アルミナ・フラム

Last-modified: 2025-11-20 (木) 09:05:02

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE )】【マップ一覧( LUMINOUS / VERSE )】


アルミナ・フラム.png
Illustrator:sena


名前アルミナ・フラム
年齢16歳
職業火のシビュラ/魔導歩兵
所属火の国・ヴァルカ

精霊を体に宿し、スカージと闘う運命を背負ったシビュラの一人。
シビュラ精霊記のSTORYは全体的にグロ・鬱要素が極めて強いため、閲覧には注意と覚悟が必要です。

巫女<シビュラ>(スカージ編) / 精霊編

自らの家を滅ぼされ、「アカデミー」へと所属する事になった少女。
高い戦闘能力を買われ前線に赴くようになるが…

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1【HARD】
嘆きのしるし(VRS)
×5
10×5


【HARD】嘆きのしるし(VRS)

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
    • GRADE初期値は嘆きのしるし【LMN】と同じ。
    • 【BRAVE】勇気のしるし(VRS)よりも強制終了のリスクが低い代わりに、同GRADEではボーナス量が10.00少ない。
    • これまでの「嘆きのしるし」における「ATTACK/JUSTICE判定でゲージが上昇しない」デメリットが廃止された。
  • GRADE100を超えると、上昇量増加が鈍化する(+0.10→+0.05)。
  • LUMINOUS PLUSまでに入手した同名のスキルシードからのGRADEの引き継ぎは無い
  • スキルシードは300個以上入手できるが、GRADE300で上昇率増加が打ち止めとなる
    効果
    J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
    JUSTICE以下300回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+22.50
    6+23.00
    11+23.50
    26+25.00
    76+30.00
    101+32.45
    102+32.50
    152+35.00
    252+40.00
    300~+42.40
    推定データ
    n
    (1~100)
    +22.40
    +(n x 0.10)
    シード+5+0.50
    n
    (101~)
    +27.40
    +(n x 0.05)
    シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2025/8/7時点
VERSE24241+39.45
X-VERSE11111+32.95
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。
※灰色の部分は到達不能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
18001600240032004267533466678000
67831566234831314174521865227827
167501500225030004000500062507500
267201440216028803840480060007200
366931385207727703693461657706924
466671334200026673556444555566667
566431286192925723429428653586429
666211242186324833311413851736207
766001200180024003200400050006000
865811162174223233097387148395807
965631125168822503000375046885625
1125461091163721822910363745465455
1325301059158921182824353044125295
1525151029154320582743342942865143
1725001000150020002667333441675000
192487973146019462595324440554865
212474948142218952527315839484737
232462924138518472462307738474616
252450900135018002400300037504500
272440879131817572342292736594391
292429858128617152286285835724286
300425850127416992265283135384246
所有キャラ

所有キャラ

  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    X-VERSEオンゲキ
    Chapter6
    逢坂 茜/Momiji※1

    ※1:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 神無き世界に残りしもの 「この世界は不条理だ。どれだけ品行方正に生きていても、たやすく全てを奪ってしまうのだから」


 箱庭。
 それは神が自らの意思で創り上げた小さな理想世界。
 そこでは神から力を分け与えられた精霊と、箱庭の中で世界を繁栄させるために用意された生命体が共存している。
 この世界において精霊は、生命体にとって特別な存在であり、いつしか神の代弁者として考えられるようになった。
 大いなる力に神の姿を見た人々は、時に恐れ、時に敬い、やがて精霊は信仰の象徴となっていく。
 それこそが神が望んだ世界の体現であった。

 すべてが神の意のままに進む世界。
 だが、それはひとつの契機で崩れ始める。
 神の力を宿した、神に最も近い者の出現によって。

 生じた綻びは、最初は小さなものだった。
 しかし、一度生まれた綻びは新たな綻びを生み、いつしか箱庭の世界全体に影響を与えるようになってしまったのだ。
 神はある少女の身体を依代とし、限界を迎えつつあった世界をあるべき方向へと正す事にした。

 そして、神が地上に解き放った新たな生命によって醜い人間たちは粛清され、滅びへと向かって突き進んでいく。
 だがそんな神の目論見を大きく外させたのは、1人のか弱き少女。彼女は、精霊の力すら持たないただの人間だったのだ。
 神は首をかしげた。
 何故、勝てもしないのに抗うのか。
 何故、醜い人間を守ろうとするのかと。
 彼女だけが抗えたのには理由がある。
 それは、彼女の内に芽生えた――“希望”の力だ。

 希望は些細な力しか持っていなかった。
 心に芽生えただけで、神に傷ひとつ与える事などできなかったのだから。
 だが、神自ら創造し、失望した世界の中で、彼女は、彼女だけは神の目にかなう人間だったのは言うまでもない。
 諍いの果てに、神は箱庭の世界から消失した。

 神も、神の分身たる精霊もいない見捨てられた箱庭。
 審判を逃れた人間たちは、荒廃した世界を渡り歩き、いずれ来たる破滅の日を迎えるまで欲望の限りを尽くす。
 激情と悲哀が満ち、誰もかれもが殺し合う中で、それでも人間の歴史は終わらなかった。

