プロローグ
その日、ジオティック連邦は散った。そのことを僕が知ったのは、死の間際に映像を送り届けてくれたβチームのメンバーからの連絡でだった。
全ての裏にいた人間を、僕は知っている。
オーガ・ラスティス、旧ガザリア帝国陸軍総帥。かつての僕の最大の敵、緋色の魔王が直属していた上司だ。
奴はルシファーXIIIをエリクシア皇国の産物と偽装、同型機によるカラクリネズミのテロの捏造、さらには国連からのガザリア帝国滅却作戦の認可を偽の組織のものだと偽り、コロニーを落としたあの組織を動かした・・・エリクシア皇国に関する文書が始めから偽物だったことには驚かされたけど。だが、ガザリア帝国には国連構成国家を攻撃した実例がある、それも20件以上。よくそんな記録を0に挿げ替えてバレなかったものだ。
僕は今、いくつかの国を回っている。あの時の仲間たちに会いに行くために・・・そして、オーガ・ラスティスを殺して、真・ガザリア帝国の野望を道半ばのうちに沈めるために。
登場キャラ
『スターゲイザーズ』
- 王堂 流星
主人公。狂言で祖国・ジオティック連邦を潰されたという大きすぎる借りを返すべく、愛機・γスターを繰り、オーガ・ラスティスの抹殺を目指している。 - 矢田 美由紀
王堂の学徒兵時代の仲間の1人。現在は対機動兵器戦に特化した雇われ戦車隊の隊長を務めている。 - 小笠原 瑛人
大陸戦争時代、ファスター民国から逃走し、シンセティック共和国軍に参入していた裏切り兵士。スパイ活動ならお手のもの。
現在は先進公国アーバンで諜報員として暗躍している。 - カラクリネズミ
メテリク王国国王からの連絡でオーガ・ラスティスの狂言によるミカニ大陸破壊攻撃を知り、孤児たちと共にミカニ大陸を離脱したため、間一髪のところで悲劇を免れた心優しきならず者たち。
マスクドことメテリク王国王女・リーナによる交渉を経て『スターゲイザー』に参入した。目的は同じく、オーガ・ラスティスの抹殺である。
真・ガザリア帝国
- オーガ・ラスティス
旧ガザリア帝国陸軍総帥であり、ジオティック連邦の暴走から滅亡までを全て影から操っていた男。メテリク王国で軍の上層部までのし上がり、国王を拘束して政権を奪取して真・ガザリア帝国を建国。 - 闇夜の貴公子
ルシファーXIIの適性パイロット。その操縦技術には王堂でさえ目を見張るものがあり、オーガ・ラスティスから『緋色の魔王の再来』と呼ばれている。
緋色の魔王を打ち破った『鋼鉄の星』王堂を殺して初めて、自分はガザリア帝国のエースの称号である『魔王』のコードネームを得られると考えており、彼を殺すことにかなり固執している。
ルシファーシリーズの全ての機体にパイロットとしての適性があるため、ルシファーI~XIのパイロットは、この人物の遺伝子を使った遺伝子治療を受けた優秀なパイロットたちが担当している。ぼんやりとだが、常に互いが何を考えているのかわかるがゆえに、その連携には寸分の隙すら見当たらない。
また、いざという時はナノマシーンを通じて他のパイロットの意識を乗っ取り、I~XIIまでの全機体を意のままに操ることができる。
概要
3章構成です。1章はスターゲイザー結成まで、2章はOperation Cherry Blossomを例のやつと同じような形式で展開し、3章でスターゲイザーが単独で真・ガザリア帝国に全面戦争を仕掛けるというシナリオになります。
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Tag: 【SS】
第一話
王堂はレイアスという辺境の地にいる。何をしにと言われれば、もちろん仲間を探しにだ。本当は別の仲間の居場所の方が近いのだが、彼女が作戦に参加してくれるかどうかで自分側の戦力は大きく変わることを、王堂は知っている。
矢田 美由紀、元シンセティック共和国軍学徒兵・・・兼戦車隊副隊長。戦闘機、機動兵器に対する命中率は97%で、8割方は一発撃墜、特に機動兵器に関しては、その全てがコックピット直撃での撃墜という戦果を、戦車に乗ってわずか1年ほどの一般人が叩き出したのだから凄まじい。
他人からすれば、これだけ聞くととんでもないバケモノのように聞こえるが、実際はこの戦果は最後の4ヶ月で急成長した結果で、戦車に乗ってる時以外は何かとやらかすおっちょこちょいだった。彼にとっては緋色の魔王との1度目の対決の後、「殺す価値もないザコ」と罵られて挫けた時に立ち直らせてくれた恩人でもある。
そんな彼女は今、雇われの戦車隊をしているという。既に8件の実績があるらしいが・・・
