【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】
※ここはCHUNITHM PARADISE LOST以前に実装されたキャラクターのページです。 ・このページに記載されている「限界突破の証」系統を除くスキルの効果はすべてCHUNITHM PARADISE LOSTまでのものです。 現在は該当スキルを使用することができません。 ・CHUNITHM PARADISE LOSTまでのトランスフォーム対応キャラクター(専用スキル装備時に名前とグラフィックが変化していたキャラクター)は、 RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となります。 |
Illustrator:かやはら
名前 | 遠夜 灯(とおや あかり) |
---|---|
年齢 | 17歳 |
職業 | 歌闘戦士 |
身分 | 女子高生 |
- 2021年1月21日追加
- PARADISE ep.Ⅰマップ2完走。<終了済>
- 入手方法:2022/10/13~ カードメイカーの「CHUNITHM PARADISE」ガチャで入手。
- トランスフォーム*1することにより「遠夜 灯/青い瞳は涙に濡れて」へと名前とグラフィックが変化する。
- 専用スキル「xxx週目の夏に」を装備することで「遠夜 灯/青い瞳は涙に濡れて」へと名前とグラフィックが変化する。
- 対応楽曲は「ROAD TO DREAM」。
伝説のミュージシャンを父に持つこと以外は普通の高校生。
不思議な世界へと迷い込んだ彼女は大きな使命を背負うことになる。
スキル
RANK | 獲得スキル |
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1 | ゲージブースト・パラダイス |
5 | |
10 | xxx週目の夏に |
15 |
ゲージブースト・パラダイス [NORMAL]
- ゲージブースト・プラスの亜種。同様に初期値でもゲージ6本が可能。
- 「ATTACK以下20回未満またはMISS10回未満」のため、どちらかの条件を満たしていればゲージ上昇UPの効果を得られる。
- ゲージブースト・プラスと比較して、ATTACK以下20回のノルマが加わったことでゲージ上昇効果がより維持しやすくなった。代わりに、消滅後のダメージ軽減効果はなくなっている。
- 譜面に依存しない5~6本用スキルとしては早期に入手でき、PARADISEから始めたプレイヤーにとってはもちろん、汎用スキルが充実していないプレイヤーにとっても即戦力になる。
- PARADISE ep.Iで入手する場合、必要なマス数が少ない代わりに課題曲のノルマが難易度問わず4本なのがネック(この前に入手しているナイが持っている鉄壁ガードで抜けるのは始めたてのプレイヤーには厳しいかもしれない)。少しマス数は多くなるが、PARADISE ep.IIIの方が課題曲のノルマが軽いため、入手しやすい。
- 筐体内の入手方法(PARADISE ep.IV実装時点):
- PARADISE ep.I マップ2(PARADISE時点で25マス/累計30マス)クリア
- PARADISE ep.III マップ1(PARADISE時点で55マス)クリア
- PARADISE ep.IV マップ2(PARADISE LOST時点で320マス)クリア
GRADE | 効果 |
---|---|
理論値:114000(6本+12000/24k) [+3] | |
初期値 | ATTACK以下20回未満または MISS10回未満を達成している場合 ゲージ上昇UP (175%) |
+1 | 〃 (180%) |
+2 | 〃 (185%) |
+3 | 〃 (190%) |
+4 | 〃 (195%) |
+5 | 〃 (200%) |
+6 | 〃 (205%) |
+7 | 〃 (210%) |
所有キャラ【 遠夜 灯 (1,5) / 水戸 雫 (1,5) / 灰飾 カナエ】
xxx週目の夏に [ABSOLUTE] ※専用スキル
- ディープサルベージと同じ効果のスキル。+1での伸びが高く、わずかに上位互換になる。
- 100コンボ未満のゲージ上昇を失うが100コンボを超えると死神の鎌以上の上昇率を誇る。
MISS3未満が安定しているが事故が怖くて鎌を使えなかった曲等で活躍するだろう。
強制終了条件が同じオーバージャッジはPARADISE時点において筐体内に所有キャラはいないため、ゲージ7本を目指すときの選択肢になる。
GRADE | 効果 |
---|---|
理論値:162000-α(8本+10000-α/28k) | |
共通 | 100コンボ未満でゲージ上昇しない MISS判定10回で強制終了 |
初期値 | 100コンボ以上でゲージ上昇UP (260%) |
+1 | 〃 (270%) |
GRADE・ゲージ本数ごとの必要ノート数目安
- 以下の値はHOLD/SLIDEが一切無い場合の値。HOLD/SLIDEの分布によって若干の変動があることに注意。
- 黄色の部分は譜面を問わず到達可能。
- ゲージ上昇260%(初期値の上昇量)の理論値が156000(8本+4000)、270%(+1の上昇量)の理論値が162000(8本+10000)だが、100コンボ未満のゲージ上昇無しを考慮するとこの値に到達することはありえない。