 これより語るは、神去りし箱庭の世界の物語。
 悠久の時を超え、新たな一歩を踏み出した人間たちの物語である。


EPISODE2 あの炎に誓いを立てて 「目を閉じれば今でもあの光景が目に浮かぶ。愛する者を守れなかった、無知でひ弱で愚かだった自分が」


 しんしんと降りそそぐ雪が、大地に伸びた血だまりに降り積もっていく。
 血だまりに生じた波紋の中、影がふたつ、ぷらぷらと揺らめいている。
 それは、鉄柱に吊るされた人間の亡骸だった。

 「お父様、お母様……」

 ふたつの死体の正面には、地面に膝をつき頭を垂れたまま嗚咽を漏らす少女がいた。
 どれだけの間そうしていたのだろう。艶やかな黒髪と両肩を晒した白いワンピースの上には、雪が積もっている。
 その身なりから育ちの良さが伺えたが、今の彼女にとって、衣服が濡れようがどうでもよかった。
 問答無用で処刑された両親に比べれば。

 「ふたりが……何を、したって言うの……」

 苦しそうにひとつひとつ言葉を紡ぐ少女に対し、白銀の鎧をまとう女が顔色ひとつ変えずに素っ気なく返す。

 「“四精、交わるべからず”。いくら君でもこの言葉くらいは聞いた事があるだろう?」

 精霊の力を操るシビュラには、互いに殺し合ってはいけない不文律の掟がある。

 「その禁を破ったから……処刑した? そんな事、ふたりがするわけない……!」

 今すぐにでも少女は女に飛び掛かりたかったが、彼女の周りには配下の兵たちが控えていて手が出せそうにない。
 怒りの矛先は自然と地面へと向かい、何度も何度も地面を叩きつける。

 「君の両親は何も悪くないよ」
 「……は?」

 じゃあ何故殺したのか?
 少女は女の言っている事がこれっぽっちも理解できず、振り返った。

 「君のお姉さんが禁を破ったんだ。私の娘を、精霊の力で殺したんだよ」
 「ウィスカ姉さんが……殺した? あ、あり得ない……姉さんは誰よりも真面目で、正義感の強い人よ!」

 女と視線が合う。女は娘を殺されたと言ったが、その割にはやけに落ち着いて見えた。
 それどころか、こちらへと向ける眼差しに感情が籠っているように感じられない。
 少女には、そんな彼女がひどく不気味に思えた。

 「絵空事だね。君がどれだけ彼女の善性を説こうが、事実は何ひとつ覆らない」
 「姉さんは……姉さんはどうしたの!?」
 「死んだよ」
 「そん……な……」

 少女が姉を失った事実に慟哭する様を見つめていた女は、「さて」とつぶやくと、配下の兵たちに指示を下していく。
 「フラム家の屋敷は燃やせ」「当主の亡骸を下ろした者は厳罰に処せ」などと、無慈悲な言葉の数々が少女へと降り注いだ。
 兵たちが去ったあと、女が語りかける。

 「あとは君だけだ」

 そう言って1歩、2歩と近づいたその時――少女が女との距離を一瞬にして詰めた。
 刹那、ギィン! と鋭い音が鳴り響く。

 「……最短距離で私の首を狙いにきたか。中々いい腕をしているね」
 「なんで……届いたはずなのにッ!」

 音の正体は、少女が女の首筋へと突き立てようとしたナイフが、女の腕に弾かれた音だった。

 「その動き、相手を躊躇なく殺そうとする強い意志、そして何よりその眼だ。やはり、君は姉によく似ているね」
 「……ッ! ……お前が、姉さんを語るなァァッ!」

 少女の怒りに呼応するようにして、女へと向けた少女の腕が赤く燃え上がり――女の顔面目掛けて炎を放つ。
 だが、女は毛先が少し焦げただけで無傷である。
 続けて至近距離で放った火球も、結果は同じだった。

 「嘘……」
 「火のシビュラとして申し分ない力だ」

 シビュラ――それは、身体に流れる精霊の力を行使する者の名だ。

 「もう少し私に見せてくれないか、アルミナ・フラム。さあ、家族の仇はここにいるよ」

 女が一歩前進した。

 「……うっ、うわあァァァァアアアッ!!」

 死ね、死ね、死ね!
 アルミナと呼ばれた少女が女を焼き殺そうと全力を振るう。
 だが、あらゆる手を尽くしても、女には届かなかった。

 「それでお終いかい?」
 「まだよ……まだ私は……――!?」

 アルミナがよろめいた隙に、女がアルミナの身体を軽々と担ぎ上げた。もはや彼女に抵抗する力はなく、見せしめとして吊るされた両親の亡骸が徐々に遠ざかっていくのをただ眺める事しかできない。

