著:こいさな
1
一片の欠けもない満月が、赤と水色の後ろ姿を高くから照らしていた。
2
「はぁ......」
刹那が大きなため息を吐く。これで今日何度目だろうか、彼女は机に向かい続けていて明らかに疲れているようだった。......そして刹那の双子の姉である雪那は、そんな元気のない妹を見つめていた。
刹那が取り組んでいるのは、なんてことのないただの論文作業。この二人が所属している天文部の年長組が、これまでの活動の成果を発表するためにどうしても必要なことだった。
「刹那......だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫」
その大丈夫は......きっと文字通りの大丈夫ではなくて......雪那はなんとかして刹那をリフレッシュさせられないかと思案するのだった。
そしてしばらくすると、そこには無言で妹の手を引っ張る雪那がいた。刹那はそんな姉に少し驚き、いつもの疑問文を発した。
「......おねーちゃん?」
「刹那、外出てみない?」
雪那と違って刹那は根っからのインドア派だったりするのだけれど、こうやって雪那に手を引かれていると、その手に連れられてどこかへ向かったりすることはよくある。
ふたりは、まず玄関へ向かった。そういえば、と思い出したように雪那が口を開けた。
「刹那、靴下はく?」
「いや、サンダルでいい。冬、終わったし」
***
外に出るなり風がふたりの頬を掠めていった。とても季節が一周したようには思えない、暗く寒い夜だった。どこへ行くにも通る道を少し歩いて、そこで刹那が声を掛けた。
「おねーちゃん、もう10時だけど」
遅い時間の外出。この時間だからか、それともふたりで歩いているからだろうか、普段から見慣れているいつもの通学路も、今日は少しだけ違って見えたり。
「もう10時って......こうでもしないと休んでくれないでしょ?」
少し間を空けてから、雪那はこう返してきた。まるで刹那には休む気がなかったというような物言いだったので、思わずこう言い返した。
「おねーちゃん、私だって休みたいときは休むからね?心配しなくてもいいし、それにもともと......」
刹那はそこで口を閉じた。なんでも打ち明けていいと言ってくれたおねーちゃんにだって、黙っていたほうがいいこともある。
「......なんでもなーい」
「え~?なにそれ~?」
昔と違って少しずつ話せないことがあるけれど、それでもふたりで歩調を揃えて、手を繋いで歩いて......なんだか、懐かしい気分になったりした。