淀川 沙音瑠/たこやきデイドリーム

Last-modified: 2024-09-21 (土) 14:34:46

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通常さよならカルーセル
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Illustrator:へんりいだ


名前淀川 沙音瑠
職業ジュニアアイドル
年齢9歳

淀川 沙音瑠【 通常 / たこやきデイドリーム 】
壮絶な戦いの果てに沙音瑠は過去の世界で目を覚ます。
そこは、クリスタルスカルもオタクちからも無い、すべてがうまくいったシンプルな世界であった。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ゲージブースト【LMN】×5
5×1
10×5
20×1


ゲージブースト【LMN】 [BOOST]

  • ゲージ上昇率のみのスキル。
  • 初期値からゲージ6本に到達可能。GRADE 151から7本到達も可能になる。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、SUN PLUS終了時点のゲージブースト【SUN】のGRADEに応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400で上昇率増加は打ち止めとなる
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ6本可能(160%)
    1175.00%
    2175.10%
    3175.20%
    51180.00%
    101185.00%
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    151190.00%
    251200.00%
    351210.00%
    400~214.90%
    推定データ
    n
    (1~)
    174.90%
    +(n x 0.10%)
    シード+10.10%
    シード+50.50%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2024/05/23時点
LUMINOUS15181193.00% (7本)
~SUN+281203.00% (7本)
所有キャラ

所有キャラ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 やり直す、何度でも 「あの事件はもう起こらへんから。うちは、新しい道を進んでいくんや」


 ――夢を、夢を見とった。
 なぜかはわからんけど、今見とるこの景色は夢やと直感的にわかる。
 宙に浮かんでいるうちの周りを、写真がどんどん後ろへと飛んでいく。
 写真に映っているのはどれも、うちがアキハバラに来るまでに見てきたもの。
 ゆいとの事件から始まり、みんなで一緒に過去へ行ってオタク女子たちを救う……。
 そして八雲、らいむ、メイメイとの出会い……写真がどんどん、過去へ過去へと進んでいく。
 いや、ちゃうな。――これはうちが時間を戻っとるんや!
 どう止めたらいいのかわからないままでいると、だんだんと1枚の写真が近づいてくる。
 それはうちの記憶にはない、海の写真やった。

 『ここは……?』

 海の上。
 それも嵐のせいで荒れ狂っとる怖い海。
 そんな嵐の海には1隻の漁船が見えた。
 波に煽られて今にも転覆しそうな船の甲板にうちは見覚えのある姿を見つける。

 『あれはおとんか……?』

 見間違えるはずない。
 あれはうちのおとんや、でもなんで……。
 そんなことを考えていたら、大きな波になぎ倒されて船がひっくりかえる。

 『おとん……!』

 助けようと手を伸ばしてみたけど、その手はなにも掴むことができない。
 なんか映画を見せられとるみたいな感覚で、そこにあって、そこに無いものを掴もうとしとる。そういう変な感覚やった。
 でも、そうとはわかっとっても――

 『おとん! なあ、おとん!!! はよ出てきて!そんなところにおったらあかん!』

 何度も何度も叫んでも、おとんは海に飲み込まれて浮かんでは来んかった。

 『なんでや、なんでこないなことに……』

 ――まだ助けられるやろ?

 どこからか声が聞こえてきた。
 自分の声、だけどなんか別人のような不思議な声。

 ――やり直せるはずや、うちなら!

 『そうか、うちは……!』

 「うちが助けたるからな!」

 ばっと起き上がると、そこは見慣れたうちの部屋だった。
 海の「う」の字も見当たらへん普通の部屋。

 「夢にしてはリアルやったな……」

 夢の中でのことはハッキリと覚えている。
 嵐の海、漁船、おとん……そっか、思い出したわ。
 こういうことになっとるんやな。
 なるほど、これが“うちが望んだ世界”ってことか。

 「あれがおとんの最期……なら、やることはひとつや!」

 うちは部屋を飛び出してリビングへと走る。
 部屋に駆け込むと、そこにはおかんとおとんの姿があった。

 「朝から騒々しいな。腹でも減っとんのか?」
 「おとん……」
 「なんや、まるで死人にでも会ったような顔して。そうや、お前にも話があるから座り」
 「マグロ漁船に乗るんなら、うちは反対やで!」
 「お、おい、なんで知っとるんや!? ……いや、話を聞いとったんなら早いわ。病気の母ちゃんと、お前を食わすには今の仕事じゃ全然、足らへんのや」
 「あかんもんはあかん! うちはぜえええったいに反対や!」
 「いや、でもな……」
 「お父ちゃんと離れるんが寂しいんはわかるけど会えへんようになるわけや無いし――」
 「いーやーやー!!! 稼ぎが足らへんって言うなら、うちが稼いだる!」
 「おい、子供がなに言うてんねん!」
 「本当に少しでええんや、うちに時間をくれ! それでもし、うちの稼ぎじゃ足らへんって言うなら漁船でも、カブトムシハンターでも、やったらええ!」
 「さねる……」
 「おとん、お願いや! お願いやから、家におって……お願い……」
 「わかったわ、さねる。お父ちゃんはどこにも行かへんから泣くなや」
 「ううっ……」
 「でも、これだけはちゃんと聞いとかんとあかん。お前はどうやって稼ぐつもりなんや? 真っ当なやり方やないと、許さへんからな?」
 「うん、それはな……」

 ――数カ月後。
 ここはヒラカタに住む人たちの憧れの場所にして、癒やしと娯楽の桃源郷。
 その名を、ヒラカタランド。

 「じゃあ、みんなで呼んでみましょうか! ヒラカタランドの兄さんを!」
 「カタに~さ~ん!!!」
 「やあやあ、わいがヒラカタランドの兄さん! 超カタ兄さんやで! さあ、実は今日、みんなにおもろい知らせがある! なんやろな、気になるやろ?」
 「気になる~!」
 「なら特別に教えたろ! なんと、わいに妹分ができたんや。そいつをみんなに紹介したる!」
 「なんて呼んだらええんや~!?」
 「そら決まっとるやないの。カタ妹(いも)やろ」

