興石 甜香

Last-modified: 2025-07-09 (水) 20:18:12

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※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。

興石 甜香.png
Illustrator:鯱ノ丸


名前興石 甜香(こしいし てんか)
年齢永遠の15歳
職業因果の観測者
魂名オッセルヴァトリーチェ

元・中二病患者だったゲームデザイナー。
帰宅最中の事故に巻き込まれた彼女は、黒歴史真っ只中の学生時代にタイムリープしてしまう――。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ジャッジメント【LMN】×5
5×1
10×5
20×1


ジャッジメント【LMN】 [JUDGE]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 初期値からゲージ7本が可能。上昇率が上がったことでGRADE次第では9本も視野に入るようになった。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、SUN PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加は打ち止めとなる
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    MISS判定20回で強制終了
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    1215.00%
    2215.30%
    3215.60%
    ▼ゲージ8本可能(220%)
    18220.10%
    51230.00%
    85240.20%
    101244.90%
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    127250.10%
    ▼ゲージ9本可能(260%)
    177260.10%
    200~264.70%
    推定データ
    n
    (1~100)
    214.70%
    +(n x 0.30%)
    シード+10.30%
    シード+51.50%
    n
    (101~200)
    224.70%
    +(n x 0.20%)
    シード+1+0.20%
    シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2024/5/23時点
LUMINOUS12145253.70% (8本)
~SUN+245264.70% (9本)
所有キャラ

所有キャラ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 因縁の再会「古の封印、破られし漆黒の秘密。今ふたたび、因果の螺旋は動き出した」


 「フゥーーーッハッハッハァァアアアア!!どうした、〈因果の観測者〉よ! その程度の因果力で、この我を倒せると思うたか!!」
 「ぐ……〈深淵の紡ぎ手〉め……」

 〈因果の観測者〉と呼ばれた少女は、震える身体を手で押さえながら、ゆっくりと立ちあがった。

 「まだ……だ、まだわたしは……」
 「戦友(とも)は消え、相棒の魔杖は砕かれた。今のお前に何ができるというのだ!?」

 空に浮かぶ〈深淵の紡ぎ手〉をキッと睨むと、因果の観測者は胸に手をあてて叫ぶ。

 「ここに“わたし”がいる! 我が胸にたぎる炎は、貴様に屈しない!!」
 「いいだろう、ならば散るがよいッ!」

 〈深淵の紡ぎ手〉が構えた腕から、夜闇よりもなお昏い闇が放射状に広がっていく。あれが地上を包みこめば世界の崩壊は避けられない。

 「貴様はこのわたしが打ち砕く! 仮令(たとえ)、我が魂<エンブリオ>が朽ちようと!!」

 少女が右手を伸ばして眼帯へと手をかける。

 「我が名は、オッセルヴァトリーチェ!! 因果の観測者にして、あまねく世界の魔導を統べる者なり!」

 眼帯の奥に灯る魂<エンブリオ>が、空に幾重にも連なる魔法陣を描き――〈深淵の紡ぎ手〉へと極光を解き放った。
 極光の輝きは刃となり、〈深淵の紡ぎ手〉ごと全空を両断した。

 「す、素晴らしいぞ、その力……ッ! さすがは、我が認めた…………ぐッ、ヌワァァァアアアア――」

 ――
 ――――

 「――――――うわぁぁぁあああああ!?」

 何かがぶつかる音と共に、私は目を覚ました。

 「い、ったぁぁぁぁぁ……」

 どうやら机に頭をぶつけてしまったらしい。そして、抱えてる仕事をほったらかして船をこいでいた事も。

 「なんて夢だ……」

 私――興石甜香は、あるゲーム会社のアートディレクターだ。
 忙しいディレクション業務の合間を縫って、新人が新企画用に提出してきたキャラクターデザインのチェック作業をしていた。

 「ハァ……自分の仕事も終わってないのに……」

 私の机には、主人公とその仲間たちのキャラクターデザイン案が何枚も広がっている。
 翼や鎖に魔法陣、無駄にでかいベルト。機能性があるようには思えない、“いかにも”なデザイン。
 きっと、学生時代の初期衝動を形にしようとして、いわゆる“中二病”的な要素を盛りこんだのだろう。

 『どうしてダメなんですか! やってみないと分からないじゃないですか!』
 『理想と現実は違うという事を理解しなさい』
 『……ぅ、……うぇぇ……』
 『泣いたくらいで私が良いって言うわけないでしょ?泣く暇があったら、次を考えるの』
 『でもわたし、興石さんみたいになりたいんです!』
 『そうしたら最終的に管理職になっちゃうわよ』

 後輩の女の子と夕方に交わしたやり取りが蘇る。

 「ハァ……明日も同じになる未来が見えるわね」

 俯いていた顔を上げると、会社に飾られたポスターに目が向かう。そのポスターには、私がデザインしたキャラクターが活き活きと描かれている。
 鎧に赤いリボンが目立つ女の子。
 あのキャラから人気は広がりゲームも売れた。今や会社を代表する作品だ。
 でも、私はあの時から一歩も成長していない。
 今になっても、一番最初の仕事を超えられずにいる。

