ヴォイド

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:33:59

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通常偽りの指導者
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Illustrator:おぐち


名前ヴォイド
年齢容姿年齢24歳前後(製造後10年)
職業強硬派指導層
  • 2022年8月3日追加
  • SUN ep.Vマップ2(進行度1/SUN時点で205マス/累計310マス)課題曲「Superbia」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「偽りの指導者 ヴォイド」へと名前とグラフィックが変化する。

真人・強硬派の指導者にして宰相。
狂信的なまでに、母たるバテシバを崇拝する。
全ては、彼女の願う世界のために。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ジャッジメント【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


ジャッジメント【SUN】 [JUDGE]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。オーバージャッジ【SUN】と比べて、上昇率-20%の代わりにMISS許容+10回となっている。
  • 初期値からゲージ7本が可能。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
MISS判定20回で強制終了
GRADE上昇率
▼ゲージ7本可能(190%)
1210.00%
2210.30%
3210.60%
▼ゲージ8本可能(220%)
35220.20%
68230.10%
101239.90%
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102240.10%
152250.10%
200~259.70%
推定データ
n
(1~100)
209.70%
+(n x 0.30%)
シード+10.30%
シード+51.50%
n
(101~200)
219.70%
+(n x 0.20%)
シード+1+0.20%
シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2023/2/9時点
SUN15171253.90% (8本)
~NEW+0271259.70% (8本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*2
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅰ5
    (105マス)
    375マス
    (-40マス)
    チキ&ウリシュ
    ep.Ⅲ1
    (105マス)
    105マス
    (ー)
    エリシャ・ムルシア
    SUN+ep.Ⅳ5
    (455マス)
    1650マス
    (ー)
    エステル・ヤグルーシュ※1 ※2
    ※1:初期状態ではロックされている。
    ※2:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 世界の中心は「クソァッ! どいつもこいつも私の邪魔をする! 母上は、私だけのものだ!」


 雨のように降り注ぐ砲撃が、船へ、都市へと容赦なく叩きつけられる。
 機械種によって破棄された青き都市サマラカンダの上空、制空権をかけて繰り広げられる両陣営の戦いは、佳境に差し掛かろうとしていた。

 「障壁、もう持ちません! これ以上は……!」
 「ヴォイド様! この空域から離脱を――うわッ!」

 男の言葉を遮って、船内に突き上げるような振動が走る。モニターには被害状況を報せる警告が次々と点灯していく。
 堅牢なヴォイドの旗艦に損害を与えるほどの攻撃は、都市に備えられた大型の砲塔バルディエルによるものだった。
 単体でも十分な威力を発揮するというのに、ソレは都市の城壁に複数そびえている。

 「ええい、忌々しいッ!」

 砲塔の大部分は、旗艦から出撃した機動兵器ドヴェルグによって破壊された。
 しかしドヴェルグは戦闘中に突如暴走。
 そのまま地上にいた帰還種を追い、戦場から姿を消したのだ。
 想定外の事態にまで思慮を巡らせられなかったのが、この戦況を生み出した要因のひとつ。
 ヴォイドが普段通りであれば、戦場を俯瞰しながら駒と駒をぶつけ合わせるだけのゲームとして捉えられていただろう。
 だが、そうはならなかった。
 彼には、冷静でいられない理由があるからだ。

 「母上に関わる何かが、あの中にある! それを裏でコソコソとやっていたカイナンごときに、暴かれてなるものかッ!」

 自身が座る艦長席のサイドボードを強く叩き、怒りのままに強く叫ぶ。

 「母上の寵愛は私だけのものだ! そのすべては、当然正統なる後継者である、このヴォイドのみ知り得るべき事!」

 その眼に映るのは、もはや目の前の戦場ではなく、聖女バテシバの影だけ。
 ヴォイドの世界の中心は、常にバテシバだ。
 それゆえに、母に至る道を妨害する、ありとあらゆるものを排除するために、今取るべき決断を下した。

