小説/8話「次郎」

Last-modified: 2020-04-26 (日) 17:26:10

8話「次郎」

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著:てつだいん 添削:学園メンバー

今日は前から謎だと思っていた「次郎」という科目がある。
なんと1時限目から4時限目まで、4コマ連続で次郎になっている。
次郎というのは結局何なのかよく分かっていない。次郎勢学園と、学園の名前にもなっているくらいだから、何か密接な関係があるに違いないぞ。何人か教師に尋ねた者もいたらしいが、「それは当日の授業が来るまで秘密だ」と言われて断られてしまっていたという。学園名が学園名だし、次郎を扱っている部活もありそうなものだが…それでも情報は入ってこない。なので誰も情報をつかめていなかった。

 

朝の教室、俺は涼介に話しかける。
「ついに今日が次郎の日だな」
「そうだな。結局どんな授業なのかは誰も分かっていないそうだ」
「はぁ……なんで教えてくれないかなぁ↓……」

 

すると、そこに、後ろの席の南沢が話しかけてきた。
「もしかして、次郎を知らないのか?」
「え?南沢は知ってるのか?」
「大体見当はついているんだよなぁ」
「それを早く言ってくれよ!!俺は気になりすぎて昨日の夜よく眠れなかったんだぞ!!」
「いやそれは自己責任だろ……」涼介の淡いツッコミが通る。

 

音哉「それで、どういう見当なんだ?」
南沢「この学園って、やたらと音ゲーと関係があるだろ?」
音哉「ああ」
南沢「音ゲーと次郎を同時にネットで検索してみたんだ、そしたら面白いものがヒットした」
音哉「面白いもの……?とは?」
南沢「シミュレーターだよ、シミュレーター」
音哉「シミュレーターァ??と、言うと?」
南沢「どうやら音ゲー界で言う『次郎』というのは、タイタツのPCシミュレーターの事らしいんだ」
音哉「ということは、タイタツが?PCで?再現できるということか?」
南沢「そういうこと」
音哉「いや、それ普通にすごいやん!」
涼介「シミュレーターか…… それを授業でやるっていうのはどういう意図なのだろうか……」
南沢「問題はそこなんだ。タイタツを再現した映像をPCで見るだけなら、ようつべで全良動画でも見ていたほうがマシだと思った」
音哉「確かに」
南沢「だからもう少し調べてみたんだ、そしたらなんだかカオスな状況が掴めてきたってわけ」

 

すると……
枝川「もしかして、次郎の話をしてるの?」
他の生徒も話を聞きつけて寄ってくる。
南沢「そう。次郎について色々調べてみたんだ」
森「どういうこと……ですか……?」
谷城 智夏(たにしろ ちなつ)「私にも聞かせてー!」

 

谷城 智夏 皆から好かれている、優しい子。宇都宮のように明るい性格で、金髪の長髪。特技は自分や他の女の子の髪を結んであげること。銭湯が好き。

 
 

話を続けよう。
南沢「どうやら次郎の正式名称は『太鼓さん次郎』。タイタツを再現するというのは、映像を再現するだけじゃない。実際に作譜をしたり、実際にキーを叩いて遊ぶことができるらしい」
音哉「何だとぉ!?」
枝川「遊べるのか……」
南沢「インターネット上では、これを利用してオリジナルの譜面を作って公開したり、逆に他の人が作った譜面をDLして遊んだりするのが流行っているらしいぞ」
谷城「へぇ~~!」
涼介「もしかしたら、その『譜面を作る』ってのをやるのかもしれないな」
森「え、えぇぇぇぇ……」
森はとても不安そうにしていた。

 

ガラガラガラガラ
古宮「さぁ!これから次郎の授業をする!みんな席に座れェェェ!」
いつにも増してテンションの高い古宮先生がやってきた。
ついに始まる。次郎の授業。辺りはざわめき始める。南沢の言っていた予想が当たっているのなら、面白いことになりそうだが……

 
 
 

古宮「(ニヤニヤ)」
南沢「(先生めっちゃ顔がニヤニヤしてるーーーwwwwww)」

 