本数 初期値 +1 1本 108 107 2本 119 118 3本 136 134 4本 161 158 5本 204 196 6本 286 268 7本 515 446 8本 3861 1604
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
スキル |
・・・ | 50 | ・・・・・・ | 100 | |
スキル | スキル |
STORY
ストーリーを展開
EPISODE1 8月32日―朝―「8月は31日まで。子供でも知ってるよ。間違ってるのは……私のほうなの!?」
朝、というには太陽は昇りすぎていて、もうすぐ正午を迎えようとしているよく晴れた日。
太陽に照らされてキラキラと反射する川。その横にある河川敷を私は歩いている。
そよそよと頬を撫でる風が気持ち良くて、どこかで聴いた懐メロを小さく口ずさんでいると、自転車に乗ったおばさんとすれ違った。
「あらまぁ~綺麗な声ね!」
そう声をかけられて、無意識に歌っていた事に気づいて立ち止まる。
照れながらもペコリと会釈を返してからまた歩き出すと、ふいに我慢が出来なくなって盛大にあくびをした。
「ふぁ~あ、ねむ……昨日も遅くまでギター練習しすぎた……さすがに2学期初日から盛大に遅刻って、やっぱまずいかな……」
私の名前は遠夜灯。17歳。普通の高校2年生。
普通じゃないところを挙げるとすれば、かつて『ロックの寵児』と呼ばれていた伝説的ミュージシャンが父親だってことくらい。
でも、父親と過ごした記憶はほとんど無いし、アイツにまつわる出来事は嫌なことばかりだ。
私の父親は、アイツの人気が絶頂だったタイミングで突然死んだ。
途端に父親を崇拝するたくさんのファンや親族達が押し寄せてきて……私は“私じゃなくなった”。
カリスマを失ったあの人たちが、次の心の拠り所として求めたのは――私。
子供の時から多少音楽が得意だったというだけで、私のことを『後継者』だとかなんとか言って勝手に盛り上がってた。
みんな私を通してアイツの姿を見る。まるで目の前の私には気付かないかのように。
おかげで昔はちょっとグレた時期もあったけど……今はそれなりに学校生活を楽しんでるかな。
「……あれ? 今日って始業式の後に授業あったはずだよね?」
学校についた私は、校舎を見上げながら立ち尽くしていた。
今日は9月1日。夏休み明けの、憂鬱極まる新学期初日。
本来なら始業式の後、早速通常授業が始まっている予定だった。
でも、校舎からは教師の講義さえ聞こえてこない。例え授業中だとしても、数百人もの人間が詰まった建物からは人の気配というものを感じるはず。なのにそれがまったく無かった。
校舎の中に入ってから静まりきった廊下を歩いて、職員室の入り口の前までやってきた私は恐る恐る扉を開ける。
部屋の中にいた人物が私に気づいたのが見えた。
「おお、遠夜じゃないか。どうしたんだ今日は。あ、進路調査票出しに来たのか! お前だけだからな、いまだに出してないヤツは!」
「いやいや、センセーってば。そんなことどうでもいいでしょ」
「どうでもいいとはなんだ。高2も半分以上過ぎて遅すぎるくらいだぞ」
「そうじゃなくて!」
教師の中でも最も見知った顔である私の担任は、キョトンとした顔を浮かべている。
「今日から新学期なのに……なんで誰もいないんすか?」
「……ははーん、なるほど。遠夜、お前1日間違えたな? たまーにいるんだ、こういうおっちょこちょいなヤツが」
「はっ!? そんなはずないから! 昨日確認だってしたし!」
「いい加減に夏休みボケから目を覚ませ。今日は……」
昨晩のニュース番組でも「明日から9月ですね」という話をしていた。いくらなんでもそんな子供のような間違いはしない。
スカートのポケットからスマホを取り出して、ディスプレイに映る日付を覗き込むのと同時に、担任の言葉が職員室に響いた。
「今日は8月32日だぞ」
――は?
EPISODE2 8月32日―夕方―「頭が青く燃えてる、ギターを背負った変な男。私の歌が世界を救うって、本気で言ってる?」
フラフラ歩いて河川敷に戻ってきた私は、水道の蛇口を捻ってから豪快に頭を水流へと突っ込んだ。
――なんなのこれ? 8月は31日までしかないはず……『32日』って、何かのギャグ?
でも、街の電光掲示板も、コンビニの新聞も、それにスマホのカレンダーも。
全部『32日』になってた……。
ワケわかんなすぎるし、頭は混乱するしで、無性にイラだってくる。
頭に水を浴びながら、顔をしかめたその時。どこかでけたたましい爆発音が鳴り響いた。
驚いて、濡れた髪が肩に触れるのも気にせずに顔を上げる。足元に感じる揺れと音の距離から、そう遠くない場所だと分かる。
爆発音の方向へ視線を向けると、煙と粉塵を巻き上げながら倒壊していくビルの姿があった。
少し間を置いて、似たように崩れていくビルがひとつ。さらにもうひとつ。街のあちらこちらから連鎖的に爆発が続く。
平日の昼下がり。比較的静かだった街の中は、気づけば叫び声や悲鳴が飛び交うパニック映画のようになっていた。
「今度は何!? ガス爆発!?」
事故や天災。私の常識から生まれる発想はその程度。
きっと周りのみんなもそうだろう。
だけど、事故なんかではないと誰もが一発で理解できる決定的瞬間が、すぐに訪れた。
まだ夏の厚い雲が残る空を飛んでいたのは、この世の物とは思えない異形の虫のような姿をした飛行物体。