 「ハァ……」

 ふと時計を見ると、もうすぐ日が変わる時刻。
 自分の仕事をもう少し進めておきたかった所だけど、今の状態で作業をしたら彼女のアイデアに考えが引っ張られそうな気がして、大人しく帰る事にした。

 「どこか行きたい……」

 警備員さんに挨拶をして会社を出た私は、重たい体を引きずるようにして帰路を進む。
 自宅は会社からそう遠くない。終電や終バスを気にせずに働けるのはメリットだけど、限界を超えて働いてしまうのがデメリットだ。

 「早く家に帰りたい……歩くのヤダ……ふわふわのぬいぐるみ……持ってまいれ……このさいクッションでもいい……わたしの疲れを癒して……」

 ブツブツとつぶやいていたその時。

 ――ォォ、ブオオォォォ!

 疲労でフラフラとした足取りで進んでいた私の背後で大きなエンジン音が鳴っていた。
 首だけで振り返った私を迎えたのは、真っ白な光の世界。私の意識は、そこでプツリと途絶えた。

 ――
 ――――

 私が最初に感じたのは、ほんのり冷たい風と温かな陽の光。
 耳に飛びこんでくる鳥のさえずりと子供たちの声に、私は目を開く。
 地面に散った桜の花びらでできた道を、学生たちが歩いていた。

 「私……なんでこんな所に……まさか、朝まで道端で寝てた!?」

 いや、違う。
 会社の周りはビルだらけだったはず。のどかな景色なんて、会社にも私の家の近くにもない。
 というか、この景色には何故か見覚えがあった。

 「フ、かような所で一体何をしているのだ、〈因果の観測者〉よ」
 「え?」
 「待つのです〈白銀〉。彼女は今、時空界の干渉を受けているかもしれませんわ」
 「え、え?」

 いつの間にか、私を両サイドから挟むようにして、両腕を胸の前でクロスさせた女子たちが立っていた。

 「あの……なんなんですか、あなたたちは?」
 「なっ……バカな!?」

 そう言うと、〈白銀〉と呼ばれた女の子は腕を顔の高さにまで掲げてみせる。
 親指以外の指に嵌められた指輪が、陽の光を浴びてギラリと輝いた。

 「貴様ぁ……偽物<シェイプシフター>だな!?この私が、裁きをくだしてくれる!」
 「待って〈白銀〉。彼女は今、共鳴<アクセプト>状態にあるかもしれません! 急に話しかけては、こちらにも危害が及びますわ!」
 「む……ならば仕方あるまい。取り乱してすまない、〈因果〉よ」
 「……はい?」

 2人は私の前でよく分からない単語を並べ立ててはあーでもない、こーでもないと議論を交わしている。
 私にも分かる言葉で話をしなさい、話をっ!

 「ち、ちょっと、いい加減にして。あなたたちは何がしたいのかしら? それに、さっきから〈因果の観測者〉って――うっ!? ひ、左目が、うず……」

 私の言葉に、2人が叫んだ。

 「「我が求めに答えよ!」」
 「我が名は、オッセルヴァトリーチェ!! 因果の観測者にして、あまねく世界の魔導を統べる者なり!」

 ヤバい。口にした途端、ぶわぁっと鳥肌が立った。
 この“感じ”には覚えがある。間違いない。

 「おお! やはり我らが盟主殿は、格が違うな!」
 「ええそうですわ! 彼女こそ、同志にして至高!〈因果の観測者〉オッセルヴァトリーチェよ!」
 「ひっ、ひぃぃ!! それ以上言わないでっ!!」

 これは、あの、あの――
 あの時<中二病>の私だあぁあああああ!!!???


EPISODE2 忌まわしき記憶とともに「我が魂<エンブリオ>に刻まれた言霊は、未来永劫、其方とともにある! 忘れるなかれ、その衝動を!」


 〈因果の観測者〉オッセルヴァトリーチェ。
 それは、いつの頃からか“私”が名乗っていた、中二病全開の魂名<エンブリオ・コード>の事だ。
 眼帯に包帯、ツインテールに校則ギリギリの制服。
 姿見に映る私の姿は、見紛う事なきあの日の私だ。

 「信じられない……わたし、タイムリープしたって事……? それも、よりによって黒歴史全盛期に!」

 私は今、友人の、〈白銀〉と〈真紅〉に連れられてとある部室に来ている。
 ここは確か、「二次元文化愛好会」という同好会だったはずだ。部屋はとても狭くて、ベニヤの板一枚で隔てられた向こうには、「読書の会」という同好会がある。
 隣の人たちは幽霊部員だらけなのか、いつ活動していたのか分からなかったけど、今ならその理由も分かる気がした。
 だって、朝も昼も放課後も。
 “同志”たちが騒いでいるのだから。

