ジュナ・フェリクス

Last-modified: 2024-11-02 (土) 06:46:50

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※ここはCHUNITHM PARADISE LOST以前に実装されたキャラクターのページです。
・このページに記載されている「限界突破の証」系統を除くスキルの効果はすべてCHUNITHM PARADISE LOSTまでのものです。
 現在は該当スキルを使用することができません。
・CHUNITHM PARADISE LOSTまでのトランスフォーム対応キャラクター(専用スキル装備時に名前とグラフィックが変化していたキャラクター)は、
 RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となります。

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Illustrator:麻谷知世


名前ジュナ・フェリクス
年齢12歳
職業水の都ティオキアにある、巫女候補者育成機関の生徒
身分アテリマ教徒をまとめあげる「フェリクス一派」の長子

精霊に命を捧げ、精霊を体に宿した巫女<シビュラ>と呼ばれる存在の一人。
シビュラ精霊記のSTORYは、全体的にグロ・鬱要素が多数存在します。閲覧には注意と覚悟が必要です。

巫女<シビュラ>

ジュナ【 ジュナ・サラキア / ジュナ・フェリクス 】

水の巫女になるために学園に通う少女。
愛する幼馴染への想いを胸に水の巫女を目指す。

スキル

RANK獲得スキル
1ボーダーブースト・SS
5
10
15


ボーダーブースト・SS [NORMAL] 

  • ボーダージャッジ・SSの亜種。
    強制終了しない代わりにSS達成不可能になると上昇率が増加しなくなり、ATTACK以下でダメージを受けるようになる。
  • 初期値から6本を狙え、GRADEを上げれば7本も可能になる。
    • +8からS同様に成長が鈍化し、増加量が1%ずつになる。所有者を3人RANK10にするとちょうど鈍化が始まる+8まで上げられること、最大GRADE(+15)まで育成すると+7とそれなりに差が出るあたりもSと同様。
  • フィールドインフォの「ボーダー/SS」を使うと、上昇量消滅までのスコア猶予を確認しながらプレイできる(S・SSSも同様)。
  • ボーダージャッジ系と違ってS・SS・SSSを所持しているキャラが別々。1人のキャラで揃わないのはある意味で面倒かもしれない。
  • 筐体内の入手方法(2021/8/5時点):
    • PARADISE ep.IIマップ3(PARADISE時点で累計595マス)とマップ4(PARADISE時点で累計940マス)クリア
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境最大
開始時期ガチャ
PARADISE×
(2021/8/5~)
無し+7
あり+11
PARADISE以前
(~2021/8/4)
+15
ゲーム上での効果表記(初期値)
理論値:141000(7本+15000/26k)[+7]
理論値:143400(7本+17400/26k)[+11]
推定理論値:145800(7本+19800/26k)[+15]
ランクSS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (200%)

達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -1000
GRADE効果
共通(※ランクSS以上が)
達成不能のとき
ATTACK以下でダメージ -1000
初期値ランクSS以上が達成可能のとき
ゲージ上昇UP (200%)
+1〃 (205%)
+2〃 (210%)
+3〃 (215%)
+4〃 (220%)
+5〃 (225%)
+6〃 (230%)
+7〃 (235%)
▼以降はCARD MAKERで入手するキャラが必要
(2021/8/5以降では未登場)
+8〃 (236%)
+9〃 (237%)
+10〃 (238%)
+11〃 (239%)
+12〃 (240%?)
+13〃 (241%?)
+14〃 (242%?)
+15〃 (243%?)

所有キャラシエロ・メーヴェ / ジュナ・サラキア / システィーナ・メーヴェ / ジュナ・フェリクス

ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 ジュナ・フェリクス「アテリマの教えを守り、正しく民を導く父と母。私にとって両親は何よりの誇りなのです」


 水の都ティオキア。
 ここは豊穣神ネフェシェを信仰し、清貧を良しとするアテリマ教信者の民で構成された街である。
 アテリマ教と一口に言っても、地域や出自によって多くの派閥が存在する。
 中でも多くの信者を抱える『フェリクス一派』という派閥は、司祭と教母の夫婦を長とし、アテリマ教の教えを守りながら、質素に、そして静かに暮らしていた。

 そんな夫婦の第一子女である、ジュナ・フェリクス。
 父は豊富な知識を、母は慈愛の心を。
 両親から惜しみない愛情を与えられたジュナは、真っ直ぐに、品行方正で聡明な少女へと成長していった。

 優しい家族や信者に囲まれた穏やかな暮らし。
 この世に蔓延る人間の悪意や醜さなど知ることなく、ジュナは幸福を謳歌する。
 だが、そんな彼女もやがて知る事となる。
 精霊を巡る悲しき運命からは逃れられぬ事。
 そして、この幸せな日々には二度と戻れない事に。


EPISODE2 フェリクスの名を背負って「両親やギュスターブの応援。それに応えなくては。期待に応えるのは、私にとっても嬉しい事なんです」


 神の御魂である精霊をその身に降ろし、その力を借りて行使する『巫女』。
 ティオキアの中央区には、この巫女の育成を目的とした、由緒正しき名門学園がある。
 学園では、卒業試験時に最も優秀な成績を収めた者が、巫女候補生として水の巫女になる事を約束されている。
 豊穣神ネフェシェへの信仰が強いこの都では、巫女への崇拝も並々ならぬものではない。
 そのため、娘を持った貴族にとっては何としてでも入学させたいと願う学園であった。
 しかし、当然そう簡単に入学する事はできない。
 学術はもちろん、体術、教養、作法。ありとあらゆる面で高度な入学資格が要求され、いわば“選ばれし者”のみがその門をくぐる事が叶うとされている。
 フェリクス家も、多分に漏れず娘を巫女にしたいと願っていた。