 「全軍、直ちにあの城塞に――」
 「ヴォイド様! あちらの船から再度通信が!」
 「アァ!? ……つなげッ!」

 回線をオンにした瞬間、ヴォイドは開口一番に居丈高に叫んだ。

 「今更命乞いをしても無駄だぞ、ロトッ!!」
 『あれあれ? なんでそっちが優勢だと思ってるわけ? 降伏するのはヴォイドの方じゃん?』

 この期に及んでも、ロトの人を食ったような笑みは変わらない。
 ヴォイドの上から目線な態度が、それに拍車をかけているのは紛れもない事実だった。

 「黙れ裏切者! 茶番はもう終わりだ!」
 『え~、何それ?』
 「お前はいつもそうだ。何でも煙に巻き、私を謀(たばか)ろうとする!」
 『あは、根に持ってるね~。俺様には何の事だかサッパリわからないよ』

 ロトはこれ見よがしに、腕輪を打ち鳴らす。
 積もりに積もっているのか、せき止められていたヴォイドの怒りは、なおも収まる気配がない。

 「その腕輪は返してもらうぞ! 貴様を殺したあとでなぁッ!!」

 すっかりロトの術中にハマっているのも気付かず、ヴォイドは恨みつらみをぶちまけるのだった。


EPISODE2 似て非なるふたり「私は指導者となるべく生まれたのだ、私とあやつとでは、責任の重さも背負っているものも違う」


 ヴォイドが初めてロトと対面したのは、彼が上げた功績を讃えるためにヘライアへと招き入れたのがきっかけだった。
 その際にロトの経歴を調べた結果、彼もセロの研究の副産物である事が分かったのだ。
 強硬派前指導者セロ・ダーウィーズ。
 彼はバテシバの忠臣であり、同じ志を持つ腹心たちとともに、様々な研究を取り仕切っていた。
 その中でも、バテシバやソロの細胞を利用した真人の製造は、セロがとりわけ力を入れていた領域である。

 現在の強硬派指導層に属するヴォイドやレアも、彼の研究の産物だった。研究はオリンピアスコロニー以外の場所でも行われていたため、ヴォイドの目の前に立つ男――ロト・トゥエルヴが、自分と縁のある者であってもなんら不思議ではない。

 「ふむ……」

 ロトの検体データや戦闘報告書に目を通す。
 報告書には、戦闘時に空撮されたと思われる画像が混ざっているが、ロトはそのいずれに対してもカメラへ目掛けて笑顔で手を振っていた。
 得体の知れなさを感じつつ、ヴォイドは執務室の中央に立つロトへと命令する。

 「検体データを見た時は目を疑ったが……存外に悪くない戦果だ。貴様は、私の手足となって動け」

 ヴォイドは正式な部隊とは別に自分の意のままに動く優秀な私兵を欲していた。
 強権的な振る舞いで強硬派を取りまとめるヴォイドにとって、異を唱える者は足枷でしかない。
 そんな彼らの口を秘密裏に封じる特殊部隊の候補として、ロトはうってつけの人材だったのだ。
 正規軍ではできない裏仕事を任せるという事は、自身の暗部を共有するに等しい。
 それは、裏を返せばいつでも自分を失脚させる事ができるという事になるが、その点においてはロトは絶対に裏切らないと確信がもてる。

 ふたりの母であるバテシバへの狂信的な思想。
 これこそが、絶対条件なのだ。
 だが、そんなヴォイドの思惑とは裏腹に、ロトの返事はひどく素っ気ないものだった。

 「ん~、縛られるのってメンドくない?」
 「――は?」

 悪びれもせず、にへらと笑うロト。
 ヴォイドが宰相の座について以降、そんな生意気な口を利いた者は、誰一人としていなかった。

 「あは、気の抜けた事言っちゃって!」
 「き、貴様……っ!」

 思わず椅子から立ち上がってしまったせいで、ロトは水を得た魚のように笑う。

 「ねえねえ、次は不敬だぞ! とか言っちゃう?」
 「ふっ――ざけるな! ええい、その薄ら笑いを止めろ! 私はお前が仕えるべき主であり、強硬派の頂点だぞ! 極刑にされたいのか!?」
 「別にいいよ? 極刑でも」
 「何?」
 「でも痛いのはちょっとヤダかな~」

 小首を傾げて笑う男に、さしものヴォイドも空いた口が塞がらない。
 ロトの振る舞いは、まるで頭上を飛び回る羽虫のソレだった。

 ――こやつは、狂っている。
 恐らくは、生まれた時から。

 ただ自分が楽しければそれでいい。そのためなら自分の命すら簡単に駆け引きのテーブルに乗せられる。
 ほんの少しのやり取りでそう思えてしまうほど、ロト・トゥエルヴという男は異常だった。