 「フッ、やるな。流石は〈真紅の教会〉クリムゾン・キルヒェだ!」
 「私の真紅の結界は、魂<エンブリオ>を選別する。貴女には破れませんわ」

 〈白銀〉と〈真紅〉の2人は、私そっちのけでごっこ遊びに興じている。私には何も見えないけど、2人の間では壮絶なバトルが繰り広げられているのだ。

 「クッ……このままでは……頼む、〈因果〉よ!我に力を貸してくれ!」
 「な、卑怯ですわ!」

 糸目を維持しようとして頬をプルプルさせる〈真紅〉、もとい山田さん。

 「今だ!」

 〈白銀〉が何やら呪文を唱え始めた。
 あれはたしか、英、独、伊、仏、露……とにかくカッコイイと思った単語だけを並べた召喚呪文だ。

 「我が求めに答えよ!」

 〈白銀〉がまたしてもあのポーズを取った瞬間、私の身体が反射的に動いた。2人が小道具を取り出して効果音を奏でる中、右手を掲げてポーズを取る。

 「我が名は、オッセルヴァトリーチェ!! 因果の観測者にして、あまねく世界の魔導を統べる者なり!」

 は、恥ずかしいぃぃぃぃぃいいいい!!
 もう忘れてると思ったのに! 一字一句噛まずに、スラスラと言葉が出てくるなんて!
 こんな恥ずかしい台詞、十年以上言ってない。
 今でも鮮明に覚えてるんだ、私が年老いてボケた後でも、スラスラ言える気がしてならない!

 「おおぉぉぉぉ! 流石は“てんてん”だ!!ポージングも台詞の間も完璧だ!」
 「本当にカッコいいですわ!」
 「……そ、そうかしら」
 「ああ! もう一度たのむ!」
 「ふふん、じゃあ仕方ないわね」

 あんなに恥ずかしい思いをしたばかりなのに、褒められただけで簡単に有頂天になってしまう……我ながら、ちょろすぎるわね……。

 10分とは思えないほどの濃密な朝活が終わり、ホームルームの時間が迫っていた。
 達筆な文字で「多元世界観測所」と上書きされた同好会の表札を裏返しにして、クラスへと向かう。

 「では、お昼休みにまた会おうぞ!」
 「え?」
 「寂しいですけれど、てんてんのクラスはふたつ先のクラスですわ」
 「やはりショックだったようだな。クラス替えは」
 「ぁ……」

 2人が教室に入るのを見届けたあと、私は、この時代がいつの頃だったか理解した。

 「3年4組……」

 それは、私の人生において最も辛い時代。
 孤立して、何度もやり直したいと願った過去だった。


EPISODE3 境界線上の観測者「我が手には、終焉と創生ふたつの道がある。己が信じた道を進め! 〈因果の観測者〉よ!」


 「出欠確認するぞー、相沢ー」
 「はい!」

 1人ずつ名前を呼ばれていく中、私は心の奥底にしまいこんでいた記憶を、またひとつ思い出した。
 小学生の頃からいつも同じクラスだった〈白銀〉と〈真紅〉の2人が、中学3年進学時のクラス替えで初めて別々になってしまったのだ。
 だから私は、自分だけの世界観を持つ、まだ見ぬ同志を求めてしまった。

 ――あれは確か、クラス替え初日の事。

 『試みに問おう、貴様の名はなんだ?』
 『え……っと? こ、興石さん?』
 『それは仮初の名だ! わたしの名は、因果の観測者オッセルヴァトリーチェだ!』
 『オ、オーバ、さん?』
 『“ヴ”だ、“ヴ”! 断じて“バ”ではない!』
 『ん……ごめんね、ちょっと耳が詰まってて聞こえないみたい。保健室に行って来るね』
 『そうか、魂<エンブリオ>を酷使しないよう気をつけるといい』
 『……』

 ――それきり、後ろの席の女子は目を合わせてすらくれなくなったのだ。

 ああぁぁぁぁぁっ! なんで思い出したのよ私~っ!
 初対面の相手に、初手からあんな行動を取ったら、保健室に駆けこまれるのも当然よ! てか、保健室に行くのは私の方では!?
 私は、何回も深呼吸して教室を見回した。
 ……分かってはいたけど、私が顔を向けるだけで、サッと顔を背けるのはやめてほしい。

 「……興石ー」
 「?」

 前を見ると、担任の先生が眉間にしわを寄せたまま、こちらを見ている。

 「聞いてるのか、興石」
 「あ、すみません! 興石いますっ!」

 私が返事をしただけで、教室がざわついた。
 えっ、私、何かやっちゃいました!?

 「えっと……先生?」
 「興石、どこか体調でも悪いのか?」
 「いえ、このとおり私は元気です」

 そう言って私はガッツポーズを取った。
 周囲から「クスクス」と笑い声が聞こえてくる。

 「静かに! では次ー、越谷ー」

 私が普通のリアクションを取っただけで、まるで珍しいものでも見るかのような騒ぎようだ。
 でも、それだけ昔の私が周りとズレてたって事なんだなと思う。
 こういう閉鎖的な空間は、私みたいにズレた人や不良みたいに尖った人は避けられがちだ。
 ただ、私にとって運が良かったのは、周りが直ぐに受験に意識を取られてイジメとかが起こらなかった事。
 まあ、却ってそれが、私が中二病をこじらせ続けた要因といってもいいんだけど……。

 ……あれ?