 「ジュナならきっと水の巫女様になれるわ。あなたの穏やかで優しい心は、ティオキアの平和を担うにふさわしいもの」
 「君はフェリクス一族を立派に背負う子だ。ネフェシェ様もきっとジュナの素晴らしさを理解してくださるに違いないさ」

 そう言って、父と母はジュナをそっと抱きしめた。
 幼いながらも両親から期待されている事を理解したジュナは、その思いに報いなければと強く心に誓う。
 自分だけでなく、信者からも慕われるカリスマ性溢れる憧れの両親。
 両親の思いに報いたいという気持ちは、ジュナが心から思う親孝行の手段だった。

 その思いを体現するように、明くる日からジュナはこれまでより一層勉学に力を入れるようになる。
 時には病に侵されフラフラになりながらも、一切手を抜くことはない。
 そこまで頑張ることができたのはジュナ自身の真の強さもあるが、幼馴染であるギュスターブからの励ましが大きかった。

 「ジュナは何でもできて凄いな。俺の方が年上なのに、見習わなきゃいけないことばかりだ」
 「そんなことないわ。ギュスターブの方が私より走るのが速いじゃない」
 「いーや、それは去年までの話。この間のかけっこだって、最後はジュナが逆転したじゃん。俺が唯一勝てるとしたら……もう身長ぐらいしか残ってないかもな」

 おどけて笑いながら、ギュスターブはジュナの頭を撫でる。
 その手は父のものより小さいが、ジュナにとってはとても大きく、撫でられる度にジュナは心がポカポカと高揚するのを感じていた。
 それが兄に対するような感情なのか、恋心なのかは、今のジュナ自身は判別できなかったが、毎日の努力への原動力になったのは確かだった。

 そしてジュナは、難関な試験を無事に乗り越え、トップの成績で学園への入学を果たす。
 喜びに満ちるフェリクス家。
 この時誰もが、ジュナが輝かしい未来を歩むのだと、そう信じていた。


EPISODE3 星降る丘の上で「寂しい気持ちがなくなったわけじゃない。でも……彼との約束があれば、きっと頑張れる気がする」


 入学前日の夜。ギュスターブはジュナの両親の許可を得て、ジュナを草原の広がる小高い丘へと誘った。
 二人は草原に寝そべると、零れ落ちんばかりに無数の星が輝く夜空を見上げる。
 まるでジュナの門出を祝うように爛々と輝くその空に、感動するジュナ。
 その横顔を見つめるギュスターブは、嬉しそうに笑う。

 「ジュナはしばらくここから離れちゃうからさ。俺たちの故郷の空を一緒に見ておきたくて」

 そのギュスターブの言葉を聞いて笑顔になったジュナだったが、ふいに何かに気がついた様子を見せると、切なげな声を漏らした。

 「やっぱり……寂しいな……」

 明日から入学する学園は、厳しく生活を管理される全寮制。卒業までは、たとえ休暇中でも故郷に戻る事は許されていない。
 入学試験に合格した事は嬉しかったが、2年制の学園生活。長い間両親やギュスターブに会えない。
 頭では分かっていたつもりのジュナも、いざ入学を前にしてやっと実感が湧いてきたのか、胸の中が不安と寂しさでいっぱいになっていく。
 そんなジュナに、少し困ったように笑いかけたギュスターブは、おもむろにポケットから木製の小さな笛を取り出した。

 「これはお守り。この笛を吹くと俺の相棒がジュナの元へ駆けつけてくれるよ」

 そう言って、ギュスターブは軽く笛を吹いてみせた。
 甲高くも柔らかい音が草原に広がったと思うと、どこからともなく小さな青い羽の鳥がやってきた。

 「こいつは優秀だから、手紙くらいなら運んでくれる。卒業までは会えないけど、手紙のやり取りをして励まし合おう」

 ギュスターブが小指を立てて見せる。
 応えるように同じくジュナも小指を立てると、お互いにそれを絡ませて約束を誓った。

 「……って、ちょっとクサかったよな!」
 「ふふっ、ちょっとだけ。でも……嬉しい」

 照れ笑いをする、いつもと変わらぬギュスターブの表情。
 たとえ数年会えなくても、目の前にいる男の子はきっと変わらない。
 そう確信したジュナは安堵し、またギュスターブもジュナを守り続けたいと心の中で誓うのだった。

 そして、入学当日。
 フェリクス家の第一子女として立派な巫女になるべく、ジュナは大きな門をくぐる。
 その表情に、もう不安の色はない。

 「――アテリマの教えを守り、清廉な学園生活を送る事をここに誓います。新入生代表、ジュナ・フェリクス」

 講堂に拍手が響く。
 入学試験で首席だったジュナは、新入生の代表として式の答辞を読み上げた。
 近年稀に見る優秀な生徒の入学に、すでに教師陣からも期待が高まっている。
 ジュナが迎えた新しい生活は、華々しいものだった。


