ミァン・テルスウラス

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:32:36

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 RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となります。

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Illustrator:べにたま


名前ミァン・テルスウラス
年齢15歳付近
身分土の巫女/アテリマ教指導者
所属ルスラ

精霊に命を捧げ、精霊を体に宿した巫女<シビュラ>と呼ばれる存在の一人。
シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。
舞園 星斗「そこが一番ゾクゾクするし、ピュアなお話なんだよ?」

巫女<シビュラ>

土の精霊の魂を宿した『巫女<シビュラ>』。
巫女として、指導者としての使命を少女は背負っていく。

カードメイカー再録歴
  • 2021/10/7~11/3 「月下の仮面舞踏会?」ガチャ

スキル

RANK獲得スキル
1ボーダーブースト・S
5
10
15


ボーダーブースト・S [NORMAL] 

  • ボーダージャッジ・Sの亜種。
    強制終了しない代わりにS達成不可能になると上昇率増加がなくなり、ATTACK以下でダメージを受けるようになる。
  • 初期値から5本を狙え、GRADEを上げれば6本も可能になる。
    • 新規プレイヤーの場合、PARADISE稼働時点では筐体内マップにゲージブースト系の汎用スキル所有者がほとんどいないため、ティータを早い段階で入手して課題曲でノルマ5本を要求された場合等の5本狙いスキルとして運用していくことも視野に入れたい。
    • +8から成長が鈍化し、増加量が1%ずつになる。所有者を3人RANK10にするとちょうど鈍化が始まる+8まで上げられるので、それ以上育成するかはお好みで。ただし、最大GRADE(+15)まで育成すると+7と比較してそれなりに差が出る。
  • フィールドインフォの「ボーダー/S」を使うと、上昇量消滅までのスコア猶予を確認しながらプレイできる(SS・SSSも同様)。
  • ボーダージャッジ系と違ってS・SS・SSSを所持しているキャラが別々。1人のキャラで揃わないのはある意味で面倒かもしれない。
  • 筐体内の入手方法(2021/8/5時点):
    • PARADISE ep.IIマップ2(PARADISE時点で累計330マス)とマップ5(PARADISE時点で累計1375マス)クリア
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境最大
開始時期ガチャ
PARADISE×
(2021/8/5~)
無し+7
あり
PARADISE以前
(~2021/8/4)
+15


効果
理論値:117000(6本+15000/24k)[+7]
推定理論値:121800(6本+19800/24k)[+15]
ランクS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (160%)

達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -500
GRADE上昇率
共通(※ランクS以上が)
達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -500
初期値ランクS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (160%)
+1〃 (165%)
+2〃 (170%)
+3〃 (175%)
+4〃 (180%)
+5〃 (185%)
+6〃 (190%)
+7〃 (195%)
▼以降はCARD MAKERで入手するキャラが必要
(2021/8/5以降では未登場)
+8〃 (196%)
+9〃 (197%)
+10〃 (198%)
+11〃 (199%)
+12〃 (200%?)
+13〃 (201%?)
+14〃 (202%?)
+15〃 (203%?)

所有キャラティータ / ミァン・テルスウラス / ミァン・クレスターニ / ウェスタ

ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 一章:巫女とアテリマ教「広大で豊かな大地であるルスラは、神が賜うたもの。私達は、神への感謝を決して忘れてはなりません」


 神の作り出した『箱庭』の世界。
 さらに神は、この世界に人間と、自然の力を持って世界に彩をもたらす精霊を産み落とした。
 精霊からの恩恵を受け、種と文化を進化させた人間。
 そして、人間と交わるうちに自我を持つようになった精霊。
 いつしか人間は、命を捧げることでその身体に精霊を宿すようになり、自然の代弁者たる『巫女<シビュラ>』を生み出すことを覚える。
 火、水、風、そして土の精霊を宿す4人の巫女は、世界の各地に分かれ、それぞれの土地を繁栄させていく。

 ルスラの地を守護する土の巫女、ミァン・テルスウラス。
 彼女は土の巫女ともうひとつの顔があった。それは“険しい自然の中を生き抜いた人々の前に現れ肥沃な大地を与えた”とされる、神ネフェシェを信仰する『アテリマ教』の指導者というものだった。

 土の精霊の力は、豊かな大地と安らぎを与える癒しの力。
 代々聡明な頭脳を持つ歴代の土の巫女と同じく、ミァンもまた教徒に癒しを与え、ルスラの発展と共にアテリマ教を導いていくのであった。


EPISODE2 二章:水の巫女は警告する「アギディスがルスラを狙っているだなんて……どうして他国を侵略するような野蛮なことを……!」


 アテリマ教国を象徴する、ルスラ最大の聖堂を有する『城塞都市アンシエタ』。
 アンシエタからほど近い、丘の上にある屋敷にミァンは居を構えていた。
 精霊をその身に宿す以前から、熱心なアテリマ信徒の貴族に生まれたミァンは、バルコニーから大聖堂を望むこの屋敷をいたく気に入っていた。