 観客のみんながわいわいやって場の雰囲気はいい感じにあったまってる。

 「さあさあ、今、幅広い女子に大人気の“あの”ジュニアアイドル! ヒラカタが生んだカリスマ、淀川さねるちゃんや!」
 「おおきに~! 邪魔させてもらうで~!」
 「邪魔すんねやったら帰ってや~」
 「ほなな~……って帰らんわお兄! 妹帰らすな!」
 「ええな、さすがわいの妹分、カタいもや!」
 「カタいもて、うちは芋ちゃうわ!」
 「わいから見たら、まだまだ可愛いお芋ちゃんやて」
 「はいはい、お兄はホンマそればっかや! てか、うちまだ自己紹介してへんのやけど!」
 「せやったせやった。ほら、さっさとしい」
 「淀川さねる、9歳や! アイドルやってます。よろしゅうたのむで~!」

 ――ようやっとここに立つことができた。
 あのときはでっかい事件が起きてしもうて無くなった仕事やったけど“あの事件は起きん”。
 うちは新しい道を歩いてるんや。


EPISODE2 妹といて、ヒラカタに、正直に行きたい 「ヒラカタランドはホンマにええところやで。せやからカンフー娘の乱入にも広い心で対応や!」


 ――ヒラカタランド。
 うちはカタ兄さんの妹分、カタ妹(いも)として忙しい毎日を送っている。
 ん、ヒラカタランドを知らんやて!?

 「ええか、ヒラカタランドはオオサカが世界に誇るテーマパークや。東にある有名なあのランドとタメ張れるのはここだけやな――って、聞いとるんか!」
 「あら? もしかして、あーしに言ってたの?」
 「アンタ以外におらへんやろ! てか、ちゃんとやらんかい!」
 「んもう、騒がしい人質ね。ホントにあーし好みのかわいいお・ん・な・の・こ」
 「きっしょ!!!」
 「おい、カタ兄さんの妹を離すんだ!」
 「やーよ、すぐに返しちゃ面白くないじゃない。この娘は人質、なんだからねん」
 「くっ、なんて卑怯な!」

 ヒーロースーツを来た5人に囲まれるオカマの怪人……とうち。
 ホンマになんでこないな絵面になっとるかというとヒラカタランドのヒーローショーの人質役としてうちが抜擢されたからなんやけど……。

 「なんで怪人役がアンタなんや……」
 「あら、なんのことかしら?」
 「いや、こっちの話や」
 「そんなことより、ちゃんと人質らしくして。じゃないと、あーしも楽しめないじゃないの!」
 「なんでアンタが楽しもうとしてんねん! 楽しませるんは子供らや!」

 ステージから客席を見るとそこにはヒーローたちの活躍を見ようとたくさんの子供たちがいた。

 「がんばえー! わるものなんてやっつけろー!」
 「ありがとう、みんな! 俺たちはこんなやつには負けない!」
 「ほら、あなたも」
 「わかっとるわ! きゃあああ、誰かあああ助けてえええ!!!」

 うちなりの悲鳴を上げた、その瞬間――

 「人質を取るなんて卑怯アル。男だったら、正々堂々、戦ってみせるネ!」
 「……えっ!?」
 「神の宿ったアタシの蹴りをその身に受けるネ!ホアチョオオオ!!!」
 「誰えええっ!?」

 謎のカンフー少女の飛び蹴りをまともに受けたオカマは、なんとも言えない叫び声を上げながらその場に倒れた。
 静まり返るステージ。そして――

 「大丈夫だったアルか? 悪党はこのリー・メイメイが倒したから安心するネ!」
 「……」
 「ちょっとちょっと!?」

 リー・メイメイと名乗るカンフー少女の乱入に、慌ててスタッフがステージに駆け上がってくる。

 「えっ、なにアル?」
 「部外者がステージに上がってきちゃダメでしょ! ああ、役者さんまで蹴飛ばしちゃって……」
 「ど、どういうことアル?」
 「これはショーってことや。アンタが一発で蹴り飛ばしたんは悪人でもなんでもないんやで」
 「そ、そうだったアルか!? ごめんなさいアル!」
 「ちょっとこっちに来てくれるかな」
 「そ、そんな!? アタシは五重塔の宣伝に来ただけで――」
 「なにをワケのわからないことを。言い訳は事務所で聞いてあげるからね」
 「あああっ!?」

 スタッフに連れられていくメイメイ。
 ステージに残されたうちらはというと――

 「アンタらが早う助けへんから、こないなことになったんやで!」
 「そんな無茶苦茶な!?」
 「ほら、やり直しややり直し! もうちゃんと助けてもらわんと困るで。みんなもかっこええヒーロー、見たいよな?」
 「みたーい!」
 「ほら、この通りや。じゃあ、最初っからやってくで! ほら、アンタもいつまで寝とるんや」

 うちは気を失っとるオカマ怪人のほっぺをペチペチとたたく。

 「んん……」
 「ええっと、まずどこからやったっけ。せや!みんなの中で人質役やりたい人はおる~?」
 「はいはーい!」
 「元気がええな。ほな、誰にしようかな~」
 「なんで人質がしきっとるねん!」

 ヒーローショーは即興のコントへと早変わり。
 あとでなに言われるかわかったもんやないけど子どもたちにも喜んでもらえたからええやろ。

 ――ヒーローショーが終わり。
 うちはメイメイがどうなったのか気になって事務所へと来ていた。

 「ごめんなさいアル……」
 「なんや、まだ怒られとったんか」
 「ちょうど話を聞き終わったところだよ。次からは気をつけてくださいね」
 「はい……」

 しょんぼりとしたメイメイが事務所から出ていこうとする。

 「なあ、うちのこと知っとる?」
 「え? ええっと……おお、知ってるアルよ!」
 「ホンマか!?」
 「ヒラカタランドのカタいも! ジュニアアイドルの淀川さねるちゃんアル!」
 「……お、おお、さすがうちやな! ちゃんと知名度も上がってて満足満足や!」
 「有名人に会えて嬉しいアル! 今度、うちの店に来てほしいネ!」

 そう言いながら、メイメイは中華飯店“五重塔”のチラシを渡してくる。
 うちがそれを受け取った。

 「さっきも宣伝って言うとったな。アンタ、任務はええんか……?」
 「にんむ? なにそれ? アタシは五重塔を日本一有名な中華料理屋にするのが夢でここまで来たアルよ!」
 「この娘、お店の宣伝をするためにヒラカタランドに来たらしいんです」
 「ホンマ、ようやるわ……」
 「ここは親子連れからカップルまで。老若男女が揃ってるから宣伝するのにうってつけアル。ほらコレ。チラシがたくさん配れたアルよ!」
 「そ、そうか……じゃあ、近くに行ったら寄らせてもらうわ」
 「本当アル!? 待ってるアルよ、さねる! 再見(ザイチエン)!」