 実は、そもそも会話が成立していないのでは。そんな考えがふと頭を過ぎったその時、ロトは右目を覆う眼帯を指でトントンとやさしく叩き、あっけらかんと言う。

 「その部隊、やってもいいよ♪ もちろん、隊長は俺だから!」
 「……どういう風の吹き回しだ」

 会話が右に左に動き回るせいで、ヴォイドはひどく疲労感に苛まれていた。

 「母さんが笑ってくれると思ってね♪」
 「お前は、何を言っている。母上はもう――」
 「え、ヴォイドは違うの? 母さんの声、聞こえるでしょ? ヴォイドの世界に母さんはいないの?」

 呼び捨てにされている事など気にもせず、ヴォイドは鼻息荒く返す。

 「母上は私のすべてだ! 機械種と帰還種を滅ぼし、母上が果たせなかった大願を成しとげるために、私があるのだ!」
 「オッケーオッケー。じゃ、俺様が手伝ってあげる」

 ロトの瞳が、きゅっと弧を描く。
 わずかに見えるその瞳は、ヴォイドを見ているようでここではない何処かへと向けられているようであった。

 「ねえ。ヴォイドのお願いを叶えてあげたんだからさー、俺のお願いも聞いてくれる?」
 「なんでも言うといい。最新の武装なら好きなだけくれてやる」
 「ん~、それも欲しいけど。俺様が欲しいのは、そっちかな♪」

 ロトが指さしたのは、ヴォイドが大切に飾っている母の遺品だった。

 「き、貴様ッ! これは私の――」
 「母さんの、でしょ?」

 まるで、首元に鋭利な刃物をあてがわれたような冷たさ。
 ロトの言葉には、有無を言わさぬ迫力があった。

 「……いいだろう」
 「あは、話が通じる人で良かったよ♪」

 軽快に口笛をふき鳴らし、ロトはヴォイドからもらったバテシバの遺品を右腕にはめる。

 「じゃ、用ができたらいつでも言ってね♪」

 大切な“たからもの”をもらった子供のように、ロトは上機嫌で部屋を出て行った。

 「フン……」

 ロトは、母を笑顔にさせるため。
 ヴォイドは、母の願いを叶えるため。
 同じ母でつながった、似て非なるふたり。
 母のために動くふたりの関係に亀裂が入るのもまた母であるとは、この時のヴォイドは知る由もなかった。


EPISODE3 戦局を変える一手「そこをどけ、ロト! お前の遊びに構ってる場合ではないのだ!」


 「それをくれてやったと言うのに、すべて嘘だったとはな!」
 「え~、そうだったっけ?」
 「このっ……どこまでも舐めた口を……ッ!」

 緊迫した戦いの中で、場違いなやり取りが続く。
 だがそうしてる間にも、戦況は刻一刻と変化する。自軍を示すマーカーは徐々にその数を減らし、未だ軽微とはいえ、旗艦へのダメージも積み重なり続ければいずれ墜落の憂き目にあうだろう。
 早々に進退を決めなければ、墜落は時間の問題だ。

 「ヴォイド! いつまでその男にかかずらっているつもりだ。奴はただ時間を稼いでいるだけだ!」
 「あは、バレちゃった?」
 「ロト、貴様――」

 ロトとの通信を無理矢理切り上げたのはサルゴンだった。

 「いい加減にしろヴォイド。指揮官が戦場で無能を晒せば、無駄死にする兵士を増やすだけだ」
 「そ、それぐらい分かっている!」
 「問答は無用だ。指揮するつもりがないのなら、あの男と痴話喧嘩でもするといい。私に指揮権を委ねた後でな」

 今すぐ決めろ。無言で睨むサルゴンの目が、そう物語っていた。

 「各員、突撃艇の発進準備に入れ。奴の艦隊に、この船を丸ごとぶつける!」

 ヴォイドは続けて指示を飛ばす。
 その指示は、無茶苦茶なものだった。
 強固なサマラカンダの防壁を突き崩すために、随伴させていたもうひとつの機動兵器、メギド・ゴグを衝突させる。
 そして、旗艦とメギドの特攻で生じた隙を利用し、突撃艇でサマラカンダ内へと侵入するという。
 ジリ貧で撤退するぐらいなら、現状の最大戦力を囮に使い、内部から崩すのは理には適っていた。
 余りにも荒唐無稽で無茶苦茶という事以外は。