 「お父様、お母様……っ!」

 アルミナが女に運ばれてやって来たのは、火の国・ヴァルカと他国とを繋ぐ生活の基盤――機関車が格納された駅舎だ。
 駅舎へと続く道には女の帰りを待つ兵たちが待ち構えていた。彼らは皆同じ制服を着こんでいて、前面に縦2列にボタンが取りつられたジャケットと厚手のコートを羽織っている。
 武装した彼らだけでも、アルミナが暮らす街は容易く制圧できるだろう。
 女は彼らの前にアルミナを下ろすと、彼女に枷を嵌めるよう指示する。

 「離せ! 私をどうするつもりだ!」
 「身寄りの無い君を、我がアカデミーに招待しようと思ってね」
 「は……? 人の家族を殺しておいて、よくもそんな事が……ッ!」
 「本来は君も一緒に処刑するつもりだったんだが、姉に匹敵するその素質は実に惜しい」
 「勝手な事を……!」
 「交渉の余地は君にはない。私は一度決めた事は必ずやり遂げる、どんな手を使ってでもね。あれを見たまえ」

 女が指さした方向には、アルミナの生家であるフラム家の屋敷に仕える使用人たちの姿があった。
 彼らは皆目隠しをされ、手枷まで嵌められている。
 横一列に並んで地べたに座らされた彼らの背後には、抜き身の剣を握る女兵士が立つ。
 その意図は、明白だった。

 「や、止めてッ! 皆は関係ないでしょ!?」
 「なら、どうすればいいか分かるよね?」

 女が淡々と告げる。
 その態度と表情からは、アルミナが頷くまで躊躇なく処刑し続けるという強い意思が感じられた。
 アルミナは力なく項垂れたまま、腹の底から声を絞り出すようにして答えた。

 「…………もう、見せしめは十分よ……」
 「物分かりのいい子で助かるよ。さあ、行こうか。我がアカデミーへ」

 程なくして、2人を乗せた車両は南へと向かった。
 徐々に離れていく故郷を目に焼きつけようと、アルミナは窓から外を覗く。

 「あ……ぁぁ……」

 視界に真っ先に飛びこんできたのは、燃え上がるフラム家の屋敷だった。
 徐々に勢いを増していく炎は、まるで家主であるアルミナに助けを求めているかのよう。
 自分の愛したすべてが、一日で奪われてしまった。
 だというのに、彼女は決して目をそらさなかった。
 今日味わった苦痛を全て記憶に刻みこむために。

 そしてこの日、アルミナは誓いを立てた。
 自分から愛する家族を奪った女――アウレリアを、いつか必ずこの手で復讐すると。


EPISODE3 終末の獣 「ここは、覚悟なき者が生きていけるような場所じゃない。生き残りたいなら、戦うしかないんだ」


 アウレリアによって連れてこられたアカデミーは、4大国よりも広大な土地と技術力を有し、世界中から精霊の力を行使する素質を持つ子供たちを集めている機関だ。
 アカデミーの名だけは姉のウィスカから聞いていたアルミナだったが、ここは彼女が抱いていた印象とはかけ離れた場所だった。
 悲鳴や怒号が飛び交う訓練に実力主義的な風潮。
 許可が無ければアカデミーの外にすら出られない厳しい規律の数々。
アルミナは、着いて早々にアカデミーの現実を目の当たりにし、自嘲するようにつぶやいた。

 「……まるで、監獄ね」
 「アルミナさん、どうかしまして?」
 「いえ……別に」

 アルミナの身柄は今、アウレリアから目の前の少女――ラビスへと委ねられている。車椅子の彼女は、アカデミーの中でもとりわけ優秀な成績を収める才女らしい。
 身なりや言葉遣いからして、彼女は何処かの国の貴族の出身なのだろうか。
 殺伐とした雰囲気が漂うアカデミーの中で、仄かに花の香りを漂わせて穏やかに喋る彼女は、立て続けに辛い出来事を体験したアルミナの心の傷を癒してくれるようだった。