 そう言い残して嵐のようなカンフー少女、メイメイは帰っていった。

 「……またな、メイメイ」


EPISODE3 着て、必ず服。重ねろ、スライムの上へ 「どんなトラブルだって笑いに変えたるわ! 上半身裸の男やろうと、スライムやろうとな!」


 カタいもの朝は早い。
 イベントに参加することもあれば、開演前から入って入場者を歓迎したりもする。
 今日はそういう日だった。

 「カタ兄さんは眠たないん? うちは早起きしすぎて眠たくてたまらんわ」
 「なにを言うとるんや、わいの妹やったら早起きくらいでウダウダ言うんやない」
 「せやかて、カタ兄」
 「せやかても、くそもあらへん。お客さんを笑顔で歓迎するんがわいらの仕事や!」
 「はーい……」
 「さねる、これでも飲んでしゃきっとせい」
 「あっ、これ!」

 カタ兄さんが渡してくれたのは、うちの大好きなミックスジュース。

 「どうや、眠気も吹っ飛んだやろ?」
 「おおきに! さすがうちのお兄やな!」
 「任せておま!」

 そうこうしているうちに開演時間が来た。

 「ヒラカタランド、開園です!」
 「今日もみんな来てくれてありがとうな! イベント盛りだくさんやから、ゆっくりしてってや!」
 「わーっ! カタ兄さんとカタいもちゃんだ!」
 「おうおう、走るな走るな。握手やったら、いくらでもしたるから!」
 「はーい、こっちやで。来てくれてありがとうな!」

 って、なんや今日はやたらとお客さんが多いな。
 特にイベントはなかったような気がするんやけど、これはどういうこっちゃ。

 「か、カンフー娘はどこで会えますか?」
 「うわっ、なんやの!?」
 「こ、このカンフー娘ちゃんですよ!」

 オタクっぽい客がそう言いながら見せてきたのは、メイメイの写真だった。
 そういえば、なんかヒーローショーでのトラブルがバズっとるとかなんとか、お兄が言うとったような気がするな。

 「ああ、この娘はうちの従業員ちゃうよ。五重塔っていう中華料理屋の看板娘っちゅうやつや」
 「な、なんだ、いないのか……」
 「へえ~、なんやの。うちやのうてメイメイが目当てやったんか。うちしかおらんで残念やったな~!」
 「違うよ! さねるたんにも会いに来たんだよ! 僕は2人の絡みを、ぐふふ……」
 「な、なにを考えとるんか知らんけど、まあ、メイメイも宣伝したいやろうし、今度呼べるか聞いといたるわ」
 「おお、ありがとう!」
 「はいはい、あんま期待せんで待っといてや」

 メイメイなら頼んだら来てくれるやろ。
 あいつの身体能力なら、ヒーローでも悪役でも、アクションならなんでもやれそうやしな。
 ヒラカタランドのお偉いさんはこういうのも好きやろうし、五重塔の人も宣伝になるんやったら聞いてくれるやろ。

 「この世界でもメイメイには助けてもらうことになりそうやな……」
 「あ! 本物のカタ兄さんとカタいもさんなのだ!」

 そのとき、白衣を着ている女の子がうちに向かって駆け寄ってきた。
 そのまま手を出してきたので、その手を握り返すとぶんぶんと勢いよく握手する。

 「お嬢様、走ると危ないですよ」
 「少しくらい許してやったらどうだ、イネ。らいむは彼女に会いたくて来たんだからな」

 らいむと呼ばれた女の子のあとを追いかけてきたメイドさんと、両親らしき人たちがいた。

 「そないに喜ばれると、うちも嬉しいわ~!」でも、よう引きこもりのらいむがこんな場所まで出てきたもんやな」
 「えっ? なんで知ってるのだ!?」
 「い、いや、なんとなくや、なんとなく。ほら、白衣も着とるし!」
 「なるほどなのだ! 実はずっとさねるたそに会いたかったのだ!」
 「えっ!? うちに!?」
 「お目当てはわいやなくて、カタいものほうかい。まあわかるで、めっちゃ可愛いもんな!」
 「そうなのだ! やっぱり、写真で見るのとは全然違うのだ。ここまで来てよかったのだぁ!」
 「写真?」
 「これなのだ!」
 「って、またメイメイかい!」
 「これをたまたまインターネッツで見て、ひ、一目惚れしたのだ。運命を感じたのだ」
 「運命、か……」

 ここで会えたんはメイメイのおかげっちゅうことか。
 変な感じやな、ホンマは一生会えへんかもしれんくらい全然違う環境やのに。

 「にゅへへ……生のさねるたそ、か、かわいいのだ」

 うちの手を掴むらいむの手は、やけにねばねばしてる。そうやった、らいむはこういうやつやった。

 「ああ、確かにな。だが俺は、うちのらいむの方が可愛いと思うぞ」

 そう言ってうちらの前に現れたのは、白いスーツを着たらいむのお父さん。

 「はあ? なに言うとるんや! うちの妹分の方が可愛いに決まっとるやんけ! ジュニアアイドルやで!」
 「ふっ、兄さんは相変わらずだな。身内には甘いところもそのまんまだ」
 「はあ? ……お前、もしかして慈文ちゃんか」
 「久しぶりです、兄さん」
 「ふたりとも知り合い……ってか、兄弟なんか?」
 「漢の誓いを交わし合った仲だ。本当の兄弟じゃない」
 「まあ、昔ちょっとな……しっかし、ホンマに久しぶりやないか。子供がおるやなんて思わへんかったわ」
 「俺にも色々とあったんだ。可愛いだろ、俺の娘は」
 「確かにかわええな。でも、うちのさねるには到底かなわんな~」
 「……なんだと?」
 「よ~見てみいや、このさねるの笑顔を! こいつが100万ドルの笑顔っちゅうやつやで!」
 「ふっ、そちらが100万ドルというなららいむの笑顔には100億の価値がある!!!」
 「ちょっ、お父様!?」
 「どうやら、決着つけんとあかんようや。久しぶりに慈文ちゃんと競えるなんてな」
 「ああ、こうなったらとことんやるしかない」
 「待って、お父様!」

