システィーナ・メーヴェ

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:32:36

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Illustrator:クレタ


名前システィーナ・メーヴェ
年齢17歳
身分名もなき集落の孤児

精霊に命を捧げ、精霊を体に宿した巫女<シビュラ>と呼ばれる存在の一人。
シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。
舞園 星斗「そこが一番ゾクゾクするし、ピュアなお話なんだよ?」

巫女<シビュラ>

とある集落に暮らす孤児の少女。
ある日、少女と出会い、運命の歯車が狂ってゆく・・・。

スキル

RANK獲得スキル
1ボーダーブースト・SS
5
10
15


ボーダーブースト・SS[NORMAL] 

  • ボーダージャッジ・SSの亜種。
    強制終了しない代わりにSS達成不可能になると上昇率が増加しなくなり、ATTACK以下でダメージを受けるようになる。
  • 初期値から6本を狙え、GRADEを上げれば7本も可能になる。
    • +8からS同様に成長が鈍化し、増加量が1%ずつになる。所有者を3人RANK10にするとちょうど鈍化が始まる+8まで上げられること、最大GRADE(+15)まで育成すると+7とそれなりに差が出るあたりもSと同様。
  • フィールドインフォの「ボーダー/SS」を使うと、上昇量消滅までのスコア猶予を確認しながらプレイできる(S・SSSも同様)。
  • ボーダージャッジ系と違ってS・SS・SSSを所持しているキャラが別々。1人のキャラで揃わないのはある意味で面倒かもしれない。
  • 筐体内の入手方法(2021/8/5時点):
    • PARADISE ep.IIマップ3(PARADISE時点で累計595マス)とマップ4(PARADISE時点で累計940マス)クリア
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境最大
開始時期ガチャ
PARADISE×
(2021/8/5~)
無し+7
あり+11
PARADISE以前
(~2021/8/4)
+15
効果
理論値:141000(7本+15000/26k)[+7]
推定理論値:145800(7本+19800/26k)[+15]
ランクSS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (200%)

達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -1000
GRADE上昇率
共通(※ランクSS以上が)
達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -1000
初期値ランクSS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (200%)
+1〃 (205%)
+2〃 (210%)
+3〃 (215%)
+4〃 (220%)
+5〃 (225%)
+6〃 (230%)
+7〃 (235%)
▼以降はCARD MAKERで入手するキャラが必要
(2021/8/5以降では未登場)
+8〃 (236%)
+9〃 (237%)
+10〃 (238%)
+11〃 (239%)
+12〃 (240%?)
+13〃 (241%?)
+14〃 (242%?)
+15〃 (243%?)

所有キャラシエロ・メーヴェ / ジュナ・サラキア / システィーナ・メーヴェ / ジュナ・フェリクス

ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 死の大地に生きる少女「いつかわたしは、外の世界に行くんだ。きっと何処かに、私の居場所がある」


 神の手によって生み出された精霊。
 それは災厄となって人々を脅かし続けてきたが、いつしか人の魂を精霊に捧げることで、人と精霊とを結びつけることに成功した。
 その結果、誕生したのが“巫女<シビュラ>”と呼ばれる存在である。
 精霊の力を行使できる巫女の力を得たことで、人類は新たな技術と莫大な富を享受するまでに至った。
 巫女という革新的な存在の誕生。
 それは、人々を豊かにし、より良い世界へと導いていくかに思われたが、その実際は欲に目が眩んだ権力者たちを、肥え太らせるだけに過ぎなかった。
 更なる富を得ようと躍起になった権力者たちは、巫女がもたらすものを貪欲に欲していく。
 その過程で、権力者たちは気付いた。
 巫女に相応しい器は、“従順で非力な少女であることが望ましい”と。
 権力者たちの欲望が渦巻く中、また一人、運命に翻弄される者が選定されようとしていた。

 ――砂漠化が進み、命が芽吹く事など決してない死の大地。

 「収穫無し……お腹空いた……」

 その大地の片隅に存在する集落で、システィーナはその日暮らしの生活を営んでいた。

 「でも、まだ大丈夫。なんとかなる」

 システィーナは懐から一枚の羊皮紙を取り出す。
 そこには、システィーナが暮らす世界とはかけ離れた景色が描かれていた。
 潤沢な水と、緑が一面に広がる美しい情景。
 外の世界を知らぬシスティーナにとって、それは正に夢のような場所であった。

 「へへ……外の世界に、行ってみたいな……」

 いつの日か、夢のような美しい世界へ辿り着く事。
 それだけが、彼女の心の支えであった。


EPISODE2 運命の出会い「アギディスの支援があるお陰で生きてられる。巫女様って、どんな人なんだろ……?」


 この日、集落の広場には無数の人だかりが出来ていた。
 そこに鎮座する荷馬車には、集落の者とは明らかに身なりの違う男たちが立っている。彼らは、大国アギディスよりやってきた支援部隊であった。

 「ありがたや……ありがたや……」
 「慈悲深きアギディスに栄光を……!」
 「貰った奴らはさっさと退け! ほら、邪魔だ!」

 今日はシスティーナが心待ちにする恵みの日。
 この恵みの日には、干し肉やパンなどの食糧が届けられる事になっている。
 資源の乏しい名も無き集落が、今日まで生き長らえてこられた最大の理由が、これだった。
 両親を早くに亡くしたシスティーナにとって、定期的に訪れるこの日は生命線と呼べるものであった。