 「ひと通りアカデミーについて案内してきましたが、何か質問はありまして?」
 「……」

 ラビスは車椅子を止めると、アルミナへと向き直る。彼女の境遇に同情するように眉尻を下げると、小さく微笑んだ。

 「ふふ、無理もありませんわね。あなたのお話はアウレリア様から聞いています、さぞや大変な一日だったことでしょう」
 「……あ、貴女に」

 貴女に何が分かる。アルミナは自分よりも弱そうな車椅子の少女に負の感情をぶつけようとしていた事に気付き、慌てて口をつぐむ。

 「何か?」
 「な、なんでもない」
 「……そうですか」

 ラビスはくすくすと笑うと、不意に何かを思い出したのか「あっ」と声をもらした。

 「そうでしたわ、まだ貴女に紹介していなかった場所がありますの。そちらへ向かいましょう」

 ラビスに言われるがまま、アルミナはある場所へと連れて来られた。そこは、城門のような巨大な扉が鎮座する場所だった。

 「さ、どうぞこちらへ」

 言われるがまま中へと入ったアルミナは、薄暗い部屋の中から漂う異様な臭いに足を止める。

 「獣の臭い……いや、それだけじゃない。これは、血……?」

 不穏な気配を感じた。だが、当のラビスはそんなアルミナの事など気にも留めず、やけに広い部屋の中心まで移動していた。

 「アルミナさん、早くいらっしゃいな?」
 「……一体、ここで何をするつもり――」

 アルミナがラビスが待つ中心部へとたどり着いたその時、2人を取り囲むようにして地面が上に向かって迫り出した。

 「何!?」
 「実はわたくし、1つだけ忘れていた事がありましたの」

 どこかふわっとしていたラビスの声色に不穏な色が混じり始め、アルミナは思わず身構える。

 「何が目的?」
 「ふふ……そんなに邪険になさらないで? これはちょっとしたお遊び――“歓迎会”ですわ」
 「とてもそんな雰囲気じゃないけど。それとも、ここでの暮らしが長すぎたせいで、感覚がおかしくなった?」
 「ヴァルカの人間にしては、よく喋りますわね」

 目を細めたまま、からかうような笑みを浮かべるラビスを問い詰めようとアルミナが肩を掴んだ矢先――彼女の身体は突然「パシャ」と音を立てて崩れた。

 「……えっ?」

 アルミナの足元には、大きな水たまりが広がっている。

 「水のシビュラ……!? どこだ、ラビス!」
 「いきなり呼び捨てにするなんて、ひどい扱いですわね」

 辺りに響いたラビスの言葉と共に部屋に明かりが灯された。
 続けてアルミナの前に何かがせり上がってくる音が響く。辺りを囲われていた事で、鼻を突くような臭いが瞬く間に広がった。
 その臭いの正体は、漆黒の体躯に人を模したような造形を持つ異形の怪物。

 「なんでスカージが……!」

 終末の獣――スカージ。
 古き伝承によれば、その黒い怪物は神が人類を滅ぼすために創り出した存在だと言われている。
 そして、アカデミーがシビュラを集めている理由でもあった。

 「歓迎会と言ったでしょう? アウレリア様があなたを評価しているのが気になってしまいましたの。ですから、どれだけ戦えるのか、わたくしにも見せてくださいな。あ、怖くなったらいつでも助けを求めて構いませんわよ?」
 「……本当に、ろくでもない場所ね」

 アルミナは不敵に笑い、こちらへと近づいてくるスカージに向かって手を掲げる。

 「いいわ、望む所よ」

 瞬間、炎が爆ぜた。


EPISODE4 戦地へ 「アウレリアが何を考えていようと関係ない。私は、今この状況で自分に何ができるかを考え続けるだけだ」


 アカデミーの演習場でラビスの“歓迎”を受けたアルミナは、火のシビュラの力を発揮し、見事にスカージを打ち倒してみせた。
 ラビスは穏やかに笑いながらアルミナに賛辞を送っていたが、慌てふためく姿が見られなくて不満だったのかアウレリアからの言伝を一方的にまくし立てると部屋を去ってしまった。

 その後、アルミナはスカージと戦える力を示した事で対スカージの戦闘要員として、ある小隊に配属される事となる。

 「まさか、本当に火のシビュラの力があるってだけで生かされるなんてね……」

 あの時、アウレリアは自分をアカデミーに迎えると言ってはいたが、それを完全に信じたわけではなかった。
 他の者への見せしめとして処刑されたり、はたまた奴隷のような酷い扱いを受けるだろうと覚悟していたからだ。
 だが、彼女は本当にスカージの戦闘要員としか見なしていなかった。

 「きっとあいつは、私が使い物にならなくなるまでスカージと戦わせる気だ。でも、今はそれでいい。あがき続けていれば、いつか必ず道は開けるから」

 アルミナが手にする召集辞令に深いしわが刻まれた。
 その辞令の内容は、国境付近で消息を絶った魔導士官レナスの小隊を捜索する隊に加入するというもの。

 「どんな命令だろうと構わない。戦って、勝つ。それだけだ」
 
 アルミナが指示された合流地点に向かうと、そこには既に何人もの少女たちが待ち構えていた。
 彼女たちの中心には、眼帯に大剣を担いだ、いかにも隊長といった風貌の女がいる。
 女はこちらに気がつくと歩み寄り、右手を差しだしてきた。

 「私がこの小隊の隊長である魔導士官エレハイム・エルデだ」
 「アルミナよ」
 「ん……家名は無いのか?」
 「ええ、もう私には必要ないから」
 「それは……失礼した」
 「……」

 素直に非礼を詫びたエレハイムを、アルミナは無言で見つめる。
 アカデミーは貴族の出が多い。
 貴族は貴族で群れがちで、ラビスのように横柄な態度を取る者を何度か見かけていた。
 当然エレハイムもそうするものとばかり思っていたが、彼女は違うようだ。

 「何か私の顔についているか?」
 「いいえ。こちらこそよろしく、エレハイム」

 握手を交わしたあと、エレハイムは今回の任務の内容を皆に説明したあと、隊員たちを引き連れて格納庫へと向かう。
 そこには、アカデミーの最新の技術によって造られた輸送車両が鎮座していた。
 全員が車両に乗りこんだのを操縦士が確認し終えると車両は出発した。
 車両がガタガタと揺れる中、エレハイムは懐から小さな時計を取り出し、時刻を確認する。

