小説/3話「挑戦」

Last-modified: 2021-06-13 (日) 23:10:10

3話「挑戦」

著:てつだいん・KTR≠ 添削:学園メンバー

73C72BE3-CA14-4145-A90D-5A56359BDE49.png
 ――2日目

 今日も雲一つない晴天。俺は朝食をとってすぐさま家を飛び出した。今日からついに授業が始まるのである。高校って、どんなことを習うのだろうか…?

 

―第3話 挑戦―

 

「よっ!涼介」
「おはよう。昨日よりもテンションが高そうじゃないか?」
「あ、えっと、?そうか…?ハハハッ…」
 それもそうだ。確かに、自分でもはしゃぎすぎている気がする。今朝は待ち切れずに4時に目を覚ましてしまった。気持ちが落ち着かずに部屋をうろうろしていたら、タンスの角に小指をぶつけた。あまりの痛さに大声をあげたら、「早朝から叫ぶなー!!」と親に怒られた。いつもよりも朝食の量が少ない気がした。だいぶ怒っていると見える。……。

 

そんなこんなで家を飛び出してきたわけだ。怒られてへこんだりなんかしていない。学校に行くのが楽しみすぎて、今朝のことなんか今にも忘れそうだ。
「まあ、これだけカオスな学校なわけだし、僕も楽しみだけどさ」
「やっぱりそうだよなーww」
 俺には妹の笛口 萌衣がいる。今は中学1年生。前にも言ったが、この学園は中高一貫校なのだ。だから萌衣も一緒にこの学園へ入学した。いっしょに登校してもいいのだが、男子2人と女子1人というのはきついだろうし、萌衣は萌衣で友達を作って……その友達と一緒に登校してほしいと思っている。
 ……涼介と雑談をしながら、学校に到着した。門をくぐると、いつものワイワイとした賑やかな声が飛び交う。すぐに教室へは行かず、校舎の外で話をする生徒も多いようである。
「時間的にも、もう教室へ上がったほうがよさそうだな」
 2人は階段を上がった。

 

「ふにゅ~ん……今日も来たのだ、旦那様!」

 

 ……? なんか聞こえたような…… 気のせいだろうか。
「涼介、誰かの声が聞こえなかったか?」
「確かに、言われてみれば何か声がした気が……」
 なんと涼介も聞こえていた。これは気のせいではない。しかし、セリフが全く聞き取れなかった以上、正体も分からない…… 登校して数分でこんな奇妙なことが起こるのだから怖い。この学園なら何が起こってもおかしくない気がする。
 ……とまあ、不安を抱きながらも廊下を進んでいくが、結局何も起こらないまま教室へ到着してしまった。
「おい…… 何も無かったぞ……?」
「きっと誰かのいたずらだろうな」
 その場の雰囲気で何気なく言っていた会話だったが…… まさかそれが本当になるとは思わなかった。

 

「あ、アイのことに気づいていたというのかー!?」

 

「げっ…… この声はまさか……」
「(あっ\(^o^)/(察し))」
「旦那様! おはようなのだー!」
 どっしーん
 廊下から走ってきた一人の女子生徒が、涼介に抱き着くように飛び込んでそのまま一緒に倒れた。

 

「お、おい……!? 涼介……!?」
「いたたたたたたた………… ってうおおおおおあああああああおおお!?」
「ふにゅ~ん!?」
 ずっどーん
 飛び込んできた生徒はすぐさま涼介に突き飛ばされた。そうなのだ。涼介は女子恐怖症なのだった。基本的に女子に近づかれるだけでとんでもない奇声を発したり、暴走したり、……例えるなら、屋上から飛び降りたくなるほどになるという。過去によほどのことがあったらしいが…… 俺も聞かされていないし、これから聞くことも難しいだろう。
 突き飛ばされた女子は……もちろんあいつだった。昨日のゲーセンに付いてきた、謎のふにゅ~ん女だ。結局名前が分からない。涼介は昨日、この子は平気だったはず。……あとで聞いたら、あまりに突然すぎて誰なのかすら判別できなかったからとりあえず突き飛ばしたそうだ。
「お……おい、大丈夫か?」
「いくらなんでも突き飛ばすのはひどいのだ……」
「(お前こそいくらなんでも抱き着いて押し倒すのはひどいだろ……)」
 涼介はしばらく経って正気を取り戻した。
「あ、ああ、すまなかった」
「いや、涼介も君もお互い様だと思うぞ」
「しょぼ~ん(:_;)」
「あ、あのさ、ふにゅ~んだかしょぼ~んだか言ってるけどさ……君の名前は何て言うの?」
と、俺は聞いてみた。
「な、名前!? 名前なんて、旦那様にしか教えてあげないのだ!」
「なんだそれ!?」
「旦那様!名前を教えてあげるから耳を貸すのだ」
「おい!!近づくな!!おあああああああああああ」
「まーつーのーだっ!」
 涼介とあいつで鬼ごっこ状態になっている。教室の中を駆け回っている。もちろんのこと、生徒も少数ではあるがいる。かなり迷惑が掛かっているようだ……
「教室の中で追いかけまわすな!」
 ひと声かけたが、そんなので止まる二人ではなかった。どうしたら二人を止められるか迷っていたが……

