小説/サイドストーリー/映し出される日常

Last-modified: 2023-01-01 (日) 01:51:57

概要

  • この小説群は私立次郎勢学園の二次創作であり、本編とは一切関係ありません。
  • 学園のちょっとした短編集です。
  • マイペース更新、主役バラバラ、拙い文章ですがご了承ください。
  • 基本設定順守の方針ですが、過激表現や設定捏造、別世界のテーマで書く可能性もありますので閲覧は自己責任でお願いします。

1.今日もついつい(早乙女×インド人)

「てんちょー、いつもの」
「激辛カリーエンドライス一つネ!」
 日替わり食堂のインドカレー店。最初見た時は、また個性的な店を入れてきたのか、と内心呆れていたけど一度食べたカレーの辛さが癖になってしまい、いつの間にか私も此処の常連の一人になってしまった。
「激辛カリーを頼んでくれるのはキミともう一人、茶色の髪の女のコだけネ」
「辛いのが苦手な人もいるし仕方ないかも」
「ソウダヨネー、でも他のカリーエンドライスやチキンカリーを頼んでくれるからいいけどネ。今度食べてミナイ?」
「そうは思うけど、考えるより先に注文しちゃって」
「アハハ、それ程ココの激辛カリーを気に入ってくれてるんダネー。ハイ出来たヨ、激辛カリーエンドライスネ!」
「ありがとう」
「またヨロシクネー」
 現地の激辛カレーが校内で食べられる事もそうだが、突飛な事で満ち溢れているこの学園は、私にとって人生のスパイスになり得ているのかもしれない。

2.真面目すぎんだろ……(音哉×小波)

 物理の答案を受け取り俺の座席で開く。77。これはだいぶ良い方では……? 思わず口角が上がる。自信は無かったものの、点数は取れている。もっとも小波先生の科目の問題文は他科目と比べ、怖くなるぐらい真面目テイストだったのも起因するかもしれない。
「トップは97、次いで85、83……」
 教室が騒然とする。97って一問ミス……Felixか?? てか俺は……?
「個別で順位を知りたい人は授業後に」
 チャイムが鳴り、真っ先に先生の元へ向かう。
「先生、僕の順位は……」
「5位です。ただ順位を気にするより、何処を間違えたのかをしっかり意識するように。それと物理前日に体調を崩したと聞きましたよ、気をつけてくださいね」
「わ、分かりました……まぁ体調の方は装置でなんとか……」
「今なんて……?」
 やべっ!
「んでもないですありがとうございました!」
 今の完璧にやらかした! 特に怪しまなきゃいいけど……いや、先生なら知ってるか?
「装置……この学園、やはり何か……」

3.勝手にそう思った(木村×刹那)

 購買で買った弁当を開け、小声で感謝を述べ、即座に食べ始める。ほとんどの周りの人間は二人以上のグループで飯を食い、談笑している。友達がいない訳じゃないが、そいつとの距離はこうやって独りで飯を食わざるを得ない限り、そう近くない。
 茶を飲む為に顔を上げた瞬間、斜め前のテーブルに黒い長髪の女子がいた。俺と同じように独りで。俺だけじゃねーんだな、とは思ったが正直女子は集団でいるイメージが脳の片隅にあったので、少しばかり気になった。
 食べているのはここの弁当ではなく手作り。何故わざわざ食堂に……教室に居場所が無いのだろうか、俺のように。俺が確認出来る限り、それは実に色とりどりで愛情を感じる、と言ったら気持ち悪いだろうが、考えられた弁当だなと思った。俺の親は最近作ってくれない。……遅刻ギリギリまで寝てるからだろうが。
 様子を眺めてる途中で向こうの顔が上がり、一瞬だけ目が合ってしまった。急いで目線を弁当に向き直したが、ただの取り繕いにしか見えないだろう。弁当を食べていた事にしようと残りの飯を掻き込む。しかし食べ終わった頃にはその人はもうそこには居なかった。
「やったな、俺……はぁぁ……」

4.過去の想起、けれど彼女は(井納×刹那)

「おねーちゃん、一緒に帰ろう?」
 聞き覚えのある声がし、窓の方を向くと刹那さんが雪那さんと話をしていた。刹那さんとは去年同じ組だったので顔は知っている。ただ話した事は無い。かつての自分の記憶が思い出されるからだ。
 構われる事を嫌うように目を鋭く、自分の世界に没入する為に本を読み、授業を聞かずノートに自分の世界を描写する。学園に入る前の僕とほぼ同じ雰囲気だった。
 だけど、どうしてだろうか。彼女のそれらの行為の動機は僕のものとは違っている気がする。当時の僕はただ、そういう態度を取る事がクールだと思い、意図してやっていた。正直思い出すだけで心が痛くなる。でも彼女の態度の裏に何かを感じるような気がした。彼女を「孤独」にしようとする何かを。それに雪那さんにはまるで人が変わったような態度を見せる。「おねーちゃん」なんて柔らかい言葉が彼女の口から出るとは思いもしなかった。
 その何かが気になったものの結局去年一年、満足に会話出来ずに終わってしまった。ただその何かというのも、僕の妄想でもあるから迂闊な事は出来なかった。結局彼女にとっての僕はかつてクラスメイトだった人間なのだろう。

5.どうしてそこまで(友部×神崎)