 「レナス小隊が生きているとすれば、国境付近の廃都市スレニカに逃げこんだ可能性が高い。スレニカまではおよそ3時間だ、それまで英気を養っておくように」
 「「はい!」」

 座席に腰かけた隊員たちは、それきり一言も喋らなくなった。
 練度の高い部隊だ。アルミナは心の中でそう分析したあと、彼女たちから少しだけ離れた場所に腰かける。
 遠き故郷に想いを馳せながら、アルミナは目を閉じるのだった。


EPISODE5 疑念 「シビュラで構成された小隊がそんな簡単に負けるとは思えない……いったい彼女たちに何があったの」


 アルミナたちは廃都市スレニカを肉眼で視認できる距離にまで接近した。
 都市の直ぐ近くには、消息を絶った小隊の輸送車両が横転している。
 エレハイムはそれがレナス小隊のものか確認し終えると、配下の少女に指示して狼煙を上げさせた。
 しばらくすると、都市から同じ色の狼煙が立て続けに4本上がった。
 車両に戻って来たエレハイムが、待機していた隊員たちに今回の指令の目的を再確認させる。

 「生存者はおそらく4名、中には負傷者もいるだろう。スレニカは人間の手を離れてから長い時間が経過している事から、スカージが潜伏している可能性が極めて高い。日没までに生存者を助け出せ!」
 「はい!」

 言い終わるやいなや、都市に向かって車両が動きだした。都市へと近づくにつれて車内の緊張感は増していく。
 目を瞑ったまま小さな声で呟く者もいれば、祈りを捧げる者もいた。
 戦い慣れしていそうなエレハイムの部隊でも、やはり緊張するようだ。

 程なくして車両が止まった。
 エレハイムが扉の前に立ち、隊員たちに檄を飛ばす。

 「廃都はスカージにとって格好の場所だ、互いの死角を補い合い、どんな物も見逃すな!」
 「はい!」

 部隊が都市へと突入した。
 石やレンガを素材にして建てられた家屋は、基礎の部分を残して多くが倒壊している。
 草木が生い茂る場所や野生の獣が棲みついていた痕跡もあり、放棄されてからかなりの時間が経っている事が見て取れた。

 「ふぅ……、ふぅ……」

 アルミナは、知らず知らずのうちに、自分の息が浅くなっている事に気づく。
 瓦礫の隙間に隠れられるような小型のスカージに不意打ちを喰らうかもしれない。
 そう思うだけで、都市の中での戦闘を経験した事が無いアルミナは、皆が緊張していた理由を垣間見た気がした。

 「エレハイム隊長、スカージです」

 先頭を進んでいた隊員が、広場の朽ち果てた噴水に群れをなすスカージを発見した。
 確認されたスカージは8体。
 いずれも2等級に分類される個体だ。
 大型の肉食獣を超える体躯を持つスカージが振るう鋭い爪や長い腕の直撃を喰らえば人間はひとたまりもないだろう。だが、それはなんの力も持たない人間に限られる。
 多少群れた所で精霊の力を操るシビュラの敵ではない。

 「下がっていろ、私がやる」
 「大丈夫なの?」

 単身で噴水へと向かっていくエレハイムを心配するアルミナに、隊員の少女が答えた。

 「エレハイム隊長の力は、こういう場所で輝くんです。見ててください」

 エレハイムは自身の射程内に全てのスカージを収めると、地面に向かって腕を突き立てた。

 「土の精霊よ、我が願いに応えよ」

 瞬間、大地から鋭い槍と化した土塊が出現し、スカージを貫いたのだ。
 スカージはしばらくもがき苦しんでいたが、すぐに動かなくなった。

 「あれがエレハイム隊長の精霊の力です。凄いでしょ?」

 まるで自分の事のように自慢する隊員の少女にアルミナは相槌を返す。

 「この近くにレナス小隊の生存者がいるはずだ。くまなく探せ」
 「はい!」

 隊員たちが生存者の捜索を始める中、アルミナはスカージの手応えの無さに違和感を覚えていた。

 ――エレハイム1人で排除できたスカージに、本当に歴戦の小隊が敗れたりするの? それとも、ここにはまだ何かが潜んでいる……?

