小説/12話「宿泊・第二篇」

Last-modified: 2020-04-26 (日) 17:27:08

12話「宿泊・第二篇」

作:てつだいん 添削:学園メンバー

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カレー作り(2)

~1班~
音哉「いやー、師音のおかげで助かった。綺麗な水をどうやって作るか困ってたところだったから」
師音「こういうのは好きだからさ」
今まで何があったかを説明しよう。最初に言った通り、この研修は“自給自足”がテーマだ。できるだけ自分たちの力で料理を作るという目的で、綺麗な水の用意はされていなかった。
そう。湖の水を汲んできて、各自でなんとかして料理に使えるように浄化ァァ↑しなければならない。
方法が思いつかずに困っていたところで提案をしてきたのが師音だった。彼……ではなくて……彼女は『蒸留』というアイデアを持っていた。水を一旦蒸発させ水蒸気にしてからそれを冷やす。そうすることで、水の中の混合物と分離させることができる。理科だ……完全に理科だ……
容器を探すのは大変だったが、水蒸気が貯められそうなフラスコに似たガラス瓶があったので、容器を湖の水で洗ったり火にかけたりして今できる全力を尽くしてきれいにしてから、蒸発させた水蒸気を溜める。
その後、火を消して放置すると温度が下がってくる。再び水が液体として出てくる。いつもは水道の蛇口をひねるだけでいいのになぁ……清潔な水が簡単に手に入るというありがたさを改めて実感した時であった。
水の準備だけで40分ほど!!大丈夫。まだ時間はある。さあ、ついに具材を入れていこう。

 

森がお気の毒に自爆(俺何もしてないよな!?)してしまったので、班のメンバーは3人になってしまっていた。このままなんとかして3人のままカレー作りを進めるはず、だった。そうしたら、木ノ瀬先生が助っ人を呼んできてくれた。
木ノ瀬「3人だと難しいだろうから、他クラスから余ってる奴を連れてきた」
音哉「よっしゃ!」
でかした。森がノックダウンしている間は助っ人に協力してもらおう。

 

劉「えっ先生? ワレが何故ユエに此処へ!?」

 
 

……。
おまえかーい!!
アンタ、歌唱大会でDaisukeを歌った2組にアイツじゃないか!!

 

音哉(よりによってこいつか……)
劉「というわけで、よろしゅう」
音哉「あ……よろしく」
師音「よろしく」
古閑(…………。)
カレー作りが進むに連れて、状況がカオスになってきた。古閑は自分の役割が終わったと判断したのか、湖の近くへ行って座っていた。劉は割とテキパキ働いてくれる。僕の仕事が無くなりそうだからそこまで張り切るのはやめてほしい()

 

そして師音は火に向かってうちわをぶん回しながら『ウワーーーーーwwww』と唸っている。反応の仕方に困るが……無意識のうちにあんな声上げてるわけじゃないよな……
何をしていいか分からなかったので、ご飯が炊けるまで師音の謎の唸りを冷たい謎の目で見ていた。

 

師音「ウワーーーーーwwww」

 

音哉「……………。」

 

師音「ウワーーーーーーーーwwwwwwww」

 

劉「………………。」

 

師音「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

古閑「…………………………。」

 
 
 

劉「▂▅▇█▓▒░(’ω‬’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああああ!!」

 
 
 

師音「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwォ」

 
 
 

暇になりすぎたのか、劉が切り出した。
劉「そろそろ火から離そうぜ卍」
師音「……あっ」
我を忘れるように単音のお経を唱えていた師音は、やっと気付いた。
ほかほかのご飯!美味そう……美味そうだ!
炭火で炊いたご飯からは、いつもは感じられないようないい香りがしてくる。思わずヨダレが出てきそうだ……ほんのちょっぴり焦げた匂いがするが、これくらいが香ばしくて良い。これこそが炭火炊きの醍醐味といったところだろう。お米の美味しい炊き方、そしてお米を食べることによるその効果。今、習得し侍りぬ。
さて、文字数を稼ぐためのライスレビューはこれくらいにしておいて……
師音「ご飯火から下ろすよー」
そう言って、師音はご飯の入っている熱々の鉄の容器を薄い軍手1枚だけで持ち上げようとした。

 

師音「ア゛ツ゛ゥ゛イ゛!゛」
ガラッ

 

熱くて思わず手を離した。鉄の容器が……!!
劉「ご飯が危険……!!」
音哉「あーーーっ!!」

 

ガランガタガタガタガタ……
師音「……!!」
音哉「…………。」
落ちなかった……鉄の容器はこぼれそうにバランスを崩したものの、がらんがらんと回転して、なんとか止まった。
師音「よ、よかった……」
ここでご飯をこぼしていたら、カレーは全部台無しだ。師音は皆から見捨てられていたであろう。本当に奇跡だった。
音哉「ほらもっと軍手使わないとダメだろ……」
師音「ごめん……」
照美「…………。」
まあ結果オーライだ。落ち込まず、次の作業だ。俺たちには、さっき勝ち取った肉がある。この肉は木ノ瀬先生がまとめて焼いてくれたらしい。そして焼かれた状態の肉が各班に均等に分けられた。

 
 

~そして時は流れ~

 

古宮 (俺の出番が全然ねぇ!!)

 

作者もカレー作りの場面を描くのはおなかいっぱいだし、読者の皆さんもそろそろイライラしてきそうだという頃なので、ここからはカッキリと飛ばして、カレー完成までカットしてしまいましょう。

 

古宮「俺の出番があああああああ」

 
 

カ レ ー 完 成

 

笹川「できたのだ!」
優「うげっ……うがっ……疲れた……」
涼介「うーわちょっと焦げてる……」
各班、カレーは無事に出来たようだ。その出来の良さは別として。その出来の良さは別として。(大事なことなので2回ry)
師音「やっとできた……」
音哉「いろいろ危なかったけど、無事完成だ……」
Felix「これは……美味しそうな香り!」
照美「私たちの班は上手くいったみたい」
谷城「おいしそう!!」
雪姫「あぁ……」
南沢「なんじゃこりゃーーー!!」
枝川「こ……これはひどい」
南沢「ジャイアンシチューみたいなのできてるぞオイ」
……とまあ、班によって天国だったり地獄だったりしているらしい。
1班のカレーは上出来だ。森がいなかったが、急遽入ってくれた助っ人のおかげで助かった。何より、楽しみながら作れたのが一番だなぁ。
2班のカレーは絶品。味見の感想を聞く限り、一流シェフが作ったかのような、濃厚で深みのある味わいらしい。これはFelixの的確な指揮があったからであろう。やっぱりさすがだ、アイツは。
3班のカレーは絶望。味見の感想を聞く限り、一流ジャイアンが作ったかのような、悪い意味で濃厚な、悪い意味で深みのある味わいらしい。その食感は沼でも飲んでいるような感覚だというわけのわからない表現が成り立つほど狂っている……ようだ。
4班のカレーは甘い。とにかく甘口。カレールーとハチミツが6:4くらいで入っているような気がするとの声を聞いた。あの班には例のふにゅ~んがいるからな……あいつは甘いの好きそうだもんな……

 

どの班も個性豊か。これでこそ作った甲斐があるってもんよ。それでは、早速いただこう!!

 

木ノ瀬「皆、テーブルに座れ」
湖のほとりで簡易的なテーブルを並べて、食事が始まろうとしている。自然に囲まれて食べる食事というのも、また新鮮な感じがするな。
……と、ここでやっと森と古宮先生が帰ってきた。
木ノ瀬「チッ……やっと帰ってきたか……じゃあ私はこの辺りで戻るとしよう」
古宮先生が帰ってくるのと同時に、木ノ瀬先生は別のクラスの方へ向かっていった。
古宮「あー酷い目に遭ったもんだぁー……ってええぇ!?もう完成してるのか!」
南沢「先生気絶してる時間長くないですか」
古宮「これでも早い方だろぉが!はぁ……いつまでツッコミを受ければいいのやら」
雪姫「木ノ瀬先生が色々とやってくれましたよ、あとで感謝しといてください」
古宮「お、おぉ、わかった」
音哉「あと、謝っておいてくださいよ」
古宮「はい? 謝る…………?」
音哉「ほら…… 焼肉の件」
古宮「ヤキニク?????」
南沢「1組から取って行っていいって言ったの先生でしょうが!あの件、木ノ瀬先生すっごく怒ってました」
古宮「あああああああああああああああやっちもうたーーーーーー!!!」
涼介「ん……???」
逆になぜ今までこの失敗に気づかなかったんだ。

 

森「あっ……音哉君たち、ごめんなさい」
音哉「あっ……森だ! 大丈夫だったのか?」
森「うん……なんとか……まあ」
音哉「かなり痛がってたし、病院行ったかと思ったぞ……?」
森「そこそこ深い傷だったし、病院に行こうって保健の先生に言われたの…… でも、こんなに楽しい宿泊研修の時間を無駄にしたくないと思って、先生をなんとか説得して戻ってきたの……」
切った指のところには、念入りに包帯がぐるぐると厚く巻かれている。
師音「そ、そうなんだ…… 本当に大丈夫なので?」
森「ううん、気にしないで」
(サラサラサラ……)
すると、古閑が珍しくメモ帳に何か書き出した。
(バサバサ……)
そしていつものごとくハトのギンがメモを森に運んできて……

 

『お大事に。これからはちゃんと気をつけて』

 

……これは!!
森「あ……ありがとう……」
古閑はよほど伝えたいことがない限りはメモ帳を書かない。今日の研修だって、まだ4回しか書いたのを見ていない。

 

古宮「さて!食事の準備は出来たか?」
一同「「「はーい!出来てまーす!!」」」
古宮「はいじゃあそれでは皆で一斉に行くぞー せーのっ」
一同「「「いただきます」」」

 

高砂「カレーだカレーだー」
谷城「お……おいしい!!」
優「ぬ!?」
笹川「甘い!うまいのだ!」
……各班ともいろいろな感想が飛び交っているようだ……
と思っていたが?
1班だけ妙に様子のおかしいところがある。それはもちろん……
3班だーーーーー!!
雪姫「さあ、これを皆さんで協力して食べるんですよ」
枝川「どうしてこんなことに……」
本当にどうしてこんなことになった。俺らが気になる。ということで、時間を少し遡って、3班に何が起こったのかを説明しよう。

 