 私が中二病を卒業したのって、いつだったんだろう。
 高校生になっても続けてたような気もするし……うーん、思い出せない……。
 ただ、ひとつだけ確かな事がある。
 それは、私の行動次第で、昔よりも早く中二病を卒業できるかもしれないって事だ。
 だからなのかな。
 私が、黒歴史だと思っている時代を無かった事にしたいと思ったから、この時代にタイムリープしたんだ。

 「……決めた」

 私は、未来を変える。
 きれいに抜け落ちてしまったこの記憶を、華やかで誇らしい未来に変えるんだ。孤立したクラスだけじゃない、社畜生活を送る未来の私も、全部!


EPISODE4 勇気の第一歩「目を背けるな! 我らが歩んだ覇道は、決して卑下するようなものではない!」


 静かな教室に、チョークの音だけが響く。
 受験を意識しているみんなは、先生が書いた黒板に夢中だ。
 人生の岐路に立つ私も、未来を変えるために勉強に専念していた。
 それはもう必死で。
 なぜ必死なのかというと、それは――。

 私が、中二病的琴線に触れる単語ばかり調べていて、ほとんど勉強をしてこなかったからだ……。

 当時の私は、言語を問わずとにかくカッコいい! と思える響きだけを収集しては、〈白銀〉と〈真紅〉に共有していた。
 私たちの中で特に評判が良かったのがドイツ語だ。
 ノイシュバンシュタインとか、ヴァイスとか、とにかく響きが良い。
 黒豚なんてシュヴァルツ・シュヴァインよ?
 日本人なら、誰もが一度は口にした単語だろう。
 正直、今でもキュンときてしまう自分がいる。

 ああ、素晴らしきかなドイツ語。

 でも、私があの名前をドイツ語にしなかったのは、単純にイタリア語の方が響きが好みだったからだ。
 観測する女――オッセルヴァトリーチェ。
 かっこよさと可愛さが共存した、声に出して言いたい良い名前だ!

 ん……? 中二病を卒業したいのに、なんで私ってばテンション上がってるの?

 気づけば私は、黒板の文字を書き写していたはずのノートに、仕事で使えそうな名前やデザインをメモしていた。
 こんな時でも仕事の事を考えてしまうなんて、社畜にもほどがある……。

 身体が15歳になったからなのか、どうしても思考が引っ張られてしまうのかも。
 ノートは新しい物を使ってるけど、教科書は当時のままだ。
 そこには、余白を埋めつくさんばかりに、当時の私が書いた設定やラクガキがある。
 私は、苦手な虫をティッシュで捕まえた時に、捕まえられたかどうか確認したくなった気持ちで、教科書のページをめくった。
 めくってしまった。

 「ひぇ――」

 〈炎獄魔剣ゲヘナクロス〉と書かれた、黒い刀身の武器を持つ少年が描かれていた。
 背中に、天使と悪魔の羽を生やして。
 純度100%の、中二病――

 「どうした興石、質問か?」
 「あっ、い、いえ、なんでもありませんっ!」
 「そうか」

 先生はそっけなく言うと、授業を再開した。
 私はバクバクと鳴る心臓を抑えるのに必死だった。

 「ふぅぅ……」

 見なければいいのに、耐性がついた私はもう一度教科書に目を通す。
 主人公らしい少年は、肩パッドにマント、用途不明な巨大なベルトなどなど、私がなんの作品を“通って”きたかが鮮明に分かってしまうデザインに満ちていた。

 「うぅっ……目がうずく……」
 「――さん、興石さん?」
 「えっ?」

 机で突っ伏していた私は、不意に声をかけられて顔を上げる。前の席の男子が、プリントを手にしたまま心配そうな顔でこちらの様子を伺っていた。

 「……ケーくん?」
 「ん、なんで名前呼び?」

 黒い髪に色白な肌。
 体質でほんのりとリンゴみたいに頬を赤くさせている男子――香坂圭太郎(こうさかけいたろう)は朗らかに笑うと、開きっぱなしの私の教科書を見て言った。

 「ねえねえ、それ、なんの漫画?」
 「あっ、そ、それは――」

 学校で中二病をこじらせていた者なら、きっと一度は経験した事があるはずだ。
 自分の世界への、予期せぬ介入者に。

 「え、えっと……これは、私が考えてるゲームの設定、なの……」

 猛烈に恥ずかしくなった私は、しどろもどろになりながら話をでっち上げた。
 そう言えば介入者を追い出せると思った私の考えは、浅はかな考えでしかなかった。

 「えっすごい! もっと教えてよ!」
 「ぁ……あはは……」

 介入者撃退クエスト失敗! やってしまった……っ!
 ゲームなんて言ったら、余計に興味を持つでしょ!?
 香坂くんは、目を輝かせて私の答えを待っている。

 「何やってる香坂、興石。早くプリントを後ろに回しなさい」
 「す、すぐ回しますっ!」

 私は香坂くんからプリントを引き取ると、後ろの越谷さんに渡した。
 前を向いても、香坂くんはまだ私の事を見ていた。
 彼は手を口に当てると、秘密の相談をするみたいに小さな声で話しかけてくる。

