小説/20話「太鼓さん事報」

Last-modified: 2021-05-02 (日) 03:56:37

20話「太鼓さん事報」

著:てつだいん 添削:学園メンバー

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~PC室~

 

湯ノ谷「はーい!皆さんがあつまりましたー!」
鷹橋「……なんで俺まで呼ぶ必要があるんだ」
湯ノ谷「だって、パソコン部でしょ?」
鷹橋「そんなことは分かってる。俺はいつも通りの仕g……いや、忙しくて出れない日があるって言ったじゃないか。それにユノなんてもはや幽霊部t……」
湯ノ谷「今なんて言いましたかぁ?」
鷹橋「いや……なんでも」
南沢「今日は大事な日なんですよ」
城戸「見れば分かるでしょ」
音哉「へいっ。ども、音哉です」
湯ノ谷「……もっとしっかりと!!」
音哉「分かりましたよ!!笛口音哉です。今日からPC部に入ることになりました」
湯ノ谷「というわけで!音哉くんが新しい部員となりましたー!」
鷹橋「よ、よろしく(あの時は気付かなかったが、なんだこの陽キャオーラは)」
南沢「まさか湯ノ谷先輩と知り合いだったとは…本当に顔が広いんだな」
音哉「ま、まぁ偶然知っただけ……だけどな」
鷹橋「で?まさかこれだけ?それなら俺はいつもの作業に戻らせてもらうんだが」
湯ノ谷「んなわけあるかー!!」
荷物をまとめて席を立とうとした鷹橋を湯ノ谷は物凄い勢いでつまんで席に座らせた。流石、ゴリラと呼ばれるだけあって腕力も伊達じゃない。

 

……というわけで、俺、笛口音哉は5月から軽音部と兼部してPC部にも所属することとなった。俺が自分から入ったというよりかは、
誘われて入った感じなのだが。そしてその目的は……

 

湯ノ谷「今日から、新聞を作る仕事があるの、忘れました?!」
鷹橋「忘れました」
湯ノ谷「ちょ、そこは乗ってよ!」
南沢「あの場面で忘れましたなんて言う人間がいるんだ……」
音哉「???????」
鷹橋「そんな話、初耳なんですが?」
湯ノ谷「この部を始める時から決まってる。PC部の活動の一貫として、新聞作りがあるの」
城戸「活動内容の隅っこにちょこんと」
音哉「ホンマやわ、活動内容の端のところにちっちゃく書いてあるわ……」
鷹橋(かなり面倒なことになってきたに違いない)

 

音哉「それで、新聞って、学校に貼り出すやつですか?」
湯ノ谷「そうそう。うちの学校には新聞作る委員会とかが無いからね。PC部が作るのが伝統なの」
南沢「どうして専門の委員会ができないのか謎だ」
湯ノ谷「作っても、みんな入らないんだと思う~」

 

活動内容の端に小さく書いてある理由がわかった。みんなは新聞を書くのが面倒なのだ。だから専門の係や委員会を作ろうにも、誰も率先して入ろうととはしない。そこで、PC部の『隠された』活動内容としてこっそりこれを入れておくことで、部に入った後にこの仕事を知るという巧妙なシステムになっていたのだ。

 

音哉(俺は書くのは構わないが、南沢はどういう気持ちで俺を誘ったんだろうか……)

 

湯ノ谷「それでね、新聞の名前が……『太鼓さん事報』」
南沢「太鼓さん……なんだって?」
湯ノ谷「たいこさんじほう!!」
城戸「まさか……平仮名一文字変えただけとはね……」
湯ノ谷「これ考えた人マジ天才だと思うの!誰か知らないけど」

 

どうやらこの名前は何年も前から伝統的に受け継がれてきたらしい。

 

湯ノ谷「それでね、新聞の書き方も面白いんだよ……?」

 

湯ノ谷はそう言うと、昨年度あたりに書かれたであろう新聞を取り出してきて全員に見せた。

 