古宮「みんな座ったな? さて!待ちに待った次郎の授業だ!」
谷城「先生!次郎って何ですか?」
古宮「はっはっはっw もう話すまでもない。次郎と言ったら次郎しか無いだろう」
全員「「「えっ」」」
音哉「いやw 次郎って何のことなのか分からないんですが」
古宮「だから次郎は次郎だって言ってるだろ?」
涼介「いやいやいやいやいや…… だからそういう答えは……」
古宮「え? 嘘だァ! みんな次郎を知らないのか?」
政「知りませんよそんなの」

 

そんなやり取りは1分ほど続いて……

 

古宮「ああ、冗談だよ冗談だってばwっはっはっはw 次郎のことはしっかり教えてやるってw」
全員「「「(なんなんだよくだらん冗談言いやがって!)」」」

 

古宮「ぐぐ…ごっほん それで、この学園の名前にも入っている次郎というのはだな、あれだ。例の太鼓を叩く音ゲーをPCでシミュレーションすることができるソフトだ」
南沢「なんだ。やっぱりその次郎か……」
古宮「結局知ってるんか↑ーーーーーーーーいwwwwwwwww」
(は?)
とにかく古宮先生のテンションが高い。助けてくれ。この波にはついていけない。
南沢「でも、知ってるのは俺くらいですよ」
古宮「そうか…… じゃあしょうがないな、実際にやりながら説明したほうがいいか。よーしみんなー、パソコン室向かうぞー」
全員「「「よっしゃーーーーーーー」」」

 

ということで、俺たちはパソコン室へ向かった。
部活選びの時に一度言ったことがあるので、場所は分かっていた。俺が入部を決めた、軽音楽室の部屋のすぐ近く。
パソコン室は学園の他の部屋とは少し雰囲気が違う。会社のオフィスのような、白や明るい灰色、ベージュを基調とした壁や天井。周りよりちょっと暗めの色の床。くるくる回転するたくさんの椅子はすべて黒。
前にはスクリーンと電子黒板がある。
PC部の見学に来ていた時はとても縦長で広い部屋だったが、普段は仕切りの壁があって、普通の教室くらいの大きさになっているみたいだ。

 

古宮「とりあえず、教室と同じ席順で座ってくれ」
椅子に座った。なんだか会社員になった気分だ!
古宮「さて、百聞は一見にしかずだ。とりあえず俺が次郎をやるところを前のスクリーンに映してみるぞ」
古宮先生は前にある教師用のPCをスクリーンの装置の横のプラグと接続した。
すると、スクリーンを介して見た先生のPCの画面には、確かに某太鼓を叩くゲームの画面が映っていた。想像よりかなり小さいが。
枝川「おおおおぉぉ……」
古宮「このソフトはいろいろなことができる。本家のように曲をキーを叩いて演奏するのはもちろんのこと、オート演奏、そして作譜機能までついているのだ!!」
一部の生徒は理解しているようだが、その他の生徒は話についていけてないようだ。
まあ、PCにある程度詳しくない生徒だったら……置いていかれるのは必然と言ってもいいか。
音哉「先生、もう少し丁寧に説明したほうが良いと思います」
古宮「あ、そうだな…… 調子に乗ってつい勢いよく進めてしまった」

 

機械音痴の生徒でも、とりあえず…… なんとか…… 次郎本体を起動するところまではできた。
古宮「俺がデフォルトで少し譜面を入れておいた。俺のオリジナルだ。試しにPCで遊んでみてくれ」

 

俺はなんとか操作方法を理解して遊ぶことができたが、全員がそうとはいかない。
笹川「ふにゅ~ん…操作の仕方が分からないのだ…」
宇都宮「あー、アイちゃんが全然分かってないみたい…… えっと、まずここを押してー、次にここで難易度を選ぶの!とりあえずかんたんでいいかな…… よし!こうしてっと。どう??できた??」
笹川「できたのだ! ありがとうなのだ!」
という会話が聞こえた。全員が次郎に慣れるまでは時間がかかるかもしれない。

 

