【SS】アズキニア王国再生作戦

Last-modified: 2024-05-09 (木) 10:20:46

工事中です 平日の進みは遅いですが、休日に一気に書きます。


概要

アズキニア王国の経済を復興させ、躍進させる様子を描いたss。

キャッチコピー

我々に不可能はない。進み続けろ。

登場させてもいいよって国を書いていただけるとものすごくありがたいです!悪役にはしません。国を登場させる時はページをしっかりり読んで設定を遵守いたします。全部の国を登場させることはできないかもしれませんが、なるべく登場させたいと思います。

  • 浅順民主主義人民共和国つかってもいいですよ -- あさかはじゅん 2023-09-03 (日) 16:34:27
  • あとエピローグは最後だから最初のはプロローグかと -- あさかはじゅん 2023-09-03 (日) 16:35:07
  • 許可ありがとうございます!ついうっかり間違えてましたwプロローグに直しておきます。 -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 16:38:51
  • 犀曐ノ國出しても構いません -- もどき 2023-09-03 (日) 20:38:08
  • ありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 20:53:07
  • うちのは全部okだよ -- レオス 2023-09-03 (日) 21:22:57
  • 埼球共和国 (人物系はダメ) -- カラス 2023-09-03 (日) 22:06:57
  • 復興ならストロンゲスト共和国は手を貸しますんで出しても大丈夫ですついでに貿易も… -- Apollo 2023-09-03 (日) 22:17:56
  • みなさんありがとうございます!正直みなさんこんなに書いてくださると思ってませんでした......! 感激です!ストロンゲストさんもちろん貿易okです! -- アズキン(編集者) 2023-09-04 (月) 18:36:33
  • うちの国は全然出しても構いませんと思ったらもうあった -- マグローン 2023-09-04 (月) 19:55:10
  • 僕のサークル帝国も出しちゃいなよ! -- Mr.EXHAUST(編集者) 2023-09-04 (月) 22:09:47
  • お二方許可ありがとうございます。シャングリア帝国先に出しちゃってすいませんm(_ _)m -- アズキン(編集者) 2023-09-04 (月) 22:10:11
  • 入 れ て ほ し い … -- 初心 2023-09-09 (土) 14:43:11
  • 機会があれば入れるかもしれません。 -- アズキン(編集者) 2023-09-09 (土) 15:42:10
  • 超うれしす本当にありがとうございます。 -- 初心 2023-09-09 (土) 15:43:29
  • 皇帝のアズキンはいつ出てくるのか楽しみだなぁ -- マグローン 2023-09-10 (日) 13:17:46
  • 矢部、考えてないです......。(正直、いつ出すとか全く考えずにノリで進めてます。多分いつか出しますけど) -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 17:30:40
  • 登場リクエストってギルドも大丈夫ですか? -- パセリ人間 2023-09-10 (日) 21:37:12
  • 世界観ぶち壊さなけりゃokです -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 21:49:43
  • じゃあ絶対正義執行連盟出してくれると嬉しいです! -- パセリ人間 2023-09-10 (日) 21:59:59
  • 個々が強すぎるのでメイン系にすることは難しいですが、出せますよ。 -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 22:10:42
  • ありがとうございます -- パセリ人間 2023-09-10 (日) 22:40:05
  • ロザリア王国どうぞ -- alen5960 2023-09-16 (土) 19:47:23
  • ありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-09-16 (土) 19:49:58
  • 戦争が始動してあまりにも長引いた場合こちらの国を使ってほしんだよネ・・・(設定上。分からなければページ読んでください) -- 緋陽皇 2023-09-17 (日) 20:25:42
  • ありがとうございます!ただ、戦争が起きるかどうかはまだ未定なんですよね......。こちらも機会があったら出します。 -- アズキン(編集者) 2023-09-17 (日) 20:30:29
  • 我々イルネシア共和国も登場させていただいて良いですか? -- コンバットフレーム(コテハン) 2023-09-17 (日) 20:27:23
  • ありがとうございます!okです。 -- アズキン(編集者) 2023-09-17 (日) 20:30:58
  • 🐥<👌 -- 緋陽皇 2023-09-17 (日) 20:32:54
  • ありがとうございます! -- コンバットフレーム(コテハン) 2023-09-17 (日) 20:34:31
  • 遅くなったけどジオティック連邦出してもええで。 -- Wikiパックン 2023-09-18 (月) 23:35:59
  • ありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-09-21 (木) 19:40:10
  • 出番あるかわからんけど立候補(って何?) -- 膨大共和国からの流れ者 2023-09-30 (土) 19:37:16
  • キャラとしてのてぃろるーなさんということですね?okです!ありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-09-30 (土) 19:44:41
  • 遅くなり大変申し訳ございません。私の作ったページ*1は全部使用OKです!(悪役でも全然OK!) -- フォークボーイ 2023-10-01 (日) 00:10:33
  • アルバート・マールマルブルグ・ワークス社も使ってもらってOKです! -- P25rjNSH0ItOlfx1691565307_1691565367.jpgMr.EXHAUST(編集者) 2023-10-01 (日) 00:17:07
  • お二人とも本当にありがとうございます!ぜひ使わせていただきます。 -- アズキン(編集者) 2023-10-01 (日) 21:25:45
  • ちくわ教(クッソ今更ですが食糧支援団体をば)(使わなくても全然おkです) -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-10-30 (月) 08:57:13
  • ありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-11-18 (土) 13:26:05

コメント

  • やっぱ行間開けた方が読みやすいですかね? -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 20:33:34
  • ↑そちらの方が見やすいですもどき 2023-09-03 (日) 20:37:49
    • やっぱそうですよね~ 空けることにします。ね -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 20:53:59
  • 僕は場面が変わる時とかには変えて鱒 -- マグローン 2023-09-03 (日) 20:41:40
  • なるほど......。参考にしてみます。 -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 20:53:59
  • 行間開けてみました。行間についてご意見あったらカキコお願いします。みた感じ他のssだと一行につき二行分開けてるところもあるので迷ってます。 -- アズキン(編集者) 2023-09-03 (日) 21:21:12
  • ほんへの展開がどうなっていくのか楽しみだなぁ、そうに決まってる -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-09-04 (月) 19:52:22
    • 感想ありがたいね、言うまでもない。これからもっと面白くなっていくはずなので楽しみにしていてください!--アズキン(編集者)
  • 行間は1行開けで問題ないとおもう -- あさかはじゅん 2023-09-04 (月) 21:59:40
    • 詰まりすぎて読みにくいんじゃないかって不安だったので安心しました。ご意見ありがとうございます--アズキン(編集者)
    • こんなかんじでコメントを打つときに最初に「-」を入れれば返信にできるよ -- あさかはじゅん 2023-09-05 (火) 18:30:22
    • 早速やってみました 便利なワザ教えていただきありがたいです! -- アズキン(編集者) 2023-09-05 (火) 21:33:34
  • うーん 第三話を入れるの早すぎたかな......。 -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 20:48:10
    • 物語のペースを決めるといいですよ。この話はこのぐらいの日数で書こうとか、分量を決めたりしてみては🦑がでしょうか -- マグローン 2023-09-10 (日) 21:51:09
  • ですよね~ それにちょっと展開早すぎるので間にもう一話挟もうと思います。 -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 22:14:36
  • あと、皆さんにお願いがあるんですが、ここの部分がわかりにくいとか説明が足りないとか文法が正しくないとかがあったらぜひ教えていただきたいです。 -- アズキン(編集者) 2023-09-10 (日) 22:30:21
  • 僕の仕事は大統領…なんか聞いたことあるような… -- Apollo 2023-09-17 (日) 19:53:22
  • 僕に仕事はYouTu......。 -- アズキン(編集者) 2023-09-17 (日) 20:13:04
  • どーしよ 全く展開考えてない。  -- アズキン(編集者) 2023-09-18 (月) 19:49:49
  • おかしなこと訊きますけど、上のコメ欄で募集してるのは国「だけ」ですかな?「旅人を出してもええで」というのはできない系ですかね? -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-09-30 (土) 19:11:38
  • もちろん可能ですよ~♪ -- アズキン(編集者) 2023-09-30 (土) 19:18:20
  • 我が国の首都は浅順特別なのでおそれいりますが修正おねがいします。あと国の最新ニュースを更新しておきました! -- あさかはじゅん 2023-09-30 (土) 19:25:37
  • ほんとにすいません!すぐに直します。 -- アズキン(編集者) 2023-09-30 (土) 19:32:18
  • ssの設定ニュースにしてくださってありがとうございます! -- アズキン(編集者) 2023-09-30 (土) 19:33:39
  • ↑4 ありがとうございます! -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-09-30 (土) 19:37:49
  • 更新遅れてごめんなさい🙏 -- アズキン(編集者) 2023-10-09 (月) 11:16:44
  • 犀曐ノ國出るの楽しみやなぁ -- もどき 2023-10-14 (土) 21:29:49
  • いつか出すのでお楽しみに! -- アズキン(編集者) 2023-11-18 (土) 13:25:41
  • 更新遅れてすいません🙇-- アズキン(編集者) 2023-11-18 (土) 13:26:21
  • 質問コーナー作りました! -- アズキン(編集者) 2023-11-18 (土) 17:24:27
  • これ、第一話無くないですか…? -- Apollo 2023-11-26 (日) 13:27:54
  • あっ......。ほんとだ、直しときま~す。教えてくれてありがたいです! -- アズキン(編集者) 2023-11-26 (日) 14:24:48
  • アランさん可愛いかよ!www -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-11-26 (日) 15:14:45
  • ちょっとショタっぽさを入れてみました(笑) -- アズキン(編集者) 2023-12-16 (土) 16:06:47
  • 今日は二話更新します! -- アズキン(編集者) 2023-12-16 (土) 16:09:17
  • ↑↑どれだけ彼に俺得属性を詰め込めば気が済むんですか???(半ギレ) -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-12-19 (火) 11:08:56
  • 今読んでて気づいたけど、11話の最後のところ、呼び方とか人名に『エル』はちょっとやめてほしい。当該時系列で傀儡軍隊の侵攻から世界を守った英雄として讃えられているクラリスの本名と被ってる。あだ名とか偽名とかだとしたら流石に不謹慎。 -- Wikiパックン 2023-12-19 (火) 12:00:20
  • ↑↑喜んでもらえてよかったです(笑) -- アズキン(編集者) 2023-12-19 (火) 14:42:07
  • ↑↑あー......。意識したつもりはなかったんですけど、被ってしまいましたね。こちらとしても他の方のキャラと被るとややこしいので変えときます。 -- アズキン(編集者) 2023-12-19 (火) 14:43:47
  • 何回見返してもおもろい……これからも頑張って! -- アレン 2024-04-05 (金) 01:58:51
    • ありがとうございます!ただ、最近練っている設定とこのSSの設定があまりにも乖離しつつあるのと、僕自身の創作意欲がひどく欠乏しるのもあって現在は更新を停止しています。これらの問題が解決し次第リメイクするつもりです。 -- けーおー(編集者) 2024-04-05 (金) 19:06:21