その物体が群れとなって、街へ攻撃を仕掛けていた。
「う、宇宙……人? あのレーザーみたいなので、街を壊してる……」
より一層パニックになり逃げ惑う人々に混ざって、私は駆け出した。
ドッキリでもなんでもない。これは絶対にヤバイやつ。直感だけど、確信した。
河川敷の土手を謎の物体の群れから逃れるように走る。
でも、爆発や悲鳴、煙の匂いは私の背中へとだんだんと近づいてくる。
ついにレーザーは私のすぐ後ろまで届いて、爆音と一緒にアスファルトを抉り取ったのが振り向きざま見えた。
その瞬間、衝撃で私の体は吹っ飛んで、チカチカと視界が途切れる。
「こ、こんなところで死にたくない……! ムカつくことばっかの人生だけど、まだやりたいことだってあるのに!!」
私はそう叫ぼうとしたけれど声が出ない。
地面に叩きつけられた体勢のまま、ズルズルと体を引きずって逃げようする。
そんな必死の努力も虚しく、飛行物体は地上へレーザーを乱射する。
そのうちのひとつがまっすぐこちらに向かってきて、私は目を瞑った。
――強く歪んだエレキギターの音が、大音量で鳴り響いた。
目を開けて、自分の体を確認する。あちこち傷はあるけれど、いたって無事だ。
「私、死んで……ない……? つーか、ギター? はっ? なんで?」
アンプを通したエレキギターの音なんて、“今ここにあるはずのない音”以外の何物でもない。
驚いた私は顔を上げると、続々と襲来する飛行物体に立ちはだかるように、スーツ姿のやたら体格の良い男がギターを構えていた。
無数に飛んでくるレーザーに向かって男がギターを掻き鳴らすと、音が壁のようになってレーザーを打ち消していく。
「ちょ、ギターの人! 危ないよ!」
そう声をかけた私に、男はギターを弾き続けながら振り向いて、何かを投げて渡した。
反射的に手を伸ばして受け取ったソレは、ナイフにグリルボールがついた、奇妙な形のマイク。
不思議そうにそのマイクを眺める私に、男は続ける。
「突然の出来事にビビってるとこ悪いが、そいつを使っていっちょ歌ってくれ」
「……はぁ? 歌うって、私が? この状況分かってんの!?」
「そうだな……“歌えばこの街を救えるが、歌わなきゃ全員死ぬ”。どうだ、分かりやすい説明だろ?」
そう言ってニヤリと笑った男の頭は、青い炎に包まれていた。
EPISODE3 8月32日+1「頼ったり頼られたり……それで傷つくくらいなら最初から期待しないほうがマシ」
文字通り脳天ファイヤーしてる男のギタープレイに合わせて、私はワケも分からないままがむしゃらに歌い続けた。
誰の曲でもない。テーマもコード進行も何も決めていない、瞬間のセッションで生まれる即興曲。
普通ならすぐに破綻しそうなめちゃくちゃなセッションのはずなのに、なぜか私には男が次にどんな進行をしたいのか不思議と分かった。逆に、私のやりたいことも向こうに全部伝わってるような感覚だった。
敵の攻撃は男のギターがかき消してくれる。そして、私の歌はアイツらへの攻撃になる。
歌って歌って、歌い続けて。夜が明けて日の出が見える頃、空飛ぶバケモノの姿は完全に消えていた。
「ハァッ……ハァッ……終わった……の?」
「ああ。これで終わりだ。“今日のところは”、な」
「……説明、してもらえるんでしょうね」
「もちろん。さて、どこから話すとするか……」
青々と燃える頭をした、風焔と名乗る男。どう見てもこの世のものじゃない。
その風焔から聞かされた話は、普段なら到底信じられないものだった。
でも、私は信じることが出来た。いや、信じるしかなかった。
壊されていく街の景色や、人々の悲鳴が、私の五感にこびりついている。
あれは、作り物なんかじゃない。
「まず1つ。この日野市は、空間ごと8月32日に閉じ込められ、延々と32日をループし続けている。このループは朝5時きっかりにリセットされ、また32日を繰り返す」
「それって、32日から時間が進まないってこと?」
「そうだ。厳密には日付を跨いでいるが、この街が9月1日を迎えることはない」
「映画みたいな話だけど……信じる」
「そして2つ目。俺とお前……」
「灯。遠夜灯」
「オーケー、覚えた。俺たち以外の住民はループしている事実に気づくことはできない。どんなに街が破壊されても朝5時を迎えた瞬間、記憶も街も元通りになる」
「……ちょっと待って。ループすることは置いておくとして、みんな元通りになるなら大きな問題じゃないじゃん」
「説明はまだ残ってるぜ。元通りになるのは街だけだ。失った命は……戻らねえ。リセットの瞬間、死んだ人間はまるで“最初からいなかった”ように、世界が改竄される。誰もそこに違和感を感じない」
「そ、そんな……!」
「ははっ、趣味悪いだろ? 失った者へ悲しみを募らせるのは、残された者の権利だ。それさえも奪うのは酷ってもんだぜ」
風焔が、目を逸らしてどこか遠くを見つめながら言うのが引っかかった。
でも、それよりもっと気になることがある。
「……対処法は?」
「この現象を作り出した元凶をぶっ潰す。そのために俺は来た。そして……やるのは灯、お前だ」
ギターを肩に担ぎ直して、風焔は私を指さした。
「さっきの戦闘で気付いていたと思うが、俺のサウンドはヤツらに致命傷を与えられない。だが、お前を守ることはできる。代わりに、お前の歌はヤツらに届く。二人で一体のツーマンセルってやつだ。お前は、この街を救う使命を背負ったんだ」
私がこの街を救う……“使命”。
そうはっきりと言った風焔の、まっすぐに私を見る目。
