【SS】駆逐艦「天塩」

Last-modified: 2024-01-06 (土) 22:54:34


 

プロローグ

当時世界全体を巻き込んだ戦争、世界大戦が行われていた。
国民全員が全員平等に扱われ一生殆ど同じ行動をする社会主義国家の集まりである連合国と、自由に目覚めたごく少数の民主主義国家革命国。
この内、革命国側の陽天(ようてん)国海軍所属の駆逐艦「天塩(てしお)」とその艦長である天月(あまつ) 榮吉(えいきち)の物語。

!注意!

・世界大戦がモチーフです。
・不謹慎注意。
・不定期更新ですのであしからず。

紹介

人物

・天塩艦長 天月(あまつ)榮吉(えいきち)
 25歳軍人にして駆逐艦「天塩」の艦長。
 祖国や仲間、愛艦である天塩をこよなく愛する。
 周りからその性格や実績を認められて、好かれている。
 
・内閣総理大臣 北々(ほくぼく)正視(せいし)
 大政翼賛会のトップにして実質陽天国全権の所有者。
 努力家で強い精神力を持っている。
 
・海軍大臣 天津掛(あまつかけ)(ちょう)
 頭脳派の海軍総大将。
 頭脳派故に、根性と精神で解決する考えを嫌っている。
 口は悪いが部下を好いており正当な評価ができる。
 
・第一艦隊司令官長 (ひがし)選太(せんた)
 海軍学校を首席で合格し、たった一人で上り詰めた。
 安定策や奇抜な策などを使い分ける。
 連合国から賞金が掛けられている者の一人。
 
・第二艦隊司令長官 田山(たやま)畑佐(はたさ)
 スパイを一目で見抜き殴り倒した過去を持つ。
 人柄が良く、皆に好かれるスポーツマン。
 

部隊

第一艦隊

東選太率いる艦隊。
陽天国の主力艦隊であり、決戦力、突破力はかなり優れる。

第二艦隊

天月榮吉所属の田山畑佐率いる艦隊。
第一艦隊に並ぶ主力艦隊であり、機動面や連携力ではこちらが優れる。

第三艦隊

必要に応じて編成を変え、特別作戦にあたることもある。
その作戦の内容は関係者と、第三艦隊内の人しか知らない。

連合国

ハルキゲニア合衆国?
 列強と呼ばれ、社会主義体制を確立させ広めた国。
 その国土の広さ*1からなる生産力と軍事力は極めて高い。
 
ワムシ共和国?
 ハルキゲニア合衆国に並ぶ列強国。
 軍事力も質を取ればハルゲニア合衆国より上。
 
アリ連邦?
 列強国の一つ。
 国土面積第二位であり、高緯度なため寒い。
 統率が取れた、機械的な軍隊は怯むことを知らない。
 
センチュー国
 国土面積、人口ともに第一位の大国。
 しかし他国からの支援が無いとまともに国も回らない。
 
カイチュー国
 センチュー国とすぐ近くの国。
 センチュー国とは関係が悪く、ろくな国交もない。
 
トビケラ国
 陽天国と少し離れた、島国。
 石油資源が豊富。
 ワムシ共和国との繋がりが強い。
 
 ・ざざむし島
  トビケラ国の領有する島。
  戦略的に非常に意味のある島である。
 

革命国

陽天国
 完全な島国。
 造船技術はどの国よりも優れている。
 海産物や鉄鉱石が特に豊富。しかし石油は無い。
 国民殆どが根っからの愛国者で自分の命は二の次なほど。
 
親和新天国
 陽天国からは遠く離れているが、かなり仲が良い。
 技術レベルが高く、広く高い技術力を誇る。
 初めて国民議会を開いた国。
 

その他

大政翼賛会
 終戦後に複数の政党に分かれるという名目で作られた。
 陽天国に関わること全ての決定権を持っている。
 トップである内閣総理大臣は強力な権限と人気を有す。
 
大臣
 内閣総理大臣が各大臣の任命権を持っている。
 〇〇大臣は、〇〇の総大将。
 
制海権
 簡単に言うとそこの海域を占領しているか否か。
 制海権が無いと接敵したりする可能性が高い。
 
T字戦
 T字型で戦う交戦体型。
 図で、上に向かっていると不利となる。
 Pict_0066-w150.jpg
 
反航戦
 敵味方が反航し合い戦う交戦体型。
 基本的には先頭艦が集中砲火を受ける。
 Pict_0065-w150.jpg

設定

・開戦は1995年4月22日。
・連合国側の国々、特にハルキゲニア合衆国は陽天国に住む人々を海人人種として差別し、完全に舐めていた。*2
・センチュー国、カイチュー国は、どちらも自力で国が回せないほどに状態が悪く、軍備に関しては陸軍で手一杯で海軍は作れなかった。
・「天」という字は、陽天国では縁起のいい字であり、「あま」や「てん」なども願掛けとして使われる。
・社会主義国家の国名が総じて虫の名前なのは、「社会主義の虫畜生」ということわざによる。*3