 慈文さんが上着を掴み、バッと脱いだ瞬間――なぜか上半身裸になっていた。

 「ええっ、なんでや!?」
 「なんや、筋肉で弾き飛ばすんはやめたんか? あのど派手なんがすきやったんやけどな」
 「これからまだヒラカタランドを楽しむんだ。服が無くなると困るだろ」
 「せやな。じゃあ、こっちもやらせてもらおうか!」

 そういうとカタ兄さんも同じように上着を掴み――なぜか上半身裸になる。

 「だからなんでそうなるんや!? 手品か、手品なんか!?」
 「一流の男はこれくらいできなあかんのや。さて、どないする? わいは極で決めてもええんやで」
 「極? それってなんや?」
 「知らんのかいな、さねる。極って言うたら極将棋しかあらへんやろ」
 「えっ!?」
 「悪いな、兄さん。俺はもう駒は握らない。だから、この筋肉で――」
 「も、もうふたりともいい加減にするのだ!」

 らいむがそう叫ぶとスライムのようななにかが飛び出してきて、慈文さんを包み込む。

 「な、なにをするんだ、らいむ!?」
 「周りを見るのだ!」
 「なに?」

 らいむに言われて、うちも周りを見てみるといつの間にかたくさんの人だかりができていた。
 カタ兄さんも脱いどるし、なんかのイベントかと思われたんやな。

 「あ、あの、会えて本当によかったのだ! わたしたちはもう行くのだ、じゃあ!」
 「ちょまち!」
 「はい?」

 そう言って立ち去ろうとするらいむを引き止める。

 「なんで、うちに会いたかったんや?」
 「そ、それは……」
 「お前はらいむの憧れなんだ」
 「ちょっと、お父様!?」

 慌てるらいむをよそに、うちは聞いた。

 「なんでうちなんかに憧れとるん? そりゃ、めっちゃ可愛いうちなら当然っちゃ当然かもしれへんけど?」
 「そ、それは……かっこいいって思ったからなのだ!」
 「うちが?」
 「テレビで見るさねるちゃんは自信満々でキラキラ輝いてて、本物のアイドルって感じで! わたしはそれとは正反対だから……いつか、さねるちゃんみたいに胸を張って好きなものを好きって言えるようになりたいのだ!」
 「……そっか、そういうことやったんやな」
 「は、恥ずかしいのだ……」
 「アンタもめっちゃ可愛いんやし、頭もええんやから自信持ってええと思うで!」
 「さねるたそ……!」
 「うちはいつでもここにおるからな。会いたくなったら、いつでも来るんやで~!」
 「はいなのだ!」

 らいむ一家が遠ざかっていく後ろ姿を見ているとその会話が聞こえてきた。

 「面白い人に会えてよかったわね、らいむ」
 「もう、お母様も笑ってないで止めてほしかったのだ!」
 「さすが兄さんだ、いい筋肉をしていたな」
 「いいから、早く服を着てほしいのだ!今日はたくさん遊ぶんだから!」

 怒りながらも、どこか楽しそうならいむの声。
 らいむたちだけじゃない。
 たくさんの家族や、友人同士、カップルがヒラカタランドに遊びに来ている。
 その人たちが帰るとき、笑顔でいてほしいな。

 「なにをニヤついとるんや?」
 「なんでもないで、お兄。今度はらいむと遊びたいな~って思うただけや」


EPISODE4 結局やらされた女 「こんなオタクたちの見世物みたいな……でも、うちがやらんと誰がやるねんって話やな!」


 「……ヒラカタ万博?」

 いつものようにヒラカタランドに行くと、カタ兄さんから急にそんな話を聞かされた。

 「せや、ヒラカタ万博。ヒラカタ市を盛り上げるために企画されたんや」
 「それってオオサ――」
 「ちゃう、これはヒラカタ市のオリジナル!断じてパクリやないからな!」
 「はいはい。それで内容は?」
 「ええか、まずは――」

 カタ兄さんの話によると、ヒラカタ市の各地でイベントが行われるらしい。
 お店や商店街、観光スポット。
 それこそヒラカタ市をまるっと巻き込んだ大規模な一世一代の大型イベントや。
 そのイベントでうちらがなにをするのかというとヒラカタランドのパレードよろしく、ヒラカタ市を巡り巡りしながら乱入して、そこにいる人たちと交流しようっちゅうもんらしい。
 ヒラカタ市のアピールをして世間的な知名度を上げつつ、おまけにヒラカタランドのマスコットキャラクターやうちらとも会えて、イベントも楽しめる。
 それがヒラカタ万博らしい。
 おもろそうやし、ファンが増えれば増えるほど生活も潤うってもんや。

 「にしても、大掛かりなイベントやな。うちらってそない稼いどるん?」

 前の世界ではヒラカタ万博なんて言葉は1回も聞いたことがない。
 まあ、ヒラカタランドがありえへんくらい有名になったんは今回からやしな。

 「まあ、稼いどるっちゃ稼いどるで。あのカンフーちゃんと、慈文ちゃんの娘さんのおかげやな」
 「メイメイはわかるけど、なんでらいむも?」
 「なんや、知らんのか。あの娘、ヒラカタランドのスポンサーになったんやで」
 「へえ、らいむがスポンサーにな~……ってなんやて!?」
 「お前のことがえらい気に入ったみたいやな。ヒラカタランドが盛り上がるならって、気前よくぽ~んっと出してくれたみたいやで!」
 「そ、そうなんか……」

 まさか、らいむのおかげやとは。
 やとしたら、このイベントは絶対に成功させんとらいむに顔向けできへん!
 ええで、やってやろうやないか!

 ――ヒラカタ万博当日。
 宣伝効果もあってか、ヒラカタ市はこれまでにないほど人で溢れかえっていた。
 ……というのを関係者の控室代わりになっているテントの中で、うちはニュースで知った。。

 「すごいな、ホンマに人で溢れとるやん。こないな大きいことになるなんてな」
 「わいら兄妹のおかげや! さあ、そろそろわいらの出番やで!」
 「了解や!」

 準備をしてテントから出た瞬間、それを待っていたかのように、たくさんの人たちが周りに集まってくる。

 「おおっ、本物のさねるちゃんだ!」
 「さねるちゃあああん!!!」
 「お、おお……」
 「さすが、我が妹ながらすごい人気やな。こんなにぎょうさんファンがいてくれるやなんて!」
 「ホンマに嬉しいわ~! って、オタクくんばっかりやないかい!」