 ……まずい、次の授業に遅れる。去年まで学校と時間割が微妙に違うのを忘れていた。腕時計を確認し、半ば早足で移動教室に向かう。
「きゃっ」
 その声と同時に誰かが倒れる音と本等が散らばる音がした。相手は私より一回り以上小さい少女だった。この体格差、そして向こうも時間ギリギリで走っていただろう。もしかしたら怪我をさせてしまったかもしれない。
「大丈夫ですか? た、立てますか?」
 声が震えながらもそっと手を差し伸べる。
「はぅ……あ、ありがとうございます……」
「本当に申し訳ない、痛む所はありませんか」
「倒れた時にちょっと……でも大丈夫です。わたし、前を見てなくてそれで……ごめんなさい」
 前を見てなかったのは私の方だ。迷惑をかけてしまったお詫びにもならないが、散らばった教科書を集める。
「元々、前を見てなかったのは私ですので……本当に身体の方は大丈夫ですか?」
「あぅっ、へ、平気ですっ、そ、それよりあなたの方は……」
 今の呻き……何故平気なんて嘘を。悪いのは私だ。否、己を恨むのは後だ。
「私より、自分を気にして下さい」

6.ボクだって(うさぎ×畑山)

「あっ、うさぎだ」
 声がした気がするけどムシムシ。ボクは次郎センセーに用があるんだ。
「今日も来たのか、まあ譜面見てるだけだしいいけどな」
 ただ見てるだけじゃないよ。べんきょうしに来てるんだよ。
 今日はセンセーも譜面をつくるみたい。ちかいうちにフテイキカイサイの学園の大会があって、それに出す譜面っぽい。
 みんなイヤホンして作ってるから譜面を楽しめなくてヒマだ。そんなボクにセンセーから声がかかった。
「おまえ、ここどうすれば良いと思う?」
 次郎センセーのPCの前に行くとボク専用のイヤホンで再生してくれた。前におなじイヤホンで再生したら毛だらけになっちゃったもんね。
 いわれたばしょの譜面を見た。なるほど。近くにあったキーボードでボクのうかんだ譜面をえがく。……こんなかんじかな。
「ドヤ顔されてもなぁ……tjaには数字だけを打ってくれよ……」
 ボクのさくひんが消えていく。ひどいなあ。それにボクはヒトとちがってゆびでおせないんだからしかたないでしょ。

7.おいも(石川×神崎)

 今日の日替わり出店は芋専門店。お目当ては私の好物、さつまいも尽くし定食。いつもの様に列に行くと、白い髪の子が今日も並んでいた。同じ店の常連さんだしちょっと話し掛けてみようかな。
「すみません、ちょっといい?」
「はわわわっ、どっどうしましたか?」
「驚かしちゃってごめんね。いつもこのお店に並んでるから気になって」
「わっ、わたしっ、ここの肉じゃがが好きで……あれ、そういえばあなたもいつもここに……」
「バレちゃいました? 私はさつまいも尽くし定食が好きでよく来るんだよね」
「そうだったんですね、食べてみようかな……」
「いいねー、じゃあ私は肉じゃが頼んでみようかな」
 それを聞いたその子は目をとても嬉しそうに目を見開いていた。
「そ、そんなに嬉しい?」
 その様子に少し子どもっぽさを感じつつも、顔がほころんだ。
「わたしは好きなものを言っただけですし……」
「それを言うならあなたもそうでしょ?」
 その言葉を言い終わると、お互い吹き出し笑い合い、一緒にご飯を食べる事になった。

8.気まぐれ魔術師(田貫×神崎)

 最近入部した子、凄くまっすぐなんだ。雪那ちゃんはそう言ってたけど、実際そんな子は本当に少ない。そういう本人だって妹さんの事になると目が少し泳ぐ。聞いてたその子に話しかけてみたけど、とてもソワソワしてる。
「あ、あのっ、どうか……しましたか……?」
 この子は今年から初めて学校に通っているらしい。他の同級生たちとは違う状況。この子が部の人達とお話出来たのは、そこで何かキッカケがあったから。だから他所とは訳が変わってくるのかもしれない、だけど。
「ちょっと肩に力が入り過ぎてるかも~」
 少し異常なほど強張っている。ここに来てからきっと何かあったんだろうね。
「そ、そうですか……?」
「後ろ向いて~?」
「後ろ、ですか……?」
 その子の肩に手を置き、腕へと滑らせていく。
「ふぇぇっ!?」
「りらっくす~」
 細い腕を優しく、優しくなぞっていく。
「おしま~い、じゃあね~」
「えと、待ってくださいっ、えぇ? 何だったんだろう……でも体が軽いし、胸もドキドキしてない……」
 さ~て、食堂にでも行こうかな~。

9.サツイダー(南沢×神崎)

 一日一サイダーの為、今日も食堂のお気に入り自販機へ。しかし先客が……アレ? アイツ菊池じゃね? 声を掛けようと思ったが、振り返った姿を見て踏みとどまった。瞳の色が青い別人だった、ややこし。てかサイダー持ってたけど、まさか売り切れてたりしねえよな~……点灯する「売切」の文字。フラグ回収速すぎだろ!
「スゥーーーーッ……サイダー売り切れてんじゃん……」
 日課が途絶えてしまった絶望のあまり心の声が漏れてしまった。まぁいいやコーラでも……
「あの、ちょっと飲んじゃいましたけど、いりますか?」
「はい??????????」
 何言ってんのこの人? 菊池並に何も知らねえな? やっぱお前菊池か?
「いや流石に待って、神崎さん」
 カンザキ?の近くにいた男子が止めに入る。そりゃあいきなり「間接キスしてください(意訳)」、なんて言われたらだーれだってびっくりするわ!
「いきなり飲んだ物勧めてしまってごめんなさい!!」
 男子からの説明が終わったのか、偽菊池から謝られる。ああ、うん、まあ、いいよ……いや良くねえ! なんでお前ら男女二人っきりなんだ! スマホ壊すぞ!