 「えへへ、ありがとう、兵隊さん」
 「さっさと寝ぐらに戻れ、邪魔だ邪魔だ!」
 「……あっ……!」

 兵に押し出される形になったシスティーナは、姿勢を崩してその場に食料を落としてしまう。
 砂まみれになった食糧を必死にかき集め、大事そうに抱える少女を見て、兵たちは言葉を吐き捨てる。

 「ったく、みすぼらしい連中だぜ」
 「巫女様の支えがなきゃとっくに死に絶えてるような連中だからな。オラ、クソガキ! いつまでそうしてるんだ、さっさと散れ!」

 逃げるようにその場を後にしたシスティーナは、兵たちに群がる集落の人間たちを見つめながら、耳慣れぬ言葉を復唱する。

 「巫女様……って、なんだろ……?」

 その疑問に答えてくれる者はいない。
 だが、その言葉に不思議と興味が湧いた彼女は、歌うように何度も口ずさむのだった。

 それから数日後。
 いつものように砂漠地帯で食糧を探していたシスティーナは、遠くに不思議な塊を見つけた。

 「あっ! 大っきな獲物だ!」

 急ぎ足で駆け寄る。
 足下に転がるそれは、大きな麻のローブを纏った人間だったのだ。砂と血に塗れて顔は汚れているが、よくよく見てみれば、その顔立ちはまだあどけない少女の面影を残していた。

 「……っ、ぅぅ……」
 「まだ生きてる?」

 行き倒れの少女は、この大地で暮らしているとは到底思えない身なりをしていた。

 「もしかして、外の世界の人? 助けたら……外の話をたくさん聞けるかも!」

 彼女を介抱する事に決めたシスティーナは、引きずるようにして、自身の住処へと運んでいくのだった。

 ――死の大地で行き倒れていた少女。
 彼女との出会いが、思いもよらぬ形でシスティーナの運命の歯車を大きく狂わせていくのだった。


EPISODE3 彼女の秘め事「セリエの身に何が起きてるの? 誰よりも先に、わたしが見つけなくちゃ……」


 システィーナが介抱を始めてから直ぐに、少女は意識を取り戻した。

 「あ、れ……こ、こは……?」
 「あっ、起きた!」

 少女はゆっくりと周囲を見回す。
 そこは、干し草と枯れ木を寄せ集めて作られた小屋のような所だった。
 とても快適と呼べるような場所ではないが、陽射しや雨風を凌げるだけで十分役割は果たせていると言えるだろう。

 「貴女が……私を、助けてくれたの?」
 「うん! わたし、システィーナ! あなたは?」
 「私は、セリエ・メ……セリエよ。ただのセリエ」
 「よろしく、セリエ! 怪我はもう大丈夫?」

 セリエはどこか怯えた表情を見せながら、自身の腹部辺りに視線を落とす。
 そして、衣服や身に付けていた物に変化がないのを確認し、警戒するようにシスティーナを問いただした。

 「あ、貴女、私の身体を見たの?」
 「えっと、服は脱がしてないよ。顔に血がついてたから……ごめん……」
 「あ……、ならいいの、脅かせてしまったわね。悪かったわ」

 セリエが怒っていない事を見てとるやいなや、システィーナは表情を一変させて、距離を詰めてきた。

 「ねえセリエ、あなたって外の世界からやって来たんでしょ? よかったら、わたしに外の世界の事を教えて!」

 ころころと表情を変えるシスティーナに面食らうセリエだったが、ここまで介抱してくれた彼女の事を無碍にも出来ない。

 「貴女、私の事を……まぁいいわ。こんな私の知ってる事でよければ、好きなだけ聞かせてあげる」
 「本当!? やったー!」

 セリエは多くの事を語って聞かせた。
 話をする度に目の色を変えて食いつくシスティーナの姿に、セリエも次第に気をよくしたのか、自身が見聞きしてきた世界を事細かに話していく。
 特に強い反応を示したのは、水の都と呼ばれる美しい街についてだった。

 「貴女はその街に行ってみたいの?」
 「うん!」

 すると、システィーナは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、セリエの眼前に広げてみせる。

 「わたし、ここに描かれた場所に行ってみたい! それがわたしの夢なんだ!」

 満面の笑みに、自然と顔が綻ぶ。

 「ふふ、素敵な夢ね。その絵が水の都かどうかは分からないけれど、いつか叶うと良いわね」
 「じゃあさ、セリエも一緒に行こう?」

 なんの気なしに投げかけられた言葉。
 セリエは少しだけ迷うような素振りを見せた後、申し訳なさそうに口を開く。

 「良い提案だけど、それは出来ないの。私といると、システィーナまで不幸になってしまうから」
 「そっかぁ、残念。それじゃあ――」

 直ぐに別の話を始めたシスティーナに付き合う形となり、セリエは小屋の中で夜を迎えるのだった。

 セリエとの出会いから数日後。
 システィーナは二人分の食糧を求めていつものように歩き回っていると、集落が異様な雰囲気に包まれている事に気が付いた。
 広場の方に目を向ければ、アギディスの兵たちが口々に指示を飛ばしている。恵みの日でもないのに、数多くの兵が集まっている事が気になったシスティーナは、兵たちの言葉に耳を傾けた。

 「お前たちも全力で探せ! 巫女が戻らなければ、その時点で支援はなくなるぞ!」
 「奴は手負いだ! いくら巫女といえど、そう遠くに行けないはずだ!」

 兵たちは口々にまくし立て、集落の者たちを恫喝する。余程切羽詰まっているのか、目についた者を殴り倒す始末だった。

 「あいつ……散々アギディスで良い思いをしてきただろうに、逃げ出しただって? ふざけるなよ……」
 「貴族様に取り入ってたんだろう? これじゃ、あたしらが食いっぱぐれちまうよぉ。あたしらで、あの子を見つけるよ! 怪我してるならあたしらでも何とかなるはずさ!」

 喚く集落の者たちも、巫女を探そうと躍起になっている。

 (怪我……? まさか、セリエ……!?)