 「ミァン様。ティオキアより水の巫女、ジュナ様がお見えです」
 「もうそんな時間なのですね。分かりました、お通ししてください」

 侍女から来客の知らせを受け、ミァンの表情には喜びの色が浮かぶ。
 ルスラの端に位置する水の都ティオキアを守護するジュナ・サラキアは、ミァンと同じく精霊の力は人々のために使うべきもの、という考え方の心優しい巫女であった。
 そのためミァンとジュナは親交が厚く、同盟都市として歩調を合わせている。
 固い信頼関係で結ばれている二人だが、互いに多忙であるため接見回数はどうしても少ない。
 久しぶりにジュナに会えると、ミァンはこの日を楽しみにしていた。

 「ジュナ! 元気そうで何よりだわ」
 「そちらこそ。変わりないようで安心しました」
 「私たち巫女は歳を取らないから、変わらないのは当たり前だけどね」
 「うふふ。それもそうですね」

 貴族の生まれとはいっても、用意されているのは紅茶と小麦粉で作った簡単な菓子のみ。
 清貧を良しとするルスラの民にはこれで十分なのだ。
 ティーセットを囲みながら、二人の談笑は弾む。
 そのうち、話題が一区切りついたところで、「実は……」とジュナが重々しく口を開いた。
 その顔には、どことなく影が落ちている。

 「確実な情報ではなく、あくまで噂として聞いて欲しいのですが……北の国アギディスが火の巫女による扇動の元、ルスラへの侵略を企てているそうなのです」
 「アギディスが……かの国は各地でも侵略を繰り返しているけれど、ルスラを狙ってるなんて……」
 「それに、火の巫女とは先代を最後に長らく交流がありません。当代の巫女がどういう人物かも分からない以上、警戒するに越したことはありません」
 「そうね。こちらでも対策してみるわ」

 火の巫女を有する国アギディスは、資源の少ない乾ききった土地で、厳しい暮らしを強いられ続けている国だ。
 精霊の力を元に高い製鉄技術を資本に繁栄したが、いかんせん根本となる資源不足は解消できず、度々隣国へ侵略と略奪を行っている。

 ジュナからの知らせに何か嫌な胸騒ぎを感じたミァンは、早速アテリマ僧兵を密偵としてアギディスに送り込むのだった。


EPISODE3 三章:指揮官として「私に指揮官なんて、本当に務まるのかしら……でも私達は前に進むしかない。ルスラを守るために!」


 ミァンが偵察に向かわせた密偵がルスラへと帰ってきた。
 首から下を切り落とされ、頭だけの死体となって。
 その顔は恐怖で歪んだまま硬直し、瞳が入っているはずの眼窩には花が埋められている。

 「くっ……なんて……醜悪な行いを……!!」

 差出人が明記されていない包みに入れられた『それ』を見たミァンは、惨たらしい仕打ちに怒りに震えると共に、アギディスが宣告もなく問答無用でルスラへ侵攻を始めたことを知る。
 即座に大聖堂にて開かれた対策会議にて、アテリマ僧兵や教徒たちによる義勇軍が結成され、ミァンは指揮官として任命される。
 幼き頃よりあらゆる学問に精通し、兵学においても深い知識を有していたミァン。
 だが、ルスラ国内各地で繰り広げられる戦闘を指揮し奮闘するも、凄まじいアギディス軍の猛攻を前に手も足も出ず、敗戦を重ねることとなってしまう。

 指揮官としての責任を感じて塞ぎ込んでしまったミァンの頭を、エーディンという名の青年が優しく撫でる。
 彼は、ミァンが精霊と契約する以前から彼女を支えていた青年であった。
 幼少より共にいることが当たり前に育ってきた二人であったが、ミァンが巫女となる決意をしたことを機に、同じ時間を歩めなくなっても生涯を捧げると誓っていた。
 ミァンにとっては友人であり、親代わりであり、伴侶と呼べる存在だ。

 「なぜ……なぜこんなことに……? 私の作戦は決して間違っていなかったはずなのに……」
 「ミァン様……あまり落ち込みすぎるのも体に毒。貴女の作戦は悪くなかった」
 「ならどうしてっ!? たくさんの人が死んだわ! それも……あんな尊厳の欠片もない酷い殺され方で!」

 敗北したルスラ各地を蹂躙するアギディス軍の振る舞いは、あまりに目に余るものだった。
 家屋や施設を過剰なまでに破壊し、あらゆる金品や食料を略奪する。
 女子供は慰み者とされ、残された男は兵士の娯楽としていたずらに殺されていった。

 「みんな、事切れる前に私を呼ぶの。それなのに、私は何もしてあげられなかった……」
 「ミァン様……」

 怯えるように震えるミァンをエーディンは強く抱きしめた。
「大丈夫です」と繰り返し言い聞かせながら、子供をあやすように慰める。
 次第に落ち着きを取り戻したミァンは立ち上がると、拳を握りしめた。

 「そうね。ルスラにはまだまだ多くの民がいる。彼らを守るためにも、先に進まないと」
 「はい。まずは敗戦地から撤退した教徒たちをどうするかですが……」
 「一刻も早くアンシエタへと向かわせるわ。守りの固いところで傷を癒してもらいましょう」
 「ふふっ……やっとミァン様らしくなりましたね」
 「エーディンのおかげね。私が迷ったら……また慰めてくれる?」
 「もちろんです」