EPISODE4 親友の名は「もう、ピアったら! すぐからかうんだから! 彼に恋してるかだなんて……そんなのまだ早いわ!」


 新入学生へ向けた学校案内を終え、寮にやってきたジュナが自室を探そうと廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。
 振り返ると、そこにはおさげにした金髪を揺らす少女が立っていた。

 「あなた、ジュナでしょ?」
 「ええ、ジュナ・フェリクスは私よ」
 「私はピア。あなたと同室のルームメイトよ! よろしくね!」
 「わあ! どんな人とルームメイトになるかちょっと不安だったから、素敵な人で安心したわ! こちらこそよろしくね、ピア」
 「私のほうこそ相手がジュナで光栄よ。フェリクス一派の事はお父様から聞いていたし、式での答辞も素晴らしかったわ!」

 フェリクス一派の活躍ぶりはピアの故郷にも届いていた。
 両親や信徒達が評価されるのはジュナにとっても嬉しく、共通の話題があるおかげで二人が打ち解けるのに時間はかからなかった。
 話題は次第に身の上話になり、ピアはティオキアの中でも中央都市から最も遠い区域より、水の巫女になるべくこの学園にやってきたのだという。

 「送り出してくれた家族のためにも、きっと水の巫女になってみせるわ!」

 キラキラと瞳を輝かせながら語るピアを見て、ジュナは気づく。
 水の巫女になれるのはただ一人。当然ジュナもその座を目指している。
 この学園では、友人とはいえ皆がライバルなのだ。
 ジュナは気を引き締めなければと思いつつも、やはり進学して早速新たな友人ができた事が嬉しくてたまらなかった。
 ルームメイトという事もあり、二人はあっという間に仲の良い友人――いや、親友と呼べるまでに関係を育んでいく。
 毎晩のようにベッドの上で繰り広げる、故郷で起きた面白おかしい思い出話に、涙が出るほど笑い転げる二人。
 だが、故郷の話をするのは決まってジュナばかり。
 一度ジュナがピアの話を催促したが、決まって「うちは田舎で貧乏だから面白くないよ」とはぐらかされてしまう。
 唯一知り得る事が出来たのは、ピアがいつも指に嵌めている指輪はピアの一族の家紋が入った大事なものという事だけだった。

 ――それからしばらくの時が経ち、学園生活にも慣れ始めた頃。
 ジュナは誰にも見つからないように、こっそりと校舎の裏にある人気のない噴水広場にやってきた。
 噴水の縁に腰かけ、今しがた届いた便りの封を丁寧に開ける。
 
 「ふふっ、ギュスターブったら……」

 便箋にはぶっきらぼうな字が目一杯に広がっており、差出人の思いが伝わってくるようだ。
 故郷の街の平和な一日や、ジュナの両親の様子、そしてギュスターブ自身もジュナに負けないよう日々鍛錬を積んでいる――。
 そう記されていた便箋を胸に抱き、ジュナは空を見上げる。
 自分の知らないところで、ギュスターブも頑張っている。
 その事実はジュナにとって最高の励みになり、毎日の学園生活への活力になっていた。

 ――また別の日。
 昼下がりの中庭で昼食を食べるジュナとピア。

 「手紙交換?」
 「ええ。幼馴染としているの。学園の規則ではお手紙を出すのも禁止されているから、内緒で……」
 「ふふっ。ジュナはその人の事が好きなんだね~」
 「す、す、好きっ……!? そ、そんなんじゃないよ! でも、家族と同じくらい大切な人……ではあるわ」
 「ふーん? じゃあさ、私と幼馴染どっちが大事?」

 いたずらっ子のようにニヤニヤとした笑みを浮かべたピアが、ジュナの顔を覗き込むように尋ねてくる。

 「そんなの選べないわ! だって、ギュスターブもピアも、どちらも大切な存在だもの……」

 イジワルな質問をされて困っていると、タイミング良く予鈴の鐘が鳴る。
 これ幸いとばかりに、ジュナは話をはぐらかしつつ小走りで立ち去っていった。
 その後ろ姿を見ていたピアが、小さく呟く。

 「へえ……ずっと一緒に生活している私より、そんなに大切な人がいるんだ……」

 その声は、先ほどまで友人に向けていた優しいものとは打って変わって、まるで水の底に沈んだような冷たい声。
 小さな小さなその呟きは、ジュナの耳にはまだ届いていない。


EPISODE5 二人を繋ぐ青い羽「一体どこへ行ってしまったの……? 彼と私を繋ぐのは、あの子だけなのに……」


 巫女になるための勉学や体術、そして所作などを1年間みっちり学んだジュナは、無事2年生へと進級する。
 卒業まではあと1年。成績優秀で、ほとんどの科目で『良』を取り続けているジュナは、きっと自分が巫女候補生になれるという自信があった。

 ある日のこと。
 教室内を歩いていると、ジュナは何かに躓き転びかけてしまう。
 障害物など何もなかったはず――そう思って振り返ると、クスクスと笑いながらこちらを見る女子生徒が数人。

 「あら、ごめんなさい。足が引っかかっちゃったみたぁい。でもぉ、ジュナさんって意外と鈍いのねぇ」
 「あ、いえ……そうですね、ちょっとぼうっとしていたのかもしれません」