 システィーナは急ぎ小屋へと引き返す。

 (さっきも巫女って言ってた……巫女って何?)

 次々に湧いてくる疑問を押し殺し、やっとの思いで到着したシスティーナを待っていたのは、既にもぬけの殻となっていた小屋だった。


EPISODE4 風の巫女「全然見つからないなんて……。もしかして、これも巫女様の力なのかな?」


 「いない! セリエ、何処に行っちゃったの!?」

 セリエがいた痕跡はおろか、小屋を出て行ったならあるはずの足跡さえ見つからなかった。
 システィーナは、忽然と姿を消したセリエを探そうと捜索を開始する。しかし、どれだけ探そうとも、一向に見つかる気配は無かった。
 集落にいる者たちの雰囲気から、セリエは未だに見つかっていない事だけは分かる。

 「あんなに沢山の人が探してるのに見つからないなんて……セリエには凄い力があるんじゃ――」

 その時、脳裏を過ったのは、集落の者やアギディスの兵たちが口々に言っていた『巫女』という言葉だった。

 「もしかして……セリエは、巫女様……?」

 足を止めている間にも、時間は刻一刻と経過していく。既に日は傾き始めていた。夜を迎えてしまえば、ただでさえ見つからない彼女を見つけるのは困難を極める。
 途方に暮れたシスティーナは、いつの間にか集落の外れにある河のほとりへとやって来ていた。
 どうやら桟橋の近くには、アギディス軍と思しき集団が、拠点を構えているようだった。

 (何か、手掛かりが手に入るかも……!)

 そう考え、拠点の近くまで近寄った時、ふと会話が漏れ聞こえてきた。
 暗がりに身を潜ませながら、システィーナは耳をそばだてて、会話に注意を向ける。

 『ここまで痕跡が見つからないとは……巫女様は本当にこんな所へ戻って来ているのか?』
 『なに、故郷を捨て去る事は早々出来んさ。いずれにせよ、集落の奴らは血眼になって巫女を探す。見つからなきゃ自分たちの食い扶持が無くなっちまうんだからな』
 『明日はより広範囲に探そう。巫女様が不在とあっては、アギディスの繁栄が途絶えてしまう……』

 そこまで聞くと、システィーナは兵たちに見つからないようその場を後にした。

 (セリエも、ここで生まれ育ったんだ……!)

 思いもよらぬ事実に驚きの色を隠せない。
 しかし、それ以上に心を駆け巡っていくのは、巫女という存在への興味だった。

 「絶対、わたしが見つけるんだ! わたしは、セリエと一緒に外の世界へ行く!」

 強く決心すると、夕暮れの砂漠地帯へと歩みを進める。その表情には、何処か鬼気迫るものが宿っているように感じられた。


EPISODE5 継承「これ、が……風の巫女の力……? う……ぁ……嫌! 何? 入って……来るなぁぁ!」


 朝を迎えた集落は、前日より輪をかけて騒がしくなっていた。その原因と思われるのは、遠目に見ても分かる程に巨大な――砂嵐。

 「何あれ……どう見たって普通じゃない。まさか、あそこにセリエが!?」

 システィーナは、急ぎ砂嵐が発生している地点へと向かった。
 両側を険しい岸壁に囲まれた細道。
 砂漠地帯へと向かうその入口に、セリエは身構えていた。
 セリエは砂嵐の中心に立ち、その砂嵐を遠巻きに眺めるようにしてアギディスの兵たちと集落の男衆が集っている。

 「風の巫女よ! 今直ぐアギディスに戻れば、今までの事はすべて不問にすると約束しよう!」
 「これ以上……私に付き纏うんじゃない! あんな仕打ちをしておいて……よくもそんな口が聞けたわね! 私は……私はもう、アギディスを肥え太らせるだけの操り人形にはならない!!」

 セリエの瞳には、恐怖と悲憤が満ち溢れていた。
 怒りの言葉を吐く度に、砂嵐が大きく唸りを上げる。

 「見つけた! セリエ!」

 そんなセリエの姿を捉えたシスティーナは、男たちの間を進み入って、砂嵐の前に躍り出た。

 「システィーナ……? どうして……!」
 「私は、セリエと一緒に外の世界に行きたいの!!」

 躊躇なく、砂嵐目掛けて駆けだすシスティーナ。
 屈強な男たちでさえ立ち入れないはずの砂嵐の中へ、彼女は“いとも簡単に”入り込んでしまう。

 「えっ……!? 貴女、まさか……」
 「セリエ! 探したんだよ!」
 「なんて無茶を……! 怪我したらどうするのよ!」
 「だって! ここでセリエと別れたら、一生後悔すると思ったから……!」