質問コーナー

  • >どこまでも透き通った海。この人はそんな目をしていた。
    つまりアランさんは碧眼…ってコト!? -- 20230804-0542_d085e68653f339f7f00c2498bbdb9cf9.jpegてぃろるーな 2023-12-19 (火) 17:44:00
  • 容姿は具体的な設定練ってなかったなんて言えない......。その設定いいですね!採用してみます! -- アズキン(編集者) 2023-12-24 (日) 11:33:31
  • そう言えばアイアン・レイン作戦はこの話に影響しますか? -- コンバットフレーム(コテハン) 2023-12-28 (木) 13:40:21
  • うーん......。一応絡める予定ではあります。 -- アズキン(編集者) 2023-12-28 (木) 15:09:40
  • なるほど。わざわざすみません。 -- コンバットフレーム(コテハン) 2023-12-28 (木) 15:28:01

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プロローグ

かつて繁栄の限りを誇ったアズキニア王国旧都は今では見る影もなく荒廃していた。現在、大路から少し横に入った裏道には浮浪者が溢れ、街の明かりは消え失せ、川沿いにはバラックが立ち並んでいる。かつて『夜のない都』とまで言われたこの都市にもうかつてのような活気はない......。 

かつて「明かりの消えぬ都」と言われたこの旧都がこうなってしまったのには大きな原因がある。それは8月31日に起こったアズキニア王国次元崩落テロである。この事件を引き起こしたなろう系転生者γはここに住んでいた100万人の罪なき市民の命を奪い、天高く聳える摩天楼を一つ残らず瓦礫にしてしまった。また、中心部には奈落まで続く大穴が開いてしまった。一つ言っておくが、これは比喩ではない。表現の通り、旧都の中でも中心部に当たる地区が基底次元から崩落したのだ。駆けつけた皆連軍とアズキニア王国軍の協力により、を無力化しコールドランド島の氷床の中に封印することに成功したが、旧都は全壊し、大地は焦土と化した。
 
政府は全力を上げて復興に取り組んだ。しかし、世界中で起こる戦争によるフラグスタレーションにより貿易が大赤字に。さらに不幸なことに、立て続けに災害が発生し更なる不景気に陥った。それにさらに植民地の反乱が重なり、これらの影響で経済は混乱し物価は高騰、王国はかつてない不景気に襲われた。
 
その結果、旧都......、いや、この国家そのものが退廃のムードが漂う陰鬱な国になってしまった。終わらない不景気、停滞する復興、相次ぐ災害は長年にわたってこの王国を蝕み続けた。もはや従来の方法だけではこの問題を解決できない。そして、ついに政府は大きな改革に乗り出す。
 
退廃か繁栄か。今、アズキニア王国の命運をかけた大きな計画が始動する。

第一部 消えゆく彗星

第一話 常闇の国



ある日の暮れ方のことである。一人の紳士服を着た青年が、橋の下で雨が止むのを待っていた。

この橋の下には青年の他に誰もいない。ここは仮にも前の都である。普通なら雨宿りをする者の1つや2つあってもおかしくないはずなのだが、青年以外にここには誰もいない。それがいっそう旧都の惨状を物語っている。

青年は雨はしばらく上がらないと感じ、歩き出そうとした。しかし、青年は背中に違和感を感じて思わず立ち止まる。

すると、みすぼらしい少女が青年の背広の裾を掴んでいた。そして彼女は、小さなお椀を差し出して、その小さな喉元から声を絞り出すようにして言った。

「あたし、おなかすいてる。なにか、たべもの、ください。」

少女は外見から推測するにおそらく5、6歳といったところだろうか。彼女の服はボロボロで、何も履いていない足は擦りむけて血が出ている。おそらく、先の事件で親を亡くした孤児なのだろう。

青年はいたたまれなくなったのか、背広のポケットから銅貨を取り出し、お椀に入れてやろうとする。

しかし、その瞬間、土手を駆け下りてきた少年がその手を跳ね除けた。銅貨が弾けるようにして飛び、宙を舞い、湿った地面に落ちる。

少年は、物乞いの少女同様、お世辞にも清潔だと言えるような格好ではなかった。そして、少年は彼女を罵るようにして言った。

「こいつら*2から施しを受けるのはやめろと言っただろ!こいつらは自分らが他人よりちょっと金を持ってるのをいいことに、オレたちのことを虫ケラ同然に扱ってきたんだよ!」

「おにちゃん、やめて、この人、いいひと、おかね、くれた。」

「うるせぇ!どうせこいつだって本当はオレたちのことを社会のゴミだとしか思ってねぇんだよ!」

少年は、物乞いの少女の兄であった。青年は狼狽した。自分の善意の赴くままにたった行動が、彼に不快感を与えてしまったことに狼狽していた。青年は地面に散らばった銅貨を集めて言った。

「ごめんな。そんなつもりはなかったんだ。ただ、とてもお腹が空いているようだったから、お金を渡そうと思っただけなんだ。」

「どうせその金も国民から搾り取った汚い金なんだろ?そんな金受けとらねぇ!オレたちは子供だが、これまでずっと二人で生きてきた!」

「でも、君の妹には食べ物が必要だ。妹のことを思うなら、受け取って欲しい。」

少年は何も言い返せなくなったのか、押し黙って青年から目を逸らした。少年の妹はひもじいそうな目で、指を咥えて兄を見つめている。彼女の腕は大人が力を込めればいとも簡単に折れてしまいそうなほどに細かった。最初は青年から金など断じて受け取らまいとしていた少年も憔悴しきった様子の妹を見て心を揺さぶられのか、

「オレたちの生活も知らないくせに」

と吐き捨てるように言って、青年からひったくるようにして銅貨を受け取り、橋の外へ走り去っていった。

「あ、おにいちゃん、まって」

妹もそれに続いてよたよたと走り出す。

青年は走り出して、すでに遠くにいる少年に向かって言った。

「生きろ!僕は必ず君たちがお腹いっぱい食べられるような国にして見せる!」

青年の声が少年に届いたのかはわからない。橋の下には静寂があるばかりである。雨はまだ上がらない。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第二話 青年の葛藤


アズキニア王国 大統領官邸


大統領執務室に一人の青年が項垂れて座っている。扉がノックされ、秘書と思わしき人物が入ってきた。

「旧都の視察お疲れ様でした。飲み物はどうされますか?」

「じゃあアイスティーをもらおうかな......。」

彼は悲しげな声で、秘書にアイスティーを持ってきてくれるよう頼む。崩れ落ちたビル群、赤色に染まった川、放棄された建設現場、そして貧困にあえぐ人々。そんな光景を見てきたのだから無理もないだろう。

青年は葛藤していた。自分にこの国を立て直すという大役が務まるのかということに。

青年の名前はアラン・レーキンル。賢明な読者の方々はとうにお気づきだろうが、彼はこの国の大統領である。

アズキニア王国政府は昨今の大不景気への対応として、ついに大統領の採用に踏み切った。そこで大抜擢されたのがアランである。

元々アランはある地方の若手知事だった。しかし、昨今の災害においての早急な避難指示や地方活性化の大成功の功績が中央政府の目に留まり、この国の大統領に抜擢されたのである。

