ライチ・アエーシュマ

Last-modified: 2024-09-20 (金) 21:35:31

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


通常Outlaw Strike
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Illustrator:メノウ


名前ライチ・アエーシュマ
年齢333歳(外見年齢18歳)
職業悪魔
  • 2024年6月20日追加
  • LUMINOUS ep.Ⅳマップ3(進行度1/LUMINOUS PLUS時点で195マス/累計535マス)課題曲「イーヴィルガール」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「ライチ・アエーシュマ/Outlaw Strike」へと名前とグラフィックが変化する。

魔界を統治しながら退屈な日々を過ごしていた悪魔。
突然異世界に召喚され辿り着いた場所は…?

ストーリーには全体的にSEGAが手掛けるゲーム「龍が如く」のパロディが多く含まれている。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ゲージブースト【LMN】×5
5×1
10×5
15×1


ゲージブースト【LMN】 [BOOST]

  • ゲージ上昇率のみのスキル。
  • 初期値からゲージ6本に到達可能。GRADE 151から7本到達も可能になる。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、SUN PLUS終了時点のゲージブースト【SUN】のGRADEに応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400で上昇率増加は打ち止めとなる
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ6本可能(160%)
    1175.00%
    2175.10%
    3175.20%
    51180.00%
    101185.00%
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    151190.00%
    251200.00%
    351210.00%
    400~214.90%
    推定データ
    n
    (1~)
    174.90%
    +(n x 0.10%)
    シード+10.10%
    シード+50.50%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2024/05/23時点
LUMINOUS15181193.00% (7本)
~SUN+281203.00% (7本)
所有キャラ

所有キャラ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 眠らない街「あのゲームに出てた街、神舞伎町……いつかボクも行ってみたいな」


 ――新宿神舞伎町。
 きらびやかなこの街は、様々な店と多くの人々で賑わい、活気づいている。
 しかし、その裏では……この街を手に入れようとするヤクザ同士の抗争に多額の金が動く裏カジノ、表では出せないモノを取り扱う闇市が蠢く。

 繁栄と破壊と暴力。
 表と裏の顔を持つ神舞伎町を人々はこう呼んだ。
 『眠らない街』と。

 「やっぱりいいな、神舞伎町……」

 ゲーム画面を見ながら、ボクは大きくため息をつく。
 今やっているのは新宿にある神舞伎町を舞台としたヤクザが主人公のゲームだ。

 『ドラゴンのように絶』

 人気シリーズで神舞伎町のリアルさも売りらしい。
 まだ他のタイトルはできてないけど、このゲームが本当に好きでずっとハマってる。

 「なんでボクの街はこんなに平和なんだろ」

 窓から街を見下ろすと、そこには統治を任された魔界の街が広がる。
 ゲームのように何か事件が起こるわけでもなく、いつも平和だ。
 平和すぎて、逆に気に入らない。
 そんなボクの心を満たしてくれるのは、破壊と暴力があるゲームの世界。
 チンピラをボコボコにしたり、ギャンブルしたりミニゲームを遊んだり……。
 飽きること無く楽しめる最高の世界だった。
 それに比べて、魔界と来たら……。

 「はあ……」

 ボクが今の領地を統治することになってからはこれっぽっちも面白いことが起こらない。
 この領地も最初こそ荒み切っていたが、今ではボクに歯向かう悪魔もいなくなった。
 ……そう、ボクはこの領地でテッペンを取ったんだ。

 「テッペンを取っても、相手がいなきゃね……」

 ボクと張り合えるような相手が欲しい。
 ボクは、飢えていた。
 神舞伎町……伝説の男がいる街なら、この退屈な生活も変わったりするのかな。

 「ああ、もうっ! めちゃめちゃ行きたいのに!なんで領主なんかになっちゃったんだろ!」

 面白そうだからって引き受けたはいいものの、
こんなあっさり終わるなんて思わなかった。
 もっとこう、抗争とか反対勢力とかが出てきて楽しめると思ってたのに。
 かといって、領主をぽんと捨ててどっかに行くのは『筋が通らない』からなぁ。

 「神舞伎町に行きたいな……」

 ため息混じりでそう呟いたボクの足元が、突然光り始めた。

 「魔法陣……これは、召喚の術式だ! フ、このボクを呼び出そうなんて、どこのバカだよ。こんなのに付き合ってるヒマは――」

 ボクにいたずらした悪い子をオシオキしてやろうと思ったけど、術式をたどってみたら、召喚される場所がまさかの人間界。
 ボクの頭脳がささやいた。

 このまま応じれば、『召喚されたから仕方ない』っていう大義名分ができるんじゃないか、と。

 「どこの誰かわからないけど、このチャンス、使わせてもらうよ!」

 視界がどんどん光で白くなっていく。
 見飽きたボクの部屋が光で見えなくなると、浮遊感に包まれた。
 念願の人間界。
 これでやっと聖地巡礼ができる。
 まずはどこから見に行こう。ワクワクしてきた。
 そんなことを考えているうちに、ボクは人間界へと転移していた。
 目を開けると、ボクの目の前にはひとりの女の子が。

 「……ボクを呼び出したのはお前か?」
 「えっ……?」

 困惑したようにボクを見てくる女の子。
 自分が呼び出したっていうのに、なんでこんな反応なんだろう。

 「おい、ボクは遊んでる暇はないんだよ。もう一度聞くけど、呼び出したのはお前?」
 「は、はい……!」
 「そうか、わかった。ところでここはどこ?」

 ビルとビルの隙間にあるちょっとした空き地。
 ここが日本だってことまでは、術式でわかっていた。

 「ここは――」
 「いや、いい。ボクが自分で確かめるから!」

 ボクは空き地から飛び出して街道へと出る。

 「……え?」

 目の前に広がる街の風景を見て、ボクは息を呑んだ。
 そこに広がっていたのは、ゲームで何度も見て、何度も通ったあの街――

 「神舞伎町……?」


EPISODE2 神舞伎町の闇「せっかく神舞伎町に来たってのに、なんだこれ。ボクが知ってる神舞伎町はどこ……?」


 「本当に神舞伎町じゃんか! マジで!? 本当に来ちゃったのか、ボク!」

 目の前の光景にボクは興奮を抑えられなかった。
 当たり前だ、憧れの街に来たんだから。

 「あ、あの……」
 「ちょっと待って、お前の相手はあとでしてやるから今は街を楽しませてよ!」
 「は、はい!」

 まずはどこから回っていこうか。
 いや、最初はサウザンドタワーからだ。
 ああいうバカでかい建物は、爆破されるためにあるんだよな。

 「確かこっちのはず」

 ボクは頭の中の地図を頼りにタワーを目指している……はずだったんだけど。

 「えっ、ここどこ?」

 あれだけ見ていた街のはずなのに、まるで別の街のように感じてしまう。
 全部が全部ちがうわけじゃないけど違和感がある。

 「って、なんだよ、あれ!?」

 サウザンドタワーがある場所に来ると、そこに見慣れたタワーはなかった。
 代わりにあったのは、おかしな怪獣が乗っているへんてこなビル。

 「どういうことだよ!? あのヘンテコはどこから出てきたんだ!」
 「知らないんですか、ガジラのこと」
 「ガジ……なんだって?」

 ボクのことを追いかけてきていた女の子が、妙な名前を口にする。

 「ガジラですよ、ガジラ。有名な怪獣映画ですけど、知らないんですか?」
 「……初めて聞いた」

 ボクの知ってるタワーじゃないなんて。
 いや、でもたまたまここがそうだったってだけで他の聖地はきっとあるはず。

 「次の場所に行くよ!」
 「あっ、待って!」

 ボクは思い出に残っている場所を巡っていく。
 組の事務所、飲み屋、ミニゲームの店。
 どこにあったか覚えてるのに……。

 「なんで……どれもないんだよ……」

 そのほとんどが取り壊されていたり、違う店やビルになっていた。
 再現度が高いってことで有名なゲームだったのに、なんでこんなに違うんだろ。
 街の様子だって、ボクが知ってる神舞伎町じゃない。
 なにかがおかしい。

 「なあ、ここは本当に神舞伎町なのか?」
 「は、はい、そうですけど……」
 「……お前は『ドラゴンのように』ってゲームを知ってるか?」
 「え? ちょっと待ってくださいね」

 そういうと女の子はなにか取り出して操作し始める。

 「おい、なんだそれ?」
 「なにって、スマホですよ?」
 「すまほ……?」
 「これで電話したり、ネットで調べ物とか買い物ができたりするんですよ」
 「つまり携帯電話ってことか?」
 「携帯電話なんて、今はそんな呼び方しませんよ。あっ、すみません……魔界の方なら知らないですよね」
 「お前、ボクをバカにしてるのか?」
 「ち、違います!」