 システィーナの強い想いに、セリエは少しだけ逡巡すると、自分に言い聞かせるように頷いた。

 「そう……わかったわ。なら、私の後に付いて来て」
 「うん!」

 セリエに手を引かれながら、二人は細道の中へと消えていく。当然、男たちは追い縋ろうとするが、セリエの繰り出した砂嵐によって落下してきた岩に巻き込まれてしまうのだった。

 「これで暫く時間を稼げるはず……」
 「セリエすごい! あの砂嵐も、今の風も、全部『巫女様』の力なの!?」
 「……私の力の事、聞いてしまったのね。そうよ、これが私の『風の巫女』としての力よ」

 セリエは、システィーナの目前で小さな風を起こしてみせる。
 その現象を目の当たりにして、システィーナは飛び上がらんばかりに歓喜の声をあげた。

 「……そんなにいいものじゃ、ないんだけどね……」
 「――岩を退かせ! 風の巫女を逃すな!!」
 「……! とにかく、今はここを離れるわ」

 遠くに聞こえた男たちの声に、二人は足早に細道を抜けていく。
 その道中で、セリエは自戒するようにすべてを語りだした。
 自身の生まれがこの名も無き集落であった事。
 風の巫女として精霊に選ばれ、人生が大きく変わってしまった事。
 そして、旅の道中で立ち寄ったアギディスで受けた仕打ちの数々を。

 「システィーナは……これでも精霊の力を凄いと思える?」
 「すごいよ! その力があれば、外の世界でも生きていけるんだもん!」
 「ふふ……そんな風に喜べたら、どんなに良かったかな……」

 弾むようなシスティーナの声とは裏腹に、セリエはその声音を低く重たくしていく。
 そして、岩壁にもたれかかると力無くその場にへたり込んでしまった。
 僅かに覗く腹部からは、“熟れた果実”をかき混ぜたかのような生々しい傷跡と、ぬめりを帯びた液体が滴っているのが見えた。
 それと同時に漂う、錆びた鉄のような臭気。
 セリエの怪我は、到底歩き回れるようなものではなかった。

 「セリエ!? その怪我は……」
 「あはは。精霊の力を使ったせいなのかな。傷口が、開いちゃったみたい……」
 「ど、どうにかしなきゃ――」
 「触らないで! 私はもう長くない、だから――」
 「――探せ!! 風の巫女を逃すなァァァ!!」

 セリエの言葉を遮るようにして、野太い声が響く。
 追手がすぐ近くまで迫っていたのだ。

 「ど、どうしよう……」
 「もう時間が、ないわ……ごめんね、システィーナ。でも、こうしないと……」
 「……え?」

 セリエは腰に佩いていたダガーを手渡すと、無言でシスティーナの手に触れる。そして、何かを呟いた途端、セリエを取り巻いていた精霊の力が、怒涛のようにシスティーナへと流れ込んでいった。

 「――ぁ……あぁっ、アアアァァァァッッッ!?」

 システィーナの脳裏に、歴代の風の巫女たちを襲った陰惨な記憶の数々が駆け巡っていく。
 その莫大な記憶の奔流は、純朴だったシスティーナの心を穢すには十分であった。

 「ァ……わ、“私”は……」
 「これで……“継承”は果たされたわ。貴女は、今この瞬間から風の巫女システィーナ・メーヴェとなった。そのダガーは、きっと貴女を守ってくれる。だから貴女は……私のようには、ならないで……ね?」
 「……セリ、エ……?」
 「さあ、行きなさい。これで貴女は自由よ……。今の私に、してあげられるのは……残された命で、時間を稼ぐ事、だけ……」

 セリエは最期の力を振り絞り立ち上がると、震える手で新たな巫女となったシスティーナを押しやる。

 「システィーナ、私は貴女の幸せを、願っているわ」
 「で、でも……」
 「行きなさい! 行くのよ! さあ!」
 「……っ……あ、ありがとう、セリエ!」

 それが二人の最後の会話だった。
 互いに背を向けて、二人は離れていく。
 システィーナは、風に乗って後方から聞こえてくる怒号に目もくれず、外の世界を目指してひた走るのだった。


EPISODE6 今の私に出来る事「この力は、哀しみを生むだけじゃない。誰かを幸せにする事だって出来るはずなんだ」


 死の大地を離れたシスティーナは、あてもなく彷徨い続けていた。
 脳裏を駆けめぐる巫女の記憶。
 その記憶の奔流は、眠っていても容赦なく彼女を襲い続ける。悪夢の中を泳いでいるような感覚に、システィーナは身も心も蝕まれていく。

 いつまでも終わりのない拷問のような日々――

 やがて、艶やかだった瞳は翳りを帯び、その表情にははっきりと憔悴の色が表れていた。
 けれど、システィーナの心の奥底には、まだ巫女の力に対する希望が残っている。

 「この力を、正しく使えば……きっと幸福になれる。セリエが見れなかった世界を、私が見つけるんだ……」

 荒野を渡り、森を抜け、宛てもなく歩き続けたシスティーナの耳に、微かではあるが川のせせらぎにも似た音が届いた。
 その音に導かれるように進んでいくと、のどかな光景が一面に広がる小さな農村に辿り着いたのだ。
 牧歌的な雰囲気を目の当たりにした途端、腹が自身の役割を思い出したかのように、ぎゅるりと唸る。