アランは最初、こんな大役が自分に務まるはずがないと思い辞退しようとした。だが、推薦を一方的に断るのは悪いと思い、話し合うために中央政府に赴いた。しかし、つい最近までこの国の政治を担っていた統領たちはアランの大統領の着任に否定的だった。これにはアランは大いに驚いた。統領たちが自分を大統領にしようとしたものだと思い込んでいたからだ。

その後、アランは皇帝陛下の宮殿に呼ばれた。そこで、アランが驚くべき真実を知った。アランを大統領に推薦したのは他でもない皇帝陛下だったのだ。皇帝陛下の推薦

そして、アランは最初の職務として旧都の視察を行うことにしたのであった。アランは指導者が現地に直接赴くことの重要さをよく知っていた。実際、震災の時は部下の反対を押し切って、いつ津波が押し寄せてくるかもわからない被災地に直接行って住民と共に復興に取り組んだ。

だが、アランにとっても旧都のこの惨状は彼の予想を遥かに上回るものだった。アラン自身、旧都があの事件で大きな被害を被っていたことは知っていたが、仮にもつい最近まで経済の中心地だったのだからそこまでの被害はないだろうと思っていた。

しかし、アランは自分の考えがいかに甘かったかを改めて思い知らされた。

何より、現地の人々にも拒絶されてしまったことが彼にはショックだった。

しかし、彼には決意があった。この国を絶対に建て直してみせる。そして、全員がお腹いっぱい食べられる国にしてみせる。それが20年前からの約束なのだから。

執務室の扉がノックされ、秘書が入ってくる。

「飲み物をお持ちしました。」

「うん、ありがとね......。」

「大統領、お疲れのようですが大丈夫ですか?思い詰めすぎるのは体に毒です。疲れているならぜひ休息を......。」

「ありがとう。でも、僕に立ち止まっている時間はない。皇帝陛下から賜った任務なんだ。絶対にやり遂げてみせる。」

アランは決意をあらわにした。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第三話 改革、始動


アズキニア王国 大統領官邸


「さて、最初に何をしようか......。」

アランは悩んでいた。アランは元々、アズキニア王国領リガルフィアのある地方の知事である。大統領になって何をやったら良いのかなど見当もつかない。

植民地の管理方法の改革をすればいいだろうか、それとも公定歩合の引き上げをすればいいだろうか、はたまた新たな内閣の組閣をすればいいのだろうか......。頭の中で考えてみるが、彼が納得できる意見は浮かばなかった。

何か大事なことを忘れている。どうしても思い出せない。アランはそんな気がしてならなかった。このままでは埒があかない。アランは外の空気を吸うためベランダに出ることにした。

アズキニア王国の冬は寒い。凍てつく風がアランの背中を突き刺す。焦燥、後悔、自責、気鬱。さまざまな感情な彼の頭の中を駆け巡る。

後ろでベランダの扉の開く音がする。アランが振り向くと、そこには秘書が紅茶を持って立っていた。

「あ、シュリ。」

彼のもとに紅茶を持ってきてくれた秘書の名前はシュリ。アランがリガルフィアにいた頃からの秘書である。彼女は少し天然だがとても有能で、気遣いもできる。アランが自分のもとで働くには勿体無いとまで思っているほどだ。

「大統領、悩んでおられるようですが、どうされましたか?」

「(呼び方はアランさんでいいって言ってるんだけどなぁ......。)大統領になって最初に何をしたらいいかわからなくて......。自分の言動が後世の大統領のお手本になるかもしれないと思うと怖いんだ。」

「そうですか......。それはたいへんですね......。」

シュリは紅茶を置いて言った。

「そうだ、シュリ。もしシュリが僕だったらどうする?」

「私が大統領なら、まず自分を知ってもらうことから始めてます。知ってもらわないことには何もはじまりませんから」

「そっか、それだ!ありがとう、シュリ!やることが決まったよ!」

そう言って、アランはシュリの手を強く握って感謝を表す。

「ふぇ⁉︎ おっ、お、お役に立てて光栄です!」

シュリはとても驚いて、そう言って急いで去っていった。

「あ、やっちゃった......。顔も赤くなってたし、そんなに嫌だったのかな......。ともあれ、演説の準備を進めないと。」

アランは部屋に戻り、会見の準備を始めた。なぜこんな簡単なことを忘れていたのだろうとアランは思った。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第四話 僕の仕事は大統領


アズキニア王国 大統領公邸 


ここは公邸の記者会見室。記者たちがざわめいている。

実は、大統領制への移行が発表されたのはつい2週間前のことである。まだ発表のほとぼりが覚めていない時期に新大統領の記者会見があるのだというのだ。ざわめくのも無理はないだろう。

「どんな人が大統領になるんだ?」

「もちろん、若い美女だといいなぁ、そうに決まってるよな。」

ある記者たちは、次に大統領について各々が予測している。しかし、こんな会話も、会見室の喧騒の前にはかき消されてしまった。

そうしているうちに会見の始まりを知らせるアナウンスが入る。

“まもなく、会見が始まります。記者の皆様はその場で待機していただくようお願いします。”

そして、アランが会場に入って段に上がる。

「おい、あれが新大統領か?」

「分からない。だが、20代ぐらいに見えるな」

相変わらず会見室はざわめいている。

「皆様、静粛に」

会場のざわつきが収まった。

「僕はこの国の大統領アラン・レーキンル。本日あなた方に集まっていただいたには他でもない、僕の大統領就任のことです。」

「あんな若者が大統領⁉︎」

「若いとかの域を遥かに超えているな」

「静粛に」

「あなた方が驚く気持ちも理解できます。しかし、僕の大統領就任はもうすでに決まったことです。今から僕の公約を発表します。」

「まず一つ目、この国の国民総生産をアズキニア王国次元崩落テロが起こる前の2倍にします。」

「そして二つ目、大統領制を確固たるものにし、いかなる勢力の干渉も受けない組織にします。」

「最後に三つ目、失業率を5%以下にし、インフレも解消します。」

「では、他に質問がないようなのでこれで終わりにさせていただきます。」
僕の発表は以上です。」

そう言ってアランは壇を降りて出口へと歩き始める。

結局、記者たちは驚きのあまり質問できなかった。会社に帰った記者たちがその後こっぴどく怒られたのは言うまでもない。

こうして、いささか強行的ではあったが、記者会見は無事終了した。しかしながら大統領の試練はまだ終わっていない。

「さて、次は仲間集めかな」

彗星はまだ輝くことを知らない。

第五話 動き出す陰謀


アズキニア王国 旧内政府の宮殿


旧内政府の宮殿は元々初期の王宮に大改造を施し作られたものである。アズキニア王国はその頃流刑地戦争の戦利品で潤い、経済の勢いは最高潮に達していた。そんな好景気の中、国家予算の10%を使って大改造をしたのである。だが、元々は王宮であったため、誰も知らない隠し部屋があるとも言われている。真偽は不明だが......。

大広間で2人の清掃員が仕事をサボって雑談している。

「あー疲れた! 時給がいいからこの仕事を始めてみたけど、一つの部屋がこんなに広いんじゃやってられねぇよ。」

「本当にそうだよな、時給がいいから申し込んでみたらこのザマだぜ。ところでお前知ってるか?この宮殿に隠し部屋があって、そこでこの国の裏の幽霊たちが夜な夜な談合してるって」

「お前そんな噂信じてんのか?俺もそれは聞いたことあるが、どうせ誰かのホラだろ。」

「ああ、俺も初めはそう思ってたんだよ。でもな、ちょうど3日前の夜だったかな。俺は仕事が終わって帰ろうとしたんだが、忘れ物に気づいて宮殿に戻ったわけだよ。そして今度こそ帰ろうとしたらよぉ、見たこともない奴が歩いたんだよ。そして俺は気になって跡をつけてみたわけだ。そしたらそいつは俺らも入っちゃいけねぇって言われてるデータ保管室に入って行ったわけだよ。俺は見つかったらヤベェからやめようかもと思ったんだがな、好奇心には勝てなかったわけで入ってみたんだよ。そしたらな、誰もいなかったのさ。見た限り出入り口は一つしかないんだよ。どっかに隠れたんじゃないかと思って探してみたが見つからねぇ。そしたら下でギシギシ音が聞こえてきてな、俺は怖くなって一目散に出口まで走って逃げてったんだ。」

「お前酒でも飲んでたんじゃないか?」

「いやいや、俺は酒なんか飲んでなかったし、確かに見たんだって!あれは絶対幽霊だね!」

「そうだとしても、隠し部屋があったら俺らの掃除場所が増えちまうだけだろw」

「まぁ、それもそうだなw ところで、だいぶ前に駅前に出来た飲み屋は知ってるよな?あそこの新人の店員がものすげぇ美人なんだよ。今度デートに誘ってみようと思うんだよ。」