 成績優秀で品行方正。そんな人物を妬むものは、どこにでも現れるもの。
 ジュナの存在が気に食わない一部の集団は、これを機に度々ジュナへとちょっかいを出し始める。
 初めのうちは些細な悪戯だったのでジュナも気にしないようにしていたが、その平然とした態度がますます気に障ったのか、悪戯は悪戯という呼び方では済まされないほどにエスカレートしていく。
 ジュナは誰かに相談しようとしたものの、学園の中に自身に関する問題事を生みたくない一心で、親友であるピアにさえ助けを求められずにいた。

 悪戯に耐えながらも2年目の学園生活は続き、卒業試験まであと少し――。
 ジュナは、卒業まで自分が我慢すれば、こんな毎日もきっとすぐ“過去”になる。そう信じて耐え続けていたが、教科書や私物を捨てられ、偶然を装って水をかけられたりと、エスカレートしていく行為に心の限界を迎えていく。
 それでも、ジュナは涙をぐっと飲んで、前を向く事ができた。
 ジュナの心を唯一支えていたのは、ギュスターブからの手紙。
 手紙のやり取りだけが、辛い学園生活を忘れさせてくれていた。
 しかし、いつもならとっくに届いているはずのその手紙が、1週間以上来ていない事に気付く。
 手紙の配達役である小鳥に何かあったのだろうかと心配になったジュナは、いつもの噴水広場にやってくると笛を吹いた。
 だが笛の音は、ただ空へと消えていく。
 ジュナはいても立ってもいられず、たとえ僅かな可能性だったとしても、小鳥を探しに走るのだった。

 ――その頃。学園校舎の一番端にある教室に、複数の人影があった。

 「ふふっ。『親愛なるジュナへ』ですって!」
 「『君が頑張っているから、僕も頑張れる』……なーんて美しい愛なのかしらぁ!」

 ジュナを妬む例の集団が、ギュスターブがジュナに宛てた手紙を次々に回し読みしている。
 机に腰掛け、下品な笑い声を上げながら手紙の内容を茶化す一行。
 その足元には、床に膝をつくピアの姿があった。

 「リュアレさん……もう、それくらいにした方が……」
 「あらぁー? 手紙を持ち出したのはピアさん、貴方ですのよぉ? 貴方だって立派な共犯じゃなくてぇ?」
 「そ、それは……」

 リュアレと呼ばれたリーダー格の女生徒は、途端に興味を無くしたのか手紙を床に投げ捨てた。
 代わりにピアへと歩み寄ると、見下ろすように仁王立ちになる。

 「私に意見するなんて偉くなったものねぇ、ピアさん。ど田舎の『呪われた村』出身の分際で」
 「…………っ!」
 「入学直前に親族含めて村中全員が突然死。そして、唯一生き残ったのが貴方だなんて。呪われているのは“村”ではなく“貴方”じゃなくてぇ?」

 取り巻きの嘲笑が教室に響いた。
 ピアは黙って、ただ俯いている。

 「隠してるようでしたからぁ、私は“好意で”黙っててあげて差し上げたのに。飼い犬に手を噛まれた気分ですわぁ」
 「も、申し訳ありません……」
 「……私達、これからも良い関係を築けるわよね? 貴方も同じ気持ちでいるなら、その手の中にある“ソレ”を処分しなさぁい」

 その言葉にハッとしたピアは、下を向いて自らの手を見る。
 両手を合わせて軽く握られた手の中の空間には、もぞもぞと動く青い羽。
 それはジュナとギュスターブを繋ぐ手紙の、配達役を担っていたあの小鳥だった。

 「し、処分だなんて……そんな……」
 「……そもそも学園では、動物の飼育、手紙の交換は学園の掟で禁じられているはずよぉ? 生徒の模範であるジュナさんの罪は、同室であるピアさんの罪でもあると思わなぁい? さあ、やりなさぁい。たかが小鳥も処分できない無能じゃないでしょぉ?」
 「でも……」
 「ピアさんっ!?」
 「は、はい……!」

 ピアは、もがく小鳥の首筋に両の親指を添える。
 そして目を瞑ると、一度だけ大きく深呼吸をした――。


EPISODE6 小さく冷たい骸「ごめんね……守ってあげられなかったね……。きっと暖かい場所に行けるように、私祈るから……」


 小鳥を探すために学園中を走り回っていたジュナは、最後に自分の教室へと辿り着いた。
 授業はとうに終わり、生徒は皆寮に帰っているため誰もいない。
 夕焼けが教室を照らし、カーテンや机、あらゆる物を真っ赤に染めている。
 それは、美しい青い羽さえも――。

 ジュナは慌てて駆け寄ると、小鳥の亡骸を抱き上げた。
 血液混じりの体液を口から吐き、苦痛に歪む顔のまま絶命しているそれは、一目見て第三者に手をかけられたという事が分かる。
 どんな辛い殺め方をされたのか。したくもない想像をすればするほど胸が痛む。

 「ごめんね……ごめんね……」

 ジュナに責任があるわけではないが、それでも謝らずにはいられなかった。
 その亡骸の頭を何度も撫でていたジュナだが、ふと床に千切れた紙片がある事に気付く。
 拾い上げたその一片には、見慣れた文字。
 かき集めて検証するまでもなく、その紙片が何なのかはすぐに分かった。
 心臓がバクバクとジュナの胸を突き上げる。

 ――誰が? 何のためにこんな事を?