 「全然食べてなかった……お腹空いたな……」

 音を頼りに村の中を進んでいくと、目に入ってきたのはのどかな光景。
 しばらく進むとほとりが見えてきた。川岸には、やけに緩やかな水車がギィと軋んだ音を奏でている。

 「ここなら、何か分けてもらえるかも……」

 川の水で喉を潤したシスティーナは、水車小屋へ向かう。運が良い事に、そこには製粉している老婆がいた。

 「おや、お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
 「あの……何か食べ物を……」
 「あらぁ、ごめんよ……この前起きた地滑りで川が倒木に堰き止められてしまってねぇ。お嬢ちゃんに分けてあげる余裕はないんだよ」
 「そんな…………あっ」

 その時、システィーナは何かを閃き老婆に提案する。

 「もし、その倒木を私がどうにか出来たら、少し食べ物を分けてもらえないかな?」
 「あらまぁ……お嬢ちゃんがかい?」
 「うん。川の流れを元に戻すから!」

 ――それからシスティーナは直ぐに事に当たった。
 川が堰き止められている上流まで向かうと、風の巫女の力を使い、局地的な強風で倒木や岩をあっさりとどかしてみせたのだ。
 結果を老婆に伝えると、老婆は驚きの声と共に、恐る恐る問いかける。

 「お、お嬢ちゃん、まさか……巫女様なのかい?」

 システィーナは首肯した。
 すると老婆はやにわに歓喜の声を上げると、村の広場へと向かい村中に声を掛けていく。
 その光景を見て、システィーナは確信する。

 ――やっぱり、正しく巫女の力を使えば、みんなが幸せになれるんだ。悲しい記憶だけじゃないんだよ。

 ここで暫く身を隠そうか、などと考えていたシスティーナの下に、老婆の話を聞きつけた村人が集ってきた。

 「――――ひっ」

 皆、面には出さないが、その声に宿る感情までは隠せてはいない。
 誰も彼もが、巫女の力を我が物にしようと、躍起になっていたのだ。
 どす黒い欲望をぶつけられ、システィーナが次第に身の危険を感じるようになっていたその時、村の者をかき分けて大柄な男が姿を現した。

 「こいつは俺の物にする! 異論がある奴は俺がぶちのめしてやるからなぁ!」
 「え? 何を……痛っ!?」

 男はシスティーナの抵抗など気にも留めずに強引に腕を掴む。抵抗する素振りを見せた彼女に対し、男は更に力を加えようとするが――

 「イヤっ! 離して!!」

 その瞬間。
 叫び声と共に、男が爆ぜた。
 男を強く拒んだシスティーナが、無意識の内に力を使った事で、男に落雷が降り注いだのだ。

 「ぁ……わ、私、そんなつもりじゃ……」

 システィーナの言葉は誰にも届かず。
 一瞬にして消炭にされた男の亡骸を見て、村人たちは口々に喚き立てた。

 「――ば、化物め!!」
 「こいつをアギディスに突き出すんだ!」

 憤怒。憎悪。侮蔑。
 人々の眼差しは、システィーナの中に嫌という程刻まれていた記憶と、寸分違わぬものだった。


EPISODE7 慟哭の果てに「身も心も、すべてが穢されていく。私はただ、この力を使って幸せになりたいだけなの」


 混乱に乗じて農村から逃走したシスティーナは、再びあてもなく彷徨う事になってしまった。
 どの街に辿り着いても、巫女だと分かった途端に人々は厄災の如くシスティーナを忌み嫌う。
 巫女がいる事を察知したアギディスに滅ぼされない為には、巫女を排斥するのが正しかったのだ。
 巫女は、村にとって“不幸の象徴”でしかない。
 彼女が安らげる場所は、何処にも無い。

 石を投げつけられるだけならまだいい。
 それ以上に心を蝕んだのは、彼女を否定する罵詈雑言であった。

 「私は……みんなと何にも変わらない。ただ、風の精霊の力を使えるだけ。たったそれだけで、心も体も踏み躙られるの!?」

 私は人間だ。ただ巫女の役割を与えられただけに過ぎないのに。
 巫女というだけで、どうしてこうも人々は目の色を変えてしまうのか。尽きぬ疑問は、システィーナを人々から遠ざけ、孤独を強いていく。
 こんな世界が、本当に自分の憧れてきた世界だったというのだろうか。

 「こんなの、私が夢見てきた世界じゃない……」

 逃げ込んだ森の中で、哀しみに暮れるシスティーナは膝を抱え孤独に涙を濡らす。

 「ぐすっ、う……っ……ぁぁ……ぅあぁぁぁぁ!!」

 少女の慟哭に力が共鳴し、空に重苦しい灰色の雲を形作っていく。それは直ぐに激しい雨をもたらし、大地に降り注ぐのであった。
 少女の叫びに手を差し伸べる者など、誰もいない。
 誰もが幸せになれる世界など、夢物語でしかない。
 世界は決して、優しくなどないのだから。

 食糧も尽き果て、ありもしない理想の世界を目指すのはとうに限界を迎えていた。
 誰かに助けも求められず、システィーナは失意と後悔の中、意識を深い闇の底へと手放すのだった。

 ――
 ――――

 獣道と言っても差し支えない程の荒れ果てた道を、一台の荷馬車が進んでいた。
 ガタン、と盛り上がった地面の上を通り過ぎる度に、容赦なく荷台が揺れ動く。
 ボロボロの荷台には、捕縛され身動きの取れなくなった少女たちが、乱雑に転がされていた。


