天王洲 なずな／卒業編

　イロドリミドリのリズムギター担当。
　ほんわかした雰囲気と穏やかな人柄でいつもみんなを癒してくれる、バンドメンバーみんなのお母さん！

　おっとりしていて活発なイメージではないけれど、オリジナル曲で手がける作詞の他、家業でもあるギタークラフトなどのものづくりから漫才・ラップに至るまで、想像力を働かせることはなんでも得意。
　そんな性格は人付き合いにも現れ、細やかに相手の気持ちを慮る人柄は、凝り固まった気持ちも優しく解きほぐし、相手の本音を引き出すことも。
　ティータイムの主役であるお茶のチョイスも抜け目ない、話し上手な先輩。

　それまではおとなしい性格で、人前に立つことも苦手だったなずな。
　そんな彼女がクラスで仲のいい芹菜に誘われ、１年生の凪と共にバンドへ合流したのは、２年生の秋のこと。
　初めこそステージ前の緊張と戦うのにいっぱいいっぱいだったなずなは、出演を重ねるごとに少しずつ成長。
　引っ込み思案も次第に克服し、今では自ら誘った凪を始め、先輩後輩となく信頼を集める存在になった。
　不安やわだかまりを優しく溶かして洗い流す、バンドにとってなくてはならない「お母さん」だ。

　そんな彼女もそろそろ受験の時期。
　舞ヶ原の音大を志望する彼女には受験という関門があり、他の多くの３年生と同じくこの冬は大変な時期なのだが、彼女にはもう一つ気がかりなことがあった。
　それは結成時に自分が紹介してバンドに入ってもらった一番の後輩、凪のこと。
　自分たちの卒業後の活動について話すことなくここまできてしまったことに責任を感じつつ、その時は確実に近づいている。

　夜、なるちゃんからお電話。
　私は寝る前で、ちょっとボケっとしてたんだけど、なるちゃんが珍しくテンション低い…というより、真剣な声だったので、しばらくお話をしてました。
　凪ちゃんのことで。

　あーりんからは、少しだけ聞いたんだよね。
　「行かないでください」って言われて…って。
　でも、その後のことは詳しくは知らなかったから、ちょっとびっくりしちゃって。
　なるちゃんもなるちゃんで、大声出させちゃったの、気にしてるみたいで。
　自分の代わりにお手紙を届けて欲しいっていう話だったので、明日朝から予備校の関係で出かけるついでに、なるちゃんからそれを受け取って、その後渡しに行ってみるつもりです。

　何事もなければいいんだけど…
　何事もなければ、部室にも出てこれるはずだし。
　とにかく、明日。

　凪ちゃんのおうちに、お手紙を届けに。
　うまく連絡がつかなくて、結局突然お邪魔するような形になっちゃったけど…
　かわいいお目々がちょっと腫れぼったい感じ、だったのかな。
　それでもちゃんと顔を見てお話できて、嬉しかった。

　私たち３年生、なんだかみんな自分たちのことでいっぱいいっぱいになっちゃってて…

　凪ちゃんがどんな不安を抱えてたかなんて、全然思いもつかなかったんだよね。
　同じクラスで近い分、なるちゃんにはそれが伝わったみたいだったけど…
　それより、私たちからこの先のこと、もっとちゃんと話しておくべきだったんだと思う。
　もちろん、凪ちゃんとイロドリミドリをほっぽり出してしまうつもりもないし。
　出来る限り、一緒に音楽やりたい、とも思ってるよ。
　ごめんね、凪ちゃん。
　これからも、よろしく。

　もう学校で会える時間はほとんど残ってないけど…
　２年生のみんなは、あの頃から比べても、やっぱり少しずつ変わってきてるんだな、って思う。
　白奈ちゃんは、なんだか１年生のみんなから、すごく頼られてるみたいに見えるね。
　いつもニコニコして柔らかい雰囲気だし、話しやすいお姉ちゃん、ていう感じなのかな？
　なるちゃんは普段は相変わらずだけど、メンバーとか、友達とか、後輩ちゃんのことで悩んだり怒ったりしてることが多かった、ような気がする。
　実は頼れる姉御タイプ、なのかも。

　凪ちゃんは、一番変わったような気がする。
　初めてみんなと会った時は、私の陰に隠れて色々と警戒するような、人見知りなところもあったけど。
　バンドを続けるうちに仲良しの友達も後輩もできて、笑ってる顔もたくさん見られるようになったし。

　…みんなと一緒に、そろそろ一年半、くらい。
　もっともっと、色んな景色、見ていきたいよね。