まずは水の調達。先生の言った通り、綺麗な水は用意されておらず、湖の水を各班でなんとかして綺麗にしないといけないのだが、この3班は諦めて水を全く綺麗にせずにそのままカレーへと使ってしまった!これがまず最初の過ちであった。
次に、具材である。ずっと本を読んでいた菊池は、雪姫の指示を正確に聞いていなかったらしく、変な具材を入れてしまったらしい。今確認できるだけでも、落ち葉と虫が入っている。
何故だ……どうして間違える……
と言いたいところだが、そうだった。菊池は料理にはほぼ縁がないのだった…… 落ち葉と虫を入れるのが料理の常識なのかと勘違いでもしたのかもしれない。
最後はカレーの煮込みすぎだ。途中で分担なんてものは適当になった。雪姫にカレーの火を消すよう頼まれた南沢だが、火の消し方が分からずにあたふたしていた彼は水をかけて消火しようとしたらしい。その時に間違って大量の水がカレーに入ってしまったのだとか。おかげでカレーはぐちゃぐちゃの水っぽいシチューと化してしまった。不幸が不幸を呼んだ、地獄の料理なのである。

 

南沢「わかった……まず俺が最初に食べる」
ぶるぶる震える手でスプーンを持ち、少しでも味を軽減しようと、ごはんとカレーの比率を9:1くらいにして、思いっきり口に突っ込んだ。
南沢「…………。」

 

南沢「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!げっぶぉーはっうぅっごほん……げほっごほっうぉっ」
雪姫「南沢さん!?」
枝川「お、おい!?」
南沢「駄目だ……吐きそう」
枝川「えぇ……!?」
南沢は湖に駆け出した。そして湖の水面に向かって

 

(見せられないよ!)
ゲーッーーーーーグハッゴホッヴェっァァ……ゴホッ

 

した。
雪姫は顔が真っ青になった。
雪姫「う……嘘……」
これを何が何でも食べきらないといけない。それがカレー作りのルールだった。
南沢「ぐぅ……思いっきり吐いちまった……お腹痛い」
雪姫「大丈夫ですか……?」
南沢「どう見ても大丈夫じゃない」
カレーは緑色に染まっている。
菊池「…………。」
世界が終わりを迎えるかのような絶望感。すぐ隣からは、高級レストランにいるかのようなカレーの匂いが漂ってくる。周りとの差。食べ終わるまで逃げられない、永遠とも思われる、拷問も同然の課題……
雪姫「もう……駄目かもしれないです……」
枝川「もうここで死ぬ運命なのか……」
風紀委員の2人が絶望している。このルールを決めたのは当然kou長なので、命の危険を伴ったとしてもルールは変えてくれなさそうだ。
世界が闇に包まれた……その時だった。

 

菊池がいきなりカレーをすくって……口に入れた!?
パクッッ
もぐ……もぐ……もぐ……
菊池「…………。」
…………。
もぐもぐ……
ゴクリ

 

南沢「へ!?!?!?」
枝川「え!!!?!?」
雪姫「何ですって!?!?」
全員が驚嘆の声。なんと菊池が無表情でカレーを食べ始めたのである。
枝川「どうして……どうしてこんなものが……」
もしかすると彼女には、“まずい”という概念すらないのかもしれない。毎日もやししか食べていなかったら、たしかに味覚も薄れていきそうだ。
……いや!それでもこのカレーを無表情で食べれるなんて化け物だ!
菊池「これが料理……」
まずい。これは別の意味でまずい。菊池はこのゲキマズカレーこそが料理というものなのだと勘違いしてしまう!
ただ、皆はそんな事情も知らず、菊池が食べるのを止めようとすれば今度は自分が食べる羽目になるのではないかと怯えて、何もすることができない。人の命より自分の命というわけか……?
するとそこに、登場のタイミングを待っていたかのようにkou長先生がやってきた。
kou長「こんにちは皆さん。調子はどうですか?」
枝川「どうしたもこうしたも3班のカレーが緑色の殺人兵器と化して!!」
雪姫「校長先生、生徒を命の危険に晒してるんですよ? これは流石に無いと思います」
kou長「校長じゃなくてkou長って呼んで欲しいんだがな……」
枝川(いや発音同じだろ……)
雪姫「校長先生聞いてますか!?」
kou長「あーすまない。そこまで酷いものが出来たと?」
南沢「見ればわかります!分かりますから!」
南沢はkou長を急かして、カレーの入っている鍋のところまで連れてきた。
南沢「ほら!これですって!」
kou長はそれを見て驚いた……
……。
と言いたいところだったが……?
kou長「うむ…… これならまだ大丈夫なはずだ」
南沢「は!?!?」
kou長「実はな、たとえ毒キノコが入っていたとしても、私がとある薬を持ってきているから、死にはしないんだ」
南沢「死なない……!?」
kou長「とは言っても、本当にまずい料理というのは、そういう傷よりも精神的に来る衝撃ってものがあるだろう。その料理がトラウマになってしまうことも十分ありうる。どちらかと言うとそちらの方が心配だ」
そうするとkou長は、自らスプーンを手に取って、緑色のカレーをすくった。どうやら自分の舌で直接確かめるつもりらしい。
kou長「どれどれ……」
ぱくっ
もぐもぐ……
……。
……。
……。
…………。
………………!
……………………!!
kou長「ぬおおおおおおおおおあああああああああああああああ!!」
kou長先生が吐いた。(見せられないよ!)
kou長「う゛ぅぅぅぅぶふぇっ……」
南沢「ほらそうですって絶対に!」

 

kou長「すまない……まさかここまで酷いカレーだとは思っていなかった」
枝川「ですから! このカレーは捨てましょう!」
kou長「うむ……」
しばらくの沈黙の後、声が響き渡った。
kou長「このカレーは先生のほうで処分しておこう」

 

南沢・枝川・雪姫「「「やったーーーーーーー!!」」」

 

kou長「でも、その代わり、お昼は何も食べられないと言うことですよ?代わりはありませんから」
雪姫「それでも結構です、あんな殺人兵器を食べるのに比べたらそんなこと容易いですよ」
今は空腹がどうだとか、そんなことを考えている暇はない。これから先がどうなろうと、今ここでゲキマズカレーを食して即死するよりかはマシだ……
kou長はゲキマズカレーを鍋ごと運び、職員のいるスペースの方へ入っていった。その後カレーがどのように処分されたかは知らない。

 

南沢「はぁ……命は助かったが、腹が減った……」
雪姫「生き延びれたんだから、それだけでもいいでしょう……!そういうのをわがままって言うんですよ」
南沢「そんな強がっちゃってさぁ……普通誰でもそう思うでしょうがー」
雪姫「ですから!皆さんはそれを理解した上で黙ってるんです! 話をするたびに余計お腹が空くから!」
菊池「……騒がしいわね」
カレー騒動が収まって一件落着かと思えば、今度はお腹が空いて喧嘩を始める始末。誰だって辛いのはわかっているのに……

 

枝川「あの……」

 

南沢「黙ってて分かるわけないだろう、他人の気持ちなんて聞いてみなきゃ分からない」
雪姫「あのねぇ、貴方は他人の心を読むことができないのですか?!」
菊池「…………。」

 

枝川「こういうこともあろうかと、ビスケット持ってきてたんですが……」

 

南沢「そもそも心を読むってなんだよ、超能力者かよ、人間はコミュニケーションを取ってこそお互いを理解できるってものだろ」
雪姫「もういいです!貴方とは意見が合わないようなので今g………………」
…………。
雪姫「枝川さん今何て!?」

 

枝川「ビスケットがあるって……」

 

南沢「ビスケット!?!?」
雪姫「枝川さん……それを……私たちにも……!」
枝川「あ……はいはい」
枝川がビスケットを持っていることを聞くや否や、2人はそれを欲しいとお願いしてきた。このためのビスケット。いざという時のための。今使わずにいつ使う?
枝川は2人に丸いバター風味のビスケットを3枚ずつ分けた。
南沢「いただきまっす……あぁ腹が満たされる感覚って最高……」
雪姫「もぐもぐ…………地獄から地上に引き戻されたかのような感覚……」
枝川「ふぅ……それなら良かった。……菊池さんも食べる?」
菊池「……私はいいわ」
枝川「まあまあ、そう言わずに」
枝川は半ば強引に菊池にビスケット3枚を渡した。
菊池はとても困惑している。ビスケットって何だろう。どんな味がするのだろうか……
菊池「…………。」
初めて見る食べ物だったので少しためらいがあったが、流石に人にもらった食べ物ということもあり、一口は食べてみることにしたらしい。
ぱくっ
もぐもぐ……
…………。
菊池「…………これが……」
いつも無表情である彼女だが、心の中ではかなり驚いている。今までの味の常識を覆すような存在が、そこにはあった。まるで異次元だ。バターという食べ物の風味というのはここまで美味しいものだったのか!ビスケットという食べ物の食感はこんなにサクサクだったのか!全てが新世界だった。
彼女の脳内でレボリューションが起こっている。
彼女はもやし以外食べ物の味を知った。記憶にある中では、これが初めてだった。いや、それとも“久しぶり”だったか……?
菊池「……悪くないわね」

 

雪姫「枝川さん……ありがとうございました、とても助かりました!」
南沢「ありがとう。俺、本気で飢え死にもあるんじゃないかと心配してたけど、これなら平気そうだ」
枝川「えっ……そっ、そんな……//」
枝川はとても喜んでいる。特に雪姫に感謝してもらえたことが……(
普段は風紀委員として厳しい態度をしている雪姫だが、ちゃんと温かい対応をしてくれる一面もあるのだ。
今日の朝は動揺してばかりの枝川だったが、変わりつつある。いざという時のためにビスケットを入れてあるというのも驚きだ。几帳面というか、いや、心配性というか……

 

~1班~
さて、打って変わってこちらは1班。保健テントで治療を受けていた(+恋愛相談……?)森が、カレーが完成したというタイミングで帰ってきていたのだった。
森「……すごくいいにおい」
師音「本当にいい匂いだ……」
音哉「確かにいい匂いだ……」
古閑「…………。(いい匂い……)」
いや、早く食べろよ!なに4人揃って香りを楽しんでるんだよ!
音哉「よし、じゃあ食べるか」
ぱくっ
もぐもぐ……

 

音哉「美味い……!」
古閑「…………(すごく良い味)」
師音「これは間違いないね」
森「…………すごい……(うるうる)」
師音「!?」(森のほうを見る)
森「私がいない間に……こんなに美味しい料理が……(うるうる)」
音哉「森……!?」
森「なんでだろう…… これは感動の涙……?」
森が目に涙を輝かせながら自分に問いかけている。
感動……それだけではなかった。自分があんなくだらない理由で怪我をし、班の3人に迷惑をかけたこと、そして、この美味しいカレー作りに、自分はほとんど協力できなかったこと。いろいろな後悔や悲しみが涙となってにじみ出てきた。
泣きたくないのに……泣きたくないのに。そう思うたび、自分は自分に抗うかのように涙を流し続ける。いつしか、うるうるという表現では足りないほど流れていた。
森「ごめんなさい……本当に、みんなに迷惑をかけて……ぐすん……うぅ……」
師音「大丈夫だよ、次から気をつければいいんだ」
古閑「…………。」
音哉「元気出せって」
森「ありがとう……ぐすん……でも……でも!!……」
涙が止まらない森の隣に、何かがバサバサと舞い降りた。
ギンだ。ハトのギンだ。
古閑から何かメッセージがあるらしい。森はそれを受け取って、にじみ、ぼやけた涙目でメモを見つめる。