 結局答えが出せないまま、アルミナは捜索に加わるのだった。


EPISODE6 人類に仇なすもの 「私たちは勘違いしていたのかもしれない。勝手に獣程度の知性だと決めつけた事で道を狭めてしまった」


 救助されたレナス小隊の隊員たちは、皆悲壮な顔つきをしていた。
 制服は赤黒い血で染め上げられ、元の色すら分からない。
 まともに歩ける者は1人もおらず、エレハイム隊に肩を担いでもらえなければ今にも倒れてしまいそうな程に衰弱している。
 その様子を見た衛生兵が応急処置を施そうと駆け寄ったが、彼女たちは細かな傷を負ってはいるものの命に別状はなかった。
 大怪我したと思われたその制服の染みは、すべて仲間の“返り血”だったからだ。
 エレハイムが、アルミナが肩を貸していた少女へと問いかける。

 「指揮官のレナスは何処へ行ったんだ? 君たちに何があった、説明できるものはいるか?」

 自分の背丈ほどの大きさの弓を背負う少女は、エレハイムの剣幕に驚いたのか目をそらしたままぽつぽつとつぶやいた。

 「わ、私……たちは……」
 「ゆっくりでいい、話してくれ」
 「に、任務……を、放棄して……」
 「ん……任務とはなんだ?」
 「あ、青騎士の……捕獲……」
 「青騎士……だと?」

 困惑するエレハイムにアルミナが問いかける。

 「知ってるの?」
 「青騎士はアカデミーでまことしやかに噂されている怪物だ。奴は戦場に現れてはシビュラを殺して回るという。スカージの特殊個体として分類されているが……その名をここで聞く事になるとは」
 「この子たちは、その青騎士に返り討ちにされた」
 「ああ、間違いない」

 言い終わるやいなや、アルミナとエレハイムの表情に警戒の色が浮かぶ。
 もし、2人の想像通りだとするならば、青騎士は廃都の近くに潜んでいてもおかしくない。
 背筋がひりつくような感覚を覚えたその時――

 「――ぃやあぁぁぁぁああああああああッ!!」

 つんざくような少女の悲鳴が都市に響きわたったかと思えば、何かが2人の足元へと転がってきた。
 それは、無惨にも胴体を引き千切られた、エレハイム隊の操縦士の亡骸だった。

 「うっ――」

 醜悪な臭いが、瞬く間に充満する。
 その臭いの正体は、身体からドロドロとこぼれ落ちてくる生焼けの内臓だった。
 多くの者が口を押さえたまま呻き声をあげる中、惨劇の光景が蘇ってしまったレナス隊の少女が泣きながら謝りだした。

 「ぁ……あ、あはは……ごめん、なさい……!わ、私たちが、生き残ってしまったばっかりに!」

 少女の声が皆の不安をかき立てる。
 それは既にエレハイム小隊にも伝播し始めていた。

 「落ち着け! 心を乱されたら相手の思う壺だ!」
 「エレハイム! あれ!」

 続けてアルミナの声が響き、彼女が何かを指さす。
 少女たちの視線が一点に注がれる中、そこには青き炎をまとった怪物がたたずんでいた。

 「あれが……青騎士……?」


EPISODE7 生きて生きて、生きろ 「誰かを犠牲にする戦い方は好きじゃない。置いていかれた者の気持ちを、私は知ってしまったから……」


 青騎士を前に隊員たちが気圧される中、アルミナだけは何故か不思議と落ち着いていた。
 極寒の地で生きる火の国・ヴァルカの民にとって、炎は信仰の象徴。崇敬する事はあれど、恐怖するもの
ではない。
 だからこそ、異形のスカージの周囲で揺らめく青い炎に、別の何かを感じていた。

 「あの炎……苦しんで――」
 「総員、負傷者を連れて直ちにこの場を去れ」

 アルミナの思考はエレハイムの声に中断された。
 エレハイム小隊の少女たちは、この場に残り戦う事を望んだが、エレハイムの意を汲み取るやいなや、撤退していく。

 「これでいい」

 そう言ってエレハイムは、青騎士に向かって歩き出した。おそらく、自分が犠牲になろうというのだろう。
 1人の犠牲で多くを助ける行為は、きっと彼女の中で美徳なのだ。

 「そんなの……勝手だわ」

 そんなもの、アルミナにとっては命の無駄遣いにしか思えなかった。
 アルミナの中に、ふつふつと怒りが芽生える。

 「貴女って、ずいぶん思い切りが良いんだね」
 「……なぜまだここにいる、アルミナ」
 「死にに行く貴女を止めようと思ったの」
 「私が青騎士に敗北するとでも?」
 「だって、貴女にはその方が都合がいいでしょ。死んでも、生き残っても」
 「君はどうかしているのか? 2人でならあの怪物に抗えるとでも思ったか」
 「ええ。少なくとも、独りで立ち向かうよりは生還できるでしょ」

 エレハイムの瞳が揺れた。

 「私は、貴女が何に固執していようと構わない。でも、そんな簡単に命を投げ出そうとするのは間違ってると思う。だから放っておけないんだ」

 アルミナは知っている。
 この世界には理不尽に命を散らす者が大勢いる事を。そして、残された側の気持ちを。
 アルミナが大鎌を構えたその時、青騎士の咆哮が廃都に響き渡った。

 「――――ッ!!」

 青騎士は、真っ先にアルミナへと接近し、剣を突き出した。
 人間を凌駕する腕力から振るわれる剣速は凄まじく、どの一撃も致命傷となりえる。

 「……フッ!!」

 だがアルミナは放たれた突きを冷静に見極め、大鎌の柄でその突きを受け流してみせた。
 そして、力任せの青騎士の攻撃を利用して勢いよく自身の身体を回転させると、大鎌の高速の一撃を青騎士へと放つ。
 アルミナの一撃は、青騎士の身体に巨獣にかきむしられたかのような傷を深々と刻みこむ。
 人間ならばその時点で致命傷。しかし、相手はスカージだ。どれだけの傷を負ってもなお、その動きは止まらない。