EPISODE8 完美な世界「私の目の前に広がる光景。ずっと夢見てきた世界が、ここにある」


 鳥の囀る音が、システィーナの耳朶をくすぐる。

 「ぅ……ここ、は……」

 意識を取り戻したシスティーナは、上体を起こすとぼやけた視界のまま辺りを見回した。

 「――え?」

 眼前にはいつの間にか、知らない光景が広がっていた。
 最後に見た景色は、薄暗い森の中だったはず。
 身体の節々が痛む事から、夢の中とも思えない。
 目の前に広がる光景は、彼女にも見覚えがない世界で――否、ひとつだけ、心当たりがあった。
 そう、それは――

 「私が、夢見た世界……」

 システィーナの心の支えとなっていた、羊皮紙の中に描かれた美しき世界。それが、正に今、自身の目の前に広がっていたのだ。
 燦々と照りつける陽光を浴びて木々は瑞々しく育ち、青く澄んだ湖面には白い雲と山麓の緑がくっきりと映っている。ここは、自然の生命力を存分に感じられる場所だった。

 「夢じゃ……ないんだ……あの世界は、本当に……あったんだ!」
 「おやおや、元気な声が聞こえたかと思えば。お目覚めのようだねぇ」

 後ろから顔を覗き込むようにして現れたのは、長い白髪を結え、朗らかに笑う老婆だった。

 「あ、あなたは……?」
 「私はこの名も無き村の長をしている者さ。お嬢ちゃんたちが行き倒れになっていた所を、村の者が見つけてきたんだよ」
 「お嬢ちゃん……たち?」

 そう言われて、もう一度辺りを見回す。
 システィーナの背後には、円状に等間隔で設置された藁のベッドがあった。その上には、数人の少女たちが穏やかな寝息を立てながら眠りについている。
 皆、幼さの残る顔立ちで、歳の頃はシスティーナと大差ないだろう。

 「ここはねえ、儂らが山奥で開拓した秘境なのさ。見てごらん、美しい景色だろう?」
 「あ……はいっ。私、ずっとこんな綺麗な世界に行きたいって、思ってた……」
 「ホッ、そうかいそうかい。そりゃあ良かったよ。何もない村なんだけどね、ちょうど明日から年に一度の奉納祭を行うんだ」

 老婆の指さす方を見てみると、確かに村のあちらこちらでは祭りの準備に取り掛かっていると思われる村人たちが動き回っていた。

 「今日はゆっくりするといい。村を見て回っても良いし、この景色を心ゆくまで堪能してくれても構わないよ」
 「ありがとう、村長さん」

 老婆は踵を返して、歩いて行く。
 その先には、一際派手な装飾が施された小屋が建てられていた。恐らくは、そこが集会場のような役割を果たしているのだろう。

 「せっかくだし、どんなお祭りなのか村の人たちに聞いてみようかな」

 システィーナはベッドを降りて村中を見て回る事にした。視界の隅では少女たちが今も眠りについている。
 彼女たちは、一度も起きる素振りを見せなかった。

 「――なんて素敵な所なんだろう……」

 村を見て回ったシスティーナは、村の牧歌的な雰囲気を肌で感じ取っていた。
 お祭り用の食事を準備している者。
 藁で出来た人型のような柱に、花冠を飾り付ける者。
 祭りで披露すると思われる踊りに精を出す者。
 準備に勤しむ老人たちは、誰もが皆にこやかな笑顔で作業にあたっていた。

 「みんな元気だなぁ……」

 システィーナは、少ない食糧を巡って罵り合い奪い合っていた死の大地の人間たちを思い返す。
 住む所が違えば、これ程世界は変わるのだという事実に、自然と心が痛むのを感じていた。
 その時、ふと視線を感じる。
 振り返った先には、彼女らが信奉していると思われる“神”が大きく描かれた壁画があった。お世辞にも上手とはいえない、子供が描いたような極端に省略された絵。

 「……ここの人たちは神様を信じてるんだ」

 システィーナが至る所で見かけた神。目の前の壁画には他では見られなかった絵も描かれていた。
 恐らくは、奉納祭の光景を表したものなのだろう。
 中心にいる神を取り囲むように並んだ少女たち。更に、その外円では笑顔の老人たちが祈るように両手を天にかざしている。

 「――あれ?」

 刹那、システィーナの脳裏に小さな疑問が浮かんだ。
 それは、村を見て回る時にも感じていた、小さな、ほんの小さな疑問。

 「なんで……この村には“子供”がいないんだろう」

 それを口にした途端、システィーナの全身を悪寒が駆け抜けていく。
 そして、いつの頃の記憶かも定かではない、巫女の記憶が壁画に描かれた光景を再生する――

 「イヤな予感がする……」

 このままここに滞在していたら、明日の“奉納祭”で何をされるか分かったものではない。
 既に陽は傾きかけている。
 山奥と言ってはいたが、ここがどれ程の高さに位置するのかは見当もつかない。

 「でも、早く逃げ――」

 その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
 後頭部に強い衝撃を受けて、システィーナは地面に倒れ伏してしまう。急速に遠のいていく意識の中、視界を過ったのは――
 老人たちの、張り付いたような笑顔だった。


EPISODE9 奉納祭「これで私の人生は終わりなの? 私、まだ何もしてない、幸せになれてない!」


 ――陽が山の頂に沈みきった頃。
 年に一度の奉納祭は、最高潮の盛り上がりを見せていた。
 老婆とは思えない、快活な声が響き渡る。
 それに呼応するように拍手が巻き起こり、村人たちは歓声をあげていく。
 松明に照らされた笑顔は、悍ましい何かを浮かび上がらせているようだった。

