小説/9話「研修準備」

Last-modified: 2021-05-02 (日) 04:13:23

9話「研修準備」著:てつだいん 添削:学園メンバー

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古宮先生がいきなり言い渡した宿泊研修。しかもそれはたったの1週間後。なぜこんなに間近になってから言うんだ……

 

古宮「だって予定が決まったのついさっきなんだもん」

 

いや、もっと前から予定たてとけよ!
半分理不尽な学園の説明に、辺りがざわめき始める。

 

古宮「おいーーおーーい静まれぇーーッ!」

 

(辺りが静かになる)

 

古宮「おいお前ら、そんな今だからこそ、急いで準備をしないといけないんじゃないか!」
南沢「一体何を準備しろと」
古宮「まずはな、行動する班を決めねばならんのだよ」
班!! そうか、宿泊研修なんだから、班で行動するようになるのは普通か。いや…それにしても班行動…!?
古宮「このクラスは16人いるな? これを4つに分けて4人のグループを作っていくぞ」
4人×4班か… ということは!!女子3人、俺1人…なんてことがあるかも。。。(密かな期待)

 

古宮「とりあえずくじで決めるぞ!」
近江原「引く順番はどうするんですか?」
古宮「んなもん知らん!早いもん勝ちだ!」
そう言うやいなやくじの争奪戦となった。そして…
古宮「いてぇ!押すな!引っ張るな!ええい、鎮まれぇーーッ!」
その声は虚しくクラスに響いた。
すると皆は本当に暴れるのをやめる。古宮先生はなんだかんだ言って皆から信頼される存在になっているようだ…。
古宮「はいはい、しゃーないなー…一人ずつ順番に引け」
みんなは適当な順番に並んでくじを引いていった。

 

古宮「全員取ったな? よーし、くじを開けてみろー」

 

俺も含めて全員が一斉にくじを開ける。
ペラっ
すると、たちまち周りで歓喜と悲鳴の叫びが飛び交い始める。
???「お前は何班だ?」
???「2班」
???「ああああああああ離れちまったかぁぁぁ!!!」
???「…?君も2班…??」
???「えええええええ!?うっそーーーーー」
???「ふにゅ~ん…」
???「うわっ!なんで僕の班にふにゅ~んがいるんだ!」

 

俺も周りの声を聞きながら、思わず声を上げてしまった。
なぜなら、この一言が聞こえたからだ。
???「雪姫は3班なんだってさ」
枝川「ええええええええええええええ!!!?」
うそ…だろ…来てしまった…うわぁぁ(ドキドキ

 

(今話の語り手である枝川は風紀委員となったが、このクラスでもう一人風紀委員をしている雪姫に恋をしてしまっているのだ。一緒に活動している間に好きになってしまったらしい。)

 

もちろん片思いだけど……でも宿泊研修だぞ!?ビッグイベントだぞ!?もしかしたら何かをきっかけに…
…ちょっと待て。一旦落ち着こう。

 

周りは相変わらず騒がしい。
音哉「あー…涼介とは離れちゃったか…」
涼介「だからやめろってば!!」
笹川「旦那様…!一緒になったのだ!」
宇都宮「わー!アイちゃんと一緒だー!」
森「お、音哉くん……が…一緒だ…//」
南沢「はー、また面倒なメンバーになりそうだな」
Felix「悪くないな」
笹川「旦那様と一緒の班になれるとは…!これも何かの運命なのだ!」
涼介「なんでこいつと一緒なんだ!」

 

古宮先生はいつの間にか電子黒板に班のメンバーを表にして表示していた。

メンバー
1班音哉師音古閑
2班Felix高砂谷城照美
3班雪姫枝川菊池南沢
4班笹川涼介近江原
 

……。どうやら、どの班もそれなりに混乱しているようである。少し安心した。

 

……してない!なんで雪姫と一緒の班に…!
気まずい!俺から話しかけることができない…!コミュニケーションが取れない…!
今までこんなにパニックになったことがあっただろうか。

 

古宮「おーい、そろそろ全員分かれたかー?
…よーし、そのようだな。そしたら次は…各班から一人ずつ班長を決めるぞ」
音哉「班長!?」
古宮「そんなに驚くことじゃないだろ… まあ、班長っつても重大な責任を負わすわけでもない。ただ、班をまとめる役を決めておいたほうがいろいろと便利だろ?」
森「ま、まあ…」
古宮「そんなに怖がらなくてもいい。班長なんて役割は飾りのようなもんだからな。だからちゃっちゃと決めちゃってくれ」