「ああ、その店員なら俺も知ってるぞ。ただ、俺の聞いた話だと金持ちでイケメンの彼氏がいるらしいぜ」

「え⁉︎ 嘘だろ⁉︎」

「どっちにしろお前みたいな普通の清掃員なんて相手にしてくれねぇよw」

「うるせーw それをいうならお前も普通の清掃員だろw」

男たちが笑い合う

「コラ!お前たち何をしている!掃除をサボるなー!」

「矢部、見つかっちまった。」

「あーあ こりゃあ俺たち居残り確定だな」

サボっていた清掃員たちは見つかってしまったようだ。それでも、彼らはこの大不景気の中、職にありつけたというだけで幸運だろう。


しかし、噂は当たっていた。ただし、談合しているのが幽霊ではなく人間、ということを除けばだが。


薄暗い部屋。5人の男が円形のテーブルを囲んで談合をしている。部屋は不気味で、テーブルにはランタンが置かれている。ランタンの光は壁際に立つ者を僅かに照らしている。フードを深くかぶっていて性別も年齢も容姿もわからない。

「まさか本当にあの若造が大統領になってしまうとはな......。」

「全くだ。皇帝陛下の御乱心も困ったものだな。」

「なぁに 心配することはありゃあせんよ。あんな気の弱い若造に政治が務まるわけなかろう」

「しかし、もしもあやつが政治を成功させて、国民の支持を得てしまったらどうする?」

「その時はあやつをこの上にいる奴ら*3同様懐柔して手駒にしてやればよかろう。」

「だが、あやつが『無理です』と言って我らに従うことを拒んだら?」

「かくなる上は......、“奴ら”に任せてあやつを始末すればよかろう」

しかし、そこに警備員が入ってきてしまった。

「なんだこの部屋は......。5年間ここの警備の仕事勤めてきたが全く知らないぞ......。
ん?誰だお前たちは!そこで何をしている⁉︎」

「おっと、どうやら部屋に虫が紛れ込んでしまったようだな。」

「殺れ」

「お前ら何を言って......。
え?
あれ、なんで俺は落下してるんだ?
それに、なんで俺は自分の体を見上げてるんだ.....?
あれ?
呼吸ができ.......ない?」

警備員は気づかないうちに首を切られ、落ちた頭が、首を切られて直立している胴体を見上げている。

間も無く、首の切断面から血が噴き出る。頭を失った胴体はゆっくりと膝から崩れ落ちた。

「入口のロックはもっと厳重にしろと言ったはずだが?」

「たっ、大変申し訳ございません!」

「まあいい。だが、2度目はないと思え。」

「ハ、ハイ」

怪しげな談合、水面下で動き出す陰謀。アランは旧内政府の宮殿でそんなことが行われているとは知らず、今頃大統領邸で職務に励んでいることだろう。彼を蝕まんとする魔の手が自分に伸びてきているとも知らずに......。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第六話 恋に落ちた悪魔

アランは紅い空の下に延々と広がる大地をひたすら走っていた。地面には花畑が広がっているが、どの花も血のように不気味に赤黒く染まっている。

というのも、彼は今化け物に追われている。白いワンピースを着た少女の化け物だ。化け物は一見美しい少女と変わらない。しかし、目がある場所がクレヨンで塗りつぶしたかのように、真っ黒に塗りつぶされていた。

少女の化け物は、逃げるアランをどこまでも追ってくる。

「ねぇ、アラン、久しぶりだね!昔みたいにまた遊ぼうよ!」

「やめろ!君はユキじゃない!」

「どうしてそんなこと言うの?私、悲しいよ!私はユキだよ!」

「違う!彼女は君みたいな化け物じゃない!」

「あはははは!どうして逃げるの?それじゃあアランもこっちにこさせてあげるね♪」

地面から木の根が生えてきて、アランはしれにつまずいて転んでしまった。木の根はすかさずアランを拘束した。

「あぁ......。や、やめ......。」

木の根はアランを締め上げて化け物の目の前に持ってきた。

「私から逃げるからこうなるんだよ?今からアランもこっち側に来るんだぁ♪私と一緒になれるんだからアランも嬉しいよね?」

「僕には使命があるんだ......。それはで...きな...い......。」

「へぇ......。またそうやってあの時みたいに逃げるんだ!? 」

「あ、あれは、違...う...んだ。」

「そっか......じゃあ、もういいよ。今からアランは私と永遠に一緒になるんだ。体は無くなっちゃうけど、アランは私の中で永遠に生きるんだよ。」

「い、いや...だ......。」

化け物が口を大きく開く。

「じゃあね、アラン」

ガブリ


「うわあああああああああああ!」

しかし、体は無事だった。

「夢かぁ......。」

アランは定期的にこの化け物が出てくる夢を見る。幼少期のトラウマが原因だ。

ガチャ

「どうかされましたか?」

扉が開いてシュリが入ってくる。

「なんでもない.。ちょっと幼い頃の夢を見たんだ」

「そうですか......。私には幼い頃の記憶がないので......。」

「あっ、ごめん......。」

実はシュリには幼い頃の記憶がない。アランの恩師に当たる人物が、記憶喪失の彼女を拾ったのだ。その日はあの忌々しい事件の日だったそうだ。

拾われたシュリはメキメキと頭角を表し、アランの秘書となった。

アランは顔を洗うために洗面所に向かった。鏡には自分の顔が映る。しかし、アランには鏡に映った自分の背後に自分が背負う業が見えるのであった。彼は自分を取り巻く怨念を払うことは不可能であると悟っている。

アランは今日も仕事に励む。アランはアズキニア王国を発展させくれる人材を探していた。

そんな時、一つの書類が仕事中のアランの目に止まった。

「ライト...エール...?」

彼の目に留まったのは、浅順民主主義人民共和国の“永流来人”に関するレポートだった。いや、正確に言えばレポートに書かれているライトの経歴が目に留まった。

彼の経歴はまさに異色そのものだった。12歳から18歳に至るまでの一切の経歴が不明であり、18歳からの経歴も、外国の超有名大学の国際学科を主席で卒業したと書かれているばかりだ。

アランは人材探しに当たって、なんらかの才能がある人物を無条件に抽出してレポートにまとめさせた。そのような指示の結果、こんな異色の経歴を持つ人物も調査することになった。

そして、レポートを見た瞬間、彼の脳には電流が流れた。理由は彼自身にも分からない。ただ、アランがこのライトと呼ばれる人物に会うことをすぐに決断したことは、確固たる事実である。

「シュリ、数日国を空ける。出国の準備をしてほしい。」

「ええっ?こんな急に?どこへ行かれるのですか?」

浅順民主主義人民共和国。少し用ができてね。」

彗星はまだ輝くことを知らない。

第七話 浅順旅行記


浅順民主主義人民共和国 首都 浅順特別市


アズキニア王国の大統領、我が国を電撃訪問』

この一文が、浅順民主主義人民共和国の新聞の見出しを飾った。

そして、その新聞を読みながら今後の国際情勢について考えるものが一人。雨宮来人。浅順民主主義人民共和国の一市民である。

「さて、どうしたものか......。」

彼は微笑を浮かべる。この時間が彼にとっての至福のひとときだ。ライトにとってはありふれたテレビ番組やコンテンツに限界のあるゲームよりもよっぽど面白い。彼にとって国際社会とはオープンワールドであり、国はプレイヤーだ。どうして無限の要素が詰まった外交という名のゲームが面白くないと言えるだろうか。

「ん?しまった!もうこんな時間か!」

夢中になっている時ほど時は早く過ぎるものだ。果たして彼はバイトの時間に間に合うだろうか......。


浅順特別市 とある政府施設


「では、本日は貴重なお時間をとっていただき、誠にありがとうございました。」

アランは礼をして部屋から退出する。

「あぁ~ 緊張したなぁ」

彼が緊張するのも無理はない。アランはついさっきこの国の総裁であるあさかはすん氏と会談してきたところだ。もちろん彼にとって他国の指導者との会談は初めてである。幸い、会談は成功だった。というのも、アランはライトの勧誘のほかに、アズキニア王国の小豆とこの国の大豆をコラボさせて異文化交流を行うという計画の打ち合わせもこの国を訪れた目的であった。

「大統領殿、この後の予定が終わったら私が空港までお送りいたしましょうか?」

アランに話しかけたのはこの国の官僚である。官僚が率先して見送りを申し出るとは、総裁の人徳がいかに素晴らしいものかが伺える。

「ありがとう、でも、遠慮させてもらうよ。一人でゆっくりと観光したいからね」

「かしこまりました。それでは、お気をつけて」

そしてアランは記者団の前での総裁との握手を終えて観衆に手を振った後、この場所を去った。

「さてと...もう一つの目的を果たさなきゃ。」

そうしてアランは事前に待機させておいた車に乗り込む。そしてアランはライトの元へ向かう。


......のではなかったらしい。

「これだよ、これ!これがずっと食べたかったんだ!」

アランが手にしているのは浅順名物、ろづしアイス。枝豆を加工してできるずんだを使ってできるアイスだ。アランは実はアイスに目がない。もちろん1番好きなアイスは祖国の名産大納言あずきだが、彼は他の国を訪れたら必ずその国のアイスを食べることにしている。そして今アランは昔から食べたいと思っていたろづしアイスを食べれて大はしゃぎしている。