 ずっと「すまほ」を見ていた女の子が、ボクのほうを見た。

 「ええっと、当時の神舞伎町を再現したヤクザのゲームですか。ああでも、当時って言っても十何年も前のやつですね」
 「なにっ!?」

 女の子のスマホを奪って画面を見ると、確かにそう書かれていた。
 ボクが憧れてた神舞伎町が過去の姿だったなんて。

 「ここはボクが知ってる神舞伎町じゃないのか」
 「あ、あの、落ち込まないでください……」
 「落ち込みたくもなるよ! ボクがどれだけここに来たかったか知らないだろ! 楽しみにしてたんだからな!」
 「ご、ごめんなさい!」
 「いや、別にお前が謝ることじゃないだろ。それにしても、随分と小綺麗な街になっちゃったな。ヤクザとかいないのか?」
 「そういう話は聞かないですね。昔は酷かったみたいですけど、今は喧嘩もないですよ」
 「なん、だと……!? 暴力や破壊がない神舞伎町なんて、神舞伎町じゃない!」
 「で、でも、悪い人がいなくなったわけじゃ――」
 「本当か!? くわしく教えろ!」
 「え、ええっとですね……」
 「ちょっとそこの君」
 「は? 誰だ……って、警官?」

 急に後ろから声をかけられて振り向くと、警官が笑いかけてきた。

 「こんな時間にひとりでなにやってるの?」
 「なんでそんなこと、お前に教えなきゃいけない。それにボクはひとりじゃ……あれ?」

 近くにいたはずの女の子が、いつの間にかいない。

 「答えたくないなら、署の方で聞こうか。最近は君みたいな家出少女が多くて困ってるんだよ」
 「ちょっ!? 観光だよ、観光! せっかく神舞伎町に来たんだから見て回ってたんだ!」

 ふふん、サツに連れて行かれると面倒っていうのは、ゲームで学んでるんだ。

 「……観光ね、確かに地元の人じゃないみたいだ。珍しいのはわかるけど、夜遅くまでいないほうがいい。君みたいな女の子は特にね」
 「わかってるって」

 納得はしてないようだな。
 時間を置いて見回りに来るかもしれないし、適当に場所を変えるか。

 「はあ、やっと行ってくれた……」
 「お前どこにいたんだよ」

 あの女の子が、いつの間にかボクの隣にいた。

 「どこに隠れてたんだよ、サツに見つかると都合が悪いことでもあるのか?」
 「……警察のことは、あまり好きじゃないから」
 「へー……まあ、ボクには関係ないか。で? さっき言いかけたこと聞かせろよ」
 「あっ、はい……実は神舞伎町って表向きは喧嘩の無い平和な街に見えるんですけど裏は違ってて……」
 「おおっ! 本当はヤクザ同士が抗争してるのか?」
 「いえ、悪魔です……」
 「はあ?」
 「この神舞伎町には悪魔がいるんです!」
 「お前、なに言ってるのかわかってるのか? そう簡単に悪魔を呼び出せるわけが――いや待て……お前、どうやってボクを呼んだんだ?」

 神舞伎町に来てテンション上がって忘れてたけど、悪魔を呼ぶのだって簡単じゃない。
 それこそ呼び出せるだけの才能や力が必要だ。
 こいつに、それがあるとは思えないな。

 「これは噂なんですけど、この神舞伎町がパワースポットみたいなのになってるみたいなんです。だから、誰でも悪魔を呼び出せるみたいで……」
 「この街が? ちょっと待ってろ」

 ボクは街に流れている魔力や、力の流れに意識を向けてその流れを調べる。

 「……なるほど、確かに悪魔を呼び出すための舞台が整ってるようだな」
 「はい。なので、ちょっとでも素質があれば悪魔を簡単に召喚できるみたいです」
 「お前もその素質持ちだったわけか」
 「素質があるかどうかはわかりませんでしたが、どうしても力を借りたくて、ダメ元で……」

 この街の力を借りたとはいえ、ボクみたいな力を持つ悪魔を呼び出せるんだ、その素質もバカにできない。
 でも、問題なのはそこじゃないな。

 「他の連中も悪魔を呼んでんのか?」
 「はい。今、神舞伎町では悪魔の力を使って悪いことをしている人たちがたくさんいるんです……警察も相手が悪魔だから手の出しようがなくて」
 「なるほどな」
 「私、この街にしか居場所がなくて……でも、悪魔の力が怖くて、その……」
 「ボクを用心棒にしたかったわけか」

 ボクがそう言うと、女の子は無言でうなずいた。

 「……気に入らないな」
 「えっ? ご、ごめんなさい! そうですよね、そんな用心棒だなんて……」
 「お前じゃない、この街の連中が気に入らないんだ。テメーの拳で喧嘩もしねえで、悪魔の力で悪さってのは筋が通らない! そんな神舞伎町は、ボクが憧れた神舞伎町じゃねえよ! おい、お前! 名前は?」
 「は、はい! ええっと、レイカです!」
 「レイカだな、オッケーわかった! ボクの名前はライチ・アエーシュマ! ライチ様と呼べ、いいな?」
 「わ、わかりました、ライチ様!」

 ネオンの光に照らされた神舞伎町を見回す。
 この光に隠れて悪魔の力を使う人間たちがいるなら、そんなのはボクがぶち壊してやる。
 なにより、こんな神舞伎町は気に入らない。
 そんなコソコソした、クソ根暗な危ない街じゃなく、あのゲームみたいな、暴力と破壊に満ちたギラッギラのブチアガる神舞伎町にしてやるんだ。

 「待ってろよ、悪魔ども。このボクが、テメーらを魔界送りにしてやるからな!」


EPISODE3 神舞伎裏三銃士「三銃士だか、四天王だか知らないけど、そいつらが原因ならぶっ飛ばすだけだ!」


 ボクはレイカが寝床にしてるらしい広場で、腰を落ち着かせることにした。
 どうやら、ここはレイカみたいに居場所が神舞伎町にしかない連中が集まる場所らしく、レイカと似たような年齢の人間が多くいた。
 その広場のことを、ボクは「ネグラ」って呼んでる。

 「あ、あの、私のお願いなんですけど――」
 「待った。それを今聞くわけにはいかない」
 「えっ……?」
 「悪魔は召喚されたら願いを聞いて契約する。そのへんのことは知ってるよな?」
 「はい、もちろん」
 「その願いが叶ったら、ボクは魔界へ帰ることになる。けど、今はやらなきゃいけないことがある。わかるな?」
 「つまり、そういう事故を無くすためにお願いは聞かないってことですか?」
 「そういうこと。理解が早いのはいいことだよ。そういう頭のいいやつ、ボクは好きだ」
 「は、はい、ありがとうございます!」
 「さてと、街にいる悪魔を片付けたいけど……これからどうするかな」
 「ライチ様の魔法でなんとかできないんですか?」

 ボクは指を振った。

 「ボクが一方的に魔法を使ったら、筋が通らない」
 「そ、そうなんですね……」
 「さて、話を戻そう。悪魔のやつをどうやって見つけるかだが」
 「あっ、それなら……」

 ――しばらくして。

 「な、なにしやがる! お前だって俺と同じ――」
 「チンピラみたいに喧嘩ふっかけといて、ボクをテメーと同列に扱うんじゃねえよ!!!」

 ボクは悪魔の首根っこを掴むと魔界へとつながる一方通行の魔法陣へと投げ込む。

 「うわあああっ!?」
 「一丁上がりだな」
 「あ、あの、ありがとうございます!」

 悪魔を強制送還させると女性が近づいてきてボクに向かって頭を下げる。

 「次からは気をつけろよ。どこから悪魔が来るかわからないからな。またなにか困ったことがあったら、ボクのとこに来いよ」
 「はい!」

 ネグラに帰ってくるとレイカが出迎えてくれた。

 「おかえりなさい、ライチ様。どうでしたか?」
 「やっぱり悪魔の仕業だった。ソッコーで魔界に送り帰したよ」
 「そうだっだんですね、ケガは……」
 「するわけないだろ、ボクを誰だと思ってるんだ」
 「そ、そうですよね。あっ、そういえば、また依頼が来てて……」

 ボクたちが悪魔を見つける方法とは、神舞伎町で困っている人から依頼を受けることだった。
 この街での厄介事といえば、大抵は悪魔絡みだ。
 レイカの案は見事にハマった。

 「――高収入バイトに行ったまま帰ってこない、か」

 レイカが引き受けた新しい依頼は、バイトに行って行方不明になった女性――ヒナの捜索だ。
 この神舞伎町でどうやって人探しをするか困ったけど、思ってたより早くヒナのバイト先は見つかった。
 ボクとレイカは、バイトの内容が書かれたメモに目をとおす。

 「商品のピッキング……ってなんだ?」
 「注文された品物を箱とかに詰める仕事ですね。そこまで力もいらないし、女の子にもできる人気のバイトですよ」
 「へえ、なるほどな」
 「でもこれ、報酬が相場の10倍はあります。普通はありえません」
 「まあ、何か裏があるんだろうな。調べてみるか」

 ボクとレイカがビルの中に入ろうとすると、急に女性が出てきて、危うくぶつかりそうになる。

 「ちょっ!? お前、急に出てきたら危ないだろ!」
 「……」
 「おい、聞いてるのか?」
 「待ってください、ライチ様。この人、もしかしてヒナさんじゃないですか?」
 「えっ?」