 「興石さん、あとで詳しく聞かせてね?」
 「っ!?」

 あの時の私は、男子にからかわれるような気がして彼らを遠ざけていた。同志以外に設定を話すのが、私の世界を踏み荒らされるのが、怖かったからだ。

 「……」

 私は考えた。
 もし、ここで香坂くんに話をすれば、未来が変わるかもしれないと。

 「……うん、いいよ」

 私は、彼の提案を受け入れた。

 放課後になり、約束の時間が訪れた。
 〈白銀〉と〈真紅〉には、香坂くんと会う事を伏せたまま、今日の活動に参加できない事を伝えてある。
 万が一、教室で2人きりで会う所を見られるのが恥ずかしかったから。

 教室が香坂くん以外に誰もいなくなったのを確認すると、教室に入った。

 「待たせてごめんさない」
 「別に気にしてないよ」

 香坂くんは朗らかに笑う。
 私は安心感を覚えながら、初めて同志以外の人に設定を話した。

 ――正直に言うと、楽しかった。

 香坂くんは私の痛くて荒唐無稽な設定を楽しそうに聞いてくれて、私のようにツッコミを入れもしない。
 気づけば私は、クラスでは絶対に見せないと決めたオッセルヴァトリーチェのキャラで、意気揚々と語っていたのだ。

 「カッコイイね、オッセルヴァトリーチェ。彼女の宿敵の〈深淵の紡ぎ手〉も気に入ったよ」
 「ほう、貴様にもこの良さが分かるとはな」
 「何か決めゼリフとかあるの?」
 「当然だ!」

 そう言うと私は、お決まりの言葉を口にした。

 「我が名は、オッセルヴァトリーチェ!! 因果の観測者にして、あまねく世界の魔導を統べる者なり!」
 「おぉ……」

 香坂くんがオッセルヴァトリーチェになりきった私に気圧されるように背筋を正す。
 私はそんな彼を見て急に正気に戻り、つい「違う」とオッセルヴァトリーチェを否定してしまう。
 チクリと胸を刺すような罪悪感が、私の中に残った。


EPISODE5 蛇眼の使い手「宿命の螺旋は、またしても我に災禍をまき散らす。だが侮るな、わたしは、かつてのわたしではない!」


 香坂くんと語り合ったあの日から1か月。
 私は定期的に彼と会っていた。
 会う場所は今も変わらない。誰もいない放課後の教室だ。
 そこで自分の世界観を共有するのは、なんだか2人だけの秘密を共有してるような気がして、とても心地よかった。

 「ふふ、早く話したいな」

 このシチュエーションにドキドキしてる自分がいるのも事実だ。
 仕事で女性向けの恋愛ゲームに関わった事もあるけど、まさか自分にもこんなイベントが訪れるなんて夢にも思わなかった。
 自分の人生で、そんなイベントは一度も発生しなかったんだから、この空気を味わうくらい許してほしい。
 急に胸がソワソワしてきた私は、時計に目を向ける。
 いつもなら、もう来てもおかしくない時間だ。

 「何かあったのかな?」

 私がもう一度時計を見ようとしたその時、後ろの方の扉がカタンと音を立てた。

 「香坂くん?」
 「香坂はもう来ない」
 「えっ、せ、先生……? 香坂くんが来ないって、どういうことですか?」
 「香坂の親から連絡があった。お前のくだらない話のせいで、受験勉強に支障をきたしていると」
 「……っ!?」

 先生の目が、ギョロリと光る。

 「なるほど。大人しく授業を受けるようになったのもおかしな格好をしなくなったのも、香坂の影響か。だがそれで香坂に迷惑をかけるのは感心しないな」
 「ぁ……」

 私を射貫くような鋭い目を見て、私は思い出した。
 先生が、私の人生に大きな影響を与えた人物なんだ。
 通称、スネーク毒島(ぶすじま)。
 かつて、私の夢や設定を、私が泣こうがお構いなしに徹底的に論破した悪魔。
 彼は、オッセルヴァトリーチェの天敵――いえ、全中二病の天敵<パブリック・エネミー>だ!

 あの頃の私は、何ひとつ言い返せなかった。
 けど、今の私は、身体は子供で頭脳は大人。
 あんな蛇教師、私が論破し返してや――

 「不服そうだな?」
 「ひっ!?」

 ひと睨みされただけで、私の身体はうまく言う事をきかなくなった。
 あれが、私たちを苦しめてきた必殺の邪眼<スネーク・アイズ>。
 どう考えても、先生の方が能力者でしょ!?

 「うっ……め、目がうずく……」
 「都合が悪くなれば直ぐに現実逃避か。そうやって黙っていれば問題が解決すると思ってるようでは、この社会で生きていけないぞ?」

 逃げようとすれば、直ぐに追い打ちをかけてくる。
 やっぱり、先生の前世は蛇だ。そうに違いない。
 先生は鼻で笑うと、真ん中で折り畳まれた一枚の紙を渡してくる。

 「興石、明日までに再提出するように」

 それは、進路面談で使う進路調査票だった。
 先生は最後に「いい加減、現実を見ろ」と追撃を加えて教室を出ていった。
 本当に、最後の最後まで余念がない。

 何分かしてようやく身体の緊張が解けた私は、昔の自分がどんな進路を記入していたか気になって、調査票を開いた。

 進路希望1:因果の観測者
 進路希望2:因果の観測者
 進路希望3:因果の観測者

 「ぶふッ――」

 学校名を書きなさい、学校名をっ!
 こんなの、先生じゃなくても叱るわよっ!