「これ!アラン様、今回の訪問は大統領としての立場でのものだということを忘れてはなりませぬぞ!」

「ゲッ、ハンネス爺。分かったよ......。仕方ないなぁ。」

そう言ってアランに釘を刺すのは、アランの専属運転手のハンネス・ブラウン。アランからハンネス爺と呼ばれる彼は一見ただの細身の老人だが、今でもプロ並みの運転技術を誇る運転士だ。

アランはハンネス爺には頭が上がらない。アランは仕方なくゆっくりアイスを食べ始めた。やっぱりアイスは美味しい。

「ねぇ、あれって......。」

「ほんとだ......。今日テレビに出てた......。」

「でも流石に勘違いじゃない?今頃空港にいるよ。」

周りが騒がしいと思って、周りにいた人たちがアランのことを見ながらヒソヒソ話している。

「えっもしかして......バレた?」

「ほら言わんこっちゃない!まだ周りの人たちはあなたが大統領だと確信してはおりませぬ。今のうちに車へ!」

「わ、分かったよ。」

二人は車へ急ぐ。しかし、この行動でアランを大統領だと確信したのか、群衆は二人を追ってくる。

だが、2人とも足は早い。なんとか撒いたようだ。

「ふぅ......。」

ニ人は車に乗り込み、目的地に向かう......。


浅順民主主義人民共和国 浅順特別市 とある一軒家


雨宮来人はソファーに腰掛けて新聞を読んでいた。アズキニア王国大統領の浅順に対する電撃訪問に対しての記事が大きく掲載されている。

ピンポーン

「なんだ?」

彼が玄関の扉を開けると若い男と老人が1人立っていた。二人とも知らない人だ。

「えー、あんたらは俺の知り合いじゃないと思うんだが、誰だ?」

「申し遅れました、僕はアラン・レーキンル。アズキニア王国の大統領です。」

「あっ!」

彼は持っていた新聞の写真を見た。写真の中で自分の国の総裁と握手をしている人物とそっくり、いや、同じ人物が自分の目の前に立っていた。彼が驚いたのは言うまでもない。

「これは失礼しました。ところで私に何の用でしょうか?」

しかし、彼はほんの1秒後には落ち着きを取り戻し、冷静にそして丁寧に挨拶して見せた。普通なら驚いて狼狽してもおかしくはないし、アランも来人は例に漏れずそれに当てはまるだろうと思っていた。

「......!」

これには逆にアランが驚かされてしまった。

「では、単刀直入に申し上げます。アズキニアに来て、僕の政治を手伝ってほしいのです!実はあなたの論文を読みました。それで僕はあなたの国際社会構想に感動したのです。あのような平和構想は我が国にとって必要なのです。」

来人は黙って考え込んだ。果たしてこの男を信用して良いものか。来人は昔のことを思い出していた

彗星はまだ輝くことを知らない。

第八話 人生を堕落に曲振り

俺には家族がいない。いや、正確には『いた』と言ったほうがいいだろう。

忘れもしない8年前のあの日、俺は家族を失った。

その日は弟の誕生日の記念にキャンプ場に行くことになっていた。弟はずっとキャンプに行きたいと思っていたし、家族全員キャンプを楽しみにしていた。キャンプ場へ続く林道に車を走らせながら家族で和気藹々と喋っていた。

しかし、俺たちの幻想は飛び出してきたたった一台の車によって粉々に打ち砕かれた。俺たちが乗った車は相手の車に突進され、崖下に転げ落ちた。

3日後、俺は病院で目覚めた。その時の俺はしばらく何が起こったのか理解できなかった。家族を失ったと理解した時、俺は膝からその場に崩れ落ちた。

相手の車の運転手は酒気帯び運転をしていたらしい。もちろん相手には法に従って相応の罰が下された。

俺は15歳にして家族を失った。多感な時期の少年には家族を失ったという事実すら到底受け入れ難かった。

しかし、本当の地獄はここからだった。

家族を失った俺は母の弟の家族に引き取られた。幸い、俺の両親は結構な量の遺産を残していったから自分で学費を支払うことはできた。叔父たちは俺にとてもよくしてくれた。家族を失った俺に寄り添ってくれたし、高いシャープペンシルも買ってくれた。そして俺に俺の両親のことを聞いてくるようになった。最終的には俺に両親の残した通帳や個人情報の書かれた手帳を渡すよう要求してきた。今思えばこの時不審に思うべきだったのだが、この時の俺は叔父のことを信頼し切っていたので不用心にも渡してしまった。

そして、叔父の家に来てからちょうど3ヶ月が経った時ぐらいの話だ。いつものように帰宅して、「ただいま」と言った。いつもなら「おかえり」と言って出迎えてくれる。しかし、その日は誰も返事を返してくれなかった上に真っ暗だった。戸を開けてリビングに入ると、家具がも何もかも全てなくなっていた。

俺が困惑していると作業服を着た男性が俺に話しかけて言った。

「坊主、ここは売り家だぞ?ここで何してんだ?」

「えっ?ここ俺の家なんですけど。」

「外の看板見てみろよ。ほら、売り家って書いてあるじゃねぇか。俺はこの家の最後の家具を運び出すよう頼まれた業者の者だ。何を勘違いしたのかはしらねぇがとっとと家に帰んな。」

俺は困惑した。ひとまず、業者の人には謝ってその場から離れた。

急いで叔父に電話した。

「叔父さん!俺たち家族の家が売られてる!すぐに帰ってきてよ!」

「何言ってる?お前なんか元々うちの家族じゃないぞ?」

俺は頭をハンマーでぶん殴られたようなショックを受けた。何かの間違いだと思って叔父を問いただすと、

「お前の両親の遺産が目当てだったんだよ。そのために家を売って逃げたんだ。もうお前は用済みだ。」

と言って電話を切られた。

その後、俺は児童養護施設に入った。俺は猛勉強し、奨学金制度を利用して、高校を卒業し国内トップの大学に主席で入学した。それまでの道は地獄だった。苛烈な競争により、ライバルたちは多くが散っていった。騙し合い、裏切り、嘘が蔓延る競争社会の中で俺は相手が信用に値するかを見極める技を身につけた。

それは相手の目を見ることだ。嘘つきの目は濁っている。まるで墨汁のように。俺はこの技で競争社会を勝ち抜いた。

そして、勉強と同時に進めていたことが叔父への復讐の準備だった。俺は叔父が両親の遺産を使って会社を立ち上げたことを知った。そして大学卒業後、偽名を使いその会社にあっさり入社することができた。

俺は会社の中で信頼を勝ち取り、重要な情報を任されるようになった。そして俺は会社の最高機密を手に入れた。

俺は最高機密をネットにばら撒き、ついでに会社でのパワハラも告発してやった。もちろんそれをやったのが俺だと言う証拠は完璧に消去した。

叔父の会社は信頼を失い倒産し、叔父は借金を負って自殺した。この時は本心からざまあみろと思った。

しかし、その後に残ったのは果てしない虚無感だった。俺は復讐のためだけに生きてきて、その目的を果たしてしまったのだ。俺は幸い貯蓄はたくさんあったので論文をいくつか発表した後、家に引きこもっていた。俺は生きる意義を完全に失っていた。

そしてそんな俺の元に現れたのがこのアラン・レーキンルというやつだ。アズキニア王国の大統領がまさか俺の元に来るとは思ってもいなかったので驚いたが、こいつも俺を騙して私利私欲のために俺を利用しようとしているのではないかという疑問が俺の頭をよぎった。

俺はこいつの目を見ることにした。

こいつ、いや、この人の目を見た瞬間俺は息を呑んだ。どこまでも透き通った海。この人はそんな目をしていた。一瞬で悟った。この人は信頼できる。

次の瞬間、俺は

「はい」

と返事をしていた......。


来人は

「はい」

と答えた。

アランは感謝の言葉を述べ、来人は正式にアズキニア王国の政府に入った。

これでアズキニア王国には強力な仲間が一人加わった。アズキニア王国は彼らのもとで更なる発展を遂げるだろう。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第九話 停戦計画


アズキニア王国 大統領公邸


アランは深呼吸し、閣議室に入る。

キィィ......バタン

「さて、今からアズキニア王国の今後に関する会議を始めよう。」

「まず、この国の問題を挙げていこう。問題がわからないと解決策も立てられないからね。」

「うーん まだ三人しかいないけど」

そう言ったのは永流来人。浅順民主主義人民共和国出身のアズキニア王国の外交担当である。アランからはライトと呼ばれてる。

「まぁ、これから仲間を集めていけばいいでしょう!」

続いてこう言ったのはシュリ。アランがリガルフィアにいた頃からの彼の優秀な秘書だ。

もちろん彼らだけで国の職務を全てこなしているわけではない。他にも五統領時代からの官僚たちもアランの手となり足となり職務をこなしている。彼らがいないのは今はこの国のこれからを組める超重要な会議だからだ。

「まぁそーだね。それでこの国の問題はなんだと思う?」

「俺がこの国に来て思ったのは、貧困層が多いことだな。この国はGDPでも世界首位に位置し、貿易に至っては世界一。なのに国民の30パーセントが相対的貧困の状況に置かれている!浅順ではみんな豊かに生活していたぞ。」