 「……!?」

 歓声によって意識を取り戻したシスティーナ。
 咄嗟に身体を動かしてみたものの、じゃらじゃらと鎖の音が鳴るだけで、身じろぎする事もままならない。
 システィーナは、最初に目覚めた藁のベッドの前に打ち付けられた杭に、縛り付けられる形で立たされていたのだ。
 着ていたはずの服は、いつの間にか前開きの純白のローブへと着替えさせられている。他の少女たちも同じだった。
 そんな彼女たちを取り囲むようにして、老人たちは手にした木や石で思い思いの曲を奏でている。
 張り付いた笑みと不気味な音色が、この世ならざる世界を構築していくようだった。

 「……な、なんなのこれ! 今すぐ解いてよ!」
 「おや、おやおやおや」

 システィーナの耳元に、穏やかな声音が木霊する。
 背後に立っていた長老は、ゆるりと前に現れると、システィーナの身体を吟味するように顔を上下させた。

 「お嬢ちゃんは随分と逞しいんだねぇ。他の娘たちと違って薬の効き目が悪いもんだから参ったよ」
 「く、薬!? みんな眠りっぱなしなのは、あんたたちのせいなの!?」

 システィーナと同じようにローブを纏った少女たちは今も深い眠りの中にいる。
 少しだけ違うのは、その少女たちの目の前に向かい合うようにして、笑顔の老婆たちが立っている事だろうか。

 「これより、奉納の儀を執り行う!!」

 長老の声に応じて、老婆たちがパンッ! と同時に手を叩く。
 その瞬間、一度も目覚めなかったはずの少女たちが、まるで呪いが解けたかのように一斉に覚醒していく。

 「え?」「イヤァァァッ!?」「誰か助けてぇ!!」

 状況を理解した少女から順々に悲鳴が上がる。
 彼女たちは、狂気じみた村の雰囲気に完全に怯えていた。
 そんな少女たちの悲鳴など意にも介さず、長老は叫ぶ。

 「神に祈りを!」
 「「神に祈りを!!」」

 その声に合わせて、村人たちは寸分違わぬ挙動で同じ姿勢をとる。その統一された動きが、この村の異常性を如実に物語っていた。
 次に長老は、両手を空に天高く掲げ――何かを唱え始めた。
 それに呼応し、少女たちの前に立っていた老婆たちもまた、追随するように天に両手を掲げていく。
 その中指には、いつの間に装着したのか、鈍く妖しい光を放つ黒い爪が嵌められていた。
 そして、老婆たちは少女たちのローブを“下半身”のみはだけさせると、露わになった下腹部の前にしゃがみ込む。
 ――そして。

 「「神に捧げよ!!!!」」

 その禍々しい爪を、深々と突き立てた。
 少女たちの絶叫と老人たちの嬌声が村を震わせる。
 顔に浴びた液体をものともせずに、老婆たちは恍惚の笑みで少女たちを傷つける。

 「は、アハハ……何なの、これ……」
 「ホッ、待たせたねえ。この奉納の儀の最後を飾るのは、お嬢ちゃんの役目だよ?」

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、長老は穏やかに笑いかけた。

 「や……嫌! やめて!! 来ないで!!」

 必死に身をよじっても、しっかりと巻かれた鎖はビクともしない。あまつさえ、精霊の力を使おうとしても何も起こらず、ただ全身に走る恐怖に身を強張らせる事しか出来ないでいる。

 「なんで!? どうして応えてくれないのよ!!」

 刹那、身体に寒気を感じた。
 眼前でしゃがんだ長老が、システィーナのローブをはだけさせたのだ。
 長老の赤黒い爪が、システィーナの下腹部を貫こうとしたその時。

 「ぃ――――ぁあぁぁぁぁぁッ!!!!」

 雄叫びと共に放たれた精霊の力が、村を駆け抜けた。
 直後、長老がゆっくりと“左右”にズレ落ちていく。
 生々しい音だけが、村に響いた。
 嬌声に湧いていた村人たちは、一瞬の静寂に包まれた後、その眼を一斉にシスティーナへと向ける。

 「巫女様だァァァァ……ッ!」
 「神だ! 我らの神が救世主を遣わされた!!」
 「おおォォォッ! 救世主様アァァァッ!」

 興奮に沸きたった村人たちが、次々とシスティーナへ群がっていく。

 「来るな! 来るなァァァッ! なんで? なんで力を使えないのよぉぉ!!」

 どれだけ老人たちを拒もうとも、彼女に状況を変える術はない。
 鎖を解かれたシスティーナは、老人たちに担ぎ上げられたまま、村の中央に建てられた集会場の中へと姿を消すのだった。


EPISODE10 神の供物「もう何もかもが遅い。結局、私は無力でしかなかったんだ」


 集会場の最奥に設えられた祭壇。
 すえた匂いを放つ髑髏が無数に嵌め込まれた空の玉座の前で、四肢を鎖に繋がれたシスティーナは横たえられていた。
 僅かに動く手足を動かしてみても、鈍く光る鎖がじゃらじゃらと音を立てるのみ。
 精霊の力を捻り出そうとしても、無理矢理飲まされた薬のせいか、沸騰するような身体が集中する事を拒む。

 (私……なんて無力なの……、巫女の力も肝心な時に……っ……何も、出来ない……)