10.うさぎ座の講義(うさぎ×早乙女)

 次郎センセーのフメンをみに、おくじょうのカイダンをとおった時、こんな声がきこえてきた。
「うさぎ座の話ってしたっけ?」
 てんもんぶちょーさんがなにか話すみたい。おほしさまはあんまり見たことないけど、気になる。
「うさぎ座の伝承って、あまり無いんだけど、おおいぬ座とこいぬ座に追われている所を形どったとも言われていて……」
 そうなの? ちょっとこわい。でもこの学園にはほとんどテキもいないし、のんびりくらせるからかんけいないかなぁ。
「あとギリシア神話じゃオリオンの気性の荒さを鎮める為に神が遣わした、という話もあるわ。まあ、効果は無くて踏み潰されてしまったらしいけど。」
 こわい。ボクのせいざの話、ひどい目にあいすぎじゃないかな。
「でもいきなり何でうさぎ座の話を?」
「ああ、さっき屋上で見かけて」
 そうなの。ボクはきづかなかったや。でもボクをみてその話をしようとおもったんだ。ぶちょーさんはわるくないけど、いいお話じゃなかったな。……センセーの譜面みてわすれよう。

11.真偽不明(政×畑山)

 次郎の画面が真っ暗で何も映らない。音はするが、どうしたらいいものか。
「どうした、政。ああこれか、PC再起動したら直るから心配すんな」
 こちらが説明をする前に状況を理解し、瞬時に対応策を提示する。
「ありがとうございます。正直古宮先生より早いし分かりやすい……」
「伊達に次郎やってないからなぁ。まあギミック制作じゃ負けるけど」
「他教科は受け持っていないんですか?」
 次郎でこれだけ優れているなら他も、という思考からの質問。
「持ってないな。理解は出来てるんだが、教えるとなるとね、はははっ」
「本当なんですか?」
 どうにも軽く、腑に落ちない反応だったので少し切り込む。
「割とこれが真でなー。次郎科だけで生きてるようなもんだ」
 またしても軽く、自嘲気味な返答。しかし真偽を確かめようにも、先生は次郎以外の授業を持っていない。能ある鷹は爪を隠すか、あるいは宝の持ち腐れか。
「PC再起動できたぞ。またなんかあったらいつでも呼んでくれ」
 結局この先生への謎は深まるばかりだ。

12.グダグダ学園調査(宇宙川×月原)

 目の前の本棚に並ぶ、動物図鑑を凝視し唸る。
「ねこ……ねこが見たい……」
 本音を言えば、ここでねこのページを開き、可愛さに悶絶したい。が、ここは図書室。まして私は今、ここに学園に関する資料が無いかと探している。
「うーーーー、ちょっとだけなら……いいよね……」
「どうしたんですか? 調べものですか?」
 わっ、と声を出しかけて慌てて口を押さえる。
「す、すみません。驚かせてしまって」
「だ、大丈夫ですよー、まあ調べものですねー」
 現在数人には存在がバレてしまっているが、これ以上素性が明かされる訳にはいかない。今怪しまれていないのが幸いだ。
「どれがどこにあるのか分からない……という状況ですか?」
「えっと、まあ……」
「そうですか。もしよろしければ、お教えしましょうか? 一応図書委員なので」
「やっぱり大丈夫です! 失礼しましたー!」
「えっ、ちょっと、は、走らないでください!」
 結局ねこは見れなかったし、学園の資料の有無も確認できなかったし、変に生徒と関わっちゃったし、リンにどう説明したら……!

13.グダグダ学園調査Ⅱ(時雨南×銀野)

 この無駄に広い体育館。球場レベルの大きさの建造物が学園にある事を疑わずしてどうする。こういうのにはきっと何処かに装置か、スイッチなどが絶対あるはず……
「おーい、どうしたんだ?」
「せっ、先生!? ちょっと探し物を」
「先生って誰だよ! 俺の事か? オモシレー」
 咄嗟の返答で完全に墓穴を掘った……
「探しもんってなんだ? 手伝おうか?」
「だ、大丈夫です。それにヘアピンだしもうないかもしれないので」
 ここでヘアピン探しなんて、砂漠から水を見つけるようなものだ。無理だと分かる筈……
「そりゃ大変だな。人は多い方が良いだろ、手伝うぜ」
 なんで? この人大丈夫? この広い空間でヘアピン……実際そんなもの落としていないが、それを探させている間に一旦撤収しよう。
「ねぇなー。でも広いしどっかにあるだろー」
 存在しないヘアピンを捜索させている状況に自分の心が痛くなる。でもこれ以上生徒と関わるわけにもいかない。さっさと引こう。
「おーい、あったぞー……って居ねえ!!」

14.雪(勝浦×神崎)

 雪の積もった公園。雪那先輩の友人含む、天文部はひょんなことから雪合戦が始まった。
 飛び交う雪玉、飛び交う歓声、飛び交う悲鳴、飛び交う罵声……。
 俺を含む一部参加者は、徐々についていけなくなり、戦線離脱していった。
 そんな中でもめげずに雪玉を投げようとする神崎。現実はしっかり握れておらず、雪をかけているだけなのだが。
 雪を浴びて服が白くなる彼女に、俺はどことなく不安を覚えた。
 もちろん先輩方は手加減している。神崎も笑って仕返しをしている。皆が彼女に集中砲火しているわけでもない。
 しばらくしない内に戦いも終わり、それぞれが動き始めた中、彼女だけが動かなかったことに焦りを覚えた。
 その時、様々な言葉が脳裏をよぎった。
 白い彼女が、雪に埋もれる。雪に解ける。雪に消える……。
 気付けば俺は、無意識に彼女の手を引いていた。
「ね、ねぇ……ゆ、雪ぐらい自分で取れるよ……」
 俺は彼女に真意を言えず、ただ雪をはたく手が速くなるだけだった。