「そしてその原因は貿易に依存し国内産業を育ててこなかったことによる、雇用不足、機械類の輸入依存、経済的な分断にある、そうだよね、ライト?」

「ああ、その通り!」

流石リガルフィアの財政を立て直しただけのことはあるな、と来人は思った。

「事実、この国は債務が降り積もってその返済に大金を当てているせいで国内投資ができない、という状況にあります。そして歳出の中でその次に多い軍事費は23パーセント、さらにその次に多いのが治安維持費の19パーセントとなります。つまりこの国の内政のために使えるお金は全体の35パーセントであり、さらに無駄な歳出を引けば30パーセントほどしか使えるお金はありません。」

シュリはこういう分析能力に非常に優れている。アランが彼女を重宝する理由がこれである。

「また、リガルフィアではアズキニアの中核州化が進んでおらず、いまだに人頭税により税金をとっています。このせいで大地主から税金を取れず、格差が増大しています。」

「コールドランド、ケタスグルク、ナラキアについては人口の少なさにより統治は暫定的に成功しています。北フリーステートは依然として不安定。アルカ川以東では密教主義の影響が強いですが国家としての体制は維持されているようです。デヴォール川以東は無政府状態で統治体制は完全に瓦解しています。ですが現状、地理的に見てここに進出できる国家はアズキニア以外にはありません。」

「ありがとう、よく分かった。」

「そして最悪なのg」

「もういいよ、“それ”については僕が一番よくわかってる。」

「なるほど、テープコナル独立戦争のことか......。」
 
三人には広すぎる会議場は、一気に暗いムードになった。

テープコナルとの戦争が始まってからもう5年になる。あの戦争は、これまでかろうじて社会の闇に沈んでいたアズキニアの中の矛盾を、全て曝け出していった。多文化主義と民族主義、保護貿易と自由貿易、農奴制と商業化農業、児童労働と義務教育、言論の自由と言論統制、奴隷制と奴隷廃止、そして自由主義と帝国主義。

吹き出した矛盾は社会の歯車を錆びつかせ、アズキニアという名の時計を狂わせていった。それでもかろうじて時計の針はまだ回っていた。

だが、この時計を完全に動かなくさせるにはイかれた時計職人が最も大きい歯車に少し衝撃を加えるだけで十分だった......。

まだ、再生できる。そう思っているのは他の誰でもないアランだった。アズキニアの良いところも悪いところも全てを見てきた彼だからこそ、そう思えるのだった。

アズキニア王国の最優先事項は西オメガ問題の解決。もうこの国に戦争を継続できる余裕はないし、国内には厭戦気分が漂っている。何より、今、手を引かないともう元には戻れなくなってしまう。」 

「それは同感。だが、どうやって?テープコナル情勢は単純ではない。現在のテープコナル共和国大統領ドン・ミンがクーデターで政権を手に入れてからクライス=アヴァンギャルド体制は揺らいでいて不安定。テープコナル共和国内も分裂しているし、東テープコナル解放民族戦線は大統領と組んでるという噂まである。不安定なのはウェルルアンシー蜂起からずっとではあるけどな」

「とにかく、自分で行って自分の目で見てくるといいさ。俺が言いたいことが分かるだろう」

「うん......。」

アランは内心不服だった。自分は植民地といえどアズキニア出身だし、来人はあくまで他国出身。確かに来人の言うことには一理ある。視察によって得られるものの大きさをアランは知っている。だが、それにしても自分はあまりにも見くびられているのではないだろうか。アランはそう思ってならないのだった.......。

「ともかく、今日の会議はこれで終わりにしよう。お疲れ様でした。」

二人が部屋から退出しアランが残る。アランは考えていた。

「テープコナルか......。とにかく行ってみないと分からないな......。」

彗星はまだ輝くことを知らない。

第十話 王国の宝石


大泉洋上空 メクトフォール発ケープ・グラノダ行き、アズキニア大統領専用機


クークー、クークー

静かな機内に一人の青年のいびきが響き渡っている。普通飛行機内でいびきをかこうものなら、周りの乗客は大層迷惑がるだろう。しかし今回は、乗客は彼とわずかばかりの官僚だけである。

周りに迷惑がる乗客がいないからだろうか、彼のいびきはとても穏やかだ。あどけなく、どこか可愛らしい印象まで抱かせる。まるで母親の膝で眠る幼児のようだ。

彼は上を向いたまま顔の上に書類を乗せて寝ている。どうやら書類を読んでいたが、疲れて寝てしまったようだ。ますます子供らしい。

書類の題名は、『昨今のテープコナル共和国の情勢に関する簡潔なレポート』

政治的な書類のようだ。まぁ簡潔と言う題名とは裏腹に、書類の枚数は多く字も小さく詰まっているようだが。

『当機は乱気流に突入しました。機体が大きく揺れる場合がございましても、安全な運航には全く支障はございませんのでご安心ください』

機体が乱気流に突入し、大きく揺れる。

ツーーー、ゴン!

寝ていた男の頭は機体の揺れによって大きく傾き、窓枠に爽快な音を立てて綺麗にぶつかった。

「ふにゃっ!?」

情けない声を出して飛び起きたのはみなさんご存知のアズキニア王国の若き大統領、アラン・レーキンル。

彼は今、アズキニア王国のメクトフォールからテープコナル共和国首都ケープ・グラノダに向かっている。もうそろそろ着くころだろうか。

機体は雲を潜り抜け、着陸の準備を始めた。

「ああ、あれが......。」

アランの視界に広がったのは、エメラルドグリーンの海と美しく白いビーチ。そして遠くに見える拡大した都市。

一見繁栄の限りを尽くすようなこの国は、その美しい外観とは裏腹に今、混迷を極めていた......


テープコナル

今思えば、この国は古代からずっと混沌としていた。広大ななサバンナと生い茂る熱帯雨林、そして灼熱の砂漠から成る西オメガ。この地域の最も有力な勢力として二十世紀もの間君臨し続けてきたのがテープコナルである。

二千年前、西オメガに古テープコナル帝国が成立した。当初、この小国は西オメガにできては消えてゆく小国の一つであると思われていた。しかし、この帝国は次々と他国に侵攻し征服。あっという間その版図を広げ、三百年の間に西オメガのほとんどを統べる大帝国へと成長したのである。帝都ウルティマルには大陸中から富が集まり、人々は限りない繁栄を手に入れた。しかし、その頃すでに巨大な帝国はその自らの巨体を支えきれず崩壊。小国が跋扈し戦乱に明け暮れる時代が続いた。

しかし、国が別れてもテープコナルの民の魂は一つ。西オメガはテープコナルの元に長い年月を果たし再統一がなされ、テープコナル共和国が誕生した。テープコナル共和国は周辺の国家を次々と制圧。集まる富により街には再び活気が戻り、テープコナル共和国はここに揺るぎない繁栄と覇権を手に入れた。

しかし、その慢心は西の海から突如襲来した島国によってあっさり打ち砕かれることになるのである。

アズキニア王国。その奇妙な赤い豆を食べる民族は次第にその勢力を増し、テープコナルと敵対し始めるようになる。そしてついに、国境紛争により緊張が爆発。開戦へと至るのであった。

しかし、かつての威信が失墜しつつあるテープコナルが、産業革命を成し遂げ列強の座に指をかけるアズキニア王国に敵うはずがなかった。

そしてテープコナル共和国はアズキニア王国領西オメガに統合。テープコナルの民に衝撃を与えたのは西の辺境から来た民族にあっさり負けてしまったと言う覆しようのない事実だった。ここから二百年間、テープコナルには暗雲が立ち込める。

流れが変わったのはつい最近の三十年前。西部UNOでの戦争の影響で西オメガにもナショナリズムが到来。追い詰められるほど強くなるテープコナルの民はかつての栄光のもとに集い、再び覚醒する。

ついに2018年、東部でテープコナル自由共和国が独立を宣言。アズキニア王国は彼等の底力の前には未だに反乱を鎮圧できずただ狼狽続けるばかりである......。


「さて、やっと着いた.....!ここでライトの行ったことが本当が確かめてやろうじゃないか......!」

アランは期待を込めて立ち上がり、飛行機のドアへ向かって歩き出す。

彗星はまだ輝くことを知らない。

第十一話 空の蒼さだけ、見ていたい


ケープ・グラノダ


空港に着くや否や、アランが目にしたものは空港の周りに殺到する群衆だった。迫る群衆の圧に警備員も食い止めるのが精一杯のようだ。

彼らがどのような意図を持って空港に集まってきたのかは定かではない。だが、少なくとも自分を祝福しようと思って来たのではないということをアランは感じ取っていた。

よく見ると、彼らの手には赤いプラカードが掲げられている。アランは遠くてよく見えなかったが、おそらくアズキニアへの抗議だということはわかる。だが、こんなものはまだ序の口だと言うことを彼は思い知らされることとなる。 

「この国から出ていけ!」
「消えろ!悪魔!」
「妻と娘を返せ!」

空港の敷居から一歩出ると、アランに降りかかってきたのは多くの罵詈雑言だった。無理もない。彼らはアズキニアによって実に二百年間も煮湯を飲まされてきたのだから。

アランはそれでも静かに歩く。だが、そこに大統領の威厳はなく、テープコナルの民が見たのは悲しみに打ちひしがれた青年だった。

ベチャッ!