音哉「??????????」
南沢「これが新聞?」
鷹橋「あーでたでた」
城戸「なんだこれ……」
普通の新聞の面影はほとんど無い。唯一それっぽいと言えば、各記事がマス目で分かれていることくらいである。

 

そこに書かれている文字の羅列は、どこかで見たことあるような、いや、この学校で何度も目にしているようなあの羅列だったのだ。

 

‌TITLE:太鼓さん事報
SUBTITLE:20XW年6月第1号
EDITOR:湯ノ谷 光
LEVEL:8
COURSE:Oni
WAVE:鴻海ねた5.ogg
BPM:130
PUBLISHER:PC部
OFFSET:145days

 

#START
【速報】うさぎ騒動鎮火
先週末より脱走をしていたうさぎを巡って捜索活動が続いていたが、

#GOGOSTART
今週火曜日昼ごろ、気づけば自力で小屋に戻っていたことが確認された。

#GOGOEND
,

#END


 

南沢「?????????」
鷹橋「まあ、そういう反応するのが普通だわな……」

 

太鼓さん次郎に使われるtjaファイルを模したその記述方法はなんとも言えない草だった。

 

湯ノ谷「これねー、私のお気に入りの回なの!」
音哉「まさか、今まで伝統的に……この書き方を……」
湯ノ谷「そゆこと」
音哉「マジですか?!」
鷹橋「これを俺らが書くことになるっていうんだから、大変なこった」
城戸「でも面白そう」
鷹橋「これのどこが面白いんだか……」
湯ノ谷「そんじゃー今から書き方を教えるから!」
音哉「はぁ……(ため息)」
湯ノ谷「新人さんがため息ついちゃってるんですが……ちょっとこの空気どーなんですか」
南沢(知るかそんなの)

 

湯ノ谷は横の壁にある黒板に何か書こうとしたんだろう、そちらの方向を向いた。
湯ノ谷「………………っ」

 

黒板には何やら音源ファイルについての説明がびっしりと書いてある。
『PC部員さんへ 授業で使うので、消さないでおいてください』

 

湯ノ谷は黒板を消した。

 

音哉「まず、新聞に音源ファイルってなんなんですか……」
湯ノ谷「まって。順を追って説明してくから」
音哉「そもそも、記事を書くには取材とかしなきゃいけないんでしょう?」
鷹橋「その点は心配無用。俺らは誰だったか忘れたのか」
音哉「俺ら……あっ」

 

そうだ。南沢をはじめとするここの数人はハッカー組織やってるんだった。入学初日に南沢からすごいお誘いを受けたからよく覚えている。

 

南沢「そこは俺らの情報力でちょちょい……、だろ」
音哉「ま、まぁ、それでうまく行くのならそれでいいか……(恐ろしいな)」

 

結局、湯ノ谷のレクチャー(?)を受けて30分ほど。なんとなく書き方は分かった。情報収集については、例のハッカー組織Eleisに所属している南沢、鷹橋、湯ノ谷が担当することになった。音哉と城戸がメインとなって記事を書く。

 

最近のスクープなら既に入手しているとのことだったので、その後早速記事作りに取り掛かった。変な書式ではあったが、その分テンプレートがしっかりしているので自分で一からレイアウトを考える必要はない。構成が決まりやすいと言う点では、いくばくか楽だった。
城戸とは仮入部の時にPC部で少し会っただけだったが、すぐに話せるようになった。自ら話は持ちかけないものの、こちらが言葉をかければなんだかんだで返してくれる。すっげぇいいやつじゃねえか……

 

音哉「これ、スクープってほどでもないような……」
城戸「こんな情報まで、なぜ……」
音哉「これプライバシーとかバリバリ侵害してません?!」
鷹橋「この学園はプライバシーを厳守するところだとでも思ってたのか」
音哉「あ、あぁ……」
普通なら言い返して当然なはずの理屈なのに、なぜか反論する気にはなれなかった。ここはそういうところだ。プライバシーなんて無い、と考えると少しゾッとした。
音哉「この学校、嫌かもしれねぇ……」
南沢「流石にずっと監視されてるわけじゃないだろ」
湯ノ谷「その通り!実はその辺りも、色々とルールがあって…… 今度話すねっ」
音哉「は、はぁ……」
なんとなくで相槌を打つことしかできない。