 レイカに言われて女性の顔を見てみると、依頼主がくれた顔写真によく似ている。

 「うーん、それにしては痩せ過ぎじゃないか?」

 少しぽっちゃりしてると依頼主から聞いていたが、目の前にいる女は痩せている、というかやつれてる。

 「あ、あの、ヒナさんですか?」
 「はい、そうですけど……あなたは?」
 「ボクたちはお前の友達から依頼を受けたんだよ。ヒナを見つけてほしいってな」
 「わたしを……?」
 「さっさと帰るぞ」
 「待って、わたしには仕事が――」

 ヒナを引っ張って連れて行こうとした瞬間、頭が割れそうなほど大きな音が響き渡る。

 「うわっ、なんだこの音は!?」

 耳を塞いでも音が頭の中で響く。

 「これは鐘か!? くそっ! いったい、どこのバカが鳴らしてんだ!」
 「ああ、鐘の……鐘の音が聞こえる……!」
 「ど、どうしちゃったんですか、ふたりとも!?」
 「お前、このバカでかい鐘の音が聞こえないのか?」
 「か、鐘の音?」

 ボクとヒナにしか聞こえない音。
 ということは、この音はもしかしたら……。

 「は、早くバイトに行かないと……鐘の音がやまない……鐘の音を止めないと……」
 「あっ、おい待て!」

 まるでなにかに取り憑かれたように駆け出すヒナを止めようとして、腕を掴み損ねてしまう。
 ヒナはその足でエレベーターに乗ってしまった。

 「くそっ!」
 「彼女はきっとバイト先に向かったはずです。追いかけましょう!」
 「わかってるよ! エレベーターが止まったのは……6階か!」

 階段を使って6階まで駆け上がると、ヒナのバイト先であろう事務所が見える。
 そこには『ニコニコ人材派遣サービス』と書かれた
看板が立てかけられていた。

 「人材派遣?」
 「会社がほしい能力を持った人を紹介する会社のことですね。ヒナさんはここから違う会社に行ってるんでしょうか」
 「入ってみたらわかるだろ!」

 会社の前までくると、受付に誰かが座っていた。

 「会社のヤツに見つかると厄介だな。別の場所から入る方法は……」
 「でも、ここしか入り口がないですよ?」
 「うーん……おっ、そうだ!」
 「もしかして、魔法を使うんですか?」
 「だから、一般人を相手に魔法は使わない。だから、お前に働いてもらうぞ」
 「えっ、私が?」

 レイカに作戦を伝えるとボクは物陰に隠れてその時を待つ。

 「おねえさん、おねえさん!」
 「えっ、どうしたの? あなたみたいな若い子が、ここになんの用?」
 「ここでお父さんが働いてるって聞いたの。だから、会わせてください!」
 「お父さん? ええっと、ちょっと待ってね。いくら娘さんでも簡単に通すわけには……」
 「離れ離れになってたお父さんを、やっと見つけることができたんです! お願いです、会わせてください!」
 「え、ええっと……」

 これで十分、注意が向いたはずだ。
 ボクは頭を低くしたまま受付を通り抜けた。

 「この部屋のどこかにヒナがいるはずだ……」

 もっと人がいるかと思ったが、人の気配は2人しかない。
 これは、こっちにとって好都合だ。

 「――、――――」
 「ん、今の声はヒナか?」

 部屋の前を通りかかると中からヒナの声が聞こえてくる。
 なるべく音を出さないようにドアを開けてみると、そこにいたのはヒナ……だけではなかった。

 「へえ、こいつは……」

 部屋中に描かれた模様の数々。
 これは間違いなく悪魔を召喚するために使うもの。
 それもレイカが使っていたようなものじゃなく、召喚の質を上げるためのものだ。
 質を上げれば、より強い悪魔を呼び出せる。
 バイトが高収入だった理由が、わかった気がするぞ。

 「ヒナ、やめろ! それが何かわかっててやってんのか?」
 「いやっ! これがわたしの仕事なの! これをやらないと、また鐘の音が……音が消えない!」
 「ッチ、すっかり洗脳されちまってる!」
 「やっと住む場所ができたの! お金もたくさんもらえて、もう不自由しなくてすむ! あんな生活には戻りたくない!」

 ヒナの身体に触れて、彼女の状態を調べる。
 結果はすぐにわかった。

 「お、お前……“何体”召喚したんだ!?」
 「悪魔を呼べばお金がもらえるの……好きなものを食べて、ブランド物も買える……ヒヒ……」
 「クソ、もう力づくで――」
 「おやおや、それは困りますね~」
 「誰だ!?」

 声がしたほうへ振り返ると、そこにはひとりの男が立っていた。
 不敵な笑みを浮かべたまま、こちらへと近づいてくる男にボクは身構える。

 「それ以上近づくと容赦しねーからな!」
 「おっと、怖い怖い。そんなに睨まないでください。私の会社に侵入したのはあなたのほうですよ」
 「私の会社、だと?」
 「ええ。私はニコニコ人材派遣サービス社長のトグロと申します」
 「トグロだかマグロだか知らねえが、こんなことを商売にしてるやつが偉そうな口を聞くな!」
 「こんなこと、とは?」
 「悪魔召喚だよ! 多重契約させたらどうなるかわかっててやってんのか!?」
 「知りませんよ、そんなこと。この子は自ら望んでこの仕事をしているんですから」
 「へえ、こいつが望んでね……じゃあ、あの鐘の音はなんだ? 大方、恐怖を増幅させる魔法ってところか」
 「……おやおや、あの音が聞こえる人でしたか。いえ、人ではなく悪魔かな」
 「どうなんだ、答えろ!」
 「誤解がありますね。私は彼女の恐怖が消えるよう力を貸してあげているのですよ」
 「なにを……」
 「この鐘の音で恐怖を感じるということは、彼女の中にまだ恐怖が残っているということ。それを解決するには、お金しかないんですよ。わかりますか~?お・か・ね!」

 指で輪を作った男が、ニタニタ笑う。

 「金を得れば得るほど、失ったときのことを考える。それがまた新しい恐怖を生むってことか」
 「ひひひ……本当に人は愚かですよね。こんな紙切れひとつでころっと変わるんですから」
 「テメー……」
 「さてさて、お喋りはこれくらいにしましょうかね。新しい悪魔を顧客に紹介する時間ですので」
 「呼んだ悪魔はお前が使ってるんじゃないのか」
 「そんなわけないでしょう。悪魔は、あくまで商品ですので。必要とされる方の元にご紹介するのですよ」
 「なんだって!?」
 「代償を支払わずに悪魔を使える。この会社は“そういう”人材を派遣する会社なのです。お互いにウィンウィンでしょう?」
 「じゃあ、なんだ。神舞伎町に悪魔が増えてるのはテメーのせいか! なら、許すわけにはいかねー!」
 「おお怖い。いったい、どう許さないんです?見たところ、貴女に私をどうにかできるようには見えませ――」

 トグロは急に体を「く」の字に折り曲げると、突然悲鳴を上げ始めた。
 身体は脂汗をかき、頭をかきむしりながら床をのたうち回る。
 その光景に、ボクは見覚えがあった。

 「あ……やっちまった」

 まだ体が馴染んでなかったせいか、ちょっとイラっときて発動しちゃったんだ。
 ボクの、魔眼が。

 「ひ、ひぃいぃぃぃぃぃぃっ!?」

 男は酷く醜い声を上げながら、身体をバタつかせて悶絶する。

 「わるいなトグロ! 多分1分くらいだから、頑張って耐えてくれよ」
 「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 まぁ、聞いちゃいないか。
 とにかく、今はヒナの召喚魔法を解除するほうが先決だ。

 「ええっと、ここをこうやって……」

 ボクは描かれていた召喚魔法の陣に手を加えていく。
 やがてヒナは、落ち着きを取り戻していった。

 「これでいいかな。ほら、そこに立て」
 「は、はい……」
 「今からお前が呼び出した悪魔たち全員をここに呼び寄せる。で、そいつらを魔界へと送り返す。いいな?」
 「呼び出すって、そんなこと」
 「ボクにはできるんだ。これは悪魔の問題だからな、存分に力を使う!」

 ボクは魔力を通して、魔法陣を起動させる。
 すると魔法陣が輝きだして――

 「おお、大量だな!」

 魔法陣から現れたのは10体の悪魔だった。
 ボクの姿を見た悪魔が、威嚇するように牙をむく。

 「貴様か! 俺たちを呼んだのは!」
 「ぎゃーぎゃーうるさい連中だな! よし、まずはテメーからだ!」

 ボクは足に魔力を込めて、悪魔を蹴り飛ばす。
 悪魔はすぐに光になって魔界へと消えた。

 「こ、この召喚術式は……!?」
 「なあお前、『クーリングオフ』って知ってるか?契約を無かったことにできる制度らしい」
 「ま、待て、クーリングオフってそういう――」
 「テメーらまとめて魔界へ返品だッ!」
 「うぎゃあああぁぁぁぁっ!?」

