小説/15話「サイバー防衛陣Eleis」

Last-modified: 2021-10-20 (水) 18:35:28

15話 サイバー防衛陣Eleis

著:てつだいん 添削:学園メンバー

 

高1生が宿泊研修を満喫している中、学園本舎にて怪しげな動きが…………

 
 
 
 

ピピっ……ピーーーーッ…………

 

こちら学園唯一にして最強のハッカー組織。
本日も放課後の2年1組でいつもの作業を遂行中……と言いたいところなのだが……今日は作戦を急遽変更だ。

 

・・・という前置きはいいとして、俺たち鹿児島 義秋、湯ノ谷 光、南沢 旭の3人はEleis(呼び方諸説あり。俺らはエレスと呼んでいる)と名付けたハッカー組織を組んでいる。
本当は部活動として活動したいが、『ハッカー部』とかいう名前にしたら炎上しそうだし、サッカー部と響き似てるし、何よりPC部との違いが分かりづらい。
てなわけで部活動しては認められていないが、実質部活として放課後にワイワイやっているというわけだ。

 

それで肝心の活動内容は……ハッk……と言いたいところだが
普段からそんなことはしない。
普段は会社員の大事な書類をtjaファイルにしている。()

 

正直これは需要あるのか分からん。というか迷惑してそう。
……いや流石にそれだけじゃ無いぞ?
他にもゲーセンのメンテをしたりとか、音ゲーのスコアをまとめたりとか、技術員的な雑用係的な何かだ。()

 

そんなわけでハッカー組織と名乗りながら学園の手助けをするのがメインになってしまっている俺たちだが、今とんでもないことに気づいてしまったのだ。

 

鹿児島「1年って昨日から研修なんだよな?!」
湯ノ谷「そりゃあ、アサヒくんが昨日からいないんだからそうに決まってるじゃない!」
鹿児島「だよな……だよな?! ということはだぞ……」
湯ノ谷「ということは……?」
鹿児島「今はな……kou長が……この学園に……」
湯ノ谷「この学園に……?」
鹿児島「ズバリいないってことだろ!」
俺は思わずユノを指差して決め台詞のように言葉を吐いた。
湯ノ谷「そういうことになるね……」
鹿児島「今しかないだろ……このEleisの本来の仕事をする瞬間など!」
湯ノ谷「え……????」
ユノは頭にクエスチョンマークを浮かべているように首をかしげた。

 

鹿児島「kou長の……パソコンを……ハッキングする……」
湯ノ谷「ええええええっ?!」

 

まあ、そりゃあそういう反応はされるだろうな。俺もやろうかどうか迷って、勇気を振り絞って今に至るわけだし。
鹿児島「kou長のパソコンなんて、この学園の秘密がいっぱい入ってそうじゃんか?」
湯ノ谷「た、たしかに……!」
鹿児島「研修に行ってしまっている今なら、kou長のパソコンもいろいろ弄れるんじゃねえか?」
湯ノ谷「ヨッシー、天才じゃん……!」
鹿児島「そうと決まれば早速向かうぞ!」
湯ノ谷「ちょっと待ってちょっと待って!校長室の鍵とかって閉まってるんじゃないの……?」
鹿児島「多分これを使えば開くと思う」
湯ノ谷「なにそれ?」
鹿児島「ま……簡単に言えば、これを鍵穴に突っ込んでガチャガチャやれば、鍵が開くんだ」
湯ノ谷「へぇ…………チートみたい……」
ハッカー専門でやってる組織だ。鍵くらい無くたって開けられる。
鹿児島「ほら、ユノも早く」

 
 
 

~校長室前~
職員室が隣にあるが、教師は誰もこちらに気づいていない。
罪悪感というものはあまりない。というのも、今まで散々kou長が起こしたとんでもない事件に巻き込まれてきたので、その仕返しのつもりでいる。
鹿児島「仕組みが単純すぎてすぐ開くわこんな鍵」
湯ノ谷「スパイみたい……!!」
ユノは高3で俺は高2なので、ユノのほうが先輩なのだが、ユノは俺ほど本気でこの組織に入ったわけではない。ハッカー技術は俺の方があるのでここにおいては彼女はむしろ後輩のような感じになっている。
鍵をいとも簡単に開け、恐る恐るドアをガラガラと開ける。
明かりがついていない上に夕方なので、薄暗い空間が広がっていた。
鹿児島「早く入れ。教師に見つかる前にドアを閉める」
湯ノ谷「おっけ」
ドアを閉めて、明かりもつけていなければ、まず外側から俺らがいることは分からない。
湯ノ谷「でもさー、ほら、どっかに絶対あるでしょ?監視カメラとか、赤外線レーザーとか……」
鹿児島「赤外線……w」
ま、まあ、kou長のことなので赤外線くらいがあってもおかしくないのだが……
湯ノ谷「そういうのを調べる方法はないの??」
鹿児島「ああいう装置は全く目に見えないわけではない。よく目を凝らせば、大体わかる」
今まで培ってきた観察眼。今こそ実践の時。俺は意識を視覚に込め、この薄暗い空間を隅々まで見渡した。
壁には書類がぎっしりと敷き詰められていて、丁寧に色分けされたインデックスまできっちり付けられている。中央にはガラスの机がどかんと置いてあり、空のコーヒーカップがちょこんと乗っているだけ。その隣に茶色のふかふかのソファがある。一番奥にある木製の机に、今回の一番のターゲット、パソコンが置いてあった。
しかし、それといった怪しい装置は他に無い。
鹿児島「嘘だろ……監視カメラが無い……」
湯ノ谷「赤外線も?」
鹿児島「あ、ああ……w赤外線もな」
湯ノ谷「本当に?」
鹿児島「おそらくな」
念のため、何か物を投げ込んだりすれば……
鹿児島「ユノ、何か持ってないか?」
湯ノ谷「何か?」
鹿児島「一応、赤外線を調べようと思って」
湯ノ谷が差し出したのは、伸縮式の自撮り棒だった。(こいつ、常に持ち歩いているのか……)
鹿児島「お、それを貸してくれないか」
湯ノ谷「はい」
いいだろう。この自撮り棒を限界まで伸ばして赤外線のありそうな空間でブンブン動かしてみればいい。

