天王洲 なずな／試練の三送会編

　イロドリミドリのリズムギター担当。
　ふわっとした雰囲気やおっとりした性格でメンバーみんなを包み込む、バンドの優しいお母さん！
　おうちは代々木に工房を構えるギタークラフトで、家業から培ったものづくり趣味はバンドでも作詞・衣装・創作落語と幅広く発揮されている。
　愛用のオリジナルうさギターはなんと自作の一本。

　体はあまり丈夫ではないが文芸に明るいところを見込まれ、バンドの作詞では中心的な役割を担う。
　創作に対するひたむきな態度はメンバー随一だが豊かな感受性は他者にも向けられ、バンド結成の際に人見知りしがちな凪を気にかけたり、白奈の考えに共感してコラボ共演を提案するなど、後輩に対しては特に目をかけている節がある。

　イベント事の大好きな舞ヶ原だが、避けられない後期中間テストの終わりと共にやってくる短い冬休みが明けると、３年生とのお別れも迫る。
　１・２年生にとってはそうでもないが、３年生にとっては入試への追い込みや卒業公演、それぞれの進路へ向けた最後の準備など、何かと忙しい時期である。

　３年生時のこの時期は受験勉強の準備のため、登校する日数は少なく、授業も希望者向けに開かれる入試向けの特別講義以外にはほとんどない。
　２月中ごろの卒業公演が最終登校日となり、以降卒業式までの時間をそれぞれ過ごすことになる。
　実質的に在校生が卒業生と学校で会うことのできる時間は、もう残り僅かというわけだ。
　
　一方の那知は一月の末頃まで補習への参加を余儀なくされているのだが、こういうタイプの生徒はやはり毎年僅かながらおり、補習授業へ参加しているそう。
　那知の腕なら卒業公演の心配（準備さえしていれば）はないところだし、なんとかしてほしいところ。

　まさか那知先輩、勉強が苦手だったとは…
　なんて、「単位をゲット～」ってやってる私たちが言えることじゃないんですけどね、でもちょっと驚いちゃいました。
　あ、苦手というよりは嫌い、って言うんでしょうか？

　成り行きとはいえ、先生役をすることになっちゃった凪ちゃん、今日もしっかり予習して授業（をする方）に望んだみたいなんですけど、凪ちゃんにばっかり色々お願いしちゃってて、ちょっと申し訳ない気持ちもしてます。
　とはいえ私も勉強はどうしても苦手で…
　何か力になれればと思って、この間から雰囲気の出る先生衣装なんかを持ってきたんですけども…
　…よくよく考えれば衣装より、おにぎりを握ってくるとか、もうちょっと直接的なことの方がいいですよね。
　そうだ、今日は凪ちゃんにどんなおにぎりの具が好きか聞いてみようかな？
　用意できる具だったら嬉しいな♪
　凪ちゃん、先輩、明日はおにぎり、差し入れします！

　あーりんがね、すごくいいお茶をくれたんです！
　なずな、那知先輩のとこ行くよね？って言って。
　先輩ってすご～く凝り性みたいで、お茶の味とかも結構わかっちゃうんです。妹の白奈ちゃんも凝り性だし、そういうとこ、姉妹だなーって思います。
　うちはみんな性格バラバラだから、なんだか羨ましいな～、ってくらい。
　それで、変なものは持っていけないなぁ、って思っていたんだけど…素敵なお土産、できちゃいましたね。
　ありがと、あーりん♪

　なるちゃんとも少しお話したけど…なるちゃんはなるちゃんでなるちゃんらしい、っていうか。
　…あんまりはっきりとは言わないけど、芹菜ちゃんのことも庇ってたんじゃないかな、って思ってます。
　いとこ同士だし…友達思いだもんね、なるちゃん。

　私は先輩にこのお茶、持って行きますね。
　美味しいお茶って、心がほぐれるような気持ちになるでしょ？

　…なんと那知先輩に、すっごく美味しいどら焼きのお店！　教えてもらっちゃいました。
　学校の近くじゃないからすぐは買いには行けないみたいなんだけど、「わしが生涯で最も愛したどら焼き」っていうくらいだし、よっぽど好きなんだと思います。
　やっぱり凝り性…グルメ？ですよね、那知先輩。

　先輩、態度も言葉もちょっとあまのじゃくなところがあって、なかなか伝わらないけど…きっと私たちとの演奏、楽しんでくれたんだと思うんです。
　人一倍好奇心が強くて、だから冒険してるうちに道に迷って…疲れて閉じちゃっていた先輩の心を、ちょっと強引にだけど、こじ開けた、っていうか。
　実はそれ、芹菜ちゃんの得意技なんですけどね。

　このバンド自体が、那知先輩の好きなものでできてるって…多分、先輩は気付いてると思います。イロドリミドリは、みんなの「楽しい」でできてるから。
　言葉だけはかみ合わなかったけど、もう大丈夫。
　私たちも、お姉ちゃんと一緒に演奏、したいですよ。