 

ざわざわざわ……
こうして辺りはまた騒がしくなる。
しかし、班長を引き受ける生徒はいないらしく、結局は押しつけ合いをずっと続けているだけだ。
そんなこんなで5分が経過した。

 

古宮「おい!!どんだけ時間かかってんだ!」
近江原「えぇ…!?」
古宮「たかがリーダー決めるだけでここまで苦労してるとかどういうことやん!!」

 

確かにそうだ。皆だって同じ気持ちを込めて発言してるんだ。このままじゃいつまでも決まらないじゃないか。
…が、ここは別の理由で話しかけられない。話しかけにくくなってる。
しかも、誰かがどうしたとかそういう事ではなく、自分自身の問題で……

 

古宮「あーもういいわ!こうなったら強制的に決めるぞ? とりあえず表の一番左に書いてある人リーダーやっとけぃ!!」

 

※太字をリーダーとする

リーダーメンバー
1班音哉師音古閑
2班Felix高砂谷城照美
3班雪姫枝川菊池南沢
4班笹川涼介近江原
 

音哉「あああああああああ!!!??」
Felix「何故だ…そんな理不尽があるものか…」
雪姫「結局私が…」
優「えええ??私?? えええ?? えぇ…(困惑)」

 

古宮「はい。文句は無しだ。どうせリーダーっつったって、特別な仕事するわけじゃあるまいし」
音哉「まぁしょうがないか」
Felix「何故そこで納得する!?
先生!抗議します!」
雪姫「……はぁ」
優「(9時半だー!布団を庭に干してまーす!)抗議しまーーーす!!」

 

一同「「「????」」」

 
 
 
 

…………。

 

………。

 

……。

 

…。

 

古宮「駄目です」
南沢「ブr(略」

 

雪姫「そこまで役目が無いのなら別にどうだっていいじゃないですか!」
音哉「えっ」
南沢「そうだそうだー(棒」
優「アンタが言うな!(的確なツッコミ」
時間の経過とともに、なんとなく流れが敗訴のほうへと傾き始めていたので、潔く諦めたようだ。

 

古宮「よし、それじゃあ今から行程表を配る」
次に行程表が配られた。俺は未だに雪姫と同じ班だということが気になっている。

 

行先:長野県

~1日目~
8:00学園に集合
8:15バスで出発
9:25白樺湖到着
9:30~10:30クラス対抗歌唱大会
10:30~12:00カレー作り
12:00~12:30昼食
12:30~14:00お ひ る ね
14:00~15:30班対抗カヌー大会
15:30バスで移動
15:45車山到着
16:00~18:00未定
18:00~20:30キャンプファイヤー(兼夕食)
20:30~21:30テント等準備
22:00就寝
22:30夜点呼けこっこ~
 
~2日目~
6:30起床
6:45~7:15クラス対抗ラジオ体操選手権
7:15~7:45朝食
7:45~8:15バスで八ヶ岳付近に移動
8:30~18:00自給自足サバイバルレース
18:00~20:00夜桜謝肉祭
20:00~21:00なんか黄昏る時間
21:00~22:00テント等準備
22:00就寝
22:30夜点呼けこっこ~
 

~3日目~
未定

 
 

………。
……………。
谷城「なんじゃこりゃーーーー!?」
百歩譲ったとしても、ツッコミどころがある。
ひとつひとつ言ってくのも疲れそうだけど…
まず目に飛び込んでくる「おひるね」って何!?
んでリレーやらカヌーやら… って、
ん? えっカヌーやるのか!?
そしてキャンプファイヤー……そしてテント……って、宿に宿泊するんじゃ無いのか…こいつはなかなかハードだ……
そして夜点呼けこっこ~って何!?
なんで寝た後にあるんだ!?
そして朝のラジオ体操選手権とは……()
その後にあるサバイバルがおそらく今回のメインイベントなんだろうな…… 9時間以上かけてやるなんて、なんだか恐ろしそうだ…
夜桜謝肉祭……妙にかっこいい名前だし、なんかどこかで聞いたことあるし……
そして黄昏る時間ってなんですか!?
極めつけは学校が休みの日に被るよう研修の予定が組まれているのだ。ただでさえ新環境で疲れてるのに休めないじゃないか……

 

という調子で、この行程表にツッコミを入れ続けたら30分は持ちそうだ。

 