 街に出てみると、確かにイベントのために駆けつけた人で周りは大盛況。
 なのに、なぜかうちの周りにはオタクくんたちが大量に押し寄せてきていた。

 「オタクとか関係あらへん。さねるのファンやんか。ファンは大切にせなあかんで!」
 「わ、わかってる! みんな~、今日は来てくれてありがと! でも、通れへんから道開けてな~!」
 「わかったよ、さねるちゃん!」

 オタクくんたちが両脇にズレて道ができる。
 これでイベントしてるところへ行けるけど、まさかこれ、みんなついて来るつもりか?
 とりあえず、この状態でイベントを進めていくしかない。

 「まずはここ、ハイスタンドのケーキ!おしゃれなんはもちろん、その味も絶品なんや!さねる、食べてみ!」
 「めっちゃかわいいケーキばっかりやな! まずは一口……んんっ! あっまくておいしいわ!」
 「食べてる姿も可愛いよおおお!」
 「ちょっ、ジロジロ見過ぎや!」

 オタクくんたちに見守られる中、うちは次のお店に向かう。

 「ここはジョフナンのシュークリームや!ふんわりとした薄皮のシュー生地の中に、特製のカスタードクリームをたっぷり! うまいんは当たり前、それに加えてなんと安い! コスパ最強のシュークリームやで!」
 「おお、これはホンマに安いな!」
 「俺たちのお小遣いでたくさん食べてえええ!」
 「そんなに食べられへんわ!」

 次や次。

 「ここが呼符堂のどらやき――って、食べもんばかっりやないか! お兄!」
 「それだけうまいもんが多いってことや。どんどん食べて、どんどんアピールせな!」
 「それでホンマにええんか……」
 「ほら、見てみ」

 カタ兄さんに言われて見てみると、大量のお土産を抱えたオタクくんたちがいた。
 まあ、ある意味では地域に貢献できてるんかな。

 「さねるたんとお揃いにしちゃったぜ! こいつを食べたら、実質さねるちゃんとご飯食べてるのと同じだ! いや、これはもうデート!」

 ……いくらポジティブでも、それはちょっと引く。

 「顔に出とるで、さねる」
 「あっ……ちゃ、ちゃうで!」
 「色んな人間がおるからしゃあない。でも、わいらはプロや。そこはしっかりせな!」
 「わ、わかってるってば!」
 「ならええ。ほな、次行くで~!」
 「次はなにを食べることになるんやろな」
 「――おおい、誰か来てくれ!!」

 うちらが移動しようとしたとき、店の中から慌てて人が飛び出してきた。

 「急患や、急患! うちのばあちゃんが倒れてもうた!」
 「なんやて!? はよ救急車呼ばんと!」
 「この辺はイベントで車両は入れんようになっとる! 通れたとしてもこの人だかりや。ここまで来るんは時間がかかってまうで!」
 「そ、そんな、うちらのせいで……どないすればええんや!」
 「いや、救護所が近くにあるから、そこまで運べれば応急処置はできるはずや!」
 「いや、そこまで遠いやろ! はよせんとばあちゃんが!」

 うちらは周りの人たちに呼びかける。

 「医者はおらへんの!?」
 「さねるちゃん、さねるちゃん!」
 「なんや! 今は緊急事態なんやで! オタクくんたちの相手しとる暇は――」
 「俺、看護師だから診れるよ」
 「はいはい、そういう自己紹介はまた今度で――ってホンマか!?」
 「ホントだよ、ほら」

 そう言いながらオタクくんが出してきたのは、資格を証明するもの――詳しくはわからないけど、たぶんそうだと思う。

 「実は、僕たちもなんだ」
 「僕も僕も」
 「オレもそうだよ!」
 「いや、多い多い!」

 次から次へと名乗り出てくる。
 どこから出てきたんやというくらいにワラワラと出てきて、うちらを囲んでいく。
 その顔をよ~く見てみると、ほとんどがイベントに来ていたオタクくんたちだった。
 全員が医療従事者という奇跡。
 いやいや、ありえへんやろ!

 「よし、すぐに取りかかろう!」
 「ハイ!!」
 「じゃあ、症状診るからね」
 「脈取るからな」
 「気道の確保をせんとあかんやろ」
 「何人で診るつもりやねん!」

 ついさっきまで「さねるた~~ん」言うてたオタクくんらが真剣な顔つきでおばあちゃんの様子を確認してる。
 よく見れば、周りのオタクくんたちが通行人の誘導まで始めとった。
 びっくりするくらい手際が良すぎる。
 こんなに優秀やったんか!? オタクくんたちって!

 「よし、これで大丈夫だ!」

 うちが驚いている間に治療は終わり、苦しそうだったおばあちゃんの顔色は良くなっている。

 「あくまで応急処置なんでちゃんと病院に行ってくださいね」
 「あ、ありがとうございます!」
 「兄ちゃんたちすごいな!」

 たくさんの人達からお礼を言われるオタクくんたち。
 大変な事態になる前に騒ぎを納めてくれたからイベントも問題なく進められる。
 ……ううん、ちゃうな。そうやない。
 ひとりの命を救ってくれたオタクくんたちに、うちは感謝せなあかん。

 「みんな、ありがとうな」
 「うおおおおおっ! さねるたんにありがとうって! お医者さんになってよかったあああ!」
 「大袈裟やって!」
 「困ったことがあったらいつでも呼んでくれ! 俺たちが力になるから!」
 「なんや顔つき変わり過ぎやろ! そないに彫りが深かったか!? わかったから、暑っ苦しいな!」

 寄ってくるオタクくんたちを押しのけながら、うちはちょっとだけ嬉しかった。
 変なきしょいやつらばっかりやと思ってたけどそないなことなかった。
 色んな力が無くなったから、この世界のオタクはええやつになったんやろか?
 ……いや、ちゃうな。
 これはうちが気づいてなかっただけで、前の世界からそうやったんや。
 この世界でも、前とは変わらんところもあるんやな。
 オタクの中にもええオタクと悪いオタクがおる。
 オタクやからって、決めつけたらあかん。
 それがわかったのが、うちは嬉しかった。

 「よーし、そろそろ再開しよか!」
 「そうやった、まだイベント中や! どんどん盛り上げていこうや! アンタらもちゃ~んと最後まで来るんやで!」
 「おおおおお!」

 うちらと、オタクくんたち、街の人たちのおかげでヒラカタ万博は大盛況に終わった。
 今日あったことは、うちにとって大きい出来事や。
 帰ったら、おとんとおかんに話さんとな。
 なんてことを考えながら、うちは帰り道を歩いていた。
 今日は忘れられん1日になった。
 ホンマ、色んな意――