 特攻を仕掛ける船に自ら進んで残る人員がいるのかと問おうとするサルゴンだったが、その心配は杞憂に終わった。
 ヴォイドの正規軍は、いずれも信心深いバテシバの信徒たちで構成されている。
 志願者は一瞬で集まり、サマラカンダ突撃への準備も迅速に進められていくのだった。


EPISODE4 紺青の都は朱に染まりて「突撃せよ! サマラカンダ防衛軍を壊滅するのだ!」


 バルディエルの砲塔や艦隊の砲撃による損傷が著しいメギド・ゴグが、サマラカンダの防壁に激突した。
 大地を震わすほどの衝撃は、防壁の耐久力をも貫通して城塞ごと砲塔を飲みこんでいく。
 崩落は連鎖し、紺青の都は美しく整った街並みと破壊された区画とが入り混じるアンバランスな光景を描き出す。
 それを皮切りに、ヴォイドの旗艦が砲撃しながらロトの艦隊へと突撃を敢行する。
 旗艦を操縦するのは、特攻に自ら志願したバテシバの信奉者たちだった。
 彼らは、ヴォイドが窮地に追い詰められた時や戦場の士気を意図的にいじるために“使われる”精兵である。

 『バテシバ様、バンザァァァァァイッ!!!!』

 防御を捨て、攻撃にすべてを割り振った旗艦は、被弾しながらもサマラカンダ防衛軍を次々と巻き添えにするのだった。

 特攻と同時に後部甲板から飛び立った複数の突撃艇。
 船は小型で、一隻一隻はほんの数人しか乗れないが、かえってそれが敵の攻撃を分散させる事に一役買っていたのだ。

 流れ弾や破片に巻きこまれて墜落する船がある中、ヴォイドやサルゴンを乗せた船は、それぞれサマラカンダの都市区画へと無事に着陸した。
 ヴォイドは無事を確認すると、直ちに兵士たちへと指示を飛ばす。

 「蜂の巣になる前に、内部へ侵入するぞ!」
 「サルゴン様とは合流しなくてよろしいのですか?」
 「構わん! この状況で悠長に合流などできるわけがなかろう!」

 船の外は、戦争の生々しい爪痕が色濃く残っていた。
 墜落した船や、着弾によってめくれ上がった地面が衝撃の強さを物語る。
 とはいえ、この辺りはまだ都市の形状が保たれているだけ被害は軽微だった。
 ヴォイドと兵士たちは周囲を警戒しながら都市区画へと向かっていく。

 それから数分後。
 脱出艇のすぐ近くで、激しい音が鳴り響いた。
 その音の正体は、墜落したサマラカンダ防衛軍の船。船は動力部に引火したのか、瞬く間に燃え上がっていく。
 そのまま燃え尽きるかに見えたその時、船のハッチを破壊して、何かの物体が転げ落ちた。
 人の形を真似ただけの機械仕掛けの塊は、炎に包まれたままずるずると地面を這ってヴォイドの後を追っていたが、やがて上空から降り注いだ破片に圧し潰されて、動きを止めた。


EPISODE5 すべては、母のために「これほどの計画を、カイナンとロトだけで練られるはずがない。この都市の中に、その答えがあるはずだ」


 あらゆるものを犠牲にし、サマラカンダの都市区画に突入したヴォイド。
 彼の行動に多大なる影響を与えてきた母、バテシバと縁のあるこの都市は、ヴォイドにとっては聖地とも言える。
 だが、広大な建造物の内部は、青く美しい外観とは対極的な光景が広がっていたのだ。

 薄暗く温かみのない金属の壁がどこまでも続き、そこかしこに戦闘の痕跡がある。
 おそらく、バテシバ戦役の名残なのだろう。
 都市の防衛にはカイナンの手が加わっていたが、内部のメンテナンスには力を入れていない事が伺えた。
 改めて内部を見渡してみると、どこまでも同じような景色が広がる鉄の回廊は、まるで迷路のようだ。
 左右に別れた通路の奥には更にいくつかの細い通路がつながっている。
 そのいずれかを進んでいけば、カイナンが待ち受ける場所へとたどりつけるはず。
 そう分析したヴォイドは、鼻息荒く言った。

