよう、小声で話した。
優「アイちゃんの譜面って見たことない……?」
涼介「無いな……」
優「いや……その、なんていうか……すっごい言いづらいんだけど……」
涼介「要するに……ヒッドイのか」
優「まあそういうことなの……」
今はサバイバルレース。生死を分けるレベルの勝負どころに来ているのだ。できるだけクオリティの高い譜面を優先すべきだ。笹川には申し訳ないが、今の状況で堂々と出させるわけにはいかなかった。
近江原「それで……他に自信のある人は……?」
当たり前かもしれないけども、誰も手は上がらない。
涼介「もうじゃんけんでいいだろ?」
優「おk」
近江原「そうだね」
笹川「アイの譜面はさいごのきりふだ……!!(ワクワク)」
アイ以外の3人でじゃんけんをすることになった。
3人「最初はグー……じゃんけんポイ!!」
3人「あいこでしょ!!」
3人「あいこでしょ!!」
近江原「あ、勝っちゃった」
優「じゃあ、丞くんに任せるね!」
涼介「それでいいと思う」
じゃんけんの結果、近江原の譜面を出すこととなった。

 

照美「それじゃあ、交換ね」
近江原「うん。よろしく」
お互いのPCを交換し、お互いの譜面を遊ぶ。
照美「えっと……近江原の曲は……」
近江原の曲は『ぼくらの16bit戦争』だ。
序盤中盤はBPMの倍取りも無く、単純で比較的簡単な譜面が続く。サビは王道の『1020112010210120,』やその応用パターンを多用している。最後はHS2がかかり、トイマチックパレードのような見た目8分が続いた。

 

そして照美の譜面は……『tic exe』。
序盤から感じたのは、音取りの正確さ。そして意外性のある配置。近江原自体はこの曲を知らなかったのだが、ここまで個性のあるような配置であるにも関わらず、曲と完全に一体化しているような音取りになっている。
中盤以降は高速BPMの中、長複合がやってきた。難しくてうまく捌けなかったが、後でオート再生してみると完璧にマッチしていた。

 

お互いの譜面をよく味わった上で、感想とコインの交換の時間だ。
実際に遊んだ近江原と照美の意見を参考に、各班で何枚をあげるか相談した。
涼介「こっちは準備できてる」
谷城「こっちもOK!」
近江原「よし、じゃあ交換だ」
照美「まず私から感想言っていい?貴方の譜面についてだけど、結論から言うなら……まあ悪くないと言ったところかしら。良かったところとしては、まず、ゴーゴー部分の配置で芯がしっかりとしているところ。王道の配置で行ったというのは良かったと思う。それに、最後の倍速も個性が出るという点ではプラスになったわ」
近江原「ふむふむ……なるほど」
照美「私なりに見つけた改善点としては、サビ以外の配置が単純すぎるということ。難易度も抑えすぎな気がするし、BPMが遅めだからこそ、配置のバリエーションにはもっと気を配ったほうがいい」
近江原(結構さっぱり言われるもんだなぁ…… でも、すごい具体的で勉強になる)
照美「多数から『良譜面』と言われるためにはあと一歩、というところね。これからの期待も込めて、貴方たちの班にはコイン2枚ということにしました。なんだかすごく上から目線になっちゃったけど、これはあくまで私たちの偏見でしかないから、もっといろいろな人から意見をもらうといいわ」
近江原「あ、ありがとう……」
どちらかと言うと、説明の的確さというものを感じて唖然としている。
近江原「それじゃ今度は俺から。とっても素晴らしい譜面だった! 難易度は高かったけど、曲と譜面がピッタリ合ってるし、それでいて意外性のある音符の置き方だった。俺はあまり次郎をやってないからこれくらいしか言えない、でも、とにかくすごい譜面だった。コイン3枚だ」
班のメンバーと話しているうちに思い出したが、照美の部活は次郎部なのだ。どうりで譜面のクオリティが高いわけだ。これじゃあ勝てないはずだ……
照美「ありがとう。これからもお互い頑張りましょう」
いつもは感情をあまり外に出さない照美から『ありがとう』と言われると温かみを感じる。
近江原「うん。それじゃあ」
谷城「じゃーねー!」
笹川「さらばなのだー!」
お互いに別れの挨拶をし、お互いの無事を祈り、別々の方向へと向かっていった。

 

【現在の他班コイン】
1班…1
2班…3
3班…0
4班…2

 
 
 
 

この譜面の交換を、リンノヴァの2人はこっそりと見ていたようだ。
ノヴァ「とりあえず、生徒たちが何をしているのかは完全に把握できたわ。問題はここから。生徒たちにこのようなことをさせる教師陣は、一体何をたくらんでるのかってことよ」
リン「そうだね」
ノヴァ「でも、教師らしき人物はまだ一人も見てないのよね……」
リン「ここじゃない、遠くにいるんじゃないの?」
ノヴァ「そうなると面倒なことになるわね」
リン「……」
ノヴァ「あ、そうよリン!こういうときに疑うべきは無線よ無線! 教師たちが無線通信を使って会話をしている可能性もあるじゃないの!」
リン「訓練で習ったこと丸パクリじゃんー……」
ノヴァ「い、いいのよ!//実際に役に立つからこそそういう訓練してるんでしょ?!//」
ノヴァはリンに、穏やかな声ながらも鋭い指摘をされていつも動揺してしまう。どちらかというとリンの面倒を見るお姉さん的立場のノヴァだが、意外とおっちょこちょいなのだ。
作戦通り、ノヴァは小型の通信機を取り出して粗探しを始めた。装置についているつまみをキュッキュと雑に回しつつ、さっきの指摘もあってか、若干焦りながら調べている。
ノヴァ「ぬっ………………全然見つからない」
まあ、教師陣が常に連絡し合っている訳ではないだろうし、もう少し様子を見なくては。
リンはその様子を不思議そうにぼーっと見つめていた。