「…………っ!」
私は、その目に見覚えがある。
私を通して父親を見る大人達の目。
何の根拠もなく、娘というだけで父親の後継者になれと、私に“使命”を課してきたあいつらと同じ。
どいつもこいつも、私じゃなく、私の持つ“使命”に期待してる。
「……分かった。やればいいんでしょ。この街は割と好きだし、みんなをそんな悲しい目に遭わせたくない」
「物わかりがいいな、良い子だ。それじゃあ今後の対策だが……」
「でも、助けはいらない。私が一人でなんとかする」
「はぁ? 一人でってお前……お、おい! ちょっと待てって! どこ行く気だ!?」
風焔の言葉を無視して、私は歩き出した。
どんな時だって、頼りになるのは自分しかいない。そうやって生きてきたし、これからもそうするだけ。
人の力なんて借りてられない。
……ううん。それは違う。
――人に頼る方法なんて、私は最初から知らない。
EPISODE4 8月32日+33「私を利用したい人を、今まで死ぬほど見てきた。この男も結局同じ。アイツらと同じ目をしてる」
「これで……終わりっ!!」
最後の“バグ”(虫みたいな見た目だからバグと呼ぶことにした)を私の歌でやっつけると、崩れたビルから落ちてきた瓦礫に背中を預けて一息ついた。
歌には多少自信あったけど、私の歌で死んでいくってのはちょっと複雑な気分だ。
午前5時まであと5秒。4、3、2、1。
背中の瓦礫は消え、あっという間に街は元の姿に戻っていく。
「よかった……今日は誰も死なせずに済んだ……」
この街に住むみんな。
私の歌で命を守れるんだったら、たとえ喉が潰れても、潰れたまま歌い続けてやる。
「……よう。お疲れさん。今日もソウルフルな歌声だったぜ」
後ろから男に声をかけられる。
さっきまで大騒ぎだった街の中で、私に話しかける人なんて一人しかいない。風焔だ。
「ああ、いたの」
「いたの、って……まあいい。前から気になってたんだがよ。お前の歌、シロートのソレじゃねえよな。テクはまだまだだが、なんか光るもんがあるっていうか……」
「別に関係ないじゃん」
「お前……さっきも俺が守ってやらなきゃ危なかったくせして……」
「頼んでないし」
「こ、この跳ねっ返りのガキ……! かわいくねえ!!」
風焔は叫びながら、怒りに任せてギターをギャンギャンかき鳴らす。
めちゃめちゃなプレイだったけど、そのうち何かインスピレーションが湧いてきたのか次第にリフがメロディになって、結局ソロらしい旋律を8小節分弾き切った。
満足そうに頷いて、落ち着きを取り戻した様子の風焔が話しかけてくる。
「お前さ、一匹狼を気取るのはいいけど、もうちっと俺のことも頼れよ。俺達の目的は同じだってのに、効率悪いったらありゃしねえ」
「…………」
返事はしないで風焔の方へ振り向くと、ぶっきらぼうな言葉とはまったく合わない、優しい目が私に向けられていた。
また、あの目だ。
風焔が時折見せる、優しい目。
私を通して別の誰かを見ているようで、胸が嫌悪感で一杯になる。
「……じゃ、私行くから」
その場を後にしようと歩きだすと、呼び止める声が飛ぶ。
「おい!」
「……何?」
「お前、ちゃんと寝れてるのか? 顔、結構ひどいぜ」
「ほっといてよ」
まだ戦闘に慣れない始めの頃、私は守り切ることが出来ず、5人の犠牲者を出してしまった。
人の生き死にが私に委ねられてる。本当の意味で実感したのは、あの時だったのかもしれない。
大きな責任を背負って歌い続ける日々は、確実に私の心と体を削り取っていく。
そのことに、私は気付いていなかった。
EPISODE5 8月32日+45「世界から消えても、私だけは絶対に忘れない。だから、あの人達のために歌ってやる!!」
「……来た」
日野市の中で一番高いビルの屋上で、惣菜パンを頬張りながら双眼鏡を覗いていた私は声を漏らした。
バグの生態は未だ理解できないけれど、戦闘を繰り返すうち分かったこともある。
バグは数日おきに、かならず正午きっかりに街のどこかに現れては攻撃を仕掛けてくる。総力はまちまちで、多い時はそれこそ朝までかかってしまうこともあるが、一度住民の避難が済めば迎撃自体は難しくない。つまり、避難が済むまでの初動が一番大事だともいえる。
隙のない反撃を食らわせるために、お昼になるとこのビルからバグの発生地を特定することが日課になっていた。
だけど、その日はいつもとは違った。
「なにあれ……バグの……親?」
いつもの小さなバグの大群とはまったく違う、大きな大きな、不気味なバグが1体。
地獄の火炎のような赤黒い炎を背中に背負った、蜘蛛のような姿。
胴体から生えるいくつもの長い足が、歩行する度に街を破壊していく。
腹の部分には、卵のようなものがビッシリとこびりついていて、時々そこから子バグが羽化している。
私は一瞬で悟った。この街にめちゃくちゃなルールを課している元凶はこいつだと。
「迂闊に近づくな。大火傷するぜ」
いつの間にか隣にいた風焔が声をかけてくるが、その忠告は私の耳に入らない。
私は守れなかった5人を思い出す。
一人暮らしのお爺ちゃん。
避難を誘導してた警備員のおっちゃん。
小さな男の子と、そのお母さん。
学校をサボっていた私に、プリントを届けてくれたクラスメイトの女の子。
みんなみんな、嘘みたいにこの世界から忘れられてしまっていた。
記憶の辻褄合わせなんて関係ない。みんな確かにこの世界にいたんだ。
そんな……世界から見捨てられるようなこと……絶対に許せない!