そしてついに、アランに向かって卵が投げられ、彼の後頭部に命中する。

「......っ!」

アランは思わず後頭部を押さえて振り向く。そこには拳を振るわせながら怒りの表情と涙を顔に浮かべる少年の姿があった。そしてアランと目が合うなり、嗚咽混じりに叫んだ。

「父ちゃんを返せ!」

アランは思わず立ち止まる。アランの目には群衆が怪物のように見えた。怪物は自分を取り囲み、怨恨、憤激、激高、癇癪、立腹、怒気、憤慨、憤懣、反感、痛憤、公憤、義憤、鬱憤、怨嗟、悲憤、さまざまな感情を込めて見下ろしてくる。押しつぶされてしまいそうだった。消えてしまいたい。泣き出してしまいたい。帰りたい。そんな感情が渦巻いて彼の頭の中で回り続ける。

「急いで車へ!速く!」

警備員の声でハッと我に帰る。警備員たちは必死に群衆を押し留めていた。

「ああ、そうだね......。」

急ぎ足で車に向かう。相変わらず飛んでくる罵詈雑言は彼の心を抉る。まだ若い青年にはとても耐えられそうにないようなものだった。

「逃げるのか!卑怯者!」
「この世から、消え失せろよ!」
「このフバルサン*4め!」

ようやく車に辿り着き、アランは去り際、こう言い放った。

「ごめんね...」

さっきまでの罵詈雑言の嵐が嘘のように、スッと静かになる。

「い、今、俺たちの言葉を...?」
「聞き間違いじゃねぇよな?確かに今...」
「あ、ああ、にわかには信じ難いが、言ったぞ!」

彼らが驚くのは無理もない。流刑地戦争以来、テープコナル人はアズキニア人に差別され、その言葉を使うことも制限され、テープコナル語を使うのは卑しいことだとされてきた。その、卑しい言語を、蔑んできたアズキニア人の最高権力者が使ったのだ。彼らにとってこれほどの驚きはないだろう。

バタム ブロロロロロ......

すでに車はアランを乗せて出発したが、それでも空港前広場の群衆の動揺はしばらく収まらなかった......。


アランは車に乗りこむなり、隣に座る側近に怒鳴られた。

「大統領!何を考えているんですか!あんな卑しい言語を使うなど!言語同断です!あのような態度では大統領としての示しがつきません!」

アランはうるさい側近の抗議を聞き流して、黙って考え込んでいた。

「(あの子は......腕が木の枝のように痩せていた。きっと卵だって貴重な栄養源のはず。しかもあそこでは背の高い大人が怒鳴っていて、怖かっただろう。なのに最前列で卵を投げつけた。あの子の方が僕なんかよりずっとしっかりしてるじゃないか......。僕はなんて小心者なんだろう......。)」

その時アランの頭の中で旧都の橋の下で出会った少年と、空港で卵を投げつけた少年の姿が重なる。

「オレたちの生活も知らないくせに」

橋の下で少年が去り際に放った一言が、彼の脳内で反復される。

「(いや、こうやって僻んでるだけじゃ何も変わらない。みんながお腹いっぱい食べれるようにするあの時って誓ったじゃないか。変えて見せる。アズキニアもテープコナルも。)」

「聞いているんですか!?大統領!」

「えっ、ああっ、ごめん。」

彼を乗せた車はケース・グラノダ環状線を通って大統領府へ向かう。

ガサガサッ

草むらで二つの人影が動いている。誰も気に留めないが、何やら怪しげな会話をしている。

「あれがターゲットの乗った車だ。覚えとけ、バレル。」

「ああ、分かった。復讐の時だ。覚悟してろよ......!アラン・レーキンル!」

彗星はまだ輝くことを知らない。

第十二話 ジャングルの25分13秒 前編

「もうすぐ大統領府が見えてくる頃かな。」

「はい!もうそろそろです!あの交差点を曲がればもう見えてきますよ~」

そして車は交差点を右に曲がる。そうすると見えてきたのは、アズキニアの王宮に引けを取らないほど豪華で巨大な建築物だった。もう日が落ちようとしているのにそこだけ異様に明るく見えるほどだった。

「大統領!すごいですね!実際に見るとこんなに壮大だなんて!」

部下は大統領府に見えると、興奮気味に喋り出した。アランも勿論その巨大さに圧倒されたが、アランが感じたのはそれだけではなかった。

「大きすぎる......。」

「え?大きいのは発展の証でしょう?」

「いや、そうじゃない。テープコナルは資源や労働力こそ豊富にあるけど、経済法が『産業禁止』だからGDPは圧倒的に低いはず...。それなのにどうしてこんな巨大な建物を建てられたんだろう...?」

「あ...確かに。」

「それにケープ・グラノダを見た感じ、高層ビルは多いけれど、インフラ系の施設が異様に少ない気がしたんだよね。病院とか警察署とか。あと、オフィス街を歩いている人も帰宅ラッシュ時にしては少ない。これは何かありそうだ......。それn

シュー----------ドン!ドン!

アランの話は大きな爆発音に遮られてしまった。外を見ると、大量の花火が打ち上がっている。赤、緑、金、白。様々な色のさまざまな形の花火が夜の庭園を明るく照らしている。

アランたちが呆気にとられたかと思えば、赤い絨毯が素早く敷かれていた。

そして、そこに大柄で小太りの軍服に身を包んだ初老の男がこちらにゆっくりと歩いてくる。

「ガハハハハハ!お待ちしておりましたぞ!レーキンル殿!」

そう言ってこの男はアランに向かって笑顔で右手を伸ばした。

この男の名はドン・ミン。元はただの一農民兵に過ぎなかったこの男は正規兵となって軍部に入るとメキメキと頭角を表し、わずか十五年で元帥にまで上り詰めた。ウェルルアンシー蜂起の隙をついて当時の大統領フィリップ・ラポールをクーデターを起こして暗殺し、テープコナル共和国大統領の座を簒奪した。大統領の座を奪ってからは徹底した武断統治を行い、国内を法と銃の力で自分に逆らうものを全員消し去ってきた。それがテープコナル共和国の大統領にして陸軍大元帥、ドン・ミンである。

「ああ、よろしくお願いします。」

そう言ってアランはぎこちなく手を差し出し、ミンと握手をする。

「いやはや!お会いできて光栄ですぜ!」

そう言ってミンは屈託ない笑顔のまま手を上下に大きく振り、アランはそれに振り回されてしまう。一瞬、ミンの釣り上がった口角が不気味に上下した。

「ささ!外はもう暗いですし中で話しましょうぜ?」

「ええ。」

アランがそう言うと、ミンはにっこりと笑いかけて、背を向き、宮殿へと歩き出した。

ずっと笑っている彼の巨体には一体何が詰まっているのだろう......。


「はぁ、それで攻勢方法を変える気はないと?」

「もちろん!あの人間の屑どもは根絶やしにせにゃあならんでしょう!」

アランはミンに案内されて大広間に通された。一体どこにこんなに広い宮殿を建てる金があるんだろうかと思わせるほど部屋は豪華だった。床は赤い手編み絨毯、天井には豪勢なシャンデリア、壁には金箔が散りばめられている。

アランはミンと東部の反乱の鎮圧について話している。いや、もはや反乱ではなく戦争だが。しかし、一向にまとまる気配がない。

「そうですか...。じゃあこれ以上戦争を続けて勝算があるのですか?」

「勝算?そんなのあるに決まってまさぁ!そもそもこれはあんたr、ゴホンゴホン!こりゃああなたたちが始めたことじゃあないですかい?」

ミンは捲し立てるように続ける。

「それにテープコナル軍の総帥権はあっしにあるんですぜ?」

「......。」

アランは何も言えなかった。実際テープコナル軍の総帥権はミンにあるし、軍事経験もミンの方が豊富。アランは自分が言っても説得力がないことぐらいわかっていた。

「分かりましたよ。お好きにどうぞ」

そう言ってアランは静かに出て行った

ドン!
 
「クソッ!!」

扉が閉まったのを確認すると、ミンは大きく足を床に叩きつけた。大広間にいた全員が静かに驚き、たじろぐ。ミンはアランに意見されたのが気に食わないようだ。

「クソ、クソ、クソ!この俺に意見しやがって!俺は天下のドン・ミン様だぞ!」

ミンは激昂してワイングラスや蝋燭建を周囲の召使たちに投げつける。

ガシャン!ドシャン!

「キャア!」

召使たちは悲鳴をあげてミンから遠ざかる。飛び散ったガラスの破片が一人の召使の足に刺さって、足を押さえ込む。見かねた一人の執事がミンを諌める。

「閣下!あやつはきっとまだミン様の偉大さに気づいていないだけなのでしょう!どうかお鎮まりを!」

「黙れ!お前に何がわかる!」

ミンは諌めにきた執事の顔に熱いコーヒーの入ったカップを投げつける。

ガン!