 

どしぃぃぃぃぃん!!

 

ものすごい衝撃音と共に、どたばたしていた音は急に静まり返った。
「…………?」
どうやら何かにぶつかったようだ。そのぶつかった先とは……
「おい!学園2日目から怒られたいのかなぁぁぁぁぁ!?!?(キレ気味)」
そこに立っていたのは、大人であった。大学生にも見えるくらいだが……?

 
 

 話を横から聞いていたところ、どうやらこのクラスの担任らしい。出会って早々、あの2人は説教を食らっていた。説教の内容までは聞くのが面倒なので聞かなかった。
 辺りを見回すと、生徒はほぼ全員揃ったようだ。やはり、昨日のゲーセンで見かけた生徒が何人かいる。少し話しかけてみるとするか。
「おはよう!」
 最初から女子に話しかけるのはハードルが高いので、とりあえず、前の席の人に話しかけた。
「おはよう。これからよろしくな」
「あ、ああ!よろしく」
 昨日話しかけた、小倉 師音だ。話しかけてみたものの、話題がないと困る。
「あ、えーと、君は家はどこにあるの?」
「ここからは結構離れているんだけどね、ざっと100kmくらい」
「100km!?!?」
「でも寮で生活しているわけじゃない。毎日家には帰っているんだけど」
「え!?ちょっと待て!?毎日100kmの道を往復して学校に通っているというのか!?」
「ま、まあ間違ってはいないな……(科学の力……)」
「えっ……電車か?それとも新幹線か……?」
「あー、それは少し事情があって言えないんだ」
「す、すげぇ気になる……」
 かなり会話が弾んだが、それよりも師音の家が離れすぎていることが気になる……
 そこに、
「おーい、お前ら、席につけー」
 担任の先生が声をかけた。俺たちは席に座った。周りの生徒も、席に座った。教室が静かになった。

 

「よし。全員着席したな?」
 全員着席している。
「している……よな」
 そうだ。全員着席している。
「ん?本当にしてるんだろうな」
 誰がどう見ても全員着席している!どうやらこの先生は時間稼ぎをしているようだ。自己紹介の文章をど忘れでもしたのか??
「先生、早く進めてください」
 生徒の一人が痛いところを突く。
「あ、あー、そうだ……な。」
 担任は言葉に詰まっている……
「え、えー、あ、そうだ。僕の名前は古宮 竜太。このクラスの担任をする」
 辺りがざわついた。大学生のようにも見えるこの先生は、新人だろうか。
「先生の年齢はいくつですか?」
 生徒の一人が質問をする。
「僕か?僕の年齢は23だ」
 ざわざわざわ……とまた辺りが騒がしくなる。

古宮 竜太(ふるみや りゅうた) 今年入ってきた男性教師。23歳。笛口達のクラスの担任となる。左利きだが箸は何故か右で持つ。ハサミは左右両方で持てて、たまに二刀流をしだす。ルックスは良い方なのだが……ある性癖によりモテにくい。

「あ、そうか。僕が新人教師だと思って心配しているんだな?」
「(((はいそうです)))」
 生徒全員が心の中でそう答えた。

 

「ハッハッハッハッハwwww 心配するな。確かに僕は新人だが、馬鹿にされちゃあ困る。これでも学生時代は周りからモテモテだったしな卍」
「(((うわ嘘ついてるなコイツ)))」
 生徒全員が心の中でそう思った。

 