古宮「異論は認めない。というか認めたらきりがない。理不尽だと思ったら校長室に直接訴えに行ってくれや」
音哉「(あのkou長に訴えないと予定変えられないのか… 諦めよう)」
Felix「(あのkou長に訴えないと予定変えられないのか… 諦めよう)」
師音「(あのkou長に訴えないと予定変えられないのか… 諦めよう)」
古宮「各行程の詳細については、当日に発表することになっている。」
照美「どうしてですか」
古宮「我々の神聖なる心の通告により、現在お前らに伝えるべきでは無いとの予言を受け取ったが故に、俺は当日まで事実を明かさぬことを決意した」
涼介「(訳:説明がめんどくさいから)」

 

それじゃあ……特に準備することも無いような気がしてきた。
古宮「とは言っても、何も準備するわけにはいかないだろうから、キャンプファイヤーの事前準備くらいはしてもらうぞ」
南沢「それはまた代表者が準備するんs(」
古宮「全員です」
南沢「マジかーーーーーwww」
そんなこんなで、少しは準備をする事があるみたいだった。古宮先生は各班で分担をして準備をするように…と、いろいろなことを伝えて教室を出ていった。

 

~1班~
音哉「よーし、とりあえず皆、よろしくな!」
森「……は、ははは…、はい!」
音哉「妙に動揺してないか……?」
森「いや……そそ、そんなこと……ない…し…//」
顔がりんご色に赤くなっている。図星だ。かわいい()
師音「よろしく。班長がしっかりとした人で安心したよ」
俺が間接的に褒められてるってことでいいんだよな…?
それにしても、まだ微妙に慣れない。小倉 師音(こくら しおん)。女なのだが、一人称が“僕”なのだ。そのせいなのか、なんとなく友達として話しかけやすい気がする。男友達感覚で話せるから…?なのか…
音哉「ああ、師音も、よろしく」
師音「あ……そっか……下の名前で呼ぶんだ… 確かに最初は師音でいいよって言ったけど、異性を名前呼びするなんて……意外」
ああ!!男友達感覚で話していると、どうしても下の名前で呼んでしまう…!
音哉「あ…やっぱり上の名前の方がいいのか…?」
師音「いや……そこはまかせるけど」
音哉「じゃあその時の気分で」
師音「あ、そう来るのか……」
音哉「んで……あともう一人が、古閑(こが)…だっけ? よろしくな」
古閑「…………………。」
音哉「こ、古閑……?どうした…?メモなんて書いて……?」
バサっ
パタパタ………
音哉「えっ?あ…ええっ?」
古閑は書いたメモを肩に乗せているハトに渡して、俺のところまで運ばせた。俺は反射的にハトの持ってきたメモを受け取った。
『よろしく。私、恥ずかしくて人前では喋れないんだけど、よろしく』
と書いてあった。俺は何となく事情を理解した。
音哉「あ、ああ。そういうことだったのか。これからよろしくな」
話せないのならせめて握手でもと思って手を差し伸べたら、彼女は嫌がるように後ろに下がった。
音哉「…??!」
彼女はまたメモを書き出して…ハトに運ばせた。
『ごめんなさい…人に触ることも抵抗があって…』
音哉「そ、そうなのか…………。分かった。まあ無理はせずに、一緒にやっていこうな」
彼女はこくりと頷いた。

 

~2班~
Felix「さあ!早速準備を始めようじゃないか」
照美「はい」
高砂「あ、ああ」
谷城「やろうー!」
俺たちの班はキャンプファイヤー中のゲームで使う厚紙を切るという、微妙で地味な作業である……
Felix「とりあえずお前はこの10枚を3等分、こっちは5等分、こっちは7等分に切っておいてくれ」
谷城「わかった!」
照美「しかし…定規はありませんよ」
高砂「長さ測れないじゃん」
谷城「え…じゃあ折る?」
高砂「いやダメでしょ…厚紙なんだから失敗したら折り目はっきり残るし」
照美「これは困りましたね……」
谷城「3等分はまだしも、5とか7とかってなんとなくじゃ作れないよ…」
3人が思った以上にあたふたしていたので、見本を見せてやった。
Felix「こうやれば等分できる」

