小説/サイドストーリー/バレンタインデーの珍事

Last-modified: 2021-01-18 (月) 23:30:40

バレンタインデーの珍事

著:ひゃっか

前日譚

「のっだー♪のっだっのっだだ~♪のっだー♪」
…笹川はキッチンで何やら楽しそうに何かを作っているようだ。

~数日前~
「今週バレンタインデーがあるな!俺にチョコを渡してくれていいんだぞ!」
そう告げて古宮は朝のHRを早々に切り上げ、ウキウキとしながら教室から出ていった。
「…はぁ、一応言っておくけどこの学園は別段チョコとか持ってきても問題ないぞ。ただな」
「…ただ?」
そう木ノ瀬先生の問に小倉が返す。席が近いからなんら不思議でない。
「面倒ごとだけは絶対に起こすな。特に笹川」
「ふにゅっ!?そんなことするはずないのだ!」
「いーや、絶対にする、一応面倒な事になったら来年から無くなることも有り得るからな…誰か取り押さえる準備もしておけよ」
そう言い残し、木ノ瀬先生は教室から出ていく、と同時に超ウッキウキな古宮が戻ってきた。流石に浮かれてたとはいえ連絡を忘れちゃあいけない…と思ったらどうやら授業の準備をしているだけのようだ。紛らわしい。

~職員室~
「んー…バレンタイン、バレンタインなー…」
正直困った。今までチョコレートを誰かに渡した記憶が無い。去年はたまたま出張が入っていたから良かったが、今年はそうはいかない。
「木ノ瀬先生お菓子好きですもんね、渡す前に全部食べていそう」
「今度余計なことを言ったら覚悟を決めろ」
「おお、こわいこわい」
これは真面目に考えないといけないかもしれない。家に帰ったら弥生に聞くか。

~放課後~
「ふっにゅにゅ~♪ふにゅにゅにゅ~♪ふっにゅにゅっにゅにゅ~♪」
こちらはこちらで笹川がうるさかった。部活中にこんな事されたらたまったもんじゃあない。
「やり直しやり直し!笹川!曲に集中してくれ頼む!」
「ふにゅにゅにゅ~にゅ~にゅ~にゅっにゅにゅ~♪」
ダメだ、聞いちゃいない。誰か止めろ。
「…久々に涼介が来たと思ったらこれかぁ…練習できない…」
「…なんかごめんね」
正直涼介は悪くない。悪いのは笹川だ。
「んー…今日は部活おやすみにして各個練習にしてもいいかもね、次の曲って確かシンセ使うでしょ?」
近江原の言っていることは正論かもしれない。つい先日、天宮先生が知り合いから貰った、と言ってシンセサイザーを2台置いていったのだ。それを次の演奏に使おうと思っていたけど…
涼介と近江原はベースとドラムがあるから無理、俺はそもそもピアノとかができない。消去法で笹川と森さんに担当して貰うしかない。しかし、だ。ここまで笹川がうるさくするのは予想外だった。
「ふにゅにゅにゅ~♪ふにゅにゅにゅにゅ~♪」
頼むから今だけは静かにしてほしい。本当に。
「一旦笹川抜きで合わせよう。そうしよう」
「どうして仲間はずれにするのだ~?」
「練習してないし、何だったら今の今まで邪魔しかしてないから」
「妥当」
「しょぼーん…」
とりあえず今日の練習は何とか最初の16小節まで合わせられた。
ところで今日の笹川はなんでここまでうるさかったんだろうか。…あ、バレンタインデーが近いからか?