 悪魔を帰した後、ボクとレイカはなぜか警察のお世話になっていた。

 「つまり、お前がこれをやったわけか。まったく、とんでもないな、悪魔ってのは……」
 「ボクは当然のことをしただけなのに、なんで警察にお説教されなきゃいけないんだよ!」

 どうやら、悪魔たちの悲鳴を聞いた受付嬢が警察に連絡したらしく、事情を話すハメになっていた。

 「説明しただろ、ここでなにがあったか」
 「ああ、聞いたよ。確かにお前さんが言った通り、この会社は悪魔を使って商売をしていた」
 「なら――」
 「だからといって、不法侵入した上に会社の社長をノイローゼにしていいことにはならん!」
 「ちっ……」
 「あっ、そうでした! ヒナさんは?」
 「あいつなら、あっちにいるよ」

 ボクが指をさすとその先でヒナがうずくまっていた。

 「大丈夫、なんですか?」
 「悪魔との契約はボクが解除した。でも、そう簡単な話じゃなさそうなんだ」
 「えっ?」
 「行ってみればわかるよ」

 ボクはレイカを連れてヒナに近づく。
 その瞬間、ヒナがボクに向かって飛びかかった。

 「どうして、どうしてこんなことを! お金が、お金がないとわたしは……」
 「ヒナさん……」
 「なにが金だ。身体がボロボロで金だけあっても意味なんかないだろーが」
 「でも、でも……!」

 頭を振って叫ぶヒナに、様子を見ていた警官のオッサンに声をかけた。

 「なあ、お嬢ちゃん。稼ぎ口が欲しいなら俺が紹介してやろうか?」
 「えっ……?」
 「もちろん、今までほど稼げないかもしれないが、そこらのバイトよりはいいと思うぜ」
 「本当に……? ちゃんと人らしい生活ができますか……?」
 「ああ、できるできる。俺が保証してやるよ、だから任せてくれないか」
 「わかり、ました……」
 「よし! おい、この子を連れて行ってくれ。形式的なもんだが、事情聴取に付き合ってもらうぞ」

 ヒナが警察に連れて行かれる。
 それを見届けていたオッサンが、今度はボクのほうに振り返って言った。

 「お前さん、解決したあとのこと考えてたか?」
 「えっ?」
 「悪をぶっ飛ばして終わりなのはゲームの中だけだ。現実はそのあとのフォローも必要だぜ」
 「わかってるよ、そんなことは!」
 「俺がいて助かったろ?」

 オッサンはそう言うと、「そこで相談なんだが」と声をひそめた。

 「本当ならお前さんも署に連行しなきゃならんところだが、相手が相手だ、それはできん」
 「どういうことだよ」
 「ライチ様、警察はまだ人間以外の問題に対処できないんですよ」
 「そういうこった。お前さんがやった社長も、前々から有名だったのさ」
 「あいつが?」
 「ああ、その名も『名義売り店長』。神舞伎町を裏から仕切ってるって噂の『神舞伎裏三銃士』の1人だ」
 「か、神舞伎裏三銃士!?」

 なるほど、そういうことか。
 オッサンの言う相談ってやつが、ボクにも見えてきたぞ。

 「悪魔は悪魔とよろしくってわけか?」
 「話が早くて助かるぜ。あいつらの犯行は証拠もなけりゃ、しょっぴくこともできねえからな」

 オッサンは三銃士の情報をボクたちに流す代わりにあいつらを始末してほしがってる。
 しかもオッサンは、情報だけじゃなくてボクたちが行動しやすいように口利きをしてくれるらしい。

 「知ってるぜそれ。ケツモチってやつだろ?」
 「おいおい、俺たちは警察だぞ。ヤクザじゃねえ」
 「似たようなもんだろ? まあ、警察の後ろ盾があるってのは、美味い話かもな」
 「ち、ちょっとライチ様!」

 急にレイカがボクの腕をグイっと引っ張ってオッサンから引き離す。レイカは、怒っていた。

 「警察は信用できません。いいように利用されるに決まってます」
 「そこはボクに任せとけって。もしものときは、ボクが“わからせて”やるから」

 レイカはまだ不満そうにしている。

 「それに警察とのタッグなんて夢があるだろ!『ドラゴン』の主人公も警察と組んでたし、こういうシチュエーション、燃えるじゃんか!」
 「またゲームの話……」

 レイカはため息をついて、それきり何も言わなくなった。

 「そんな顔をするなよ、レイカ。これから依頼をこなすのに警察がいると楽だろ?」
 「話は決まったか?」
 「ああ、よろしくなオッサン!」
 「オッサンは止めてくれよ、俺にはアダチって名前があるんだからな」

 思いがけず協力者ができたけど、これは願ってもないことだ。

 「よろしく頼むぜ、ライチちゃん」
 「ふざけるな、ライチ様と呼べ!」
 「はいはい、わかったよ。ライチ様」

 神舞伎裏三銃士はあとふたり。
 どんなやつかわからないが、このボクが必ずお前たちを魔界に送り帰してやる。
 首を洗って待ってるんだな!


EPISODE4 ようこそ、デビルズプリンスへ!「ボクから金を取りたいなら、それなりの接客をしてもらわないとね!」


 名義売り店長の一件のあと。
 ボクたちは神舞伎裏三銃士の情報を集めるため今日も変わらず依頼を解決していた。
 特に最近は依頼が多くなってきている。
 ボクたちが店長の件に絡んでいたのが噂で広まり、ちょっと名前が売れたらしい。
 これなら残りの神舞伎裏三銃士もすぐに見つかると思ったんだけど……。

 「彼らは本当に実在してるんでしょうか」
 「してるだろ、実際に名義売り店長はいたんだし。クソ、あいつから話を聞いておくんだった!」
 「――お前さんが奴を廃人にしたからな。おかげでこっちも事情聴取ができなかったんだからな」

 進展がないボクたちのところに、オッサン――アダチがやってきた。

 「なんだ、盗み聞きかよ」
 「聞こえちまったんだよ。それより、面白い情報が入ったぞ」
 「おっ、裏三銃士のことか!?」
 「いやそれはどうかわからない。最近、ホスト絡みでキナ臭い話があってな」
 「なんだよそれ。使えないな」

 アダチはわざとらしく胸の前で両手を広げて悪態をつく。

 「おいおい、俺はただの人間なんだぞ? それで、調べてくれるんだろ?」

 他に裏三銃士につながりそうな依頼もない。アダチがわざわざ話を持ってきたんだし、それなりに信じられそうだ。
 ボクとレイカは、早速ホストクラブへ向かった。

 「あの女は誰なのよ!」
 「あれはただのお客さんだって言ってるだろ?そんなに怒らないで」

 店の前について早々、トラブル発生だ!
 ボクはレイカの制止を振り切って2人に駆け寄った。

 「おい、そこの2人! なにケンカしてんだ!?」
 「なんなのよ、このガキ。大人の話に入ってこないで!」
 「なっ、誰がガキだよ!」
 「これは俺たちの問題だから。関係ない子供は口を出さないでくれ」
 「こいつら……!」
 「ら、ライチ様! す、すみませんでした!どうぞごゆっくり!」

 レイカがボクの手を引っ張ってホストたちから離れていく。

 「なんなんだよ、あれは!」
 「ライチ様、ホストがお客の女の人とケンカするのはよくあることなんです。だから私たちが割って入ったら余計にこじれちゃいますよ」
 「おかしいだろ、ホストっていうのはこう、情に厚い人間のはずだろ? なんで喧嘩なんか……」
 「その知識も、ゲームですか?」
 「くっ……」

 ゲームと現実の神舞伎町は違いすぎる。
 これは一刻も早く、神舞伎町を元の姿に戻さないといけないな。

 「ねえねえ、そこの君たち」
 「あ? なんだお前?」
 「キャッチですよ、ホストクラブの」

 レイカはそう言うと、男の話に無視を決めこんだ。
 男は相手にされてなくてもお構いなしに話を振る。

 「君たちが体験したこともない世界に連れていってくれるよ。だから――」
 「いいよ、行こうか」
 「ライチ様!?」
 「オッケー! おふたり様ご案内!」
 「ちょ、ちょっと!?」
 「大丈夫だよ、心配するなって」

 心配そうなレイカをよそに、キャッチの男にクラブの中へと通された。

 「へえ、ここがホストクラブか。名前は……『デビルズプリンス』ね。悪くないな」

 クラブの中は薄暗くて、それぞれの席に照明があたるような造りになっていた。

 「ゲームのホストクラブまんまだ! すげー!」
 「ライチ様、はしゃがないでください……」

 席につくと、男の写真とプロフィールが書かれた本を渡され、ボクは一番最初の男を指さす。
 すると、すぐにその男がやって来た。

 「キミたちとってもラッキーだね。俺がこの店のキング……ホクトだよ。よろしくね」
 「おう」
 「何か飲む? 俺たちの出会いを祝して一杯どう?」

 ホクトから渡されたメニューを見る。おっ、どれもゲームで見たことがあるぞ!