「行くぞーーーー!!」
自分を鼓舞するようにマイクを通して叫ぶと、ビルの屋上を埋めるほどのドデカいパワードスピーカーが2本現れた。
ボリュームはフルテン。ジリジリとノイズを拾って、センターキャップが微かに震えている。
「お前……っ! もうここまで成長してたのか!?」
驚いている風焔を気に留めることもなく、私は屋上の柵を乗り越えて飛び出した。
空中に次々とスピーカーを召喚させると、それを蹴りつけながら飛び石のようにジャンプして、バグの親玉まで駆け抜けていく。
少し遅れて聴こえてきた風焔のギター。それを合図に私は歌い出す。
「うああああああああああ!!」
メロディにもなっていない、私の叫び。
叫びはマイクを通して散弾銃の弾丸のようなものに変換されると、音速でバグの親玉へと飛んでいく。
ヤツの胴体のあちこちで爆発が起こるが、あまりダメージを与えているように見えない。
でも、怯まない。
私に出来ることは、これだけだから!
「おい! 俺のギターをよく聴いて合わせろ! さっきから“ハシり過ぎ”だ!!」
風焔からの指示が飛んでくるけれど、なぜそんなに冷静でいられるのか私には分からない。
――死んだら、誰からも忘れられちゃうんだよ。初めからそこに“存在していない”みたいに。
それがどれだけ悲しいことか、私にはよく分かる。
そんなの、私一人で十分だ。
私の猛攻撃で、バグの表面に爆煙が舞う。その爆煙の中から一瞬キラリと光が見えた。
咄嗟に身を翻すと、私の髪の毛先を削ぎながら、レーザー攻撃が顔の横を掠めていった。
今までのバグと同じ攻撃方法だけど、これは……サイズがまったく違う。
死に直面して、一気に血の気が引く。
一撃目はなんとか躱せた。でも、すぐに次がまた来るはずだ。私は体勢を崩してる。もう……躱せない。
光がまるでスローモーションのように、ゆっくりと私に飛んでくるのが見える。
「灯!!」
私の名前を呼ぶ風焔の声が、ハッキリと聞こえた。
その感覚はなぜか懐かしくて、心地良い。
誰かに名前で呼ばれたのはいつぶりだろう。
そんなことを考えながら、私は気を失った。
EPISODE6 8月32日+48「いつぶりだろう。私がここにいる実感がある。私の本当の気持ちを、受け取ってくれた人……」
(……ここは……どこ……?)
背中に感じるマットレスの弾力から、ベッドの上に寝ていることは分かった。
起き上がろうとすると、体のあちこちに激痛が走って上手く動かせない。
(確かバグの攻撃を受けて……それから……)
記憶を辿っていると、隣で微かにギターの弦をはじく音が聞こえた。
一音一音確かめるような、弱々しくか細い音。
「チッ……ネックがイッちまってるな……チューニング合わねえ……」
その声に向かってなんとか上体を起こすと、壁を背に足を投げ出して床に座り込む風焔が見えた。
手に抱えているのは、ボロボロのギター。
そして、それ以上にボロボロになった風焔の姿。
「おう……起きたか。まったくスヤスヤよく寝るガキだ。育ち盛りって歳でも……いや、歳か」
「……ちょっと! どうしたのそのケガ!」
「お前がやられた後、なんとか踏ん張ってたんだがな……防戦一方でこのザマよ。ただ、どういうわけかヤツは突然踵を返して消えやがった。命拾いしたぜ……」
「そうだったの……」
戦闘において、身のこなしは風焔の方が圧倒的に軽やか。無茶をしなければここまでダメージを負うことはないだろう。
風焔は、きっと私を庇いながら戦い続けたんだ。
そう思うと、いてもたってもいられず飛び起きようとするけど、痛みでバランスを崩してしまう。
ベッドから落ちそうになった私を、風焔が抱きとめた。
「おいおい、そんな体でまともに動けると思ってるのか。ケガ人はケガ人らしく大人しくしてろ」
――大人しく。
その言葉が胸に刺さって。
大人しくって、そうさせてくれないのは一体誰?
私は、風焔の手を払ってから思い切り叫んだ。
「大人しくなんて出来るわけないじゃない! 私がやらなきゃ誰がこの街を救うの!? いつもそうだった! 期待とか、願いとか勝手に押し付けて……もううんざりなんだよ!」
堰を切ったように溢れ出る言葉を、風焔は黙って聞いている。
「期待に応えなきゃ、私は存在しちゃいけないの!? 私はずっと……ここにいるのに……」
――初めて自分の弱さをさらけ出したのかもしれない。
今まで誰かに頼ったり、本音をぶちまけることなんてしたことなかった。
だってそれは、“期待を裏切ってしまう”ことになるから。
期待外れの私なんて、みんな見捨ててしまうから。
感情を抑えることが出来なくなって子供みたいに泣きじゃくる私の言葉を、風焔は宥めるわけでもなく、あやすわけでもなく、じっと聞いている。
しばらくそうしていたと思うと、ふいに口を開いた。
「そうか……そうだよな。こっちの事情で勝手に使命だなんだって押し付けて、悪かった。俺も俺の使命を全うしようとして、お前のことを見ていなかったんだろうな」
私をまっすぐに見つめながら、風焔が続ける。
「なあ、一人じゃなく、二人でなら出来そうか?」
「たった二人……一人とたいして変わらないじゃん……」
「お前、音楽の経験はあるみたいだが、バンド組んだことないだろ? たった二人でも立派なバンドなんだぜ。力を合わせれば持ってる実力の何倍ものイカしたプレイが出来るってもんだ」