「何にもなさすぎるんだろ、ここ。どこまで行っても景色が変わらないとか・・・」
実際王堂は、かれこれ1時間半ほどγスターで移動しているが、それでもまだ彼女の拠点が見えて来ない。彼女が言うには、γスターで10分ほどの場所らしいが、それでも見当たらないのだから嫌になって来る。そのうち方向感覚を失いそうだ。
だが、そんな時だった。
突如ロックオン警告表示が灯る。
「な!?」
咄嗟に警告されている方向に盾を向けると、戦車砲が直撃し、シールドが鈍い音を立てた。高さはバックパックちょうどほど、攻撃してきた無法者は、機体を捕縛して売り捌く気なのだろう。
王堂はジェネレーターの稼働率を上昇させる。これは、彼が戦闘モードに入った合図だ。γスターが武装を引き抜き、攻撃が飛んできた方向を見据える。
「僕に仕掛けるってことは自信あるんだろうな?やれるものなら、やってみせてくれよ。」
「隊長、付近で戦車砲のマズルフラッシュが見えました!」
その頃、少し離れた簡易拠点のような場所で、櫓の上の見張りが異変を報告していた。
「奴ら、また民間人を狙ってるのね・・・今度こそとっちめてやりましょう!みんな、出撃準備!」
「了解!」
拠点のガレージから戦車が4台現れ、広大な荒野へと走り出す。その一団を率いるのは、1人の若い女だった。
車列は徐々に標的に近づいているが、少し近づいて違和感に気づいた。マズルフラッシュが徐々に移動している。それも、光の形からして、民間人を狙って攻撃を仕掛けたはずのならず者たちの方が後退しているのだ。
若干声も聞こえてきた。車載スピーカーを通して、何やら叫び続けているらしい。
「何か聞こえる・・・指向性マイクで拾えない?」
「今拾ってます。ええっと・・・『来るな』?」
「・・・?どういう意味?やっぱり、あいつらは何かから逃げている・・・?」
「!砲塔の先の方向から、何か、高性能なマシンの駆動音のような音がします!」
程なくして、地平の先から機動兵器が現れる。彼女が最後にそれを見たのは、実に6年前のことになる。
『ダメだ!撃っても撃っても片っ端から弾き落とされる!』
『何なんだあのバケモノは!?』
戦車の比にならないほどの速さで最前の一台に追いついたγスターが、スターロッドを叩き込む。こんな辺境の地のならず者が持ってるような旧式如きでは耐え切れるはずもなく、車体は叩き割られ、爆発した。残る2台も間髪入れずに撃ち込まれたビーム射撃によって、なす術なく大破する。
γスターのデュアルアイが車列を向く。
「た、隊長。あいつ、こっち見てますけど・・・隊長?」
「間違いない、彼だ・・・」
女は戦車のハッチのロックを解除し、車上に顔を出す。
「隊長!?何をしているんですか!?」
γスターの顔が女の方を向く。すると、少ししてγスターのパイロットの方も、コックピットを開き、地上に降りて来た。着用しているのは、ジオティック連邦軍のパイロットスーツだ。
「やっぱり。あんな動き、他の人にできるわけないよね。」
女はパイロットの方へと走り出した。
「流星~!」
「あのパイロット、隊長の知り合いだったのか・・・」
「久しブッ!」
しかし、拳が届く間合いに入った瞬間、パイロット・王堂から、戦車隊隊長・美由紀にゲンコツが飛んだ。そのまま王堂は美由紀の耳をつまみ上げる。
「お前なぁ、何が『γスターで10分程度』だ!?ここ来るまでにかれこれ2時間近くは飛び回ったぞ!?」
「いてててててて!ごめん、多分0が一個抜けてたのに気が付かなかったんだと思う!」
その答えを聞いて、王堂は呆れたような溜息をついてつまんでいた耳を離した。
「全く・・・相変わらずだな、美由紀。元気そうで何より。」
「こっちこそ。正規の軍人になってもそのままの流星でホッとした。」
「つまり、お二人はその『大陸戦争』を生き残った学徒兵なんですね。」
「そ。私は正規の軍人として軍隊に所属するのは居苦しいかなって思ってそれからしばらくは戦車乗りをやめてたの。」
戦車隊の拠点では、隊員たちの発言から始まった王堂と美由紀の思い出話が弾んでいた。
「反面、流星は正規の軍人になって、どんどん成果を収めていって・・・正直後悔してるよ、軍を離れなければ良かったって。そのうち、砲手として見ていたあの景色が恋しくなっちゃった。」
「その結果が国を離れて結成したこの戦車隊ってわけか。言ってくれれば鉄さんに掛け合って軍に編入させることだってできたのに。」
「だって、自分の意思で軍を離れたのにやっぱり戻りたいとか、合わせる顔がないじゃん。」
なるほど、彼女らしい理由だ。大陸戦争の頃から、美由紀は気まずい空気感がかなり苦手だった。