【SS】鬼も悟れば仏となる

Last-modified: 2024-01-04 (木) 23:45:31

第一節・狂想大陸の悪魔

遥か昔……天魔大陸と呼ばれる以前の事…
当時は人間達が繁栄を極めており、他種族は迫害されていた時代…

「さて…次は誰を喰ろうてくれようか…」

そう呟くのは、夜の世界に輝き、白く美しい長い髪をたなびかせた和服の鬼の少女だ。
彼女は人間をまるで獲物を見るかの様に品定めしている。
   
 

「あの人間は中々美味そうだな…金持ちのガキ程肥えて肉付きがあるからな」
「よし決めた、アイツにしよう」
 

子供「とっても美味しかったよパパ!今度また連れていってね!」
父「あぁ、良いとも。お前は大事な息子なんだからな」
母「これも私達が沢山お金を持っているからできるのよ。そこら辺の下々民とは格が違うわ。格がね」
父「はっはっは!言うじゃないか妻よ。まぁその通……」
 
 
 
 

ザシュッ!
 
 
 
 

その瞬間。男の首が真っ赤な鮮血を首から吹き出して倒れた。
 
 
 
 

妻「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あなたぁぁぁぁぁぁぁぁ!誰か連れて来てぇぇ!」
子供「ママぁぁぁぁ怖いよぉぉ!」
 

 
一瞬で笑顔が絶望へと変わる二人。そして男の死体を蹴飛ばして現れたのは1人の少女。身体の至る所が返り血で染まり、月夜の光がそれを彩る。
 

「黙れ女」
 
 
 

ドゴンッ!
 
 
 
 

更に鬼の少女は拳を振るい、女の首を跳ね飛ばし、肉塊へと変えてしまった。
怯える子供。しかしもう助けは来ない…
子供はガタガタと震え、何かをブツブツと口走っているだけだ。
 
 

子供「助けて助けて助けて助けて助けて助けて足すけてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテ」

「フンッ小僧。さっきの光景を見て精神が壊れてしまったのか?」
 
 
 

………………
 
 
 
 

「チッ、喋れもしなくなったか」
「でもその方が都合がいいか。下手に騒がれては面倒くさいしな」
 

そして鋭い牙を剥き出しにし、喰らおうとした時…銃声が響く。
鬼の少女はその銃弾を軽々と躱す。
 

SP「それ以上手を出すな!何処の誰かは知らんが主に手を出したお前を許しはしない!観念しろ!お前は囲まれている!」
 
「雑魚どもがガタガタ五月蝿ェよ…引っ込んでろ!」

そう言った少女は腰に携えた刀を抜き、彼らに見えぬ速度で1人を除いて斬り殺した。逃れた男は恐怖と混乱の感情が入り混じった表情をして、その光景を見ている。
 

  

(今何が起きた?アイツが喋った次の瞬間、オレ以外の首が飛んでいた…ヤツは何をした?能力か?それとも仲間か?
否………ヤツは1人だ…!まさかあの刀で瞬時に仲間の首を撥ねたのか!?)
 

 
そう怯える男の肩に手を掛ける少女。男の身体が大きく跳ね上がる。
 

 
 
 

「今…お前が思っていた通りだよ」
男「はっ…!?」
 
 
 
 
 

そして首が飛んだ。
 
 
 
 
 

「……ったく。儂を止めたいのなら神でも連れて来いや。最もそれでも無理だと思うがな」
「さて…食事の邪魔をされたが、まぁ良いわ。おいガキ。覚悟出来てるよな?」

 
 
  
 
 

そして時が経つ……何時間経っただろうか…
彼女は口元を血で塗らしながら夜の静かな街道を歩いていた。
そこには1人の竜人が彼女の前に立ちはだかっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 

竜人「誰ですか?貴方は」
「怖く無いのか?儂が」
竜人「怖くないですよ。むしろ可愛いと思います」
「フン…そう強がっては居るが…内心怯えてるだろう?」
竜人「いえいえ。それより、せっかくこうやって会えたのです。あなたの名前をお聞かせください」
「儂か?これから喰われる奴に名乗る名など持ち合わせては居らぬが…」

 
 
 
 
 
 
 
 

あべを……相田あべをとでも名乗っておこうか

第二節・鬼と竜

その竜人は全く怯える素振りすら見せずに自身を見つめている。

(何だこの餓鬼は…儂を見て恐れぬ所か可愛いだ等と抜かしよる。コイツは儂を…本当に恐れて居ないのか?はたまた命知らずの大馬鹿者か……少なくとも究極能力も覇気も持っては居らぬ様だな…)
 
(そんな者が何故?何故わざわざ儂の前に立ち塞がるのかさっぱり分からん)
 
 

「おい小娘。お前は何を企んでいる?それだけ聞かせろ」
竜人「何も企んではいませんが…一つだけ、やりたい事があるんです」
「ほう…やりたい事か。だが哀れなモノだ。儂に目を付けられたが故にやりたい事も出来ぬのだから」
「だが、それは本来の話。お前には何処か見所がある。一つだけお前が望む事を聞いてやる」
竜人「ならば、私と知恵比べをして頂きましょうか」
竜人「もし私が負けた時はこの身を喰らっても構いません。ただし、貴方が負けた時には私の望みを聞いて頂きますが」
「何?知恵比べ?さてどうしたものか」
  
 
何故か彼女は考え込む
 
しかし、竜人は即座に彼女にこう告げる
 
 
竜人「もし勝負をせずに私を喰らえば、あなたは鬼としての誇りさえ失いますよ?」
 
「…言ってくれるじゃないか。分かったあ分かった、お前の勝負に乗ってやろう。儂も恥はかきたくない」
(馬鹿め…これでも儂は【百鬼夜行】の三代目よ。武が強い者は知も強いのよ。それに儂には覇気もある…お前の打つ手等お見通しよ)
 
 
そうして始まった知恵比べと言う名の勝負。種類こそ違えど勝負は勝負。負ければ言い訳は出来無い。
 
 
そして…
 
 
 
 
 
 
竜人「王手、ですね」
「何っ!馬鹿な…」
 
 
竜人は見事にあべをを打ち負かした。如何様もしていない。能力も使っていない。純粋な実力で、竜人は鬼に勝った。
 
 
「はっ…はぁーーっ、これは偶然だな。もう一勝負だ。世の中には3番勝負もあるだろう?」
竜人「別に構いませんよ?」
 
(しくったわ…だが次は負けんだろう。もうお前の癖は読んだぞ)
 
 
二局目…
 
 
 
竜人「私の勝ちです」
「んな馬鹿な!如何様か!?それとも何だ!何故、儂が貴様如きに…納得行かん!次で最後だ!次負けたら腕一本持っていこうが構わんからな…!」
竜人「良いでしょう」
 
 
 
三局目……
 
 
 
竜人「これで三局目も私の勝利ですね」
「………………」
 
 
 
負けた。
彼女は見事に負けた。勝負の種類こそ違えど彼女は完膚なきまでに負けた。もう負けを認めざるを得なかった…これ以上再戦しても勝ち目は無い…無駄に生き恥を晒すだけだと悟ったからだ。
 
 
 
 
 
「…参り、ました」
 
 
竜人「良い勝負でしたね」

こうして鬼は、竜人の笑顔をただ一度も崩せぬまま、敗北を喫したのだった。
 
 
 
 

「さあ、お前の望みは何だ?儂は負けたのだ。煮るなり焼くなり好きにせい」
竜人「私の望みは、たったひとつだけですよ」
竜人「・・・」
 
 
 
 
「なっ…?」

 
あべをは困惑していた。

第三節・竜の夢

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