 「フン、戦力を割くつもりか。小賢しい真似を」

 相手の思惑には乗るまいと、ヴォイドは部隊を別けず進む事にした。
 通路に設置された防衛システムを破壊しながら進んで行くと、ヴォイドたちは吹き抜け構造になっている場所へと躍り出た。
 ここは今までの通路と違い、いくらか解放感がある。
 だがそれは、周囲への警戒を一段と強くしなければならず――

 「展開!」

 唐突に、前方の兵士が叫んだ。
 その声に反応した兵士たちは、盾を構えてヴォイドの前に人垣を形成する。
 直後、上方から銃弾の雨が降り注いだ。

 「ヒ、ヒィ……ッ!」

 ヴォイドの情けない声は、瞬く間に銃声にかき消された。
 ヴォイドが兵士たちの間から盗み見るように状況を確認すると、そこには自分たちを見下ろせるように設けられた通路に並ぶ、兵士たちがいたのだ。

 「なんだ、あれは……?」

 唐突に交戦状態に陥る中、ヴォイドは敵対する兵士たちを訝しむように見やった。
 彼らは皆、バイザーやヘルメットといった防具を装着していないのに、一様に同じ顔をしていて――

 配下の兵たちも次々と敵の異様さに気づき戸惑いの声を上げ始める。
 それもそのはずだ、彼らの顔には本来あるべきものが備わっていなかったのだから。
 目も鼻も口も、およそ人が個を識別するために必要なパーツが何ひとつない。
 白く艶めいた顔にあるのは、申し訳程度に窪んでいる眼窩(がんか)ぐらいのもの。
 それは、機械仕掛けの白い兵士の群れだった。

 「撃て! 撃てええッ!」

 応戦するヴォイドの兵士たちだったが、高低差のある状況での戦闘は分が悪い。
 ましてや、彼らは要人を護らなければならない上に、損傷を負っても平然と撃ち返してくる機械仕掛けの兵と向き合わなければならないのだ。

 「頭部を確実に破壊しろ!」
 「後退だ、後退し――おい! 下からも来るぞ!」

 欄干を飛び越え、下に降り立った兵士たちが迫る。
 対するヴォイドの兵士たちは、彼を護りながら器用に銃撃するものの、頭部を庇いながら突進する者たちを完全には止められなかった。
 そして、破壊を免れた一体が人垣の中に飛びこみ、陣形が崩れたところへ上部からの銃撃が加わる。
 ひとり、ふたりと兵士が犠牲になっていく。

 「陣形を立て直す! ヴォイド様、お下がり――」

 振り返った先に、ヴォイドの姿はなかった。
 ヴォイドは、形勢が不利に傾いたと見るや否や、命惜しさに自分だけ逃げてしまったのだ。

 ――
 ――――

 「な、なぜだ。なぜ、ここに、機械種が……っ」

 息を切らせたまま、ヴォイドはやり過ごせる場所はないかと探し回る。
 そんな状態でも頭の中では断片的な考えが目まぐるしく飛び交っていた。

 ――機械種が運用する兵隊によく似た歩兵。
 サマラカンダの防衛において、それが密かに動員されていた。
 かつてここを制圧した際に、何者かが製造拠点まで手に入れていたとしたら。
 だがここまで手のこんだ事をやるには、カイナンとロトだけでは不可能だ。
 もしそれができる者がいるとすれば――

 仮説と否定を繰り返し続けるヴォイドの脳裏に、ふと心当たりのある人物の顔が浮かぶ。

 「あ、あり得ない……そんな事……! あっていいわけが――」

 ――♪

 「ヒッ!?」

 しんと静まり返った通路に、この場にはそぐわない軽快な音が鳴り響いた。
 そこへ、たん、たた、たたたんとリズミカルな靴音が続く。
 敵が迫っている。辺りには隠れられるだけの空間はない。護身用の小銃程度で、あの機械たちが止まるとは思えなかった。

 「こ、こんなところで、死ぬわけには……ッ! い、イヤだ、まだ私は、私は……ッ」

 死にたくない。
 兵士たちの命を粗末に扱ってきた者の祈りは、余りにも独りよがりだった。

 「――みーつけた♪」
 「うわああああああああっ!!」

 前も見ずに構えた小銃が、瞬く間に弾き落とされる。
 その拍子に気が動転したヴォイドは、床に倒れてしまう。迫りくる脅威に対して、後ずさるしかないヴォイドへ向けて、からかうような笑い声が響く。