 自室の机の引き出しの奥に忍ばせていた、ギュスターブからの手紙。
 その在処を知り、持ち出せる人物。
 こんな事認めたくない。だが、頭の中に浮かんだ人物がこびりついて離れない。

 「ピア……どうして……」

 ギュスターブがずっと大事にしていた相棒。
 ジュナのために懸命に手紙を送り届ける、あの美しい翼の姿が浮かんでくる。
 それを殺したのは、他ならぬ親友。
 これまで堰き止めていた憤り、苦しみ、悲しみが一気に溢れ出したジュナは、日も暮れかかった誰もいない教室で泣き喚いた。
 まるで小さな子供のように。

 校舎の裏にある小さな森の中にジュナは小鳥を埋めた。
 膨らんだ土を見つめるその瞳に、光はない。
 リュアレ達に目の敵にされ、辛いものとなってしまった学園生活。
 乗り越える事が出来たのは、小鳥が運んでくるギュスターブの手紙があったからだ。
 明日は卒業試験初日。
 巫女に選ばれても、選ばれなくても、ギュスターブにどんな顔をして謝ればいいのか。
 様々な負荷要素に心が押しつぶされるジュナは、森の中で一人呆然と立ち尽くす。

 「私は……それでも前に進まなくちゃ……」

 血反吐を吐くように、ジュナはすでに空になった気力を無理やり振り絞る。
 卒業試験が終われば、この苦しみから幾らかは解放されるはず。
 まるで自身を奮い立たせるように。
 ジュナは自分にそう言い聞かせ続けていた。


EPISODE7 その問いの意味「なぜこんな問題に答えなくてはならないの……? でも今は、ただひたすらに答え続けるしかない……」


 卒業試験当日。
 試験はとある山奥で、早朝に行われると学園側から突如発表された。
 生徒達は当然戸惑うが、否応無しに馬車に詰め込まれ山へと連れていかれてしまう。
 そして辿り着いたのは、山奥に佇む古い洋館を改装した試験会場。
 まずはここで筆記試験を行うのだという。

 それぞれ生徒が座る机の上に、大量の問題用紙が配られていく。
 生徒達は机にうず高くそびえるそれを、深夜までみっちり解き続けなくてはならない。

 教師がハンドベルを振るのを合図に、皆一斉に取り掛かった。
 言語能力や数式といった基本的な勉学はもちろん、巫女として人の上に立つ上での所作など、様々な問題が用意されている。
 内容はハイレベルではあるが、生徒達も皆エリート。苦戦する者もいるが、次々と問題用紙の山は減っていった。

 (さすが卒業試験……確かに難しいけれど、これならいける……!)

 学年主席の肩書は伊達じゃなく、ジュナは誰よりも早く解答を埋めていった。
 怒涛の筆記試験はゆうに8時間は超え、精神的にも肉体的にも疲弊し誰もが憔悴の色を隠せなくなった頃。

 一番初めに異変に気付いたのはジュナだった。

 (この問題……さっきからなんだかおかしいわ……)

 問題内容が明確に答えの存在するものから、答えが漠然としたものへと少しずつ変化していた。

 『恋人と家族が崖から落ちそうになっています。片方しか助けられないとしたら、あなたはどちらを選びますか』

 『どのような仕打ちを受けたら、報復が認められると思いますか』

 『ナイフ一本で人間を殺傷する場合、どの箇所を狙うのが最も効果的ですか。理由も添えて答えなさい』

 『食料のない極限状態の下、あなたは隣にいる友人を食さなくては生き残れません。どのように説得、または凶行に及びますか』

 漠然としていた問いは、やがて直接的な暴力をほのめかす内容となっていく。
 それは解き進めるほどに凄惨さを増していき、ついには気分を害して脱落してしまう生徒も現れ始めた。
 ジュナも例外ではなく、確実に心にダメージを受けていく。
 だが、直近に身をもって辛い目に遭っていたジュナの心は麻痺しており、うつろな瞳を浮かべながら黙々と問題に取り掛かり続ける。

 「お父様……お母様……ギュスターブ……」

 現実から逃避するように、ジュナは小さく呟き続けていた。


EPISODE8 凶行は塔の中で「このままじゃ、私は殺されてしまう……でも……だからといって、この手を汚すなんて……」


 数日後、ついに最終試験の日がやってきた。
 初日の筆記試験の後は格闘実技や座学などが淡々と行われ、その度に生徒達は振るいにかけられていった。
 ここまで辿り着いたのはわずか10名。その中に、ジュナの姿もある。
 最終試験会場として彼女らが呼び出された先は、今までの会場とはまったく違う窓ひとつ無い暗い塔の中。
 およそ試験など行われそうにない空間に戸惑っていると、塔の中に試験官らしき人物の声が響き渡る。

 『あらゆる方面に秀で、ここまで残る事ができた者達よ。まずはおめでとう。早速だが、これより最終試験を始める』

 試験管の声を聞きながら、ジュナの目は闇に慣れ始める。
 足音や声の反響から、がらんとして何もないと思っていた塔の中。
 だが目を凝らすと、ぐるりと周囲を囲う壁一面に、様々な物品が置いてある事に気付いた。
 斧、剣、ナイフ、棍棒、弓矢、その他様々――――。

 『試験内容は至って単純なものだ。君達には最後の一人になるまで戦い合ってもらう。なお、方法や生死は問わない。では、始め!』

 ――今、何と言ったの?
 戦い合う……?
 戦うって、傷つけ合うという事?
 もしかして、あの武器を使って……?
 そんな事をしたら、怪我なんかで済むわけない……!