「僕がすごい担任だということは言わずともすぐにわかるさ。覚悟しておけぃ!」
「先生、社会の窓が開いてます」
「えっ……なぬゥゥゥゥゥ!?」
 古宮先生は慌ててチャックを閉めた。
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「おい!人の失敗を笑うな!!!!!」
 先生は必死に笑いを止めようとしているが……あんなセリフのあとで社会の窓はギャグマンガ並みのオチである。
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「おい!静まれ!!静まれーーーーーーー!」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「ああああああああああああああああああ」
 先生が叫んだので、やっとのことで笑いが止まった。
 ……が、その代わりに隣の教室の担任がやってきた。
「古宮先生、もう少しお静かに願います」
「異議あり!!」
「古宮先生、来月の給与査定、楽しみにしておきたまえ」
「!?」
 ……この担任はとても心配だ。
「え、えーと、あー、とりあえず自己紹介を続けよう。まあ、あまり担任だからといって距離を置かずに、生徒のみんなと積極的に接していきたいと思っている。だから気軽に声をかけてくれ」
「気軽に先生をいじってもいいんですかぁ?」
「それはだめだ!!」
「wwwwwwwwwwwwww」
 どこかの漫才じゃあるまいし。
「それと……私は皆と違って個性が全くないので探して下さると嬉しかったりします」
「(((個性しかなくて困ります)))」
 生徒全員が心の中でつぶやいた。
「さて、そろそろ点呼をとるか」
「俺が一人ずつ名前を呼ぶから、大きな声で返事をしてくれ!」
 いやw大きな声でって小学校かよ。
「宇都宮 優」
「はいっ!!!!!!!!!」
 マジで大きな声で返事しやがった……
 その後も名前の点呼は続いた。が、次の瞬間だった。
「笹川 アイ」
「ふにゅ~ん!!」

 

!?!?

 

「おい笹川ぁ……返事は"はい"にしてくれぇ……」
「ふにゅ~んはだめなのか?」
「普通に返事しろぉ……」
「は、はい……」
 やはりあいつは謎が多い。とりあえず名前が笹川ということは分かったが、語尾が"なのだ"だったり"ふにゅ~ん"が口癖だったり…… これからあいつのあだ名はふにゅ~んでいいか。

笹川 アイ(ささかわ あい) わりと天然、というか不思議ちゃんで、一途な面がある。特に涼介にゾッコン。口癖は「~なのだ」と「ふにゅ~ん」

 しばらくして俺の名前も呼ばれた。何人か知っている名前も呼ばれた。
「よし、これで全員だな。まずは配らなければならない書類がたくさんある」
 そう言った先生は何かの封筒を全員に配った。封筒の中には保健調査票だとか学校の校則だとか、そのような書類がたくさん入っていた。これって昨日に渡すべきものじゃないのか……? その書類の中に時間割表があった。が、その時間割表は普通ではなかった。
「次郎ってなんだこれ!?」
「クラシックと現代音楽ってなんだこれ!?」
「あー、そうだな。時間割を見て皆驚いていることだろう。この学校は音楽の能力を重点的に伸ばすということは知っていると思う。だが、具体的な過程までは教えていなかった。なんせ、この学園はあまり外部に知られてはいけない私立の学園だからな」
「外部に知られてはいけないって!?」
「詳しいことはそのうち分かると思うが、この学園はいろいろととんでもない事をしている学園なんだ。良い意味でも、悪い意味でもな。だから国には存在が知られていないし、もし知られそうになってもそれを食い止める機能ができている」
「えええええ!?!?」
「まあ、そのうち分かる」
 あの先生がここまで真面目に話すとは驚いたが、それ以上にこの学園はとんでもない所だというのはよく分かった。国に知られていないというくらい深刻な問題があるのだろうか…… そう思うと怖くなってくる。……いや、ネガティブな考えは良くない。むしろ楽しいことがたくさんあるかもしれないのだ。そういう方向へ考えよう。
「それでだ、あまり外部に情報が漏れてはいけないから、学園の情報は入学前にはあまり教えられなかったんだ。すまないな」
 なんか自分が想像していた時間割と違う。クラシックと現代音楽ってなんやねん。古文と現代文みたいなノリで分けないでほしい。
「ほかの書類は書いてある通りだ。さて、早速だが、次の時間から授業を始める。とりあえず初回は筆記用具さえあれば大丈夫だ。」
 どうやら早速授業が始まるらしい。時間割を見てみると……地理歴史と書いてある。
「時間割にある通り、最初は地理歴史だ。担当の教師は……俺だ」
「(((まじか)))」
 生徒全員は心の中で仰天の声を上げた。
「それじゃ、10分休憩だ。チャイムがなる前に着席しとけよ~」
 辺りは騒がしくなり、席を離れる生徒もいた。