 

…………。

 

…………………………。

 

鹿児島「ありがとう」
湯ノ谷「あったの?」
鹿児島「反応が無いってことは、無いんだろうな」
まさか、人間だけに反応するなんて装置はあるまい。これで安全が確認できた。
鹿児島「さて」
湯ノ谷「それじゃあ早速」
俺はパソコンのある机まで忍び足で近づき、ポチッと電源を入れた。
デザインは普通のPCっぽかったが、よく見たら、パソコン室より性能の良いゲーミングPCだった。
鹿児島「地味に羨ましい……()」
湯ノ谷「Eleisでもこれくらいの採用しようよ」
鹿児島「け……結構高いんだぞ」
そうこう言っているうちに起動が終わった。
湯ノ谷「あれ?パスワードとかってあるはずじゃ……?!」
鹿児島「確かに……妙だな」
騙されているんじゃないかという疑いが頭を駆け巡り始めた。いくらなんでも、ここまでセキュリティが甘いのはおかしい。
鹿児島「さっさと調べて、さっさと退散しよう」
どんなファイルが入っているのかと思って急いで探していたが、あるのはごく普通の資料や文書ばかり。怪しい物は一切入っていなかった。ひとつ言うならば、音ゲー曲の音源が10個ほど置いてあった……くらいだ。
鹿児島「一応聴いてみるか」
タイトル詐欺という可能性もある。曲の中身が違っているかもしれない。イヤホンを繋いで片耳に付け、ひとつひとつ調べていった。
湯ノ谷「あっ、ゲンガオだ……!!」
ユノはイヤホンもしていないのに脳内再生でノリノリになり始めた。
鹿児島「踊るな踊るな……!!外からバレるだろ!!」
湯ノ谷「あ、ご、ごめん!!」

 

最後に聞いて欲しいと言わんばかりに、10曲目にconflictが置いてある。
どうせこれも普通の曲なんd……っっっ?!?!
鹿児島「はっ……?!」
湯ノ谷「どしたのどしたの?!アタシにも聞かせて!!」
鹿児島「なんだこれは……」
聞こえてきたのは曲では無い。kou長のボイスメッセージだった。

 

『やあ。おそらくこれを聞いているということは…… 君たちはEleisかな』

 

鹿児島「なっ……!!」
思わず声を上げてしまった。駄目だ。全て見抜かれていた。やはり騙されていたのだ。

 

『君たちがここに来るのは99%間違いないと思っていたからね。メンバー全員を呼び集めるのも面倒だからここで一つ連絡をしよう』

 

連絡……?この前にkou長先生から直々に話された、あの件のことか?

 

『例の仕事は私が研修から帰ってきてから始めることにした。場所は2年1組じゃ狭いだろうし、こんな仕事を校内の教室で堂々とやるわけにもいくまい。だから、この仕事専用の部屋も用意してある』

 

仕事専用の部屋……それほど、今回の仕事は本格的ということだな。

 

湯ノ谷「ちょっと待って、頭がごちゃごちゃになってくる……」

 

『大型連休明けすぐの登校日、夕方5時にサバゲー部の部室へ行くポータル前に来てくれ。地下にあるあのポータルだぞ。連絡は以上。最後に、この情報は絶対にEleisのメンバー以外に漏らさないこと。それじゃあ楽しみにしているよ』

 

これで音声は終わりだ。驚きで声が出なかった。俺らの心は全て読まれているのか……?!
湯ノ谷「とにかく……やばかったね」
鹿児島「kou長先生には勝てないなぁ」
湯ノ谷「ま、とにかく楽しみ!」
鹿児島「結構大変そうだけどな……」

 

Eleis、学園唯一にして最強のハッカー組織。普段は学園の手伝いをしたり遊んだり、ゆるゆるの部活のようなものだ。
だから、俺たちは想像もしていなかった。俺たちのEleisが、今後の学園の生死を左右する重要な仕事を任されるなんて。今はまだ、今は……