当日

~バレンタイン当日~
「木ノ瀬先生!僕にチョコレートって」
「あるわけないでしょ」
「ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛!゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛」
うーん、今日も古宮先生は平常運転だね!じゃあ!
というかここまでで1番うるさいのが古宮先生なんですけど。というか朝のHRで即落ち二コマしなくていいんですけど。
「もぅマジ無理。。。」
「…あの、邪魔なんですけど」
ほら!小波先生が困っているじゃないか!って来るの早すぎる
「こんな状況なら今日は実験に変更する。実験室で授業するので」
「もぅマジ無理。。。」
うーんこの。

~放課後~
「今日はあのバカが申し訳ない」
「ああ、いえいいんですよ別に」
「これは迷惑料として受け取っておいてくれ、お返しはいらないからな!」
翌月普通にクッキーをお返しされた。

「だ~ん~な~さ~ま~!」
「うわびっくりした」
「バレンタインなのだ!これをあげるのだ!」
「ありがとう…」
涼介は一松の不安を感じた。宿泊研修のカレー事件を覚えているなら話が早い。笹川は驚く程に甘いものが大好きなのである。カレーでさえ吐き気を催す程度には甘かった。命は惜しくないが、こんな処刑方法はまっぴらごめんである。仕方ないので南沢にでもあげることにした。
「えっ、貰っていいのか!?ありがてぇっ…涙が出るっ…」
普通に喜んでくれて何より。
「早速いただきまー…あっっっっまぁ!甘すぎてビッくらポンだわこんなの!てめぇハメやがったな!スマホ爆発させんぞ!?」
やっべぇ。南沢の目がマジだ。人を一人や二人、確実に殺さんとする眼だ。
「ここで喧嘩はよせ!」
いいタイミングでの仲裁だFelix、助けて。
「このチョコ食ってみろよ!今のようになる理由がわかるから!ね?ね!」
「う、うむ。そこまで言うのなら…」
「ついでにお前も食えやぁ涼介ぇぇええ!」
「うわああああああああああっっっっまオエッ…」
「うわっ!きたねっ!」
南沢、ゴメン。あーダメだこれ。人に渡しちゃいけないレベルの甘さだこれ。試食したのか危ういんだけど。味蕾がパッパラパーになる甘さだこれ。
「…?そこまで甘い…のか?」
なんでFelixは無事なんだよ

「優ちゃんの作ったクッキーはやっぱり美味しい!のだ!」
「アイちゃんのチョコはかなり甘い…ね…うん…」
あのカレー作りの悪夢、再来である。
「さゆちゃんもどうぞ!なのだ!」
という感じでクラスメイト全員に無理やり渡している。ひでぇ悪夢だ。
「来年ももっと甘くするのだ!」
「アイちゃん、来年は一緒につくろ?ね?」
「わかったのだ!」
絶対わかってない、クラスの大半はそう感じている。はずである。

「ん…で、悠っち」
「なんですか…」
「そのバッグに入ってるやつ渡さんの?」
「渡しますけど、貴方に渡す品物は無いです」
「そっかー、そうだよなー…あの薬作るか…はぁ…」
悠は察知した。この薬は絶対に作らせてはいけない気がする、と。
「あの」
「なんじゃらほい」
「やっぱりあげます、はい」
「え?待って?どういう風の吹き回しなんだよぅ!こわいよ!」
「いやたって、いつもお世話に…なってます…よね?」
「そこまでお世話してたっけ…?…ああ!うん!そんな気がするなぁ!でも薬は作るね」
ダメだった。
ちなみにその薬は本人曰く頭痛に効く薬らしい。最近悩まされているからありがたい。

「皆の衆!覚悟はいいか!私はできてる!」
\\オォーッ!//
「今からチョコをばら撒くぞ!こんなことしかしてやれなくてゴメンな!」
「…相変わらずあきにゃんはすごいことしかしないからテンアゲ」
「…何人集まっているんですかこれ!チョコ絶対足りませんよこれ!」
「案ずるな柚乃よ、あくまでも貰えなかった男子への救済処置って立ち位置だ、チョコが半分以上足りなくても全部学校のお金でやっている以上なんら問題ない」
「問題しかないんですよそれ!その袋1個がだいたい150円前後なんですよ!それが100個以上ですよ!」
「でもうちのkou長を考えればわかる」
「あっ…そうだ…あの人こういうことにお金かけても文句言わない…」
「ついでに、だ」
「はぁ」
「こういうのって楽しそうじゃないか!」
この後配ったのはいいが普通に喧嘩になって全員畑山先生にしこたま怒られた。何故か古宮先生も怒られていた。何やってるんだろうか。