一方……
Felix「なんだ、結構簡単じゃないか!」
相変わらずフェリックスは自分の要領の良さを思いっきり発揮している。

 

数分譜面を遊んだ。すると古宮先生が言った。
古宮「さて、そろそろ遊ぶのをやめてくれ。あ、そうだそのキーだ。譜面をプレイ中ならEscを押してくれ」
枝川「先生ー、Esc間違えて2回押しちゃったらソフトが終了しちゃいました」
古宮「あ、ああ……まじか…… 枝川、ちょっと貸してくれ」
カチャカチャ……
古宮「えーと、どこにあったけな……PCの、Cドライブの、ユーザーの、Jirostudentsの、えーとそれから……」
涼介「古宮先生、ショートカットなんで作らないんですか」
南沢「それなw」
古宮「あのなぁ!正直に言うとなぁ!生徒16人分ものショートカットを作っておくのがめんどくさかったからなんだ!!w」
音哉「(おい)」

 

古宮「えーーーと、よし。起動できた。これで大丈夫だ」
枝川「ありがとうございます」

 

菊地「先生、私も間違えて閉じちゃいました」
古宮「!!!!」
  「なんでやねーーーーーーーんwwwwwwwwオイオイオイオイオイオイwww(怒)」
先生がちょっと怒り気味のツッコミを入れて声の方へ走っていった。面白い教師だ。
古宮「えーと、どこにあったけな……PCの、えっと……Cドライブの、ユーザーの、それから……あー、Jirostudentsの、えーとそれから……」
なんでさっきよりも手こずってんねん。

 

古宮「はい、よし。起動できた。やっと終わった はぁぁぁぁ……」
先生がため息をついた。少しいらついている。
笹川「ふにゅ~ん…… アイも間違えて閉じちゃったのだ……」
古宮「!!!!」
  「なんでやねーーーーーーーんwwwwwwww(^ω^)オイオイオイオイオイオイ(^ω^)(^ω^)(^ω^)」
何故か今度は嬉しそうだ。

 

古宮「えーと、どこにあったけな……ふへへwPCの、えっと……Cドライブの、ユーザーの、ふふwそれから……あー、Jirostudentsの、えーとそれから……ぐへっ緑髪w」
全員「「「(心の声漏れてるww)」」」
やけに時間がかかっている。さては緑髪か。(おいおい授業中くらい真面目にやれや先生……)

 

古宮「さて!これからが本番だ!」
本番……?
古宮「これからお前らには、この次郎を使って作譜をしてもらう!!」
!?!? いきなりか!
古宮「大丈夫だ。作譜の方法は順を追って丁寧に説明する。PCをあまり弄らない奴でも大丈夫だ」

 

まず、音源を用意しないといけない。
古宮「とりあえず初回だからな。ようつべやニコ動で、自分のお気に入りの曲でも開いてみてくれ」
みんなが検索をしまくって、動画を再生しまくって、数分後にはPC室はゲーセンのような騒がしさになっていた。

 

古宮「あー、J-POPは避けたほうが無難だぞ DLが面倒だし()」
涼介「(実際はJ-POPじゃなくてもグレーだけどな())」

 

古宮「そしたら、このソフトを使って音源をダウンロードするんだ」
最初にして最後の必殺奥義!!Craving Explorer!!!
南沢「それ使うんかいw」
古宮「周りはぜんぜん違う方法を使ってることもあるんだけどな?このソフトは先生のお気に入りだからとりあえずうちのクラスはこれで統一な」
南沢「あ、あー……(汗」

 

そして、各自音源をDLした。古宮先生は相変わらず笹川の手伝いを笑顔でしていた。笹川の隣の宇都宮が困った顔で見ていた。
古宮「それじゃあその音源をフォルダに入れるんだ。曲名と同じ名前でフォルダを作ってくれ」
谷城「先生ー!分かりませーん!」
古宮「分からなーーーーーいwwwwwww分からなーーーーーいwwwwwwwもうwww」
古宮先生はそう歌いながら谷城のところへ走っていった。
(は?)
音源をフォルダに入れるのに15分、TJAファイルの作成に10分、ヘッダの入力に20分かかった。
俺はすぐに作業を終えたが、PCに慣れていない人を古宮先生が一人一人丁寧に教えていたからである。
俺たちは先に譜面を作ってちゃダメなのか!!
古宮「全員で作業を進めるタイミングは統一しないと、俺がまとめるのが面倒だ」
いや、俺は古宮先生の個別指導無しでも作業できるくらいPCに詳しいんだが。