 「えっ!? な、なんですか、この値段は!?」
 「レイカ、店の中で騒ぐなよ」
 「で、でも、ライチ様っ! ソフトドリンクで2万円っておかしくないですか!?」

 確かにレイカが言うようにドリンクメニユーは下が2万で、一番高いのは0が7つも並んでいた。

 「はは、初めてじゃ仕方ないか。驚いた?」
 「当たり前です! ボッタクリじゃないですか!」
 「うちの店ではこれが普通なんだよ」
 「……ライチ様、帰りましょう! こんな店、すぐ警察に――」
 「もう帰るの? じゃあ席代を払ってくれるかな」

 ホクトが見せてきた紙切れには、30万と書かれていた。

 「さん……はぁ!? なんですかこれ!」
 「ホストクラブっていうのは、席料やキャストが座った時点でお金がかかるんだ」
 「いくらなんでも――」
 「やめとけ、レイカ。こいつに何を言っても無駄だ。この店に入った時点で、契約が発生してるからな。そうなんだろ、悪魔ども」
 「あ……悪魔!?」

 ここにいる奴らは全員悪魔だ。
 うまく擬装してたけど、ボクの目はあざむけないぞ。

 「お前……まさか同胞か!?」
 「そうだって言ったら、どうすんだ?」

 ボクが脚に魔法陣を展開させると、ホクトは「暴力はいけない」と、ある提案を持ち掛けてきた。

 「ここはホストクラブだ、俺が君を魅了したらここの事は忘れてくれ」
 「ボクがなびかなかったら?」
 「代金はチャラにしてやる」
 「いいよ、早速始めようか。ボクはライチ、魔界の領主ライチ・アエーシュマだ」
 「神舞伎裏三銃士がひとり、『姫喰い貴公子』!」
 「へえ、テメーが裏三銃士か。ツイてるな」

 こうして、裏三銃士とのバトルが始まった。

 「じゃあ、始めさせてもらうよ。ライチちゃん」
 「“様”をつけろよ悪魔野郎!」
 「あ、ああ、わかったよ。ライチ様。ところで――」

 姫喰い貴公子が何か言う前に、ボクは魔法を使ってあるものを召喚する。

 『喉乾いてない、なにか飲もうか』
 『その洋服イカしてるね』
 『今日はどこから来たの?』

 「なんだこれは!? せ、選択肢……なのか?」
 「これはボクの好きなゲーム『ドラゴンのように』
シリーズから持ってきた。ホストなら、ボクの好感度が上がる正解を選べるだろ?」
 「ハァ? な、なぜ俺が……」
 「おら、早く選ばないと時間切れになるぞ」
 「くっ! ならばこれだ!」

 『喉乾いてない、なにか飲もうか』

 『好感度↓ 40』

 「なんか下がったんだが!?」
 「残念、正解は『その洋服イカしてるね』だ。ちなみに、この数字はボクの好感度だ。これが0になったらお前の負けな」
 「な……ッ!?」
 「さあ、ボクを満足させてみせろよ」

 ホクトはボクの好感度を上げようと、出された選択肢の中から正解を選ぼうとするが――

 『若いのに領主ってすごいね』

 『好感度↓ 30』

 「はぁ!? また!?」
 「テメーにはボクがいくつに見えるんだ?」
 「俺よりちょっと下くらいだろ。俺が200だから、150くらいだろ?」
 「ボクは333歳だ。そんなことも見抜けないでホストやってんのか?」
 「くそぉ!! 次だ、次!」

 次の選択肢でホクトが選んだのは――

 『シャンパンコールを聞いてくれないか』

 『好感度↓ 10』

 「ふざけるな! シャンパンコールで喜ばない女はいない! これは不正だ!」
 「あんなのウルサイだけなんだよ! シャンパンシャンパンって、銃をぶっ放すほうが楽しいだろ!」
 「理不尽すぎる! ここはホストクラブだぞ!」

 もうあとがないと悟ったのか、ホクトが中断をもちかけてくる。

 「こんなの、さじ加減でどうとでもなる! 公平性に欠けてるだろ!」
 「公平性? なに言ってんだ。相手に合わせて接客するのがホストだろ? 一瞬でボクの性格を見抜けないようじゃホスト失格だな!」
 「ぐぅっ……」

 ちょっと話してみてわかった。
 こいつらは、魅了の魔法を使ってるだけで大したスキルを持ってないってことが。

 「どんな相手も魅了させられないようじゃ、テメーは半人前ってことだ。わかったか、クソガキ?」
 「知った風な口を聞きやがって! たかがゲームごときで何がわかる!」
 「アァ……?」

 こいつは、言っちゃならねーことを言った。
 ボクの前で、ゲームを悪く言うヤツは許さねえ!

 「テメーの接客はなってねえ。ボクが本当の“喜ばせ方”ってのを教えてやるよ」
 「ハッ、お前みたいなガキに分かるのか?」
 「じゃあ、こうしよう。お前の好きな契約だ。お前がボクの接客で満足したら、魔界に突っ帰す。もし満足させられなかったらボクが魔界に帰る。これでどうだ」
 「バカめ! 俺が喜ぶわけないだろ!」
 「ライチ様!?」

 驚くレイカを止めると、ボクはホクトと新たに契約を交わす。

 「契約成立な。んじゃ早速……」

 ボクはホクトを四つん這いにさせると、その背中に腰かけた。

 「な、何するんだ!?」
 「おい、椅子が勝手に喋ってんじゃねー。大人しくしないと、こうだぞ?」
 「いっ!?」

 ホクトの手のひらを踏みつけた途端、身体が大きく跳ねる。

 「暴れるな。それとも、もっと踏まれたいのか?」
 「や、やめてくれ、こんなの接客じゃない!」
 「本当にそうか? こうされて喜んでるんだろ?」

 言い返せないホクトにボクは一気にたたみかけた。

 「おい、お前、自分が一番えらいと思ってたんだろ。人間から搾取する自分はえらいってさ。なのに、今のお前は、ボクの椅子も満足にこなせてない。クク……惨めだなぁ?」
 「うぅ……」
 「人間相手にどれだけ強がっても、テメーは悪魔の中じゃ底辺中の底辺……いや、魅了魔法を使わなきゃ人間も喜ばせることができない、ザコなんだよ」

 ホクトの体が震えてるのがわかる。もうまともに反論する気はないらしい。

 「お、俺は、ザコなんかじゃ……」
 「さっさと認めろよ、ザコ悪魔。ほら、口に出してみろ、楽になっちまえよ」
 「あっ、あっ……俺は……俺は! 人間もまともに魅了できないザコ悪魔です!」
 「ははっ! よく言えたな。じゃあこれはボクからのとっておきのご褒美だ。帰りやがれ、ザコ悪魔!」
 「はあああああっ!!!」

 ボクがホクトを蹴り飛ばした瞬間、ホクトは光に飲みこまれて見えなくなった。

 「これがボクの接客だ。良い夢見られただろ?」

 「さて」とひと息ついたあと、ボクはこっちの様子を見ていた残りの悪魔たちへと振り返る。

 「さあ、今度はテメーらの番だ。まとめて接客してやるよ!」

 ――この日、デビルズプリンスは閉店した。

 「また派手にやってくれたな、ライチ」
 「おいアダチ、様をつけろ、様を」
 「へいへい」
 「なあ、この店はどうするんだ?」
 「せっかく空いた箱だしな、適当な店を斡旋する」
 「ふーん、そっか。じゃあとは任せたぞ」
 「おう、おつかれさん」

 ボクはレイカと店をあとにする。
 神舞伎裏三銃士が関わっていたボッタクリのホストクラブを潰せたのはデカい。
 これで裏三銃士はあとひとりだ。

 「どんなやつなんだろうな、最後のひとりは」
 「わらないけど、ライチ様なら大丈夫ですよ。きっとぱぱっとやっつけちゃいます」
 「おっ、ヘヘ、ボクのことわかってきたじゃん」
 「ええ、なんにでもゲームを持ち出す悪魔だってことがよくわかりました」
 「そこは素直に褒めるとこだろー?」

 ボクがつっこむと、レイカは微笑んだ。
 こんなふうに笑うレイカを見たのは初めてかもしれない。なんというか、不思議な気持ちだ。

 「あ、でも無茶はしないでください。私だって、心配してるんですからね」

 ボクのことを心配してくれるヤツなんて、魔界にはいなかった。
 当然だ、誰にも負けない強さを持ったボクを心配するやつなんていない。
 できて当然、勝って当然。
 それが当たり前だったから。
 この感覚はくすぐったくて、すこし嬉しかった。


EPISODE5 不穏「ボクとレイカ、ふたりで何でも屋なんだ。どっちかが欠けるなんてダメだ」


 「テメー、魔法を使ったな? じゃあボクが使っても文句は言うなよ!」
 「ぐはあっ!?」

 魔力を込めた蹴りで悪魔を蹴り飛ばし、そのまま魔界へと帰す。ここのところボクたちは、格下の悪魔の対応に追われる日々を送っていた。

 「ありがとうございます! 思い出の品を取り返すことができました」
 「悪魔の闇金なんて質が悪いのに引っかかったな。思い出があるなら大切にしろよ」
 「はい!」

 神舞伎町で生きるために借金をするのはそう珍しいことじゃないらしい。
 悪魔は契約を好む。だから闇金みたいなシステムは、悪魔にとってかなり都合が良かった。

 「ライチ様、お疲れ様でした」
 「へへ、今日も無傷だったぞ、すごいだろ」

 レイカは最近一緒に来るようになっていた。
 最初は危ないから来るなって言ってたんだけど、スマホでボクの知らないことを調べてくれるから、近くにいるとなにかと助かってる。
 依頼も効率よくこなせていて、神舞伎町から悪魔の気配が薄れてきていた。

 「はあ……でもなぁ……なんか違うんだよな……」
 「なにがですか?」
 「神舞伎町の治安が良くなりすぎてる!」
 「えっ、いいことじゃないですか」
 「よくない! ボクが目指してるのは昔の神舞伎町であって、暴力と破壊に満ちた街だよ! こんな平和な神舞伎町じゃない!」
 「そ、そうですか……まあゲームの世界の話は置いといて」

 レイカのヤツ、すっかりボクの扱い方を理解してる。
 そーだよ、どうせボクは「ドラゴンのように」の神舞伎町しか知らないよ!