15.言の葉の呪い(月原×銀野)

「オレは将来さてらと結婚するんだ!」
 幼少期に主人公が言った台詞をヒロインだけが覚えており、それを頼りに一度離れてしまった主人公へアプローチするも当の本人は覚えていない。このシチュエーションは数々の作品によく使われている。宣言通りに二人は結ばれるのか、それとも別の組で永遠を誓うのか、はたまた関係が崩れるのか。
 どのルートに進んでも趣があるとは思うが、いざ自身がその場に立たされたら動く事が出来ようか?
 幸星はきっと覚えていないだろう。しかしどうしても割り切れなかった私は、以前に私の事をどう思っているか、なんて無粋な問いかけをしたが返答は更に無粋なものだった。
「腐れ縁って奴じゃね? 昔から居るしなんか友達とはまた別な感じ?」
 溜息をつくしかなかったが、逆にそれが幸星らしいと言えばそうだし、きっとそれが私に求められている選択肢だろう。この距離こそが最適解。お互いに変に意識し合う様になったら、今までできた事がきっと何もできなくなる。
 言った本人も忘れているような言葉に、私はいつまで縛られ続けるのだろうか。

16.食べ物の恨み(雪那×刹那)

「おねーちゃん、話があるんだけど」
「えっ、ん? ど、どうしたのさ?」
「無いんだよね」
「な、何が?」
「知らない? それだったらいいんだけど」
「プリンの事?」
「……知ってるの?」
「あ、え、いやーなんとなくだよー」
「そっか、でも空の容器があったんだよね」
「パッ、パパかママが食べたんじゃない?」
「パパは今仕事でしょ? ママは食べてないって聞いたし」
「あー、プリンの妖精になったとか?」
「おねーちゃん」
「ハヒィッ」
「本当にプリン知らない?」
「わわわわたしは食べてないって」
「ふ、う、ん……」
「な、な、なんなの……」
「ほっぺにプリンついてるのにさ」
「いや、こ、これは、あの、違って」
「お ね ー ち ゃ ん」
「ハイ」
「私 の プ リ ン 知 ら な い ?」
「ゴメンナサイワタシガタベマシタ」

17.未練(早乙女、ANOTHER世界線)

 どうしてこうなったのだろう。
 私は何処で間違えたんだろう。
 誰かを傷つけていたのだろうか。
 誰かに恨まれていたのだろうか。
 私は宇宙に行きたかったのに。
 それは許されなかったのだろうか。
 私はただ研究を突き詰めていただけなのに。
 それすらも許されなかったのだろうか。
 私は夢を追いかけていただけなのに。
 何も許されなかったのだろうか。
 しかし随分と後味が悪い。
 殺すなら一思いに殺してくれよ。
 刺しておいて怯えてるんじゃねえよ。 
 痛いし寒いし勘弁してくれよ。
 でもまさかこんな最期になるなんて。
 母さんや兄さんは泣くのだろうか。
 父さんや姉さんは悲しむのだろうか。
 私もやりたいことはまだまだあったのに。
 大学出てからあの子達とも会ってないのに。
 今頃どうしてるだろうか。
 それぞれ幸せに暮らしているのだろうか。
 本当に懐かしい。
 思い出される八人での天文部。
 これが走馬灯なのだろうか。
 運命とは実に残酷ね。

18.足りない物(百瀬×雪那)

「ゆきにゃんさぁ……やってるでしょ」
「え? 何を?」
 胸の前で手をCの字に動かす。
「わ、分かんないんだけど……」
 察しが悪いなぁ! この娘は!
「胸デカくしてるでしょ!」
「なっ、わけないじゃん!」
「いーや、やってるね。どう考えてもおかしい」
「な、なにもおかしくないよ……」
「そんな堂々と胸にメロンつけておいて、おかしくないと仰りますか!?!?」
「普通に今まで生きてきただけなのに……」
 徳か? 私には前世の徳が足りなかったのか!?
「そういえばさぁ……妹ちゃんも大きいよね?」
「刹那? そうかなぁ?」
 は? 自分はおろか妹の胸の大きさも気にしたことがないと仰せられるか?
「あっ、刹那! おーい」
 ゲッ! 噂をしたら来てしまったのか。早く退散しなければ……
「あっ、おねーちゃん……」
 こっ、こっちを睨むな睨むな…… ハイハイ、大好きな"おねーちゃん"から離れますよ~…………

19.奢り音ゲーバトル(畑山×湯之谷+鷹橋)

「せんせーっ! 今日も勝負しましょう!」
「分かった分かった。いつもの場所でな」
 全く……湯ノ谷は本当に健気だなぁ。おっ、取れた取れた。案外ぬるいなこのUFOキャッチャー。
「で……また俺が審判と」
「審判が居なきゃ駄目でしょ?」
 今日の奢りバトルは鷹橋が審判か。藤井の時もあるが、大体どっちかが巻き込まれている。
「今日はどれで?」
「Misdeedで」
「業でいいだろ」
 思わず吹き出す。しかしまあ、別名は良くも悪くも厨ニっぽいな。
「今日は負けませんよ!」
「……おう」
 演奏開始。BPM変化のところで赤が出たな。
「何やってるか見えん……」
 演奏終了。99AJ、俺の勝ちのようだ。
「もう一回しましょ! もう一回~」
「いつも一回で終わりだろ? ユノ」
「え~あとちょっとだったのに~」
 毎回思うんだが、湯ノ谷敗北に何もデメリット無くないか? まあ生徒から奢られるのは逆に気が引けるからこれで十分だがな。

20.同期内格差(古宮×小波)