 

古宮「え、えええ、えっと(汗)、ついに作譜だな。まず、『,』(コンマ)を打ってみてくれ。
カチッ
古宮「このコンマが一小節を表す。このコンマの前に音符の指示を書くことで、譜面になるんだ。まず!0は空白だ」

 

全員「「「なるほど」」」

 

古宮「そして、1が面だ」

 

全員「「「なるほど」」」

 

古宮「そして、2が縁だ」

 

全員「「「なるほど」」」

 

古宮「そして、3が大きいDong!!だ」

 

全員「「「なるほど(?)」」」

 

古宮「そして、4が大きいKa!!だ」

 

???「そこはKangだろ!!」

 
 

古宮「????????????????」
古宮「えーえっと、そして5は連打だ。6は大きい連打だ。7は風船連打だ。9は芋連打だ。これらの連打は8を入力することで止めることができる」
古宮先生が調子に乗って速く説明してしまったせいで、俺すらも何を言っているのか理解できなかった。
何度か説明を繰り返して、全員がなんとか理解するまでに30分かかった。

 

古宮「以上だ。さあ、後は自分の発想力で譜面を作ってみてくれ!」

 

こうして、作譜の時間が始まった。


 

音哉「なるほど……それじゃあ一行に111111111111111111111111111111111111111111111111,ってやれば、超鬼畜な譜面になるってことか……面白そう」
南沢「昨日調べたら、それって素人が必ず試す行為だって書いてあった」
音哉「!?!?
  いや、俺はもう素人じゃねぇ。だからこんな無理ゲーは作らない。今のは冗談だ」
涼介「最初くらい素人でもいいじゃないか。無理して一人前になろうとしなくても」
音哉「そういう涼介はどうなんだよ!こういうことして遊ばないのか?」
涼介「いや、僕は普通の譜面を作ってるぞ」
音哉「涼介だって一人前ぶってんじゃねえか!」
涼介「いや、別に無理して作ってるわけじゃない。素直にこういう譜面が良いなと思っただけ」
音哉「うぐぅ…うっ…(言い返せない)」
南沢「はははw もう好きなようにやればいいじゃん」
小倉「その通りだね。まあ二人の会話も面白いんだけど」
音哉「おい!!//」

 

 

森「あの……音哉君……?」
音哉「ん?どした?」
森「連打って、どうやってやるんだっけ……//」
音哉「ああ、それは5だ。それで伸ばしたいだけ伸ばして……8で終わらせる」
森「あ、分かった……// ありがとう……///」

 

あれ……?気づかないうちにタメ口になってるな…… たしか最初は敬語使ってきたけど、いつの間に……
でも俺に話しかけるたびに顔を赤くするのは変わらない。もしかして赤面症とか……?
そんなことを考えながら森の様子を横目で伺っていたら、なんだか連打を打とうとしない。うっわ……あれか。流れ的に『わかった』とは言ったものの、本当は理解できてなかったってやつか……

 

音哉「あれ?もしかして連打のやりかた分からなかったか?」
森「えっ……!?/// いや、そんなことないよ……//(もじもじ)」
音哉「いや、そんなに遠慮しなくても…… まだ分かってないだろ?もう一回丁寧に教えてやるよ」
森「えっ……// あ、うん……実は……まだ。。。よくわかって……なくて……// ごめんなさい……///」
音哉「そんな謝らなくたって。じゃあ俺が実際にやってみせるよ。それなら分かりやすいだろ?」
森「あ……ありがとう……///」

 

森を挟んで音哉の反対側にいる枝川が森と音哉のほうに気づいた。
枝川「なんで音哉には話しかけて俺には話しかけてくれないんだろ……」

 