 「オッセルヴァトリーチェェェェェッ!!!!」

 私は、因果の観測者の宿敵になった気持ちで、彼女の名を叫ぶのだった。


EPISODE6 汝に捧げし鎮魂歌「今ここに同志はいない。だが、今は心通わずとも、必ずや交差した未来で相まみえるだろう!」


 スネーク毒島との一件以来、私は燃えに燃えていた。
 私がやればできる女だってことを証明するため、更に勉強に専念したのだ。
 こんな気持ちになったのは、初めて企画を任された時以来かもしれない。
 季節は一瞬にして夏を迎え、クラスメイトたちも受験モードに突入している。
 香坂くんは親にきつく叱られてしまったのか、私の方を振り向く事はなくなっていた。
 時々目が合ったりもしたけど、彼は申し訳なさそうに目を伏せると直ぐにそっぽを向いてしまう。
 後になって知ったけど、香坂くんの家は親が厳しいらしく、頭の良い学校に行かなくちゃいけないそうだ。
 その学校は、私の頭じゃ今から頑張ってもとても合格できない学校だった。

 ……こんな事なら「一緒に勉強する」実績も解除しておけば良かったな……。

 当時の私は数学が苦手だった。
 公式を使いこなせるようになれば解けるのに、どうしてあの時はできなかったんだろう。
 「アレフ・ゼロ」とか「シュレーディンガー方程式」とか、心をくすぐる用語は一発で覚えられるのにね。
 人間の頭は本当に不思議だ。
 ちなみに、用語名以外は何ひとつわかりません。

 そんなこんなで、ついに志望校の願書を提出する時期を迎えた。
 私はこの日のために修練を積んでいる。
 テストの成績も、赤点から普通くらいのレベルにまで引き上げた。
 これにはスネーク毒島も納得するだろう。
 私は言ってやるんだ、これが私の実力だ! と。

 「○○高校? 本気で言っているのか、興石」
 「本気です、○○高校一本です」

 私は、どうしてもそこに行きたかった。
 今の学力では少し届かないけど、〈白銀〉と〈真紅〉も同じ高校を受験するからだ。

 「無理だ」

 先生は問答無用で却下した。
 代わりに提示してきたのは、私が通っていた高校と同じ名前の学校だ。

 「ど、どうしてですか? こんなに勉強頑張ってきたのに……」
 「努力は認める。だが、志望校に入っても足りない学力を補い続ける覚悟があるのか?」

 私はすぐ答えられなかった。
 すかさず先生が畳みかけてくる。

 「入学したら、また元の生活に戻るつもりだろう。オッセルヴァトリーチェだったか? いい加減、そのくだらない中二病から目を覚ませ。私は興石のためを思って言っているんだぞ」

 先生は私のキャラの名前まで把握していた。
 徹底的に追い打ちをかけるスネーク毒島らしいやり口だ。
 イタリア語の発音も、私より完璧なところが無性に腹が立つ。
 身体が硬直して胸までしめつけられそうになるのを必死に堪えて、私は反論した。

 「でも、頑張れば……頑張り続ければ努力は実るって……先生も言ってましたよね?」
 「理想と現実は違う。私は教師だ、生徒が路頭に迷うかもしれない進路を選ばせるわけにはいかない」
 「どうしてダメなんですか! やってみないと分からないじゃないですか!」
 「興石には無理だ」

 取りつく島もない。

 「無理、無理って、貴方が私の何を知ってるの!?」
 「私は学校での興石しか知らない」
 「じゃあ、貴方に口を出す権利は――」
 「言い忘れていたが、私が提示した高校は、興石のご両親からも了承を得ている」
 「っえ?」
 「ご両親は、普通の学生として生活する事を望んでいる。君は、いつまでそのままでいるつもりだ?」

 ――そうだ、たった今、私はすべてを思い出した。
 「将来のため」と言われて親と毒島に徹底的に逃げ道を塞がれて。
 私は、自ら決別したんだ。
 眼帯を捨てて、設定ノートを捨てて。
 あんなに口にした言葉を心の奥にしまいこんで。
 オッセルヴァトリーチェの魂を、否定した。

 それから極度に中二病を避けようとしていたのは、きっとその時に全部、手放してしまったから。
 “好き”の気持ちを殺したのは、私自身だ……!
 昔の記憶が、目まぐるしく駆け巡る。

 「ぅ……っ」
 「泣いても問題は解決しないと言っただろう。泣く暇があったら、提示した高校に確実に受かるよう勉強するんだ」
 「……ぅるさい、うるさい!」
 「また逃避か? 現実と向き合いなさい」
 「好きで悪いか……中二病で悪いか! その気持ちを忘れなかった人たちが、心に響く作品をたくさん、たくさん作ってきたの!」

 もはや先生への反論にもなっていない。
 それでもわたしは想いの丈をぶつけ続ける。
 彼女を心の奥底に封じこめてしまった私を、叱りつけるために。

 「私は絶対に忘れない……この魂は、私そのものだ!わたしが! オッセルヴァトリーチェなんだ!!」

 叫んだ瞬間、私の身体が突然宙に浮いた。
 正確には、“私”の意識だけが教室を俯瞰するように眺めていたのだ。
 なに、これ……どういう事?