 誰もいない小さなアテリマ教会で、口づけを交わす二人。
 この時の二人はまだ、アギディス軍を追い返し平和なルスラを再び取り戻せると、そう信じて疑っていなかった。


EPISODE4 四章:戦場を覆う邪悪な炎「火の巫女ティータの強大な炎……彼女がいる限り、私達は勝てないのかもしれない……」


 「5名ほどの少人数で編成した部隊で行動してください。アギディス軍は谷から登ってきます。弓射と補給を常に入れ替えながら迎撃するのです。ここは我々ルスラの地。地の利を知り尽くした我らなら必ず勝てるはずです!!」
 「おおー!! 神ネフェシェと聖女ミァン様の御心のままに!!」

 信徒達の雄叫びがこだまする中、ミァンはもう一度作戦を振り返っていた。
 峡谷を渡す大きな橋。アンシエタに侵攻するには必ずここを通るしかない。
 ミァンはこの橋の一部をあえて崩し、通行ができないようにしていた。
 必然的に、アギディス軍は自力で河を渡り、谷を登らなくてはならない。
 相手がひとかたまりになり、進軍が停滞しているところを狙って一網打尽にしようという作戦であった。

 そして、決行の時がやってくる。
 予定通り足場の悪い谷から登ってくるアギディス軍を、高所から待ち構えていたアテリマ教徒たちからの弓射攻撃が猛威を振るう。
 阿鼻叫喚のアギディス軍からは、完全撤退を決める部隊も続々と現れ、ミァンのいる谷から少し離れた司令所は作戦成功の機運が高まり色めきだっていた。

 「やはり地の利を活かしたことが功を奏したようですね。この勢いなら……このまま押し切れるかもしれない……!」

 単眼鏡で戦地を見ていたミァンは、思わず笑顔を見せる。
 だが、しばらくすると何やら不穏な空気が漂い始めたことを感じ取った。

 「教徒たちの様子が……何かおかしい」

 弓を構えたまま動きを止めていた教徒たちは、突然谷底から噴き出した炎の柱に巻き込まれ、一瞬で灰となって消えた。
 前衛が崩れたのを見逃さないアギディス軍は一気に反転し、あっという間に崖を登りきってしまった。
 地上を制圧された教徒たちの連携はバラバラになり、一方的に惨殺されている。

 「あの炎は……まさか火の巫女!?」
 「ミァン様、作戦は失敗です! すぐにでも奴らがここに到着します! 撤退なさってください!」
 「で、でも……まだ峡谷では皆が……! それに、相手が巫女なら私の力が……!」
 「あなた様まで失う訳にはいかないのです! どうかここはお引きくださいませ!」
 「くっ……分かりました……」

 神官に促され、司令所を飛び出すミァン。

 ――どんなにヒトが抵抗しようと、全てを無に還してしまう……。私が持つ癒しの力に比べるとはるかに強大でまるで悪魔の様な破壊の力。かつての炎の巫女たち力は、あれほどのものではなかったはず……。
 あの凶悪な炎の力に……対抗することなんてできるの……?

 一度は好機を掴んだ戦いも、火の巫女の圧倒的な力により一瞬で戦況を覆されてしまった。
 それを目の当たりにしたミァンは、勝ち目など無いのかもしれないという不安に襲われるも、慌ててかぶりを振って霧散させる。

 ――私が未来を信じなくてどうするの。
 ルスラの民を導く巫女として、しっかりしなくちゃ。
 これ以上、犠牲を増やさないためにも……。

 ミァンは馬を駆り、峡谷を後にする。
 その耳には、遠く聞こえる教徒たちの悲鳴がこびりついていた。


EPISODE5 五章:聖都での休息「エーディン、あなたがいるから私は頑張れるの。話の続きは、今度ゆっくり聞かせてね」


 アギディス軍から追われるように戦闘を繰り返していたが、火の巫女の強大な力を前に抵抗することさえできず、各地の村や街は次々と陥落してしまっていた。
 後退するミァンが辿り着いたのは『聖都アレサンディア』。
 遥か昔、今では考えられないが、生まれて幾許も無いアテリマ教が『異教』と呼ばれていた時代。
 ここアレサンディアは、アテリマ教が生まれた地だと言い伝えられている。
 異教と呼ばれ迫害されるのを恐れ、人目につかないような森の奥地に作られた教会と街は、アンシエタほどではないが守りも固い。

 ミァンは、連日神経を張り詰めて作戦指揮を執っていたことに加え、不確定ではあるが友人である水の巫女ジュナが寝返ったという情報を耳にして頭を悩ませていた。
 体力も気力も限界が近いことを確信したミァンは、比較的安心できるこの地で短いながらも休息を取ることにした。

 「おお……聖女様の奇跡だ……! 痛みが引いていく……!」
 「あくまでも治癒能力を高めているだけです。無理をすると傷が開くので、気をつけてくださいね」
 「ありがとうございます……ミァン様に神のご加護があらんことを……」
 「あなたにも、神のご加護があらんことを」

 癒しを司る土の精霊の力を使い、アギディス軍の虐殺から逃げおおせたわずかな教徒たちの怪我を癒すミァン。
 急ごしらえの野外病院となっていた教会で、最後の患者の治療を終えたミァンのもとへ、今度は地元の子供たちが話しかける。

 「あのね、おねえさんが聖女ミァン様ってほんと?」
 「そう、私が土の巫女であるミァンよ」
 「わぁ、やっぱり本物だぁ! ねえねえ、ミァン様! ご本を読んで欲しいの!」
 「いいわよ。じゃあみんな、ここにお行儀よく座れるかな?」
 「はーい!」
 「よろしいっ。えーっと……昔々あるところに……」