コメント

  • 陽天国の歴史から今本編ではない*4ところで起こってることも分かるから、チェックしておいたら本編の流れがより分かるかも! -- 皆の補集合 2023-04-06 (木) 22:08:45
  • 毎回話を纏めるの下手でごめんなさいm(_ _)m
    書きたいこと書いたら遂に3編に収まらなくなりました() -- 皆の補集合 2023-06-14 (水) 16:26:39
  • カイチュー国の説明欄誤字では...? -- 2023-06-26 (月) 23:14:29
    • 今の今まで気づかんかった( ゚д゚)
      直しときました -- 皆の補集合 2023-06-27 (火) 06:55:08

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Tag: 【SS】 戦争

一話

一話 "開戦"

「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。今朝ー」
そんなラジオの音があちこちの家から聞こえてくる。
国民の間では開戦は時間の問題だと(うわさ)していたらしい。
いつかはやらなければいけないことだ。
軍部もつい一ヶ月前に開戦を決め、今日に至る。
 

一ヶ月前
 
「良いかい?今から言うことは一ヶ月間機密の情報だ。」
「はい。」
私は今、海軍大臣の天津掛(あまつかけ)(ちょう)殿に直々に呼び出されている。
これからの軍事についてらしいが、正直聞かなくても見当はついている。
ハルキゲニア合衆国を筆頭とした社会主義の連中に批判、牽制、先日には禁輸までされているのだ。
我が国は島国ながら、資源はそこそこ豊富だ。
食料だって国民全員とは行かなくても自給自足で8割は(まかな)える推算だし、鉱山資源もある。
しかし、石油だけはこの地域にのみちょうど無いのだ。
それを禁油されてしまえば、戦争以外生き残る道は無いだろう。
「ーで、…って聞いているのかい?」
そこで話を聞いていないことに気がついた。
「すみません。もう一度(おっしゃ)ってもらっても…」
「全く。この夏の暑さもあるんだろうが、若くして艦長だからと調子にのってるんじゃないかね?」
少し厭味(いやみ)ったらしく言ってくるが聞いていなかったこちらに落ち度があるので何も言えない。
「えーっと…あぁ。だから、一ヶ月後に開戦が決まった。相手国はセンチュー国とカイチュー国、それと同時にトビケラ国にもだ。」
トビケラ国は予想がついていた。
あそこは石油が豊富にあり島国だ。
同じ島国でも技術面では我が国に分がある。
しかし、センチュー国とカイチュー国は悪手に思える。
あそこの国は仲が悪いようで良いようでやはり悪いのだが、二国の総国土面積と物量によるゴリ押し戦法は労力とコストだけが莫大(ばくだい)にかかり、得られるものはどう考えても割に合わない。
「トビケラ国は分かるのですが、何故センチュー国とカイチュー国にも戦争を仕掛けるのでしょうか。かなり時間も資源も取られると思いますが…」
大臣がイラッとした表情で返す。
「自分も同じ様なことを言ってやったんだ。しかし陸軍どもの頭は花畑のようで、絶対勝つ!絶対勝てる!の一点張りでその根拠も無い。なのに北々(ほくぼく)のやつと言ったら満足そうに(うなず)きやがって…」
大臣は頭を抱えてしまった。
別に陸海軍の不仲は今に始まったことではない。
ならば私たち海軍にできることは、トビケラ国への制海権の確保、海上支援を速やかに行うことだろう。
幸いにもセンチュー国カイチュー国は臨海国にも関わらず海軍を持たないのだ。
思っているより早くこの作戦は終わりそうだ。
 
私は天塩(てしお)の整備を見に来ていた。
開戦が国民に発表され、数日が経った。
今のところ大きな動きは無く、他国からの介入もまだだ。
天塩の整備が終われば、トビケラ国の領有するある島への上陸作戦が開始される。
そこの島を占領すれば、そこから出た爆撃機が雨のようにトビケラ国本土を爆撃できるとのことだ。
既に近海の制海権はあらかた第一艦隊と第三艦隊の活躍により取れている。
安心して海を渡り、島の上陸もそう苦戦しないはずだ。
私は少しわくわくしてきた。

二話

二話 "ざざむし島上陸作戦"

「今回のざざむし島上陸作戦にあたって、我が第二艦隊の一部も本作戦に加わることとなった。従ってー」
彼は田山(たやま)畑佐(はたさ)第二艦隊司令長官、周りからは畑佐長官と親しまれている。
現在天塩の整備も終わり、作戦の最終確認を行っている最中だ。
「ーだから艦上でガムは噛むなよ!解散!」
最後に脈絡の無い言葉で締められた気がするが、それよりも私は作戦への興奮で張り切っていた。
すると畑佐長官が話しかけてきた。
「お前は確か実戦はこれが初めてだよな。」
「訓練なら何回かありますが、ええ。実戦は初めてです。」
「まぁ俺や第一艦隊の艦長らなら小突き合いで威嚇(いかく)射撃くらいならやったことはあるが、ここにいるやつら皆同じくらいだからな!お前は訓練での成績が上位なんだから心配ないだろ!張り切るのも良いが力抜いて行けよ!」
畑佐長官に背中を叩かれる。
そうして畑佐長官は別の人の所に行ってしまった。
どうやら全員に同じようなことをしているようだ。
今に始まったことでもないが、やはり畑佐長官は身体付きはがっしりしていて、体育会系な考え方なのだから陸軍の方が向いていると思うのだ。
しかし畑佐長官は自ら海軍の道に進んだらしい。
変わった人だとつくづく私は思う。
 