 「まさに怪物だな、だが――」

 そこへ、アルミナの攻撃の隙を埋めるように放たれたエレハイムの精霊の力が、青騎士へと炸裂する。

 「ありがとう!」

 青騎士が地面から突然出現した土塊の槍をその身に浴びながら突き進んだ所へ、再びアルミナの大鎌が振り抜かれた。

 「――ッ!!」

 青騎士の呻き声にも似た叫びが響き渡る。
 これなら――! アルミナとエレハイムは、青騎士を倒せるかもしれないという手応えを感じていた。
 しかし、そんな2人の気持ちを嘲笑うかのように、薄氷の上で保たれていた均衡は徐々に崩れ始めていく。
 青騎士はいくら傷を受けようとも、決して倒れなかったのだ。
 何度傷つけても再生を繰り返して立ち上がり、アルミナを執拗に狙ってくる。

 「く……っ、この……!」

 一撃でも直撃すれば即死する緊張感は、アルミナの集中力を容赦なく削り取っていく。
 そんな重い攻撃をいなし続ける腕は痺れだし、切り返すために使う精霊の力も疲労によって精彩を欠いている。
 それは補佐に回っていたエレハイムも同様だった。

 十を超える打ち合いをしのぎ、2人は膝をつく。
 持てる力の全てをぶつけ続けた2人だったが、目の前の怪物はまだ余力を残していた。

 「まだ……立ちあがれるの……?」
 「噂どおりの怪物という事か」

 息も絶え絶えに2人は力を振り絞る。

 「死ねない……私は、姉さんの疑いを晴らすまで、絶対に死ねないんだ……ッ」
 「アルミナ……」
 「私は、戦える。まだ戦える!!」

 怒りの形相で己を奮い立たせて立ち上がるが、当のアルミナにはまともに正面すら見えていない。
 だから、腹部を青騎士の剣が貫いていく光景をただ見ている事しかできなかった。

 「ぃ……っ、あっ――――――ッ!?」
 「ア、アルミナッ!!」


EPISODE8 たとえ、灰になったとしても 「貴方を繋ぎ止める鎖は、絶対に私が解放してみせる。この温もりがある限り、私は何度でも立ち上がれる」


 『アルミナ、武器の本質は命を奪うためにあるんだ。相手に気づかれず、最速最短の一撃を、相手の急所にあてがう。そうすれば負ける事はない』
 『それが誰かの命でも?』
 『ああ、それが戦場ならば』

 だから狙いを相手の急所から外してはいけないよ。
 小さなナイフを私に握らせた姉さんは、そう言って微笑んでくれた。
 それが、私の姉ウィスカ・フラムの最初の教えだ。

 姉さんがまだ家にいた頃、私は姉さんに稽古をつけてもらっていた。
 姉さんは自分にも他人にも厳しい人だ。
 きっと、過酷な雪山の中で生き抜いてきた火の国の民の血を誰よりも受け継いでいるからだろう。だから武器を持ったばかりの私にも一切容赦しなかった。
 油断は命取り、敵は常に全力で叩きのめせ。
 それが、ふたつ目の姉の教えだった。
 私は敵じゃないのに、どうして痛くするの!
 つい泣言を言ってしまう私の頭には、よく姉の拳骨が突き刺さったものだ。
 結局、姉さんには一度も勝てずじまいで、まともに触れる事もできなかったな……。

 『……ミナ』

 その時、私は誰かに呼ばれた気がして目を覚ました。

 『アルミナ』

 気づくと、すぐそこに姉さんが立っていた。
 私の脚は自然と姉さんの方へと動き出す。

 『姉さん! 私だよ、アルミナだよ!』

 これが夢でも幻でもいい。私はもう一度姉さんに触れたかった。
 姉さんは何も悪くない、姉さんがなんの理由もなく人を殺める人じゃないって、私は知っている。
 世界のすべてが姉さんの敵に回っても、私だけは貴女の味方だって、言いたかったんだ。

 『ウィスカ姉、私――』
 『アルミナ、教えを忘れたのか』
 『え…………、……ぁッ!?』

 姉さんに触れようとしていた私の身体を、突然激しい痛みが駆け巡った。私を内側から焼き尽くすような、激しい痛みが。

 『ね、姉さん……』

 姉さんは何も答えない。そして、悶え苦しむ私を見下ろしながら言った。

 『苦しいだろう。だが、抗う必要はない。すべてを委ねれば、お前はあらゆるものから解放される』
 『か、解放……? それ、は……死ね、って事?』
 『これは死ではない。再生だ』