 絵本を読み聞かせながら、ミァンは自身が安堵するのを感じていた。
 アテリマ教の聖女だと崇め奉られ、戦闘指揮を執っていながら、戦果をあげるどころか増え続ける犠牲。
 磨り減った心に、子供たちがもたらしてくれる“静かな日常”が、何よりもありがたかった。

 「ミァン様、ありがとう! また遊んでね!」
 「ええ、帰り道に気をつけてね」
 「はーい! ばいばーい!」

 陽も落ち始め人気もなくなった教会で、夕焼けの中に去っていく子供たちの背中へ手を振るミァン。
 しかし、子供たちのおかげで癒されはしたものの、所詮は一種の現実逃避に過ぎない。
 一瞬で現実に引き戻され、強烈な孤独感と無力感に陥ってしまう。
 そうやって落ち込むミァンのもとへ、エーディンがやってきた。

 「ここにいたのですか、ミァン様。どこか具合でも……」
 「いいえ、なんでもないわ……」
 「でも、震えていらっしゃいます」
 「寒くもないし、具合が悪いわけでもない。ただ、怖いのよ……」
 「ミァン様……」
 「みんなの前では強がって見せてるけれど、私だって本当はとても怖いわ! 私の指揮で……ルスラの民が非道なアギディスの軍勢にたくさん殺されてるのよ! もう……自分一人じゃ抱えきれない……」

 唯一心許せる相手にミァンは本心を吐露する。
 初めて思いを口にしたことで、堰を切ったように感情が溢れ出してしまう。
 エーディンはそんなミァンをいつものように抱きしめ、どこか強張った様子で口を開く。

 「私にできることは、巫女様を守ること……それと、こんなことくらいしか……」

 そう言って、抱擁を解く。
 すると、いつの間にかミァンの首には青く光る小さな石のついたペンダントが下げられていた。
 石は柔らかく、優しい光を纏っている。

 「これは……?」
 「私の生命と輝きを同調させた石です。気休めにもなりませんが、私の分身だと思っていただけたら。まあ、おもちゃみたいなものですけれどね。ははは」

 キザなことをしてしまったと、照れ笑いするエーディン。
 だが、その優しい気持ちは、ミァンへと真っ直ぐに刺さっていた。

 「そんなことない! 嬉しいわ、エーディン!」
 「喜んでもらえたなら光栄です」
 「そう……これがエーディンの命の光なのですね……とても綺麗……」
 「いつか、ミァン様の物も頂けますか」
 「もちろん! ふふっ、お揃いね」
 「そ、それと……いえ、なんでもありません」
 「うん……?」

 何か言いかけてやめたエーディンが気になるが、付き合いの長い間柄だからこそあまり深い詮索はしたくない。
 ミァンはまた今度話せばいいと思い、エーディンと共に教会を後にした。

 ――また今度。
 陽が昇ったらまた落ちるように。
 “また今度”が来ることが、当たり前だと錯覚しながら。


EPISODE6 六章:散る命の光「アギディスの軍勢にも、火の巫女にだって……エーディンは負けない。必ず帰ってくるはず」


 火の巫女ティータ率いるアギディスの軍勢は、予想を遥かに超えるものだった。
 アレサンディア外周には少なくない僧兵が防衛にあたっていたにも関わらず、その役目を果たせたものはいない。
 火の巫女ティータによる赤黒い炎の前では、人間の力など塵ほどの価値しかなく、一人残らず焼き尽くされていた。

 「アハハッ! アハハハハッッ!!」

 金属音のような不快な笑い声をあげながら、悪意の炎をアレサンディア中にばら撒くティータ。
 家屋の燃える黒煙と共に、肉の焼ける匂いが鼻を突く。

 これまでも狂人が如く殺戮を繰り返してきたティータであったが、街をひとつ丸ごと潰さん勢いで火にかけるのは、理由があった。

 「出て来なさいミァンッ!! 早く出てこないと、全員焼け死ぬわよォッ!? アハハハハッッ!!!」

 ティータの狙いはミァンであった。
 ルスラ侵略において一番の脅威となるのは巫女の力であり、命を狙うのは当然だ。
 しかし、それにしてもティータの様子は異常だ。
 ミァンの名前を何度も叫び、笑ったり怒ったりと情緒不安定。
 別れた恋人を殺しに来たような、どこか偏執的な歪みに溢れている。

 望まれているのが自身だと知ったミァンは、少しの間思考する。
 自負するしないに関わらず、自身がアテリマ教徒にとって希望であること。
 だが、ティータの目的はミァンであり、自分さえ出て行けば皆が助かるかもしれない可能性があること。
 天秤にかけるまでもなく、ミァンは教会の古い退避壕から抜け出し、燃え盛るアレサンディアの街に姿を現した。

 「この感覚――あぁぁぁあぁ見つけたぁぁぁッ!」

 巫女に宿る精霊を感覚で嗅ぎつけたティータは、巨大な剣ディアボロスを構えてミァンを狙って駆ける。
 なんとかその刃を受け止めるべく、大地の理を変容させ、盾となる壁を作り出そうとしたその時。

 ミァンの眼前でディアボロスを受け止める男がいた。
 ディアボロスに比べ、遥かに細く小さな剣で受けながら、エーディンは叫ぶ。

 「ミァン様! 今のうちにお逃げください!」
 「駄目よ、エーディン! 貴方では万に一つも勝ち目は……っ!」
 「行けッ! 行くんだッ! 貴女はここで死んではならない!」

 ――なんてことを……!
 巫女の力、特に炎の巫女に人間が立ち向かうなんて無謀すぎるわ!