 「ふひっ! 淀川さねる、やっと見つけたわ!」
 「その独特な笑い方は!?」
 「言いたいことはたくさんあるけど……ちゃんと来てやったんだから、まずは肉まんをおごりなさい!」

 うちの前に、なぜか土呂城ゆいがいた。


EPISODE5 再会 ―それはさておき2回目の世界― 「うちのことを覚えとるとは思わへんかった。 驚いたけど、なんかちょっぴり嬉しいな」


 ――なんでこうなったんやろな。
 ホンマ、どういうことやねん。

 「よそ見しないで、ちゃんと聞いてるの!?」
 「そないな大声出さんでも、聞いとるわ!そもそも、なんでアンタがおるんや。土呂城ゆい!」

 うちがあの日最後に会ったんはゆいやった。
 でも、ホンマになんでここにおるんやろ。

 「ほら、やっぱりそうじゃない!」
 「なにがや?」
 「あなたはわたしの名前を知ってるわ。確かにわたしはSNSだと有名人かもしれないけど、本名は出していないわ!」
 「あっ……! そ、それは……」
 「つまり、あなたはわたしを知っている。いいえ、覚えているということよ! なにより、あなたが人気者ってことがおかしいわ!」
 「……は?」
 「あなたには記憶がある。絶対にズルをしてるに違いないわ! わたしにはわかるわ! だって、わたしもそうだから!」
 「アンタもやったんかい!」
 「ふひひっ! そうよ! おかげでSNSはバズりにバズってるわ!」
 「ホンマ、こいつは……」

 あんまり変わってないなと思いながらも、少しだけ嬉しくて涙が出そうになった。
 ややこしいもん全部をリセットした世界。
 うちのことを覚えとる人なんておらんと思ってたからホンマに不意打ちや。

 「アンタもってことは、やっぱり記憶があるってことよね? そうでしょ、白状しなさい!」
 「……無理に隠す必要もないか。せやで、確かにうちは全部覚えとる。前の世界のことも、アンタのこともな」
 「やっぱり、そうなのね! なら、このおかしな世界のことも説明しなさい。なにがどうなってんの?わたしが知ってる世界と違うじゃない!」
 「うちはそういう世界やからって受け入れたけどアンタは違うん?」
 「だって、全部覚えてるのよ。天使っぽい女の顔が頭から離れないから調べたらユリアだったし、アキハバラは琵琶湖で浮いたり沈んでるはずなのに、普通にトウキョウでただのアキハバラとしてある。わたしだけずっと夢を見ていたのかと思ったわ」
 「そんなハッキリと覚えとるんか!?」
 「当たり前じゃない、わたしを誰だと思ってるの?世界最強の美少女、ゆい様よ!」
 「なんや、それ……」

 ゆいは前の世界ではもっとこじらせていたはず。
 せやけど、いま目の前にいるゆいはSNSでバズったせいか印象がまるで違う。

 「その前に、なんでうちがここにいるってわかったん?」
 「あれだけテレビとかで宣伝されてるのに、わからないわけないじゃないの」
 「あ~、それでか」
 「それよりも、知ってることを話しなさい!」
 「ええっとやな……」

 うちはあのときのことを話していく。
 要するにこの世界はシンプルになった。
 あんな超常的なわけわからんこと盛りだくさんの世界やなくて簡単に。
 だから、クリスタル・スカルやらオタクちからとか。
 うちの知るかぎり、そういうややこしいのが全部なくなった。
 でも、だからって全てが消えたわけやない。
 極将棋界には凄腕のじいちゃんと孫娘がおるし、絶品おにぎりを作るギャルも人気になっとる。
 未来の歴史学者として有名になった女子高生たちも……。

 「……つまり、物事がいい方向に向かってるということや」
 「じゃあ、わたしはこれからどうすればいいの?」
 「どうって、好きにしたらええやん。もう悩みとかは無いんちゃうか?」
 「それは……」

 あの世界で見たゆいの過去。
 負の感情が渦を巻いてたけど、今のゆいからはそういうのを感じひん。

 「わたしは……」

 いや、完全に消えたわけちゃう気がする。
 こうやって記憶が残っとるわけやから、またあんな闇に染まる可能性もあるんちゃうか?
 やとしたら、うちにできることは……。

 「なあ、ちょっとええ話があるんやけど聞かへんか?」


EPISODE6 どいて、君。ちょいかぶる 「ちょっと写真撮るなら普通に撮ってや! メリーゴーランドのトラと被っとるやんけ!」


 ゆいと出会った翌日。
 うちは彼女を引き連れてヒラカタランドに来ていた。
 その理由はもちろん――

 「さあ、今日は遊びつくすで!」
 「なんでそうなるの!?」
 「なにが不満なんや? うちのおかげでアトラクションは乗り放題やで!」
 「そうじゃないわよ! どうしてわたしがあなたなんかと遊ばなきゃいけないの」
 「とか言いながら、ちゃんと来とるやん。遊ぶ気まんまんやったんちゃうか?」
 「そ、それは……わたし、いつも独りで……こういうところに来たことなくて興味が……」
 「なら、ちゃんと遊ばんと! ほら、最初はあれや! 名物の木製コースターや!」
 「ちょ、ちょっと!?」

 うちはゆいの手を取ってアトラクションへ向かう。
 なんやかんや文句を言いながらもついて来てくれるゆいを次々とアトラクションに乗せていく。

 「どうや! このコースター! めちゃめちゃ迫力があってええやろ!」
 「きゃあああっ!?」
 「さねるちゃん! 手振ってや~!」
 「この状況で言うことか! ちゃんと見ときや、思いっきり振ったるから!」

 うちがアトラクションで遊んでるからかやたらとファンの人たちに話しかけられる。
 まあ、人気者のうちやらか当然やな。

 「あなた、本当に人気あるわね」
 「せやろ? カタ兄さんの妹分! カタいものさねるちゃんやから当然やな!」
 「……」
 「ほら、そないなことはええからさっさと次に行くで! まだまだ紹介したいアトラクションがあるんや!」

 次に乗ったのは人気のメリーゴーランド。
 めっちゃでかいし、なにより乗れるもんがええ。

 「なんで馬じゃなくてトラなの!? たこ焼きまであるじゃない!」
 「ただのたこ焼きやない。うちのマスコットキャラクターや!」
 「そういう問題じゃないでしょ!」
 「こんなんヒラカタランドじゃ当たり前。だいたい、メリーゴーランドの乗り物が馬やって誰が決めたんや」