 「あ、そうそうライチ様。実は最近、神舞伎町で補導される人が多くなったって聞きましたか?」
 「補導?」
 「ほら、私たちはネグラを使ってますけど、そうじゃない人たちは路上で寝たりとかしてて……そこを補導されてるらしいんです」
 「じゃあ、ボクたちも危ないんじゃない?」
 「ネグラの場所がバレなければ平気だと思いますけど用心はしておいたほうがいいかもしれないですね」

 補導は神舞伎町にしか居場所がないヤツらにとっては死活問題だ。

 「今までろくに対処してなかっただろ、それがなんで急に増えたんだ? もしかして、汚職警官とかか?」
 「なんでそうなるんですか。仮にそうだとしても、警察は仕事をしてるだけですよ」
 「いや、もしかしたら補導したあと、示談の条件とか言って、金を要求してるかもしれない」
 「またゲームの話ですか?」
 「ち、ちがう! なんでもかんでも結び付けるな!」

 レイカは「はいはい」と言うと、顔を曇らせた。

 「もし何か裏で行われてたとしても、この件には関わらないほうがいいかもしれませんね」
 「なんでだ?」
 「相手は警察ですよ? あのアダチって人との協力関係もなくなってしまうかもしれません」
 「補導してるヤツが悪者なら、アダチも文句は言わないだろ?」

 早速調べにいこうとしてネグラを出ようとすると、レイカが慌てて止めに入る。

 「ダメです! 危ないですよ!」
 「大丈夫だって、ボクを信じろよ」
 「でも……」
 「レイカは警察が嫌いなんだよな? 無理について来なくても大丈夫だぞ」
 「……わかりました」

 レイカはまだなにか言いたそうな顔をしてたが、結局うなずいた。
 ちょっと心苦しくはあったけど、もしかしたら、ずっと姿を見せない裏三銃士の情報を得られるかもしれないし、やってみる価値はあるんだ。

 「ん……? 何か変わったのかな」

 レイカの情報をたよりに子供たちが溜まり場にしてる場所をいくつか見て回ったけど、補導される現場にはでくわさなかった。
 よく座り込んでる女の子に聞いてみても、手掛かりになりそうな話は聞けなかった。

 「ガセってことはないと思うけど……」

 時間を変えてみたほうがいいのかな。

 「なにやってんだ、お嬢ちゃん」
 「ライチ様な。で、アダチは何しにきたんだ?」
 「おう、これでも警察なんでな。そういや、今日は連れはどうしたんだ?」
 「たまにはボクひとりで行動したっていいだろ。おかしいかよ」
 「いや」

 そう言うとアダチのオッサンは自分のアゴをさすりながら笑った。

 「立ち位置がな、隣にいない誰かさんを意識してるみたいで面白いんだよ」
 「……は?」

 ボクは、アダチのオッサンの斜め前に立っていることに気が付いた。レイカのことを無意識のうちに気にかけてたみたいだ。

 「クハハ、良い顔拝ませてもらったぜ」
 「ア、アダチ! 悪魔をからかうんじゃねー!」

 アダチにからかわれるのが嫌になって、ボクは慌てて話をそらす。
 アダチならきっと、レイカが教えてくれた情報に心当たりがあるはずだ。

 「……悪いが分からんな。俺とは部署が違う」
 「そっか、使えないな」
 「ひでえな、おい」
 「まあいいや、なにかわかったら教えてくれよ」
 「教えろって、俺がネグラに行ったらあの嬢ちゃんが嫌がるだろ?」
 「別にいいだろ、それくらい――」
 「ライチさん!」

 その時、ボクの方へ駆け寄ってくる男がいた。
 あいつはネグラの近くで野宿してるヤツだ。

 「なんだよ、そんなに息切らして」
 「れ、レイカちゃんが!」
 「えっ……!?」

 ボクは真っ先にネグラへと戻った。
 ネグラには何人かの警察がいて、2人の警官に挟まれるようにしてレイカがどこかへ連れてかれようとしていた。

 「おい、なにしてんだよ! レイカをどこに連れてく
つもりだ!」

 ボクがレイカを連れて行っておけば。なんでボクはレイカのそばにいてやらなかったんだ。

 「やめろ、ライチ! 相手は普通の警官だ! ここでお前が手を出したら筋が通らねえだろ!」
 「クソ!」

 ボクは補導されていくレイカをただ見ていることしかできなかった。

 「レイカ……!」

 そして、レイカはネグラに帰ってこなかった。


EPISODE6 空っぽの街「いつも隣にいる人がいないだけで不思議な気分だよ。変な感じだな、ホント……」


 ――あれから数日。
 ネグラに戻ることもできず、ボクは適当な場所を見つけてはそこで寝泊まりしていた。
 時々レイカが戻ってきてるかもしれないとネグラの様子を見てるけど……。

 「いない、か……」

 誰もないネグラを確認して、ボクはまた神舞伎町を彷徨う。

 「この辺もすっかり治安が良くなったぜ。これも全部お前さんのおかげだな」

 こうやって話す相手といえばアダチくらいだ。

 「うるせー」
 「いやいや、こっちは感謝してるんだぞ。俺たちができないことをやってくれてるんだからな」
 「そうかよ……」
 「なんだ、随分と元気がねえな。相棒がいないと調子が出ないか?」

 しつこい。今日のボクは気が立ってるんだ。

 「そんな睨むなって。なに、そのうち戻ってくるさ」
 「だといいんだけどな……」
 「ったく、シャキッとしてくれよ。お前さんを頼ってくるやつらも多いんだろ?」
 「ああ、まあな」

 あれから神舞伎町は更に平和になった。
 補導の回数も増え、あれだけいた子供たちはすっかりまばらだ。新しい寝床を見つけたのか、それとも、来る理由がなくなったのか。それはボクにはわからない。
 それでもたまにボクの助けを求めて依頼してくる子もいた。
 居場所を変えるのに、よく見つけられるもんだよ。

 「そうだ、最近の補導のことで話があるんだけど」
 「またその話か。何がそんなに気になるんだよ」

 ボクは最近手に入れた情報を教えてやった。

 「絶対に見つからないような場所に、警察が必ず踏み込んでくるらしいんだ。まるで最初からその場所を知ってたみたいにな」
 「なんだそれ?」
 「だから、もしかしたら宿無しの中に裏切り者がいて警察に情報を売ってるんじゃないかって思ってさ」

 アダチは沈黙して少しだけ真面目な顔になると、眉間にしわが寄ってるのに気づいて笑う。

 「……まあ、ありえる話だな。自前で情報屋を持つ刑事も珍しくない」
 「じゃあ、その情報屋の情報とか持ってないか?」
 「ああ、なるほど。俺とお前の仲だ、それくらいなら協力できるぜ」

 アダチはポケットからスマホを取り出すと、どこかに
連絡した。

 それから2時間後。

 「見つけたぞ、情報屋」
 「……は? もう見つかったのか?」
 「俺にも腕利きの情報屋が何人かいてな。そいつらの繋がりにそれっぽいやつがいたんだ」

 続けてアダチが教えてくれたのは。
 ボクたちがずっと追っていた最後の神舞伎裏三銃士の居場所だった。
 その名は、『密告執行人』。そいつが、ネグラの居場所をバラしたヤツにまちがいない。

 ボクはアダチと一緒に神舞伎町にある廃ビルへ来ていた。密告執行人は、ここをアジトにしているらしい。

 「これ……足跡だ」

 うまく隠してるけど、ボクは悪魔だ。そんな小細工は通用しない。
 音を立てないように階段を登ると、開きっぱなしの扉の奥に、誰かがいた。

 「あいつが密告執行人か?」
 「ああ」

 ヤツはダンボールのベッドで横になっている。
 叩くなら今だ!