 突然突きつけられた過酷な試験内容に、ジュナの頭は混乱する。
 それはジュナだけではなく周りの生徒も同じだったようで、開始の合図を告げられてなお、その場から動く事ができずに戸惑うばかりだった。
 だが、その混乱を打ち破る者が現れる。
 それは静謐さの欠片もない、醜い咆哮。

 「おらあああぁぁぁーーーー!!!」

 ジュナがその声に反応し振り向こうとした瞬間。
 背中に激痛が走ったかと思うと、とっさの事に受け身を取れなかったジュナはそのまま前のめりに倒れてしまう。
 顔を床に打ち付けたジュナの鼻から、赤黒い血が吹き出す。
 鼻血を出すなど、ジュナにとっては初めての経験だった。
 ジュナは顔面と背中の痛みを堪えながら、何とか身を起こし振り返る。
 そこには、リュアレの姿があった。

 「ふー! ふー!! 私はっ、巫女になるのっ!! 必ず……必ずっ!!」

 両手には今しがたジュナの背を打ち付けた棍棒が握り締められている。
 荒い呼吸と血走った目。
 底意地は悪くも、名家の生まれらしく優雅な普段の振る舞いはどこにもない。
 ただ、リュアレがどんな手段を使ってでも巫女になるという覚悟を持っている事は、痛いほど伝わってきた。

 ――私、ここで死ぬの?

 死が現実となって目前に迫っている事を実感した瞬間、ジュナは恐怖で脚がすくみ、動けなくなってしまう。
 打ち付けた背中と顔がドクドクと熱を持つ。だが、それにも気付く事はない。
 動け、動かないと殺される。
 そう思えば思うほど、身体は硬直してしまう。

 「もらったっ……!!」

 その声に、ジュナが身を竦めた瞬間だった。
 リュアレが握り締めた棍棒を振り上げたその肩に、手斧が深々と突き刺さった。
 断末魔の叫びを上げるリュアレから、骨まで達した手斧を無理やり引き抜き、その人物は叫ぶ。

 「ジュナっ!!」

 それは、聞き慣れた力強い声。
 それは、学園生活を最も共に過ごした親友の声。

 「ピア!!」

 ジュナは自然と呼応する。
 本来であれば、ジュナに非道い仕打ちを加えた拒絶すべき相手。
 だが、縋る先もなく、過酷な試練で心身ともに削られて限界状態のジュナにとっては、一筋の希望の光に見えた。
 事実、ピアはジュナを守った。
 その手を汚してまで。

 「ジュナ。今は心を無にして、自分の身を守る事だけ考えて」

 ピアの言葉にジュナは黙って頷くと、リュアレが落とした棍棒を手に取った。
 そして互いを守るように、ジュナとピアは背中合わせになって構えを取る。
 極限下における錯覚かもしれない。
 それでもジュナは、背中から伝わる親友の熱の有り難みを噛み締めていた。


EPISODE9 満たされる血の香り「仕方なかったのよ……やらなきゃ、やられるから……一人じゃなかったから……私は生き延びた……」


 「自分の身を守るため……自分の身を守るため……」

 ジュナは心の中でそう何度も繰り返しながら、身に降りかかる火の粉を払い続けた。
 ――いや、戦い続けた。
 戦いの中で、棍棒を落とせばナイフを、ナイフを奪われれば斧を。
 次々と持ち替えては、学友の肉体へと振り下ろす。
 凶行は日を跨いでも続き、いつしか塔の中は血の匂いで充満していた。
 気づけば残っているのはジュナとピアの二人だけ。他の候補者はあちこちに横たわっているが、その生死は定かではない。
 かくいうジュナ達も心身共にボロボロであり、これ以上は命に関わるほどの血を流している。
 張り詰めた緊張が解けたジュナは、力なくその場にへたり込んでしまった。
 そんなジュナに寄り添うように、ピアも同じように力なく座る。
 しばらくそのまま、互いに一言も発することなく息を整えていた二人だったが、沈黙を破ったのはピアの方だった。

 「ジュナ、ごめんなさい。貴方に謝らなければいけない事があるの」
 「……知ってる。小鳥の事でしょう。もう言わなくていいよ」
 「ジュナ……」
 「許す……とは今はまだ言えないけれど、ピアにもきっと事情があったんでしょう? どうしてあんな事をしたの?」
 「……リュアレに、私の故郷の事を知られてしまったから……それを秘密にする代わりに、命令を聞くしかなかったの……」
 「そう……だったんだ。ねえ、ピア。ピアが故郷の事を話したがらないのは何となく気付いていたけれど、それって私にも言えない事なの?」

 ジュナからの問いに、苦虫を噛んだような、それでいてどこか微笑を浮かべるピアが答える。

 「……私の一族はね、この都で言うところの邪教徒なんだ」
 「邪教……」
 「そう。アテリマ教を信じないで異教の神を信仰する教徒。特にフェリクス一派は異教に厳しいから、ジュナの両親に会ったら殺されちゃうかもね」
 「そんな……」

 驚くジュナをよそに、ふいに立ち上がったピアは「うーん」と唸りながら身体を伸ばした。
 そして、座ったままのジュナに笑顔を向ける。
 その顔は、学園での毎日を楽しく過ごしていた頃の眩い笑顔そのものだった。
 晴れやかで、澄み切っていて、まるで何か大きな仕事をやり遂げたような。