「いきなりバンドとか意味わかんないし……私のことも知らないくせに」
「これから知っていくさ」
「……私の力が必要なだけでしょ」
「お前なぁ……いいか、よく聞け」
その声は真剣で、誠実で。
風焔が心から伝えたい言葉だということが分かった。
「俺は大事なメンバーを見捨てるようなことはしない」
私を見つめる目は誰かじゃなく、ここにいる私のことを。
“遠夜灯”を見ていた。
「……『お前お前』って、いっつもウザい」
「あ?」
「名前知ってんでしょ。灯って呼んで」
「分かった。灯」
私は“誰かの娘”じゃない。
ここにいる“灯”なんだ。
「うん。私も……風焔って、呼ぶから」
EPISODE7 8月32日+110「懐かしくて温かい、いつかの記憶。これは確か……父親との思い出……」
「よし、っと。全部片付いたみたいだな。今日も良い歌だったぜ、灯」
「へっへっへー、まーね。私ならもう3連戦くらいは楽勝だけど」
あれから、私達のバグ退治は順調そのもの。
風焔に背中を預けることを覚えてから、私はまっすぐ前だけを見て歌えるようになった。
戦いを繰り返す度に成長している実感があって、自信が湧いてくる。
「チッ、このビッグマウスが……だが、ボーカリストはそうでなくちゃな。フロントマンに必要なのは自信と度胸、それに大ボラだ」
「よく分かんないこと偉そうに言ってるけど、さっきの忘れてないよね。私がカバーしてなかったら風焔に直撃してたからね?」
「あ、あれはそのなんだ……クソっ! ありがとよ! 事実だから何も言えねえ!!」
そう叫んだ風焔が、“悔しい時のギターソロ”を掻き鳴らしている。
今日は本当に順調だった。夜明けまではまだまだ時間がある。あとは街がリセットされるのを確認するだけだ。
誰もがバグに怯えて避難を済ませ、街は静まり返っている。不謹慎だとは思うけれど、静けさの中で風焔と二人、朝まであれこれ話をするこの時間が私は好きだ。
「はぁはぁ……良いフレーズが出来たぜ……しかし俺も気合を入れないとな……また昔みたいにパートナーに引っ張ってもらうわけにはいかねえ……」
「昔のパートナー?」
私に聞かれてから初めて自分が口にしていたことに気づいたらしく、風焔はバツの悪そうな表情を浮かべる。
わざとらしくニコニコと笑顔を浮かべる私を見て、誤魔化す手段はないと腹を括ったのか、頭を掻きながら話し始めた。
「……俺の世界の神様モドキが大暴れしたせいで、おかしくなったこっちの世界を修正するのはこれが初めてじゃねえ。灯の前に契約していた女がいたんだ」
「……へえ。私以外にも貧乏くじ引いた人がいたんだ。どんな人だったの?」
「勝ち気で生意気で無鉄砲で……まるでお前みたいなやつだったよ」
「はぁ? 私そこまで生意気でも無鉄砲でもないし!」
「いや……そういうところだって……」
理由は分からないけど、なんだかモヤモヤする。
誰かに似てるって言われて、こんな気分になったのは初めてだ。
でも、風焔の過去を少しでも聞くことが出来て、嬉しくもあった。
「そっか……風焔には信頼出来る人がいるんだね。まあ普通に生きてればそういう人の一人や二人いるか」
「そっちはいないのか。そういうヤツが」
「……私さ、死んじゃった伝説のミュージシャンとかいうやつの娘なの。周りの人間はその才能にしか興味なくてさ。自分を守れるのは自分しかいなかったんだ」
「ツンケンした性分はそのせいか。でもな、これは事実として伝えるが、灯には間違いなく才能があるぞ。お前の歌は感情を揺さぶる力がある」
「感情を……?」
風焔の言葉を聞いて、私の中の奥にある記憶の扉が開いたような気がした。
淡くて不明瞭で、朧げな記憶。
『お前の歌は人の感情を揺さぶる。才能、あるな』
そうだ。まだ生きていた頃の父親。
そう言って頭を撫でてもらって。
あの“期待”は、とても心地よかった。
そうだ……あの時私、嬉しかったんだ……。
「……灯?」
「あ、ごめん。考え事してた」
「おいおい、大丈夫かよ。リセットは確認しておくから、先に休むか?」
「ううん、平気。それよりさっきの話なんだけどさ。信頼できる人はいるか、ってやつ」
「それがどうかしたか?」
「私にも、風焔がいるよ」
今はごまかさず、“遠夜灯”の素直な気持ちを伝えたい。
「だからもう、一人じゃないから!」
EPISODE8 8月32日+164「どんなバグが来ても負ける気がまったくしない。私と風焔の音、今度こそ叩き込んでやる!!」
初戦は未熟だった私が取り逃し、私も風焔も痛い目を見させられた。
この狂った世界の元凶、バグの親玉に。
今度こそアイツを倒してこの白昼夢のような日々を終わらす。
あの巨大なバグ相手に策が通じるとは思えない。真っ向勝負で勝つだけだ。
そのために私達が出来ることは、お互いの連携をより密にして純粋に戦う力を向上させることだった。
いつか風焔は言った。
力を合わせれば、自分が持っている以上の何倍もの演奏が出来る。
その言葉は本当だった。
初めて風焔と合わせたあの日とは比べものにならないくらい、絆の深まりを感じる。
言葉を交わす必要なんてない。
音で、目で、背中に感じる熱で。私と風焔は通じ合う。
限界なんてないんじゃないかと錯覚するくらい、私の歌声は伸びていく。
風焔のギターに合わせて、このままずっと歌っていたい。そんなことを思う日さえあった。
――勝てる。強くなっていくのが実感できる!