 

数日後、丁寧に仕上げられた記事はやっと完成した。改めて見返してみるが、予想以上に酷い内容だった。
音哉「こんなにプライバシー侵害して平気でいられるなんて恐ろしいもんだ……」
城戸「それじゃ、これ提出してくるから」
完成した記事は湯ノ谷らに渡り、校閲と少しのアレンジを加えて完成になる。校閲が果たして本当に意味をなしているのかは置いておこう。

 
 

記事を提出した2日後のことだった。朝のホームルームで古宮先生がこんな連絡をしたのだ。
古宮「今朝気付いた人もいるかもしれないが、廊下の壁に妙な掲示スペースができたのを知ってるか?」
近江原「確かにありましたね」
古宮「今日から、あそこに学校諸々のお知らせを紙で貼っていくことにする。今までは大体が口頭だけでの連絡だったからな。その他にも各教科で出された課題などもあそこに掲示されていくそうだ」
涼介「なるほど、それは便利だ」
古宮「そしてなんといっても、今日からアレが掲示されるんだわぁ……」
Felix「『あれ』とは……」

 

多くの生徒がきょとんとした顔をする中、ニヤニヤ顔でいる生徒が二名……

 

言わずもがな、音哉と南沢である。

 

古宮「言わば時報だ。校内で掲示される新聞と言ったらいいだろうか。その名も『太鼓さん事報』」

 

一同「「「太鼓さん事報?!」」」

 

そんなに声を揃えて言うなや。

 

古宮「まぁ、いろいろ変わった新聞だから、このホームルームが終わった後にでも見てみるといい」
南沢「1時間目なんだっけか?」
音哉「コミュ英だぞ」
南沢「単語テストあるやん……(絶望) もう今日の単語テスト捨てよ。それより太鼓さん事報が気になる」
音哉(そうだろうそうだろう……?!)

 

音哉も単語テストの勉強なんぞしてない。人のことは言えないが……

 

ホームルームが終わった瞬間、生徒たちは一斉に廊下へ出た。するとそこには確かに掲示板らしき板が貼ってある。早速小さな張り紙が数枚貼られているのだが、それよりも群を抜いて一番目立っているのはやはり、音哉たち主犯のこの掲示物である。

 

音哉「おぉ……なるほど、綺麗にまとめてくれたなぁ……」
師音「綺麗……??」
照美「ん…………?」
涼介「なんだこれは……」

 

ここまでの反応は既に予測済みだ。そりゃあこんな変な書式の新聞を見せられたって、困惑する以外に何もできない。目の前には例のtjaファイル風のレイアウトで色々と書かれていた。

 

‌TITLE:太鼓さん事報
SUBTITLE:20XX年5月第1号
EDITOR:笛口 音哉/城戸 太陽
LEVEL:7
COURSE:Oni
WAVE:想良の独り言.ogg
PUBLISHER:PC部
OFFSET:185days

 

#START
【混沌】高等部1年、波乱の宿泊研修が終了
毎年恒例で行なわれている高1生の宿泊研修が終わった。ほとんどが今年入学したばかりの高1生であったため、例年よりも困惑した様子がうかがえた。
今回は数人にインタビューを行ってみたz
1-2 黒野 造目さん
Q.今回の宿泊について、感想を一言でどうぞ
A.キレそう
Q.具体的にどういったところが?
A.まず生徒をこんな危険に晒す学校側の態度に腹が立った。楽しかったは楽しかったが、これで死人でも出ていたらどうするつもりだったのか
Q.kou長に訴えたらどうですか?
A.いや、あの人に訴えたら何をされるかわからないので、安易に手を出すことはできない