出港から(しばら)く経った。
周辺の住人や、整備士らに盛大に見送られ港から出た。
あと一時間もしない内にざざむし島が見えるだろう。
周辺警戒をしていた第一、第三艦隊は補給のために帰港しに行ったそうだ。
我らの第二艦隊は、上陸していく陸軍が乗った揚陸艇を守る形で艦隊を組んでいる。
中心に揚陸艇、その周りに戦艦及び装甲巡洋艦、更にその周りを軽巡洋艦及び駆逐艦で取り囲む様に構成され、私たち駆逐隊は索敵も行っている。
作戦ではこのままざざむし島に着いたらまずは、艦砲射撃で固定兵器の一掃、その後上陸し、占領することになっている。
偵察機の情報によればどでかい固定砲台が一台あるらしい。
それが少し気がかりだが、ジグザグ航行を島が見えた頃からする手筈となっているので大した問題は無いだろう。
そんなことを考えながら船室で茶を飲んでいた時、船員が慌てた様子で扉を開け、焦った様子でこんなことを行った。
「南西方向より敵艦隊接近!既に気付かれていた模様です!」
茶を(こぼ)してしまった。

三話

三話 "ざざむし島沖海戦 前編"

「後続艦に電信急げ!それと敵艦隊の数と艦種の特定も急げ!」
マズい…これは非常に不味い…。
私は今焦っている。
今回畑佐長官はどうしても加われなかったため、私が臨時司令長官なのだ。
つまり今回の作戦は私が(かなめ)なのだ。
だが、気付いた時にはもう敵艦隊との交戦は避けられない距離になってしまっていた。
敵艦隊を避けるため回頭しても、その間に敵の射程に入ってしまう。
かといってそのまま進んでもT字戦となり、後ろには揚陸艇が多数続いている為そちらに攻撃がされる可能性が高い。
となれば陣形の前方にいる艦のみで反航戦を仕掛け、残りの後続艦は停止もしくは反転し射程圏外にいるくらいしか無いだろう。
しかし、問題は数的不利であることだ。
訓練でも数的不利での試合ならやったことはあるが、実戦と訓練は違う。
更に反航戦は交戦時間が交戦体型故に短く、そこで継戦能力を無くさなければ揚陸艇の方に向かわれてしまう。
戦艦…あるいは装甲巡洋艦にも加わってほしいが、どちらも速力が遅く万が一に備えて揚陸艇の護衛もしなければならない。
今すぐに加われるのは駆逐艦軽巡合わせて…5隻。
対して敵艦隊の数は…
「敵艦隊の数判明!駆逐艦4隻、軽巡洋艦3隻、重巡洋艦2隻、占めて9隻です!現在艦級の確認中です!」
9隻、しかも重巡が2隻だ。
かなり厳しい戦いになるだろうが、ここまできたらやるしか無い。
今回失敗すれば、ざざむし島の防衛体制は強化され、占領も困難になってしまうだろう。
「全艦に電信しろ!陣形前方の艦はこれより反航戦に向かい、後続艦と揚陸艇は距離をとって待機だ。」
 
敵艦隊はワムシ共和国のものだと分かった。
どうやらワムシ共和国のトビケラ国への援軍らしい。
更につい先程、本土から電報がありワムシ共和国が陽天国へ宣戦布告したそうだ。
そこで私はふとこんなことを思った。
ワムシ共和国とトビケラ国は遠く離れており、かなり長い航路を辿ってきたはずだ。
であれば、船員はかなり消耗(しょうもう)しているはずだ。
…勝機があるかもしれない。
どれだけその軍艦(ふね)が強かろうと、結局のところ、船員次第なのだ。
船員の調子が悪ければ、軍艦(ふね)も力を発揮できなくなる。
私は艦内放送の電源を入れ、話す。
「いいか皆。敵艦隊は9隻、対して今ある戦力は5隻だ。数だけ見れば確かに不利だ。だが、相手は長い船旅で疲弊(ひへい)している。こちらは健康そのもの。つまり!全員で力を合わせれば必ず勝てるのだ!必ずこの戦いに勝ち、上陸作戦を成功させるぞ!」
司令室にまで雄叫びが届く。

四話

四話 "ざざむし島沖海戦 中編"

敵艦隊が迫る。
相手の先頭艦は、ワムシ共和国のマルサヤ級重巡洋艦だ。
対するこちらは軽巡洋艦「雲山(うんざん)」。
更に言うと、数でも負けている。
どう考えても勝ちの目は見えないだろう。
しかし、相手は長い船旅で疲労が蓄積しているだろう。
その証拠に、相手艦隊の陣形の後方が乱れている。
恐らく後ろの駆逐艦で速度の調整を誤ったのだろう。
決して勝てない闘いではない。
そう自分に言い聞かせた。
 