 

『森さんの切った野菜、美味しかったです』

 

森「えっ……?」
何気ない言葉。“たった”野菜を少し切っただけなのに。お世辞だということは分かりきっているし……と思いかけた。
だが、その“たった”を教えてくれた古閑の言葉が、森の心を動かした。
そうだった。思い出を誰かと分かち合うことこそがカレー作りの真意。それが例えほんの少しだったとしても……それでも、カレー作りというひとつの作業に貢献できたことこそが嬉しいのだ。目の前を見つめながら思う。今ここにあるカレーは、私の協力があってこそ出来たもの。どれをどのくらいやったかじゃない。参加した事にこそ意味があるんだ。

 

音哉「“4人全員”で作ったカレー、だろう?」

 

森「う……うん!」(涙を浮かべながら)

 

彼女は再び涙を流した……だが、その中に、後悔の涙は無かった。
師音「ほら、早く食べよう!」
森「食べよう……食べよう!」

 
 
 

~4班~
笹川「甘い……美味い!……これこそアイが求めていたものなのだ!」
涼介「求めていたもの……ねぇ……」
優「嫌いじゃないけど、なんかねぇ……」
いつも明るい優でさえがこのテンション。笹川のワガママに流されつつ料理を続けていたら、いつの間にかこんなことになっていたらぢい。
このカレー、なんといっても甘すぎる。お子様向けの甘口カレーよりも甘い。お菓子かよこれ!((
近江原「あの時にちゃんと止めていれば……」

 

それは今から30分前のことだった。
涼介「よし、誰か味見するか?」
近江原「じゃあ」
ぱくっ
……。
近江原「ああ、うん、このくらいが丁度いいか」
涼介「そういや知らなかったけど、このカレーって辛さどのくらいなんだ?」
近江原「まあそこまで辛くない。普通の中辛くらい」
優「よかったー!! 私辛口ムリなんだよねー」
笹川「何!? 今中辛って言ったのだ!?」
近江原「い……言った」
笹川「アイは甘口が良かったのだ……」
優「あーそうなのかー、アイちゃんは甘口か……」
涼介「甘口にしないと後でうるさそうだな……」
近江原「え、甘口にするのか」
優「仕方ないけど、そうするしかなさそうだよ」
近江原「えぇ……(反論できない)」
涼介「よし、確かハチミツが用意されてただろ、それを入れれば多少甘くな……」
笹川「ハチミツ!!入れるのだ!!」
トバシャーッ(入ってたハチミツ全部ぶちまける)

 

優「え゛!?」(顔が青ざめる)
近江原「あっ」(顔が青ざめる)
涼介「なっ!?」(顔が青ざめる)

というわけで今に至る。
近江原「甘すぎて気持ち悪くなってきた……」
涼介「大丈夫か、本当に大丈夫か?」
近江原「やばい吐きそう」
涼介「え!?僕に向かって吐こうとしてるわけじゃないだろう!?」
近江原「やばいもう限界かも」
涼介「とりあえずあっちで吐いてこい……!」
涼介が近江原を後ろに振り向かせる。
優「ぎゃーー!!なんで私の方向けるの!?」
笹川「なんなのだ!?」
涼介「全部アンタのせいだろうが!」
優「あーもう分かんない!!ww」
近江原「うっ……!!!」

 

近江原「うぷ……ぐふ」

 

近江原「うっ」

 

近江原「喉まで昇ってきてたもの、飲み込んじゃった」
ズコー

 
 

~2班~
絶品だ!高級料理だ!最高級のビーフカレーだ!!
Felix「完璧だろう」
照美「これは絶品」
谷城「しゅごい……美味しすぎて言葉が出ない……」
高砂「なにこれすごい……」
流石だ。Felixの的確な指導によって、絶品カレーが完成した。
もう高校生が作ったなんてレベルじゃない。これは偶然なのか……?それとも、Felixの実力……それとも、この班の他の誰かが料理上手とか……?
古宮「なんだこの絶品カレーの匂いは」
高砂「どうして先生が来たんだ……」
古宮「いやー、あまりにも美味しそうな匂いがしたものでしてぇー、あのー、もしよかったら……あのー、」
谷城「あの?」
古宮「そのー、」
谷城「その?」
古宮「カレーを……」
谷城「カレーを……?」
古宮「味見させてもらえないk」
谷城「無理!!」
古宮「解せぬ」
Felix「焼肉の件、聞きましたよ。古宮先生いろいろやらかしたそうじゃないですか」
古宮「それかよ!そのせいで俺は食えないのかよ!」
高砂「代わりに3班のカレーでも食べておけばいいと思いますよ」
古宮「3班?」
高砂「はい。あの班のカレー、すっごく美味しい()らしいですから。本当にすっごく美味しい()()らしいので、本当に」
谷城「すーっごく美味しい()()()らしくてぇ」
古宮「うーむ、わかった。みんながそう言うなら、3班のカレーも試してみるか」
谷城「先生、いってらっしゃーい!」
照美「本当にあれでいいの?」
Felix「いいんだ。あれくらいは当然だ」

 

その後、食事時間中に古宮先生を見た者はいなかった。

おひるね。

さて…多分今日一番の謎なイベント、おひるねの時間である。
布団やベッドなどの良いものは無いので全員雑魚寝…となりそうだったが、いつの間にか作られていたハンモックに全員寝ることになった。
…なったのは良いんだけど…

近江原「ひーふーみーよー…あれ?4つしかない?」
古宮「すまん!競り負けてこれしか手に入らなかった!」

 

古宮先生が言うには、kou長がハンモックを用意したのはいいのだが、圧倒的に不足しており先生達による争奪戦となったらしい。
そして出遅れた古宮先生が手に入れられたのはたった1つで、残り3つは木ノ瀬先生が手に入れて持ってきたとのことらしい。
つまり4つ丁度しかないので先生が下した決断は…

 

木ノ瀬「とりあえず班で固まって寝ろよー」
…あっさりと凄いことをおっしゃる。
そして思考回路がフリーズしている所に涼介がトドメをさした。
涼介「据え膳食わぬは男の恥だよ」
…アンタそんなこと言っていいのかよ…
木ノ瀬「今言った言葉本当か?」
涼介「本当ッッって……軽く言っただけなのに…どうしてわざわざそこまで念を押すんですか?」
木ノ瀬「自分が言った言葉の重み分かってないだろ」
涼介「????????」
一瞬何を言ってるのかが理解できなかったが、その後すぐに気がついた。

 

笹川「ふにゅっ」

 

涼介「ああああああああああコイツの事は完全に死角だったああああああああああああ」
木ノ瀬「さて」
笹川「旦那様!ハンモックで一緒に寝るのだ!」
木ノ瀬「据え膳食わぬは男の恥……そう言ったね?」
涼介「いや、それは……その、コイツだけは例外で」
笹川「旦那様!!」(涼介に向かって走ってくる」
涼介「まずいっ」
涼介は一目散に逃げ出した。彼はおひるねの時間中笹川に追いかけ回され、眠ることができなかったという。

 

他のメンバーはというと、流石にハンモックで男女混合は抵抗があるようで、一部のメンバーがハンモックを占領して、残りのメンバーは雑魚寝ということになった。

 

空を見上げると、雲は一つもなかった。ここは少し山を登った上の辺り。気温は暑すぎず寒すぎず、それでいて風もあまり吹かず。日陰にいるので、太陽の光も眩しいというほどではなかった。最高のおひるね日和だった。

 

スヤァ……

班対抗カヌー大会

 

お昼寝の時間が終わり、生徒たちは再び整列を始める。カヌーと聞いてやる気満々に歩いてきた生徒もいれば、目をこすりながらむにゃむにゃと起きてくる生徒もいる。目をこすりながらふにゅふにゅと起きてくる生徒もいる。
優「アイちゃんって寝ぼけてるとこうなるんだ……」
続いてのイベントはカヌー大会。午前と同じく、整列を終えた生徒たちの前にkou長が立ち、話を始める。
kou長「ご、ごごご、ごっほんw えー、諸君おはよう。よく眠れたかね」
音哉「喋り方がム○カだw」
kou長「流行りの服は嫌いですか?」
音哉「アウトだろもうww」
kou長「えぇー、冗談はさておき、今度はカヌー大会ですね!張り切っていきましょう!」
一同「「「うぇーーーーい!!」」」
寝起きのせいか、歓声が少し眠そうだ。なんか草が生える。
しかし、その眠気もつかの間。次の一言で、このカヌー大会もただのイベントではないことが明かされる。
kou長「改めて、このイベントの正式名称、それは……『サバゲー部プレゼンツ・湖上カヌーバトルロイヤル』!!」

 

なんだそれは!?

 

いつものごとく、あたりがざわざわ騒がしくなる。
次郎勢学園は全てが期待を裏切らないクレージーさで溢れている。何度も驚きすぎて疲れてしまうほどだ。

 

kou長「それでは、どのようなことをして頂くのか、このイベントの担当者である用務員さんにお話ししていただきます」
一同「「「主催が用務員さん!?!?」」」
用務員さんがみかん箱で作ったステージに上がる。
用務員さん「そうです。この大会は俺が主催です。もといサバゲー部が主催です。今回はサバゲー部の活動内容に似たことを皆さんに体験して頂こうという趣旨で開催しました」
枝川「ついに来たか……」
南沢「そっか、枝川はサバゲー部だっけ?」
枝川「うん。ついでに部長なんだ」
南沢「What!? え、本当!?」
枝川「入部当時、あまりに部員がいなかったものでね」
近江原「今まで知らなかったぞ?」
用務員さん「はい。それではルールを説明したいと思います。1度しか言わないので集中して聞いてもらいたいです」

 

辺りは静まり、静寂の空気を切り裂くように説明が始まる。
用務員さん「まず、皆さんは湖で班ごとにカヌーに乗ってもらいます。つまりは4人乗りです。そして、班に一丁ずつ、銃を貸します」
雪姫「それは……どういう銃?」
用務員さん「実銃」

 

!?!?