だけど、自信をつけるほどに日に日に敵の猛攻は激しくなっていく。
根拠はないけど、なんとなく分かる。
最後の戦いは、きっと近い。
「お出ましか……ははっ、見ろよ灯。今日はずいぶん団体でやってきたみたいだぞ」
日野市の半分を覆いつくさんばかりの巨大な影。それは今まで見たことのないバグの大群だった。
それを指揮するように遅れて後ろから向かってくる、地獄の炎を背負った巨体も見える。
でも、不思議と負ける気がしない。
私は、一人じゃない。
「まさかとは思うが、ビビってやしないよな?」
「それはこっちのセリフ! 無理しないでよね、おじさん!」
「おじ……っ!? せめてお兄さんだろ、このガキ……」
「ガキじゃないし! 大人の女だし!!」
緊張感のない会話を交えて、力んでいた体がほぐれる。
それは風焔も同じだったのか、お互い顔を見合わせると、自然に笑いがこぼれてしまった。
「くっくっくっく……」
「あははは!」
「……よし。勝って明日を迎えるぞ。死ぬなよ、灯」
「うん! 生きよう、風焔!」
緩い弧を描いて、大量のパワードスピーカーを迎撃ミサイルのように並べて召喚する。
私達のステージには、これくらい必要だ。宇宙の向こうまでぶっ飛ばしてやる。
私は一度大きく息を吸ってから、マイクを握りしめた。
「ライブ、スターーーート!!!!」
EPISODE9 8月32日+164.5「油断して、楽勝だなんてどこかで思っていたから。私を庇った風焔が……ねえ、返事してよ!!」
「灯、俺の音に“ノれ”!」
フィードバックノイズを垂れ流していた風焔が、おもむろに疾走感のあるリフを刻みだす。
私はその音に意識を委ねると、文字通り音に“乗る”。
途端に物理法則の理は曖昧になり、私の体がふわりと宙に浮いた。
これで、風焔のサウンドが届く範囲内なら自由に飛ぶことが出来る。
ビルの屋上から飛び出した私と、それを追うように飛ぶ風焔は、まっすぐバグの親玉へと向かって行く。
私達の意図を読んだのか、上空にウジャウジャと群れるバグ達が行手を遮ろうと襲いかかってきた。
(邪魔……しないでよ!!)
ハイトーン一閃。
真っ黒な雲のように上空を舞うバグの群れに、ポッカリと大きな風穴が開いた。
マイクを通して放たれる散弾は、以前の私のものと比べて桁違いに威力が上がっている。
延々と湧き出てくるバグを一掃しながら距離を詰め、バグの親玉へ攻撃を叩き込む。
「効いてるよ! 風焔!」
巨大な蜘蛛の足に似たバグの脚部がグラついて、体勢を崩す。
それでも反撃の手は止まることなく、巨大なバグは身を震わせながらレーザーを乱射してくる。
私と風焔はコロコロとリズムを変え、時に変拍子もトリッキーに交えながらバラバラに飛び回り、バグのレーザーを撹乱して躱しつつ、カウンターを叩き込む。
甲殻類のような硬い装甲が少しずつ剥がれ落ちて、紫の血液があちこちで噴き出すのが見えた。
――絶対に、ここでトドメを刺してやる!!
日野市と一緒にループに巻き込まれてから、あっという間にもう半年近く経ってる。
この半年で、私は大切なものを風焔から教わった。
私は一人じゃない。それは嘘じゃないって、風焔は身を以て示してくれる。だから私もそれに応えられた。
気付けば、風焔と過ごした日々は私にとってかけがえのないものとなっていて――。
だけど、カレンダーは毎日8月32日のまま。狂った時計は直さなくちゃ。
長過ぎた夏休みは、もう終わり。
バグの胴体にあるいくつものレーザー発射口は、それぞれバラバラになって目玉のようにギョロギョロさせている。
私達の撹乱で完全に翻弄されているみたいだ。
チャンス。ここでトドメを刺すしかない。
そう判断した私は一気に距離を詰めた。
その瞬間、混乱していたはずのバグの目玉達が、一斉に私の方を向いた。
「罠だ! 灯!」
間髪入れず、おびただしい数の光線がゲリラ豪雨のように私へと降り注ぐ。
一撃、もう一撃。そして、数えることなどできないほどの無数の光線。
確実に命を刈り取ろうとする敵の意思が、容赦のない攻撃から感じ取れる。
だけど、私は傷ひとつ負っていない。
目の前には、身を挺して全ての攻撃を受け止めた風焔の姿がある。
「風焔っ!!」
いつもの軽口は返ってこない。
風焔の体が、力なく日野市の空から落下していった。
EPISODE10 8月3X日「私、ちゃんと最後まで歌いきるから。だから見守っていてね。風焔」
意識のない風焔を抱き留め、私は一緒に落下した。
地上に着地すると、未だダラリと力のない体を揺さぶって叫ぶ。
「目を覚まして風焔! ねえ、風焔ってば!」
何度呼びかけても返事はない。
その間にもバグ達からの攻撃が私達を襲う。
風焔をかばいながらなんとか捌くけど、一向に攻撃の手は止まらない。
「くっ……しつこい……!!」
――風焔。
ねえ、早く起きてよ風焔。
ひとりぼっちじゃ戦えないよ。
勝って明日を迎えようって、そう言ったくせに……。
「灯、俺はもういい」
ふいに耳元で呼びかけられて驚く。
風焔が生きていたことが嬉しくて、大きな声で返事を返そうと息を吸った瞬間、それを遮るかのように強く抱きしめ返された。
私の背中に回した風焔の大きな手から、不思議な力が流れ込んでこんでくるのを感じる。
その力が何なのか、私には分かる。
これは、風焔の命の力だ。
「そんな……風焔……!」
「馬鹿野郎、泣くな。まだ戦いは終わってねえ」
「だって……!」
「立ち止まるな。灯みたいな跳ねっ返りは、前だけ見てりゃいいんだ」
それだけ言って、私を抱きしめていた腕から力が抜けたかと思うと、風焔は消えた。
残されたのは、ふわふわと漂う青い炎球。
それにそっと触れようとした瞬間、炎は風に揺られて消えてしまった。
「生きろ。勝つぞ」
聞き慣れた風焔の声が、一瞬響いた。
呼び掛けようと思ったけれど、廃墟になった街に立っているのは、私一人。
――風焔は私に力を残して消えた。
体の中から湧き上がってくるこの感覚が、それを証明してる。
悲しい。すごく悲しくて、苦しくて、胸がちぎれそう。
今すぐにでもここにうずくまって泣き叫びたいくらい。
でも、風焔はそんなこと望まない。
「泣いても喚いてもいいが、ライブを止めるんじゃねぇ」って。
きっと笑って言うはずだ。
そう、私達のライブは終わってない!!