「敵先頭艦マルサヤ級、間もなく射程範囲です。」
現在私は臨時司令長官として指揮を取っている。
味方艦隊の速度は最大速でと指示を出した。
狙いは二つある。
一つ目はできるだけ速く動き、被弾を減らすこと。
もう一つはできるだけ早く魚雷を流すためだ。
味方艦隊先頭の軽巡洋艦「雲山」と「雲伝(うんでん)」はどちらも魚雷を積んでいない。
軽巡洋艦と駆逐艦の砲火のみでは、とても2隻の重巡洋艦は沈められない。
なので砲火は軽巡洋艦以降に集中し、重巡洋艦は天塩を筆頭とした駆逐艦が魚雷を流し撃沈する算段である。
上手くいくことを祈るしか無いが、これが最善手のはずだ。
 
出だしは好調だ。
軽巡とは言え、雲山も雲伝も15.3cm三連装砲を搭載しているのだ。
この2隻による一斉射で相手の軽巡が早くも傾いている。
加えて相手は重巡が軽巡に無視されることは無いと思っていたのか、焦りで狙っている艦がバラバラになっている。
こちらとしては、艦へのダメージが分散され最小限に抑えられる、願ってもなかったことだ。
「魚雷発射準備完了しました。」
「よし。先頭のマルサヤ級から順に狙い、装填次第順次発射せよ。」
魚雷攻撃体制も整った。
我が陽天国は技術力に優れ、他国にはない酸素魚雷の開発に成功した。
酸素魚雷は通常の魚雷に比べ射程距離、炸薬量(さくやくりょう)が大きく優れ、雷跡が見えにくいという特徴もある。
開戦と同時に配備されたため、他国は知る(よし)もないのだ。
酸素魚雷が走る。
かなり注意して見なければ分からないほど雷跡は薄い。
そして…
ドオォォォン!! ドオォォン!!
二本の水柱が上がった。
「うおぉぉぉぉ!!!」
船員からも歓声が上がる。
「先頭マルサヤ級の船腹に二発命中!バイタルパートに命中していると思われます!」
ドオォォォン!!
更に、後ろの駆逐艦の魚雷が続けて当たる。
「同艦艦首に命中!…あ、衝撃で前部砲塔が一基もげてますね。」
「今だ!先頭マルサヤ級の前部砲塔を砲火だ!誘爆を狙え!」
「照準合わせー!…ッテーー!」
数秒後の弾着時に轟音が(とどろ)く。
ドゴオォォォォォン!!!
見れば艦首が吹っ飛んでいた。
そして爆発の衝撃ですぐさま転覆していく。
「やりました!マルサヤ級重巡洋艦撃沈!轟沈です!」
「魚雷攻撃の対象を次のマルサヤ級にし、次弾装填急げ!気を緩めるなよ!」
「はっ!次弾装填急げ!…あっ、敵艦隊後列のヒラタ級駆逐艦2隻が艦隊を離脱。逃げる模様です!」
「よし。その2隻は放っておけ!今は目の前に集中だ。」
期待以上に状況は好転している。
雲山らにも損害は少ない。
これは1隻も失わずに勝つことも可能かもしれない。

五話

五話 "ざざむし島沖海戦 後編"

「マルサヤ級二番艦、先程命中した魚雷一発の浸水を止めきれていない模様で、傾斜が拡大していきます!」
「引き続き魚雷を当て続けろ!」
ワムシ共和国は兵器の質が良いと聞いたことがあるが、どうやら使いこなす人員はいないらしい。
マルサヤ級は資料によれば脅威(きょうい)の21.9cm連装砲を搭載しているらしい。
これがまともに当たれば、駆逐艦はおろか軽巡さえも、一撃で瀕死(ひんし)かそれ以上だろう。
が、現在確認しているその砲での被害状況は先頭の雲山に至近弾4、艦尾にカス当たりのみだ。
ドオォォォン!!
「マルサヤ級二番艦に魚雷命中!……機関停止!沈んでいきます!撃沈!重巡を2隻とも撃沈しました!」
「やったぞ!この調子で全員沈めてやれ!」
私は今興奮しきっていた。
しかし、
「雷跡を確認!二番艦め!沈み際に流しやがったのか!?マズいぞ、雲山に命中する!」
私は一瞬意味が分からなかった。
資料にマルサヤ級の兵装が載っている。
しかし、魚雷なぞどこにも付いていないのだ。
「どういうことだ!マルサヤ級が魚雷を持っているなど聞いていないぞ!」
「ですが、雷跡は明らかにマルサヤ級から伸びてい…」
ドオォォン!
先頭の雲山に水柱が立っている。
「な…被害確認急げ!」
完全に油断した。
改修した可能性を考えず、手元の資料のみで判断してしまった。
今残っている敵艦は…ツボ級軽巡洋艦3隻、ハオリ級駆逐艦2隻。
もう魚雷は残り少ない。
天塩は使い切ってしまい、他の艦もほぼ同じだろう。
資料ではどちらも魚雷は搭載していないらしいが、果たして本当に搭載していないのか。
あと1時間もこの戦いを続けていれば、弾薬も尽きてしまう。
やはり勝つことは不可能なのか…?
そんなことばかりが頭をよぎる頃、
ドドドォォォン!
「う、うわっ…あっ!ツボ級軽巡一番艦、爆沈しました!?」
突然ツボ級軽巡が爆発した。
少し思考停止をしていると、
「ちょ、長官!戦艦「太高(だいこう)」より入電!…ワレ コレヨリ キカンラノ シエンニ ハイル。アンシン サレタシ。だそうです!先程の爆沈は太高の砲撃によるものだったんですね!」
「…!かなり助かるが、揚陸艇の護衛はどうしたんだ。」
「…えー……。戦艦1隻が抜けたところで問題無い。陣形の最後方に居たため時間がかかった。とのことです。」
「しかし、島からの空襲があればどうするんだ。そのために戦艦らを揚陸艇の側に固めさせたのだが…」
「いいですよ、よしましょう。実際一機も来てないんですし。」
 