 急いで加勢しようとミァンが身構えた瞬間、数人のアテリマ教徒たちに囲まれてしまう。
 ミァンを戦地から逃がすため、身体の自由を奪って連行しようとしている。

 「ミァン様! 彼の勇気を無駄にしてはなりません!!」
 「イヤッ! エーディィィンッ!」

 必死の抵抗と叫びも虚しく、エーディンの姿はどんどん遠ざかる。
 それが見えなくなる最後の時、ミァンの目には彼が笑ったように見えた。

 半ば無理やり馬に乗せられたミァンは、アレサンディアから離れていく。
 泣き疲れた子供のようにグッタリとしながら、その手にはエーディンに貰ったペンダントが握られている。

 ――きっと大丈夫よ。
 上手に逃げて、隠れて、火の巫女を巻いたら照れ臭そうに帰ってくるに違いないわ。
 そうに決まってる。

 ミァンは両手で包み込むようにして中を覗くと、ペンダントは青白く光っているのが見えた。

 ――ほら、彼は生きてる。
 この光はエーディンの命の光。
 輝きがある限りはきっと……

 そうやって、まるで祈るように何度も何度もミァンは自分に言い聞かせる。
 だが、その願いは叶わない。

 手中の光は突然輝きを失ったと思うと、音もなく砕け散った。


EPISODE7 七章:祈りと呪い「ついにアンシエタまで追い込まれてしまった。きっとここが、最後の戦場になる」


 エーディンがその身を挺したこともあり、アレサンディアより脱出したミァンや一部のアテリマ教徒は、城塞都市アンシエタへと帰還することに成功した。
 帰還と言うと聞こえはいいが、アテリマ教大聖堂のあるアンシエタは、いわばルスラの心臓部であり、後が無いほど“追い込まれてしまった”と認識したほうが正しい。
 ルスラという国の存在を左右するその瞬間は、もう眼前に迫っている。

 大聖堂の中の一室を充てがわれ、ベッドに横たわるミァン。
 意外にも、ミァンはエーディンの死を受け入れていた。
 ミァンとて希望的観測でティータの力量を見誤りはしない。
 あの場にエーディンを残した時点で、決して生きては帰れないだろうということは分かっていたのだ。

 ただし、受け入れることと無かったことにするのは別の話だ。
 彼を失ったことで嘆き、悲しみ、心を深い深い沼の底へと落としてしまったミァンは、公務を執行する気力も失い、こうして抜け殻のようになっていた。

 ルスラ最大都市であるアンシエタは、未だ戦闘を行えるだけの僧兵や義勇軍を有しているが、市民のほとんどは戦う術を持たない一般人だ。
 戦況が芳しくないことは誰の目にも明らかで、不安や恐怖はあっという間に都市中に伝播していく。
 救いを求めるため、彼らが取った行動。
 それは、戦うべく武器を取ることでもなく、ルスラを捨てて逃げ出すことでもなく。
 ただ――祈ることだった。

 大聖堂に一斉に集まった市民たちは、口々に祈りの言葉を唱え続ける。
 アテリマ教が崇める豊穣神ネフェシェへ、そして聖女ミァンへと。

 命を、家族を、信仰を。
 救いたまえ、救いたまえ、救いたまえ。

 祈りの言葉はだんだんと大きく、やがて叫びのようになってアンシエタ内に響き渡る。
 敬虔なアテリマ教徒であるルスラの民にとって、それはごく自然な行動であり、正義である。
 だが、その祈りの対象であるミァンは、自身を見上げる民衆を大聖堂の上階から一瞥すると、カーテンを引いて再びベッドに潜り込んでしまった。

 今のミァンには、この民衆の叫びは呪詛にしか聞こえない。

 ――アギディス軍に殺された民も、エーディンも。
 誰も救われなかった。
 祈りは、何も救ってくれない。

 自身も敬虔なアテリマ教徒であったミァンは、信仰心と無力な現実の間で揺れ動いていた。

 「ミァン様ー! 今一度、その御姿を!」

 大聖堂前の民衆の叫びは、さらに熱を帯びて拡大していく。
 このままでは収拾がつかなくなると判断したミァンは、重たい体を起こし、バルコニーから姿を現した。
 口々に聖女の名前を呼ぶ声を諌めると、一度大きく息を吸ってからミァンは口を開いた。

 「アンシエタの民よ、聞きなさい! 我々アテリマの力を持ってアギディス軍と火の巫女ティータを打ち倒し、必ずや講和を結ぶことを約束しよう! 神ネフェシェの名の下に!!」

 もはや狂乱状態と呼べるほどの大歓声を背に、自室に戻ったミァンは力なく膝をつく。
 民衆に宣言した約束は到底叶うものではないことを、他ならぬミァン自身がよく分かっているからだ。
 ミァンはこれまで築いてきた自己の崩壊に心が付いていけず、激しい眩暈に苦しむのだった。