 

背筋がゾクッとした。殆どの生徒たちは恐怖に駆られて怯えていた。

 

用務員さん「はははっ、そこまで怖がらなくていいだろ。死にはしねぇって。科学の力で、実弾が当たっても大丈夫なようにしてある」
なんだ……そういうことなのか……って当たっても大丈夫ってどういうこと!?
サバゲー部のことをよく知らなかった誰もがそう思った。
用務員さん「詳しいことが知りたけりゃ、是非サバゲー部に入部してくれ。んで、ルールの続きだな。あ……敬語だと改まりすぎか……?普通に話そう。全員の準備ができたらゲームスタート。言ってしまえば、湖の上で撃ち合いをして、最後まで生き残れるか勝負してもらう。この弾は当たっても死なないが、当たった瞬間に身動きが取れなくなるのでカヌーはすぐさまバランスを崩して湖の中にバシャーンだ。これも安心してほしい。湖に落ちたら溺れて死ぬなんてこともさせない。落ちたら自動的に陸にリスポーンするシステムを完備している」

 

この学園はやたらすごい技術を持っていやがる……
これほどの技術が何故学園外に漏れていないのか……?

 

用務員さん「最後まで残った班が優勝だ。優勝した班は一人一枚ずつ、あの大手ゲームメーカー・バン○○○ムコのゲームソフト引換券がもらえる」
商品が豪華!!これはやりがいがあるぞ……
用務員さん「ちなみに優勝商品は俺のおごりなんだぜ」
涼介「いいのかそれでw」
優「え……w」

 

用務員さん「これでルール説明は以上。それじゃあ早速準備を始めてくれー!」

 

バトルロイヤルか……生き残り戦だ。ただし、普段から銃の扱いに慣れているサバゲー部は圧倒的有利かもしれない。いや、カヌーを漕げるかどうかも問題のひとつ。ただ単に銃撃が上手いだけでは優勝は勝ち取れない。
誰が勝つかは分からない……

 

生徒たちがワイワイと準備を始める中、先生陣はまた別の作業を始めていた。
kou長「この時間だけは用務員さんに任せられますね。それでは私は例の調査を始めてきます」
古宮「はい。よろしくお願いします」
木ノ瀬が古宮の隣にいるが、古宮は気づいていないようで、いつものように暴走はしていないようだ……。
木ノ瀬「しかし、kou長、ここに来るのは面倒ではありませんか?流石に安全な場所とはいえ、ここではデータの収集に多大な時間を要します」
kou長「そのためのDレーザーでしょう。今回のカヌーはそのテストも兼ねているんです。もしこれが成功したら、もっと簡単に空間移動ができるようになる」
古宮「なるほど……そういうことだったんですね!今まで理解があやふやでしたが、やっと納得できました」
木ノ瀬「この研究がもう少し進めば、月への移動も不可能ではないと」

 

kou長「その通り。次郎勢学園は間もなく宇宙規模へと発展する。これはその第一歩に過ぎない」

 
 

この言葉を聞き逃さない生徒が一人いた。

 

Felix「先生、今、なんて?」
古宮「へぬっ!? 何故お前がここにいる!?」
Felix「別にここに来ちゃいけないなんて言ってませんよね?」
古宮「ここは教員のスペースだろう、しかも今はカヌーに向けての作戦会議の時間のはずだ。どうして班を抜け出してここまで来た?」
Felix「怪しいと思ったからですよ。さぁ、宇宙が関連していると聞きましたよ。どういうことか、説明してもらいましょうか!教員間の秘密は、生徒にも知る権利があるはずです!」
木ノ瀬「そんなことできるわけないでしょうが!」
古宮「教員内でしか話せない内容というのはどうしてもあるもんだ!」
Felix「そこが妙に怪しい。ここは学園の組織のはずです。そんな話し合いにいきなり宇宙なんて違和感がありすぎます。ましてや、月への移動なんて……」
木ノ瀬「チッ、そこまで聞いてたのか……!」
Felix「さあ、もう言い逃れはできませんよ、真相を明かしてください」

 

kou長「まあまあ、待ちたまえ待ちたまえ。確か、フェリックス君だったかな?」
Felix「俺の名前を知っていると……?」
kou長「知っているとも。成績は優秀、多言語を操り、様々な分野において幅広い知識を持つ生徒だと」
Felix「言語は親の影響もある。自然に覚えただけだ」
kou長「とにかく、これだけは断言しておこう。次郎勢学園は、ただの平凡な学園ではない。ただ、何が起きているのかを説明するわけにはいかない」
Felix「そんな……」

 

kou長「……と言いたいところだが、君……いや、君たちに少しばかりチャンスをやろう。 実は、私もカヌー、そして銃撃戦は得意だ。だから、誰か、私と勝負しようではないか」
Felix「ほう」
kou長「君でなくても全然構わない。とにかく、君のクラスの誰かが最後まで生き残って、優勝することが前提条件だ。もし別のクラスが優勝したのなら、この話は無かった事にする。最後の1チームまで残ったら、ここから向かい側の池のほとりに来い。そこで私のカヌーと直接対決だ」
Felix「ほう……この大会で優勝し、そのままあなたにも勝つことができれば全て話すと」
kou長「その場所で待ってるぞ。期待している」
そう言って、kou長は別の場所に行ってしまった。

 

Felix「皆の共、ひとつお願いしたいことがある」
そう言って、彼はクラスメンバー全員に今の話の流れを説明した。
すると、ここで自信満々に名乗り出たのは……そう、枝川だった。彼は“自信がある、優勝してみせる”と宣言した。
Felix「そうか……枝川はサバゲー部だったっけか?頼もしいな。俺もできなくはないが、優勝とまで言われると怪しくなってしまう。助かった」
枝川「サバゲー部のイベントなんだ。サバゲー部が頑張らないでどうするんだっての」
こうして、kou長との対決を懸けた優勝は、枝川が目指すこととなった。
学園に今まで以上の謎が隠されているとすれば、それを暴くのは今回しかあるまい。

 

kou長「フフフッ、楽しみだ」

 

枝川「よし。少しばかり準備をしておこう」
Felix「とはいえ、我も優勝は本気で狙わせていただく。容赦はしないからな」
各班はゲームのスタートに向けて準備を始めた。

 

その頃、こちらの様子を茂みから隠れて伺っている2人がいた。
???「ねえ、リンたちの出番が少なくなってるような……」
???「だって、今までやることなかったでしょう?生徒たちは歌を歌ったりカレー作ったり、しまいには昼寝までしてたのよ!?これのどこを調査すればいいってのよ!」
???「リンもカレー食べたかった……」
???「仕方ないじゃない!」
???「うぅ……ぅ……」
???「あー……もうわかったから!後で食堂にでも連れて行ってあげるから、その時に好きなものを食べなさい!」
???「カレーあるの?」
???「うーん……きっとあるんじゃない?」
???「無かったらどうするのさ……」
???「あるわよ……、きっとある!」
???「ほんとに?」
???「カレーは定番中の定番なんだから、無いわけがないじゃない!」
???「そうかなぁ……」

 

???「それはさておき、聞いた?さっきの言葉」
???「さっきの?」
???「ほら、校長先生が行ってた言葉」
???「忘れた…… でもノヴァ、あの人は校長じゃなくてkou長だよ?」
???「細かいわね!なんで肝心なところ覚えてないでそんなこと覚えてるのよ!っていうかどっちも発音同じでしょうが!(焦」
???「ノヴァ、声大きくなってる」
???「はっ……つい……///」
???「もー、これでバレたらどうするの……」
???「ご……ごめん……/// ……って、それはさておき、宇宙がどうとか言ってたでしょ?」
???「宇宙かー、面白そう」
???「まさかとは思うけど、この学園は宇宙研究でもしている場所なのかしら?」
???「大学みたい……」
???「まあ、もう少し様子を見ないと分からないわね」

 
 

数十分が経った。教師たちが、各班に銃を配り始めた。一班につき一丁だ。
しかし、これは実銃だ。本物の銃なのだ。ほとんどの生徒は、怖くて持つことすらできないでいた。
照美「本物なのよね」
音哉「いくらなんでも怖すぎないか……?」
カチャッ
枝川「これでよしっと」
音哉「枝川!?」
枝川「サバゲー部では日常茶飯事。そんなに怯えることはないよ」
雪姫「嘘でしょう……!?」
枝川はその証拠として、自分の額に銃口を当て……
音哉「おいおい、正気か!?」
谷城「やめて!!」
バンッ
いきなり引き金を引いた。

 
 

でも、目を見開くと、少しの煙の後、生徒たちの目の前にあったのは死体ではなかった。
そこには無傷の枝川がしっかりと立っていた。
枝川「ほら。多少の痛みはあるが、こんなものなのさ」
優「なんだ……安心した……本気で心配したじゃん……」
枝川「こうでもしないと、みんな信じてくれないかなと思って」
これが唯一の方法だった。許してくれと彼は言った。
高砂「これで実銃が安全だということが証明されたんだ。よっしゃーー!!実銃だーーーー!!」
優「妙にテンション高いね…………??」
高砂「ぁぁ、ぁぁぁなんでもないです」
Felix「よし。我がグループもそろそろカヌーに乗り込むとするか」
谷城「はーい!」
森「それじゃあ、私たちもそろそろ……」
音哉「そうするか」

 
 

こうして、準備は整った。

 

開始直前に渡されたトランシーバー。これを使って教師から連絡を受ける。
早速トランシーバーから通信が入って……
古宮「準備できたかー」
音哉「ばっちりです!」
古宮「はぁ……結局バランス補助大量に使っちまった」
優「仕方ないですって……カヌー経験者はほとんどいないのですから」
古宮「だからって、練習でここまで何度も転覆するとは思わなかったぞ!」
師音「これが普通だと思う……」
古宮「というわけで、補助というのはカヌーの横の羽のことだ。これで初心者でもバランスを保ってカヌーを楽しめる」
近江原(ダサくね!?)
南沢「しょうがないかぁ、これに頼っておこう」
各班は湖のいろいろな場所に散らばり、開始と同時には撃たれないように、お互いに距離を置いて待機している。

 

古宮「俺たちのクラスは全員準備完了か?」
涼介「大丈夫です」
古宮「kou長、3組はもう大丈夫です」
kou長)「了解。…………よし、他のクラスも準備完了のようだ。さあ始めよう」
古宮「それでは、健闘を祈る!」
kou長「最後の一隻まで行き残れ! ゲーム開始まで……

 

5、4、3、2、1……! START!!」

 

ついに始まった。さあ漕いで!漕いで!
音哉「おぉっ、案外うまく漕げそうだ。師音はもう構えて置いてくれ。頼む」
師音「了解」
音哉の班は、師音が銃を撃つ係らしい。
湖は特別大きいわけではないので、散らばると言っても限界がある。周りを見ると、遠くではあるが、他の班がちらほらと見受けられる。この距離では、とても上手い人が撃ったら当たってしまいそうだ。
音哉「遠いからって油断するなよ」
師音「分かってるっt」
バーン!!