 「おい、お前だな。ネグラの情報を売ったのは」
 「なっ!? お前、人の家に勝手に入ってくるな!」
 「テメーの家じゃねえだろ!」
 「ひいっ!?」

 密告執行人って言うわりには、かなり拍子抜けするヤツだった。

 「ボクがする質問に答えろ、正直にだ。テメーが密告執行人だな?」
 「そ、そうだよ! だからなんだ! ……もしかして情報が欲しいのか?」
 「ああ、情報が欲しい。テメーがなぜ警察に宿無し連中の情報を売ってるか話せ」
 「はあ? そんなの決まってんだろ。金だよ、金!」
 「こいつ……!」

 さっきまで怯えていたはずの密告執行人は、なぜか急に強気な態度を取りだす。
 情報屋と仲が良いアダチを、自分の仲間だと思ってるからか?

 「ああ、そういえばもう1つあったな。行き場のない連中の居場所を奪うのが、気持ちいいからだ! なにもかも奪われて、可哀想な奴らだぜ! あははははっ!」
 「テメー……ッ!」

 ボクが男を蹴り飛ばそうと構えると、男が自分からボクに近づいてくる。

 「おいおいおいおい、なんだ。その自慢の足で俺を蹴り飛ばすつもりか? 俺はなにも悪さしてないぜ?警察に情報を売っただけだっての!」

 密告執行人は舌を出して笑いながらボクを挑発して
きた。
 イラつかせる才能しかない魔界のクソ犬みたいだ。

 「買ったのは警察、補導したのも警察。俺はなーんも悪いことしてませんが~?」
 「……っ」
 「キャハハハ! そうだよ、手は出せないよな。お前のことはよ~く知ってんだぜ。俺に手を上げるのは“筋が通らねえ”もんな~? おら、さっさと帰れ!」

 よだれを垂らして汚い笑みを浮かべる密告執行人。
 寝床に戻ろうとする男の背中を、ボクは思い切り蹴り飛ばしてやった。

 「いでえええっ!!!」
 「お、おい、なにやってんだ、ライチ!?」

 密告執行人は突然の痛みに襲われて床を転がりながらのたうち回る。
 ボクは、芋虫みたいに転がるヤツの腹に勢いよく足を置いた。

 「ぐはっ!?」
 「やめろ、ライチ! 自分がなにやってるのか、わかってんのか!」
 「そ、そうだぞ、これは暴力だ! 筋はどうした、筋は!」
 「……なに言ってんだよ。筋が通る、通らねえとか関係ねえだろ。ボクは、散らかってるゴミを片してるだけだ。人の形をした、でっけーゴミをな!」
 「ひいっ!? そ、そんなの通るわけないだろ!」

 わめき散らす男に、ボクは吐き捨てた。

 「知るか、そんなこと。いいか、よく覚えとけ。これから先、この街でゴミを見つけたら、ボクは全力で蹴り飛ばす。ゴミ箱に向かって蹴り飛ばす。テメーが改心するまで、何回でも蹴り飛ばしてやるよ!」
 「ひぃぃ! た、助けて!」

 男は涙を流しながらアダチに助けを求める。

 「なあ、話が違うじゃないか! こいつは俺に手が出せないんだろ! こんなの聞いてないよ!」
 「話がちがう? 今のはどういうことだ、アダチ!説明し――」
 「はあ……使えねえカスだな」
 「えっ……?」

 アダチの手元が光ったと思った瞬間、男の身体に火が上がり、あっという間に全身を包み込んだ。

 「あああああっ!? 熱い熱い熱いいい!!!た、助け、助け……!」
 「待て、すぐに消して――」
 「無駄だ、俺の炎を喰らった奴は終わりだ」

 アダチの言う通り、あれだけ暴れていた男はもうピクリとも動かなくなっていた。
 アダチは、足元のほこりを払うように炭と化した男を踏みつけて近づいてくる。

 「アダチ、お前……悪魔だったのか!?」
 「気づくのが遅かったなぁ、ライチ様」


EPISODE7 契約「神舞伎町は誰かが支配していい街じゃない。ここは、誰もが自由に生きれる場所なんだよ!」


 「お前……悪魔だったのか!」
 「気づくのが遅かったなぁ、ライチ様」

 ゆっくりと近づいてくるアダチから飛び退く。
 こいつの気配は、明らかに普通じゃない。

 「気配を消すのは大変だったぞ。気づかれたら問答無用で俺を始末しただろうからな」
 「その口振り……正体を見せろ!」
 「もう隠す必要もない、俺の素顔を見せてやろう」

 そう言うと、アダチが自分の顔に手をかける。
 指が触れた先から、顔の皮が剥がれ落ちていく。
 オッサンの顔の下に隠れていた顔に、ボクは見覚えがあった。

 「お前は……ドエル!?」
 「ほう、お前にしては覚えがいいな。追放した奴の顔なんぞ忘れてると思ったが」

 こいつは、ボクの領地にいた悪魔ドエル。
 そして、前領主だ。

 「大変だったんだぜ、ここまで来るのは。領地を追われた悪魔に居場所はないからな!」
 「自業自得だ! この独裁者め!」
 「酷い言いぐさだな。弱者を支配して何が悪い。すべては! “弱者が弱者足り得る”理由を持ってるから悪いのさ!」
 「それで魔界を追われたから、人間界を支配しようってことか? このゲスが」

 ドエルが両手を広げてふんぞり返る。

 「最高の褒め言葉だ。悪魔は下衆じゃなきゃなぁ!」
 「お前を召喚したのは、誰だ?」
 「いるだろ、ここに」
 「まさかお前、アダチを……!」
 「こいつはよくやってくれたぜ。悪魔を追い出すために、俺に力をせびったんだからなぁ!」

 まさか、アダチもレイカと同じように悪魔を召喚してただなんて。

 「すごいと思わないか、警察の力は。この権力と俺の力が合わされば、誰も逆らう奴はいなくなる!人間界なぞ、いつでも俺のものにできるのさ!」

 こいつがボクに協力を求めてきたのは、あわよくば同士討ちを狙っていたってことか?

 「ボクに裏三銃士を潰させたのも、それが理由か」
 「いや? そんなもん、俺がでっちあげただけにすぎんぞ」
 「なに?」
 「裏三銃士とか、いかにもゲームみたいで楽しかっただろ? お前が躍起になってあいつらを探してるのは、最高に面白かったぜ!」
 「そんな……」

 待てよ。
 もしこいつが裏で糸を引いてたとしたら、補導された子供たちはどこに行ったんだ?

 「お前! レイカたちを何処へ連れて行った!」
 「ここは何かを隠すのにちょうどいい街だ。居場所のないガキ共を欲しがる奴は、大勢いるからなぁ!」

 こいつは、さらった子供を売って金をもうける極悪人だ。

 「本当に感謝してもしきれないぜ。これは、お前がまいた種だ。お前が俺を追放したせいで、この地獄が出来上がったんだよ!」
 「テメーは、ボクがブッ飛ばす!!」
 「おいおい、勘違いするなよ。俺はお前と争うつもりはない。これまで通り、刑事と便利屋、持ちつ持たれつの関係でいこうぜ? なんなら、お前が神舞伎町を支配したっていい」

 美味い提案だろ? ドエルはそう言って笑った。
 人間は簡単にだませるし、対抗手段もない。
 誰にも邪魔されない居場所ができるだろう。
 たしかに、悪魔にとっては最高の環境かもしれない。

 だが――こいつはひとつ勘違いをしてる。

 「さあ、欲望のままに生きようぜ! ライチ!」
 「……くだらねーな」
 「なに?」
 「くだらねーつったんだよ、バカが。ここは、誰かが支配していい街じゃねーんだよ! テメーみたいな器の小さい悪魔にどうこうできる街じゃねえ!」

 ドエルは、心底理解できないとでもいうように首をかしげた。

 「いいか、テメーが作ろうとしてるのは腐った街だ。そんなもんに興味ない。アガらない、くだらない、張り合いもない! お前の理想は、ボクがぶち壊す!」
 「腐ってるのはお前の方だろ。悪魔のくせに、筋だの仁義だの、そっちのほうがよっぽどくだらない」
 「言ってろ!」

 いい加減にしびれを切らしたボクがドエルをブッ飛ばそうとしたその時、いつの間にかドエルの腕にレイカが抱きかかえられていた。

 「な、なんでここに……!?」
 「これぐらい悪魔には容易い事だ。感動の再会を手伝ってやったんだ、泣いたらどうだ?」
 「ライチ様……!」
 「レイカ!」

 こいつは、あの時からずっとボクの隙を伺っていたんだ。レイカとの仲を確認したうえで、交渉材料に選んだんだ!