 うちがメリーゴーランドのトラにまたがるとゆいも続いて乗り込んでくる。
 そして、メリーゴーランドが動き始めた。

 「きゃあっ!?」
 「ほら、ちゃんと掴まっとかんと振り落とされるで! うちのトラは凶暴やからな!」
 「トラトラトラ!?」
 「みんな、見とるか~! 日本一の美少女、さねるちゃんが回っとるで~!」
 「さねるちゃん、今日もたくさん回ってるね!」
 「おお、いつもより多く回っとるからな! って、なんでやねん! いつもと変わらへんわ!」

 来場者のファンたちに手を振りながらちらっとゆいのほうを見てみる。
 なんやかんや言いながらも楽しんどるようや。

 「なんや、やっぱり可愛いやん」

 ヒラカタランドのありとあらゆるアトラクションを回り続ける。
 最初はうちが手を引っ張って回っとったけど、今は逆になっとった。

 「ふひひっ、なにをしてるの! 今度はあれに乗りたいわ、早く案内しなさい!」
 「わ、わかった! でも、ちょっとだけ休憩や。そこの店にええもんがあるから!」
 「しょうがないわね。あなたのおごりなら、飲んであげるわ」
 「はいはい」

 こんなに楽しんでもらえるんはええけど、こっちの体力が持たへんわ。
 こいつ、どんだけ元気やねん。
 うちが買ってあげた飲み物を手にうちらは近くのベンチに座る。

 「ふう、すっかり日が暮れてきたわね」
 「それだけ楽しんだっちゅうことやな。どや、ヒラカタランドは最高やろ?」
 「まあ、悪くないわ」
 「そうか、悪くないならええ!」

 そう言いながら、ゆいの顔はまんざらでもなさそう。
 やっぱり、ヒラカタランドはええところや。
 こんだけ人を明るく、笑顔にできるんやからな!

 「……あなたは人気者だわ」
 「そりゃそうや。日本一のジュニアアイドルやで! おまけに今はカタいもや! ヒラカタで一番の人気者と言っても過言やないで!」
 「わたしはあなたが可愛いから人気があるんだってそう思ってたわ」
 「なんや、急に。可愛いんは当然やろ!」
 「そ、そうじゃなくて、わたしは――」
 「こんなところにおったのか、おぬしら。まったく、なぜわしが探し回らねばならぬのじゃ」
 「えっ? あなた、どうしてここに……」

 うちらに声をかけてきたのは、巫女服を着たひとりの少女だった。

 「遅かったやないか、八雲!」


EPISODE7 ヒラカタの地に願う、未来 ―関西の友の物語― 「うちだけが新しいスタートを切ったんやない。 ここにいる3人でスタートしたんや!」


 ――それはゆいと出会ったすぐあとの話。
 うちは必死で調べに調べて、なんとか安倍八雲と連絡を取っていた。
 インターネッツは最高や、ネッツしか勝たん!
 うちが八雲に連絡して、なんやかんや話し合ったあと、協力してくれることになった。

 「記憶を封印……?」
 「そうじゃ、それしか手は無いじゃろうな」
 「わたしの記憶を……」
 「これはおぬしのためでもあるのじゃ。残念じゃが、他に方法はないぞ」

 八雲が言うには、色んな事が無くなったとはいえなにが起きるかわからない。
 それこそうちらが認識してない外の世界の力が作用して、またゆいが覚醒する可能性があると。
 まあ、ふとした拍子に承認欲求が服を着て歩いとるようなあんなモンスターにならんとも限らん。
 だから、ゆいの記憶を封じる。
 あのときに得た満たされる感覚を再び呼び起こさせないために。
 ……ということらしい。

 「よいな、これはおぬしのためなのじゃ」
 「……嫌よ」
 「ダメじゃ、こればかりは譲れん。おぬし、自分がなにをしたのか覚えておるのじゃろ」
 「覚えてるからこそ、忘れたくないの!」
 「どういうことや?」
 「わたしに失敗は許されないの! だから、あれは失敗じゃなくてリハーサルにするわ!」
 「はあ!?」
 「そう、あれはリハーサルなのよ、リハーサル。だから失敗とか、成功とかじゃないの!」
 「どういう理屈じゃ!」
 「ようは巻き戻せたって事でしょ? あんなことにならないように、新しくやるだけ。ふひひ、もう二度と失敗しない。わたしを誰だと思ってるの!」
 「しかしじゃな……」
 「せやったら、うちが監視するんはどうや? ゆいは可愛いし、うちの事務所でもええ勝負できるで!」
 「なんじゃと!?」
 「わたしが、芸能事務所に……?」
 「なんや、アイドルで食っていく自信がないんか?」
 「はあ!? なにを言ってるの! わたしの可愛さがあればオタクなんてイチコロだわ!」
 「やったら決まりやな」
 「お、おい、さねる!」
 「大丈夫や。今のゆいやったらなんとかなるやろ。もうひとりや無いんやからな」
 「……」

 はあ、と八雲がため息をつくと、なにかを決心したようにこちらを見てくる。

 「わかった。おぬしがそう言うなら信じよう。なにせ世界を救った女子じゃからな。じゃが、なにかあったときは連絡してくるんじゃぞ」
 「おおきに!」
 「で? わたしはいつからアイドルになれるの? 半端な仕事を持ってきたら許さないわよ!」
 「ほんま、ええ根性しとるわ。これはうちも食われんように気張らなあかんな!」
 「ふひ、あなたには負けないわ、覚悟しなさい!」
 「……どうやら、心配はいらぬようじゃ」

 八雲がそう言うと、そこから去っていこうとする。
 うちは慌てて手を掴んで、彼女を引き止めた。

 「ちょ、待ちや! 琵琶湖からここまで来といてはいさよならはないやろ! まだまだ時間はあるんや、遊んでいかな!」
 「し、しかし、わしはこういう場所は初めてで……」
 「大丈夫や、うちを誰やと思うとる。ヒラカタランドのアイドル、カタいものさねるやで! とことん楽しませたる!」
 「そうよ、ちゃんと遊んでいきなさい!」
 「ま、まあ、そこまで言うなら……」
 「ほな、決まりやな。関西ヒラカタ同盟、行くで!」
 「なんじゃ、その名前は!?」
 「ちょっと、わたしは関西出身じゃないわよ!?」

 前の世界の記憶を持ったうちら3人。
 新しい世界で、新しいスタートを切るんや!