 

音哉「うわぁっ!」
師音「えっ!?」
森「……!」
古閑「……!」
バシャーン

 

開始からほんの数秒の出来事だった。恐れていた事が起こった。これだけ離れていながら、他の班から撃たれてしまった。
痛みはほとんどない代わりに銃弾が当たった時の衝撃はものすごく、バランス補助を付けていたとしてもほぼ確実にカヌーはひっくり返って転覆する。一発でも当たったら負けと言っても過言ではないのだ。
音哉の班は、不幸にもその“一発”が早速当たってしまったのだ。

 

枝川「当たった」
菊池「……早い」
雪姫「えっもう命中させたんですか!?」
枝川「カヌーしっかり漕いでおいて!止まっちゃダメだ!すぐに撃たれてしまう」
南沢「了解ーうおおおおおおおおおぉぉぉぉん!!」
南沢はものすごい勢いでオールを動かしている。そしてカヌーは相当な速さで湖を暴走している。
枝川はそんな中でも正確な狙いで遠くの班をどんどん撃ち沈めていく。

 

Felix「なるほど、これは行けそうだな」
高砂「さすがはフェリックス……!」
谷城「そろそろ当てたいねー」
照美「なんという習得力……恐ろしいわ」
Felixも、実銃未経験のはずなのに、要領の良さですぐにコツをつかんだ。そして枝川と全く同じ命令を下していた。
Felix「高砂、出来るだけ早く漕げよ」
高砂「へい!うああああぉぉぉぉぉああ」
やはり、一番の回避法はこれなのだろうか。

 

撃ち合いはみるみる激しくなり、たくさんの班が撃沈していく。無論、枝川やFelixのように実力を発揮している者は生き残っている。他のクラスでも、射撃のプロがいるようだ。

 

いわゆる”雑魚班”がほとんど消え、銃弾の音もだいぶ静まってきた頃だった。異変が始まったのは。
枝川「……あれ?」
南沢「霧か……?」
そう。辺りにいきなり白いもやが発生し始めたのであった。本当に一瞬の出来事であった。
雪姫「昼間なのに……しかもこんな一瞬で……」
南沢「やべっ寒っ」
霧の発生と同時に、だんだん寒くなってきた。
枝川「そうか……またkou長の仕業か」
雪姫「kou長……?」

 

枝川の勘は鋭かった。この霧はまさにkou長の仕業だったのだ。
kou長「思ったよりも人数が減るのが早いな……」
古宮「これじゃあ15分で終わってしまいそうですが……」
kou長「まさかここまで早く決着がつくとは思っていなかった」
古宮「しかも生徒の中にはプロ並みの生徒がいますから、湖のどこにいても射撃範囲内ですよ!このままだと全滅するのも時間の問題です」
kou長「残っているのは上級者のみ、とは言っても、あまり長続きはしなさそうだ…… よし、手を打とう」
古宮「手を打とうって……何かあるんですか?」
kou長「この学園は何でもアリみたいな学園だろう?これで終わりと思ったら大間違いだ☆」
…………。
霧だ!
古宮「霧……!?」
kou長「そう、霧だァ!こうすれば視界が悪くなるだろう?」
古宮「視界が悪くなる、ということは……?」
kou長「お互いが接近しない限り、撃たれることはない。接近戦になるってこと」
古宮「それは……各班が慎重になるということですか?」
kou長「まあ、そういうことになる。より高まる緊張感ッッッ!より高まる臨場感ッッッ!時間をかけてじっくりと戦いを楽しもうじゃないか」
古宮「なるほど……まさかこんなシステムを用意してたなんて……」
kou長「フハハハッww kou長をナメるでないぞ」
古宮「でも…… これじゃあ霧が濃すぎて私たちですら見えないのでは……?」
kou長「それはそうなのだが……完全に様子が分からないわけでもない」
古宮「まさか、また作戦があるのですか!」
kou長「これは、まあ……準備しておいたというよりは生徒たちの行動を利用するだけなのだが……」

 
 

一方その頃、2班では……

 

Felix「妙な霧だな」
高砂「こんなに急に……」
照美「なんだか変じゃない?」
Felix「またあのkou長が何かしでかしたか」
kou長の仕業を秒で見抜かれている。
谷城「周りが見えなーい!」
高砂「これじゃあ遠距離射撃ができないじゃん」
Felix「とんでもないことしやがって……」
照美「何とかならないのかしら」
谷城「なんとかしろって、これ霧なんだよ!?なんとかできるわけないじゃん!!」
Felix「…………。」
高砂「待てって、視界が悪いのは他の班も同じだから大丈夫だってんだ」
照美「そういう話じゃなくて……」
高砂「あ……ごめんなさい」
谷城「そうだって!不利なのは全員なんだから、何も心配することはないんだって!」
Felix「あの手を使えば……」
谷城「……?」
高砂「まさか、何か策でも?」
Felix「うむ、あるかもしれない」
高砂「マジかよ!」
Felix「フフッ……フフハハハッ……」
Felixから不気味な笑い声が聞こえてくる。
Felix「フハハハハッ!kou長らは我々を混乱に陥れようと策を打ったようだが、それがどうした!こんな霧、我が逆に利用してやろうぞ!
厨二病っぽい、いわゆるFelix節が炸裂し始めた。
Felix「霧の難点というのは、視界が悪くなる。つまり誰がどこにいるのか、分からないというわけだろう? 馬鹿にするな!視覚が全てなんて誰が言った?今の時代、見る以外に相手の位置を把握する方法などいくつでもある!」
谷城「カッコイイ……」
照美「(厨二病に憧れるなんてどうしちゃったのかしら)」
高砂「(これは重症だ)」

 

さて、Felixの作戦を簡潔に説明しよう。利用するのは、各班に配られたトランシーバーだ。これは元々、ゲーム開始や終了のアナウンスをするために配られたものだが、別の用途にも使える。他の班とのトランシーバーと通信を取ることもできるのだ。つまり自分の機器から他の班の機器に向かって電波を飛ばしている。この電波の到達時間を測ることで、おおよその敵との距離も把握することができるらしい。ただし細かい位置までは分からず、敵を撃ち落としに狙いに行くほどにはできない。
Felix「今回持ってきたのはこれだ」
Felixはポケットから小型の装置を取り出し、トランシーバーの充電プラグと接続した。
Felix「これで電波の受信時間の僅かな差を計測する。敵の接近も分かるってわけだ」
谷城「すっごーい!!」
照美「何故そんな物まで準備していたの……」
高砂「こんなんどうやったら予測できるんだ」
Felix「しかもそれだけじゃない。せっかくトランシーバーで通信が取れるんだ。実はゲームが始まる前に、他クラスのある班と同盟を結んだ」
高砂「え!?」
Felix「そいつらと連絡を取り合って、位置情報をさらに正確な物にしてやろうぞ!」
谷城「なにそれすごーい!!」
Felixは周波数を合わせる。
ザザッ、ザーッ……
無線における周波数とは、分かりやすく言うなら”チャット部屋“のようなものだ。同じ周波数に合わせている人同士でしか、会話をすることはできない。だから、事前に「この周波数で会話をしよう」と相談をしておけば、その人同士とスムーズに会話をすることができる。
もちろん2人での会話でなく、複数人が同じ周波数を設定すれば、理論上何人同時でも会話できる。逆に言えば、周波数を教えていなくても、第三者がさまざまな周波数を粗探しされると、会話をしている周波数がバレて盗み聞きされてしまうこともある。
Felix「とはいえ、無線で通信するなんてのは我々二つの班しか思いつかないだろうし、盗み聞きについては問題ないだろう」
Felixはトランシーバーの周波数を確認した。

 

…………!?!?
Felix「1070GHz……だと!?」

 

3人「????????」

 

Felix「まさか、次郎勢学園独自の技術か……!?」
1070ギガヘルツ。無線通信ではまず耳にしない数字である。一般的な通信で使われる周波数は1200MHz(=1.2GHz)、技術が必要とされるプロの通信や試験的な通信でさえ250GHzを超えることはない。
というか、それを超えるのは今の技術上無理だ。機械に大きな負担がかかりすぎて壊れてしまう。それを悠々と超える1070GHz……次郎勢学園は通信技術さえも超越しているというのか……!?
Felix「仕方ないな……予定とは違うが、向こう側が粗探ししてくれるのを待つしかないか」
電気通信事業法だとか、そんな法律を守っている余裕はない。というかそもそも次郎勢学園は非政府の団体であり政府から隠れているのだから、今更そんなことを気にしても仕方がない。

 

周りに警戒をしつつ、相手の応答を待つ。
辺りは一気に静まり、寒さがより一層引き立った。ゴーッというかすかな風の音が耳の近くを通り続けている。水面は荒ぶらずに平静を保っている。

 

…………。

 
 
 

???「ザザッ…… え……ザッ……じぇ…………さ…………ザザザザッー」

 

来たか!?

 

Felix「QRZ! QRZ! こちらはNJS-18番より Felixだ!」
???「ザザッ……しゅ……ザーザザッッ…げ…………」
Felix「QRZ! QRZ! こちらはNJS18番より Felixだ!」
???「ザッ……こ……ザザッ……らはNJS14番から 黒野だ」

 

黒野!?

 

あの、黒野か!?