その後は太高が無双した。
いや、先程までの私たちの苦労と激戦は何だったのか、敵艦の射程外から一方的に打ち続ける太高と為す術なく37.5cm砲を打ち続けられる敵艦たちを見ながらそう思った。
唯一の勝ち組は被害を受ける前に逃げ去ったヒラタ級駆逐艦2隻かと思ったが、どうやら回り込もうとしていたらしく、道中で揚陸艇を護衛していた艦らに滅多撃ちにされたらしい。
とりあえず、一段落してから上陸作戦をどうするか考えよう、と私は思い、茶を(すす)った。

六話

六話 "ざざむし島上陸作戦"

「サクセン ゾッコウ サレタシ……えっ…これだけ…?」
私は先程、ワムシ共和国艦隊の襲撃と返り討ちにしたこと、損害状況、ついでに艦載物の消耗具合から作戦の見直しの提案を本国に通信したのだが、なんと一文で返されてしまった。
そもそも、航空支援無しでこの上陸作戦は厳しいものがある。
ざざむし島まで偵察機が飛ばせるのなら、爆撃機の一小隊くらい飛ばして欲しいものだが、どうも陸軍が出した上陸作戦案に陸軍からの支援内容は載っていなかったらしい。
私は頭を抱えたい気分になりながら、全艦に連絡する。
「これより、予定通り上陸作戦を開始する。資料通り、戦艦でざざむし島の固定砲台、その他の対艦兵器を一掃、その後駆逐艦、軽巡洋艦の援護を挟みつつ揚陸艇を揚陸させ、ざざむし島を占領する。」
 
その後は、特に何事も起きずに事が運んだ。
先の海戦で逃げたと見られるハオリ級駆逐艦が半分座礁(ざしょう)しているような形で泊まっており、あたふたしている様子だった。
ずっと何故空襲が来ないのか疑問であったが、双眼鏡で島の様子を見て分かった。
恐らくは急いで工事をしたのだろう。
そのせいか、飛行場の滑走路には凹凸が遠くからでも分かるほどあり、滑走路の真ん中で一機の航空機が火を出していた。
なんだかここまで来ると、あちらに勝利の女神は微塵(みじん)微笑(ほほえ)んでいないような気さえする。
後は例の固定砲台に肝高(かんこう)が撃たれ、きれいに副砲が一台持っていかれたが、艦の損害はそれくらいだ。
ただ、地上戦はそれでも苦戦していた。
地面が悪すぎて、折角持ってきた戦車が役に立たなかったのだ。
相手にも戦車は無かったが、それでも砲撃からの死角となっている高所から撃たれ分が悪かったようだ。
何はともあれ、今回の戦いは色んなことが好転していた気がする。
ただ色々考えて神経を擦り減らしただけだったな…と思う。
ざざむし島占領も成功し、後日勲章授与式に呼び出されるのであった。

七話

七話 "海軍計画"

ざざむし島上陸作戦が成功し、海軍には目立った損害も無く大勝を収め、勲章授与式も終わった。
私は海軍少佐から中佐に昇進し、シラミ半島奇襲上陸作戦に参加している畑佐長官からもわざわざ電報で良くやった!!俺はお前が一発やると思っていたぞ!!と送られてきた。
天塩の他の船員からも祝福を受け、軽くお祭りムードの所で、軍令部での会議に呼ばれた。
 