 

「おい、音哉、気づいたか?」
 左隣の席の涼介が話しかけてくる。
「ん?何にだ?」
「あの教師、どうやら緑髪好きっぽいぞ」
「え……そんなこと、よく分かったな……」
「点呼の時によく観察していたんだ。あの教師、緑髪の生徒の名前を呼ぶときだけ、妙に喋り方がおかしい……」
 確かにそうだったかもしれない。例のふにゅ~んである笹川も緑髪だ。あいつを呼ぶ時も少し動揺しているような気がした。その他の生徒を呼ぶときも同じような声が出ている事があったような気もする。本当にそうなのかもしれない。涼介、恐るべき観察力。

 

「あの……音哉君、でしたっけ……///」
話しかけて来たのは右隣に座っている女子、森 薫。初日の席選びの時、彼女自身から俺の隣の席に座ってきた女子だ。
「あ、ああ、そうだ。おはよう」
「お、おはようございます……// 実は……話せるような同級生ができるか心配で……//」
「そ、そうだったのか。じゃあ俺と何か話すか?]
「え!?いいんで……す……か……///」
「ああ。これからは友達だな」
「と……も……だ!……ち!?!?/////」

 

「(音哉のやつ……やるな)」
 涼介は感心していた。
 薫とも少し話をした。自ら隣に座ってきてくれたんだ、友達ができるか心配でいたから、なんとかして作ろうと勇気を振り絞って座ってきてくれたのかもしれない。そうだとしたら俺も協力してあげる必要がある。ここは積極的に友達になっておくべきだ。

 

 ふと担任の教卓に置いてある座席表を見て驚いた。
「((えええ!?小倉 師音って女なのか!?))」
 衝撃だった。髪型も短いし、一人称が僕でクールだった。しかも服が私服だからスカートをはいているわけでもなかった。完全に男だと勘違いしていた。恥ずかしい。そりゃあ本人に「君は男なの?女なの?」って聞くのも失礼な気がするし、勘違いするのは仕方ないかもしれないが……でも恥ずかしい。最初は男だと思って気軽に話しかけていたが、なんか師音と距離ができた気がする。

 

「音哉くん!おはよう!」
 話しかけてきたのは、昨日のゲームセンターで会った宇都宮 優。とにかく明るかった女子だ。
「あ、おはよう!!」
 1秒くらい固まっていたが、その後思いっきり元気に挨拶を返した。
「昨日の音哉くんの太鼓、見てたよ!すごかった!」
「あ、そうだった……?ありがとう……」
「実はね、私も音ゲーやってるんだ!今度一緒に遊ぼうよ!」
「え?今度? ……わかった!遊ぼう」
「いつなら空いてるかな??」
「え……今日の放課後……でもいいかな」
「じゃあ今日の放課後にゲーセン来てねっ!」
 一瞬びっくりしたが、音ゲーが女子に浸透しているなんて珍しいなぁ。どのくらいの実力なのか聞こうと思ったが、俺が褒められた後に実力を聞くのはなんか失礼と思った。

 

\デデッ↑デーwwデデッ↑デーwwデデッ↑デーww/

 

「!?!?」
「おーい、チャイム鳴ったぞー、なんで座ってねーんだー?」
「え!?今のがチャイム!?」
 いきなりナイトメア・サバイバーの最後が放送で流れた。かっこいい曲も、流すタイミングによってはダサいということがよく分かった。この曲を知らない人は驚いていたり、微妙な表情を浮かべていたが、知っている人は爆笑していた。
「よし、授業始めんぞー」

 

「とりあえず、中学で習ったことを復習しようと思う」
「(あーめんどくせー)」
「そしたらめんどくせーって思うじゃん?」
 !? 俺の心の中が見透かされている。
「だから、普通に復習するなんてのはしない。今日はこんなものを持ってきた」
 古宮先生は教卓の下から機械のようなものをゴソゴソしている。しばらくして教卓の上に出したのは…… なんと早押しクイズのボタンである。見たところ、クラスの人数分ある。まさか……
「そうだ。今から早押しクイズをはじめるぞ」
 おおおおおおおお!!そうだそうだ。こういうのを待っていたんだ。

 