 

黒野 造目(くろの つくめ) 音哉と涼介が入学初日のゲームセンターで会った、全身黒づくめの男。黒のパーカーに黒の長ズボン、そして靴下や髪も黒である。1年2組。

Felix「応答が来てよかった。お互いに情報を共有しよう」
黒野「こちらの座標は東22,500メートル、北31,000メートル」
Felix「すまないが、座標の情報はモールス信号で送ってくれないか」
黒野「了解した。でも何故……?」
Felix「盗み聞きされていた時のための保険……と言いたいところだが、他にもある作戦があってだな」
黒野「その作戦とは?」
Felix「例のドイツ式の数値表現で第三者を撹乱させるためだ」
黒野「なるほどな、確かに口頭では意味がない」
Felix以外の3人は何が起こっているのか全く分からない状態でぽかーんとしている。
その後、黒野とFelixはモールス信号で座標の送り合いをしていた。
高砂「何が何だかさっぱり分からん……」

 
 
 

そしてFelixの読み通り、まさかのこの通信を盗み聞きしている者がいたのだ。

 

枝川「見つけた。この周波数だ」

 

枝川だ。彼は周波数を粗探しして、Felix達の会話を見つけ出した。
ピピピピーッ……ピーッ……ぴぴっぴぴーぴぴっぴっpぴっpppppp
しかし流れて来たのはモールス信号。やはりここで行き詰まってしまうのか……
と思っていたその時だった。
枝川「座標、東22.5メートル、北31.0メートル。わかったぞー」
南沢「ぬぬぅ!?」
菊池「え……」
雪姫「え!?」
なんと彼はモールス信号をしっかり聞き取って理解していた。サバゲー部で培った能力は伊達ではなかった。まさかモールス信号までも網羅しているとはねぇ……
枝川「Felixの座標を確認!早速接近して討ち取りに行くぞ!」
南沢「了解ッッ」
枝川が輝いて見えた。今日の朝はあんなにおどおどしていたし、雪姫に指導を食らってばかりだった。ところが今になってみれば立場は逆転。雪姫はもちろん、3人をものすごい勢いで圧倒していた。
雪姫「(枝川さん……すごい……)」
カヌーはみるみる進んでいく。濃い霧がかかっているけれど、おおよそ誰がどこにいるか把握できているので早く漕いでも心配はない。そんなことをFelixは知らずに……

 
 

Felix「黒野からの応答が無い。まさか、沈んだか!?」
谷城「他の班の位置がわかっていたのに?」
Felix「まさかとは思うが、単にバランスを崩して自滅したんじゃあるまいな……」
照美「そんなこともあるのね……」
Felix「こちらのモールス信号も盗聴されていたという情報がある。しかも複数人から。さらにモールスの意味まで把握されていたと」
高砂「それって結構まずいんじゃ……」
Felix「フハハハッ……しかしだ!我の作戦の本番はここからだ!ドイツ式数値表現で皆を騙したのだ!」
谷城「騙した!?そんなことができるの!?」
Felix「この作戦なら、我々の座標に誰も気づけまい。例え盗聴者が何人いようとも、このドイツ語の壁によって座標を把握することはできないのだ!!」
谷城「おおぉぉーーー!!すごいすごい!!」
テンションの上がりようが凄い。
Felix「さあ、来れるものなら来てみやがれ!我のトラップには誰も気づくことができぬ!!」
谷城「そうだー!うぉぉぉー!」
Felix「フッッハハハハハハハハ!!!!!フハハハハハハハハハh」
バーン……

 
 
 
 

鈍い音だった。一瞬だった。霧の中を、弾丸が切り裂いてやってきた。

 
 

Felix「何ッ!?」
3人「えっ」

 
 

驚いたのもつかの間。ものすごい爆風で谷城と高砂は湖に投げ出された。残ったFelixと照美だったが、カヌーの底には穴が空き、数秒後には沈んでいった。

 
 

枝川「ドイツ語での数字の表記方法。カンマは3桁ごとの区切りではなく、小数点を表す。だからFelixの座標は22,500、31,000という表記で
22.5、31という数値を表していた、ということ」
枝川はそう言い捨てて、撃沈する2班を見送った。

 
 

 
 

そこでトランシーバーから通信が入った。
『ご、ごごご、ごっほんw やっぱり私の予想通り、トランシーバーを活用していたんですねw 会話は全部聞いていまs……ごっほんw今のは聞かなかったことにして欲しいです。えー、最後の一班まで生き残りましたね。おめでとうございます。優勝です!それでは早速元のスタート場所まで戻ってきてください!……と言いたいところですが、わかっていますね? 私と対決です。あなたの班がきっと勝つと思っていましたよ。今からの戦いでも、その力を存分に発揮して欲しいですね。
さて、私はこの湖のどこかにいます。ルールは今まで同じ。とにかく沈めた側の勝ちです。それでは、始めましょう』
枝川「よし。優勝はできた。問題はここからだけど……」
意識を集中させた。周りに見える風景、細かな音。網を張り巡らすかのように全てを警戒していた。
それは、今までよりも深く、強く。この勝敗が、学園の真相を暴けるか否かに直結する。高校生活が変わるかもしれない。そんな思いを胸に、決意を抱いて。

 

ザ……ザザッ……

 

枝川「!!ッッ」

 

ザザッ……こザザッkou長……わた……ザッ……座標……ザ……北27,000 東12,200……ザザーッ

 

枝川「聴けた!!」
枝川は夢中になって指示をした。
枝川「漕いで漕いで!こっちの方面だ!急げ!」
南沢「わかった……うぉぉぉぉぉぉお!!」
勝った。相手の座標を知った。Felixと同じドイツ語戦法か。そんなもの、今の僕には通用しない。後はその座標へ行って、霧の中からkou長を撃って、沈めるのみだ。
漕いだ。とにかく漕いだ。目が血走るほど夢中だった。
枝川「いける……いけるさ……」
そして、kou長の付近のどこかへ到着した。構え、考え、実行に移す。
枝川「よし、この角度、このあたりの距離……」
相手の位置を細かく把握し、霧の向こう側でも撃てるように。
そして機は熟す。
枝川「行くぞ……」
……。
枝川「行け!!」
バーン……

 
 

当たったか?………………。
いや、当たった音がしない。何故……!?
枝川「座標も方角もしっかり合わせたはずなのに!?」
弾は当たっていなかった。それもそのはずだった。

 

バーン!!

 

枝川「へぇっ!?」
雪姫「!?」
南沢「何!?」
菊池「あ……」
気付いた時にはもう遅かった。目の前には大きなしぶき、霧、そして沈んで行く仲間らが見えた。
枝川「甘かった……とでも…………?」ゴボゴボゴボゴボ……

 
 
 

kou長「最後の油断……というやつだったか。詰めが甘かったなぁ」

 

ドイツ語。モールス。この2つの壁を乗り越えた先にもうひとつ存在していたのは、『単位』という名の篩だった。
kou長「誰がメートルだと言った?私が使っていたのはKlafter(クラフテル)だ」

Klafter かつてドイツでメートル法が浸透する前、主に水深を表す際に使われていた長さの単位の一つで、日本語で言う『尋』に当たる。約1.8m。現在でもごく一部の地域で使われているらしい。

 
 
 
 

古宮「全員戻ったか?」
枝川「は……はい」
南沢「優勝はできたんだから、元気出しなって」
枝川「そ、そうだよね、この学年でトップの班になれたんだから」
自分に言い聞かせるように言いながら、心の中で流れている涙を拭った。
木ノ瀬「はい、全員揃ったみたいです」
kou長「よし。それじゃあ結果発表と行きますか……

 

ご、ごっごごごごごっほぉんwwww」
一同「「「なんか咳払いのパターン増えとるし」」」
kou長「えー、皆さん、改めて優勝を発表したいと思います。班対抗カヌー大会の優勝班は……!3組の3班です!」
歓声が上がった。拍手が沸き起こった。
黒野「あいつ……優勝しやがったのか」
Felix(黒野……すまぬ)
kou長「それでは前に来てください」
相変わらず生徒たちの前にはみかんの入っていた段ボール箱が置いてあるだけである。
古宮「えっ生徒たちここに乗るんですか?」
kou長「流石に狭いか……」
古宮「いやどう考えても乗れないやろ!これ1人乗るだけで精一杯の大きさやで!?4人乗るとかどこのバラエティ番組ですか!!」
そのツッコミを受けて、木ノ瀬がもう3つ、りんごの段ボール箱を持ってきた。
古宮(段ボール以外にいいもの無いんかw)
3班のメンバーは一人ずつ、用意されたステージ()の上に立った。
用務員さん「はい。優勝商品のバン○○○ムコのゲームソフト引換券」
枝川「あwそうか、優勝商品あるんだった」
南沢「あーりがっとうございまーーーーすwwwwwwwww」
雪姫「一応貰っておきましょうか」
菊池「…………紙くず」
用務員さんは念を押して言った。
用務員さん「なんども言うけど、それは俺の奢りだからな」
枝川「なんだか貰いづらい……」
南沢「あーりがっとうございまーーーーすwwwwwwwww」
kou長「さて、一人一人感想を聞いていきたいと思います。は菊池さんから、順番にどうぞ」
菊池「…………。 まあ、楽しかったわね」
南沢「漕ぐのすっごい疲れました。はっきり言って限界突破してます。枝川も凄いけど俺も褒めてください」
雪姫「南沢さんの漕ぎっぷり、見ていて面白かったです……クスッ」
南沢「おい!!w」
雪姫「でも、何と言っても枝川さんが素晴らしかったと思います。サバゲー部とはいえ、あそこまで実戦で実力を発揮できる人はいませんよ……」
枝川「………………///」
今まで射撃に集中していて全く意識していなかったが、雪姫にべた褒めされるのはすごく照れる。
kou長「はい、そして枝川さん!」
枝川「はい……// ごほっ、えっと、自分の実力を十分に発揮できたのではないかなと。皆さんもこれを機にサバゲー部に入部してもらえると嬉しいです」
ちゃっかり宣伝もしてしまって、完璧である。
kou長「はい!ありがとうございました!これでカヌー大会は終了です。準備してくださった用務員さんも本当にありがとうございました」
用務員さん「みんな本当にサバゲー部来てくれよな、今部員が足りないから」

 

移動

バスで車山という場所へ移動する。今日はこの山でテントを張り、一晩を過ごす。
その前に本日最後のイベント、キャンプファイヤーが待っている。正直、ここまでの行事の内容が濃すぎて今の時点でもお腹いっぱいだけども……
うん。昼寝しないと体力が持たないというのも理解できる。

 

バスの中、雪姫は今日の枝川のカヌー大会での射撃のことについて考えていた。
雪姫(今日の枝川さん、本当にすごかった……)
濃霧がかかる静かな湖の中、息を殺すような勢いで周囲に意識を張り巡らせていた枝川の姿。そして、渾身の一撃を見事に当てる銃撃の上手さ……
雪姫(あの瞬間が目に焼き付いて頭から離れない……)
思わずぼーっと考えてしまう。
雪姫(えっ……!?いやいや、別に枝川さんのことが好きだとかそういうはずは……// 私ったらなんてことを考えてるの……)

 

キャンプファイヤー

車山に到着。木々が生い茂る森の中。これぞまさにキャンプというような大自然の極地だ。カヌー大会で予定よりも時間がかかったため、予定が数時間遅れている。とはいえこの時間は空き時間だったのでちょうどよかった。太陽はもう西に傾き、沈もうとしている頃だ。
さあ、ここからキャンプファイヤーだ!
準備は教師ではなく、担当の生徒たちが行うことになっている。司会や進行も全て生徒が担当。自由に作り上げたキャンプファイヤーだ。
その準備担当の生徒の中に、3組3班はいた。そう、宿泊研修に行く前から始めていたあの準備だ。あの時、枝川はぼーっとしていてあまり準備を手伝えていなかった。しまいには同じ班の雪姫に見捨てられたも同然の冷たい態度をとられていた。
しかし、今はむしろ立場が逆転していた。枝川はまるで覚醒したかのように何でもこなす一方、雪姫はさっきのバスの通りである。

 