軍令部
「えー、先ずは昇進おめでとう。榮吉中佐君。」
頂大臣から何とも言えない祝辞を貰った。
そして内閣総理大臣の北々(ほくぼく)正視(せいし)も続く。
「榮吉中佐。先日の上陸作戦、ご苦労だった。して、トビケラ国への陸軍護送、ざざむし島への工事機及び航空機輸送への必要艦艇を司令長官代理である君の第二艦隊から出してもらいたい。」
「ええ。構いませんが…第二艦隊は現在シラミ半島奇襲上陸作戦に主要艦艇の大半を割いているので、他の作戦は行えないことにご留意ください。」
実際、第二艦隊の艦艇に余裕はない。
陸軍が5日で陥落させると意気込んで決行したシラミ半島奇襲上陸作戦も、開始から一週間は経っているが、殆ど進展は無いという。
海から離れた場所に要塞があり、そこの攻略に手間取っているという噂が私にまで聞こえてくる。
そんなことを考えていると、頂大臣が正視総理に話を持ちかける。
「なぁ北々。その上陸作戦ってまだ軍艦要るのか?湾岸はもう占領したんだろ?航空戦力が必要なら空母と護衛艦を残せば良い。正直第一艦隊からも哨戒するくらいで精一杯だと言われてるぞ。」
「少なくとも今回のトビケラ国の件で、石油の目星がついたんだ。そんなに焦らなくてもいいぞ、天津掛。それに、ここでカイチュー国を潰せばセンチュー国への進軍が格段に楽になる。そのためには隙を見せられないんだ。」
「そのしわ寄せで本土の海が隙だらけなんだけどな。」
「まあ一応半分はいつでも本土に戻れる準備をしているし、心配は無いと思うがな。」
お二人は友人なのだろうか。
正視総理がここまで砕けているのは見たことがない。
「おっと、あーもう帰っていいよ。また後日色々話すから。」
「分かりました。大臣はどうされますか?恐らく迎えの車がありますが…」
「あぁいいよ。もう少し二人で話してるから。」
 
そして後日より、トビケラ国近辺の制海権の確保に赴くのであった。

八話

八話 "トビケラ国近海海戦 前編"

現在私は天塩の上で夜風に当たっている。
追加の陸軍共が乗った揚陸艇を護衛するため、天塩含む4隻の護衛艦で航行中だ。
既にトビケラ国の軍艦は壊滅状態にあり、この護衛任務も何回もやっているが、もう駆逐艦1隻すら見かけない。
更にトビケラ国本土ではもう首都まで陸軍が猛攻しているのだとか。
この調子であればトビケラは半月も持たないな…と考えていると、話しかけられた。
「あっ、長官。ここにいたんですね。」
どうやら私を探していたようだ。
「少し夜風に当たりたくてな。何かあったのか?」
「先程太托(だいたく)より入電がありまして、同艦の偵察機が艦隊の影が見えた気がする、と。」
「艦隊?それが我らでなければトビケラ国の艦隊ということになるが…。位置はどこだ?」
「あくまで確定情報ではありませんが、本艦隊の真横に約50kmかと。」
「…分かった。すぐに司令室に戻る。何か新しい情報が来たら(ただ)ちに知らせるように。」
その後艦隊には少し緊張した空気が張った。
 
暫く経ち、
「長官。太托より新しく入電。……敵艦隊発見、駆逐艦2、軽巡洋艦1、重巡洋艦2、航空母艦1…!?」
「んな…っ。」
どうせなけなしの戦力をぶつけてくるのだろうと思っていたが、航空母艦は予想外だ。
一体今の今まで航空母艦をどこに置いていたのか。
トビケラ国に航空母艦があるという話を聞いたことがない。
「太托の偵察機は発動機不良により帰投するようですが…。」
「……太托はどんな艦載機があるか分かるか。」
「えー…少し待ってくださいね。…………太托は偵察機を積んでいないと書いてあるので多分今飛んでいるのは観測機でしょう。後は戦闘機が2機ほど。」
「ならその観測機の帰投が完了次第、戦闘機の発艦準備をさせておけ。」
「了解。」
これは困った…。
敵艦隊に発見されるのも時間の問題だろう。
更に編成を見る限り機動隊なので、今逃げたとしてももう遅い。
無理に逃げても太托と揚陸艇を置いていくこととなる。
しかし、航空母艦が相手にいる限り、善戦どころか苦戦を強いられる可能性が高い。
私は何とか策を練ろうと夜風に当たって()めた頭で考えるのだった。

九話

九話 "トビケラ国近海海戦 中編"

「ワレ 空母含厶敵艦隊 ハッケン…」
現在急いで本土に敵艦隊の事を打電しているが、どうにも返信が来ない。
「長官。太托より入電、観測機が敵空母の航空機発艦を確認したと。」
「分かった。では……?何故発艦を観測できた?観測機は帰投中じゃないのか?」
「さぁ…。太托はいつでも戦闘機を発艦できると。」
「……そうか…。では戦闘機2機とも出すように言ってくれ。」
「了解。」
ある程度察せるが、今は観測機には触れないで置くことにした。
 