 ――そして数日後。
 土煙を巻き上げながら駆けるアギディス軍は、ついにアンシエタの街へと到達する。

 「ミァァァン……みーつけた……」

 獲物を見つけ、悦楽にひたった表情で舌なめずりするティータ。
 その目は、まっすぐに大聖堂を捉えていた。


EPISODE8 八章:無秩序な戦場「もう駄目……私の声は、誰の耳にも届かない……。このままじゃ、ルスラは負けてしまう……」


 戦力差は明らかだったにも関わらず、アギディス軍を相手にしたアテリマ教徒たちは予想外にも善戦していた。
 残されたルスラ最後の地だからなのか、それとも信仰心なのか。
 死に物狂いの抵抗はアギディス軍を大いに苦しめる。
 だが、それは教徒たちの動物的本能によるものであって、『作戦』ではなかった。

 ミァンの指揮に従うものはどこにもいない。
 非戦闘員は泣き喚きながら逃げ回り、アンシエタの街中は敵味方入り混じって阿鼻叫喚になっている。
 まさに統率や規律など欠片もない地獄絵図を眺めながら、ミァンは茫然とする。
 事実上、ミァンの役目は無くなった。

 ――巫女として、アテリマの聖女として、間違った選択はしていないはずなのに……。
 どうして何一つ上手くいかないの……っ!?

 必死で抵抗していた教徒たちもいつの間にか圧されている。
 いずれアンシエタも堕ちるだろう。

 「もうお終いだ! ルスラはここまでだ!」
 「おかあさーん! おかあさんどこー!?」
 「ミァン様ぁー! 我々は一体どうしたらいいのですかぁ!!」

 大聖堂に避難してきた民衆が、ミァンにすがりつく。
 それを支える力もなく、ミァンはその場にへたり込んでしまった。
 行動を起こさなくてはならないのは分かっているが、何をしたらいいのか思いつかない。
 激しい脱力感に襲われるミァンに、補佐をしていた教徒が耳打ちをしてきた。

 「ミァン様、戦闘音が少しずつこちらへ近づいております。このままではここも危ない。退避されたほうがよろしいかと」
 「そう、です……ね。戦況を見るに、仕方がないのかもしれません……」
 「大所帯での行動は目立ちます。まずはミァン様と我々が。後に民を退避させましょう」
 「なっ……!? 子供たちを残して先に自分が逃げるなどできません!」
 「ですが……」

 補佐との押し問答が続く。
 民を残して誰よりも早く逃げおおせるなど、何が聖女か、何が土の巫女か。
 この戦争において一つの戦果も挙げられていないミァンだが、人の上に立つものとしての矜持は通したい。
 むしろ、その矜持しかミァンには残されていない。

 何度目かの問答が交わされた後、ついに折れた補佐が打開策を出す。

 「分かりました。では、女性と子供を先に行かせたのち、ミァンさ――」

 その言葉は轟音にかき消される。
 アギディス軍の大砲部隊が放った砲弾が、大聖堂に命中していた。


EPISODE9 九章:アテリマ教の聖女「他に道はなかった……私は間違っていない……。それなのに、どんどん人が死んでいく……」


 「あ……ああ……そんな……」

 大聖堂に直撃した砲弾によって天井や壁などの崩落が発生し、避難していた多くの民が下敷きになっていた。
 補佐をしていた教徒を始め、ルスラの未来を嘆いていた男や、ミァンにすがりついていた女、そして親とはぐれた子供たちも。
 着弾点の近くにいた者の肉片は飛び散り、瓦礫の下にはうめき声と共に血液が広がっていく。
 生き残った民が必死に救助を試みているが、助かることはないだろう。

 ――私が……避難を躊躇ったからだ……。
 変な意地を張らずに迅速に行動していれば、きっとこんな風にはならなかった……。
 いつもいつもいつも。私の周りで人が死んでいく。
 私が判断して、私が行動するその先で……。

 ミァンの行動理念に悪意はまったくない。
 むしろ、聖女と呼ばれるにふさわしいほどの正義の持ち主である。
 だが“運命”が正義に必ず味方するかというと、残念ながらそうではない。
 幸も不幸も平等に万人へと配られる。
 ミァンは、不幸のカードをたまたま引き続けただけだ。

 とはいえ、精霊の力を操る巫女とて、精神力は普通の少女と同じである。
 これ以上この現実を受け止めるほどの度量を、残念ながらミァンは持ち合わせてはいない。

 「……こんなの耐えられないッ!! 私がルスラをどう導こうとしても、みんな死んでいくんだわ!! そういう運命なのよッ!!」
 「せ、聖女様にそんなことを言われたら……」
 「もう嫌……こんなところに居たくない!!」
 「ど、どちらへ向かわれるのです!?」

 思い通りにいかない葛藤、悲しみ、自責の念に潰されたミァンは、聖女としての自分を放棄した。
 どこに行くのかなど決めていない。とにかくここにいたくない。
 聖女とは思えぬ気弱な胸中を吐き出され、困惑する民を残し、ミァンは駆け出すのだった。

 だがその時、砲弾の命中を合図に突撃していたアギディス軍が、大聖堂に侵攻する。

 「捕虜などいらぬ! 皆殺しにしろッ!!」

 その言葉通り、避難していた民は虐殺されていく。
 女子供や老人、誰一人分け隔てなく。
 圧倒的な力の違いを理解しているからなのか、民たちは悲鳴もあげない。
 静かに黙ったまま、なすがままに殺されていく。