「小波先生、帰りラーメン行きます?」
「分かりました。行きましょう」
 小波南雲。新任の理科教師……つまり俺と同期である。だがアイツはあの大ベテラン、俺も教わったことのある畑山先生と仲が良いのだ。抜け駆けは許さんぞ小波。今日こそ事情聴取してやる。
「実は……先生に失礼な言葉遣いをしてしまった事がありまして、その時怒られて当然かなと思ってたのですが、むしろそこから仲良くさせて頂いてると言いますか……本当に有り難い限りです……」
「うおおおおおおおおおおおい!!! そんな事ってあるのか!?」
「正直こんな事になるとは思ってませんでしたけど……」
 嘘だろ? マジでずるいぞ小波。
「どうして……」
「先生はここのOBなんでしたっけ? 畑山先生に一度その話題で話しかけてみてはどうですか?」
「そっか。畑山先生、今までの生徒の顔殆ど覚えてるらしいし一回聞いてみるか! ありがとう小波先生!」
「どういたしまして……やっと開放された……」

21.まどかのくうちゅうたんけん(神崎)

 ひろいひろいあおぞらに
 ふわふわもこもこしろいくも
 
 すいすいすいとおよでいけば
 きらきらにじまでひとっとび
 
 ぱたぱたぱたとはばたけば
 ぴかぴかおひさままでとどきそう
 
 くものうえでぴょーんぴょん
 にじのうえでごーろごろ
 
 あそんでいたらとりたちやってきた
 とりたちといっしょにばさばさばさ

 するといっぴきあたまにのっちゃった
 とりさんをのせてくるくるくる
 
 いっぱいまわってめもまわる
 たいへんつるっとにじからおちちゃった

 けれどぼふんとうけとめた
 めをあけるとふとんのなかだった
 
 おはよう、たのしかった?

22.Closed storeroom(南沢)

R15要素を含む為格納

「あ゛~、風紀委員もあるんだったら体育委員も用意してくれよ……」
 ハードル走の授業が終わり、俺はジャン負けで用具の収納を任されていた。
「着替えたらサイダー買いに行こ」
 半ば乱暴に最後のハードル台を置く。すると背後から聞き慣れた先生の声がした。
「南沢の奴ハードル直したのはいいけど、倉庫開けたままじゃないか。まぁいい、心優しい古宮先生が閉めてやろうじゃねえか」
 えっ、ちょっと待って、冗談じゃない。俺は急いで勢い良く閉まる戸へ走り出す、だが。
 ガシャン、ガチャと戸越しに聞こえた。
「全く仕方ないな~」
 何が仕方ないんじゃあああああ!!!!!
「古宮先生!? 古宮先生!?!? ふるみやああああああああああああああ!!!!!」
 ドコドコドコドコドコドコドコドコドン、ドン、ドン、ドン、ドドドドドドドドドドカってふざけてる場合じゃねえ! どうする? どうしよう? てか今の叫びと打音で気付かん? まさかの防音仕様だったりする? それはそれで安全面においてどうなん?
「てか、体育倉庫暗。」
 眩しい所は苦手だが、逆に暗すぎるとこの状況も相まって不安になる。
「それに体育倉庫防音仕様ってどこに金かけてんだよkou長は……」
 内側でいくら暴れようと周りは気づかない、完全な密室……まさか。
 まさかとは思うけど、体育倉庫ネタを想定してこんな造りに? そういえば学園には監視カメラがそこら中にあると噂で聞いたことがある。まさか生徒がそうなってしまった時に状況を収めるためにか!? 待てよ。ここにカメラがあると仮定して、そのカメラを見つけて壊したらkou長は気づいてこっちに来ざるを得ないのでは? こうなったらダメ元でカメラを探すしかねえ! それに見つかったら得ダネだ!
 そう張り切っていくら時間が経ったか。全然見つからねえ。それにだいぶ目が暗闇に慣れてきている。というかそろそろ俺が教室に居ない事に気付けよ。サッカーボールに座って黄昏れていたその時だった。
「壁に何かある?」
 倉庫の扉の下辺りに謎のスイッチがあった。
「緊急……脱出用スイッチ……???」
 「脱出」の二文字が見えていて押さない理由はなかった。するとガラガラと音を立てて、可動しない反対側の扉が開いた。
「今まで何で気づかなったんだ……」
 やっとの思いで辿り着いた外はありえないぐらいに眩しかった。その後教室に向かっているとほとんどの高一の教員が俺の事を探してたらしく、理不尽にも叱られた。ただ古宮先生が誤って閉めたと判明した途端、矛先がそっちに向き俺は渦中から抜け出すことが出来た。
 ただ一つ謎なのはあの体育倉庫。普通の倉庫なら考えられない構造だったので今後調べる必要がありそうだ。それにカメラの噂が事実ならEleisでハッキングして確認したい。もっとも、俺が閉じ込めらていたデータを消すのが目的だけど。(もしかしたら他の生徒のデータがあったりするのか……いや考えないでおくか…………)

23.それは高性能なメガネですか?(木村×城戸)

 眠い……動画編集中に寝落ちしたからか欠伸が止まらん。それに昨日は編集ソフトがやけに落ちまくって進捗はほぼ無し。
「「はぁ~……」」
 溜息の声がした方を見る。眼鏡の女子、それによりにもよってなんで僕の隣に……。
「あぁ、どうも。被せるつもりはなかったんだけど……ごめんね」
「は、はぁ……」
 何故同じベンチにわざわざ……と思ったが辺りは人で騒がしかった。
「使い勝手が悪いね、ここの機械類は」
「そう、ですね……昨日はPC固まったし」
「何でロードなんて概念があるんだろう」
「まぁCPUの性能によるし……」
「CPU……ふーん……」
「パソコンとか使ったことないんすか」
「無い、ね。大体はコレで済ませるし……」
 そう言って彼女は眼鏡を外す。
「ふざけてる?」
「あっ、いや、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど…… じゃ、じゃあ私はこれで」
 某探偵漫画みたいな事をするから凄いビビったんだけど。普通あり得ないでしょ…………え?