「先生、早押しクイズってどんなのをやるんですか?」
 ある男子生徒が古宮先生に聞いてきた。
「そうだな... お前らはヘキ○ゴンとかミ○クル9とか知ってるか?」
 ちらほら反応はあるが、それは決して多くなかった。俺もクイズ番組はたまに見て楽しむだけだ。
「それと同じだ。さてルール説明といこうか。」
 俺や涼介はちょっとわくわくしていたが、小倉やその他数名は先生の胡散臭さに嫌気がさしているようだ。
それに察したのか、先生は慌てて言った。
「ちょっ、まって、何でみんなそんな嫌な顔するの!?せっかくみんな普通の授業じゃ100%寝ると思ったからクイズ研究会に土下座してやっとこさこの早押し機借りてきたんだからさぁ、たのむよぉ(´・ω・`)」
 リアルショボーンみたいな顔をした先生を惨めだと思ったのか、みんな少しはやる気になったようだ。
「それじゃあ、ルールを説明するぞ。」そう言って、先生はルールを黒板に書いていった。
 簡単に要約すると、縦列を1チームとして、授業終了10分前までに貯めたポイント数が最も多いチームが勝ちらしい。涼介と同じチームじゃないのは残念だけど、負けるわけにはいかない!
「あ、そうそう。優勝チームの生徒には俺が購買でなんか奢るぞ~」
 その言葉を聞いたクラスメイト達は、蜂の巣をつついたように騒がしくなった。
「ちょっ、お前ら静かにしろ~~~!1問目読むぞ~~~!」
 俺はこの時点で察した、先生はなめられキャラとして定着するだろうと。
 そんなこんなで第一問のようだ。
「問題。日本の首都はどこ?」
............................................................................................。
えっ............?
えーと............
現状を説明しよう。
一問目から拍子抜けした問題がきて俺や涼介を含め、みんながフリーズしているようだ。
中学の復習と言っておきながら、先生は一体どんなレベルの問題を用意していたんだろう?
いやいや、こんな一人で考察している場合じゃない。俺はすぐさまボタンを押した。
\ピーン♪/
テレビのクイズ番組のようないい音が鳴った。
「東京。」
俺が答えると、先生はすぐさま正解のボタンを押した。
\ピロピロピローン♪/
「正解!笛口列に1ポイント!」
 一問目から衝撃が走ったが、初めのポイントを獲得した。
このレベルなら全問正解も夢じゃないだろうと思い、すぐさまボタンに手をかけた。
「おし!それじゃあ次いくぞー!」
みんなが「は?」って顔をしてるのを横目に先生が2問目の問題を読もうとした。
刹那、急に教室のドアが勢いよく開いた。

 

おおよそ男らしいドアの開け方だったが、そこに立っていたのは、なんと緑髪のちっこい女性だった。俺含めみんなの目が釘付けになる。
前言撤回。1人を除いて、みんなの目はその女性に釘付けだった。
「んほーーーぅ!!!!緑髪のロリだぁあああーーーーっ❤️❤️❤️」
古宮先生が気持ち悪い声を出しながら女性に抱きつこうとする。
しかし女性はひらりと先生をかわし、先生の首の後ろ側をトンと打った。

 

ふるみや は たおれた!▼

 

「ふぅ。こいつ復習クイズをやるって言っておきながら何だこの『猿でも分かる!簡単地理歴史』ってのは。こっから奴はクイズを出してたっていうのか…全く話にならん。なめてんのか?」
クラスメイトが全員怖気付いているのを見て、その女性は我に返った。
てか古宮先生、俺らの頭脳を小学生レベルだと思ってたのか…。
「あっ、ごめんごめん、ビビらせちゃったよね。」
「いや登場していきなり担任気絶させたら誰だってビビりますよ…」
涼介が的確なツッコミを入れる。
「てか貴方誰ですか?」
「え?私か?私は木ノ瀬 琳(きのせ りん)。君達の副担任さ。科目は化学と物理。部活はクイズ研究会の顧問。1年間宜しく。」
この人副担任だったのか…。いやでもこの外見は…どう見ても合法ロリだろ…。油断してたら攫われてそうだ。