 『わたしを思い出してくれて、ありがとう』
 「オッセルヴァトリーチェ!?」

 ついさっきまで毒島を向いていた“彼女”が、私の方を見上げてそう言った。

 「イヤよ……」

 消えたくない。
 やっと自分の気持ちに気づけたのに、過去を何も変えられないまま、消えるなんてイヤだ。
 私の意識は、暗闇の中へと溶け――この世界から消失した。


EPISODE7 運命の車輪「案ずるな、仮令(たとえ)この身が朽ちようとも、我が魂<エンブリオ>は不滅だ」


 「――――はっ!?」

 私は目を覚ました。
 最初に視界に飛びこんできたのは、私の様子を心配そうに伺う人たちの顔と、夜空に浮かぶ月だった。

 「大丈夫ですか? 私の声が分かりますか?」
 「ぁ……はい」

 肩を支えてもらいながら立ち上がると、近くの電柱に衝突した車が見える。

 「私……生きて……」

 じゃあさっきまで見ていた世界はなんだったの?
 あれは現実? それとも夢?

 「うっ……目が……」
 「どこか痛むんですか!?」
 「あっ、い、いえ、なんでもないですっ」

 つい、あの頃の癖が出てしまった。
 話をするうちに、だんだんと意識がハッキリとしてくる。
 事故を起こした車、夜の街並み、大人に戻った私。
 いつの間にか現実の世界に戻っていた。
 身体に痛みはない。意識も鮮明だ。
 てっきり車にひかれて死んでしまったとばかり思ってたけど、そうじゃなかったみたい。

 「そっか……そうだよね」

 やり直したいと思った過去に都合よく戻れるわけ、ないもんね。
 あの世界は、私がタイムリープしたわけじゃなくてただの夢――もしかしたら、走馬灯?

 「念のため、頭を打っていないか確認しておいた方が」
 「い、いえ、大丈夫です! このとおり私はピンピンしてますから!」

 心配してくれた人たちにお礼をすると、私は自宅へと急いだ。
 私には、どうしても今すぐに確認しなくちゃいけない事がある。
 彼女が、オッセルヴァトリーチェが生きていた証を、
見つけたいんだ。

 「ただいま!」

 家につくと、私はすぐに押し入れに向かった。
 高く積まれたダンボールをひとつひとつ調べていく。
 きっと、そこにあるはずだ。

 「ない、ない、ない!」

 大丈夫、ダンボールはまだ半分ある。
 何かにとりつかれたように一心不乱に開けていく。

 「ない、ない……!」

 そうして、真夜中に始まった大捜索はとうとう最後のひとつに。
 私は、最後のダンボールの封を開けた。

 「ぁ…………」

 結局、私の望む物は何ひとつ無かった。
 オッセルヴァトリーチェにつながりそうな物だけが、きれいに処分されていた。
 当時の私は、それだけ彼女を忘れ去りたかったんだ。

 「そうだよね……」

 分かっていた、この結末は。
 自分から手放したくせに、勝手がすぎる。
 やり直したい過去がある?
 “彼女”だって、れっきとした自分の“一部”だ。
 それじゃ、今の私自身を全部否定しているのと変わらないじゃないか。

 「貴女は、ずっと私の中にいたのにね……オッセルヴァトリーチェ……」

 私がうずくまって泣いていると、背後で物音がした。

 「……彼女は、まだ君の中にいたんだね」
 「ケーくん?」

 部屋の入口から声をかけてきたのは、私の恋人のケーくんだ。

 「おかえり、甜香さん」
 「ごめんね、こんな夜遅くに。なんでもないから、先に寝てていいよ?」
 「ううん、僕にはそうは見えないけど」

 「温かいスープでも飲む?」と朗らかに微笑みかけてくる彼を見て、私の中で点と点が結びついた。

 「あ……っ! こ、高坂くん……!?」
 「ん、なんか距離が離れてない?」
 「だって……」

 オッセルヴァトリーチェの名前は、中学を卒業してから一度も名乗っていない。
 ケーくんとは、大学で知り合ったとばかり思っていた。
 でも本当は、中学の頃に会っていたって事?
 散らかった部屋を見回したあと、ケーくんは言った。

 「君は、ずっと探していたんだろう?」
 「な、なんでそれを……」

 ケーくんはいつもの穏やかな感じではなく、勇者にヒントを授ける老獪な賢者のように振舞った。

 「〈因果の観測者〉オッセルヴァトリーチェ。僕は、ずっとこの時を君を待っていた」

 え……? ええぇぇぇぇぇえええええ!?