 そう言うと、姉さんが手を差し伸べてくる。

 『さあ、すべてを委ねるんだ』

 姉さんはいつも正しい。だけど――

 『……ちがう』

 姉さんは、私に甘い言葉を囁くような真似はしない。
 最後まで抗って初めて、姉さんは救いの手を差し伸べてくれる。そういう人なんだ。

 『お前は誰だ!』

 そう叫んだ瞬間、私が見ていた世界は朝陽に照らされた雪原のようにまぶしく輝いた――

 ――
 ――――

 「ギ、あっ、ぁアァァァァァァァアッ!!!」

 青騎士の剣に貫かれたアルミナは、痛みを少しでも軽減しようとあがく。
 だが地に足がつかぬほどに掲げられたその身体は、何も言う事を聞いてくれない。

 「ア、アルミナッ!!」

 視界の隅でエレハイムが精霊の力を解き放つのが見えた。青騎士の動きを封じようとしているのだろう。
 だが、彼女が何かしようとすればするほど、剣に貫かれたアルミナの身体は深く沈みこんでしまい、更なる激痛と炎がアルミナを襲った。
 この絶望的な状況を変える手立ては、もう2人にはない。

 「足りない……私はまだ、足りないのか……」

 己の無力さを嘆くエレハイムに向かって、アルミナが声を絞り出す。

 「エレ、ァイム……にげ、て……っ」

 もはや言葉を紡ぐのも限界だ。
 だが、アルミナは抗う事を止めない。

 ――自分から生きるのを止めてしまったら、姉さんに呆れられる。だから私は諦めない……! 私は生きる、生きるためだったらなんだってする。たとえ……お前を喰らってでも!

 その時だ。
 アルミナは、自身の身体から何かが湧き上がって来るのを感じていた。
 痛くて、熱い。けれど、それは身体的な痛みではなく、不思議と心を満たしてくれるような、不思議な感覚だった。

 ――そうか、これは……青騎士の炎だ。私は、こいつの炎を……。

 青騎士の炎がアルミナの中へと消えていく。
 力が流れこむたびに、アルミナは青騎士が弱っていくのが分かった。
 そして、ついにアルミナは青騎士の拘束から脱出した。
 腹部に突き立った剣を抜き放つと、アルミナは頭を抱えて苦しんだ素振りを見せる青騎士の首目掛けて、懐から取り出したナイフを突き立てた。

 「――、――ッ」

 その一撃は致命傷には至らなかったが、青騎士を退けるには十分だった。
 手負いの青騎士が去っていくのを呆然と眺めていたアルミナは、戸惑いとも驚きともつかぬつぶやきを漏らす。

 「わ、私……生きてる……? どうして……」
 『――――ッ!』

 誰かの声が聞こえた気がした。
 それは、こちらの様子を伺うエレハイムの声だ。しかし、彼女が何を言っているのかアルミナには分からなかった。

 『――、――――』
 「!? ぅ……か、身体が、熱い――」

 刹那、アルミナは全身が沸騰するような鋭い痛みに襲われ身をよじる。それと同時に感じたのは、青騎士の炎を通じて伝わった思念だ。

 「ぁ――」

 アルミナは、瞬時に理解した。
 その炎を、その温もりを。
 そして、自分が本当は何と戦っていたのかを。

 ――まさか私は……自分の手で……姉さんを殺めようと……!?

 アルミナの身体が更なる熱を帯びる。
 エレハイムは堪らずに彼女に触れていた手を放し、距離を取った。

 『ア――ミナ――君まで――』

 アルミナの身体が、たちまち赤黒い炎に包まれた。
 炎をまとうその姿は、奇しくも先ほどまで戦っていた青騎士とよく似ている。
 殺し合うまで気づけなかった己への怒りと悔恨の念に捕らわれた彼女には、もう誰の言葉も届かない。

 ――姉さんを、探さなくちゃ。

 今のアルミナを支配し、突き動かすのは姉への想いだけ。彼女は視界の隅に転がっていた大鎌を拾い上げると、青騎士が去った方角へと歩き出した。

 『――――! ――――!?』

 何かが必死に叫んでいる。
 きっと、この何かは自分の邪魔をしようというのだろう。邪魔をする者は、敵だ。

 ――敵……そうだ。敵は、殺さないと。

 アルミナはただ、目の前の何かへと大鎌を振り下ろすのだった。

 ――
 ――――

 赤黒い炎をまとった少女は、青騎士を追って彷徨い続けていた。
 彼女が通った後は、焼け野原と化した大地と無数に転がるスカージの亡骸だけ。
 だがその果てに彼女は力尽き、倒れ伏した。

 「ね、え……さん……」

 少女は弱々しい動きで身体を丸くすると、その手に青い炎を宿す。
 彼女が辛うじて人の姿を保っていられたのは、青騎士から奪った炎のお陰だろうか。

 「あ、ぁぁ……あたたかい……」

 小さな炎の中に姉との記憶を幻視した少女は、宝物を隠すように炎を抱きしめたまま、眠りにつくのだった。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • ポスターの1番目立つ所にいたからep1で出てくるかと思いきやまさかのシビュラとは... -- 2025-03-20 (木) 15:00:30

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