 「最後だし、せっかくだから私の事を教えてあげるね」

 ジュナだから、特別。そう言ってピアは語り始める。
 数年前、異教であるピアの一族が、アテリマ教に染まり切った国の牙城を崩さんと日々情報収集を続けていくうち、とある事実を掴んだ。
 それはジュナ達の通う学園と、巫女継承の儀に隠された闇。

 「ねえ、ジュナ。学園はどうして私達にこんな酷い試験を与えたと思う?」
 「それは……分からないわ……」
 「この試験そのものが、精霊継承の儀だからだよ」


EPISODE10 ティオキアの真実「いいよ……私の全部、貴方にあげる……。だから……必ず幸せになって……約束よ……」


 殺し合いをさせて人間を極限状態に起き、その命に強烈な生への渇望を強制させる。
 そうして、生と死が生み出す混沌を精霊へ捧げ、より強大な力を生き残った者へ与え巫女とする。
 言うならば、強い力を持つ巫女を生み出すために多数の候補者の命を生贄にする行為。それを、もう数え切れないほど何代も前から繰り返し行い続けているのだと、ピアは言う。

 「それがこの試験の意味。他国に比べて、水の精霊の力が抜きん出ているのはそういう裏があったから。ティオキアの豊穣な大地を守るために、何人もの候補生達が殺されてきた」
 「そ、そんなの信じられないわ! それに、それほど多くの人が殺されたら、家族が黙っているはずない!」
 「記憶を改竄させるの。精霊の力を降ろしたばかりの巫女を薬で操って、候補生の事を知る人は家族でさえ“最初からいなかったように”思わせる。初めは多少の違和感は残るかもしれないけれど、精霊の力を使えば人の身体や記憶なんてどうにでもなるわ……」
 「嘘……嘘よ……」

 にわかには信じられない話だが、もしもそれが本当であればジュナが信じてきたもの全てが崩れてしまう。
 ティオキアという都、両親の教え、憧れた巫女という存在そのものさえも。
 だからジュナは、ピアの話に小さく首を振り続けるしかない。
 そんな様子を呆れるように鼻で笑ったピアが続ける。

 「それを知った時、私はチャンスだと思った! みんなから迫害されて、掃き溜めのような所に隠れながら送る惨めな暮らし。そんな暮らしをやっと捨てる事ができるって! うんざりだったの! 異教の家に生まれたからといって、害虫のような生活を送るのは!!」

 ピアは俯いて、まるで泣いているように肩を震わせていたかと思うと、クスクスと笑い出した。
 その声は次第に堪えきれなくなり、塔の中にピアの高笑いが響いていく。

 「……ピア?」
 「……巫女になれば、新しい私に生まれ変わる事ができる。だからまず、一族もろとも村中の人達を殺して学園に入学したの。試験は大変だったけどね。でも、まさかあんな辺鄙な所にある村の事件をリュアレが知っていたのは驚いたわ」
 「な、何を言っているの……?」
 「まだ理解できないの? 本当にジュナはお人好しなんだから。でも、そんなジュナがルームメイトだなんて本当に幸運だった。成績優秀、文武両道、生まれも良い。まさに巫女になるのにふさわしい女の子なんだもん」

 聡いジュナは、決して理解していないわけではなかった。
 ただ、アテリマの教え以上に自分が信じたくなかっただけ。
 笑い合って、励まし合ったあの日々が嘘だったと、信じたくなかっただけだ。

 「……ジュナ。貴方のこと、たくさん教えてくれてありがとう。精霊の力は、記憶を忘れさせる事はできても、知らない事を覚えさせる事はできないから。精霊の力を継承したら、まず私はティオキアの民の記憶を消して――」

 ピアは一息つくと、まっすぐにジュナを見つめて言った。

 「――貴方に生まれ変わる。フェリクス家に生まれた才女、ジュナ・フェリクスとしてね。誰も私の事をピアだなんて認識できないように」

 少女達を生贄にして得た強大な力。それを使ってジュナと入れ替わる。
 ピアが虎視淡々と狙っていた計画の全てを聞いたジュナだったが、不思議と心は穏やかだった。
 怒りやおぞましさは感じない。
 ただ、どれほど辛い境遇に置かれたらこのような事を考えてしまうのだろうと、目の前の親友が不憫でしょうがなかった。

 「そんな事しなくても……ピアは幸せになれるよ……」
 「ありがとう。でも、私は自分が大嫌いなの。これくらいしないと、本当の幸せは掴めない」
 「私は……ピアが好きだよ……ずっと友達だと思ってる」
 「……ふふ。ジュナはすごいなぁ。強くて優しくて、私にはないものばかり持ってて……ほんと、大嫌い」
 「ピア……」

 手斧を持ったピアが、見下ろしながらジュナへと近づいていく。
 怯えるジュナを見て、初めて悲しそうな表情を浮かべた。

 「謝らなきゃいけない事があるって言ったじゃない? それは小鳥の事じゃないの」

 そう言って、手斧を振りかぶる。

 「ごめんね」

 振り下ろした手斧はジュナの首に深々と突き刺さり、その身体は折れるように倒れた。
 床にはジュナを中心に大量の血液が染み渡っていく。

 「ピ……ア……私の、ほうこそ……ごめ……」

 ジュナは倒れたままそう呟くと、事切れた。
 それを能面のような表情で見つめていたピアは、おもむろに塔の中を歩き始めた。
 壁面に沿うように、屋上へと向かって剥き出しの螺旋階段が伸びている。ピアはその一段目に足をかけた。
 情報によれば、塔の屋上に構えられた祭壇に精霊が祀られている。
 それを自身の身に降ろせば、ピアの計画は終わる。
 ――その時だった。
 どこからか監視していたのか、最後の一人になった事を確認するために数人の試験官が施錠を開けて塔に入ってきた。
 それに気付いたピアは、階段を駆け上がっていく。
 本来であれば、巫女継承の儀は試験官主導で行うもの。異変に気付いた試験官は、慌ててピアの後を追う。
 追手の姿を確認し、さらに速度を上げて階段を走るピアの頭の中には、同じ言葉が繰り返し繰り返し流れ続けていた。