24.友人(百瀬×銀野)

「おーい、ナギ。ちぃ~す!」
「あっ、コーセー。ちぃ~す! どしたん?」
「今日ゲーセン行かね?」
「ざんねん! 今日部活なんだよね~」
「サボっちまえよ~」
「私はこれでも真面目にやってるから。コーセーとは違うんだな!」
「つれねーなぁー」
「てかクラブ入ってたとしてもそんなにサボってたら怒られない?」
「別に? いても暇なんだよな」
「確かにぽそう」
「それにさ、最近"コンマイ"が顧問ついてよ、マジで萎えるぜ」
「あ~あ~、やだねそれは。私も苦手なんだよね。真面目過ぎるし目が怖い」
「アイツの授業寝てるし顔あんま覚えてねえ」
「おいっ! でもインパクトなさ過ぎて眠くなるのはある」
「だろ?」
「いやコーセーは始めから寝るつもりじゃん」
「バレたか」
「それに顔に物理の式ついてるし~」
「はっ!? それを先に言えよナギ!」
「いってらっしゃ~い………………ま、嘘だけど」

25.落ち着く空間(月原×神崎)

「惑花ちゃんはお出かけとかしないの?」
「行きたいんですけど……やっぱり身体が……」
「そうだよね~」
 私の本と机を挟んで惑花ちゃん、私達二人で話す時のスタイル。
「最近素敵なカフェを見つけてね、良かったら惑花ちゃんにオススメしようと思ったんだけど……」
「おっ、教えて下さい! もしかしたら家族で行けるかもしれないので!」
「ふふっ、ありがとう」
 興味津々で星が輝く瞳に嬉しくなり笑みがこぼれる。
「外見から内見まで木造でレトロな雰囲気でね。それに中も落ち着いていて……行ったのはお昼時だったんだけど、窓から差す陽と照明の相性がぴったりでお洒落だったの」
「想像するだけでも、優しい感じがしますね」
「でしょ? それでねカフェオレとランチを頼んだけど凄く美味しかったの。静かだったし久しぶりにゆっくりお休み出来たから惑花ちゃんに教えたくて」
「いいですね~、何てお店なんですか?」
「『月光』って言うの」
「へ~、いつか行ってみたいな。先輩はどうして行こうと思ったんですか?」
「どうしてだろう? 気がついたらそのお店に引き込まれていたというか……説明が難しいね……」
「そんな事って……」
「あるんだよね。惑花ちゃんもお出かけするようになったら分かるかも」
「え~」
 私と惑花ちゃんのお話しする時間、それは天文部での平和なひととき――

26.人と、魔族(泡礼、fant.軸)

「かんぱーい!」
 そう言って周りは酒を飲む……僕はドロドロになるのが嫌だから水を飲むけど。
「今回のクエストは危なかったな」
「それはお前が無理するからだろ」
「でもレモンのお陰でなんとかなったよね」
 ああ、そうだね。などと、なんてことない返事をする。狩りが必要ないとはいえ、やはりこの時間は苦手だ。目の前の"食べ物"を口に入れ、"鉄"を残して溶かす。特定の物だけを溶かさないで喰う技術なんて、この時以外多分使わないだろう。そんな風に黙って"食事"をしていた時だった。
「オイッ! なんでお前らまだコイツ連れてきてんだよッ!」
「いいじゃない! パーティーなんて誰が入ってようが、クエストが達成できれば文句ないじゃない!」
「そういう事を俺は言ってんじゃねえ! 魔族と人間がつるむんじゃねえって話だよ!」
「それは貴方の感情論でしょ――」
「ゴチソウサマ」
 目の前の"食料"を平らげ、こう言う。
「おじさん、僕は元いた所に帰るから」
「そして二度と目の前に姿を表すなッ!」
 刹那、重い斬撃。だけど。
「僕は"スライム"<魔族>だからね」
 そう言って割れた身体を元に戻した。
「じゃあね」
「…………レモン」

27.クリスマス(近江原×菊池+近江原姉妹)

 え? おっ、俺……ヴウン………… ぼ、僕の家に菊池を……?
◆◆◆
 kou長から突如呼び出され、菊池を俺の家に住まわせる事になったと言われ数ヶ月。そして今日はクリスマス。
「いただきま~す」
「優白ちゃんも遠慮せずに食べていいからね」
「あぁ、はい……ありがとうございます……」
 テーブルの上には今日限りの特別仕様で食べ物が並んでいる。チキンとピザは頼んだものだが、それ以外は一応俺が作った料理。とはいえ出前も合わせてるから量は少ないけど。
「やっぱりここのチキンは美味しいね」
「そうそう。それに特別な時だからこそってのもあるよね」
「いや、俺の料理も食べてよ」
 奏ねぇと杏の笑い声をよそに、黙々と料理に手を付けていく菊池。
「……美味しいか?」
 コクリ、と静かに頷く。自分はある程度料理出来ていると思っているが彼女からの反応は毎度薄く、分かりやすい返答は未だ貰えてはいない。
「まあ口に合わなかったら、チキンとか……」
 と言いかけると彼女は首を振った。以前から分かっていたが、菊池は頑なに肉を食べたがらない。完全に食べないわけではないが……身体の事も心配だしある程度は。
「優白ちゃん、食後にはデザートもあるからね?」
 奏ねぇたちも彼女とコンタクトを取ろうとするが、やはり明確な反応は返ってこない。まあ、これでも初めの頃よりはマシだけど。
◆◆◆
 kou長から居候の話は何も知らされてなかった。菊池本人と奏ねぇと杏は聞いてたみたいだけど。俺の家が選ばれた理由は「なんか面倒見が良さそうだったので」らしい。うん、まあ、そうだったけど普通は関係者全員に話を通すものじゃないか? それと菊池の境遇については勿論聞いた。まさか菊池の父親と学園が関係があったなんて思いもしなかったけど。……相変わらず学園、そしてkou長は何を考えてるか分からない。ただこの生活は、コミニュケーションが取りづらいだけであんまり悪くはないかな。あとはいつか俺らと菊池が普通に話せるようになればいいな、とは。