 ミァンはもはや自分が精霊の力を持った土の巫女ということも忘れ、放心状態でその惨状を眺めている。
 そこへ、大聖堂とは別の場所にいたアテリマ教徒が音もなく現れた。

 「ミァン様、裏に隠し通路がございます。奴らに見つかる前に、どうぞこちらへ」
 「……」

 教徒曰く、隠し通路を使ってアンシエタの外れに抜けた場所には隠れ家があり、決して多くはないが民も避難しているという。
 だが、ミァンは何も答えない。
 しびれを切らした教徒は、半ば引きずるようにミァンを連れて隠し通路へと向かう。

 ルスラを象徴する、城塞都市アンシエタ。
 その大都市が完全に炎に包まれたのは、それから間も無くのことであった。


EPISODE10 十章:信仰心「生まれてからこれまで、何万回も祈ったわ。だけど、神は何も救ってくれなかった」


 大聖堂から隠し通路を使ってアンシエタを脱出したミァンは、アテリマ教徒の隠れ家へと転がり込む。
 隠れ家とはいうが、小さな山に大きく横穴を掘っただけの原始的なもので、生きるための設備などない。
 その中には逃げおおせた民が20人ほど避難しており、思い思いの場所に腰掛けてうなだれている。
 教徒に連れられたミァンが中に入ると、その視線が一斉に集まる。
 民の虚ろな目からは、聖女への信仰心は感じられない。

 「聖女様……ご無事だったのですね。女子供や街を見捨てたなのなら、そりゃあ助かりもしましょう」

 アテリマ教徒とは思えない皮肉めいた言葉が飛ぶ。

 「ルスラがこんなことになったのも、どうやら聖女様のせいらしいじゃないですか……アギディスと何度も戦って、ただの一度も勝ったことがないなんて! こんな無能な“指揮官様”なんて聞いたことないね!」

 呆れるように笑う民は、唾を飛ばしながらミァンを非難する。
 その行いに、信仰の厚い教徒が怒りに立ち上がった。

 「貴様ぁ……」
 「へっ。何が聖女様だ。噂になってたんだぜ? 従者の一人と“デキてる”ってよ! 男を知ってる聖女なんて笑っちまうね!」
 「この……っ! 聖女様になんたる冒涜を……!」
 「いくらでも言ってやるよ! こいつはルスラを終わらせた大戦犯だってな!!」
 「……もう許せん。背教者は制裁する」

 教徒は問答無用で突然殴りつけた。
 そして、うめき声をあげて倒れる男に跨ると、近くに落ちていた岩を拾って顔面に叩きつける。
 何度も、何度も。
 他の避難民はぼんやりとそれを見ているだけで、一言も発さない。
 人間の顔面が潰れていく音だけが隠れ家に響いていた。

 そのうち、教徒が手を止めて立ち上がる。
 鼻骨と喉が潰れて気道が確保できないのか、ゴポッ、ゴポッと、およそ呼吸とは思えない音を発しながら痙攣している。
 呆気に取られていたミァンが慌てて駆け寄った時には、もう事切れていた。

 「ミァン様、大変申し訳ございません。有事でなかったら、生きるのが嫌になるほど拷問にかけてやったのですが」

 教徒はそう言うと、死体を蹴り飛ばした。
 男の血がわずかに跳ね、ミァンの頬に付着する。

 ――この人たちは狂ってる。
 国が無くなりそうなこんな時に、民同士で手を掛けるのが信仰だというの?
 アテリマ教はそんな教えを説いてなどいないはず。
 一体いつからこんなことに?
 私の知らないところで何かがおかしくなっていた?
 あれもこれも……もうどうでもいい。

 「……もういらない」
 「ミァン様……?」
 「もういらないって言ってるのよ。あなた達も、この国も」

 避難民たちは、何か信じられないものを目の当たりにしたような顔をして、静まり返ったままだ。
 ミァンはさらに続ける。

 「戦争なんてしたことないのよ。私に分かるはずがないじゃないッ! そのくせ勝手なことばかり言って、二言目には飽きもせずミァン様ミァン様ミァン様ミァン様。少しは自分で考えてみたらどう!?」
 「せ、聖女ともあろう人がなんてことを……」
 「私は土の巫女よ! 聖女になんてなった覚えはない!! あなた達が勝手にそう呼んでいるだけ……数えきれないほどたくさんの人が死んでるの! 聖女だとか信仰だとか、そんなものどうでもいいでしょう!!」

 制裁を行なった教徒は、信じていた聖女に裏切られたと、抜け殻のようになっている。
 そんなことは気にも留めず、ミァンは子供のように喚き続ける。
 ルスラの民へ、自身の生い立ちへ、不平不満は止まらない。
 ミァンの言葉は、普通の少女であれば至極真っ当なものだった。
 ただ、そう捉えるものは誰もいない。
 すでに不平不満で片付けられないほど、犠牲が大きすぎた。

 主張を聞いていた避難民の一人が不快そうに顔を歪めたと思うと、ゆっくりミァンへと近づいていく。
 そして、その顔を拳で殴り倒すと、首を絞めはじめた。
 何が起こったのか訳が分からず、目を白黒させているミァンに、涙混じりに怒りの言葉を吐く。