枝川「準備のときからちゃんとしておくんだった……あの時の自分はなんだったんだろ」
それもそうだが、今の雪姫もなんなんだろうか。枝川に代わって、ぽかーんとしてしまっている。
南沢「とりあえず、俺は炭を取ってくるように言われてるから、それでいいんだよな、雪姫?」
雪姫「う………………。 ハッ!ごごごめんなさいぼーっとしてたわ、炭お願いします」
菊池「それで私はチャッカマン?」
雪姫「……………。」
菊池(返事がない)
菊池は応答を待たずにチャッカマンを取りに行った。
枝川「それで……俺は何をしたらいいんだろうか……」
雪姫「……………。」
枝川(本当にどうしちゃったんだ?)
枝川「あのー、雪姫?雪姫さーん?」
雪姫「……ハッ!私またぼーっとしちゃってた……えっと、って枝川さん!?」
枝川「何をそんなに驚いてるの……」
雪姫「い、いやいやなんでもないです、気にしないでください」
枝川「気にしなくていいって言われても、このままで本当に大丈夫なのかな……」
雪姫「私は本当に平気ですから!えっと、さあ仕事仕事……」
枝川「俺にも何か仕事させてくれないか?ほら、準備のときに何も出来なかったから……」
雪姫「何も出来なかった……今日の……射撃……」
小さな声で何かつぶやいている。
枝川「ん?」
雪姫「いや、何でもないです、あのー、えっと、じゃあ2人の準備が済んだら、枝川さんが火を付けてください……」
枝川「あ、ああ…… 本当にそれだけでいいの?」
雪姫「あと……何か……えっと、その……」
雪姫ってこんなキャラだったっけか。いつもは風紀委員らしくキビキビとしているのに、今じゃ顔を赤らめたりしながらぼーっとしたり焦ったり、なんなんだか……
枝川はらちがあかないと思ったのか、雪姫のかばんの上に乗っけてあった計画表を覗いて、勝手に雪姫の仕事を手伝い始めた。
雪姫「はぁ…………(枝川が仕事をしていることに気づいていない)」
薪を持ってきて、燃えやすいように積んで……(あれ、炭と薪って両方必要なのか……?)
枝川「はい、終わったぞ」
雪姫「えっ!?」
枝川「雪姫が遅いようだったから、手伝っちゃった。それと、君は一度保健の先生に見てもらったほうがいいと思うんだけど……」
雪姫「いや本当に大丈夫なので……」
枝川「大丈夫じゃないのは僕らもだ!君がしっかりしてくれないと、クラス全体が回らない!キャンプファイヤーの準備をするのはオレたちの班なんだから!」
雪姫「ひぇっ!?……//」
いつも温厚な枝川が珍しく強い口調で言ったせいか、驚いている。
枝川「もういいから。行ってきなって」
雪姫「うぅ……………   ……うん」
雪姫はゆっくり背を向けると、とぼとぼと保険テントの方向へと向かっていった。しかし、この状況、なんてこった……
枝川「さて、となると、雪姫の担当している仕事を俺が代わりにやってあげないといけないんだな」
そこに、2人が戻ってきた。
南沢「炭持ってきたズォー」
菊池「チャッカマン、これ」
枝川「あ、ありがとう」
南沢「あれっ、班長はどこ行った?」
枝川「それがさ、いろいろあってさ……」
南沢「まさか保健テント行きか」
枝川「えっ!?どうして知ってる」
南沢「だって、あいつさっきから様子が変だったじゃん」
枝川「はぁ…… やっぱり南沢も気づいてたんだ」
南沢「そりゃあ誰だって違和感覚えるでしょ、あんなの」
枝川「ってわけで、雪姫の仕事は代わりに俺がやることになった」
南沢「そういうわけか……俺もできる範囲で手伝うから」
菊池「私も」
枝川「そうしてくれると、助かるよ」

 

しばらくして、準備が整った。
キャンプファイヤーが始まる。

 

いつもの通り、kou長が皆の前に立って話し始める。
kou長「ついに始まりますね、今日最後のイベント。キャンプファイヤーですね。このイベントは先生方は何も準備に関与していません。すべて生徒たちが作り上げたものです。だから私たちもどんなプログラムかは知りません。楽しみにしていますよ」
木ノ瀬「それでは、キャンプファイヤーの実行委員である3組3班、司会をよろしくおねがいします」
枝川「し、司会!? なぁ、二人とも知ってたか!?」
南沢「知ってた。雪姫が司会やることになってたんだってさ」
枝川「ってことは!?ってことは!?」
南沢「そういうことなんだろうねぇ」
つまり枝川が司会を代わりにやるということだ。なんてこった。すごいな雪姫は。こんなにも多くの仕事を引き受けているのだから……
枝川「とりあえず分かるのはプログラムだけか……」
計画表を見ると大まかな流れが書いてあるが、細かいことは書いていないので、アドリブで切り抜けるしか無い。仕方ない。今こそ正念場だ。
枝川はみかん箱の上に立って、マイクを手に取った。
枝川「流石に緊張するなぁ……(汗」
前を見ると、大勢の生徒がこちらを見ている。司会というのはこんなにもプレッシャーがかかるものなのか。
枝川「ご、ごほん…… 皆さん、お待たせしました!辺りも暗くなってきた頃ですね。今日、一番盛り上がれると思われるイベント、キャンプファイヤーの幕開けでーす!!」
生徒たち「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」」」
テンションが桁外れだ。
枝川も今日ばかりはテンションアゲアゲで頑張ることにした。
枝川「さあ、まずはこの薪の周りを囲むように、まるくなってくれ!!」
生徒たち「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」」」
テンション高すぎ。
生徒たちは言われたとおり、円になって並んだ。
枝川「それじゃあ、点火するぞー!!」
生徒たち「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」」」
このテンションが最後まで持つと思うか??
枝川はステージから降りて、薪のほうまでやってきて、チャッカマンに火を付けた。
カチッ
そしてこれを、まずは棒状の枝のような木材に近づける。すると松明のように、枝の先端が燃え始める。
そしてこの枝を薪にかざすことで……薪に点火され、大きな炎が燃え上がるのだ!!
生徒たち「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」」」
古宮「うっせェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!」
火がついた。明るい。炎というのはこんなにも明るいものなのか。
周りが闇に照らさてている分、炎が眩しく感じる。まさに闇を切り裂く光だ。
枝川「さて!火が付きましたねぇー!ここで古宮先生に一曲歌っていただきたいと思います」
古宮「えぇぇ!?オレ!?」
枝川「炎。火。そう!Ignis Danseだ!!古宮先生、Ignis Danseを歌ってください!!」
古宮「えっ歌う!?踊るじゃなくて!?」
枝川「なんなら歌いながら踊ってもいいですけど」
古宮「いやいや、踊りのほうがメインじゃないの!?まあ俺踊れないけど」
枝川「いいからとりあえず歌ってください!」
古宮「歌うって…えっ歌うって……っったくしょうがないな……」

 

古宮「Ignis Danse歌います!デーンッッッデーンデッデーーンwwwwwwデッデッデーーン↑デデーンデデーーンwwww
って歌えるかこんなもん!!!!」
一同「「「ですよねーwwwwwwwwwww」」」
古宮「流石にこれは無理難題だろ!」
枝川「つまらないなぁ、せっかくなら最後まで歌ってくれれば良かったのに」
古宮「俺は歌うために生まれてきたんじゃないぞ!!」
kou長「どちらかというと私が」
古宮「kou長は黙っててください!!」
枝川「はい、仕方ないですね。それではプログラム通りに進めていきますか。えっと、なになに……? おー、はいはいなるほどねぇ」
さあ、プログラム1番に計画されていたものとは……!
枝川「プログラム1番!すべらない話!!」
生徒たち「「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」」」
叫んだ後に生徒たちから少しゲホゲホと咳が聞こえた。おい。
枝川「えっと、これはどういう風にやればいいのだろうか、分からないなぁ。。。まあなんとかなるか」
ステージのすぐ下にいる南沢がつぶやく。
南沢「適当に指名して話をしてもらえばいいんじゃないかな」
枝川「いっか、それでいっか! はい皆さんご注目ー、今から、俺が適当にクラスと番号を言うので、指名された方に何かすべらない話をしてもらおうと思います」
一同「「「何ッ!?」」」
周りがざわめき始める。そんないきなり言われても無理でしょーなんてことでも話しているのだろう。そりゃそうだ。でも。でもだ。それでもなんとかして話してもらうのがこの次郎勢学園のゴリ押しの流れなのだ。kou長曰く、『即興で面白い話を思い出して語るのもコミュニケーション能力の一つです、次郎勢学園で育む能力の一つですから』というような言いがかりだ。
枝川「抵抗しても無駄です、いきますよ?」
枝川は適当に番号を考える。そこでパッと閃いた番号は……!
枝川「ハイッ!3組の2番!!」
………………辺りが静まる。
誰だ?3組の2番って誰だ???

 

…………。

 

南沢「お前やないかーーーーーいwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
えwww
枝川「ほんとだ俺じゃんwwwwwwwwwwwwwwwwww」
周りからブーイングが飛び始める。お前わざと自分の番号言っただろと。いやそんなことじゃない。本当に適当に浮かんだ番号を言っただけだ…… っというか、適当に浮かぶ番号が自分の番号なのは当たり前か……普段一番使っている番号だから。よくよく考えたらそうだ。なにやってるんだ……
枝川「今のはちょっとしたボケです。はい。んじゃあ、せっかくだから1組の1番!!!」
誰だ?1組の1番って誰だ???

 

???「まさか私が当たるなんて……よりによって1組1番を選ぶなんてね」
こ、これは!!じょ、じょ、除草女装だーーーーー!!!
わかる。これは女装男子だ。結構な割合でいるんだなぁ……

石川 有滋(いしかわ ゆうし) ちょっと嫉妬しやすい性格。勉学には真面目に打ち込んでおり、中々の優等生。男の娘である。
ほっそりとした体つき。それにコンプレックスを抱いていた。

石川「って言っても私、面白い話なんて話せないけど……」
枝川「何でもいいんですって、この際、思いっきり滑る話でも何でもいいですから話してくださいよー」
石川「滑る話でもいいってアンタ……」
枝川「流石に言い過ぎたか」
石川「そうねぇ…… うーんまあ、物理的に滑らない話ならたくさんあるけど」
一同「「「物理的???」」」
石川「そう、物理的にね」
枝川「物理的、物理的にって、そりゃあまあ話をする間にツルッと滑るわけじゃあるまいし」
一同「「「そっちかwwww」」」
枝川「ほらウケたじゃないですかー、ねぇ?」
石川「今のはあなたのツッコミがあってこそだと思うんだけど……」
枝川「それでもウケたんだからそれでいいんです。ハイッ次!」
一同「「「それでいいんかよw早いな」」」
枝川「うーん……それじゃあえっと…… 3組の7番!」
3組率多いのはわざとですかと突っ込まれそうだ。
誰だ?3組の7番って誰だ???