28.家族(鈴野×白咲)

「り~こ~ちゃん!」
 そう言った声の主は横から抱きついてくる。
「…………何よ、せら」
 せらの背中から覗く尻尾はピンと立ち、頭の上の耳はピコピコ動いている。
「今日は~何の日?」
 分かってる癖に。
「はぁ……」
 ため息を吐きながら私は答える。
「……私たちの誕生日でしょ? 分かるわよそれくらい」
 すると隣の猫は溶けるように笑う。
「お誕生日おめでと、りこちゃん」
「ありがとう…………せらもおめでとう……」
 無性に恥ずかしくなり、せらから顔を背ける。
「なんでそっち向くの! ボクに顔を見せてよぉ~」
「嫌よ」
 せらが私の顔を見ようと周りで回るが、無意識に顔を反対側に持っていってしまう。
「減るもんじゃないしいいでしょ~」
「どうせ今日一日一緒にいるんだから少しぐらいいいじゃない」
「え~、でもまあいいや! ボクと遊んでくれるなら」
「いつも遊んでるでしょ……」
「今日は特別だから、もっと遊ぼ」
「はぁ……」
 今日二度目の溜息。どうやらこの猫はいつも以上に私といたいみたいだ。
「まぁ……嫌じゃないけど」
 小声で相手に聞こえないように呟く。
「なにか言った?」
「言ってない」
「そんな~教えてよ~」
 特別なようでそうでもない一日が今日も始まる。
◆◆◆
「今日もいっぱい遊んだね」
「そうね」
「ゲーセン行って~、ご飯食べて~、帰ってきて~、ゲームして~…………むふ」
「何よ…………」
「今日は色々付き合ってくれてありがとう」
「急にかしこまってどうしたのよ。それにいつもの事だし……」
「いやいや、りこちゃんはやっぱり優しいなってね。ボクみたいな奴をこんなによくしてくれるのはりこちゃんと、そのお婆ちゃんしかいないからさ」
「それは……私もせらには、助けられたから……それに…………」
「それに?」
「……もう"家族"みたいなもんでしょ?」
「りこちゃ~~~~~ん」
「ひゃっ! いきなりくっつかないでよ!?」
「もっかい言ってもっかい言って~」
「言わない」
「なんでだよ~~」
「言わない言わない言わない絶対言わない」
「……ちぇえ」
「……」
「"家族"、かぁ…………」
「さっさと寝るわよ、明日は学校なんだし」
「は~い」
「ねぇねぇ」
「何よ」
「大好きだよ、り~こちゃん」
「……わ」
「ん?」
「私も好き……よ、せら」
「ふふふ~、おやすみ」
「おやすみ」

29.似た者同士(友部×黒猫)

「みゃ~」
「おや、どうしたのかな」
 鳴き声がした足元には黒猫がいた。噂には聞いたことあるが、実際に見るのは初めてだ。此処に住み着いた野良猫だろうか?
「にゃ~」
 屈んで目を合わせると黒猫は首を傾げた。私の顔に何かついているのか?――――
「ああ、これか」
 頭頂部から生えているもの、もう一対、この子と同じような耳が私には存在する。
「もしかしたら君も私と同じかもしれないな……ふふっ」
「ふにゃぁ」
「さて私は帰るが、君は何処か行く宛はあるのか?」
「にゃー」
 そう言って黒猫は何処かへ去って行った。
「不思議な猫だったな……まあ同じようなものか」

30.猫の憂鬱(白咲)

ボク、夏は嫌いだな。

クーラーの効いた部屋でずっとゴロゴロしたい。

冷たいアイスを食べるのもいいよね。

扇風機にあ~って声出しながら風を感じるのもいい。

外なんて暑いし絶対出たくない。

あと汗かいちゃうし。

……

それにさ、

目立っちゃうから。

ただでさえボクにはこんなのが付いてるのに。

どうして暑いのが嫌なのにボクは長袖を着ないといけないんだろうね?

はは……

はぁ…………

やっぱりボク、夏は嫌いだな。

31.浮気(神崎×勝浦、未来軸)