 「君が求めていたものは、我が手の中にある」

 ケーくんはそう言うと、一冊のノートを持ってきた。
 無地のノートを装飾して魔導書のように仕立てた、私<オッセルヴァトリーチェ>の日記だった。


EPISODE8 覚醒の時、来たれり「永きにわたる封印は今、紐解かれた。さあ、今こそ我を開放せよ、我が名を呼べ! 因果の観測者よ!」


 ケーくんは、散らかった部屋を歩き回りながら大仰な身振り手振りを添えて話してくれた。
 オッセルヴァトリーチェだった頃の私が、生きた証を処分せずに、ケーくんに託していた事を。
 それさえも忘れて、私はずっとケーくんに接してたなんて……辛かったよね。

 「私が思い出すまで、ずっと待っててくれてありがとう」
 「気に病む必要はない。さあ、これが君の求めていたものだろう?」

 ケーくんから差し出されたオッセルヴァトリーチェの魔導書を受け取ると、私は長い間封じられていた彼女の記憶を紐解いた。
 そこには、当時の興石甜香の心境と設定のメモ書きに加えて、私を鼓舞するオッセルヴァトリーチェの言葉がたくさん綴られていた。

 『我が手には、終焉と創生ふたつの道がある。己が信じた道を進め! 〈因果の観測者〉よ!』

 今にして思えば、彼女は辛い現実にくじけそうになっていた私の、私なりの抵抗だったのかもしれない。

 彼女が表に立って私を支えてくれていたから、彼女の暖かい想いがあったから。
 今、私はこの世界で戦えているんだ。

 『これは死ではない……永遠への回帰だ。だが案ずるな、わたしの魂は、常に共にあるという事を』

 日記の最後は、そう締めくくられていた。
 彼女はここにいた。たしかに、生きていたんだ。

 「わたしは、オッセルヴァトリーチェだ……!」

 私は、強く“彼女”を抱きしめた。

 「フゥーーーッハッハッハァァアアアア!!〈因果の観測者〉よ! 覚醒の時は来た!」
 「えっ? ちょ……!」

 いきなり!?

 「今ここに問おう。汝の名を! 我が呼びかけに応えよ! オッセルヴァトリーチェよ!」

 ケーくんが両腕をクロスさせてポーズを取る。
 そこまでされたら、私も黙っていられないわ!
 勢いよく立ちあがった私は、声高らかに名乗りをあげた。

 「我が名は、オッセルヴァトリーチェ!! 因果の観測者にして、あまねく世界の魔導を統べる者なり!」

 こんな夜更けに、27にもなった大の大人が2人して中二病全開なごっこ遊びをする。
 恥ずかしさなんて欠片も感じなかった。
 むしろ、叫んだ瞬間に何かが吹っ切れたような気がして、今はとても清々しい気持ちでいっぱいだ。
 今の私なら、なんでもできる。
 そんな根拠のない全能感が、私を包みこんでいた。
 私は〈因果の観測者〉オッセルヴァトリーチェ。
 今も昔も、変わらない。

 翌日。
 会社に出社した私は、後輩が練り直してきた案に目を通していた。
 突貫工事で修正したデザインに変化はあまり見られない。いくら指摘しても直してこなかった中二病的なデザインは、彼女がどうしても貫きたい部分だろう。
 彼女はいかにそのデザインに思い入れがあるかを語る。そこに、彼女の魂<エンブリオ>が宿っているんだ。
 自分の気持ちに素直になれた私は、彼女の案を受け入れた。

 「本当に……いいんですか?」
 「ええ。売れるとか売れないとか、そういうの関係ないわよね。これが貴女の“好き”なんだから」
 「へっ!?」

 突然の変わりように、後輩の女の子は目を白黒させている。
 一晩経ったら中二病大好き人間になってるなんて、普通は信じられない。

 「どうしたんですか、先輩?」
 「私、自分の気持ちに正直になろうと思って」
 「えぇ!?」
 「提出期限にはまだ余裕があったよね?」
 「そうですけど……」
 「決めたわ。今から私もデザインを考えようと思うの。どうかしら?」

 抱えてる仕事はまだまだあるけど、やらずにはいられなかった。
 だって、昂った気持ちが、抑えきれない情熱が、こんなにも溢れてくるのだから!

 「先輩と……勝負……わたし、やってみたいです!」

 私の言葉が嘘偽りのないものだと分かった後輩は、息をのむと力強く返してきた。
 フ、澄んだ良い目をしているな。

 「私を誰だと思ってるの? わたしは、〈因果の観測者〉オッセルヴァトリーチェよ!」

 困惑する後輩を後目に、私は机に向かう。
 久しぶりに開いたのは、初めてデザインしたあの赤いリボンの女の子。
 あの女の子にも、オッセルヴァトリーチェの魂は息づいている。

 「ねえ、貴女は今、どんな姿をしているの?」

 過去は変わらない。
 だけど、未来は描く事ができるんだ。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 開幕読んで、三十路になって厨二病やってる痛いサラリーマンの話かと思った(なお終盤) -- 2024-06-29 (土) 19:11:14
  • 好き -- 2024-07-02 (火) 22:36:04

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