 システィーナは、絶望に染まる事さえ許されずにいた。
 ただ、これから自分の身に降り掛かろうとしている“何か”を、黙って受け入れるしかない。

 ――どうやら、その“刻”が来たようだ。

 ギィィ……と、重厚な扉を開く音が聞こえる。そこから続々と現れたのは、先ほどの儀式を執り行っていた老婆たちと祭りの準備を行っていた老人たち。
 皆、一矢纏わぬ姿で、システィーナの周りをぐるりと取り囲んでいく。
 
 「巫女様には、この村を守る救世主として、すべてを捧げてもらうよ」

 老婆の声が室内に木霊した。
 四方から、張り付いた笑顔がにじみ寄る。

 「いぁ……こ、なィで……」

 神への感謝の言葉を口ずさみながら。

 「やめ、て……いぁ……おねが、ィ……」

 純白のローブがはだけ、褐色の肌が露わになる。

 「たすけ……だぇか、たすけ、て……」

 老人たちのしわがれた手が、システィーナの髪を、歯を、肋骨を――順々になぞりあげていく。

 「あぁ! はィって、くる……な、あァァ――ッ!」

 少女の悲痛な願いは、亡者のように群がる老人たちの声に埋もれ、どこにも届く事はなかった。

 ――
 ――――

 三日三晩続いた狂乱の宴。
 その終焉は、余りにあっけないものだった。
 玉座に捧げられたダガーが転げ落ち、その持ち手にシスティーナが触れた途端、鋭い風の刃が老人たちを一瞬にして細切れにしたのだ。
 あらゆる臭いが混ぜ込まれた、吐き気を催す程の臭気の中、システィーナは虚な目でダガーを見つめる。
 歴代の巫女の記憶の中で、その『蒼穹のダガー』は常に巫女と共にあった。セリエが言っていた言葉は、これを意味していたのである。

 「ふ、ふふ……今更……遅いよ……こんな……アハ、アはハハ、アははははは――――!!」

 誰もいなくなった玉座の前で、システィーナはボロボロになった己の身体を抱きしめながら、一心不乱に泣きじゃくるのだった。

 あれだけ願った美しき世界。
 そんな夢のような場所など、この醜い世界には何処にもありはしないのだ。


EPISODE11 望まれぬ子「私は、幸せになりたいの。その為なら――自分の娘だって捧げるわ」


 私は、死体の山が築かれた村から逃げ出した。
 どうやって山を降りたのかも覚えていない。
 その間に、何度も陽は登り、何度も沈んでいった。
 どれだけの月日が流れたのかも分からない。
 気が付いた時には、私は奴隷商の男の荷馬車に乗せられ、アギディスへと“出荷”されていた。
 捕まる前に『蒼穹のダガー』を使って抵抗してみたものの、精霊の力は殆ど発揮されず、そよ風程度の子供じみたものしか出せなかった。

 本当に、肝心な所でなんの役にも立たない短剣だった……。
 でも、そんな事はもはやどうでもいい。
 私は精霊の力に見放されてしまったのだから。
 巫女なんて、ろくなものじゃない。
 美しい世界なんて、この世には存在しない。
 愚かな私が幸せになろうだなんて、烏滸がましいにも程があったんだわ。
 すべては……勝手に外の世界を夢見た、私が悪かっただけ。
 いっその事、自分で死を選べればどれだけ良かったか。
 私には、セリエみたいに自ら命を差し出す事も、誰かの為に身体を捧げる事も出来ない。
 そんな勇気があれば――

 「……っ……ぅぷ……」

 身体に感じた異変。
 “それ”は、お腹の中で微かに脈打っていた。

 「ぇ……? 嘘よ……ぁ、アハ……あの時の……なんで……私ばっかり、こんな……っ……ぅ、あ、ぁぁぁ――」

 ――あの日から、数ヶ月。
 私はアギディスの巫女として、迎え入れられる事になった。
 アギディスの権力者たちは、衰退した私の力を目の当たりにした時、とても酷く落胆したのを覚えている。
 けれど、私が身籠っていると知るや、皆一様に笑顔を浮かべ、膨らんだ私のお腹に何度も頬擦りしていた。
 その表情は、奉納の儀を行っていた老人たちと同じ、張り付いた笑みだった――

 もうすぐ私は、出産の日を迎える。
 アギディスの女官が言っていたけれど、身籠った巫女は必ず女を授かるらしい。だから、あの醜く肥えた権力者共は安堵していたんだ。
 精霊の力は、莫大な富を産む。
 精霊の力は、争いを有利に運ぶ。
 なら、その先にあるのは――

 「そうだわ、この子を上手く“使えば”……私は今度こそ“幸せ”になれるかもしれない」

 そうよ。
 ええ、そうだわ。
 薄汚い人々に穢され、奪われてきたものを、これから取り返していっても構わないでしょう?
 私にも、幸せになる権利があるのだから。

 「――ぁ」

 ふふ、貴女も私の考えに賛同してくれるのね。

 「あぁ、早く産まれないかしら?」

 あやすように、慈しむように。
 膨らんだお腹をそっと撫でる。
 この子の名前はもう決めていた。
 きっと、この子が私を幸せにしてくれる。

 ――そうでしょう?

 「私のシエロ」


チュウニズム大戦

レーベル難易度スコア
スキル名/効果/備考
★シビュBAS0 / 150 / 300
テクニカルアクセル(BAS、EXPチェイン)
自分と次のプレイヤーは、出すカードがBAS、
EXPでCOMBOした時、CHAINとなる。



■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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