すると森の後ろにいる高砂 綾斗(たかさご あやと)が言った。
高砂「嫌われてるんじゃない?」
枝川「えぇぇぇぇ……」
高砂「あー、今のは何でもないですごめんなさい」
枝川「本当にそうかもしれないな……」

 

 

谷城「やっと半分くらいまで行った!ねえねえ優白ちゃん!私の譜面見てみてー」
…と、谷城は後ろの席の菊地 優白(きくち ましろ)に声をかける。
菊池「私に何か用でも?」
谷城「私の譜面見てみてよ、ねえねえ!」
菊池「ずいぶんと勢いよく話しかけてくる子ね……私そういうの苦手なんだけど」
谷城「(ガーン)
   え……えぇ……」

 

菊地 優白(きくち ましろ) 人と接することが苦手で、他人と話すときは毒舌になる。

一方、谷城はとてもフレンドリーで色々な人に話しかける。
この二人はどうやら相性が悪いようで、これ以来しばらく話をしなかったそうだ。

 

近江原「(うわぁ……右隣の菊池ってけっこう冷たい人なんだな…… 接しづらいぞこりゃ
   かと言ってな…… 左の宇都宮は"アレ"だしな……」

 

近江原 丞(おうみはら じょう) 一応陽キャだが人を纏めるのが面倒な人。過去にあるトラウマがあったようで、大きい胸が苦手。よって、宇都宮とは仲良くなれない。

近江原「(うわぁ……左も右も苦手になっちゃった……)」
いつもはもう少し陽キャっぽいが、授業中はいつもこんな調子だ。一番後ろの席なので、後ろには誰もいない。唯一、前の席の高砂とは気楽に話をすることができる。アニメ難民である近江原にとって、デレマス好きである高砂とは繋がる何かがあるらしい。
近江原「しょうがない…… 一人で黙々と作譜するしか無いか……」

 

 

宇都宮「そういえば、アイちゃんはどんな曲を使ってるんだろ……」
(こっそり笹川の方向を見る)
_人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> イワシがつちからはえてくるんだ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

宇都宮「え!?」

 

 

南沢「(そう言えば俺、左隣の古閑って奴にまだ一度も話しかけたことなかったな……
   せっかくだし、この機会にさりげなく話してみるか?)」
隣にいる女子、古閑。とても無口だなとは思っていたが、それ以上に驚いたことは、いつも肩にハトが乗っているということだ。あの鳥のハトが、である。まるで古閑とハトは一心同体、みたいな様子で、いつも肩に乗せている。なぜだ……?

 

南沢「ね、ねえ、君はどんな曲を作譜してるの……?」

 

古閑「……………………。」

 

南沢「あ、あのーー」

 

古閑「……………………。」

 

南沢「なんか返事してくれないとこっちも傷つくのよ!!」
とっさに出た言葉が自然と女のような口調になってしまった。
古閑は南沢が話しかけてきた瞬間、メモ帳を取り出して何かを書き出した。これって話したくないってことなのか……?
と思っていたら、古閑はメモを書くのをやめて、そのメモ帳を肩に乗せているハトにくわえさせた。そのハトは南沢のところまでちょんと飛んで、南沢に向かってくわえたメモ帳を差し出した。古閑は恥ずかしそうにしている。

 

『わたし、人前で話すのが恥ずかしくて、いつもこうやってメモに文字を書いて話をしてるの』

 

えぇっ!?
人前で話すのが恥ずかしくて…… それでメモ帳を……
なんと驚き。この子は一切言葉を口に出さず、メモ帳に書いた文字だけで会話をしているのか。
なるほど、そのためにハトが……

 

古閑 抄雪(こが さゆき) 非常に人見知りであり、言葉を一言も発しない。そのため、メモ帳に返事を書くことで会話している。
メモ帳はいくつ使うことになってもいいように、カバンに小さいものを15個ほど持ち歩いている。
いつも肩には真っ白なハト「ギン」が乗っており、自分から話しかけたいときはメモをギンにくわえさせて運ばせる。