俺は照美の鉛筆を横に置いて定規がわりにして使って直線を引いていった。
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まず対角線を書く。
3人「なるほど」
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次に交点を通って垂線を引く。
3人「なるほどー…」
こうしたら2等分線が完成したな?そうしたらこちらのものだ。
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紙の端と垂線の端どうしを斜めに結ぶ。
3人「え…???」
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この線と、最初に引いた対角線との交点を通って垂線を引く。
3人「………ああああっ!!!」
Felix「これで3等分だ」
3人「す…すごい……」
Felix「(中3の数学だけでできる簡単な方法なんだが…)」
照美「でも…5等分はどうすれば…?」
Felix「今のを繰り返すだけで、等分を増やしていくことができる」
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Felix「こういう感じで、また斜めの線を引けば、交点が等分線になっていく。今度は4等分線になった」
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3人「おおおおおお!!」
この作業を繰り返せば、5等分、6等分、7等分と順番に出来ていくのだ。
照美「ものすごい雑学…」

 

~3班~
あーもうなんで雪姫が一緒の班に…!
雪姫「さあ、気合い入れていきましょう」
菊池「…まあ」
南沢「ほーい」
枝川「は、ははははははい」
あー!動揺してしまった……
雪姫「それじゃ、私たちの班は火をつける役を任されたから、当日の打ち合わせをしましょう」
菊池「…はい」
南沢「ほーい」
枝川「は、ははははははい」
だめだ…正常心が保てない……
雪姫「先生によると、会場の全体図はこんな感じ。炭はこの奥の倉庫に置いてあるそうです。南沢さんは開始15分前に来て炭を運ぶ役をよろしくおねがいします。そして菊池さんは先生からチャッカマンを借りてきて、火を点ける役を任せようと思います。私は炭とは別に、普通の木片を運んできますから」
菊池「…はい」
南沢「ほーい」
枝川「は、ははははははい」
……。
南沢「枝川何もやって無くね?」
雪姫「さっきからこんな調子だから、何を頼んでも無駄でしょう」
菊池「確かに」
雪姫「彼のことは気にしないで、3人で進めましょう」
菊池「…はい」
南沢「ほーい」
枝川「は、ははははははい……はいぃぃ!!??」
気がつけば打ち合わせは終わっていた。
俺は雪姫のことばかり気にしすぎて、何も準備を手伝うことができなかった…

 

~4班~
笹川「ふにゅ~ん!よろしくなのだ!」
優「頑張っていくよー!」
涼介「(なんで笹川と一緒になってしまったんだ…)」
近江原「(なんで2人と一緒になってしまったんだ…)」
前回も言った通り、俺は大きい胸にトラウマがある。そんな俺にとって笹川、宇都宮という2人のコンビは地獄以外の何でもない。
涼介「近江原、妙に元気ないけど、調子が悪かったりとか…?」
近江原「実はな…」
一人で悩みを抱えるのが我慢できなかったので、俺は涼介にこの事情を伝えた。
涼介「そういうトラウマがあったのか… まあ、僕も苦手なものならあるさ」
俺と涼介は一斉に笹川を睨んだ。
笹川「…ふにゅ?」
優「み……みんな!視線が冷たいよ!怖いよ!もっと明るく行こうよ!(汗」

 

どの班もとにかくカオスだ…
こうして準備は進んでいく。研修当日、何が起こるのだろうか。何が待ち構えているのだろうか。
それは、俺たちの想像の斜め上を行く、命をかけた戦いであった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その頃……

 

???「ねぇ、聞いた? 宿泊研修だって」

 

???「しゅくはく……けんしゅう?」

 

???「そのままよ! お泊まりに行くの!」

 

???「それじゃ……数日間、高校1年の生徒が全員いなくなっちゃう……と」

 

???「そういうことよ」

 

???「しょぼーん……つまらなくなるなー……」

 

???「つまらないとか関係な……じゃなくて!何言ってるのよ!私たちも研修についていくに決まってるでしょ!」

 

???「……えっ? リンたちも行けるのか……? ほんとぉ・・・!?」

 

???「宿泊研修なんて怪しすぎるじゃない。ついていかないでどうするのよ」

 

???「やった…… やったーー!!リンたちも研修に行けるんだ!!やったーーーーーー!!」

 

???「ちょ…!しーーーっ!そんな大声出したら怪しまれるじゃない!」

 
 
 

生徒たちに紛れ、学園内の調査を進めている私たち。
……私たちの存在が生徒に知られると、後が面倒なことになる。調査は慎重に行わなければ。
こうして、私たちも宿泊研修にこっそり向かうことになった。