 
 
 

こちらは2班。照美の活躍によってコイン3枚を勝ち取った彼女たち。道を歩いていると、何やら怪しい車のようなものを発見する。
谷城「なにあれ!?」
Felix「まさか」
高砂(やっと屋台が来たか……?)
照美(……)
少し察しがついていた生徒もいたようだ。どうやらコインで食料を買うことのできる「屋台」を見つけたようだ。
しかし、ごく普通の屋台ではない。さらに近づくと、妙な音が聞こえてくる。妙にノリノリで、ヘンテコな、とても聞き覚えのある……

 

\テッテレー--↑テレ↓wwwテレレレッ↑wwテレレッ↑wwwwwwwwww
テッテレー--↑テレ↓wwwテレレレッ↑wwテレレッ↑wwwwwwwwww/

 
 

南沢「おい、まさかのまさかかよ……」

 

谷城「そうみたい……」

 

その屋台の中にいたのは、まぎれもない、あの人だった。

 

「ハイーいらしゃイ!インド料理店、Spice Masters MEGAだヨ!」
\テッテレー--↑テレ↓wwwテレレレッ↑wwテレレッ↑wwwwwwwwww
テッテレー--↑テレ↓wwwテレレレッ↑wwテレレッ↑wwwwwwwwww

 

南沢「やっぱそーじゃねーかーーーーーー!!!wwwwwww」
Felix「わざわざインドカレー屋がここに……」
MEGA「こうちょ先生に呼ばれたんだヨ、面白ソウだから……Okayしたネ」
このインド人の店員さんは、いつしかMEGAというあだ名で呼ばれるようになっていた。
森の中にこんな屋台があっても、全く雰囲気がマッチしない。むしろ違いすぎてめちゃくちゃ目立っている。インドカレーじゃなくても、他に出す屋台はあるはずなのに、どうしてkou長は……
谷城「細かいことはいいからさ、何か食べよ食べよ!」
Felix「時計を見るとまだ太陽の南中にはまだ早い時間だが、これから先、別の屋台が見つかる保証はない。早めの昼食といくか」
照美「私もそれで構わない」
南沢「賛成!」
Felix「よし。それで、何がいくらで買えるのだろうか……」

 

科金表
カりーアソドライス @2
ナン @1
うッシ一 4人前 @1

 

MEGAさんらしい、微妙に日本語に不慣れな感じの書き方だった。おそらく@みたいな形のがコインを表しているんだろう……
南沢「お、おう……」
谷城「上がカレーアンドライス、真ん中はナン、それで一番下は何!? ウッシー!?」
Felix「違う。ラッシーだ」
照美「おそらくラッシーね」
谷城「ラッシーって何!?!?」
照美「分かりやすく言うなら、ヨーグルトに似たような感じかしら」
谷城「へー、飲んでみたい!」
南沢「今は無理だろ……」
谷城「ふぇ?」
Felix「今はコインに余裕が無いんだ、カレーとナンを注文した方がお腹はふくれる」
谷城「えーーー」
Felix「それでも、カレーとナン1人前だからな?全員分足りるわけがない」
南沢「そうそう」
谷城「ねえMEGAさん!少しくらいいいでしょ?コッソリタダでくれたっていいじゃない!」
MEGA「ダメダメ!」
谷城「大丈夫だって!他の班もいないんだし」
MEGA「こうちょ先生がいつも監視してるーネ、ズルしたら大変なことになるヨ」
谷城「大変なことって?」
MEGA「シゴトでズルしたって、ムリやり裁判所に訴えられるネ!もしかしたら死刑になてしまうカもしれないヨ!!」
あの先生のことだ。そんなの冗談だろはっはっはー、で済ませる事が出来ないのが怖いところである。
Felix「まあ、俺は昼食くらいは食べなくたってなんとかなる。3人で食べるといい」
南沢「俺も昼食べないことくらいあるし、平気だ。2人で食ってくれ」
谷城「え!?いいの!?」
照美「本当にいいの?私は流石に頂いておく。この先何があるかわからないし」
Felix「お前たち女子が空腹で動けなくなるのが我にとっては一番面倒だ」
南沢「同感」
谷城「ありがとう!それじゃ早速注文してくる!」
照美「ありがとう」
谷城はコインを受け取ってカウンターへ突っ走っていった。

 

MEGA「チュモン決まったかい?」
谷城「はい!カレーアンドライスとナンで!」
MEGA「カリーアンドライス、ナンねー、チョっと待てね、今作るヨ!」

 

さっきの譜面のついての話などをしていたら、料理はあっという間に完成した。

 

MEGA「ハイお待ち!」
谷城「やったー!美味しそう!!」
MEGA「いろんな人からHotすぎるて言われタから、少しハチミツ入れテみたヨ」
南沢「そうだったのか」
どちらにせよ、今のこの状況で辛さなんて気にしている余裕はないが。

 

谷城「いっただっきまーす!」
照美「いただきます」
食べる前から、カレーの“香ばしさ”というものが伝わってくる。やはり本場のカレーは桁が違う。
ぱくっ
谷城「……なにこれおいしい……!!」
照美「確かに。味が濃いのに飽きさせないような味」
どんどん食べたくなるような、クセになるような味だ。それでいて、飽きがこない。それが不思議だった。
MEGA「喜んでくれると、嬉しいネ!」
Felix「2人とも、食べ終わったら呼んでくれ。俺たちは向こうのテーブルでこれからの作戦を立てる」
照美「わかったわ」
谷城「ラジャー!隊長!」
Felix「はぁ……」