 「ちょっとちょっと! 酷くない? お兄さんに向かってさぁ~」
 「へぁ………………ロ、ロトォォッ!!??」

 尻もちをついたヴォイドを見下ろすように立っていたのは、ヴォイドの兄ロト・トゥエルヴだった。


EPISODE6 ただ、認めて欲しくて「私は誰よりも優れている。それは結果を見れば明らかだ。ではなぜ、私は選ばれなかった……」


 敵兵から逃げたヴォイドが遭遇したのは、ほんの少し前まで殺し合っていたはずのロトだった。
 まだ状況を完全には理解できていないのか、ヴォイドの視線はふらふらと泳いでいる。
 そんな姿がおかしくて、ロトはくつくつと笑う。

 「ぷ、くく、やっぱりからかい甲斐があるよ」
 「き、貴っ様ぁぁぁッ!」

 辺りにいるのがロトだけだと分かると、ヴォイドは先ほどの慌てぶりが嘘のように、ロトへと詰め寄る。

 「い、いったい、いつから私を裏切っていた!」
 「別に裏切ってないんじゃん? 最初からさー、俺は母さんのために働いてるんだから」

 「お仕事お仕事♪」と気が抜けるようなテンションで独りごちるロトをよそに、ヴォイドは初めてロトが自分の前に現れた日の事を思い出す。
 執務室で面通ししたあの日。
 確かに、ロトはバテシバが笑ってくれるかもと無邪気に言っていた。
 自分の世界の中で笑う、彼女のため。
 それがヴォイドに狂人と思わしめたロトという男の本性なのかもしれない。

 「では、お前がカイナンと手を組んでいるのも、母上のためだというのか」
 「そ、俺たちは同じ目的で動いている。フフン、こんな事まで教えてあげちゃうなんて、俺様はエラいな~♪」
 「クソァッ! 私は、私はずっと母上のために生きてきたというのに……ッ何故だ、なぜこの私がこんな仕打ちを受けなければならんのだッ!」

 叫び散らすヴォイドに、ロトは淡々と言い放つ。

 「認められてないんじゃない、母さんに」
 「ぐ……っぅぅ、アアァァァァァッ!!! 違う! そんなはずはないッ! お前も、カイナンも、私より劣っているではないか! 血の濃さだって……ぁ、あああのクソガキを除けば、私が一番……ッ」

 ヴォイドの心は、限界を越えようとしていた。
 例え本人の口からではなかったとしても、“母に否定される”という文言はヴォイドにとって受け入れがたい事。
 もしロトの指摘が真実だったとすれば、生きる意味を完全に見失ってしまう。
 そして、思い知らされるのだ。
 自分が無価値で、“虚無”なのだと。

 「私は、認めない……他者の言葉など……」

 自我の崩壊を防ぐためか、ヴォイドは己自身を必死に鼓舞していた。

 「そうまで言うなら、自分で聞いてみたら?」
 「…………ぁ?」

 すがるように兄を見上げるヴォイド。
 その表情は、まるで砂漠の中でほんの一滴の水を見つけた旅人のようだった。

 「今日はヴォイドと沢山遊んだし、もう殺してもいいかなって思ったんだけど。連れてってあげるよ、母さんのところまで、ね」


EPISODE7 秘匿されし聖骸「一度もこの目で見る事が叶わなかった母上の聖骸が、よもやこんな場所に隠されていようとは……」


 ロトに連れられるまま、ヴォイドはサマラカンダの深奥を目指していた。
 ロトがいる影響なのか、機械仕掛けの兵士が襲いかかってくる様子はない。

 「ここをずっと進んでいけば、最深部にたどりつく。そこに、ヴォイドが欲しかったものがあるよ」

 ヴォイドの目の前には、比較的新しい造りの大きな隔壁がそびえ立っていた。

 「じゃ、俺様の案内はここまでって事で。あ、それとあの兵隊たちはここから向こうには入れないようになってるから安心してね♪」
 「……どこへ行くんだ」

 道中ずっと無言だったヴォイドは、覇気のない声で問いかける。

 「上に来てくれって頼まれちゃって。俺様はここの門番だからね♪」
 「フン、うろつき歩くような奴が門番な訳あるか」
 「あは、それはごもっとも♪」

 そう言って、ロトはあっさり引き返していった。
 陽気に口笛を吹く兄の背中へと、小銃を向けるヴォイドだったが、

 「……フン」

 引き金に指をかける事はなかった。
 振り返り、隔壁の中で赤く灯る場所に手を添える。
 すると、隔壁は小さな音を立てながら横に開き始めた。
 この先が、中枢区画だ。
 そして、その最深部には――

