小説/サイドストーリー/七夕

Last-modified: 2021-10-05 (火) 02:04:56

「おまたせ、おねーちゃんっ!」
「もー遅いよー」
「ごめんごめん、電車遅れちゃってて。じゃあ……行こっか?」
「うん!」
 返事を言い終わらぬうちに雪那は刹那の手を取り、二人で歩き始める。
「大学、どう?」
「まあまあ、半分ぐらいしか分かってないけど」
「私は無理。何も分かんない。助けて刹那~」
「学部も学校も違うし、そもそもそんなので先生になれるの?」
「なれるよ多分!」
「えぇ……」
「じゃあ刹那はさ、将来の夢とか決まってるの?」
「だからそれはおねーちゃんと一緒にいたいって」
「もーいっつもそれじゃ~ん、嬉しいけどさ」
「今の時代、とりあえず大学出てたら良いって言うから行ってるだけっていうのも……」
「最近はそれも通じなくなってきてるらしいけどね~。あ~あ、あと2年か~」
「2年……」
 こうやって毎日二人でいれるのには限りがあるのは刹那も重々理解している。けれど姉と一緒に居たいと思う心に濁りはない。
 しばらくの沈黙の後、雪那が話を切り出す。
「実はさ~」
「何?」
「おんなじサークルの先輩から……なんだろ? 告白っていうのかな? なんかそんなメッセージ来ててさ~」
「そ、そう、な……んだ」
 血の気が引く刹那。無意識に姉の手を強く握ってしまう。
「いや~、どうしていいか分かんなくて返信してなくてさ。どうしたらいい? どうしよ~」
 冗談混じりに笑う雪那と裏腹に、目を伏せ内に渦巻く感情を堪える刹那。
「刹那?」
 姉の呼びかけで我に返る刹那。ただその顔は雪那の方は向いていない。
「ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって。どうしたらいいんだろうね。私にも分かんないや」
「え~~? でも何かその人目線がちょっと下向いてるのが気になるんだよn」
「断った方がいい、絶対」
 姉のセリフを遮る刹那。相手の手を離さない程に握っている。
「えっ、ちょっ、待って手痛い痛い痛い」
「あっ、ごめん……おねーちゃん」
 姉の訴えに思わず駅から繋いでいた手を離してしまう刹那。
「も~今日なんだか変だよ? 刹那」
「そうだね。ごめん、疲れてるのかも」
 さっきまで繋いでいた自分の手をじっと見つめる。自分でも分かっている。姉は自分にとって何よりも大切だと。けれどこの執着は、きっと雪那を閉じ込め傷つけているのと同義だと。
「今日はもう……帰る?」
「それは嫌だよ。だって今日は私達の誕生日なんだから」
「そうだね~、何食べよっか?」
「んー……焼肉……とかいいかな?」
「全然良いよ~、ていうか私も食べたかったし」
「気が合うね、おねーちゃんとは」
「え~そっかな~、まあ双子だからかもね~」
 そしてまた二人は手を繋ぎ歩き始めた。
 
 *
 
「ごちそうさま~」
「ごちそうさまでした」
 よくあるチェーン店を後にする二人。そしてその手は。
「食べ過ぎちゃった~」
「また太っちゃうよ?」
「わーたーしーはー太ってないー!」
「またまた」
「ちゃんと運動してるから」
「ほんとに?」
「ほんとだって!」
「えい」
「ひゅわあっ!?」
 繋いだ手とは反対の手で、姉の横腹をつく。
「やっぱり……」
「嘘じゃない! 信じてってば!」
 繋いだ手を必死に振り回す雪那。
「分かった分かった」
「むぅ……」
 すっかり膨れてしまった姉。もっともこういう行動が雪那らしいのだが。
「あのさ、さっきも話したけどお付き合いの話は辞めといたほうがいいと思う」
「そっか~、りょ~かい」
 行きよりも姉の言葉と足が不安定。刹那は控えたのだが雪那はどうやら。
「やっぱりいきなりビールは不味かったんじゃない?」
「大丈夫だって~、不味かったしちょっと酔ってるけど~」
「今後もしかしたら苦労するかもしれない……」
「何か言った?」
「なーんでも」
 若干姉を制御しつつ歩く妹。その姉が何かを見つけたよう。
「あっ、笹だ」
「短冊も飾ってるね」
「これ書いていいかな?」
「書いていいって書いてるしいいんじゃない? 今の時代珍しいかもだけど」
「刹那は何書く? 私と一緒に入れますよーに?」
「もーそうだけど、そうかな……」
 そう言って刹那はペンを走らせる。しかしそこに書かれたのは雪那が予想した内容とは違っていた。そしてその手を震えさせながらペンを元の場所に戻した。
「おねーちゃんは?」
「コレ!」
「『みんなが幸せになれますように』……おねーちゃんらしいね」
「世界平和が一番だからね~」
 そう言って雪那は短冊を笹に掛ける。その隣に刹那は短冊を掛ける。
「じゃー帰ろっか。刹那」
「うん、おねーちゃん」
「願い叶うかな~」
「叶うよ。きっと。」
 
 
 
 
 
『おねーちゃんが幸せになれますように』