「惑花って……浮気できなさそうだな」
「ふぇ……? いきなり何を……」
 彼女の反応を見て、博は自分の言葉に確信を持った。付き合う前から惑花は嘘が付けないし、付いたとしても露骨に顔へ出る。また彼自身も嘘には敏感で、そんな惑花が彼へ嘘をつこうとしてもその前に見抜ぬかれてしまうだろう。
「いや……なんとなく」
「もう、びっくりしちゃった……」
 博の言った浮気について惑花は考えたが、そもそも彼女にはそんな非倫理的な事をする理由がない。付き合う前から博には気をかけてもらっていて、それに様々な時間を共有したからこそ、この関係を無下にする事は考えられなかった。それに他の男性とだなんて……
「今、別の誰か思い浮かべてた?」
「そんな訳ないよ!」
「まあ考えないと出ないって事は居ないって事だから別にいいよ」
「ほんとにいないのに…………」
 それから暫しの沈黙、惑花は博の最初の台詞のせいで深い思考の海に身を投げ出してしまったようだ。
「そういう博さんは逆に……いたり」
 惑花は数十秒ぶりに口を開いたと思いきや、それは反撃開始の合図だった。虚を突かれた博は座っていたソファーでバランスを崩した。
「こういうときってむしろ聞いてきたほうが怪しかったりするから。だから、ちゃんと、答えて」
 不安定になった博をソファーから追いやるように迫る惑花。
「分かったちゃんと答えるから落とそうとしないで」
 そう言って、片手で惑花の肩を持ってなんとか押し返した。惑花はなんの抵抗もせずそそくさと所定の位置に座り直した。
「でも博さんに限ってそんなことないって信じてるから。ね?」
「どうせなら証明しようか?」
「も~、必要ないってば」
 今のところこの二人が別れる事は無さそうだ。

32.目線(勝浦×城戸)

「勝浦、ずっとあの子見てるけどどうかした?」
「うぉ、キド」
「シロトだよ……確かにそうとも読むけどさ。で本題だけど」
「神崎の事?」
「そう、ずっと目で追ってたから……好きなの?」
「いや……なんというか…………そんなに見てたか?」
「割と。少なくとも私には分かるぐらい」
「そ、そうか……」
「結構、キモい」
「え、えぇ?」
「正直見られて嬉しいものでも無いよ」
「…………そ、そうか……そうかなぁ……」

33.灼熱サテライト(月原、天文部)

 誰が言い出したか、天文部で合宿中の私達はビーチバレーをすることになった。始めは部員全員が楽しめる程度だったけど、白熱してきたのか私と幸星ペアと彩と雪那ペアの真剣勝負が開幕した。
「行くぞ、彩」
「勢い余ってボール割らないでよね幸星」
 幸星のサーブで試合が始まる。
「雪那!」
「任せて!」
「さてら頼む!」
「わ、分かった」
 互いにいい勝負で点を取っては取り返され、が繰り返される。
 ただ徐々に分かって来た。この戦い、私が足を引っ張りつつある。私のミスを幸星がフォローする形になっている。
 向こうは普通に運動神経があるペアだし、彩は学年、いや学園一に近い実力がある。それなのに幸星は……
「え、えと、部長さんと雪那先輩のチームの勝ちです!」
「やった~!」
 あぁ、負けた。私のせいだ。
「クッソ~負けちまった」
「ごめん、幸星」
「んあ? さてらは何も悪くね~けど?」
 相変わらず鈍感だね……幸星は、と言いかけて口を閉じる。この暑さに焼かれてるのは私だけであってほしいな。

34.髪型(宇都宮×谷城)

「優ちゃん優ちゃん!」
「どしたのちなっちゃん?」
 授業の休み時間、二人の暖色系少女がきゃっきゃと騒いでいた。桃色の髪を二つ結びにしている優と、金色の髪を伸ばしている智夏だ。智夏の髪はまだ結われていない。
「お願いがあるんだけど……また髪型とっかえっこしない?」
「い~よ( ・∀・) 今日はどうするの~?」
「原点回帰でポニテ!」
「おっけ~」
 智夏は優のヘアゴムを外し、手慣れた動きでポニーテールを仕上げる。
「もういいよ~」
「ありがとうちなっちゃん! じゃあ私の番だね」
 今度は優が智夏のヘアゴムを外し、手慣れた動きでツインテールを仕上げる。
「出来た! てかちなっちゃん、いつもそうだけどちなっちゃんがツインにしたいだけじゃない?」
「そんなことないよー」
「またまた~、あ! 授業始まっちゃう! 次何だっけ」
「歴史だよ、今日はちゃんと板書書いてよね」
「キョ、キョウハチャントオキルモン!」
 二人は慌ただしく次の授業の準備をするのであった。

35.年越し(天文部)

幸星「ったく、誰だよこんなこと言い出したやつ」
さてら「もう、幸星ったらまたそんなこと言ってさ」
幸星「俺は別にいーんだよ、何でこんなクソ寒い中……」
彩「良いじゃない、私達で夜から初詣なんて中々ないわよ?」
小波「それで僕も連れて来られた訳か……あんまり離れないようにしてくださいね」
雪那「先生は今日も真面目だな~」
小波「君たちの為に大晦日の夜に連れ出される僕の身にもなってくださよ……」
さてら「でも、生徒とこんな体験中々ないとは思いますよ?」
小波「はぁ……確かに悪くはないですけど、今日予定あるんだよな……」(kou長の家で新年会ってマジで何?)
刹那(先生も大変だな……)
雪那「あ~あ、勝浦くんと惑花ちゃんも来れたら良かったのにな~」
さてら「勝浦くんは予定あったみたいだし、惑花ちゃんはこの時間にはもう寝てそうだしね~」
幸星「つか、何でこんな夜中から……朝でも良かったろ」
彩「今じゃないと駄目なのよ」
幸星「は?」
小波「まあまあ、見て下さい。時計」
刹那「もうすぐ年越し……おねーちゃん……」
雪那「そうだね~……ん? あぁ」
さてら(全く、相変わらずだな~この二人は……)「ねえ、幸星」
幸星「んだよ」
さてら「いや、何でもない。ごめん」
幸星「は? 意味わかんね~」
彩「じゃあカウントダウンする?」
雪那「そうですね!」
5……4……3……2……1…………!
あけましておめでとうございます!
雪那「それと」
さてら「誕生日おめでとう、幸星」
幸星「あ~、そうか。ありがとな」