 「母上……」

 母の亡骸を、ヴォイド自身は一度も見た事がない。
 セロによって植えつけられた疑似記憶だけが、彼にとって母のすべてだった。
 早く見たい、会いたい。
 それだけが、彼の心をつなぎ止めていた。

 踏み入った中枢区画は、機械の振動音がどこまでも響く不気味な場所だった。
 ほとんどの動力がこの区画の装置に回されているのか通路は薄暗く、あまり遠くまで見る事ができない。
 壁面に見える剥き出しの機械から漏れる灯りが、貴重な光源だった。
 暗がりを歩くうちに、感覚は自然と聴覚へと集まっていく。

 「まるで……生きているようだ」

 血管のように脈打つチューブ。ほどよい熱を持つ壁。
 知らず知らずのうちに、自分は人の体内へと侵入してしまったのではないか。そう思えてしまうような、不可思議な感覚がここにはある。

 「……私は、至って冷静だ」

 自身に暗示をかけるように、ヴォイドは何度も同じ言葉をつぶやきながら進む。
 暫くすると、またしても赤い光を灯す扉が現れた。
 そこが、ロトの言う深奥だろう。

 「ここだ……」

 意を決して、扉に触れた。開かれた扉の先には――巨大な容器の中で、何らかの溶液に浸かったままたゆたう女、バテシバがいた。

 「ぁ……ああぁぁぁ、あああ……っ」

 死後十数年は経過しているというのに、その顔も、その身体も、まるで時を止めたように変わっていない。
 穏やかに眠りにつく姿は、突然目を覚ましてもおかしくないほど、あの頃のままだった。
 ヴォイドはそんな幻想的な光景にいてもたってもいられず、

 「母上!!」

 容器に触れようと駆けだしたその時。

 「それ以上、バテシバ様に近づくな」

 不意に誰かの声に呼び止められた。

 「だ、誰だッ!?」

 バテシバの姿にすっかり生気を取り戻したヴォイドが咄嗟に小銃を構え、警戒するように辺りを見回す。
 自身の声が遠くまで反響した事で、少なくともここが想定している以上に広い事が分かった。
 そこでようやく気づく。
 辺りには争ったと思われる形跡があり、至る所に転がる真人の亡骸があった。
 そして、部屋の中心部には、腰ほどの高さの台座がふたつ並んでいる。
 台座の上には、ペルセスコロニーの監督官・エヴァと帰還種の少女が横たわっていた。

 「なんだ、これは――」
 「儀式、だ」

 エヴァの台座の足元から声がする。
 黒い塊にしか見えなかったそれは、ゆっくりと立ちあがり――姿を現した。

 「カ、カイナン! この……逆賊めがッ!!」

 反射的に銃身をカイナンの頭へと合わせる。
 そのまま引金を引こうとしたその時、カイナンが嘲るように笑った。

 「クク、私を撃てばバテシバ様は永劫にあの骸の中に留まり続ける事になるぞ?」
 「母上はすでに崩御なされた。母上の聖骸を弄ぶのならば、我が手で直接殺してやる!」
 「いや、彼女は生きている。あの中でな」