特大のスピーカーが空から大量に降り注いでくる。
街の外周に沿って、バグ達を包囲するように積み上がったそれは、もはやボスバグの体長に届きそうなほど高い。
俯いていた顔を上げ、ゆっくりとマイクを持ち上げた。
今は、他のことは考えない。
小さく頭を振ってから、息を吸う。
そして私は歌い出す。最後の曲を。
EPISODE11 9月1日「取り戻した世界は、私には少し眩しくて。それでも“明日”へ歩いていく……でしょ?」
河川敷沿いの遊歩道で、私は力なくへたり込んでいた。
崩れたビルの瓦礫の山。どこかで燃える炎の黒煙。雲ひとつない空。
バグの姿は、もうどこにもない。
全身全霊を込めた、私と……私と風焔の攻撃で、バグは完全に消滅した。
ふいに眩しさを感じて、朝日が昇ってきたことに気づく。
同時に、瓦礫も黒煙も全てが元通りに戻っていった。
「勝ったんだ……」
すごく嬉しいことのはずなのに、私は魂が抜けたように動けないでいる。
やがて太陽も昇り切り、街に人の姿が現れ始めた。
散歩するおばあちゃん、駅へと急ぐサラリーマン。そして、登校する制服姿の学生。
仲良さそうに歩く高校生グループの中に、あの日私が守れなかったクラスメイトの姿があった。
一瞬驚いたけれど、すぐに理解した。
全ての元凶を打ち倒したことで、本当の意味で“リセット”されたのだと。
「終わったよ、風焔……」
――今日は新学期。9月1日。
おかしな世界での長すぎる夏休みは終わった。
街は全部元通りになったけど、風焔の姿はどこにもない。
私はよろよろと立ち上がり、家に向かって歩き出す。
登校する学生が、すれ違いざまに不思議な目で見てくるけれど、気にならない。気になんてしてられない。
――風焔……。
こんな感覚久しぶりで、うまく表現できないんだけど……。
ひとりぼっちになっちゃうのって、すごくすごく寂しいんだね……。
あちこち破けて汚れた格好でフラフラ歩きながら、私はいつの間にか涙を流していた。
風焔が死んだことを、今さら実感していたから――。
家についた私は、ソファに体を投げ出した。
目を瞑ると、風焔と過ごした日々が浮かんでくる。
私はここにいるのに、誰も“私を見ていない”と感じていた人生。
だけど風焔は「灯」って名前で呼んで、
「絶対見捨てない」って――。
確かに“私を見てくれていた”。
悲しいけれど、辛い思い出にはしたくない。
立ち上がって、前に進まなくちゃ。
風焔なら、きっと「らしくないな」って呆れるはずだ。
自然と口からメロディが溢れ出す。
〈誰かに笑われて 揺らぐのはおしまい
はみだす勇気を持ってこう
ひとり抱えてた ホンネを打ち明けた
その手をとって 高く飛び立ちたい〉
どんな辛い時でも、歌を歌えば前向きになれる。
その感覚は、以前よりもずっと強くなった。
そうだ。私はもっともっと、高く飛び立てる。
ソファから起き上がって、ドロドロの顔を洗おうと洗面所へ向かう。
鏡に向かって顔をあげた私は、思わず息を飲んだ。
無性におかしくなって、声に出して笑ってしまった。
「……あはは、これじゃ校則違反とか言われちゃうじゃん」
鏡に映った私の右目。
その瞳は青色に変化し、虹彩が光を放っていた。
「そうだね。私はひとりぼっちなんかじゃない」
制服もグシャグシャだし、盛大に遅刻だろうけど、シャワーを浴びたら学校に行こう。
それから進路調査票にこう書いて、口うるさい担任に突きつけてやるんだ。
私は“シンガー”になる、って。
今時、夢みたいな将来の夢だけど。
“二人”なら、きっと叶う。
鏡には、不敵に笑う私が映っている。
それに呼応するように、右目の光が炎のように揺れていた。
チュウニズム大戦
レーベル | 難易度 | スコア | |
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スキル名/効果/備考 | |||
◆ジェネ | ADV | 0 / 260 / 520 | |
レーベルブースト(●◆チェイン) | |||
自分と次のプレイヤーは、出すカードが●、◆で COMBOした時、CHAINとなる。 | |||
備考:●リレイ、◆ジェネ |
■ 楽曲 |
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