隣の席にいる人にさえハトを介してメモ帳を渡すのだから、自分が直接相手にメモ帳を渡すのが恥ずかしいのかもしれない。

 

 

古宮「おーい、そろそろ作譜をやめてくれー」
おっと。気づいたらもうこんな時間か。もう少しでチャイムが鳴って昼休みの時間だ。
古宮「今日はここまでだ。作譜の早さは人それぞれだろうから、また次回の授業で続きをやろう。もう完成している人は、次回はその譜面を他のクラスメートに遊んでもらう時間をとる」
音哉「なんだそれ!楽しそう」
古宮「それじゃあ、PCをシャットダウンして教室に戻るぞー」
全員「「「はーい」」」

 

こうして次郎の授業は終わった。確かに楽しかった。楽しかったが、なぜここまで次郎にこだわるのだろうか?別に普通のプログラミングを学んだほうが、将来にも役立ちそうだが。学校名と何の関係が…… そもそもこの学園が音ゲーを推していることもわけがわからない。楽しいからいいけど、この学園は結局何なんだ??
謎は深まるばかりだ。

 

――――午後
古宮「ここで、皆にちょっとしたお知らせがある」

 

音哉「なんだなんだ?」

 

古宮「なんと! いきなり発表! 1週間後、宿泊研修に行くことになったぞ!!」

 

全員「「「ええええええええええええええええええ!?」」」

 

谷城「え………? 宿泊研修って、どこへ?」

 

古宮「行き先は…… 長野だ!!!」

 

宇都宮「ん???んん?????何をしに行くんですか?」

 

古宮「その名も………… 機械に頼らずcontrysideで自給自足をしよう宿泊研修!!」

 

(なんでそんな名前を……)

 

古宮「お、オイw 俺が滑ったみたいになってるじゃねえか」
「「「(いや滑ってるから……)」」」

 

古宮「まあ、名前の意味そのままだな。自給自足で田舎で過ごしてもらう」
涼介「わ、わお……」

 

ついに、次郎勢学園、一番最初の学校行事が始まろうとしていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

――――放課後

 

鷹橋「校長先生、なんで呼び出したんですか。それによくわかりましたね、僕が今日学校に来ているって」
kou長「あ、学校に来ているってのは知ってたわけじゃない。私の勘だ」
鷹橋「えぇぇぇ……」

 

kou長「それはそうと、本題に入るぞ」
鷹橋「はい」

 

kou長「君…… 私のパソコンをハッキングしたね?」

 

鷹橋「うぉっクッソバレたかちくしょうっ()」

 

kou長「ほう、割と簡単に認めるんだな」

 

鷹橋「すみません校長、この学園には色々と怪しいことが有ったもので…… どうか許してください」

 

kou長「普通の高校なら、即退学…… だろうな」
鷹橋「やっぱりそうですか退学ですか…………    って、えっ」

 

kou長「だが、あの情報を知ってしまった以上、むしろこの学園に留まってもらわないと困るな」
鷹橋「あの情報……? とは……?」

 

kou長「何をとぼけている。サイバー攻撃の防衛についてのことだ。知らないふりをしても無駄だぞ、鹿児島 義秋」

 

鹿児島「な、なななななななななんでその名前を!?!?」

 

kou長「簡単なことさ。君と全く同じことをしてこの情報を手に入れたんだ。分かるね?」
鹿児島「まさか…… 俺のPCを…… ハッキング?」

 

kou長は静かに頷いた。
kou長「全部分かったよ。君は学校内では鷹橋 恭と呼ばれていること、本当の名前が鹿児島 義秋だってこと、しかもハッカー組織に入っているということもな」

 

鹿児島「全部バレてしまったか……」

 

kou長「この情報を学園内に漏らして欲しくないなら」
鹿児島「欲しくないなら……?」
kou長「私たちに協力してほしいんだ」
鹿児島「えっ 協力!?」

 

kou長「そうだ。私たちサイバー攻撃防衛職員と、君のハッカー組織Eleisと、手を組もうじゃないか」