EPISODE8 ヒラカタから徒歩113時間 「アキハバラは、あの2人が絶対に守ってくれる。 だから、うちらはうちらでヒラカタを盛り上げるで!」


 ――関西ヒラカタ同盟結成から数週間はホンマに慌ただしかった。
 うちが事務所にゆいを紹介したんやけど、押しの強さと企画まで持ってきてて、まあ当たり前のように合格したわな。
 可愛いってのもあるけど、あのキャラや。
 なんや最近は「クソガキ?」いうのが流行ってるらしい。
 にしても即断即決はやりすぎちゃうか?
 ……とまあ、ここまではよかったんやけど。
 なんでかわからへんけど、いつの間にかうちとゆいが一緒に活動することになった。
 いや、うちが紹介したからわからんでもないんやけどなんでそうなるんや。

 「ホンマ、手のかかる後輩ができてもうたな」
 「後輩やなくてパートナーやろ。お父ちゃんはええコンビやと思うで!」
 「せやな、うちがツッコミでゆいがボケ――ってなんでやねん! そこはコンビやなくて、ユニットやろ!」
 「はいはい、せやな」
 「さねる! これを見なさい!」
 「って、ゆい! 何をナチュラルにうちの家に上がっとんねん!」
 「おぬしの母君にあげてもらったのじゃ」
 「八雲までおるんかい」
 「そんなことよりも、これよこれ!」

 ゆいが見せてきたのは、イーヨ数が万を超えたうちらのユニットの投稿だった。

 「わたしの写真がバズってるわ! 言ってたとおりでしょ、ふひひっ!」
 「はいはい、ホンマにすごいすごい」
 「なんなの、その反応!?」

 うちの相方――やなくて、パートナーとして活動し始めたゆいの人気はすごかった。
 まあ、元々はSNSで活動しとったからな。その辺はうちよりうまいかもしれん。
 うちも最初のうちはホンマに自分のことのように嬉しかったんを覚えとる。

 『ホンマか、めっちゃええやん!』
 『さすがやな、ええ写真やんか!』

 といった感じだったんやけど。
 それが2回目、3回目、そして4回目と続くと人っちゅうもんは恐ろしいもんでそれに慣れてまう。
 確かに何回もバズれるんは才能なんやけど、身近でそれを見とったうちは慣れてしもうた。
 いや、ホンマにすごいことなんよ?
 バズらせて当たり前って感じになっとるんやから。

 「それにしてもホンマ、変な縁やなあ……」
 「何がよ?」
 「だって、うちとゆいがこんな関係になるなんて、普通は思わんやろ?」

 うちがそう言うと、ゆいは目をパチパチとさせてつぶやいた。

 「言われてみればそうだわ……」
 「せやろ? たしかに、うちらは記憶が残っとる。けど、いつの間にかメイメイとらいむとも縁が結ばれたんやで。変としか言えへんやろ?」
 「……だとしたら、それはあなたの力だわ、さねる」
 「うちの?」
 「あなたはみんなを惹きつける。ヒラカタランドに来たお客さんたちを見てそう思った」
 「ふふ、それが“人の縁”というやつじゃな」
 「あ……」

 うちは、おとんとおかんが幸せに暮らせるようにって気持ちでいっぱいで、ゆいに言われるまでぜんぜん気づかんかった。

 「ありがとうな、ゆい」
 「はあ? 何を急に……」
 「ふむ、おぬしもたまには良いことを言うんじゃな」
 「こ、こんなこと、もう二度と言わないから!」

 ゆいはそっぽを向いた。

 「あはは」
 「なに笑ってるのよ?」
 「なんでもない!」

 うちはソファに寝転がってテレビをつける。
 映った番組は、ちょうどアキハバラについて紹介するニュース番組だった。

 『オタクの聖地と呼ばれたここ、アキハバラ。しかし、今ではその様子を少しずつ変えています』
 「おっ、アキバやん」
 『以前は駅前にたくさんあったメイドカフェやいわゆるオタクグッズの販売をしていた店が少しずつ数を減らしています」
 「……本当に変わったわね。アキハバラのアイドルたちを推してたオタクたちが減ってるって聞いたわよ。まあ、わたしは全国にファンがいるから全然影響ないけど」

 うちらや、あの娘たちが守ったアキハバラは少しずつ失われようとしとる。
 うちらになにかできることがあったらええんやけど。

 『アキハバラの再開発が始まってからというもの、アキバといえばオタクのイメージを払拭しようという動きが活発になってきていますね』
 「オタクが……」
 「オタクちからなんてものがなくても、結局はこうなってしまったようじゃな……」

 そのニュースを見て、うちは少し寂しくなった。
 オタクくんたちが楽しめる場所は、ちゃんとあるんかなって。
 噂では、メイドカフェを守るためにオタク連合が結成されたとかなんとか。
 おまけに、アキハバラを変えたい勢力と連合の間で抗争が起こったとか、起こってないとか。
 真相はわからんけど、オタクの街は変わりつつある。

 「はあ、つまらんニュースやな。別にアキハバラにオタクがおってもええやろ。オタクなんて、もうどこにでもおるやんけ」
 「本当だわ! わたしのグッズを売る場所はひとつでも多いほうがいいもの!」
 「そういう問題ではないじゃろ」

 うちがテレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。

 「お、おい、待て、あの者たちは!?」
 「あっ!」

 八雲に言われてテレビを見てみると、どこかで見たことがある2人組の女の子が映し出された。

 『あ、あの、あなたたちは?』
 『私たちが誰かなんてどうでもいいことよ。ただ、ひとつ言えることは――』
 『愛するアキハバラを守り続ける! たとえ、私たち姉妹だけになったとしても!』

 そうテレビに向かって笑って見せた女の子たち。
 うちらはその2人を見て、ふと笑みがこぼれた。

 「フン、まあ、わたしほどの人気は無くても、守れるかもしれないわね」
 「うむ。やはり、アキハバラを守るというのはあやつらに課せられた運命やもしれぬな」
 「せやな! 頑張ってアキハバラを守ってや、おふたりさん」




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 全てがアキバに収束して大団円で終わって良かったんだけど、イングリットとか桃子とかの後日談も是非欲しいところ。 -- GUMINレーベルが1番好き? 2024-09-21 (土) 14:34:46

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