小説/サイドストーリー/ボクの誕生日

Last-modified: 2022-10-19 (水) 05:09:18

著:RE:CALL

照明が点いていない部屋に、キャンドルの明かりが淡く光っている。
ボクの眼の前のおっきなチョコケーキには9本のキャンドルが刺さっていた。
そう、今日はボクの9歳の誕生日。

「それじゃあ、火を消しましょう」

「うん!すぅ...、ふーーー!」

ボッ...、と音を立ててキャンドルの明かりが消える。
部屋の照明がパッ、と部屋を照らせば...。

「せら、お誕生日おめでとう!」

「誕生日おめでとうだな、せら」

「ありがとう!お母さん!お父さん!」

お祝の言葉をくれた、部屋も態々飾り付けてくれて、全てボクの為に用意してくれたと考えたら嬉しくて堪らなかった。

「ほら、誕生日プレゼント!
結構奮発しちゃったんだから!ね?」

「おう、せらの為に張り切って用意したんだ」

眼の前に、そこそこ大きなアニメとかでもよく見るプレゼントの箱が置かれる。

「わぁ...、おっきい!ねぇ、今開けちゃってもいーい?」

「いいよ、もう待ちきれないって顔をしてるから...」

お母さんは苦笑いをしながらも許可してくれた、ボクは結んである紐を手に取り、ゆっくりと解いた、そして上蓋に手を掛け開ける。

「っ!!!こ、これ.....、ボクの欲しかったゲームソフトとゲーム機だよね!?」

「そう、この時の為にこっそりとお金を貯めておいたんだから!」

「っ~~~...!!!ありがとう!お母さん、お父さん!」

どれもこれもボクの為に用意してくれたという事実に嬉しさが爆発し、お母さんとお父さんのことをぎゅっと抱きしめる。

「わっ、と、ははっ、そんなに嬉しかったか?」

「嬉しいもん!ずっと欲しかったし...、お友達と一緒にゲーム出来るし!」

「ふふっ、それじゃあ頑張った甲斐が合った!
ほら、ゲームも良いけど、ケーキも早く食べないと悪くなっちゃうよ」

「うん!」

一旦箱を閉じてケーキを見る、ボクの大好物のチョコケーキだ、こんなにも好きなものや人に囲まれてるなんてボクは幸せで仕方がない。
嗚呼、こん...な...日々が.......ずっと.......続け.........ば............い.................の........................________。

「はっ.............、はぁ...」

突然起き上がって目が覚めた、どうやらあれは夢だったみたいだ。
せっかく良いところだったのにと、ボクは思わず溜息を吐いてしまう。
夢の詳細はよく覚えていた、実際に起こったことがフラッシュバックの様に夢に出てきた、出来ることならずっとあの幸せな夢の中に居たかったなぁ。

「あ、そうだ...」

時間を確認する為に、自分の部屋に置いてあるデジタル時計を確認する、

土曜日|15:42|1/10

になっていた。
そう、今日はボクの11歳の誕生日。
もうすぐで6年生になる。

「そういえばそっか...」

静かすぎて、自分でも今日が誕生日なことを忘れかけていた。
それにしてもお腹が減った、なにか食べないと。

「いったた...」

取り敢えずリビングへ行こうとベッドから動こうとするが、一昨日ぐらいにお父さんに足に付けられた切り傷がまだ痛む、随分と派手にやってくれたものだ。
ガーゼは貼ってあるもののやはり動くと痛みが走る。
しかしお腹が減ってしまっている、何か物を食べる為にも、痛む足を進めリビングへと向かった。

「お母さ...」

廊下を歩き、ガチャッ、とリビングへの扉を開けるも、誰も居なかった。
きっとまた何処かへ出掛けてるんだろう、ボクの姿なんて見たくないだろうし。

「......」

チラッと机の方を見る、そこにはおっきなチョコケーキ………、なんて置いてなく、あるものといえば片してない皿と、置いたままの調味料ぐらいだった。

「片付けないと...」

帰って来る前にやらないといけない、また傷が増えることになる。

「......」

静かなリビングとキッチンに食器を洗う音だけが響く、まだ完全に塞がってない傷に洗剤が染みて少し痛い。
...、いつもこの日はこんな寂しい家じゃなかった筈だ。
朝から準備の為にどたどたして、家に帰ったらリビングにはケーキがあって、お母さんは飾り付けをして盛大に祝ってくれた、お父さんも会社を休んでまでボクのことをお祝いしてくれていた。
それが今じゃこうだ、祝ってくれる人なんて誰も居ない、居場所はどこにもない。

「っ......」

思い返すと自然と涙が出てきた、ダメだ、もう止まらない。
どうしてこうなってしまったんだろう、いや、自分が全ての原因なのはとっくに分かっていた。
けど認めたくない、こんな現実を、家族がボクのことをこの耳と尻尾という理由だけで捨ててしまったなんて現実を、他に理由なんて存在しないに決まっているのに。
ボクは分かっている筈なのにまた繰り返す。
嗚呼、どうして、どうして、どうして_____。

「どうしてこうなっちゃったんだろうっ...」