 そう言うと、カイナンはバテシバがたゆたう容器からエヴァの向かいで横たわる帰還種の女――ニアへと視線を移した。

 「な、何を……」
 「器はじきに満たされる。再誕するのだ、聖女バテシバがな」


EPISODE8 虚ろなる名「私は……空っぽだ。ここにいる私は、いったい、なんのために……」


 カイナンは言った。聖女バテシバが、帰還種の身体を得て地上に蘇ると。

 「ほ、本当に、母上が……?」
 ヴォイドはカイナンに銃を突きつけたまま、母の復活を懇願する。

 「早く、早く母上に会わせろぉぉぉッ!」

 両者の立場は、いつの間にか逆転していた。

 「ク、クク……お前は……本当に、滑稽だな」

 カイナンは自身の身体を支えるのが辛いのか、台座に身体を預けたまま、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 「重畳だ。これほどまでの……執着が生み出された。正直、これは私の予想を上回る結果だよ」
 「結果だと? 貴様に私の何が分かると言うのだ!」
 「分かるさ。私もお前も所詮は道化なのだから。そう理解できないようになっている」
 「私は母上の願いを叶えるために戦争を仕掛け! ペルセスコロニーを制圧したのだぞ! 真人の繁栄に貢献したのは私だ! 母上の寵愛も、栄誉も! この私だけのためにあるのだ!」
 「それは、誰の願いだ?」
 「……何?」
 「ヒトは、生まれながらにして願いなど持たぬ。もう一度問おう。それは、誰の願いだ?」

 狂信的なまでに信奉してきた母の願い。
 彼女が望んでいたのは、機械種と帰還種を滅ぼし、地上を支配する事だ。
 それは、自分を作り出したセロが見せた、疑似記憶によるもの。
 その記憶に導かれ、ヴォイドは誰の口からでもない、己自身の言葉でそう発信してきた。
 自分に異を唱える者を抹殺して――。

 「バカな……そんな事、ありえない。私の願いは、母上の――!」

 自分がしてきた事はすべて正しい。
 そう肯定するように、ヴォイドは何度も訴えかける。

 「思い出せるならそうしてみろ。お前に始まりなどないのだから」
 「わ、私は……母上と……」
 「お前は母など知らぬ。母は最初からここにいるのだから」
 「では私は……何を……」

 ――お前は空虚だ。

 不意に過った言葉。それは、ヴォイドの創造主にして母の腹心だった男が事ある毎にそう言い放っていたもの。

 ――アヒトフェルの名は、お前に相応しくない。

 「お前は何者でもない。アヒトフェルの名も与えられなかった、名も無き真人だ」
 「な、なぜ……それを知るのは、知っている男はもう死んだ! 死んだのだ! あの男は……セロ・ダーウィーズは!」
 「だが、ここにいる」

 カイナンの口元が歪んだ。
 自身をセロと呼ぶ男の言葉に、ヴォイドの心は激しく揺さぶられていた。

 「正確には、私の“一部”と呼ぶべきか」
 「――っ」
 「教えてやろう。お前の願いがどこから来たのかを」

 ヴォイドが力なくその場に崩れ落ちた。
 己の存在を頑なに否定する男から逃げるように、虚ろな眼差しが溶液に浸かる母に救いを求め彷徨う。
 その時、帰還種の女を乗せた台座に反応があった。
 横に備え付けられたコンソールが、何かを知らせるように、甲高い音を響かせる。

 「さあ、目覚めるぞ」
 「ぁ……は、はは、ははうえぇぇ……」

 滂沱の涙を流し、ヴォイドはただ母の名を口ずさむ。
 その姿は、神の降臨に涙する狂信者だ。
 台座につながったケーブルが小さく波打ち、まばゆい光を放つ。

 「あれが、お前の求めた母だ」
 「ゥ――」

 歓喜に打ち震え、ヴォイドから声にならない雄たけびが漏れる。
 そして、悲鳴にも似た産声が、室内に木霊した。
 バテシバの依代となった帰還種ニア・ユーディットが深い眠りから目覚め、ゆっくりと上体を起こす。

 「これが――私(わたくし)の身体……痛みも、苦しみもない……ああ、これで皆を連れていってあげられる……」

 破滅の聖女――ニア=バテシバ。
 彼女は、世界にもたらすだろう。
 彼女にとっての祝福を。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • ちょび髭生やしたおっさんかと思ったらお兄さんだった件 -- 2023-08-06 (日) 22:23:59
    • 頭のアレ(なんて呼べばいいかわからん)がシワに見えるから老けて見えるよね -- 2023-08-07 (月) 10:55:28
      • 面体(めんたい)っていう防災面 -- 2023-08-07 (月) 15:17:26
    • 全く同じこと書き込もうとしてた -- 2023-08-08 (火) 20:02:31
  • 公式サイトの「クソァッ!」のインパクトやばすぎて頭から離れない -- 2023-08-07 (月) 19:02:42
  • キャラ設定的にもっと老けてて脳筋みたいな見た目してると思ってた
    でも同じような境遇のロトやカイナンがあの見た目だからまあそりゃそうかって感じではある -- 2023-08-09 (水) 13:16:16

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