【SS】人之世悪之元(一節完結)

Last-modified: 2024-01-04 (木) 23:45:31

剣聖・鬼若丸

此処は天魔大陸…天使も悪魔も手を取り合い、笑い会える夢の国。街は活気に満ち溢れ、人種も種族も力も違う者達が一切の差別も偏見も持たない平和な国。
そんな国を見る1人の少女は瓢箪を片手にそれを見据える。
その名は相田あべを。天魔大陸一の剣士でもあり、世界最強とも呼ばれる剣士でもある。

「あー…ハラ減ったな」

そう呟きながら片手に持った瓢箪から酒を飲む。
彼女はある日を境に一切の食事を取らなくなり、酒を飲む事で腹の虫を抑えるのが日課となっている。
そして彼女は立ち上がり、また放浪を始めた。彼女にとっては天魔大陸全体が自身の家に等しいからだ。

「河岸を変えよう。日が暮れたらそこが寝床だ」

そんな独り言を呟いた瞬間、ある人物が脳内へ語りかけた。

(聞こえますか?あべをさん)
(何じゃあ、レオン。儂は聞こえとるぞ)
(今、あなたが居る地域に強大な魔物が出たらしく、現在近くに対応できるメンバーがいない為、救援要請をと。)
(あーっ、儂が出るまでも無いだろうが。儂を便利屋かなんかと勘違いして…)
(魔物の名はスコロ・ペンドゥラ。出現して僅か30分足らずで5つの都市を壊滅させたと…)
(…気が変わった、行く)

それだけ言って、あべをは連絡を一方的に切ってしまった。

スコロ・ペンドゥラ
千メートル以上はある巨体に鋭い牙や爪、千を越えるミサイル攻撃を受けても無傷なほど強固な外殻を持つ蜈蚣の魔物。その姿から「天災」「大怪蟲」とも呼ばれている。

暫くして…彼が暴れている都市へ足を運んだ彼女は冷静に街を見る。ある所では死んだ親の亡骸を抱いて泣き叫ぶ子供…ある所では子供が死んだショックで自殺をした親…家が壊され嘆く住民…
そして自身の何mか先には事件の張本人たるスコロ・ペンドゥラ。
いつもは自由奔放な彼女も、この惨劇には顔を顰める。

「奴もつくづくいやらしい奴よ。痛みを感じる間もなく殺す事ができるのに生殺しにするとは⋯」

そう発言しながらも、彼女は凄まじい怒りを覚えていた。そしてスコロ・ペンドゥラに大声で語り掛ける。

「おい!聞いとるかデカブツ!獲物はまだ此処に残っているぞ!」
「何?」

その巨体からは想像も出来ぬ速さで自身を振り返るスコロ・ペンドゥラ。
魔物は汚いニヤケ面をしながら自身に喋りかける。

「ははははは!馬鹿が!お前、わざわざ自分から獲物になるって言うのか!?大人しくケツ巻いて逃げてりゃ死なないってのにか!?これじゃあ、まるで殺して下さいって言ってる様なモノだな、あ~ん?」 
「お前は儂の庭から幾つもの笑顔を奪ったんだ。儂はねぇ、自分の内臓をむしりとられたような気分なんだよ」
「笑顔を奪った?へっ、甘ぇんだよクソガキが!!どーせオマエは!!害虫駆除とか!!昔話の妖怪退治とか!!その程度の認識で此処に来たんだろ!?オレは正義面した野郎が何より嫌い何だよなぁ~!お前がやってる事はペラッペラの正義の押し付け何だよ!!」

そんな御大層なセリフを吐くが、彼女はこの話をまるで聞いちゃいなかった。
そして、魔物に向かって逆に吐く。

「馬鹿だなお前。知らねェのか?長話する奴は大体アホの傾向があるんだって事を。これじゃあ魔物というよりただの蟲けらだな⋯」

スコロ・ペンドゥラの中で何かがプチンと音を立てて、切れた。
完全に激怒したのだ。

「小僧…誰にモノを言ってると思ってんだあっ!死ね!六千六百六十六足大穿孔!」

そう騒ぎ立てたスコロ・ペンドゥラは、6666本の脚と巨体を高速回転させ突進する。
…しかし、彼女は此れを剣一本で軽々と受け止めてしまった。

「何ぃ!?」
「オイ、あんた何を熱くなってんだ?まるで運動会で応援しているパパさんだぜ?」

そうしてあべをは挑発まで掛ける。

「自覚することだ…自分がこの世で最も矮小な存在だということを。お前は悪党では無い…蛆虫だ。悪臭を放つ糞にたかりこの世で最も汚く蔑まれる蛆虫だ。」
「貴様ッ…………!」

その刹那。鞘から抜かれた刃が一閃。ムカデ・キングを横切り、その次の瞬間ムカデ・キングは粉微塵と化した。

「お前は勘違いをしている。自身のことを“悪”だと思っている。
だが、本物の“悪”は慈愛に満ちた貌をして地獄へ突き落とす。お前はそれを理解出来無かった様だな」

スコロ・ペンドゥラは粉微塵に斬られた故に、死骸すら残らなかった。しかし、街は残った。残ったと言う事は幾らでも復興できると言う事。
もし粉微塵になれば何も残らない。皮肉にも魔物は微塵も残らずに消滅してしまった。
所詮、魔物が人の営みを破壊する事は不可能であり、それをやれば己が消滅するのだ。

「あーハラ減ったな」

そう言い残した彼女はまた、放浪に出かける。
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