 「フン、ボクは悪魔だぞ。レイカを人質にすれば抵抗しないとでも思ったか?」
 「見え透いた嘘を」

 レイカを抱えたまま、ドエルが向かって来る。
 ボクは……握った拳を降ろした。

 「人間にほだされるとは! 情けない悪魔め!」
 「ぐあ……ッ!?」

 ドエルの拳をもろに喰らって、ボクは床の上を転がった。

 「ライチ様、私のことはいいから……! お願い、この悪魔をやっつけて!」
 「あいつの隣にずっといたお前なら、手を出さないと分かってるだろ、レイカ?」
 「……っ!」
 「さっきから好き放題言いやがって……、正々堂々と戦うことすらできないのかよ、テメーは」
 「この期に及んで、お前はまだゲーム気分か?やれやれ……悪魔の風上にもおけんな」
 「お前が……悪魔を、語るな……」

 ボクは立ち上がり、拳を握った。

 「手を出せるのか? お前の相棒に」
 「出せる。レイカはボクの相棒だからな。レイカ、我慢できるだろ?」
 「は、はい!」
 「な……っ?」
 「ドエル! ボクは、今からお前をブッ飛ばす!」

 ボクが一歩踏み込むたびに、ドエルが後ろに下がる。
 あいつは完全にボクの殺気に飲みこまれていた。
 大きく踏み込もうとしたその時、堪えきれなくなったドエルが手を広げて炎を宿す。

 「お前が死ねッ! ライチ・アエーシュマ!!」

 ――フ、ボクはそれを待っていた!

 ドエルの視線が隠れた瞬間、ボクは弾丸のように一直線に駆けた!

 「死ね、死ね、死ねぇぇぇッ!!」

 どれだけ炎に焼かれようが関係ない! そんな痛みで、ボクは止まらねーんだよッ!

 「――へへ、捕まえた」

 ボクは、炎を放つドエルの手を、思い切り握り潰した。

 「ぎあぁああああ!?」
 「握手しようぜ、ドエル!」

 ドエルの手は元の形がわからないくらい、ぺしゃんこになった。ドエルの手のひらに集中させていた魔力が弾け、逆流した力がドエルの腕を引き裂く。

 「ぐあッ!?」

 痛みに耐えかねて、ドエルはレイカを手放した。
 ボクは咄嗟にレイカを抱き寄せて地面におろす。

 「大丈夫か!?」
 「わ、私は平気です! それよりライチ様が……!」
 「こんぐらい、唾つけとけば治る!」

 ボクの体より、今はドエルが先決だ!
 あいつはいつの間にか遠くの空を飛んでいた。このボクを怒らせといて、無事に帰れると思うなよ!

 「レイカ、一緒にあいつをぶん殴るぞ!」
 「え? わ、私もですか!?」
 「当然! ボクが傍にいれば、あいつはレイカに手を出せない!」
 「でも、どうやって追いかけるんですか?」
 「――アレを使う」

 ボクは、近くに転がっていた板に手を伸ばした。

 「え、スケボー? 本当にこれで追いかけるんですか?」
 「ボクを誰だと思ってる。ボクは悪魔だ、空を飛ぶくらいどうってことない!」
 「えぇぇぇっ!?」
 「いいか、振り落とされんなよ!」

 覚悟を決めたレイカが、ボクの腰に手を回す。

 「お、お願いします!」
 「よし、行くぜ――!」

 ボクたちは、スケートボードで空を飛んだ。

 ――
 ――――

 「クソ……クソクソクソッ! ライチの奴、またしても俺の邪魔をしやがって……! 今に見てろ、必ず復讐してやるからな!」
 「ハ! 雑魚が言いそうな台詞だな! ドエル!」

 腕を抑えたまま空を飛んでいたドエルは、ボクの姿を見て驚いた。

 「グゥゥゥッ! かくなる上は! お前ら諸共に道連れにしてくれる!」
 「悪りーな! もう定員オーバーなんだよッ!」

 姿勢を変えてスケートボードをドエルへと向ける。
 ボクの足を通じて伝わった力が、青い炎を放つ。

 「や、やめ――」
 「覚めねえ夢を、一生見てろ!」

 スケートボードの直撃を喰らったドエルは、魔法陣の中へと姿を消した。

 「ざまーみろ!」
 「や、やりましたね、ライチ様!」
 「ああ!」

 空から神舞伎町を見下ろす。
 夕闇を切り裂くようなネオンライトが、街を彩っていた。
 2人してその光景を眺めていると、ふいにレイカが叫んだ。

 「え? ラ、ライチ様の……身体が!?」
 「ん、あぁ……願いを叶えたせいか」
 「願い……あっ」
 「あいつが消えたことで、この街も少しはマシになるはずだ」
 「ライチ様……」
 「なあレイカ! まだあっちに帰るまで時間がある。少し寄り道しよーぜ!」
 「はい?」
 「このまま空を泳ぐぞ!」
 「えぇぇぇぇ!?」

 ボクたちは陽が完全に沈みきるまで、空を飛んだ。
 昏い夜空は、空を飛ぶボクたちを隠すのにちょうどよかった。

 ――じゃあな、神舞伎町。


EPISODE8 伝説の何でも屋「なんだ、悩みがあるなら聞いてやるよ。なんたってボクたちは、神舞伎町の何でも屋だからな」


 「おい、こら! 金が払えないってのはどういうことなんだよ!」
 「で、でもそんなお金持ってなくて……!」
 「んだよ、俺様にタダ働きさせたのか?俺様はこの神舞伎町を救った男、ライチ様だぞ!?」

 人通りの少ない路地裏。
 伝説の何でも屋と名乗った男がひとりの女性に詰め寄っていた。

 「で、でも、助けてほしいなんて一言も……!」
 「それが暴漢から助けてくれた男にいうセリフか?助かったことには代わりねえだろ。それとも、伝説の何でも屋を敵に回すつもりか?」
 「そ、そんなことは!」
 「そうだよな。俺様を怒らせたらどうなるか……この街で生きていけないよ? お前も行く場所がなくて流れ着いたんだろ」
 「は、はい……」
 「じゃあ、俺様がいいところを紹介してやるよ。大丈夫、お前ならすぐに稼げるさ。へへへ……」
 「い、いや……!」
 「そこまでにしなさい!」
 「あん、どこのどいつだ。俺様に歯向かうのは?」

 男と女の間に割って入ったのは、ひとりの少女。

 「もう大丈夫ですからね。こんな男、相手にする必要ありませんから」
 「あ、あなたは……?」
 「レイカって言います。困ってる人を助ける……まあ、何でも屋みたいなものですね」
 「あ……もしかして、あなたが……!?」
 「おう、女! 邪魔すんじゃねえよ!こいつは俺様に用があるんだからな!」
 「こんなことしてみっともないですよ。弱い者いじめして恥ずかしくないんですか?」
 「なに言ってんだ、この街は弱肉強食! 弱いもんが食い物にされる街なんだよ!」
 「違います! この街は――」
 「ほ~、よく見りゃお前も良い面してるじゃねーか。お前にも店を紹介してやるぜ?」

 レイカはため息をつくと、毅然とした態度で男に立ち塞がる。

 「そんなことで怯むと思わないでください。私は引きません、あの人との約束を果たすために!」
 「なにを訳のわからないことを! 少し黙ってろ!」

 男が振り上げた拳が。レイカへと振り下ろされる。
 その瞬間――路地裏に声が響いた。

 「そこまでにしとけよ、三流が」
 「はっ、誰――ぐはっ!?」

 男が振り返るよりも早く、どこからか降って来たスケートボードが、男の脳天を撃ち抜いた。
 完全に気を失った男は、大きな音を立てて地面へと倒れ伏す。

 「なんだよ、この程度でノビたのか? 図体の割に根性がねーな」
 「え……? ラ、ライチ様……? どうして!?」
 「聞こえたんだよ。助けてって声がさ。そしたら、いつの間にかここに戻ってたってワケ」
 「そ、そんな、簡単に……?」
 「まあいいじゃん。こうしてまた会えたんだしさ」

 ライチはレイカにそう言うと、茫然としたままこちらを見ている少女に近づき、頭を無造作に撫でつけた。

 「もう泣かなくて大丈夫だ。あいつは、このボクがぶっ飛ばしてやったからな!」

 ニカっと笑うライチの顔を見て、少女はまた涙を浮かべた。
 だが、今度の涙には、別の意味がこめられていた。

 「ほ、本当に、伝説の何でも屋に会えるなんて……」
 「伝説の何でも屋? フーン、そんなのがいるのか」
 「ライチ様、その何でも屋は、私たちのことです」
 「へ、そうなの?」
 「そーです!」
 「へえ……伝説の何でも屋か……いいな、それ」

 ライチは何かを思いついたようにしたり顔で笑う。

 「その顔……またゲームですか? 本当に変わりませんね、ライチ様は」
 「べ、別にいいだろ? ボクにとって神舞伎町はそういう町なんだからさ!」
 「はいはい」
 「あ、あの……?」

 2人のやり取りを見ていた少女が、困惑した様子でそうつぶやいた。

 「あ、ごめんごめん! とりあえず、ボクたちのネグラに行こうか。レイカ、あの場所まだあるよな?」
 「もう、勝手に話を進めるんですから……ねえあなた、立てる?」

 そう言うと、ライチとレイカは少女へと手を差し伸べるのだった。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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コメント

  • カイン(祈 のおじいちゃん)の倍も先輩なのか... -- 2024-06-29 (土) 18:55:22
  • 来年は334歳か… -- 2024-08-04 (日) 11:58:40
  • 看板おめでとう -- はる? 2024-08-26 (月) 11:31:20

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