木ノ瀬 琳(きのせ りん) 去年からいる23歳の女性教師。笛口たちの副担任になる。かわいい。それこそ生半可なものではなく、学園一態度とかが可愛いとの噂が。

「てか担任が気絶したらもう授業できねぇなぁ?」
「いやあんたのせいだろ…」って言おうとしたけど、ここは敢えて言わないでおく。
「でも早押し機があるってことはクイズをやってるんだろ?だったら私が続きをやろう。大丈夫だ、どっかの誰かさんとは違ってちゃんとした問題を用意してあるよ。」
と、クラス中に歓声が起こる。クイズ研究会の顧問っていうから、さぞ良い問題なんだろう。
「じゃ、早速続きをやるか。」
歓声が止み、みんなが一斉にボタンに手をかける。
「問題。富山県魚津市で見られるものが有名な、光の異常屈折によって、見えないはずの物体が見えるようになる現象を何というでしょう?」
へっ……?
いや全然分からねぇ。なんだこれは…たまげたなあ…
悩んでいると、教室の右斜め前の方からボタン音が聞こえた。
「蜃気楼。」
\ピロピロピローン♪/
「正解だ。この列に1ポイント。」
木ノ瀬先生が黒板に正の字の1画目を書く。
その声の正体はどうやら奴のようだ。自己紹介の時に日本に来て初めて知ったらしい一発ギャグをして南沢以外しけたことで知られるカール・フリードリヒ・フォン・フェリックス、通称フェリックスだ。

Carl friedrich von Felix(カール・フリードリヒ・フォン・フェリックス) ドイツから留学してきた秀才。ドイツ語は勿論、英語・日本語・フランス語・スペイン語を巧みに操るバケモノ。時間に厳しい。ほとんど遅れることがない。

どうやら奴はクイズ界隈にも精通しているようだ。
「ふっ、先生、次の問題をお願いします。」
妙にかっこつけて先生を催促した。
「分かった。問題。」
果たして次はどんな問題だろうか。
「群馬県にある同名の町とは友好都市関/」
\ピーン♪/
と、俺はボタンを押した。
「草津?」
\ピロピロピローン♪/
なんとか正解した。途中で押してしまったからすっげぇびびった。
「お前すげぇな。何で分かったんだ?」
隣の涼介が聞いてくる。
「いや俺の爺ちゃんが群馬の館林に住んでるから、よく草津温泉には行くんだ。」
「へぇー。」
「へぇー、お前のじいちゃん未開の地に住んでんのかー」
後ろから南沢が口を挟んでくる。
「はっ飛ばすぞ。お前二度とチャーハンが食べられなくしてやろうか?」
「やっ、やめて(汗)。許してください何でもしますから!」
「ん?今何でもするって」
「おい音哉、お前ホモになってるぞ。
危ない危ない。ネットのネタに引っ張られる所だった。ナイス涼介。
途端、俺は教室の二時くらいの方向から鋭い目線を感じた。
すぐ気づいた。あのフェリックスだ。「お前やるなぁ」ってな目でこちらを見てくる。取り敢えずスルーしておく。

 

その後もフェリックスがポイントを取っていったが、すぐさま俺が取りかえすというシーソーゲームになった。
そして次の問題が最後だろうという時に、奴は現れた。
「問題。1669年に/」
\ピーン♪/
えっ…?
押したのは俺ではなかった。右斜め前を見てもフェリックスのボタンのランプは付いていなかった。
じゃあ、誰が…?
「あっ、ミスったw えー、じゃあ、ばなな」
頭の悪い人のモノマネをしながら答えたのは、俺の真後ろにいる南沢だった。
「え?お前何してんの?」
「はっはっはっ。何か勝手に付いちゃった。てへっ☆」
「おいいいいいいい!!!折角フェリックスに勝ってたのに!!お前のせいで同点じゃないか!!」
「はっはっはっはっ。まあいいじゃないか。」
「よくねえええええ!このどアホ!!!щ(゚Д゚щ)」
こんなにキレたのは久しぶりだった。
最後の問題を押し負けたのはまだいいとして、アホ解答で邪魔をされたのだから流石に許されない。
「おっ。もう10分前か。じゃあここで終わるか。」
木ノ瀬先生の号令で、地歴クイズは幕を閉じた。でもこんなに本格的なクイズをしたのは生まれて初めてだ。ちゃんと興味が出てきたぞ。
「えーと、勝ったのは笛口列とフェリックス列だな。古宮にたんと奢ってもらえ。あ、そうそう。我がクイズ研究会はいつでも見学OKだから、是非見にきてくれ。んじゃ、1限はこれで終わりだ。」
気絶した古宮先生をほっといて、木ノ瀬先生は教室を出ていった。
クイズ研究会か…。暇な時に見学に行こう。
「うぅ…俺は何で寝てたんだっけ…?」
古宮先生が復活したようだ。どうやら記憶が曖昧らしい。
「先生、俺達勝ったんで、奢って下さい。」と俺は先生に詰め寄った。
状況を掴めずに奢って下さいと言われた先生は、幼女みたいな声を出しながら逃げていった。逃がすか!