 

師音「あっ僕じゃん」
小倉師音だったーー!!
枝川「はい小倉さん、いけますか?」
師音「えー……すべらない話?えっと……そんなのあるかなぁ……」
音哉「そんな迷わなくても……今日のカレー作りのアレを言えばウケるでしょ!」
師音「えっアレ!?」
枝川「おっとおっと?"アレ"とは何でしょうか、気になります。ぜひ聞いてみたいですねー」
一同「「「おおお~~~」」」
師音「面白いかどうかはわからないですけど、それでもいいんですか?」」」
枝川「さっき言ったとおりです。何でもいいんですよ」
師音「本当にいいんですね?」
枝川「はいw好きにしてくださいよ?」

 

師音「じゃあ話します。あの、キャンプ班でカレー作るじゃないですか。で、僕はご飯とうちわ担当だったんです。ウワーーーーーwwwwって言いながらうちわぶん回してました、多分引かれましたね。で、30分くらいウワーーーーーwwwwってやってたらご飯が炊けてきて、そろそろ火から離そうぜ卍って陽キャが言ってきたので、ご飯に手を出したんですね。キャンプのご飯ってよくわからん鉄の容器?に入ってるじゃないですか。僕がバカだったんですけど、軍手1枚で鉄の容器に立ち向かいました。「ア゛ツ゛ゥ゛イ゛!゛」って叫びました。いや本当に迫真の叫びです。鉄の容器からご飯がこぼれる!!って思ったら鉄の容器が持ち前のバランス力(???)を発揮して、なんとか横にならなかったんでセーフでした。ここでこぼしていたら僕は多分この世から見捨てられてたと思います。以上です
一同「「「えwwwww」」」
黒野「今の話に出てきた陽キャってもしかしてお前のことかよ」
劉「ワレ!?」
枝川「そんなことがあったんですかw」
師音「調子に乗って話してしまいました」
枝川「みんなそんなもんですってw宿泊研修はキャラ崩壊するもんですよw」
現に今、枝川本人が崩壊しかけている。
師音「本当に変な目で見られそうどうしよう」
音哉「なんか、スマン」
枝川「え、えーっと、それでは次、うーんと適当に適当に……」
と、誰かがこんなことを言う。
***「司会だけ指名を免除されるのもいかがなものかと思いますが」
枝川「えっ俺!?」
???「そうだそうだー」
別のものも賛同する。
△△△「司会がすべらない話しないでどうするってんだい?」
???「そうだそうだー」
***「というわけで、よろしくっ★」
枝川「はい???????」
不意を突かれた。いや俺は司会でたくさん喋ってるんだからそれで十分じゃないですかと。これ以上俺の喉を枯らせないでくれと。なんていう抵抗をしても無駄なんですけどねと。
枝川「俺か……なにかあるかな……」
南沢「何でもいいんですって、この際、思いっきり滑る話でも何でもいいですから話してくださいよー」
谷城「さっきのセリフ丸パクリすな!(^o^;」
枝川「それじゃあ、どうせ誰も知らないだろうし、あれでも言っておくか……」
一同「「「おっとおっと?"アレ"とは何でしょうか、気になります。ぜひ聞いてみたいですねー」」」
枝川「だからそれは俺のセリフwww」
仕方ないな。あれでも話して切り抜けよう。

 

ある、金曜の夜の事だったんですけど、仕事が終わった後、ラーメンでも食べたいな~なんて思いまして。
どうせならちょっと遠くのラーメン屋さんに行こうかと。いうわけで車に乗った訳です。
ナビに住所入れて、さあ出発と。しばらく走ってますと、なんかミョーに救急車とすれ違うんですよ。
あ、まあ金曜日の夜だし、飲み過ぎた奴多いのかなと。それにしては数が多い。
そうこうしているうちに、今度はナビがこんなことを言うわけです。
「この先、事故多発地点です。他の車や歩行者に注意してください。」
まあ、ナビってこういう機能あるんで、時々だったら全然気にする程の事でもないんですけど。
これも、妙に数が多い。ほんと、交差点に差し掛かるたびに、
「この先、事故多発地点です。」「この先、事故多発地点です。」
しかも、結構走ってましたから、周りって田舎道で、車とかほとんどいないんですよ。
さすがに、僕も焦りましたね。なんだか怖いなー、やばいなー、と。
でも、目的地まであと少しだったんで、そんなこと、まあ考えながらも車走らせてますと、
ようやく、「目的地に到着しました。」って、ナビが言うんです。
え?と思いました。だって、ここ、ラーメン屋さんの看板どころか、周りに何も無いんですよ。
おかしいなー、なんなんだろうなー、って。
ふっと横を見ると、そこ、移転してたんですよ。

 

kou長「ギュイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン(^o^)ドーーーーーーーーーーーーン………チーン」
古宮「33-4
南沢「完 全 勝 利
枝川「おいw」
kou長「ご、ごごごごごごごごっほん。えー、只今、怪談『カーナビ』のお話がございましたので、続けて怪談リミックス歌いまーす。ある、金曜の夜の事だったんですけど、ある、金曜夜の事だったんですけある、金曜の夜の事だったんであるあるあるあっぁつぁつaaaaaa
ラーwラーwラーwラーラーラーメンが食べたいななんてwwwwww
ラーwラーwラーwラーラーラーメンが食べたいななんてwwwwww」
古宮「おいw」
このネタ知らない人が居たらどうすんねんって話よ。
枝川「え、えっえぇっとはい、そろそろすべらない話は終わりにしましょうか、はい」

 
 

と、そこに雪姫が帰ってくる。
枝川「あっ帰ってきた!」
何があったのか、ぼーっとした調子は治って、だんだんといつも通りの雰囲気を取り戻し始めているようだ。
雪姫「枝川さん、本当にごめんなさい。あなたに仕事を任せてしまって」
枝川「仕方ないって。君が無事なことが一番だと思うよ」
雪姫「私、今からでも司会代わりますんで!」
枝川「そ、そう?じゃあ」
こうして、枝川は雪姫にバトンタッチする形で自分の仕事をしっかり務め終えたのであった。

 

1日目なのにここまで内容が濃いと、これから先が心配になってくる。この後のキャンプファイヤーを要約すると、生徒によるコントやらマジックやらが続き、生徒全員でジンギスカンを踊り、(踊る人は少なかったが何故かコンギョも踊り、)夕食として焚き火BBQをした。棒に食べ物を刺して、火にかざして焼くアレだ。焚き火は大きいとはいえ、100人弱いる生徒全員が一気に火を囲んで食べ物を焼けるわけがないので、班長が班の全員分の食べ物を焼きに行っていた。
普段は貧乏でろくな食事をしていない菊池が、焼き鳥などの豪華な食事を見た時の、微妙で分かりずらい、でも確かな表情の変わり方は、見ている方もなんとも言えない嬉しさがあった。これは後日詳しく話すとしよう。
炭担当の南沢は、日が弱くなるたびに炭を持って来て投げ入れ、人一倍働いていた。何気ないが、彼がここまで働くというのもあまり見ない気がする。
古宮先生をはじめとする教師陣も、同じくBBQで楽しんでいた。特にkou長はBBQが大好きらしく、テンションアゲアゲで焼き鳥を食べていた。やっぱりなんなんだあのkou長は……

 
 

BBQが終わり、同時にキャンプファイヤーも幕を閉じた。炎はだんだんと勢いを失い、明かりも少しずつ弱まってくる。今まで燃え上がるように騒がしかったこの場所も、今は炎とともに静まりつつある。空はすっかり闇色。そこには、山の中という真の暗闇でしか見られない、満天の星空が広がっていた。
音哉「きれいだ……」
優「こんなにきれいだなんて……」
近江原「幻想的すぎる……」
照美「これはすごいわ……」
大きい光や小さい光、1等星から5等星まで見事に見える。南の空に大きく見えるのは、しし座、おとめ座。星空というより、宇宙に放り出されたかのような気持ちだった。
学園のある場所も田舎ではあるが、家の明かりや街灯はポツポツとあるので、真の暗闇は訪れない。本当の星空を見るというのは本当に難しいことなのだ。
そんな幻想的な景色をしばらく眺めた後、古宮先生からの連絡があった。
古宮「さーてそろそろ就寝の時間だー、寝るためのテントを準備するぞ」

就寝

古宮先生が畳んであるテントを組み立て始める。でかい。聞いたら、「ロッジドーム型テント」とかいう、かなりしっかりしたやつだ。クラスで2つあるのは、きっと男子用と女子用だろう。女子用の方が人数が多いので、若干広いみたいだ。生徒も協力して組み立てが完了し、寝袋の準備も整った。生徒たちは早速中へ飛び込む。
枝川「やったぞー」(ドスっ)
音哉「やっほーい!」(ドスっ)
高砂「イェーイ」(ドスっ)
近江原「いぇーい!」(ドスっ)
谷城「キャーッちょっと何入ってくるのよ!こっちは女子のテントでしょ!!(バシッ)」
近江原「ぎゃーーーっ!素で間違えましたごめんなさいごめんなさい」(すぐにテントから抜け出す)
優「こんな状況でどうやったら素で間違えるの、まったくもう!!」
Felix「なんか……自業自得だな」
南沢「まったくもってそのとおりですわぁ」

 

寝る支度を済ませた生徒から順に、各々が寝袋に入り、しばらくガヤガヤと雑談は続いたが、やがて静かになってきた。
古宮「はいー就寝の時間だ、もう会話はよせ」
先生からのアナウンスがあったので、生徒は本当に静まった。今まで話していた生徒も、話すのを諦めて目を閉じた。おひるねがあったはずなのに、それでも眠い。それほど疲れたっていうことだ…… 今日一日、いろいろなことがあったなぁ……1日目だけでこれだけ楽しいんだ、次の日もさぞ楽しいことだろう……!
おやすみなさい。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

夜点呼けこっこ~(^o^)
!?!?!?!?
音哉「はい!?!?」
Felix「あぁ!?!?」
いきなり叫んだkou長の声に皆が起こされる。
kou長「なあ?予定表に書いてあっただろ?22時30分は夜点呼けこっこ~だって」
優「アッ」
忘れてたーーーーwwwwwwwwwwwww
スケジュールしっかり見ておくんだったーーーーーwwwwwwwwwwwww
就寝の後にこんなことが書いてあるから怪しいとは思っていたが、まさかkou長が叫ぶイベントだったとは……これは予想外だ。
ってか、このイベント意味ないだろ!ただの自己満足だろ!俺たちを巻き込んで楽しむな!寝かせろ!!

 

生徒たちは今度こそ、山中で眠りにつくのであった。