 

1-2 劉 天広さん
Q.今回の宿泊体験で一番大変だったことはなんですか?
A.サバイバルレス。(レース?) チームの絆が無くなりそうになった。助けて欲しい。
Q.命の危険に晒されましたか?
A.死は我と隣り合わせだった。

 

昨年よりも確実に困惑の声は増えているようだ。学校のほうで安全性が確保されているのかは疑問ではあるが、私たちがどうにかできるものではないので仕方がない。

 

 

Felix「なんなんだこれは……」
音哉「俺もそう思う」
近江原「なんで製作者がそんな困惑した顔してるんだ……」
優「いや、レイアウトは10000歩譲って受け入れるとして、このインタビューはどうして2組の人だけしかないの??」
音哉(だけしかって言うけど、たった2人しか聞いてないんだよなぁ……)
優「ね、どうして??どうして??」
音哉「さぁ、俺にもさっぱり……」

 

実際、このインタビューを行ったのは音哉ではなく城戸である。だから音哉にその質問をされても、どうしようもないのだ。
適当に分担をしていたらインタビューが城戸に当たってしまったらしく、音哉はそれを一度引き留めて『インタビューは俺に任せとけ』って言ったのに、結局は分担を変えようとしなかったのだとか。変な意地でもあったのか……??

 

続きを見てみる。

 

【悲報】自販機にあったステッカー、撤去される
今年2月頃から自販機に無断で貼られていた音ゲーの萌えキャラステッカー。当初は話題になって生徒にも大方人気だったが、先月29日、突如としてその姿を消した。
調査の結果、ステッカー撤去の犯人は教師陣であると推測される。この悲報に対して学校の人々は……
高校2年 Fさん「今までこれを見るのが楽しみでもあったので、ものすごくショックです」
高校3年 Iさん「風紀委員ですら見逃してあげていた無断ステッカーを教師陣がいきなり剥がすなんて、何を考えてるんでしょうかね」
高校2年 Tさん「本当に残念すぎる。わたし一回あのステッカーでぬ……………… あのステッカーが大好きだったのに」

 

各々がこのように残念がる一報で、やっと撤去されて良かったという肯定的な意見も数人見受けられた。


 

高砂「えぇぇ………」
南沢「最後にやばい人いて草」
Felix「終わってるなこの学校」

 

【可愛】想良雪姫さん、意外とヤンデレ
普段から風紀委員として誰に対してもきちんと接していることで有名な高校1年3組の想良雪姫さん。だが、彼女が意外とヤンデレである説が浮上した。
匿名のKさんは次のように語る。
「この前、校舎裏で壁を殴っているのを見かけた気がする。誰だったかはっきり特定はできないが、おそらく想良さんだったと思う。壁を殴りながら、誰かの名前を叫んでた。」

 

証言がまだ一人しかいないので信憑性は低いが、この噂は学校内で大きく波紋を広げたようだ。

 

みんなは一瞬黙りこくっていたが、その後雪姫のほうをじーっと見つめた。
雪姫「あらぬ疑いをかけられてるんですが!?」
名指しで噂を報道するとか、文○とか○春とかみたいな新聞みたいになってしまってる。音哉自身はこんな記事にしたつもりはないのだが……?!
南沢「おい音哉、これはどういうことだ」
音哉「お、おぉぉぉ俺の責任じゃないし!」
南沢「だってこの記事作ったのはお前じゃないのか?」
音哉「こんな記事書いた覚えはない!!そ、そうだ、編集者の名前表記はどうなって……」
その記事の端に小さく書いてある編集者の名前には、『湯ノ谷 光』という名前が……

 

音哉「ゆのたにセンパイ……!!!!!!!(静かな怒り)」

 
 
 
 

こうしてPC部による太鼓さん事報の波乱が始まったのであった。
この事報はこれからも学園を巻き込んで数々の騒動を引き起こしていくこととなる……

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