「太托戦闘機、会敵します。」
「よし、総艦対空戦闘ヨーイ!」
太托が積んでいる戦闘機は新型であり、機動性や攻撃力が大幅に改善されたと聞く。
かなりの戦果を挙げるだろうが、やはり全て(さば)くのは無理があるのですり抜けてくる航空機は必ず居る。
まずはそれらを全て撃墜し、その後太托を先頭とした突撃陣で砲雷撃戦を狙うという計画だ。
太托自体も最新の戦艦であるため、ちょっとやそっとの攻撃では被害は少ないだろう。
「9時の方向!敵機来襲!敵機来襲!」
そうこう考えていると、早速敵航空機のお目見えだ。
射程が長い高角砲はもう撃ち方を始めている。
しかし、こうなると不安がある。
天塩と太托は、新型艦であるため対空兵器が比較的充実しているが、竹酢(たけず)竹良(たけら)は改装したとはいえ、対空兵器はそれほど充実していない。
しかも揚陸艇に乗っている陸軍の馬鹿共が、備え付けの重機関銃を当たる訳もないのに祭りのように撃っている。
それはともかく、もうすぐ機関銃の射程にも入る。
そこで墜とさねば、揚陸艇が爆撃をもらってしまう。
揚陸艇に何かがあれば七面倒臭いことになるのは確実なため避けなければならない。
そう思いながら、迫ってくる敵機を見ているのであった。

十話

十話 "トビケラ国近海海戦 後編 乙"

「長官!対空砲火により敵機を数機撃墜していますが、依然(いぜん)敵中隊は健在です。」
「ああ…見れば分かる。」
やはり、天塩といえど所詮は駆逐艦、対空砲火の程度はたかが知れている。
主となる対空火力が太托1隻のみでは、やはり効果が薄い。
そう苦戦していると、
「敵中隊が最終爆撃針路に入るぞー!!狙いは揚陸艇だ!!撃ち落とせー!!」
(つい)に艦隊至近までの接近を許してしまった。
しかし私は、この見聞を工廠(こうしょう)か上層部に持っていけば良い装備を付けてもらえるのだろうか…としょうもないことを考えている。
実際、攻撃でも防御でも、この立場だと艦橋の司令室で現状を眺めて聞いていることくらいしかやることがないし。
バシャーン!
どうやら敵機の爆弾が投下され始めたようだ。
と言っても、遠弾なので命中弾が出るまでには凌ぎきれそうだが。
そして敵機を見ていると、分かってくることがある。
トビケラ国が空母を持っていたことに既に驚きだが、機数が少ない。
現在はざっと十数機ではあるが、先の戦闘機で撃墜された機数を多く見積もり十としても、せいぜい二、三十機程度なのだ。
もし急いで攻撃してきたとしても、その場合は三十機も態々(わざわざ)発艦させずとも五機程度で小隊を組み波状攻撃で十分な効果があるはずだ。
そして味方戦闘機の被撃墜や損傷の報が無いところを見るに、直掩機すら付けていなかった可能性がある。
すると、敵空母の搭載機数は三十程度のちんちくりんになる。
そして肝心な爆撃機の練度も皆無に等しい感じがする。
私は航空機については露ほども知らないので分からないが、少なくとも下手なのだという事だけはよく分かる。
侵入経路的にも水平爆撃をしようとしているのだろうが、大体の機が機首が若干上がっていたり、あるいは機体が少し横に倒れていたりと水平ですらない。
となると、トビケラ国国内では十分な訓練が積めないほど逼迫しているということだ。
トビケラ国自体は現在陸軍の管轄のため、情報は何も入ってこないのだが、この状況を見るにトビケラ国陥落も最早(もはや)時間の問題なのだろう。
ふと空を見てみると、対空砲火が止んでいる。
どうやら中隊を撃破したらしい。
「報告します!敵爆撃機二十二機からなる中隊を撃破しました。確認された撃墜機数は十八機です。なお、我が艦隊への損害はありません。」
「ご苦労。しかし最近の敵海軍の動向を見る限り、こちらに転針し砲雷撃戦を挑みに来るだろう。小休憩の後、迎撃の体制を取るぞ。」
「はっ。了解しました。」
 
あれから、予想通り転針してきた敵艦隊と会的寸前となっている。
つい先程、先手として電探を頼りに魚雷を天塩、竹酢、竹良で一斉射しておいた。
上手く当たってくれることを祈っていると、敵艦隊の影が徐々に見え始めた。
艦隊に緊張が走る。

十一話

十一話 "トビケラ国近海海戦 後編 甲"

「敵艦隊、間もなく見えます。」
敵艦隊は針路そのままで向かってきている。
既に主砲斉射の用意は整っており、魚雷の命中時刻になり次第撃つ予定だ。
そして、その時刻も刻一刻と近づいている。
「魚雷、間もなく命中予定時刻です。」
「ああ、時刻になり次第砲撃開始だ。」
時間が経つにつれ、艦隊に緊張が張り詰めてゆく。
そして…
ドオォォォォォン……ドオォォォン…
「魚雷2本命中!2本命中!」
「よし、撃ち方を始めろ!」
 