カップが命中し、執事の顔に熱いコーヒーがかかってしまった。

「......!」

執事は顔を抑え、声ひとつあげずに顔を顰めて座り込む

「ああ、すまねぇ。俺もやりすぎた。奥で休んでろ。」

ミンは熱さに悶える執事を見てようやく落ち着いて椅子に座った。

「ふう...................。あの若造め......。そうだ、アレを手回ししておけ。」

彗星はまだ輝くことを知らない。

第十三話 ジャングルの25分13秒 中編

「ふぅ......。」

アランは部下の一人と部屋で休んでいる。

「それにしてもすごく豪華でしたね~!食事も楽しみだ!」

部下はアランに話しかけるが、アランは険しい面持ちで真っ直ぐに壁を見つめている。

「(ミンは軍事の才能だけはあるはず......。それは報告書にも書かれていた。じゃあなぜあそこまで苦戦している?いくら相手がゲリラとはいえ、装備が新しいこちらの方が相手より死者が多いなんてことはないだろう......。)」

「大統領?おーい。聞いてます?」

そう言って部下はアランを揺さぶる。

「ん?ああ、ごめん!リュド、ちょっと考え事をしていてさ」

「そうですか......。しっかりしてくださいよ!大統領!」

「あはは、ごめんね」

リュドと呼ばれた男は楽観的だが陽気で、アランを楽しませる大事な部下だ。もちろん仕事もできる。出張先で見て回るものなどを決めるのが大の得意で、今回の行き場所もアランが彼に相談して決めている。

ガチャ

「失礼します。お食事をお持ちいたしました。」

召使の少女が夕飯を持ってきてくれた。メインディッシュは子羊の背脂焼き。熱々の肉から湯気がたちのぼる汁がジュージュー音をたてて溢れてくる。デザートのジェラートもとても美味しそうだ。メロン味だろうか。明るく黄緑色に染まっていて今にも食べたくなる。ホクホクの白米も食欲をそそらせる。サラダもヘルシーでみずみずしい。

「ああ、ありがとう!美味しそう!」

念願の夕飯が運ばれてくると、アランはそれまで考えたことも忘れて食欲のままに行動してしまう。人間は食欲には勝てない。

「ですね!早速いただきましょう!」

リュドも美味しそうな料理に興奮気味だ。

「リュド、あんまりがっつくじゃないぞ。」

コトン

「さて、いただきます」

そういってアランは銀時計を外し、テーブルに置こうとするが、、時計をご飯の上に落としてしまった。

「あっ、お取り返しましょうか?」

アランは急いで時計を捨う。

「いや、いいよ、大丈b......ん?これは.......。」

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。もう行っていいよ。そうだリュド、薬を飲まなきゃいけないから先に食べていてくれない?」

「ああ、はい。分かりましたけど......。(え?何かの病気なのか?)」

「それでは、私はこれで失礼します。どうぞごゆっくりなさいませ。」

キィィ...バタム

アランは少女が出て行ったことを確認すると早歩きでリュドの元に向かった。

「え?大統領?薬は?」

リュドの言葉に耳を傾けず、アランはリュドに詰め寄る。

ガシャン!ガンガラガッシャーン!

アランはテーブルの上の料理を手で払いのけ、床に落としてしまった。美味しそうな料理が床に散乱している。アランは豹変し、飲み物も全て床にこぼしてしまった。

「ちょ、あんた、何を!?」

そして、アランはリュドの方を向くと彼を睨みつけ、立ち上がって彼の胸元を掴む彼を片手で持ち上げる。そしてアランはもう片方の拳を振り上げる。

「おい!離せよ!いくら大統領だかr」

ドン!

アランの拳はリュドの鳩尾に命中し、リュドの口から濁った液体が飛び出す。

「ギャア!」

リュドは悲鳴をあげて腹を抑えて倒れ込む。アランはすかさずリュドの上に馬乗りになって腹から手を剥がし、殴り続ける。

リュドの口から濁った液体がドロっと一気に溢れ出る。それでもアランは彼の鳩尾を殴るのをやめない。

そして三分ほど経って、アランはようやく殴るのをやめた。

「何するんですか!!」

リュドはアランに掴みかかる。しかし、アランは片手でリュドを静止し、自分の銀時計をリュドの前に突き出した。

「見て、銀が黒ずんで変色してる。」

「それと俺を殴るのとなんの関係が......!」

「落ち着いて、銀が黒ずくのは硫化反応が起こった証拠。FeAsS、つまり硫砒鉄鋼から精製されたヒ素が入っている可能性が高い」

「じゃあそのヒ素ってなんなんです!?別に変なものが入ってたからって俺に当たる必要はないでしょう!?」

「毒だよ」

アランが放った鋭いその一言は、リュドの心臓を凍り付かせた。

「あっ、えっ、じゃあ」

「そう。だから全部吐かせたんだ。手荒な真似をしてしまってごめん。でも、なるべく早く出した方がいいと思って。」

「俺のほうこそ...すいません...。」

「いや、いいんだ。それより、これは大問題だ。仮にも僕は宗主国の大統領。ひょっとしたらミンはこうやって過去にも同じことをしたのかもしれない。だとすると、歴代政権がミンの所業を許してきたのは......そういうことなのかもしれない。これは調べる必要がありそうだな......。」

命を狙われていたアラン。彼に伸びる毒牙は無数だ。

彗星はまだ輝くことを知らない。

ジャングルの25分13秒後編

アランは血塗られた花畑の中、目の黒いワンピースの少女の怪物に追いかけられていた。そう、「ユキ」と自称するあの怪物だ。

「はぁ...はぁ...助け...」

アランはもうまともに走れそうにない。それでも少女の怪物は止まることなくアランに近づいてくる。怪物は何も言わない。

ただ、不気味に微笑んで走る動作もしていないのに高速で近づいてくる。そして、アランと少女の距離はどんどん縮まる。少女はスピードを緩め、アランの前で立ち止まった。アランは歩みを止めずなんとか逃げ去ろうとするが、少女の前に無力だということを自覚せずにはいられなかった。そして、少女の腕は変形し鞭のようになる。

アランは後ろを振り返ったが、彼の目に映るのは異常な大きさの肉々しい腕を振り上げていまにも振りおりさんとする怪物の姿だった。

「ああ、やめ...」

そして、少女の腕がアランに振り下ろさようとしたその時...

『...ぁ.....なぁ......んなぁ.....』

紅い空から拍子抜けした子供のような声が聞こえてくる。

「誰かが...僕を呼んでいる.....?」

「ウガァ...ウォォォォォォォ......!」

怪物は腕を戻して両耳を抑え、苦しそうにうめいている。空からの声は止まない。

ボロ...ボロボロ... ビチャ..ピチャ......

少女のの体は徐々に肉片となって崩れ落ちていく。崩れ落ちた肉片は灰になって虚空へと消えていく......。

しかし、アランを強烈な眠気が襲う。空の声もどんどん小さくなっていき、彼の瞼は重量に従って閉じ始める。

「(暗い...)」

彼の意識は急速に遠のいていき、花畑に倒れ込んだ。

「ぁ...ぁ...」

幾許か後、アランはまたしてもあの腑抜けた声で意識を取り戻した。最初は小さなノイズにしか聞こえなかったのが、どんどん大きくなり内容も鮮明に聞こえてくる。それに伴い、徐々に彼の視界に光が戻り始めた。

「(ん、暗い......。ここ......は...?)」

「...ぁ~ んなぁ~!」

「(だんだんと意識が戻ってきた...。うっ...身体中が痛い...。)」

「んなぁ、起きろよ~。いい加減起きてくれないとオイラの寝所がなくなっちまうだろ?」

アランはそっと目を開ける。すると、視界に黒く波打つ髪の毛が映る。

「うわぁぁぁぁ!!!!!!!」

驚きのあまり体の痛みも忘れて思わず飛び退いてしまった。

よく見ると、褐色の少年...?だ。前髪は目を覆うほどに長く、一部は後ろで結ばれている。典型的なテープコナル人の少年のようだ。それよりアランは彼は前が見えているのかという疑問を抱かずにはいられなかった。

「あっ、やっと起きたぜ~!まったくよぉ~、どんだけ起こしたと思ってんだよ?」

彼の声はさっきの腑抜けした声とそっくりだ。というか、全く同じである。急に動いて全身が痛む。

少年は驚いて腰が抜けたアランを尻目に草でできたベッドを畳んでいる。

「ちょっ、ええっ。あの、いったい君は誰だ?そしてここは?!」

「はぁ~ 一旦落ち着けよなぁ~ ほら、周りを見渡してみろよ。状況整理しろって」

そう言われてアランは辺りを見渡す。薄暗いジャングルの中で木組みのツリーハウスのようなもがほのかに光っていた。

「ジャングルの中の秘密基地?それにしてもどうしてここに...?あ、ちょっとずつ思い出してきた...。」

どうして彼はここにいるのか?話は数時間前に遡る......。


テープコナル共和国 ジャハル地方のジャングル上空


バラバラバラバラ...

鬱蒼とした密林の上を数機のヘリが爽快な音を立てて飛んでいる。


*1 ex:レギュラー帝国ディーゼル共和国エクストラ諸島など
*2 背広を着るような身分の人間
*3 統領たち
*4 テープコナルに伝わる神話の中の狡猾な悪魔