 『ピアが好きだよ。ずっと友達だと思ってる』

 ――嘘だ。
 殺されるのが怖くて言っただけ。
 内心では私を馬鹿にしていたんだ。

 だが、自分の利益のためにジュナに近づいた結果、誰よりもジュナの事を理解しているのはピア自身だった。
 本当は気付いている。その言葉が決して嘘なんかではないという事を。
 その証拠に、ピアの目には涙が溢れる。

 ――私がアテリマ教徒の家に生まれていたなら……何も知らず幸せになって、ずっと親友でいられたのかな……ジュナ……。

 涙を振り切るように階段を駆け上がる。
 試験官の手は届かない。
 ピアが屋上に続く扉を開け放つと、強烈な光が塔の中に差し込んでくる。
 その光に照らされたピアの表情は、穏やかな笑顔だった。


EPISODE11 ジュナ・サラキア「記憶の中に、何か大切なものがある気がするのです。でもそれを掘り返すのは、なぜかとても怖い……」


 ――あの時の事を思い出そうとすると、今でも頭にモヤがかかったようで、はっきりとしません。
 学園生活の記憶は曖昧で、ただ残っているのは楽しかったという感覚だけ。
 不思議な事に、卒業してから同学の方とお会いする事も一度もないのです。
 これも精霊の力の影響なのでしょうか。
 でも、こうして私が巫女に選ばれたのは、何か神のご意志によるものなのでしょう。
 その意思に従って、私は私の役目を果たしましょう――。

 ティオキアの都から少し外れた丘の上にそびえる屋敷。
 屋敷のテラスで、水の巫女は日記のようなものを書き走らせていた。

 「ジュナ様。ギュスターブ様よりお話があるとお待ちです」
 「分かりました。すぐに行きます」

 侍女の呼びかけに返事をして、水の巫女は日記を閉じると屋敷の中へと歩き出す。
 慈愛に満ちた表情で、美しい青髪をなびかせる水の巫女。
 それは、紛れもなくジュナの姿だった。

 あの日、塔の中で行われた精霊継承の儀。
 完遂されると思われたピアの計画だったが、ひとつの誤算があった。
 それは、想像以上に精霊の力が強大だった事。
 確かにあの時、精霊の光は少女達を包み込んだ。
 敗れた少女達を、ジュナを、そしてピアを。
 ジュナを含む少女達は贄となり、新たな巫女としてピアが降臨する――そのはずだった。
 だがピアの肉体と心は、精霊に“選ばれなかった”。
 “容れ物”としてふさわしいと精霊が選んだのは、あらゆる面において秀でていたジュナの肉体。
 精霊は、少女達の記憶を、素養を、才を、肉を。まるでチョコレートを溶かすように混ぜていった。
 混ざり合ったそれは、ぐにぐにと動き始めると、次第に人の形を為していく。
 それは、ジュナを象った新たな容れ物であった。
 そして最後に精霊は、ただ一人生き残ったピアの命だけを動力として容れ物へ吹き込んでいく――。

 そして現在、屋敷の廊下を水の巫女が歩いている。
 彼女はあの日、塔で生まれた新たなジュナ。
 ジュナと共に切磋琢磨し、そして殺し合った少女達――彼女達は、その存在を誰の記憶にも残さないまま、今もジュナの中で生き続けている。

 「お待たせしてごめんなさい、ギュスターブ」
 「ジュナ様。お手を煩わせてしまい、大変申し訳ありません」

 ギュスターブは、すぐさま膝をついて恭しくジュナの手を取る。
 そして、その手の甲に忠誠を示すキスをした。
 飾り気のないジュナの指に、ひとつだけ嵌められた指輪が光る。
 そこには、彼女の家のものではない家紋が彫られている。

 「ありがとう。それで、何かあったのですか?」
 「はっ。実はティオキア内で、邪教の動きが活発になっているという報告がありまして……」
 「まあ、それはいけませんね。異教の神を崇めるなど、ネフェシェ神がお怒りになるでしょう。私がお話してみます」

 ティオキアの都や神を貶める行為は、当然巫女としても見過ごせない由々しき問題だ。
 だが、そんな問題へ対応するために指示を出しながらも、ジュナは口許に薄く笑みを浮かべている。
 それは慈しむような。
 それでいて憐れんでいるような。
 微笑みの意味は、ジュナだけにしか分からない。


チュウニズム大戦

レーベル難易度スコア
スキル名/効果/備考
★シビュMAS0 / 400 / 800
リバースコンボ(前回ミス→コンボ)
自分と次のプレイヤーは、前回出したカードが
MISSの時、それをCOMBOにする。



■ 楽曲
┗ 全曲一覧( 1 / 2 / 3 ) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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