砲戦に入ってから暫く経った。
先程の魚雷は、敵艦隊の先頭を走っていた重巡洋艦に2本とも当たり沈黙、機関も停止していると思われ、放っておいても撃沈確実だろう。
現在はもう1隻の重巡洋艦に火力を集中しており、艦橋から大規模な火災が起こっているのも相まってもうすぐ沈黙することは明白だ。
そんな時…
ゴオォォォォン!
突然、艦隊前方から爆音が聞こえた。
「何事だ…!?」
見れば、太托の前部から爆煙が立ち昇っている。
「っ…太托に被害報告を急がせろ!」
恐らくは弾薬庫が誘爆したのだろう。
敵重巡洋艦も時々誘爆と見られる爆発が起こっているが、それの比ではない。
「太托より入電!第一主砲塔の弾薬庫が誘爆、及び第二主砲塔の機能停止、艦首の大破により浸水、現在は浸水を食い止めているようです。」
よりによってここで(かなめ)の太托が大きく損傷してしまった。
こうなってしまった以上、太托を継戦させるのは無理だろう。
「太托に入電しろ。直ちに機関を停止、被害を食い止めることに注力せよ、と。」
かなり危なくはあるが、もしここで太托を失ってしまえば陽天国としては結構な痛手となると同時に、海軍力の乏しいトビケラ国に我が国の戦艦を撃沈されたという恥が生まれてしまう。
なにより、戦略的にも戦艦は重要だ。
「敵重巡洋艦に集中砲火、そして魚雷の装填を急がせろ。これより最大船速で進みつつ、回避運動を行う。後続艦も距離を置きつつ最大船速で回避運動だ。」
「了解。すぐに指示します。」
 
敵重巡洋艦の真横を通過する。
本来であれば、駆逐艦が重巡洋艦と至近にあれば、駆逐艦にとってかなり致命的な状況に違いはないが、敵重巡洋艦は至る所で出火、主砲はおろか副砲まで沈黙しているため、実質的には浮いた鉄塊である。
「魚雷の装填、完了しました。」
「よし、これより全速力で回頭する。その途中に軽巡洋艦と駆逐艦を狙い、魚雷を流せ。」
「重巡洋艦には流さないんですか?」
「あれは放っておいてもじきに沈む。それよりも、後続している敵艦を仕留めることが最優先だ。」
「了解です。」
取り舵をとり、天塩の船体が左に傾く。
魚雷が次々と投下されていく。
このまま直進していけば、敵軽巡洋艦や駆逐艦に魚雷を流され、集中砲火を食らうことは目に見えている。
敵も思うように上手く行かずに頭を抱えているだろう。
しかし、事が上手く運んでいないのはこちらも同じだった。
「て、敵重巡からの砲撃来ます!」
「は……」
ドォォォォン!
どういうことだ?
敵重巡洋艦は鎮火不可能な火災が起きていたはずだ。
なんとか壁にもたれながらも立ち上がり敵重巡洋艦の方を見ると、3番砲塔がこちらを向いていた。
つい先程まで、明後日の方向を向いていたのだが復旧できたのだろうか?
とにかく被害確認が最優先だ。
「被害状況を確認しろ!」
「まだはっきりとした情報は来てませんが…艦尾に被弾、恐らく舵が壊れているかと…。」
そう言われ艦尾を見てみると、艦尾が吹っ飛び、惨状が広がっていた。
確かに舵に影響は少なからずあるだろうが、人的被害もかなりありそうだ。
「操舵装置は壊れたと断定していいだろう。今すぐに機関を停止させ、後続艦に、操舵不能につき機関停止すると知らせろ。」
しかし、次の敵重巡洋艦の砲撃がいつ来るかも分からない。
苦し紛れの一撃なのか、沈むまでの悪あがきなのか。
もうある程度曲がってしまっているので、天塩の前部砲塔は射角が足りず、後部砲塔は…旋回しない所をみるに、機能停止している。
つまり天塩からの反撃は不可能だ。
場合によっては、総員退艦も視野に入れなければならない。
そんな中、同じく機関を停止していた太托から砲撃が飛んでくる。
ドオオオォォォォン!!
「!?てっ敵重巡洋艦、いきなり大爆発を起こしました!」
「太托からの砲撃だ。なんとか助かったな…。」
太托からの支援砲撃のお陰でからくも助かりそうだ。
爆発し、今にも沈み始めそうな敵重巡洋艦を横目に、後続の竹酢が天塩の前を曲がっていく。
 
それからは消化試合だった。
太托の後部砲塔は生きているので、後方からの戦艦の砲撃支援に合わせて、先程放った魚雷、続けて竹酢、竹良が放った魚雷により、敵軽巡洋艦、駆逐艦はあえなく撃沈、例の重巡洋艦もその後砲を撃ってくることもなく、沈没した。
こちらは天塩が航行不能、中破2隻と手痛いが、重巡洋艦2隻と戦い被撃沈0なことを加味すれば大勝であろう。
敵空母には逃げられてしまったが、まあトビケラ国陥落と同時に手に入ると思えば逃がしておいても問題ないだろう。
と言っても、追える状況にも無いが。
陸軍どもを竹酢、竹良で送り出した後、帰港するのであった。


*1 第三位
*2 海人という臨海部に住む人は貧相でみすぼらしいという言い伝えによる
*3 社会主義に属する人間は何も考えずにただ生きるだけの虫畜生と同義だという意味。
*4 陸軍の戦闘やその他色々