 「このクソガキ……ッ! お前の仕業でみんなを死なせておいて……今さら“やりたくなかった”だと? ふざけンじゃねぇッ!!」
 「あ……あ……」
 「巫女だ、聖女だっておだてられて、いい気になってなかったって言えんのかよッ!!」
 「ぐ、あぁ……」
 「自分が一番不幸だ、って顔しやがって……! こっちは家族全員殺されてンだッ!!」

 そう泣き叫びながら首にかけた指に力を込めると、ミァンの顔はさらに鬱血していく。
 本気で殺すつもりだと誰もが確信するが、止めるものはいない。

 ――私を『戦犯』と呼んでいた人……彼の言うことは正しいのかもしれない。
 罪を犯したものは必ず裁かれなくてはならない。
 それをルスラの民が下すのなら、私は甘んじて受け入れよう……。

 これが自分の運命なのだと、一度は覚悟を決めた。
 だが、薄れゆく意識の中で、ミァンは願う。
 願ってしまう。“生きたい”と――。

 そして、ミァンは“目を覚ます”。
 自分は死んだはずでは――不思議に思い、辺りを見回すと、何か植物のような物の太い蔓が隠れ家を埋めつくさんとする勢いで伸びていた。
 ミァンは、未だ朦朧とする意識の中、目を凝らす。
 そこには、締め付けられ窒息した者、身体ごと千切れた者、先ほどまで一緒にいた避難民達の死体が絡まっている。

 「私は……とんでもないことを……」

 その光景が何を意味しているのか、すぐに理解した。
 生きたいと願ってしまったからこその、無意識の行いか。
 ミァンは土の精霊の力を使い、ルスラの民に手を掛けてしまったのだ。


EPISODE11 十一章:罰を下す者「たとえ奇跡が起きてルスラを取り戻しても私はもう……私には戻れないから」


 ミァンは自分が殺めた民共の死体を隠れ家の隅に綺麗に並べ、寝かせていく。
 生者を扱うように、丁寧に、丁寧に。
 最後の一人を寝かせると、それらを前にしてその場に座り込んだ。

 ――土の精霊が司るのは、癒しの力。
 それなのに……私は癒すどころか、全てを壊してしまった。
 街も、国も、民も。
 私の歩く道には、必ず誰かの苦痛がつきまとう。
 不幸を撒き散らすこの罪人に、誰も罰を下せないのなら……自ら下そう。

 そう遠くない場所から、迫り来るアギディス軍勢の靴の音が聞こえる。
 いつかはこの隠れ家を見つけだすだろう。そして、囚えるか、辱めるか。
 だが、ミァンはその未来を選ばない。

 上着の中から懐刀を取り出したミァンは、鞘を抜いて逆手に持つ。
 そのまま一切の躊躇いを見せず、自身の胸に突き立てた。
 前のめりに倒れ、絶命するミァン。
 その姿は、まるで人々に深く赦しを請うようなものだった。
 力無く折れた顔が横を向き、空虚な瞳が地平の先を捉えていた。
 だが、暗く閉ざされたミァンの視界にはもう、国も、人も、何もかも映ることはない。

 ――この瞬間、ルスラという国は瓦解した。
 わずかに生き残った国民はアギディスの奴隷となり、尊厳も、信じる神も全て奪われるだろう。
 ミァン・テルスウラスという少女の名前が、国のために尽力した偉人として語られることも、ありはしないのだ。

 ――数刻後。
 土の精霊の餞別なのだろうか、不思議なことに死したミァンの身体は草花で覆い包まれている。
 そこへ、陶器のように白い肌をした少女が現れた。
 薄っすらと光を纏い、現実味を感じさせないその姿は、泣いているようで笑っているような、不思議な表情を浮かべている。
 その少女は、おもむろに小さな手を伸ばすと、ミァンを包む草花の一部を払う。
 中から現れた顔は、戦争がもたらした苦痛から解放されたように、穏やかな表情で目を閉じている。
 少女はミァンの頬を撫でると、誰に聞かせるでもなく口を開いた。

 「人の愚かさに気づかない者ほど……理想を信じてしまう。その先に待つのは、悲劇でしかないことも知らずに……」

 すると、ミァンの身体と土の精霊が鈍い光を放ち始める。
 そして、蝋燭のようにその光を何度か揺らめかせたと思うと、その身体ごとゆっくりと消えていった。

 少女の手には一輪の花。
 手を離すと、その花は風に乗って遠くの空へと飛んで行った。

 「いたぞ! 逃げ出したアテリマ教徒共だ!」
 「そんな死体はどうでもいい! 土の巫女はどこだ? 探せ! 探せーッ!!」

 アギディス兵が隠れ家へと雪崩れ込む。
 不思議な少女の姿は、もうどこにもなかった。


チュウニズム大戦

レーベル難易度スコア
スキル名/効果/備考
★シビュADV0 / 250 / 500
レーベルターボ(■◆♣★チェイン)
自分と次のプレイヤーは、出すカードが■、◆、
♣、★でCOMBOした時、CHAINとなる。
備考:■メタヴ/◆ジェネ/♣イロド/★シビュ



■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


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  • 定期 -- ミァンちゃんは嫁? 2023-05-14 (日) 00:01:10